2005-01-08
ヘルプ
柳田が、shiroyagiのヘルプで三日間、うちのクラブで働いた。父親が癌で死んで、その葬式でどうしても店を休まなくてはならなかったからだ。事前に柳田には、店の場所を説明してあった。店の方にも、一応連絡し、了解を得た。柳田がshiroyagiの働く店に来たのは、9月の下旬、まだ夏の暑さの残る蒸し暑い日の夕方だった。店はビルの2階、表通りから階段で赤い絨毯を上る。外から店は見ていたが、実際中に入るとなると、緊張する。柳田は、喫茶店でウエイターの仕事をしていた。だからウエイター経験のある柳田に自分のヘルプをshiroyagiは頼んだのだ。が、薄暗い階段を開ける柳田は不安だった。こういう店は初めてだし、うさん臭い。金メッキの重いドアを押すと、ゆっくりと開いた。首を店の中に入れる。薄暗い照明が店を、茶色っぽい金色に照らしている。誰もいない。
「おはようございます」
大きな声を出してみる。すると奥から中年のやせ男が黒いパンツに白いシャツ、黒いチョッキを着て、歩いてくる。
「君が柳田君かい」
「はい、shiroyagi君の紹介で来ました」
「うん、聞いてるよ。三日間だけだけど、頼むよ、僕はマネージャーの岸だ」
人の良さそうな、優しげな声が、柳田を少し安心させた。
「僕は何をしたらいいでしょうか」
「うん、まず、着替えたら、フロアのテーブル拭きや灰皿を洗ってもらおうか」
案内された更衣室で、柳田は喫茶店の制服の黒いパンツを履く。汚い更衣室だなと思った。まず壁は煙草の煙のせいか白かっただろう壁が茶色になっている。ホステスのだろう、派手なスパンコールのドレスが壁に掛かっている。なんだか不潔に思えた。素早く着替えると、段取りを岸から教えてもらう。偽大理石のテーブルを濡れたタオルで丹念に拭いていく。暗いからきれいになったか分からないが、十卓程あるテーブルを拭き終えた。次に紅いソファーの埃をブラシで取っていく。一掃けしたら、すごい埃がブラシに付いていて驚く。姿勢が中腰なので辛い。柳田は身長181センチあった。高校ではサッカーをしていた。だから柳田の足は太く尻は大きい。大学では、ジャズ系のバンドでベースを弾いていた。運動もできて、それなりに芸術も分かる、shiroyagiが一番好きな理想的なタイプだ。偏りがない、文武両道、昔そう言ったが、やはり現代にも文武両道こそが、一番バランスのとれた人間だと考えていた。そんなこともあり、shiroyagiとは柳田も性格が合ったのだろう。が、音楽の趣味ではケンカすることがよくあった。わかってないなあ、と何度言われたことか。その度に分かってないのは、お前の方だと言った。おそらくお互いがそう思っていたのだろう。
しばらくすると、ママらしき中年女性が、
「おはよう」
と元気に入ってくる。型通りの挨拶を済ませていると、次々にホステス達が現れる。
今日一日やれるのかな、俺、と呟いてみたが、やるしかない。
7時になって店が始まる。待ち席と言うのだろう。そこでホステス達が座って化粧や雑談をしながら、客を待っている。
柳田がフロアの入り口で立っていると、
「あっ、shiroyagi君じゃないの?なんか背の高さが似てるから気が付かなかった。ごめんね、わたし澪、よろしく」
営業スマイルだ。
「よろしくお願いします」
固い表情で頭を下げる。
7時半を過ぎた頃、二人組の客が来た。
50代位かサラリーマン風の男が”いつも”の席に案内される。
ママとチイママが挨拶をしている。女の子が一人その席に着く。さっき話した澪さんだ。チイママと澪さんがその席に着き、ママは席を離れる。柳田は、席に近づき、ダウンサービス、床に片足を付き、おしぼりと氷を置く。澪さんが、「ヘネシー」
と言う。
「はい、かしこまりまりました。」
マネージャーの岸がヘネシーのボトルを渡してくれる。もう一度テーブルに戻り、ボトルを持って行く。
チイママが、
「キャビンマイルドお願いね」
「はい」
マネージャーに言うと、煙草を渡してくれる。煙草を持って行くと、チイママが小さな声で、
「しばらくいいわよ」
