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[30599] 【習作】二人から始まる百鬼夜行 【オリジナル・現代・妖怪ファンタジー】
Name: ファンネル◆bc24dbe1 ID:748bbc6e
Date: 2011/11/26 21:20
始めまして、ファンネルと申します。

当初、オリジナルのSSとして、オリジナル板に投降していたのですが、知人に、

『初めての小説で自信が無いのならば、最初からオリジナル板で書くのではなく、チラシの裏で練習する事を勧める。』

と勧められましたので、オリジナル板から移動してきました。

何分、初めてのオリジナル小説のために、いろいろと不手際が起きるかもしれないので、お力添いを頂きたいと思います。

コメントは必ずお返しします。

いろいろと教えてください。

よろしくお願いします。




11月21日 1話投稿

22日 2話投稿

23日 3話投稿

25日 4話投降







[30599] 1話
Name: ファンネル◆bc24dbe1 ID:748bbc6e
Date: 2011/11/27 20:39


俺の名前は八雲葵(やくもあおい)。普通の大学2年生。

大学2年となると、学校にも慣れて、友達も出来て、4年間のキャンパスライフの中で最も楽しい時期である。
この時期になると、サークルや部活動に精を出す者もいれば、大学生活と言う時間がとても取れる身分を利用して、自分探し等と言う名目で旅行三昧という者もいる。
まあ、それは個人の勝手だし、人がとやかく言う事は無い。
確かに楽しい期間には間違いないのだが、現実を直視していないわけでもないし、3年4年になれば就職活動であちこちに飛び回らなければならなくなるのだから。
だから4年のうち1年くらいは遊んでいたって誰も文句は言わないだろう。


しかしそれは現実を直視し、ある程度の人間性を高めた者が言う事の出来るセリフであり、今の俺にこんな偉そうなことを言える権利があるかどうかはいささか疑問だ。
と言うのも、俺は望んで大学生になったわけではない。ただ単に親に言われて、進められて、卒業後に良い職業に付けられるように………。


基本的に俺の両親は周りの目を過剰なまでに気にするようなガチガチな教育ママとまではいかないが、人並みにはそう言う欲は持ち合わせている。
まあ親にしてみれば子供が良い仕事に就いてくれる事が一番嬉しのだろうが、俺にはなりたい仕事と言うのがないのだ。
言われた通りに勉強して、受験に成功して、大学生になって………。自分の意思ではなく他人の意志で勉強して大学生になった。俺は自分の意思で何かを成した事など、一度たりとも存在していないのだ。


中学生の時の部活動でテニス部に所属していたが2年から行かなくなった。
高校生の時には友達の中学の時の友達の付き合いでバトミントンを始めた。でもこれも1年くらいで終わった。
大学生になってサークル勧誘などに良く声をかけられていたが、やりたい事が全く見えない俺がそんなモノに入るはずもない。


俺はもう二十歳になった。
酒も飲めるし、犯罪を犯せば名前と写真が乗せられてしまう。
そんな年頃の俺は大学の所有している陸上部のためのグランドで一生懸命に汗を流して、友人らと楽しく笑っている学生を見て心が痛くなってくるのだ。



俺はどうしてここにいるのだろう?



時々、そんな事を思うようになってしまったのだ。
いや大学の正門の隣にグランドがあるのだからそこを通らなければ帰れないのだから、そこにいて当然だ。
そう言う事じゃない。
そう言うんじゃないのだ。

『ここ』と言うのはグランドの事じゃない。
随分と大袈裟な言い方で少し恥ずかしい気もするのだが『ここ』と言うのは『この世界』の事だ。
俺が生きているこの現実世界のことなのだ。
将来がぼんやりとしていて生きてるの辛い。
そんな理由で自殺した文豪がいたが、俺も似たような感じなのかもしれない。
尤も俺とその文豪を同等に考えるのはあまりにもおこがましい事この上ないのだが。

将来を本気で考えるととても辛いんだ。
苦悩で頭が痛くなってくる。そう言った時には風呂に使ったり、ゲームをしたりして気を紛らわせるのが一番だったりするのだが、心のどこかではそんな風に心を誤魔化している自分を嘆いたりで………。
そんな自分に嫌悪感を感じたりして、また誤魔化して、紛らわして、誤魔化して……。

そんな考えたくもないような無限ループに足を踏み入れてしまった気がする。


昔は良かった。
ふとそう思った。
それと言うのも、俺は昔は想像力が豊かだったせいなのか思春期特有の病気と言うのかは人それぞれではあると思うが、俺は自分が作り出した架空の世界を妄想し、そこに意識を持っていくことができたのだ。

自分を主人公格の存在にした物語。
自分が主人公を補佐する頭脳キャラのような物語。
自分が主人公のライバル的な存在になる物語。
物語のヒロインとのイチャイチャな物語。

数え上げたらきりが無い。
その世界は全てが自分の都合のよい設定になっており、自分を中心とした世界であった。
そんな世界に俺は入り浸っていた。

凄く楽しかった。それこそ時間を忘れるほどに。

いつしか、本当にそんな世界に行ってみたい。
叶わぬ夢と知りつつも、昔の俺はどういう訳か世界は俺の都合のよい展開になっている。そう信じて疑わなかった。

純粋と言えば聞こえはいいだろう。
しかし、今にしてみればなんと無知で愚かであったのだろうか?
大人になって、それが分かるようになってきたのだ。
現実の重さを。知るようになってきたのだ。
他人に言えないほどの黒歴史だ。
思い出すだけで、あまりの恥ずかしさに全身がのたまうかのようだ。

しかし、それでも憧れるのだ。

もしも、

もしもだが、俺がファンタジーな世界のキャラクターになったら?

そしてその世界では自分はどう言った存在になるのだろうか?

どんなストーリーが待ち受けているのだろうか?

そう言う未知な体験にあこがれるのだ。


「――アホらしい。」


ファンタジーな世界になれば何かが変われると思っているのか?
アホらしい。実に。
現実世界で頑張れない者が、異世界やメルヘンな世界、ファンタジーな世界と言ったところで頑張れるはずが無い。
頑張れない者が、その世界の主人公なんかになれるはずが無いのだ。


そんなネガティブな事を考えながら俺は自分のアパートについた。


「ただいま~。」


一人暮らしゆえに返って来る返事があるはずが何のだが、癖で言ってしまう。


軽く部屋を掃除して、授業の課題を終わらせた。
その後、やる事ないから、テレビを見ながら時間を潰していた。

ある程度時間が過ぎた時……。


グ~


「腹減ったな……。」


軽い空腹感を感じた。我慢できないほどでもないが、退屈であった事もあって、外に出ようと思った。

真っ暗な夜道を俺は一人で歩いていた。


「今日もこれで終わりか……。」


平日の深夜のせいか、人通りには誰一人見当たらない。
退屈で何の変化のない日常をただ毎日繰り返している。人によってはそれは幸せな事であると言うが、俺にとっては退屈でしかたが無い。

そんな事を考えながら歩いていたら、すぐそばの公園から妙な音が聞こえてきた。
まるで、走っているような、何かを叩くような……。何とも言えない音であった。そしてそれは次第に大きくなっていった。


「何の音だ?」


興味本位で公園の中に入って行くと目を疑うような光景がそこのはあった。



「―――――よ。――――の大将を務めたお方が何をとち狂った事を言いよるのか?この事は我々――――にとって喜ばしい事ではないか?」

                       

「―――ッッ!!??」

身長が大きな奴が、小さい奴に話しかけている。
そこだけ聞けば何の事は無い。身長の大きい奴なんてそこらにいる。しかし、そいつの身長は目測だけでも3メートル以上はあった。まるで一階から天井を突き抜けてニ階の部屋に頭を突き抜けてしまうかのような。
身長だけでは無い。
そいつの容貌は、とても人間とは思えないような容貌をしていたのだ。
歪な歯並び。
耳元まで届くかと思わせるほど裂けた口。
手のひらほどの大きなギョロッとした目玉。
鼻は低い。とても。いや、無かった。鼻なんて無かった。
そして、それらの部位を持った頭は、体の約三分の一にも達していた。
首から下は筋骨隆々。足が太い事は勿論、腕も人間の胴回りほどある。
そして、何よりも決定的であったのが、頭に生えている大きな角だ。まるで、あれは………

『鬼』

そう言わざるを得ない風貌であった。


「お主らはアレの恐ろしさをまるで分かっとらん!アレはそんな軽い考えで扱えるものでは無いぞ!アレが復活したらどうなるか―――」


あの鬼のような巨人に相対しているのは、和服姿の杖をついた小さな少女であった。それこそ、人間の中学生ほどの小さな少女。
あの鬼と比べれば、さらにその小ささが引き立てられる。

二人が何を話しているのかは分からない。
しかし、突然鬼のような巨人が、女の子めがけてその大きな拳を振り上げた。

ドゴンッ!

