アルゼCEOに就任する余語邦彦氏はファンドマネジャーとしては優秀だか
2006年05月30日
産業再生機構の執行役員で、カネボウの会長兼最高経営責任者(CEO)の職にあった余語邦彦氏(49歳)の転身先が決まりました。パチスロメーカーのアルゼの代表取締役兼最高経営責任者(CEO)です。代表取締役の異動を発表した5月29日付けのプレスリリース(PDF)では、次のように記載されています。
リリースには、「著名な余語邦彦氏を代表取締役兼最高経営責任者(CEO)として迎え入れる」と表現されています。確かに余語氏が著名であることは事実ですが、アルゼのトップとして相応しい人材であることを訴えかけるような、もっと適切な修飾語はなかったのでしょうか? あまりにも陳腐な表現です。
過去にも、「著名」というだけで一部上場企業の代表取締役会長兼CEOになった(ように見える)人事もあります。三洋電機の野中ともよ氏です。必ずしも野中氏の経営手腕の問題だけとは言い切れませんが、トップ交代以降も三洋電機の再建は遅々として進んでいません。
野中氏とは異なり、余語氏には引用するのに十分なビジネスキャリアがあります。先程のプレスリリースは、こう続いています。
東大卒の官僚、MBA、経営コンサルタント、ベンチャー企業、そして産業再生機構と、まさにバラエティに富んだ経歴の持ち主であることがわかります。結局バラエティ過ぎて、この経歴を端的に表す言葉が見あたらなかったので、「著名な」としてお茶を濁すことにしたのでしょうか?
アルゼの新CEOは、代表権を返上したとはいえ会長職に留まる創業者と、内部昇格する社長との間に位置するポジションです。特殊性の強いパチスロ業界という事情も考えると、門外漢の余語氏がすぐさま自由に腕を振るうには、難しそうなポジションにも思えます。
しかし、豪腕の誉れの高い余語氏には、そんな心配は無用でしょう。私が昔書いた記事『 再生関連企業の新任社長(同じ東大卒でも、中身は色々):昔の実践ビジネス発想法』から再掲します。
余語氏の経営再建手法は単純明快だ。ネットバブルの崩壊で経営が悪化した光通信に入った時には、まず、インターネット関連から撤退。次にベンチャーキャピタルが投資していたネットベンチャー企業の未公開株を投げ売りして、現金を得た。その結果、2300億円あった有利子負債を2年間で900億円に圧縮した。赤字部門を切り捨て、売れるものはすべて売るという、実にシンプルな手法です」と、当時の関係者はこう分析する。
アングラ人脈の間では「重田社長の先兵としてネットベンチャー、クレイフィッシュ(以下クレイ社)に乗り込み、会社乗っ取りを仕掛けた張本人」として広く知られている。(中略)
あるベンチャー起業家は「資産の売却にかけてはすご腕だが、再生という根気のいる仕事はどうかな(向いていない)」と疑問符を付ける。余語氏の仕事がカネボウ化粧品の売却先を探すこと、それも、いかに高くカネボウというブランドを売るかの駆け引きに専念することだとするなら「再生」の二文字が泣く。
実際に余語氏の手腕は、再生機構の仕事でどの程度発揮されたのでしょうか? 再生機構は、カネボウの売却によって投入資金を回収し、200億円前後の利益を得たと伝えられています。資産の転売に関しては、評判通りのすご腕です。
一方余語氏の再建家としての評価は、カネボウの資産を取得した花王が、今後どう生かしていくかにかかっています。情報源は、『新生カネボウ見えぬシナジー――化粧品、花王傘下入り半年、生産・物流統合、足踏み(2006年5月29日 日経流通新聞MJ 1面)です。
昨年12月にカネボウ化粧品が花王の傘下入りすることが決まってほぼ半年。弱点だった百貨店向け販売や、資生堂に遅れた中国事業でカネボウ化粧品が攻めに乗り出した。産業再生機構下では限界があった事業強化にようやく転じた格好だ。国内化粧品の出荷額では両社のシェアを合計すれば資生堂を抜いてトップに躍り出る。だが、物流や生産でのシナジー効果が出るには時間がかかりそうだ。
もともと1銭単位のコスト削減で稼ぐ花王と、「感性」「ブランド」が大事なカネボウ化粧品の社風の違いは大きい。加えてカネボウ労組の反発で、合意を反古(ほご)にされた花王の不信感、経営の迷走で傷つけられたカネボウ側社員のプライド――。さまざまな要素が絡まりあって、昨年末に花王による買収がほぼ決まった後でもカネボウ化粧品幹部が「本当に花王以外の相手はないのか」と漏らしたほど、両社の融合の難しさを指摘する声が大きかった。
花王は花王化粧品販売、カネボウはカネボウ化粧品販売というそれぞれの販社を通じて商品を販売している。「物流を統合できても、商流はどうするのか。卸段階で人員削減などのリストラが必要となる統合には時間がかかるのではないか」(同)との見方もある。
「化粧品市場に対する現状認識のすり合わせから始めており、実際にシナジー効果を出すにはある程度の時間がかかる」(尾崎社長)というのが実情のようだ。
花王がカネボウとの融合成果を具現化するには、もう少し時間がかかりそうです。もし、花王が予定通りの買収効果を上げることができなかった場合、再生機構や余語氏の責任が問われることになるのでしょうか? そのような場合でも、失敗の責任はあくまでも買い手側の花王にあるということになって、再生機構や余語氏の名前に傷がつくことはないでしょう。
国民の税金が投入されている以上、再生機構の第一の使命はあくまでも投下資金以上のリターンを上げることです。花王とカネボウの融合がどのような結果に転んでも、余語氏のらつ腕家としての評価は揺るぐことはありません。
余語氏と同じく村上ファンドの村上世彰氏も、東大卒の官僚出身者です。世間にどう非難されようとも、東大卒の官僚出身者はファンドマネジャーとしては優秀ということなのでしょうか?
余語氏がアルゼのような一般企業の経営者として活躍することができるかどうかは、ファンドマネジャーの手腕とはあまり関係のない話です。ちなみに村上氏が一般企業の阪神電鉄のトップになることに期待する人は、ほとんどいないのが現実です。
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