きょうの社説 2011年11月29日

◎「大阪都」構想 地方制度の議論も加速を
 大阪ダブル選で「大阪維新の会」が勝利したのは、「大阪を変えるか、変えないか」と 分かりやすさで二者択一を迫った橋下徹氏に、有権者が変革の期待を託した結果であろう。だが、橋下氏自らが認める通り、公約に掲げた「大阪都」構想については、信任されたとは言い難い。

 構想は理念が先行し、大阪を変えるという旗印にとどまった印象も受ける。具体的な制 度設計はこれからである。橋下氏や維新の会は、まず構想の詳しい中身をできるだけ早く示す責任がある。

 8月に審議を再開した首相の諮問機関、第30次地方制度調査会は、大都市制度も検討 課題である。そこに一石を投じる選択肢が選挙を通じて示されたからには、議論の俎上に載せるのは当然だろう。

 大阪維新の会に関しては、既成政党から次の総選挙を意識した政局的な発言が相次いで いるが、地方制度の議論については政治的な思惑を排し、地方自治を強化するという視点が何より重要である。調査会も議論を加速してほしい。

 大阪都構想は政令市の大阪、堺両市を解体して人口30万〜50万人の「特別自治区」 に再編し、インフラ整備などの広域行政機能を一本化するものである。関係議会の議決や住民投票に加え、地方自治法改正や特別法制定が必要となり、実現へのハードルは高い。

 都の下に特別区を置く現行制度は1947年に創設され、東京だけを対象にしたもので ある。一方、政令市は来年には20に増えるが、二重行政などの矛盾が指摘されて久しい。過疎地を抱える政令市もあり、大都市といっても、その姿は一様ではない。都市の多様化に合わせて制度の選択肢を広げることは時代の流れかもしれない。

 維新の会がダブル選を制したことで、府市一体の大阪改革は実質的に動き出すが、二重 行政の弊害や府県と市の連携不足は、政令市を抱える府県だけの問題ではない。ダブル選で問われた首長のリーダーシップ、首長と議会の在り方、教育改革なども、どの地域にも当てはまるテーマである。大都市の問題と片付けず、分権時代にふさわしい地方自治の在り方は身近に引き寄せて考えたい。

◎観光施設の連携 「核」の集客力を地域全体に
 能美市は、年間約35万人が訪れる「いしかわ動物園」の来園客を市内の観光施設に呼 び込むため、動物園のチケット半券などを持参すれば、施設の入館料が安くなる制度をスタートさせた。金沢市が金沢21世紀美術館の半券などを持参することで周辺商店街での買い物や飲食が割引される特典を設けて、中心部のにぎわいにつなげているのと同様の手法である。地域の「核」となる施設の集客力を地元の活性化に還元する試みとして、北陸の各自治体でも参考にしたい。

 能美市の入館料割引制度は、九谷焼美術館や温泉施設など5施設で、動物園のチケット 半券か年間パスポートを掲示すれば、団体料金扱いで2割程度安くなる。動物園と九谷焼制作など、まったく異なる観光体験が楽しめるという特徴は、能美市の大きな魅力になる。そうした相乗効果を大いに発信していきたい。

 こうしたサービスの北陸における嚆矢(こうし)となるのは、金沢21世紀美術館であ ろう。同館は「美術館冬の時代」と言われる中でオープンしたにもかかわらず、今年夏には開館から7年弱で入館者1千万人を突破した。

 美術館そのものの展示内容もさることながら、都心のにぎわい創出、中心商店街の活性 化を理念に掲げ、同館主催の展覧会の半券や「友の会」の会員証を提示した客に、商店街の登録店舗が割引などのサービスをしている。この取り組みが、ファンの定着や衰えぬ人気を後押しした感がある。

 最近では、同じような試みを複数館連携の形で取り入れるところも出てきており、かほ く市の県西田幾多郎記念哲学館と金沢市の鈴木大拙館は、大拙館の開館記念期間中、一方の入館券の半券で、もう一方に入館できる相互優待を実施した。

 どの地方都市でも、拠点となる観光施設に訪れた人の塊を、一カ所だけで終わりでなく 、できるだけ長く地域の観光地を巡ってもらうことが課題である。拠点施設とセットで、特典付きのさまざまな体験企画を提案するなど、厚みのある滞在型観光を展開したい。