そう聞こえた。
ドゴンッと。
巨人が地面を殴った音がそう聞こえたのだ。人間が地面を殴ってもあんな音は出ない。そもそも音すらしない。
凄まじい重量を持った鈍器で殴らなければあんな音は出ない。

そんな拳を少女は紙一重でよけ切っていた。
しかしリーチの長さはあまりにも違い過ぎる。少女は攻めきれずにいた。

あまりの風景に俺は言葉を失っていた。
道徳的に考えるならば、暴力を受けそうになっている少女を助けるためにその場に駆け付けるか、もしくは警察を呼ぶかのどちらかの行動をするべきであったのだろう。
しかし、ここにあった光景はもはや人外のものだ。道徳観念など頭に過る事すらしなかった。
そして冷静で無い頭はその場からさっさと立ち去れと言っていた。
俺は、すぐさまその場から逃げようと走った。
しかし不運かな、すぐ足もとにあった空き缶を蹴ってしまったのだ。
車通りも人通りも無い深夜のせいで、その音は大袈裟なほど大きな音を立てて、カランカランと軽快な音は、公園に響き渡った。


「ぬッッ!?人間かッッ!!?見たなッッ!!」
「ひぃッッ!」


鬼は先ほどから相対していた女の子を無視して、こちらに向かってきた。
凄まじい轟音とも言える足音を出しながらこちらに向かってくる。情けない話、あまりの恐怖に足が震えて動くことすらできなかった。


「小僧ッ!逃げろッ!」


少女がそう言うものの、足が震えてる上に腰まで抜けてしまった。立って走るどころか這いずることすらできない。


鬼はその大きな拳を振り上げ、俺に落とそうとしている。
目の前の光景がスローモーションのようにはっきりと見えていた。それでも俺は動けなかった。
そして、これが走馬灯なのだと後になって気付いた。


ドガンッ!


鈍器で叩いたような鈍い音を出しながら俺は吹き飛ばされた。
そして数メートルほど吹き飛ばされ、俺は地面に叩きつけられた。


「ぐはッ!!」


地面に叩きつけられた瞬間、肺の中の空気が一気に口から出た。
しかし、何かがおかしい。
地面にたたきつけられた時の痛みはあるが、あの鬼に殴られた時の痛みがまるでなかった。衝撃は感じたが、まるで何かに守られたような……。

気が付くと俺に覆いかぶさるように先ほどの少女が倒れこんでいた。そして気付く。この少女は身を呈して俺の盾代わりになってくれたのだと。


「おい!おい!大丈夫か!?しっかりしろ!!」
「―――うッ……ぐぅ……」


どうやら息はあるようだ。しかし、意識が朦朧としている。
鬼がゆっくりとこちらに近づいてくる。
すぐさま逃げなければならないのに、やはり体が動かない。それに助けてくれたこの少女も何とかしなくちゃいけないと思った。
目の前に鬼がやってきた。そして、ため息をつきながら落胆したかのように俺たちに言った。


「………人間の盾代わりになろうとは。貴方は『妖怪』としての本質を失ってしまったようだな。………誠に残念だ。」


なんと言ったのだ?
妖怪?
今、この鬼は妖怪と言ったのだろうか?


そんな事を考えている内に、鬼がまた拳を振り上げてきた。
少女は倒れてるし、俺は動けない。万事休すだと思った。鬼が拳を振り上げた瞬間、すべたが終わったと思った。


「ねぇねぇ!こっちの公園で変な音しなかった?」
「気のせいじゃない?」


人の気配。
それも結構な人数だ。いくら人通りが少ないからと言って、人そのものがいないはずが無いのだ。
こんなにも騒げば、一人や二人くらい現れる。
鬼も、俺たちではなく、そっちの気配がする方を向いた。


「チッ!………命拾いしたな小僧。今日の事はさっさと忘れた方が身のためだぞ?尤も信じるような者はいないだろうがな。」


そんな捨て台詞を吐きながら、鬼は目の前から一瞬で姿を消した。
いなくなったのではなく、消えたのだ。文字通りに。


あまりにも現実離れしすぎる経験であった。
夢にしては随分とリアリティがあるし、そもそも地面にたたきつけられた背中がまだ痛い。夢なんかでは決してなかった。


「………助かった?」


誰に言ったのか分からないが、そう言わざるを得なかった。
俺は助かったのかと?
そして、時間が経つにつれ、今の現状がはっきりして来たのだ。


「おい!しっかりしろ!………待ってろ。今、救急車を………って、携帯もってきてねぇッ!」


軽くコンビニに行くだけであったために、携帯電話の携帯を怠った。
しかし、幸運かな近くに公衆電話があったのだ。
すぐさま、その公衆電話で救急車と警察を呼ぼうと思ったのだが……


「――ま、待て!小僧。」

袖口を引っ張りながら、少女が意識を取り戻した。


「あ、君。意識が戻ったのか。今、救急車を呼んでやる。」
「必要ない。」
「―――え?」
「必要ない。救急車なんぞ呼ぶな。」
「は?何言ってんだよ!あんな吹っ飛ばされるほどの力で殴られたんだぞ!絶対に骨か何かがイッてるよ!それに警察だって……!」
「呼ぶんじゃないッッ!!助けてやったんじゃ!それくらい聞いてくれてもよかろうがッ!!」
「ッッ!」


思いっきり怒鳴られた。あまりの剣幕に凄く驚いてしまった。
しかし、相当無理をしていたのだろうか、また少女の意識が無くなってしまった。


「呼ぶなって……。どうしよう?」


本来ならば、警察と救急車を呼ぶべきなのだろう。しかし、あんな剣幕で言われたら呼ぶべきかどうか悩んでしまう。
かなり悩んだ末、俺は少女を背負って俺のアパートまで連れて行った。さすがに外の公園に放置するわけにはいかなかったから。




……………………………



………………



……





「―――――この子、一体何者なのだろう?」


部屋についた俺は、女の子を自分のベットに横にさせ、先ほどの出来事について考えていた。

(それにさっきのあの巨人………。どう考えたって、『鬼』そのものだよな?それに妖怪って……)


妖怪?
あの鬼はそう言った。
妖怪なんぞ、ただの言い伝え。ただの怪談話でしかない存在だろう。実際に実在していたのか?
本当らならば、こんな事信じられないのだろうが、先ほどの出来事を考えるならば本当に妖怪だったのかもしれない。

だとしたら……。

この子は何者?

あの鬼はこの少女を妖怪と言った。
この少女も妖怪なのか?
だとしても俺の事を助けてくれたし……。


「あああッ!!くっそッ!分かんねぇなッ!」


一体何がどうなっているんだ?
考えれば考えるほど訳が分からなくなる。
いきなり妖怪なんて思考の外もいい所の存在だ。


「―――なんじゃい。騒々しいの。人が眠っていると言うのに、黙っておれんのか?」
「ッッ!!……お、起きたのか。」
「こんなに騒がしいんじゃ、起きるに決まっておろう。」

上体を起こし、回りを見る少女。

「ここはどこじゃ?」
「ここは俺のアパートだよ。あんた、さっき救急車を呼ぶなって言ったから連れて帰ってきたんだよ。」
「………誘拐じゃぞ?ソレ。」
「俺が見ず知らずの少女を誘拐するような人間に見えるのかッ!?それに公園にほったらかしにするわけにもいかないだろうがッ!」
「イタズラは………されておらんようじゃな。」
「するかッ!!」
「ははは。冗談じゃよ。すまんの。」
「あ、いや……。―――さっきは助けてくれて、ありがとう。」
「ふふ。いまどき珍しい。礼儀がなっておるな小僧。感心感心。」
「……そりゃどうも。」


なんとも気の抜けた女の子だ。
なんかのらりくらりと、こちらの気が紛れてしまう。
それにしても口調と言い、雰囲気と言い変わったな少女だ。
まるで老人のように話す。見た目はどう見たって、中学生そこらの女の子だと言うのに。
しかし不思議な事に、その事に全く違和感を感じないのだ。
こう言うキャラ作りをする中学生は俺が中学生の時にもいたが、やはり演技臭い話し方であった。
しかし、この少女からはそんな演技臭さは微塵も感じられなかった。
極自然。
その喋り方が極めて自然に感じた。


「ところで君。さっきの………事だけど。」
「分かっておる。あんなにはっきりと目撃されたんじゃ。言わぬわけにはいくまい。それにお主も納得すまい。」
「当たり前だ。」


どう考えても、アレは人間なんかじゃなかった。
そして、そんな奴に殺されそうになったのだ。
さすがにのらりくらりされても、先ほどの出来事の説明だけはしてもらわなければならない。
いくら気が紛らわされてもそれだけは紛らわせない。


「アレはお主が考えているように、『妖怪』じゃ。」
「……本当に?」
「うむ。本当じゃ。お主とて、もしかしたら………なんて思っておったのじゃろう?」
「……う、うん。」


やはり妖怪。
アレは本当に妖怪の類であったのか……。

ならばこの少女は一体何者だ?


