政権を目指す自民、民主両党のマニフェストはそろって歳出削減や公務員数の大幅削減といった「小さな政府」の方向を打ち出した。一方、「外交・安全保障」では日米関係とアジア政策で両党の考え方の違いが際だち、有権者が選択する際の材料になりそうだ。公明、共産、社民など各党はそろって少子化対策を重視している。
「郵政民営化なくして、小さな政府なし」
自民党マニフェストは冒頭で郵政民営化を通じて国の支出と国民負担の双方を減らせると説く。
郵政民営化で国家公務員の3割が削減できる。民営化会社は税金を納めるので財政再建につながり、年金や医療、子育て対策などを充実できる――という論理だ。
税と社会保険料を合わせた国民負担率も「50%以内に維持する」とし、「年金も景気も『小さな政府』から」と説く。
一方、民主党も要約版マニフェストの「重点項目」トップに、国家公務員人件費2割削減など「3年間で10兆円の無駄遣いの一掃」を掲げた。
両党とも「小さな政府」を競い、財政再建を志向する。選挙後に、自民、民主両党のどちらを中心とした政権ができても差はないように見える。共産、社民両党が冒頭に福祉充実を持ってきたのとは対照的だ。
ただ、各論をみるとそれぞれ疑問点も浮かぶ。
例えば、自民党は総事業費で1兆2千億円かかる整備新幹線3区間について相変わらず「着実な整備を推進」と明記した。公共事業予算の削減目標もない。郵政以外は基本的に党の各部会の意見を盛り込んだ印象だ。
従来の事業を温存したままで「小さな政府」を目指せるのか。約774兆円に上る国と地方の借金をどう返していくのか。課題が残る。
自民党は「07年度をめどに消費税を含む税体系の抜本的改革を実現」と明記したが、「『サラリーマン増税』を行うとの政府税調(税制調査会)の考え方は取らない」とした。就業者の約8割を占めるサラリーマンの税制に手をつけない「抜本的改革」とは何か。基礎年金国庫負担割合引き上げの財源についても言及がない。負担論から逃げた印象が強い。
一方、民主党は具体的な歳出削減額を明示した。「子ども手当」に3兆円、「出産時助成金」に2200億円など具体的な予算額も示した。その姿勢は評価していい。
ただ、その実現への道筋は不透明だ。昨夏の参院選のマニフェストで示した年金目的消費税の引き上げ率「3%」に今回は触れなかった。
子ども手当の3兆円は、配偶者控除や扶養控除などを廃止して工面するとしているが、まだ約8000億円不足する。
公明党は「生活者の政治」を打ち出し、児童手当の拡充などをうたう。共産、社民両党は消費税増税に反対を掲げる。
一方、外交・安全保障分野で自民、民主両党の力点に違いが目立った。
民主党はマニフェストの「重点項目」で、イラク特措法による基本計画の期限が切れる12月までに「イラクから自衛隊を撤退」と明記。自民党は直接の言及はないが、「自衛隊の海外派遣は今後とも国際協調と国益を考えて推進」と派遣延長をにじませている。
小泉首相はブッシュ米大統領との「蜜月関係」を強調。自民党も「ゆるぎない日米同盟」をこの項目のトップに掲げた。一方、首相の靖国参拝で中国や韓国との関係が悪化したことから、「アジア外交での確かなリーダーシップの発揮」を挙げた。だが、その具体的な手段は示さなかった。
逆に民主党はアジア外交重視を前面に打ち出し、アジアとの関係重視を項目のトップに置いた。国立追悼施設の建立や日中・日韓関係の再構築を掲げ、「日米同盟の進化」より優先させた。
公明党は「アジア外交により力を注いでいくことがきわめて重要」とした。共産、社民両党はイラクからの自衛隊の早期撤退を主張する。
マニフェスト
政党や候補者が選挙の際に示す、具体的な数値目標や手順、達成時期を明確にした公約集。「政権公約」とも呼ばれ、語源のイタリア語で「はっきり示す」の意味。1834年に英保守党の党首が発表したのが始まりとされる。03年の総選挙で民主党の菅直人代表(当時)がマニフェストを前面に掲げる姿勢を鮮明にし、各党も相次いで作成。国政レベルで本格的なマニフェスト選挙の始まりになった。
小さな政府
政府の仕事を民間に任せて縮小すると同時に、公的規制や公的企業の占める割合も小さくし、財政支出と税など国民負担をともに少なくしようという考え方。国の関与を弱め、民間による競争が進めば、効率的な社会が実現できるとの指摘がある一方、社会保障など政府の再分配機能が低下し、「勝者」と「敗者」に二極化しやすいとの意見もある。