◇九州場所<14日目>
今場所初めて大入りとなった土俵で、関脇稀勢の里(25)=鳴戸=が初顔の栃乃若を押し出して10勝目、大関昇進の目安とされる直近3場所で33勝にあと1勝となったが、相撲内容の評価が高く、昇進に大きく前進した。前日に優勝を決めた横綱白鵬(26)=宮城野=は日馬富士を下して14連勝。新大関の琴奨菊(27)=佐渡ケ嶽=は小結豊ノ島を押し出して白星を2桁に乗せた。十両は新十両の勢が12勝2敗で初優勝した。
もう負けられない。落とせば大関昇進が消滅する崖っぷちの一番で稀勢の里が踏ん張った。
下から角度良く当たって今場所2大関を倒すなど好調な栃乃若の上体を起こし、強烈な突き押しを連発。大関昇進の目安である11勝にあと「1」と迫った。
土俵際では慎重に押し出したようにも映ったが「慎重じゃない。必死だった」。無我夢中でつかんだ大きな1勝だ。
中日の琴欧洲戦以降、明らかにリズムを崩しかけていた。前日の把瑠都戦では自分より体の大きな相手に四つに組みにいって自滅。かつて先代の故鳴戸親方(元横綱隆の里)が「自分が十分でも相手が十二分では意味がない」と言い聞かせてきた教訓も目に見えぬ重圧の中、いつしか忘れかけていた。
前日は首をひねった鳴戸親方(元前頭隆の鶴)も「きょうの当たりは良かった。あの相撲こそが稀勢の里なんです」と本来の姿を取り戻した会心の一番をたたえる。
三役で直近3場所合計33勝が大関昇進の目安といわれるが、99年春場所で昇進した千代大海の場合は32勝だった。場所直前に師匠が急逝したハンディなども考慮し、三保ケ関審判部副部長(元大関増位山)は「数字にはこだわらない」と“温情昇進”の声が上がっている。放駒理事長(元大関魁傑)も「ここまで安定した相撲をとっている。毎日苦しかっただろう。千秋楽まで持ってきたのは大きい。あとは審判部がどう判断するか」と語った。
27日、故郷の茨城県牛久市にある中華料理店「甲子亭」では稀勢の里の両親をはじめ約80人のファンが集まってパブリックビューイングが開催される。運命の大一番を前に「思い切って、後悔しないように。気負う必要もないし、自分の相撲を信じていく」と泰然自若の構え。地元の大声援を背に勝って、すべての人を納得させる形で、夢をたぐり寄せてみせる。 (竹尾和久)
この記事を印刷する