今回の画像だけに限らず、今後のこともあるので、「公益法人の不動産登記謄本画像一部公開の可否」について、関係ありそうないくつかの役所に電話で相談してみた。
1.法務局
2.警察サイバーテロ対策課
3.人権擁護局(法務省)
4.総務省
知りたかったポイントは主に以下の4点:
1)公益法人の不動産登記情報は個人情報に当たるか:
2)公益法人に人権はあるか:
3)公開情報である登記簿の建物構造情報をネット公開するのは違法か:
(違法ならどの法律に抵触するのか):
4)登記簿謄本に著作権はあるか:
以下がそれぞれ部署からの回答を総合して得た結論だ。断定調で簡潔に書いているが、実際は、お役所の共通体質か、いずれも相手は断定せず、「と思います」とか、別の言いまわしで肯定or否定したものだ。私が心証を汲み取って結論を抽出したものだ。
なお4つの部署に4点すべて訊いたのではなく、相手の守備範囲を考えて選択的に質問した。なお、サイバーテロ課を除いた3部署はいずれも最初の電話応接だけでは結論を出せず、部内で調査検討して再度電話で回答する、というステップを踏んでいる。(それだけ難問だったようだ)
・1)公益法人の不動産登記情報の「建物構造」は個人情報に当たるか:
結論:当たらない
・2)公益法人に人権はあるか:
結論:不明。ただし総務省担当者は公益法人の人権とか人格権とかは聞いたことがない、とのこと。
また、サイバーテロ課では、法人に人権はないという見解。
人権擁護局では、抵当権情報があれば名誉侵害に当たる可能性がある、とのことだが、私が掲載した画像では抵当権部分は削除している。
なお、「法人の名誉保護の程度」については法律家の見解(後述)を参照のこと。
・3)公開情報である登記簿の建物構造情報をネット公開するのは違法か:
(違法ならどの法律に抵触するのか):
結論:どの部署とも、「それを判断する立場にない」という回答だった。
サイバーテロ課を除き、いずれも1時間ほど部内で検討した末の結論だったが、違法と断定するには明確な法的根拠がないし、かと言って、「大丈夫」とお墨付きを与えることは役所としてはできない、ということのようだ。まあお役所らしい「模範回答」ではある。
総務省では、その模範回答の後、その担当者のみ唯一、「表現の自由とのバランス」に言及し、テレビ報道で謄本を映していたことがある、などの事例を紹介してくれた。
人権擁護局だけは、その模範回答の後、「好ましくない」と否定的見解を付け加えたが、理由を聞くと、法的根拠があってのことではなく、相手が嫌がるであろうことはやめた方がいいという、心情論というか処世訓的な理由であった。(それを言い出すと批判や表現の自由は極端に制限されてしまうではないか!)
4)登記簿謄本に著作権はあるか:
結論:ない。(創作性は認められない)
だいたい以上のような具合である。
阿部日氏が富士ボー板に、自分で法務局に問い合わせた結果を「人権侵害」「処断」などという単語をちりばめて書いていたが、質問方法や質問バイアス、質問深度にもよるが、ほんとうにそこまで踏み込んだ回答をしたのだろうか、いささか眉唾ではある。私の聞いたお役所的回答(判断不能)の方が、不満ではあるものの、役所としては模範回答だろう。
さて、結局、国の役所ではその性格上「NGともOK」とも答えてくれなかったわけであるが、総務省がその「模範回答」の後に、弁護士に相談しては?というアドバイスをくれたこともあり、弁護士の意見に従うことにした。
実は、上記質問電話をする前に、知人に頼んで弁護士に訊いてもらっていた。それによると「個人情報ではないし、単なる建物構造の公開情報であり、公益法人の名誉を損なう内容ではないので、掲載は問題ない」とのこと。というわけで、弁護士のアドバイスに従い、画像掲載を復活する。
******************************
以下は「民法における法人の権利 -憲法学との対話-」と題する和田真一氏の論文からの抜粋引用である。
これによると法人にも「人権」が限定的ではあるが、認められているようだ。
以前、創価学会による芸者偽造写真事件の裁判で、御法主上人個人に対する名誉毀損は認定されたものの、宗門(宗教法人)に対する名誉毀損は認められなかった。「法人に対する名誉毀損」の認定要件はかなり厳しいようだ。
最高裁も、「憲法第三章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能な限り、内国の法人にも適用されるものと解すべきである」としている(最大判昭和45年6月24日民集24巻6号625頁
(中略)
法人がある基本的人権を享有し得るとしても、自然人の場合とは異なり、特別な制約・限定を受けうるとされている。