「……あんたは一体何者なんだ?」
「儂か?儂はな………。」


―――この少女との出会いが


「儂は、『ぬらりひょん』!妖怪の総大将じゃった者じゃ!」


―――俺の退屈な日常を一変させる事となる。







[30599] 2話
Name: ファンネル◆bc24dbe1 ID:748bbc6e
Date: 2011/11/22 22:21
第2話


「ぬらりひょん!?」
「うむ。ぬらりひょんじゃ。」


『ぬらりひょん』って……あの『ぬらりひょん』か?
百鬼夜行の主だとか、妖怪の総大将とか、単なる乞食妖怪とか言われている、あの『ぬらりひょん』?

俺はすぐさまPCを立ち上げ、インターネットで『ぬらりひょん』と言う単語を調べた。


「一応聞くけど、『ぬらりひょん』ってこの『ぬらりひょん』か?」


妖怪の類を纏めたようなオカルトサイトを開き、少女に見せた。


「うむ。これじゃ。我ながら有名じゃな。ははは。」
「………全然似てねえよ。」
「ふん。儂等妖怪にとって外見何ぞ、在って無いようなモノじゃからな。人間に怪しまれぬように姿を変えたりするのは珍しくない。」
「そ、そんなもん?」
「当たり前じゃ、むしろずっと同じ姿をしている妖怪の方が珍しいわ。―――にしても、これは酷いの……。人間たちは儂の何を見てこんな絵を描いたのじゃ?儂はこんなにも可愛いのに。」
「………自分で言うな。」


立ち上げたサイトの乗っている絵は、後ろ頭が大きな老人の姿であった。
そして、目の前にいる少女は幼いながらも綺麗な顔立ちをしている。どう見ても十代そこらの女の子だ。
さすがにこの少女の言う事を信用しろと言う方が難しいのだろうが、俺は先ほど超ド級の超常現象を味わってしまった。
それにあの鬼も、初めにあった時に~の大将とか何とか言っていた。あれって、妖怪と言っていたのだろうか?それにどことなくこの少女に敬意を表していた気がする。


「うむ。儂は凄いんじゃぞ。もっと儂を崇めろ。」
「――で、その妖怪の総大将が、なんで妖怪に襲われていたんだ?」
「……お主、少しは空気を読めぬのか?妖怪の総大将が妖怪に襲われたのじゃぞ?こう……なんと言うか、大変な事情があったのだろうとか、可愛そうじゃな、とか察する事が出来んのか?」
「やかましい。あんたには感謝してるけど、俺は危うく命を落とすところだったんだぞ。俺が望むのはきちんとした説明だ。」
「……せわしない奴じゃ。まあ、よかろう。秘密にしている訳でもない。むしろ知ってもらった方が良い話じゃ。」
「知った方が良い?………それって、もしかして俺にも関係するの?」
「お主と言うか、『お主ら』じゃな。人間全体に関係するぞ。」


この少女が襲われた事が人間にも関係する?
どういう事だ?


「そうじゃな………まずどこから説明したらよいか……。」
「長くなりそう?」
「少しだけな。」
「俺はあんまり頭の良い方じゃないんだ。分かりやすく頼むよ。」
「分かっとる。お主、あんまり頭良さそうでは無いからな。」
「余計な御世話だ。」




…………………………



………………



……




少女の説明は、なぜ襲われたのかと言う説明からではなく、今の妖怪たちがどういう生活をしているかと言う所から始まった。
俺としては、さっさと要点を言って欲しかったのだが、それは今の妖怪の現状を知らなければ理解できない事らしいのだ。

妖怪は存在している。普通に存在している。伝説でもなんでもないのだ。この21世紀の世界に。
科学や生物学では説明できないような存在。
それが妖怪だ。

そして、その妖怪たちだが、何でも人間に化けたり、人間と同化したりして、人間社会に紛れ込んでいるらしい。
時折、正体を見られたりするが、人間たちは完全に妖怪の存在を信じていないために、単なる見間違いや気のせい等で誤魔化してしまう。
なので大騒ぎになる事はほとんどないらしい。
例え、大騒ぎしたとしても回りの人間がそれを信じなかった場合、それは現実ではなく夢と言う話になる。
妖怪たちは人間のそう言った習性を利用し、人間社会でたくましく生きているらしい。

しかし、中にはそう言う生活を嫌悪している妖怪が少なからず存在している。
まあ、少し考えれば分かる事だな。
妖怪は人間よりも強く、賢く、長命だ。人間の上位的な存在だ。
それなのに、人間に混じらなければ生きていけない。
人間ですら、思想や経済。出身国や宗教等の差別が存在する。俺だって、自分よりも馬鹿な奴と同等に扱われたらムカつく位の感情は持つ。
そう言う理屈ではなく感情の問題なのだ。感情の問題ゆえ、解決策はほとんどない。


「じゃが、そう言う人間社会で生きる事に嫌悪感を抱いておる連中でも、正体を現して人間を襲うような者はほとんどおらんかった。」
「なぜ?」
「人間を襲う前に身内の妖怪にすぐさま取り押さえられるか、殺されてしまうからじゃ。」
「……え?」
「ちょっと考えれば分かる事じゃろ?妖怪の存在が公になってしまえば、人間たちはすぐさま儂等妖怪の事を探しだす。そして、利用するか、殺すか……少なくとも同等には扱わんじゃろう。たった一匹の妖怪のために妖怪全体が危険にさらされてしまうのだ。なので身内にすぐさま殺される。」
「………なんとも皮肉な話だな。」
「仕方がない事じゃ。人間と妖怪とじゃ、数が違いすぎる。10人20人程度ならばわけないが、数千人数万人相手となるばまず勝てん。妖怪は人間には勝てぬのじゃよ。」


しかし、これで現在の妖怪の状態は分かった。
人間に化けたり、同化したりして、人間社会を上手に生きている。
中には人間と所帯を持った妖怪だっているらしい。

しかし、そうなると先ほどの公園での攻撃はなんだ?
俺に見つかって、俺を殺そうとするのはまだ分かるが、なんでこの子が攻撃されたんだ?


「今の妖怪たちの現状は理解したよ。そろそろ、さっきの出来事の説明をしてくれ。」
「うむ。まあ良いじゃろう。」


ぬらりひょんは先ほどの公園での襲撃の説明をした。
何でも、先ほどの襲撃だけではなく、日本全国で妖怪たちが人間を襲う事件が多発しているらしいのだ。
ニュースや新聞には、妖怪ではなく人間がやった事故や事件として取りあつかわれているが……。
同じ時期に妖怪たちが人間を襲うのはここ数百年無かった事らしいのだ。
だと言うのに、この時期に妖怪たちが一斉に人間を襲い始めてきた。
まるで何かに呼応したかのように……。


「お主、【空亡】と言う妖怪を知っておるか?」
「空亡?」


空亡?
知らない。『ぬらりひょん』と違ってとっさに頭に浮かびあがって来るような妖怪ではない。


「いや、知らないな。何の妖怪?」
「う~む……分からん。」
「お、おい。」
「本当に分からんのだ。そもそも、アレを妖怪と呼んで良いのかすら分からぬのだから。」
「一体何なんだ?その【空亡】ってのは。」
「巨大な妖気の塊と言うべき存在か……。悪意の塊と言うべき存在か……いずれにしろ、世に災いをもたらす存在じゃよ。」
「災い?」
「うむ。太陽や星々を覆い隠し、世界を光の届かぬ闇に変えたり、天変地異を起こしたり。海を干上がらせたり。とにかく、ろくな事を起こしかねん存在じゃ。」
「お、おい。それって妖怪じゃなくて、ほとんど神様に近いじゃないか。」
「神様と言うよりは魔王じゃな。少なくとも、お主たちは自分たちの害になる存在を悪と定義付けるじゃろ?じゃから、空亡は魔王じゃ。」


魔王……か。
日本にもそう言うサタン的な存在の妖怪がいたのか……。
しかし、なんで公園での襲撃……・しいては全国に広がっている妖怪たちの暴走につながるのだ?


「その空亡が一年以内に現れる。」

―――は?

「―――は?」
「一年以内に現れると言ったんじゃ。咀嚼が必要か?」


いやいやいや!
そうじゃなくて!


「そうじゃないだろう!な、なんで!?」
「誰かが呼びだそうとしておる。」
「誰が!?」
「分からん。」
「おいぃッッ!!!」


なんで肝心なところが分からないんだよ。
そんな奴が来たら世界の終わりじゃないか!