と言った。柳田は言われた通りしばらくテーブルを眺めていた。shiroyagiから事前に教わった通り、煙草三本で灰皿を換える。フロアーをゆっくり歩き、氷や水が残っているかチェックする。こんなことをしている間に、客席は7割方埋まってきた。マネージャーの岸も手伝ってくれたので、そんなに仕事は大変ではなかった。
ただ、なんかいやだった。中年の男たちが若い女子大生のような自分と同じ年位の女達に肩をかけたりしながら、楽しそうに酒を飲んでいる。いつも居酒屋で男同士かサークルの女の子たちを連れて飲む酒とは違う。俺の彼女がもしこんな仕事をしていたら、と考える。絶対いやだ。自分が惚れて、自分から告白してつきあっている今の彼女でもこれだけは許せない。他の男が俺の女に手を置くなんて。殴ってやる、もと体育系の血が騒ぐ。
時間は早く過ぎた。忙しさがピークに達したと思ったら、マネージャーが、「あと十分だよ」と教えてくれた、
肩から力が抜けそうになる。
店を12時に閉めて簡単な片付けをする。
「後は明日開店前にやるからもういいよ」
そう言われて、柳田は女の子達がいなくなった更衣室で一人着替える。
「明日もお願いね」
ママがそう言って、ぶっきらぼうに手を振る。柳田はその手が自分を追い払っているように感じた。
表に出ると、まだ蒸し暑いが、煙草の煙で籠った店の中と違って気持ちがいい。思わず背伸びをする。
その後の二日間は似たようなことの繰り返しだった。
三日分の給料をもらい、店から出る。煙草を吸う。ふう、思わず息が飛んで出る。この金で彼女の早苗に何かアクセサリーでも買ってやるか、三日間ごつい指輪やネックレスを見すぎたせいだろうか、いつもは考えない思いが湧いて出た。質素な早苗には似合わないだろうあの貴金属の塊、あれとは違った何かかわいいのを買ってやろう。心に決め、足取り軽く駅に向かう。
柳田がshirioyagiに会ったのは、それから1週間後だった。柳田が働く喫茶店にshiroyagiが現れたのだ。柳田は開口一番、
「shiroyagi、お前よくあんな店で働けるな」
とあきれたように言った。
「まあな、でもそんなに悪い処じゃないよ」
優しい口調で、柳田に言う。
「まあ、俺は金もらったからいいけどさ、お前も喫茶店で働いたら」
「そうだな、爺さんにでもなったらな」
お互い笑い合い、クーラーのよく効いた店内で、アイスコーヒーを啜る。うまい。
親父が死んでこの一週間、何かと雑事に追われたshiroyaghiにとって、この時間はとても大切なもののように思えた、残暑残る秋の昼下がり、珈琲を飲み喫茶店に居る、これは幸せなことなのだろう、そんなことを考えていた。
「また、来るわ」
「おお、また来いよ」
店を出て、車に乗り込む。むっと熱気が沸き出してくる。クーラーを全開にして、一度車を出て、煙草を吸う。空を見上げる。まだ夏だ、くわえ煙草に気を付けながら再度車に乗り込む。
折角だからちょっとドライブしよう。そう思い、車を山がある方に向かわせたて信号を曲がる。ワインディングロードは、shiroyagiの車を風景の中から消して行った。
ディスコ・ウエイター
時はバブルの全盛期、有名なディスコが六本木や麻布を中心に、ひしめき合っていた。shiroyagiの友人でも、何人かそういう店でウエイターをしている奴がいた。中でも雄次は特別だった。何が他の奴らと違うかと言うと難しいが、パワーが飛び抜けていた。容姿・年齢問わず店に来る客の女を次々と食っていく。戦法は単純、とにかく力で押し切る。技と言えば、マシンガン・トーク、機関銃のように喋り続け、自分のペースに女を持って行く。そのうち女が酒でベロベロになったのを見計らい、自分の欲望を満たす。これが大抵の雄次のやり方だった。顔は日本人離れしたくどい顔、初めて見た時、映画「風と共に去りぬ」のレット・バトラーを思い出した。クラーク・ゲーブルではない、あくまでも女たらしのレット・バトラーを。初めは顔でそう思ったが、深く関わり始めると中身もレットだった。だからいつも雄次のことを、レットと呼んでいた。奴もそのあだ名を気に入っていたのか、shiroyagiが女達の前でレットと呼んだ時、女達が、
「雄次ってハーフなの」
と聞くことが度々あった。決まって雄次は、
「ハーフじゃないけど、じいちゃんがロシア人とのハーフなんだ」
と言っていた。
