2005-03-01
スケーティング・パーク-5-
慶市はリンクへ行くと真っ先にPRO SHOPに入った。靴を受け取りに来たのだ。靴を受け取ると意気揚々とリンクサイドに入った。とうとう俺もマイシューズ、ゲットだぜ。気分は弾んでいた。靴を履くまでは。靴に足を入れ靴ひもを丁寧に結ぶ。足が猛烈に痛かった。足全体が締め付けられているようだ。特に外側のくるぶしの痛さは半端じゃなかった。虫歯のように奥までしみてくる。慶市はなんとか両足で立ち上がると、ようやっと歩く事ができた。リンクに上がってみる。まるで滑れない。一周してリンクから降りた。これなら貸靴の方がよかった。そう思った。ベンチに座り靴を脱ぎ、足をマッサージしていると、教室で一緒のおじさんが、「誰でも最初は痛いんだよ。靴の皮がとても硬いからね。私は靴を壊すつもりで履き慣らしましたよ」
「そうですか。そんなに痛かったんですか」
共感が共感を呼ぶ。慶市は今日は教室を諦めた。これじゃあ、ひょうたんもできない。とりあえず自主練習をして家に帰った。家に着くと、靴を取り出し、靴に目一杯ミンクオイルを塗った。内側にも外側にも。そして靴を目一杯前に曲げ。靴の中にビール瓶の大瓶を入れて、瓶の頭のところとブレードを紐で縛る。そして玄関に一週間ほったらかしておいた。
翌週、靴を縛った紐を解き、靴の状態を確かめる。だいぶやわらかくなった。これ位ならなんとか滑れそうだ。荷物をまとめ、リンクへ行く。
リンクに着くと、靴をよく手でもみ、柔らかくして足を入れる。うん、大丈夫だ。靴をしっかり縛ると、颯爽とリンクに上がった。なんとか滑れる。
今日は教室に参加することにした。靴を見た先生が、靴出来たんですね。最初は大変だけど、慣れれば良くなるからと励ましてくれた。スケートの出来は良くなかったが、いい気分だった。念願のマイシューズ。家に帰るとご機嫌でビールを飲む。そして、教室で知り合いになったおじさんから借りたビデオをビデオデッキに入れた。何でもソルトレイク・オリンピックの時のフィギュアスケートのビデオだそうだ。慶市はそういった映像は初めてだ。競技が始まるとテレビに釘付けになった。これが本当のスケートか?うちのリンクの子ども達とはレベルがまるで違う。ジャンプ、スピン。どれをとっても桁が違う。あのジャンプは一体何回転しているんだ。早すぎて分からない。ビデオをスローモードにしてコマ送りで確認した。三回転。三回転だよ。驚きだ。が、俺もあんな風になりたい。なりたい。思いだけは強い。ビールを一気に飲み干した。
志乃ざき
八王子、みづき通りから一本曲がった所にある鰻屋です。昔からの老舗です。若奥さんが外国人なのが意外で印象的です。肝吸いや鰻ボーンもおいしいです。ちなみに柳川丼もあります。絹の道
昔、横浜の港と絹織物の街八王子を結んだ、商人達が通った街道の名残が、北野台団地と鑓水の近くにだけ残っています。当時のままの野道が続き、鑓水には絹の道資料館があります。道了堂という神社に似た祠のようなものが、北野台団地の近くにあります。以前は荒れた古い廃屋でいわくがあったので、市がイメージ一新のため、リニューアルしました。距離も短く気軽に散歩できるコースですが、人が少ないため女性が一人で歩く事は勧めません。初恋
男の初恋の相手は人間ではなかった。正確に言うと実在の人間ではなかった。テレビアニメの登場人物だった。その女の名前は森雪と言った。知っている人もいるかもしれない。宇宙戦艦ヤマトに出てくる看護婦だ。森雪は美人だった。が、森雪はアニメもしくは漫画の人物なので、生身の人間が美人と形容するのとは違和感を感じられるかもしれない。が、男にとってはこの世界で一番の美女だった。そしてできることなら交際したいと思っていた。架空の人物とどう交際するのか、みなさんには全く分からないことと思う。そこで説明をする。今時代は、2035年、人間型ロボットが街には平然と存在しており、人間に代わる労働を行なっていた。人間はロボットに命令するだけでよかった。男はロボット製造会社のRICに森雪型ロボットの製造を依頼した。勿論理由は労働目的ではなく恋愛目的だった。この時代ロボットと愛情関係にあることは決して珍しいことではなかった。法律でロボットとの婚姻も認められていた。男はいずれ森雪型ロボットと結婚するつもりでいた。それには恋愛とは別にもう一つ理由があった。母親に結婚した姿を見せたかったのだ。母親は老衰で長くてあと半年の命だった。病院でねたきり状態だ。だからその前に嫁さんを母親に見せたかった。そして男は初恋の相手と結婚すると、子どもの頃から母親の耳にタコができるほど言って聞かせていた。その日が近づいていた。製品の納品日は一週間後に迫っていた。式場での結婚式はあきらめていた。母親が出席できない式は意味がなかった。だから母親の病室で晴れ着を二人で着て、母親に祝ってもらおうと思っていた。式の当日が来た。病室に入った二人の姿に老いた母親は涙をこぼした。森雪は母親に挨拶をした。「私が雪です。よろしくお願いいたします」
そう言って、母親の手を握った。森雪の手は温かかった。現在の技術では、ロボットに人と同じ体温を保つセンサーが付いており、全く人間と変わりはなかった。母親は、
「息子をお願いします」
そう言うと、ベッドの上で、目を瞑り眠りに入った。森雪は義母に毛布を掛けてあげた。