「妖怪が活発化しておるのはそのためじゃ。空亡が現れたら、まず人間社会は崩壊する。ならば人間社会に従う必要も無くなる。そんな風に考えてもおかしくはあるまい」
「……………。」
「儂は、空亡復活を阻止するために、呼びだそうとしておる者を止めるためにやってきた。そして万が一、空亡復活に失敗した場合、空亡を討伐するための戦力が必要不可欠。力ある妖怪たちと交渉しに向かおうとした。」
「それじゃ、あの公園の鬼は………。」
「空亡復活の邪魔をしようとする儂に向けられた刺客じゃな。」
「ちょっと待ってよ!空亡って、妖怪にとってもとんでもない存在なんじゃないのか?なんだって、それを止めようとするあんたの邪魔をするんだよ!」
「先ほども言ったが、人間社会に嫌悪感を抱いている妖怪も少なくはなのじゃ。連中にとっては人間社会を滅ぼしてくれる空亡は、まさに救いの神そのものなのじゃよ。」
「頭おかしいんじゃないか!?その連中は!?」
「否定はせん。どいつもこいつも空亡の恐ろしさを分かっとらん。アレは世に破滅をもたらす存在だと言う事を全く理解しておらん。」


あまりにも奇想壮大な話。
一介の大学生でしかない俺には全くもって理解しがたい話だ。
そもそもが、妖怪どうこうな話の時点で俺の思考の外だ。
でも、俺は実際に見てしまった。
実物を。
本物を見てしまった。
この少女のホラ話と考えるのが一番楽なんだろうが、見てしまったのだ。本物の化物を。
今さら、この子の話が嘘だなんて考える事も出来ず、ただただ、その先の不安に押しつぶされそうになる。


「―――どうやったら……。」
「む?」
「―――どうやったら、助かるんだ?俺たち。」
「………解決策は2つじゃ。1つは空亡が現れる前に空亡を呼びだそうとしている者たちを倒す。しかし、その者たちがどこにいるのか、何者なのかも分かっておらん。」
「駄目じゃん!」
「その内調べるわい!2つ。現れた空亡を討伐する。」
「討伐って……やっつけられるの?倒せるの?」
「………分からん。」
「………。」
「しかし、何もせんよりはマジじゃろ。少なくとも儂は無抵抗なまま死にとうないぞ!そして、抵抗するためには戦力が必要じゃ。」
「戦力?」
「うむ。共に戦ってくれる仲間じゃ。」


そう言えば、この少女は『ぬらりひょん』だった。
『ぬらりひょん』と言えば、妖怪の総大将。一声かければ、多くの妖怪が賛同してくれるのではないか?


「そう言えば、君は『ぬらりひょん』だったよな。妖怪の総大将ならば、君が一声出せば、多くの妖怪が集まって来るんじゃないのか?」
「………無理じゃ。」
「――は?君は自分で妖怪の総大将だと言ったじゃないか!?まさか、嘘!?」
「嘘じゃないわい!言ったじゃろう!『総大将じゃった。』と!過去形で!」
「か、過去形!?」
「昔と違って、人間社会で生きるために、妖怪たちは群れる事が無くなったのじゃ。群れたところで正体がばれる可能性が高くなるだけじゃからな。そのために随分昔に百鬼夜行を解散したのじゃよ。そして、儂の手下たちは全国に広がって散り散りになってしもうた。生きるためとはいえ、勝手に百鬼夜行を解散した儂の言葉を今さら聞いてくれるとも思えん。『妖怪のくせに人間の決めた社会に降ったな!』って具合にの。」
「………それじゃ、今の君はただの乞食妖怪か。」
「乞食妖怪と言うなッ!!」
「それで、今のあんたに協力してくれる仲間は………。」
「実のところ、一人もおらん。」


………詰んだ。
世界が終わったよ。
\(^o^)/って顔文字があるけど、本当に絶望的な状態になると、こうなるんだな。


「じゃが、たった今じゃが、仲間が出来たぞ!」
「………は?誰?」
「お主じゃ!」


何言ってんだ?この子は。


「儂の仲間となれ!そして、共に世界を救おうぞ!」
「は、は~ッ!?何言ってんだよ!ふざけんな!」
「ふざけとらんわ。本気じゃよ。」
「や、嫌だよ!妖怪なんて、怖いだろうが!」
「ふ~ん………お主、命の恩人をそのように言うのか?」
「ぐッ!」
「鬼にやられたところが痛むの~。お主のような恩知らずを庇わなければ、このような怪我を負う事も無かったろうに……。」
「ぐぎッッ!!」
「真面目な話、これはお主たち人間にとっても重大な事じゃ。そして儂等は妖怪と言う存在ゆえに人間にその存在を公にすることも出来ん。協力を要請する事も出来ん。一人でも人間の理解者が欲しいと言うが本音なのじゃ。頼む。儂に協力してくれ。」


ベットの上で頭を下げるぬらりひょん。
確かに、こいつの言う事が真実ならば、世界の危機だ。
そして、それは決して自分に無関係な事では無い。
それに、助けられた恩もあるし……。


「分かった。協力する。」
「本当か!?」
「まあ、俺にとっても無関係な話じゃないのは分かったし、命を救われた礼もあるし……。何ができるか分からないけど………。」
「理由など、どうでもよい。協力してくれると言う事実が重要なのじゃ。感謝するぞ。小僧。」
「小僧じゃない。俺の名前は葵。八雲葵だ。」
「八雲……葵。良い名じゃな。儂の事は好きに呼べばよい。『ぬらりひょん』も名前みたいなもんじゃからな。」


少女が右手を出してきた。
人間にしろ妖怪にしろ、和解の儀礼はどこも同じようだ。


「よろしくな。『ぬら子』。」
「ちょ、ちょっと待てッ!なんじゃ!その『ぬら子』とはッ!」
「君の名前だよ。『ぬらりひょん』って呼んだら、どうしたって老人の姿を思い浮かんじゃうし。それに外で『ぬらりひょん』とか呼んだら絶対に怪しまれるって。有名なんだし。」
「――むッ……。む~……。」
「可愛い名前だと思うけどな。『ぬら子』って。」


心からそう思った。
自分で言うのもなんだが、可愛い名前だと思う。


「………か、可愛い……のか?」
「うん!可愛い可愛い!」
「な、ならば良い!それに好きに呼べと言ったのは儂の方じゃからな!妖怪にニ言は無いッ!」
「……大袈裟な。」


実にそう思う。
まあ、呼び名も決まったことで……。


「これからよろしくな。ぬら子。」
「こちらこそよろしくじゃ。葵よ。」


互いに握手を重ねた。

人間と妖怪。

何の取り柄もない人間の大学生と、『元』妖怪の総大将の女の子。


二人から始まる百鬼夜行の物語が始まる。







[30599] 3話
Name: ファンネル◆bc24dbe1 ID:748bbc6e
Date: 2011/11/22 20:57
第3話



この俺、八雲葵は普通の大学生である。
先日、ぬらりひょんと名乗る妖怪の元総大将と名乗る少女に命を救われた。
そして、ぬらりひょんが言うには、空亡と呼ばれる存在が一年以内に現れ、世界を滅ぼすらしいのだ。
いろいろあって、俺はぬらりひょんと協力し、世界を救う手助けをする羽目になった。

まあ、世界の危機と言うのならば、一人間として手伝わなければならないのは当然だと自分にそう言い聞かせている。
それに今の今まで自分の意思で何かをやり遂げた事など在りはしないのだ。
初めて自分の意思でやろうと思ったのだから。
どんな事も文句を言わずにこなそう。
自分にどこまで出来るか分からないけど。出来る限りの事をしよう。

そう。
だから今やっている事も、世界を救うに必要な行為なのだ。


「お~い。葵よ。お茶の替わりをくれ!」


ソファの上で横になりながらテレビを付けている少女。
ぬらりひょんその人である。
今はぬら子と名乗っているが。

そう。
俺は、このぬら子と共に世界を救う手伝いをしている。
だから、このお茶くみも世界を救うために必要な行為………。


「なわけあるかッッ!!!」


ゲシッ!
と、ぬら子を蹴り飛ばしソファの上からたたき落としてやった。


「何をするんじゃ!?」
「やかましい!お前が俺のアパートに居座ってから、もう三日も経つんだぞ!空亡対策はどうした!?」


しかもこの三日間、ずっと俺のベットを占領しやがって。
おかげで俺は固いソファーの上で寝る事を余儀なくされ、体の節々が痛いんだぞ。
ベットは一つしかないし、さすがに大人の男である俺がベットで寝て、小さな少女を床やソファで寝かせると言うのにはどうしても抵抗感がある。
まさか、一緒にベットに入るなんて真似は、とてもじゃないが出来ない。


「そんな事を言うても、情報が無いのじゃ。動きようがあるまい?」
「だったら、その足で情報を得ようとは思わないのか!?俺はこの三日間、いつになったら手伝えるのかとずっとスタンバってたんだぞ!」
「なんじゃ。随分とやる気があるじゃないか。感心じゃな。」
「お前がやる気なさすぎんだよ!この三日間、グータラしやがって!俺たちに残された時間は一年しかないんだぞ!?」