仲間内ではあれは嘘だというのが定評だったが、なにせはったりが上手い、何が本当で何が嘘かは分からない。それに周りには、自称モデル、自称元ホスト、夜間高校でクラスが一緒だったアイドル歌手に告白されて断ったという、自称バンドでドラムをやっているなんていう、はったり野郎ばっかりだった。だからみんなも人の話は嘘半分程度に耳を傾けていた。
ディスコが終わるのは、深夜2時、3時、4時、5時、朝方近くまでやっていることもあった。
shiroyagiはたまにヘルプで、そういった店で働いていたが、早朝明るくなる頃に、みんなで店がはけてから牛丼をよく食べた。ディスコで働いた日は、終電に間に合わないので家には帰らない。大抵三軒茶屋にある雄次の家に泊まった。ワンルームのアパート。ソファーベッドとテレビがあるだけの部屋。雄次はソファーベッドでは寝ない。いつも雄次が床でshiroyagiがソファーベッドで寝ていた。
ある日、雄次の部屋で寝ていると、玄関のチャイムが鳴る。
雄次がのそりと床から起き上がり、ドアへ向かう。どうやら女らしい。雄次は女を中に入れるようだ、女がブーツを脱ぐ音が聞こえる。
この部屋は、まあキッチンいれても、6畳あるかないか。はっきり言ってせまい。雄次は案の定、女とセックスを始めた。
shiroyagiが寝ているソファーベッドに何度も雄次の体がぶつかる。体を固くする、二人の邪魔をしてはいけないと、布団をかぶって眠った振りをするが、雄次は足で何度もベッドを蹴る。その度に体が固くなる。
情事が終わると、雄次はさっさと女を帰らせる。そして、
「shiroyagi、起きろよ」
と耳元でどなる。起き上がると、
「せっかくお前にもさせてやろうと、3Pしようと思ってベッド蹴っても起きないんだもん」
「お前、わざとやってたのか」
「当たり前じゃん」
「おかげで、俺の体はガチガチだったよ、言って置くけど、チンコじゃないぞ」
二人の間に軽い笑いが起こる。
煙草を手に取り、一服する。気持ちが落ち着いてくると。雄次のやりそうなことだと、改めて自分が情けなくなる。
「俺、帰るわ」
「なんだ、コンビニ弁当食ってかないのか」
「今日はいい」
「なんだ、怒ったのか」
「怒ってないけど、今日は帰る」
狭い玄関で靴を履くと、またな、と言ってドアを閉める。
雄次はまた二度寝すると言う。疲れたんだろう、あいつらしい。雄次の性格を理解していなかった自分が馬鹿に思える。
朝の都心から郊外に向かう電車は空いている。スーツを着込んだ疲れた顔したサラリーマンの群れを避けながら、ホームを反対方向に進む。電車のシートに身体を下ろすと、疲れがぐっと出て来た。腕を組んで顔を下に向けて、寝る。
目を覚ますと、降りる駅の二つ手前だ。最寄り駅で降り家に帰る。ベッドに飛び込む。今日は寝た気がしない。数分もしないうちにまた眠りに落ちていった。やっぱり自分の家がいい。
それからは雄次の家には泊まらなかった。もうあんなのはこりごりだ。
ディスコのヘルプも辞めた。また、郊外のクラブのウエイター稼業に専念する。
都会はいつでも刺激的で魅力的だが、自分の心も体もその力も、そのスピードには着いて行くことができない。心が安らぐことはない。自分はやっぱりあそこで、ウエイターをしているのが合っている。自分に合わないことをして初めて自分の居場所に気付く。それがどんなに汚い場所でも。それが他人から見てどんなに汚れた場所でも、自分で心地がいい、それが一番大事なんだ、それが自分なんだと言い聞かせる、そんな毎日が続く。いつまで続くのだろう、こんな放浪の日々が、こんな渇いた日々は。
ママ
ママはやり手で強引だった。まあ、どこのママもそうだろう。金と店の女の子にうるさくなくては、ママは務まらない。女の子の遅刻、無断欠勤、同伴出勤の数にいつも目を光らせている。テーブルでは、客によりいい酒を飲んでもらおうと、一万円もするフルーツの盛り合わせを頼ませるように女の子にしむける。女の子達にとってそんな怖い存在がママだ。文句を言いながらも雇われている身、従わなくてはならない。付きたくないテーブルにもママの命令なら絶対だ。ある日、ナンバーワンの玲子さんが無断欠勤した翌日、
「今日は帰っていい」