(中略)
(3)権利保護の程度
これらの法人や団体の名誉毀損が成立するためには、表現の自由との調整の
ために確立している違法性阻却判断をクリアしなければならない。最高裁は、
事実の摘示による名誉毀損の場合、最判昭和41・6・23民集20-5-118以来、刑
法230条の2の規定を参照しつつ、公共の利害に関する事実に係り、専ら公益
を図る目的に出た場合において、摘示された事実が真実であることが立証され
た場合または真実であると信じるに相当の理由があると認められる場合に免責
を認めてきた26)。この違法性阻却事由の具体的判断の際に、法人や団体の種類
(医療法人や政党、マスコミ)、社会的経済的地位の大きさ(大企業、公益法人
等に対する社会的関心の高さ)に従って、報道などの表現行為が「公共の利害
に関する事実に係る」ものとして違法性阻却される傾向がある。私人であって
も選挙で選出される公人など一定の社会的地位にある者に対しては、名誉侵害
の成立が一般の私人よりも限定的である。法人や団体もその名前で独自の社会
的信用の保護が問題となるようなものは、相応の社会的関心の下にあり、社会
的評価や批判につねにさらされるべき立場にあると言えるから、法人や団体の
名誉保護の範囲は一般私人よりはより限定されたものになるというべきなので
ある27)。
(中略)
26) 特定の事実を基礎として意見ないし論評の表明による名誉毀損については、最判
昭和62・4・24民集41-3-490、最判平成元・12・21民集43-12-2252、そして最判平成
9・9・9民集51-8-3804が、昭和41年判決の発展形を採用しつつも、公共の利害に
関する事実に係る表明であることを免責の一要件としている。
27) 拙稿「法人・団体の名誉毀損とその公共性」立命館法学231/232号(1994年)1338
頁参照。
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/re/k-rsc/hss/book/pdf/no84_03.pdf
1.法務局
2.警察サイバーテロ対策課
3.人権擁護局(法務省)
4.総務省
知りたかったポイントは主に以下の4点:
1)公益法人の不動産登記情報は個人情報に当たるか:
2)公益法人に人権はあるか:
3)公開情報である登記簿の建物構造情報をネット公開するのは違法か:
(違法ならどの法律に抵触するのか):
4)登記簿謄本に著作権はあるか:
以下がそれぞれ部署からの回答を総合して得た結論だ。断定調で簡潔に書いているが、実際は、お役所の共通体質か、いずれも相手は断定せず、「と思います」とか、別の言いまわしで肯定or否定したものだ。私が心証を汲み取って結論を抽出したものだ。
なお4つの部署に4点すべて訊いたのではなく、相手の守備範囲を考えて選択的に質問した。なお、サイバーテロ課を除いた3部署はいずれも最初の電話応接だけでは結論を出せず、部内で調査検討して再度電話で回答する、というステップを踏んでいる。(それだけ難問だったようだ)
・1)公益法人の不動産登記情報の「建物構造」は個人情報に当たるか:
結論:当たらない
・2)公益法人に人権はあるか:
結論:不明。ただし総務省担当者は公益法人の人権とか人格権とかは聞いたことがない、とのこと。
また、サイバーテロ課では、法人に人権はないという見解。
人権擁護局では、抵当権情報があれば名誉侵害に当たる可能性がある、とのことだが、私が掲載した画像では抵当権部分は削除している。
なお、「法人の名誉保護の程度」については法律家の見解(後述)を参照のこと。
・3)公開情報である登記簿の建物構造情報をネット公開するのは違法か:
(違法ならどの法律に抵触するのか):
結論:どの部署とも、「それを判断する立場にない」という回答だった。
サイバーテロ課を除き、いずれも1時間ほど部内で検討した末の結論だったが、違法と断定するには明確な法的根拠がないし、かと言って、「大丈夫」とお墨付きを与えることは役所としてはできない、ということのようだ。まあお役所らしい「模範回答」ではある。
総務省では、その模範回答の後、その担当者のみ唯一、「表現の自由とのバランス」に言及し、テレビ報道で謄本を映していたことがある、などの事例を紹介してくれた。
人権擁護局だけは、その模範回答の後、「好ましくない」と否定的見解を付け加えたが、理由を聞くと、法的根拠があってのことではなく、相手が嫌がるであろうことはやめた方がいいという、心情論というか処世訓的な理由であった。(それを言い出すと批判や表現の自由は極端に制限されてしまうではないか!)