世界を救う。
そんな大任を背負ったぬら子の手伝いをする。
それだけで、最初の1日は緊張のあまり眠れなかった。
ずっと退屈だった俺の前に、世界の危機を救う手助けなんてもんがやってきたんだ。
そりゃ、もうやる気になったよ。やる気になりましたとも。

でも一日たっても、このクソガキは寝てばかりだ。二日たってもだ。
怪我が治っていないのならば仕方が無いだろう。
しかし、このクソガキはあの公園の襲撃の次の日からは普通に出歩いて、冷蔵庫のおやつを勝手に盗み食いしたり、風呂を勝手に沸かして浸かっていたりしていた。そのくせ風呂場を開けたら悲鳴を上げてお湯をかけてきやがった。ロリババァのくせに何を恥ずかしがっているのだ。おかげで無駄な掃除をする羽目になった。
風呂に入るんだったら、一声かけろ。
そして、三日間何もせず、ダラダラと過ごしていた。
さすがに俺の堪忍袋も限界であった。


「まあ、落ち付け。『果報は寝て待て』と言う言葉を知らんのか?」
「何もせず、寝てるだけで果報がやってきたら人生苦労なんかしねえよ!」
「それが来るんじゃよ。…………噂をすれば何じゃったか、来たぞ。果報が。」
「え?」


コンコンと、窓を叩く音がする。
そして、窓を開けてみれば、そこにはカラスが数匹止まっていた。
普通、カラスって警戒心が強いから、窓を開けた瞬間に飛び去って行くものだが、どういう訳か俺の部屋に止まっていたカラスたちは、大人しく止まっていた。
ぬらりひょんがカラスに近づき、足に取り付けている紙を取り出した。そして、用がすんだのか、カラスたちは彼方へと飛んで行った。


「ほれ。寝てたらやってきたじゃろ?果報が。」
「――え、何?今のカラスたち……。」
「妖怪烏じゃよ。カラス天狗の配下のものじゃ。」
「カラス天狗!?」


聞いたことある。
天狗と言えば、長い鼻が特徴だが、カラス天狗は長い鼻は無く、代わりにカラスのような黒い翼が生えているとか。
一説では、カラスが妖怪化した姿とも言われている。
いろんな漫画でもよく出てくるメジャーな妖怪だ。そして黒い羽と言う格好良いパーツを持っているためか、よくイケメンに書かれる事が多い。妖怪界のイケメン担当だ。


しかし、


「なんだよ。仲間がいないとか言っておきながら、ちゃんと協力者がいるじゃないか。」
「協力者とはちと違うの。あやつらは中立者じゃ。」
「中立?」
「うむ。儂のように空亡を阻止しようとする者、それを邪魔する者。どっちの味方もせず、互いに互いの情報を与えている。そんな存在じゃ。」
「………カラスと言うより、コウモリだな。」
「ははは。そう言えば、お前たち人間の童話に『卑怯なコウモリ』と言うのがあったの。しかし、そのコウモリと違う所は、中立の立場に誇りを持っておると言う所じゃ。絶対にどちらの味方もしない。そして敵対しない。そういう立場をあやつらは誇りにしておる。」
「ふ~ん。」
「まあ、妖怪の情報屋と言った感じじゃな。」
「なるほど。」


協力では無くて仕事と言った感じなのか。
ビジネスライクに徹する所が何だか人間らしいな。


「それで、それにはなんて書かれていたの?」
「うむ。空亡の情報についてじゃ。しかし………。」
「しかし?」
「何の手がかりも手に入れられなかったらしい。」


使えないな。
実に。

「しかし、カラス天狗の情報網に引っかからぬと言う情報だけでも手に入れる事が出来た。奴らの情報網から抜け出すのはかなり至難の業。相当な隠ぺい工作をしておる。」


カラス天狗たちの情報網がどれほどのものか分からないが、ぬらりひょんがこう言う以上、相当なモノなのだろう。
そして、それから逃れることの出来る。
確かに容易なことじゃない。情報の一つではある。


「引き続き、探索を再会してもらうように言っておいた。しばらくすればまた来るじゃろう。」
「それじゃ、それまでまた休憩か?」


確かに何の情報が無いので動きようが無いのだろうが、それでもただ寝ていると言うのも何かやだな。


「いいや。今日は動くぞい。」
「え?」
「もう一つ、頼んでおいた情報があっての。そっちの方はきちんとこなしたようじゃ。」
「もう一つの情報?」


結構、仕事してたんだ。
少し感心した。


「何の情報なの?」
「うむ。仲間に引き入れられそうな奴らのリストじゃ。」




………………………………



…………………



……




【酒吞童子】
そう言う妖怪がいる。
数いる鬼の中でも群を抜いた強さを誇り、鬼の王として知られる妖怪。
数多くの鬼を従え、暴虐の限りを尽くしたが、天皇の命を受けた源頼光とその四天王により、便鬼毒酒を飲まされて、昏睡した所を斬首された。
普通の鬼とは違い、角が5本あったり、目が15個もあったりとさまざまな説がある。
酒天童子。もしくは酒顛童子とも表記される。

いろんな表記が残っているが、ただ確かな事は、鬼の王であり、とんでもなく強い妖怪である、と言う事だ。
酒吞童子を倒した源頼光も正攻法では無く女に化けた完全な騙し打ちで倒したようだし、まともに闘っては勝てないと思ったのだろうか?


「酒吞童子に会いに行く。」


そして、そんな酒吞童子に会うために、俺とぬらりひょんは町の中を歩いていた。


「カラス天狗の情報によれば、酒吞童子は昼間はここの住所にいるようじゃ。」
「………。」
「どうしたのじゃ?早く、ここに連れて行かぬか。」
「………。」
「どうしたのじゃ、葵よ。」
「いやさ、酒吞童子って鬼の大将だよね?」
「そうじゃな。儂が妖怪の総大将ならば、酒吞童子は鬼の総大将じゃ。」
「この前、公園で襲ってきた奴は?」
「鬼じゃ。」
「酒吞童子は?」
「鬼の総大将じゃ。」

   
                                                                     

「―――ふっざけんなッ!!」

                                        


何が悲しゅうて、鬼の王に合わなければならないのだ。
鬼だぞ!鬼!
あの時の衝撃は一生もんのトラウマだよ!
それに酒吞童子って源頼光に殺されたんじゃないのかよ!


「基本的に妖怪は首を飛ばされたくらいでは死なん。せめて消し炭になるくらいに焼かんと……。」


俺の心を読み取ったのか、俺の言いたい事の答えを言ってくれた。


「あの時、襲ってきた鬼は、酒吞童子じゃないぞ?」
「同じようなものだろうが!鬼なんだから!」
「お主、アレと酒吞童子を一緒にしとったら、殺されるぞ?確かにあの時襲ってきた鬼は、妖怪のランクで言えば、中の上と言ったところじゃが、酒吞童子はアレとは比べ物にならんほど強い。」
「………余計に会いたくなくなったよ。」


あの鬼が中間ランク?人間が束になっても勝てる気がしなかったぞ。
というか銃弾が通じるかも怪しいような感じだった。
そして、酒吞童子はそれとは比べ物にならないほど怖いのか……。


「そんなに心配する事はない。酒吞童子は話しの分かる奴じゃ。いきなり襲ってくるような真似はせん。それに随分前に杯を傾け合った事もある。」
「……本当に?」
「本当じゃよ。それに空亡の事を知らぬとも思えん。奴の危険性を説けば協力してくれるはずじゃ。」


やはり空亡の存在がキーだな。
共通の敵と言うのは、仲間意識を芽生えさせる一番の要素だからな。
もしも、酒天童子が空亡の事を知らなかったら、それを信じさせる所から始まるのだろうが、信じなかった場合はアウトだな。

あれ?
ここで変な疑問が湧いた。
今現在分かっている情報は、

① 空亡は一年以内に現れる。
② 空亡を呼びだそうとしている者の正体は分かっていない。どこの誰かも分かっていない。
③ 空亡の出現に便乗して、暴れ始める妖怪が増加して来た。
④ その妖怪が起こした事件事故は、人間が起こした事件事故として報道されている。

アレ?
変な事思った。
て言うか、どうして気が付かなかった?


「なあ、ぬら子。」
「なんじゃ?」
「お前………どうして、空亡が1年以内に現れるって分かるんだ?」


いまま聞かなかったというか、聞こうとしなかった。頭に浮かびもしなかったから。
呼びだそうとしている者が分からないのに、どうして空亡が現れるって分かるんだ?