と、本当に帰らせた事があった。その日、ああこの人は本気だと確信した。マネージャーやチイママの明美さんが言うと、駄々を捏ねる女の子達も、ママが言えば諦める。shiroyagiはママが別に嫌いではなかったが、やはりあの強引さ、強欲さ、その欲の深さに嫌気を感じていたが、ママとは接触がほとんど無い。ママの関心事は店の女の子達にあって、仕事をそれなりにしているウエイターには、口を出さない。
が、一度だけママと口論になったことがある。金のことだ。時給をあげて欲しいと、頼んだところ素っ気なく断られた。shiroyagiはこれでもこの店に必要な人間だと思っていたので、それなりのプライドはあった。
「じゃあ、店を辞めます」
そう言い切ったが自信はなかった、ママがどう出るか。
「なら、辞めればいい」
そう言って、ロッカー室に入っていった。
チイママの明美さんとマネージャーが寄って来て、
「ママと相談するから、あせって辞めるんじゃないわよ」
明美さんがそう優しく言って、ロッカー室に入って行った。
その日はその後、普通に仕事をした。
帰りの車の中、カーステのロックに合わせて、大声でシャウトする。
「俺は一体何者なんだ、何者なんだ」
翌日、ママに呼ばれた。時給を100円上げると言った。心の中で、たったの100円、と叫ぶ、都会の一流クラブで働いてる友達連中は、自分の倍近く時給をもらっていた。自分が都心の郊外に住んでいるため、今まで時給のことはあきらめていたが、今までの鬱積したものが出たのだろう、昨日初めてママに逆らったのは、そんな理由だ。
結局折れたのは、自分だった。
「分かりました。その時給でお願いします。昨日はすみませんでした」
頭を下げる。
「分かればいいのよ」
そう言い放つと、ふいと体を捻らせ、廊下をフロアーの方へ歩いていく。
「shiroyagi君、良かったじゃない」
明美さんが小さな声で耳元で囁く。
「ええ」
力無い声で答える。
マネージャーが役に立たない事は、最初から分かっていたが、明美さんは違う。自分を少しは必要としている。小耳に挟んだのだ。古株のホステスの優子さんが、今までのウエイターで誰が一番仕事ができたかと明美さんに聞いたところ、即答で、
「shiroyagi君」
と、答えたそうだ。優子さんが教えてくれた。本当の事かは分からないが、そんな事情で自分でも、実力以上に自信過剰になっていたのかもしれない。
が、とりあえず事は収まった。しかし、後にこの店を本当に辞めるきっかけはやはり、ママとの争い事が発端だった。
shiriyagiは、何より店の女の子達が快適に店で働けるよう務めた。
それは金にも勝る、その思いだけは本当だ。だが、実際の生活、労働の対価は正当に欲しいのが本音だ。現実はいつも残酷なもの、何が正当かも分からない。。
その日は店が終わると深夜営業のレンタルビデオ店で、映画のビデオを数本借り、朝まで観ていた。いつの間にか寝ていたようだ。起きるともう夕方。シャワーを浴び、腹に軽いものを入れ、店に向かった。
2005-01-05
厨房の人
クラブには、三人の男がいた。shiroyagi、マネージャー、そして厨房の人だ。特に誰とも仲良くなかった。マネージャーはただのすけべなおじさんに見えたし、厨房の片桐さんは二十代半ばに見えたが年齢を聞いたことはない。小太りで話好きで人が良さそうに見えたが、厨房に籠っていることが多かった。話す回数はマネージャーとが多かったが、ただ会話の中で、頷き、相槌を打っているだけだった。片桐さんとはオーダーが入った時以外、事務的なことしか話さなかった。だから片桐さんが、店を辞める時に、二人で飲もうと誘われたのは、意外だった。本当は断りたかった。理由はフィリピンパブへ連れて行くと言うからだ。そういった処で飲んだことはない。飲み方を教えたかったのかもしれない。が、パブで酒を飲みたくはなかった。そういった店はshiroyagiにとって、働く場所であり、飲む処ではない。
店が終わってから、shiroyagiの車で、違う街へ向かう。なぜこの街の飲み屋へ行かないのか不思議に思ったが聞かない。車内での会話は、その頃、新しく売り出していた日本の新進ロックグループの話題に尽きた。そのカセットテープをカーラジカセに勝手に入れ、
「このテープはお前にやる」
と、言って音楽のリズムに合わせて口ずさんでいた。
