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2011年11月30日(水)付

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京都議定書―潰すだけでは無責任だ

日本政府が、京都議定書の延長に加わらない方針を正式に決めた。南アフリカで気候変動枠組み条約の締約国会議(COP17)が始まったが、日本の「延長不参加」によって京都議定書は形骸化しかねない。[記事全文]

沖縄侮辱発言―アセス強行はあり得ぬ

女性と沖縄を蔑視する暴言であり、断じて許せない。沖縄防衛局の田中聡局長が、米軍普天間飛行場の移設問題に絡んで、「これから犯す前に犯しますよと言いますか」という趣旨の発言[記事全文]

京都議定書―潰すだけでは無責任だ

 日本政府が、京都議定書の延長に加わらない方針を正式に決めた。南アフリカで気候変動枠組み条約の締約国会議(COP17)が始まったが、日本の「延長不参加」によって京都議定書は形骸化しかねない。

 京都議定書は97年に京都で開かれたCOP3で採択された。経済活動に直結する温室効果ガスを、世界が協力して削減しようという歴史的な環境協定だ。

 議定書の最大の特徴で、最大の武器は削減を各国に義務づけたことだ。「削減の義務」という厳しさがなければ世界はここまで動かなかっただろう。

 削減義務は、先進国だけに課された。歴史的に温室効果ガスを多く排出してきたためだ。何年か後に途上国が追随することを想定していた。

 ところが、世界最大の排出国だった米国が議定書から離脱。オバマ政権は一時、途上国を含む新たな枠組みを模索したが、米国を抜いて排出量が最大となった中国をはじめとする途上国は「先進国がもっと削減すべきだ」と主張し、対立が解けないままCOP17を迎えた。

 今の議定書には第1期(08〜12年)の削減目標しか決まっていない。13年以降の第2期をどうするかについて、先進国で延長に応じる構えをみせているのは欧州連合(EU)だけだ。

 日本は「中国と米国という主要排出国に規制がかからない第2期の設定に反対する」との立場を早くから表明していた。

 世界的な経済危機などで温暖化対策の優先順位が下がってしまった。各国が自分の言い分をばらばらに主張するだけで、前へ進めようという国際協調の機運もない。

 京都議定書は世界を変えてきた。地球温暖化という言葉と概念だけでなく、それが世界の共通の危機であることを広めた。

 ハイブリッド車などの省エネ技術、風力や太陽光発電といった自然エネルギーの技術開発の方向性を示し、こうした分野を新しい成長分野に押し上げた裏にも議定書の存在があった。

 日本政府は議定書ではなく、「全ての主要国が入る実効的な規制の枠組み」をつくろうと主張している。確かに、米中が入らないままでは効果が上がらないし、公平さを欠く。

 国際社会にはいま新たな制度をつくる雰囲気はないが、日本はこれまで以上に温室効果ガスの削減努力を続けるとともに、米中を取り込むための枠組みづくりに汗をかかなければならない。京都議定書を潰しただけでは温暖化への国際規制が何もなくなってしまう。

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沖縄侮辱発言―アセス強行はあり得ぬ

 女性と沖縄を蔑視する暴言であり、断じて許せない。

 沖縄防衛局の田中聡局長が、米軍普天間飛行場の移設問題に絡んで、「これから犯す前に犯しますよと言いますか」という趣旨の発言をした。

 沖縄の反対を無視して、名護市辺野古への移設を進めるための環境影響評価(アセスメント)の提出時期を明かさない政府の姿勢を、女性への性的暴行に例えたものだ。

 那覇市の居酒屋で県内の報道関係者と懇談し、酒を飲んでいた。オフレコが前提でもあり、口が軽くなったのだろう。

 地元紙が報じ、表面化した。朝日新聞は発言時は、その場にいなかったが、補強取材をして記事にした。私たちも、あってはならない暴言だと考える。

 振り返れば、普天間移設のきっかけは、16年前の米海兵隊員による少女暴行事件だった。その後も米軍人による暴行事件は続いている。県民感情に少しでも寄り添える人物なら、こんな例え話をできるはずがない。

 県民と向き合う責任者としては不適任極まりない。更迭は当然である。

 野田政権は、沖縄の基地負担を軽減する具体策を少しずつ積み上げてきた。

 米軍嘉手納基地での訓練の一部をグアムに移す。米軍属の公務中の犯罪を日本で裁判にかけられるよう、日米地位協定の運用を見直す、などだ。

 いずれも不十分な内容だし、辺野古移設のための懐柔策という底意も否定できない。それでも、沖縄の信頼を取り戻したいという政府の心構えを示す効果はあったかもしれない。

 そんな努力も水の泡だ。

 仲井真弘多知事は「コメントもしたくない。口が汚れるから」と述べた。多くの県民が同じ思いだろう。

 それにもかかわらず、政府は年内に、アセスメントの最終手続きに入る方針を変えないのだという。

 沖縄県議会は今月、アセス提出の断念を求める意見書を全会一致で可決したばかりである。そこに、この暴言が重なったのだ。もはや、アセス手続きなど進むはずがないことは明らかではないか。

 私たちは辺野古案はもう不可能であり、日米両政府は新たな策を探るべきだと繰り返し主張してきた。この騒動は辺野古案撤回への決定打に見える。

 政府は、まず立ち止まるべきだ。何もなかったかのようにアセスを強行するなら、局長の暴言を追認したことになる。政府が過ちを重ねてはならない。

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