「そうじゃな……。人間のお主にどう説明してよいか……。」
「説明できないのか?」
「うむ。口にすると難しいのじゃよ。上手く表現できないと言うか……。」
「一応言ってみてよ。理解できるかどうか分からないけど。」
「うむ。それじゃ言うが、これは一種の予感じゃな。」
「よ、予感?」


つまりはただの勘だと言うのか?
何の証拠の無く、ただの予感であんな大袈裟な事を言ったのか?


「――お主……。証拠も無しに何言ってんだ?とか何とか思っておるじゃろ?」
「分かるのか?」
「顔にそう書いておるわい!………はぁ。しかたのない事とは言えやはりそう思うわな。証拠は無い。しかしそれでも分かるのじゃよ。空亡が来ると。確信以上の自信がある。」
「だからどうしてなんだ?」
「じゃから言っておるだろうが!証拠は無い!でも分かるのだと。言葉にするのが難しいのじゃ。なんと言うか……気配と言うのか、嫌な感じと言うか、とにかく予感と言わざるを得ないのじゃよ。」
「難しいな。」
「うむ。難しいのじゃ。この感覚を感じるのは。儂クラスでなければ分からん感覚じゃろうな。」


予感ではあるが確信以上に確かなモノ。
感覚的な話なので表現しにくいと言う事か……。

しかし、これで納得が言った。
現在、この日本にいる妖怪たちで、空亡の出現に気付いている妖怪は少ない。
不思議に思っていたんだ。
空亡の出現は人間社会の崩壊。なので人間社会に縛られる必要のないため妖怪たちは何の遠慮もなく暴れまわる事が出来る。
しかし、妖怪が暴れたなんてニュースや記事はどこにもない。
これは妖怪たちが人間の前に姿を現さないためなのだと推測できる。
空亡が来れば人間社会は終わりなのに……。
もう人間の社会に縛られる必要もないのに……。
だと言うのに、妖怪たちは人間たちの目から逃れている。

これは、空亡の出現をまだ知らぬ者が多いためなのだろう。
この世の終わりが近いって事を知らぬために、暴れないのだろう。

ぬら子に聞いたら、やはりその通りだと肯定された。


「酒吞童子はおまえさんクラスなのか?」
「まあの。こと戦闘力と言う意味合いにおいては、あやつはこの日本でもトップクラスの妖怪じゃよ。」
「騙し打ちとは言え、よく人間が勝てたな。」
「ふふふ。あやつは疑うと言う事を知らん。どんなに悪意のこもった嘘であっても信じる。そう言う奴なのじゃ。」


馬鹿正直な奴。
最後にぬら子はそう言った。
なんか、そう聞くともしかして良い妖怪なのではないかと思ってしまう。


「さてと………随分と歩いたようじゃが……葵よ。まだ着かんのか?」
「いや、もうそろそろ、と言うか……この辺のはずなんだが……。」


その住所は確かにここを指している。
でもこの場所は……。


「この場所ってさ……。」
「う、うむ。儂も違うとは思うのじゃが……。間違いないのか?」
「――う、うん。間違いない。住所はここだ、携帯でも確認した。」


携帯の画面にその住所にある建物の名前が搭載されたいた。


この町で唯一の『小学校』の名前が。

携帯に記載されていたのだ。











[30599] 4話
Name: ファンネル◆bc24dbe1 ID:748bbc6e
Date: 2011/11/27 01:08
第4話。




「ここって小学校だよな?」
「う、うむ。どう見ても幼子の学び舎じゃな。」


カラス天狗の情報によると、酒吞童子は昼の間は、ずっとここにいるらしい。
となると、そこから導き出される答えは……。


「まさかと思うけど、ここで子供たちに何かしらしてるんじゃないのか?」
「――い、いや、まさか!それは考えにくいと思うが………。とにかく、中に入って様子を伺おう。」
「おい。何の用事もなく小学校に入れるわけないだろ。不審者扱いされるぞ。」


ぬら子はともかく、俺の方はもう二十歳を超えているのだ。
要件も無く、小学校なんかに忍び込んだら、名前と顔写真がニュースや新聞に記載されてしまう。
まあ、ただ侵入するだけで何もしなかったら、罰金か、数ヶ月間の執行猶予付きの懲役で済むと思う。
しかし、履歴重視の人間社会で、犯罪を犯したと言う履歴を持つ事はすなわち、社会からの脱落を意味する。
要領の良い人物とかは、そこから這いあがったりも出来るだろうが、俺がもしも犯罪者になって、ニュースや新聞にたちあげられたら、絶対に外に出られなくなっちゃう。


「俺は絶対に入らないぞッ!お前だって要件が無ければ、すぐに追い出されるって。」


俺がもしも教育実習生だったり、この小学校のOBであったならば話は変わって来るんだろうが、生憎と俺は地方の出身者だ。
この小学校との共通点はどこにもない。

しかし、そんな俺をぬら子は鼻で笑いやがった。


「はんッ!お主!儂は何じゃ!?」
「は?」
「儂は何の妖怪じゃと聞いておるのじゃ!」
「お前は……『ぬらりひょん』だ。」
「そうじゃ!儂は『ぬらるひょん』じゃ!」


だから何なんだ。
要点をはっきりと言え!要点を。


「お前が『ぬらりひょん』だから何だってんだ?」
「『論よりも証拠』じゃ!言ったところでお主は納得すまい。実際にやってみるのが一番じゃ。」


そう言って、ぬら子は急に俺の右手を掴んできた。


「お、おい!なんだよ!」
「じゃから、説明は後じゃ。とにかく、学び舎に入るぞ!」
「い、嫌だよ!捕まるって!」
「捕まらん!儂を信じよ!」


そう言って、俺をグイグイと引っ張って行く。
そして、とうとう小学校の正門に入ってしまった。
正門もそうだが、結構でかい小学校のようだ。
正門のすぐそばには警備員の警備舎が建ててある。正門から入ってきた者たちがすぐさま分かるような配置にある。
中にいる警備員を見つけた。
白髪の生えている初老の老人であるが、正門からまるで目を話さない。
俺の大学にも警備員はいるけど、警備舎にいる時は新聞読んだりテレビ見てたり、結構サボっている姿が多く見られていると言うのに……。

そんな警備員と目があってしまった。


「あ………どうも、コンニチワ……。」


凄まじく怪しい二人だ。
生徒の関係者とはどう考えたって思えない。俺だって、こんな不審者二人組を見たらさっさと職務質問するか、通報したりするよ。


「………………。」


シカトされた。
それにジーッとまるで無機質なモノを見るかのような目だ。決して人間を扱いような目では無い。


「あ、あの………。」
「………………。」


何も話さない。
さすがにここまで無視されると少し腹立つ。
しかし、腹が立つとはいえ、さすがに何かがおかしい位の事は思う。


「なんで、この警備員の人、俺たちが目の前にいるのに何も反応しないんだ?」


『見えていない』と言う訳ではなさそうだ。実際に目があったし。
何なんだ。
一体全体何がどうなっているのだ?


「どういう事?警備員の人、俺たちの事が見えないの?」
「いや、見えとるよ。ただ、儂等の事を『認識しておらん』だけじゃ。」
「認識していない?どういう事?」
「存在感の薄い人間と言うのがおろう。周りに溶け込んで、存在しているのにまるで気付かれないような人間じゃ。」
「あ、ああ。俺の大学にもいるよ。と言うか、俺がそれだ。」


大学の飲み会に言った時、『アレ?八雲いたの?』なんて言われたのは苦い思い出だ。


「儂の能力もそれに似たようなものじゃ。存在感を限りなく無に出来る。そして回りの者たちは存在感を無くした儂たちを認識する事は出来ん。ちなみに、儂の能力もお主に連動しておるから、お主の事も認識されておらん。」
「すげえな。まるで透明人間のような能力だ。」

俺はぬら子の能力を透明人間のようだと例えた。
そしたら怒られた。

「たわけ!儂の能力をそんなチャチな奴と一緒にするでない。何度も言うが、儂の能力は『儂の存在を周囲に認識させない』能力だ。見とれ。」


ぬら子は辺りを見渡し、都合のよい人物を見つけたようだ。
そこには、花壇の手入れをしている男性がいた。恐らくは業者の方か事務員の人だろう。

「見ておれ。葵よ。」
「あ、ああ。」

ぬら子は男性に近づき思いっきり息を吸いだした。
そして、次の瞬間、


「でやああああああぁぁぁぁぁッッッッッ!!!!!!」

「うわッ!」


男性の耳元でとんでもない声を出しやがった。
て言うか、こっちも手を握っているんだから耳を押さえる事がでいなくて、こっちにもダメージが発生した。


「いきなり何しやがる!」
「じゃから、儂の能力の凄さを見せようとしたのじゃよ。凄いじゃろ!」
「ふざけんなッ!こっちの耳までおか………しく………ん……んん………あれ?」


なんだ?
どうして、前のおじさんは、耳元であんなに騒がれたのに、なんの変りもなく、作業を続けているんだ?
気付いていない?
あれだけの轟音を耳元で発せられて?