雑居ビルの三階にある、3TIMESという店に入った。片桐さんに聞くと、夜中の三時までやっているからだと、店の由来が返ってきた。
店に入ると、片桐さんを囲むように、フィリピン人の女の子達が集まる。常連なのだろう、自分の店にもフィリピン人は二人いたが、一緒に飲むのと働くのは勝手が全く違う。こちらには下心も何も無いのだ。
テーブルに案内され、片桐さんのボトルで水割りを飲んだ。隣に女の子が座っているが、口を聞かない状態がしばらく続いた。まず話す言葉がない、日本語がほとんど分からない、気まずい。こういう場所は初めてで緊張する。
横で女の子が、自分のグラスを拭いてくれる、煙草を吸おうと煙草を手にすると、ライターを自分の口にあてられるのが恐縮でたまらない。煙草の本数も飲む量もセーブした。早く家に帰りたい。
そんなshiroyagiの気持ちを知ってか知らねか、片桐さんは上気分で両脇に女の子を置き、肩に手を掛けている。片桐さんが言った。
「俺、こいつと今度結婚して、新しい店持つんだ」
右側、shiroyagiと離れた席に座っていた子の肩に手をかけ、大声で言った。
「そうですか」
以外の言葉は出て来なかった。ちょっと不機嫌になった片桐さんが、
「お祝いなんだから、もっと飲めよ、楽しめよ」
と、脅すように言う。
体は固くなる。
「はい」
そう言いながら、水割りを半分開けた。
さすがに、shiroyagiの気持ちを察してか、しばらくして片桐さんが、
「帰るかと」
頷いて店を出る。片桐さんは、
「俺はもう一度上で飲んでいくから、またな」
と言って、名刺を渡した。
酒酔い運転と分かっていながら、車のエンジンキーを回す。
車の中には、片桐さんがくれたテープが流れている。好みのロックにテープを換える。
今日、店の女の子と話したのは、タガログ語を少し。
「エコ、アコ」
わたし、あなた、
「あなたに何も言えず、ごめんね。今ならもっと気軽に話せるよ、気まずい思いさせないよ」
厨房は、それからしばらくマネージャーがやっていた、よくこんなもの食えるなあというものを平気な顔をして出していた。ママも怒った。ケチで有名なママも流石に、
「早く新しい子探さなくちゃね」
とぼやいていた。
新しい厨房の人が入ったのは、それから一ヶ月位してからのことだった。
2005-01-04
ROMIO&JULIET
12月28日、日生劇場にて、東京公演の千秋楽に蜷川幸雄演出、藤原竜也、鈴木杏主演「ROMIO&JULIET」を観てきました。前半のロミオとジュリエットが恋に落ちるまでは、レオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンシュレットが主演したバズ・ラーマン監督の映画「ROMIO&JULIET」に似ていますが、後半は一転古典劇の悲劇に変わります。
ラストシーン、二人の心中の場面に、蜷川の独特な解釈があったように思われます。ジュリエットの許嫁であるパリス伯爵が二人と共に死にます。ジュリエットを愛した二人の男の死、そして二人の男に愛されたジュリエットの死。
また、照明、舞台装置の素晴らしさには舞台開始から魅せられました。
ロミオの親友役、マキューシオを演じた高橋洋の好演もこの舞台に色を添えていました。
今まで、シェイクスピアを敬遠してきたshiroyagiにはいい経験でした。
ラムの「シェークスピア物語」からシェークスピアへの理解を深めていこうと思います。
ありがとう、素敵な舞台、素晴らしい感動を。
なぜ、人は結末の分かっている舞台に涙を流すのか、感動するのか。
千秋楽ということもあって、20分近いアンコールが続きました。
ちなみに、アンコールの途中、蜷川本人が出て来たとき、
「ブラボー」と、出演者に聞こえる程の大声で、叫んだのはshiroyagiです。その直後女性の小さな声で同じ言葉が発せられましたが、声が届いたかどうか。が、気持ちは届いていたと思いますよ。
余談ですが、アンコール中、化粧室を我慢されていた方も多くいたと思います、より一層女性への配慮を劇場側、プロダクション側に求めます。
折角の観劇が台無しになってしまいます。
徒然なるままに描き連ねたので、読み苦しい点はご了解を。
できれば、次回演劇についてはは、野田秀樹演出、「走れメルス」について書けたらと思っています。