4)登記簿謄本に著作権はあるか:
結論:ない。(創作性は認められない)
だいたい以上のような具合である。
阿部日氏が富士ボー板に、自分で法務局に問い合わせた結果を「人権侵害」「処断」などという単語をちりばめて書いていたが、質問方法や質問バイアス、質問深度にもよるが、ほんとうにそこまで踏み込んだ回答をしたのだろうか、いささか眉唾ではある。私の聞いたお役所的回答(判断不能)の方が、不満ではあるものの、役所としては模範回答だろう。
さて、結局、国の役所ではその性格上「NGともOK」とも答えてくれなかったわけであるが、総務省がその「模範回答」の後に、弁護士に相談しては?というアドバイスをくれたこともあり、弁護士の意見に従うことにした。
実は、上記質問電話をする前に、知人に頼んで弁護士に訊いてもらっていた。それによると「個人情報ではないし、単なる建物構造の公開情報であり、公益法人の名誉を損なう内容ではないので、掲載は問題ない」とのこと。というわけで、弁護士のアドバイスに従い、画像掲載を復活する。
******************************
以下は「民法における法人の権利 -憲法学との対話-」と題する和田真一氏の論文からの抜粋引用である。
これによると法人にも「人権」が限定的ではあるが、認められているようだ。
以前、創価学会による芸者偽造写真事件の裁判で、御法主上人個人に対する名誉毀損は認定されたものの、宗門(宗教法人)に対する名誉毀損は認められなかった。「法人に対する名誉毀損」の認定要件はかなり厳しいようだ。
最高裁も、「憲法第三章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能な限り、内国の法人にも適用されるものと解すべきである」としている(最大判昭和45年6月24日民集24巻6号625頁
(中略)
法人がある基本的人権を享有し得るとしても、自然人の場合とは異なり、特別な制約・限定を受けうるとされている。
(中略)
(3)権利保護の程度
これらの法人や団体の名誉毀損が成立するためには、表現の自由との調整の
ために確立している違法性阻却判断をクリアしなければならない。最高裁は、
事実の摘示による名誉毀損の場合、最判昭和41・6・23民集20-5-118以来、刑
法230条の2の規定を参照しつつ、公共の利害に関する事実に係り、専ら公益
を図る目的に出た場合において、摘示された事実が真実であることが立証され
た場合または真実であると信じるに相当の理由があると認められる場合に免責
を認めてきた26)。この違法性阻却事由の具体的判断の際に、法人や団体の種類
(医療法人や政党、マスコミ)、社会的経済的地位の大きさ(大企業、公益法人
等に対する社会的関心の高さ)に従って、報道などの表現行為が「公共の利害
に関する事実に係る」ものとして違法性阻却される傾向がある。私人であって
も選挙で選出される公人など一定の社会的地位にある者に対しては、名誉侵害
の成立が一般の私人よりも限定的である。法人や団体もその名前で独自の社会
的信用の保護が問題となるようなものは、相応の社会的関心の下にあり、社会
的評価や批判につねにさらされるべき立場にあると言えるから、法人や団体の
名誉保護の範囲は一般私人よりはより限定されたものになるというべきなので
ある27)。
(中略)
26) 特定の事実を基礎として意見ないし論評の表明による名誉毀損については、最判
昭和62・4・24民集41-3-490、最判平成元・12・21民集43-12-2252、そして最判平成
9・9・9民集51-8-3804が、昭和41年判決の発展形を採用しつつも、公共の利害に
関する事実に係る表明であることを免責の一要件としている。
27) 拙稿「法人・団体の名誉毀損とその公共性」立命館法学231/232号(1994年)1338
頁参照。
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/re/k-rsc/hss/book/pdf/no84_03.pdf