「どういう事だ?」
「じゃから言ったじゃろ?儂の能力は、意識させない事であると。例え近くで大暴れしようが、怒鳴ったりしようが、周囲にはそれを認識する事は出来ん。」
「と、とんでもない能力だな……。」
「うむ。応用も利くしの。」


存在しているが、その存在を認識させない事が出来る。
己の存在を意識させない事が出来る。
それがぬらりひょんの能力。
そう言えば、ぬらりひょんは、そんな能力を使って、まるで我がモノ顔で他人の家に上がり込んでは勝手に飯を食べたりする乞食妖怪と言われていたな。
しかし、実際にその能力を目にしてみればとんでもない能力だ。
殺伐とした例えになるが、これなら相手に一方的な攻撃が出来るじゃないか。
こっちは攻撃し放題。でも相手はこちらを認識できない。
在る意味、無敵状態じゃないか。


「しかし、欠点も当然ある。」
「え、あるの?時間制限とか?」


どんなゲームだろうが、無敵時間には制限時間が設けられるものだ。
俺はとっさに世界一有名な配管工か、ピンクの悪魔を思い浮かんだ。


「制限時間なんぞないわい。欠点と言うのは、今お主がやっておろう。」
「―――俺? やっている事って……あ、そうか!」


今俺がやっている事。
それはぬら子の手を握っていると言う事だ。
そうか分かった。ぬら子の子の能力の弱点は


「そう。直接的な接触に弱い。いくら意識から外れようとも、儂自身、消えるわけではないからの。触れられてしまえば、認識されてしまう。」
「なるほど。」
「他にも儂の手から離れたモノは能力の連動が途切れて、認識されてしまうようになる。じゃから、葵よ。絶対に儂の手を離すなよ。」
「ああ。分かった。」



そして、酒吞童子がいるとされている小学校の入り口に入ったのだった。







[30599] 5話
Name: ファンネル◆bc24dbe1 ID:748bbc6e
Date: 2011/11/27 21:11
第5話



小学校の中はとても綺麗であった。
それに太陽の自然の光が廊下を照らし、電気なんぞ付けなくても十分に明るい。
俺の小学校と同じように、中央玄関のすぐ傍には事務員部屋がある。まあ、これはどこの小学校も、いや、小学校だけでなく中学校、高等学校も同じようなものであろう。荷物の受け渡しや、業者や教員、生徒の関係者の名前を記帳するために都合がいいからな。

とても懐かしい雰囲気がそこにはあった。
しかし、どういう訳か素直にはしゃぐ事が出来ない。
それと言うのも、さっきから額から汗が滲み出て止まらないのだ。
学校の中が暑いと言う訳ではない。
なんと言うか、まるで見えない何かに圧迫されているような………それとも誰かに見られているような、とにかくこの小学校に入った時から嫌な感じがするのだ。

ふと、ぬら子の方を見る。
どういう訳か、ぬら子の方もかすかに汗が流れている。


「おい。ぬら子。変なんだ。この学校に入ってから、なんか……その……変な重圧感と言うか……とにかく嫌な感じがするんだ。」

言葉に出来ない嫌な感じだ。
本当だったら、もっと具体的に言わなければならないのだろうが、ぬら子はまるで察したように言葉を返してくれた

「………分かるのか?」
「分かると言うよりは解る?」
「正解じゃよ。お主、なかなか霊感があるようじゃな。」


それじゃ、やはり………


「ここに酒吞童子がおる。」





………………………………



…………………



……





俺とぬら子は、小学校の中をずっと散策していた。
理由は言わずもがな、酒吞童子の散策。
しかし、これがまた何とも手間がかかる方法で探している。極単純、足と目で探す。実に単純な方法だ。


「なあ、ぬら子。酒吞童子を探すのは良いけど、どんな姿してるのか分かるのか?」
「いや、姿なんぞ分からん。先にも言ったように、妖怪は姿を変える事が出来るからの……。姿なんぞ、あてにもならん。」
「それじゃ、探しようが無いじゃないか。」


どんな姿をしているのかもわからない。だと言うのに、この小学校の中から特定の人物を探し当てる。
まず不可能だ。
それは、例えるならば、宝の地図をゲットしたものの、何が宝なのか分かっていない冒険者みたいな感じだ。
しかし、ぬら子はそんなの気にも留めないように言う。安心しろと。


「安心せい。確かに姿は分からんが、奴がここにおる事は確かなんじゃ。近くに行けば、妖気で何となく分かる。」
「そんなモノなのか?」
「うむ。じゃから手当たり次第、探してゆくぞ!」


となると、この小学校の1年から6年までの教室を全部回らなくちゃならないのか。
いや、図書館とか職員室もだな。
他にも、事務員質や保健室。特別教室等………この広い学校を隅まで探すってのは結構骨だ。
しかし、それしか探しようが無いのだから仕方が無い。




………………………………




…………………




……




「ふう。ようやく半分って言ったところか………。」

一つ一つ、教室を見て回って行った。途中、休み時間とかになると、生徒全員が一斉に廊下に出たり、教室を走り回ったりするもんだから、ぶつからないように神経をとがらせた。
教室だけでなく、トイレやベランダ等、とにかく隅々まで探した。
しかし、どこにも酒吞童子の姿は無かった。ぬら子は何も感じ取れなかったようだ。

いよいよ上級生の教室だ。
授業が開始されるまで、俺とぬら子は廊下の隅でじっとしていた。生徒たちにぶつからないように気をつけながら。


「―――5年生の教室か……。」


俺の小学校の時は、下級生が1階の教室で、4年以上の上級生は2階から3階の上の階の教室だった。
ここの小学校も同じようだ。
と言うか、どこの学校もそうなのかもしれない。中学校、高校の時もそうだったし……。
休み時間終了のチャイムが鳴り、俺とぬら子は5年生の教室に入る。

そしていざ入ったら、妙に静かだった。

どこの学校にも、授業中に私語を慎まない生徒は必ずいる。
だと言うのに、この教室の生徒は随分と静かだ。行儀が良いと言うかなんと言うか……。


「おい。葵よ。ここの童共はどうしてこんなにも静かなんじゃ?それに皆、緊張しておったり、怖がっておるように見えるのだが……。」
「何って………おッ。なるほど。テストの答案を返す途中だったのか。これって怖いんだよな。」


道理でみんな静かに座っている訳だ。
こう言う、テストの答案を返す時って、どういう訳かみんな静かになるんだよな。


「なぜ、怖がるのだ?」
「そりゃ、だってお前……自分の実力がはっきりされちまうんだぜ?自分の実力がどれほどのものなのか、気になるあの子はどれくらいなのか……。そんな風に思うと緊張しちまうんだよ。」
「よくもまあ、人間は不思議な事で心を惑わすの~。妖怪の儂には理解出来ん。」
「まあ、それが人間だし。それに大人になってから楽しかったって思えるようになるんだぜ。」       
「―――そんなモノなのか。」
          
          
実際のところ、テストが嫌いだと思うのは問題が解らないから嫌いであったのだろう。
しかし、すらすらと解ると何というか妙な爽快感というか優越感に似た気分を持てる。
だからなのかもしれない。

          
                    
クラスの先生が生徒に答案を返却している。

『は~い。次、一ノ瀬真(いちのせまこと)君!』

『はい。』

『凄いわ、また百点よ。』

『ありがとうございます。』

『みんなも真君を見習うようにね。』

                                      

パチパチと軽い拍手が起きた。
周りからも、『さすが真君!』『真君素敵!』『真君かっけえな……』等など、感嘆の声が上がっている。
                             
ふむ。どうやらこの真君と言う子が、このクラスのリーダー的存在のようだな。
クラスの生徒からの羨望の眼差しが見える。特に女子が比率的に多い。
まあ、無理もない。小学生とは思えないような雰囲気を持っている。とても落ち着いており、自信に充ち溢れている感じだ。百点取ったのに、興味ないって感じ。
ニヒルな奴だとは思うのだろうが、顔つきも普通にイケメンだから、余計にかっこいい。
男子生徒からの眼差しにも嫉妬と言うよりは、尊敬の念の方が多い気がするのは、このクラスでのイニシアチブを勝ち取っているからなのだろう。


(俺も、あんな子みたいに憧れの的になってみたかったな………。ん?)


そんな事を考えていたら、真君と言う子と目があった気がする
そして、軽く睨まれたような……。
しかし、その後は何事もなかったように席に着席ていた。


(……偶然か?)


