インターネットが持つ、流通や配布の能力は、音楽産業にも破壊的な影響を与えている。中でもいちばん目立つのはiTunesだが、しかしiTunesは、いつ見てもレコード店の面影を引きずっている。アイコンがCDだし…。iTunesが提供しているものは、Amazonもそうだが、物理店舗のデジタル版にすぎない。
もしもコンピュータが、デスクに山のように積まれた紙のデジタル版にすぎなかったら、どうなっていただろう? もちろん短期的にはそうだったが、その後パーソナルコンピュータは、単純なデスクのアナロジーからはほど遠いものを、次々と実現してきた。音楽も当然、そうなるべきではないか?
本誌の読者の多くが、すでにネット上の音楽ストリーミングサービスの熱心なユーザだが、しかし音楽も含めてほとんどの業界が、インターネットの使い方では後れており、しかも売上や利益が彼らの期待(==古い価格モデルによる)どおりでないと、ネット上のサービスを非難する。
ここには、二つの単純な誤解があるようだ。ひとつは、レコード会社が被害者視されること…そんなの、おかしいじゃないか。彼らは、何らかのライセンス契約に合意しているのだから。それに、レコード会社の取り分は、妥当な比率だ。これはリーズナブルな状況のように見えるし、レコード会社にとってもリーズナブルなはずだ。レコード会社はストリーミング企業の部分的なオーナーであるだけでなく、それは交渉の結果合意された契約条件なのだから。それなのに、なぜ彼らは今となって泣き言を言うのか? 音楽をストリーミングするとはどういうことか、分かっていなかったのか?
音楽ストリーミングサービスの料金が安すぎる、ということがあるのかもしれない。聴き放題で月額10ドル、15ドル、20ドルという料金は、とてもお買い得だ。このようなサービスは、’とてもお買い得’であるべきなのか、それとも’公正’であるべきなのか? しかし一方、1曲99セントという料金は、そんなに革命的ではない。アルバムに換算すると12〜18ドルぐらいだから、それほど安いわけではない。一曲々々ばらばらに買えるのは大きな変化だが、価格としては安売りではない。便利になった、というだけだ。
しかしストリーミングサービスは、ダウンロード単価制に倣って値上げするわけにはいかない。そもそも、月額10ドルだから業態として大きく育ち、安定しているのだ。でもそれは、われわれが長年払い続けてきた価格と同じものではない。たしかに、ものの値段なんて、変わるものだ。でもなぜ、音楽の値段の変化だけは、こうやってややこしく、騒がれ続けなければならないのか? それに、無制限聴き放題で月額10ドルは、今後長続きしうる価格とも思えないが。
このことと関連して、第二の誤解がある。それは、単品販売ではないことの価値(それにしかないユニークな価値)だ。アルバムの売り上げからの収入と、ストリーミングからの収入を、比較すること自体が間違っている。ある意味で人びとは、「無」に対して払っている。月の終わりに会員権が切れたら、また「無」からのやり直しだ。レコード会社やSpotifyはしかし、そのような無は売らないし、また無料提供もしない。そして人びとは、同じ曲に何度も何度も払う。ある曲を今月聴いて翌月再び聴いたら、二度払ったことになるのでは? 違うかな? ストリーミングという商売の経済学と哲学は、一度、オープンな場で議論されるべきだ。そして、誰もが理解できる形で結果が出て欲しい。Lady Gagaは、ヒット曲”Poker Face”が100万回ストリーミングされて、収入はわずか167ドルだったとクレームしているが、こんな問題も、オープンな議論と結論をベースに、解決されるべきだ。
しかしそれと同時に、iTunesの売上と、経費のかからない(ささやかな)レコードの売上がすべてであるようなマイナーなバンドは、取り残されてしまう。彼らは、ツアーをたくさんやるべきなのか? あるいは、もっと有利なライセンス契約を求めるべきなのか? しかし、彼らのバックにメジャーのレコード会社はいない。
そもそも、音楽の製作コストというものを、もっと率直かつオープンに再評価すべきではないか。物の値段は、その物の製造原価がベースになる…わかりやすい算数だ。もちろん、バナナなどの値段は、輸送費の部分も大きい。しかし音楽の場合は、製作コストを大幅に下げることはできないのか? しかもインターネットの上では、物理的な製造コストや流通配布費用はほぼゼロのはずだ。だから、音楽の価格というものも、今レコード会社が(古い価格モデルをベースに)当然と考え期待する額には、絶対にならないはず。安くて、当たり前だ。
しかし、レコードやCDという”物”の売上をベースとする、古いぼろ儲けモデルを「当然、これがふつう」と確信している音楽業界にあっては、費用構成の(今の時代に合った)率直でオープンな再評価は容易ではないだろう。RIAAなんか、真っ先に反対するね–音楽の値段が高いことに寄りかかっている団体だから。結局、進歩は単なる偶然の機会として訪れ、(正規に議論された場合に比べて)人の能力や価値の減少を伴うのだろう。インターネットという技術革新によって、音楽業界の小売店や工場などで何千という職が失われた。RIAAは、自分が消え去るような事態はいやだろうが、音楽業界に今生じている縮小の動きは、なるべく早く業界がそれを正視し認めて、業界の未来図を自ら描くべきだ。早ければ早いほど良い。
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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))