いや、普通に考えて偶然だろう。あの子の真正面に立っていたのだから。
そんな事を考えていたら、ぬら子が腕を振っぱってきて言った。


「おい。葵よ。」
「――え?――あ、なんだ?」
「何をボ~としておる。次の教室に行くぞ。」
「ここにはいなかったのか?」
「うむ。近くに妖怪がおれば、すぐに分かる。しかし、ここでは何も感じんかった。」
「……そうか。次の教室に行くか。」
「うむ。」


もうここには要はない。
しかし、この時、俺の中で真君の事がどうしても気になってしょうが無かった。
そして、それは俺の勘違いだろうと、ぬら子には何も言わなかった……。




…………………………………




…………………




……





「見つかんねぇ!!」

あれこれ2時間以上探し回ったが、まったく見つからない。
全ての教室を調べて回ったが、それでも見つからなかった。
というか、手がかりが少なすぎる。
俺たちが持っている情報は、酒吞童子がこの小学校にいると言う情報だけだ。
どんな風貌なのか、何をしているのかも実のところ全く知らないのだ。


「なあ、ぬら子。なんか特徴的なモノは無いのか?角が生えているとか……。」


何かこう、他とは何か違う部分があったりとか。
漫画だと、人間に化けている妖怪の類はみんな、角が生えていたり、獣耳が生えていたり、尻尾が生えていたりと言った、アイデンティティが存在する。
珍しいもんでは髪の色が違っていたり、左右の眼の色が違ったり。
昔もそうだが、今でもそう言うのは格好いいと思っている。


「アホか。そんなんが見えるような不完全な変装であったならば、とっくに人間どもにばれるであろうが。」


だよね。
漫画とかのそう言う人間に変装している妖怪や化物って、帽子をかぶったり、包帯を巻いたりで誤魔化しているけど、ここは学校だ。
何の事情も無いまま帽子をかぶりながら授業なんかしたら先生に怒られてしまう。
全く、現実は漫画のように上手くいかないものだ。


「お前が、感じられなかったという事は無いのか?」
「近くにいてか?それは考えられん。妖気を完全に消せる奴など、妖怪多しとはいえ儂位のもんじゃ。それにこの学び舎には妖気が充満しておる。奴がここにいる事は間違いないんじゃ。」
「しかし、見つからないじゃないか……。」
「うむ。不思議でならん。」


う~む、八方ふさがりだ。
そして、疲れた。この広い小学校を手を繋ぎながら2時間以上散策すると言うのは、肉体的にも精神的にもくる。
現在、俺の精神は結構辛い状態にあるのだ。
味方かどうか分からない酒吞童子を探すと言う恐怖や、人や物にぶつからないように神経を尖らせたり。学校の関係者に見つかったら、間違いなく通報モノだ。そう言った恐怖感もある。
俺はスリルを楽しめるような精神の持ち主ではない。言ってしまえば、臆病な人間なのだ。
そして、何より………。


「ん?どうしたのじゃ?葵よ。儂の顔をじっと見つめおって……。」
「み、見てないッ!見つめていないッ!」


隣にいるぬら子の存在だ。
はっきり言おう。俺は生まれてこの20年間、女の子と付き合った事などはない。この20年間の内で得た女友達の数は片手で数えられる程度の存在だ。
ましてや女の子と手を握るなんてもってのほかだ。
男が女性と手を繋ぐのは、付き合ってからと言うのが俺の中の常識なのだ。
尤も、最近の若い子供たちは、付き合うと言う過程をすっ飛ばして、手を繋いだり、はたまたヤっちゃったりしてるらしいけどな。
そんな俺がぬら子と手をつなげたのは、20年間女性と縁が無かった故の余裕と言うやつに他ならない。
人間、全くモテないと、なんと言うか………悟りに近い余裕を持てる気がするのだ。

しかし、実際に手を繋ぐと、そんな余裕はどっかにすっ飛んでしまっていた。
柔らかくて、温かい。
それでいて、ぬら子の体温が感じられるほどそばにいる。
ぬら子はどう見ても中学生程度の女の子にしか見えないが、腰まである長い黒髪に、スラっとした鼻先。くりっとした目をしていて………ぶっちゃけて言うと可愛いのだ。本当に大和撫子って感じで、和服姿がそれに拍車をかけているのだ。


「なあ、ちょっと外に出て休憩しないか?」
「休憩?疲れたのか?」
「少しだけ。それに、どうやら次は給食の時間のようだ。これから大量に生徒たちが廊下に出る。ぶつかったら正体ばれるんだろ?」
「うむ。まあ、よかろう。儂も少し腹がすいた。」


もう昼時だ。
もう少し手を握っていたいと言う欲求はあるが、俺の精神はもう持ちそうにない。
ここらが潮時だ。


「それにお主の手がなんだが、ネチョネチョして気持ち悪くなってきたからの。」
「――や、喧しい!ずっと握っていたら誰だってそうなるわッ!」


地味にショック受けた。
下心を考えた瞬間にこれだ。やはり、ぬら子は俺を男とは見ていないようだ。
まあ妖怪だし、仕方が無い事なのかもしれないと、俺はため息をついた。


「俺たちも飯にしようぜ。散策は午後からだ。」
「うむ。どこで飯をとる?」
「向こうにファミレスがある。そこで軽く何か喰おう。おごってやるぜ。」
「本当か!?」


三日間、一緒に過ごして来て分かったが、こいつは人間の貨幣何ぞ持ってはいなかった。
それでどうやって今まで生きてきたのか………。想像するのは難しくない。
こいつは『ぬらりひょん』なのだから。
盗み食いはお手の物なのだろう。


「葵!お主良い奴じゃなッ!」
「うおッ!ひ、ひっつくな!」
「ムフフ……。良いではない!良いではないか!」
「その言葉は普通は男の俺が言うセリフだ!使い方間違ってんぞ!」


どれほど嬉しかったのかは分からないが、思いっきり腕にひっついてきて、体重を乗せてきた。
女の子に免疫の無い俺のSAN値は当然ながら、ガクッと下がった。
しかし、後数歩のところで正気を保ち、平静とした心で、二人ファミレスに向かうのであった。




………………………………




……………………




……




ファミレスで昼食を取った俺たちは再び、小学校の正門前までやってきた。
すでに学校では給食の時間が終わり、昼休みになっているようだ。
校庭には、昼休みを利用してサッカーやドッチボール等に興じている子供たちの姿がある。


「今は昼休みか……。なら散策はもう少ししてからだな。」
「うむ。」


多分、廊下や教室にも生徒がわんさかいるだろう。
ならば無理して、小学校の中に入る事は無い。午後の授業までこっちも昼休みと行くか。
俺たちは、校庭のすぐそばに腰かけた。
当然、回りに気付かれぬよう、ぬら子とは手を繋いでだ。



「―――平和だな~。」


ふとそんな事を口にしてしまっていた。
隣には、手を繋いだままリラックスしているぬら子がいる。ここが校庭とかじゃなくて、川原とかだったら、カップルに見えたりはしないだろうか?
それにこんなにも天気のいい日なのだ。
そんな日に子供たちの遊んでいる光景を目にすると、とても世界の危機が訪れているとは到底思えない。
そして……。


「本当に酒吞童子なんているのかな~……。」


鬼の総大将である酒吞童子がこの小学校にいると言うのだ。
鬼と言ったら、恐怖の代名詞のような存在だ。とてもじゃないが、小学校と言う平和の象徴的な建物にはまるで似合わない。
ぬら子も見つからないって言ってるし、居ない可能性も考えておいた方が………



                                        
                                        
                                        

「――――おい。」

                                        
                                        
                                        
「―――ッッッ!!!!」 
                                        
声がした瞬間、突然体が退いた。自分の考えで退いたのではなく、体が勝手に退いたのだ。
俺たちに向けられた凄まじい殺気。
素人の俺にも感じられるようなとんでもない恐怖が目の前にあった。
ぬら子を見る。
ぬら子も俺と同じように、とっさに身構えた。
お互いに退いておきながら手を離さなかったのは行幸と言えよう。
                                        
                                        
                                        
「手前等だろ?さっきから、この学校でウロチョロしてやがったのは。」
                                        
                                        
                                        
いや、その前に………『認識している』のか!?
俺たちの姿が見えているのか?

俺はまだぬら子と手を繋いだままだ。
ぬら子が能力を消さない限り、俺たちを認識する事は出来ないはずなのでは……!


「―――馬鹿な……!」


ぬら子がありえないと言った顔でつぶやいた。
だから分かる。ぬら子は能力を消したりしてはいない。それに消したら生徒の何人かはこちらを意識するはずだ。
誰ひとり俺たちを意識していない所を見ると、ぬら子の能力は継続中であることが分かるのだ。


しかし、目の前の人物は………


「………ったく。返事くらいしろ。そこにいる事は分かってんだよ。」


完全に俺たちの事を見据えている。
その目は、とても真っ直ぐで……分かって当然だと言わんばかりに自信に充ち溢れている………


「―――それとも俺が分かんねえのか?………だったら、教えてやる。俺は………。」


小さな『少年』であった。


「―――酒吞童子。………一ノ瀬真だ。」






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