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2005-03-03

スケーティンング・パーク-6-

俺もあんな風に滑りたい。跳びたい。本気だった。あの人達はみな子どもの頃から毎日リンクで苦しい練習に耐えてきた選ばれた人達だ。だから人を感動させる演技ができる。俺も人の心を動かせるような演技がしたい。強く思った。ビールをもう一缶空けた。酒のせいで言っているのではなかった。慶市は本当に情熱から思っていた。今のままじゃだめだ。どうしたらいい、考え込んだ。まずは自主トレを増やす。あとやはり今の教室のままでは上達がままならない。個人レッスンを受けよう。とりあえずこれしかない。
慶市は週末、リンクへ行くと屋敷先生のところに行った。屋敷先生は教室で何度か教えてくれた、元国際大会にも出た女性のシングルスケ−ターだった。年は二十五才位か。
「先生、実は話があるんですが」
「話ってなんですか?」
「先生のレッスンを受けたいんです」
「いいですよ。でもなんで私のレッスンを受けたいと思ったんですか」
「前に一度教室で一人しか参加者がいなかった時、先生の教え方がすごくわかりやすかったから」
「そうですか。ありがとうございます」
「いつ受けますか」
「毎週土日に。時間は何十分ですか」
「三十分です」
「料金は?」
「三千円です」
「了解しました。よろしくお願いします」
「こちらこそ。何か特に教えて欲しいこととかありますか?」
「私に必要なことを教えてくれればいいです」
「わかりました。じゃあ来週十一時に」
「はい。よろしくお願いします」
慶市は興奮していた。ついに俺も個人レッスンだ。教室で一緒だった人はみんな辞めたか個人レッスンに移っていっていた。ビデオを貸してくれた岡野さんも既に個人レッスンに移ってジャンプやスピンの練習をしている。岡野さんが言っていた、個人レッスンをしないと駄目ですよ、やっぱり。自分の癖や弱いところを見てもらうには。それに上達も教室の何倍も速い。もっと早く個人レッスンを始めてればよかったと、何度も聞かされていた。だが慶市も個人レッスンに移った。岡野さんに負けてはいられない。岡野さんも他の知り合いも滑り友達だがやはりライバルだ。お互いを意識した方が上達しようという意識が強く働く。特に慶市は負けず嫌いだった。誰にも負けたくない。俺がやるからには。慶市は本気でトップを狙う意気込みでスケートに挑んだ。もう後戻りはできない。
今日の練習を終えると。夕方の六時になっていた。リンクに来たのが昼頃だったから約六時間か。製氷時間と休んでいた時間を抜いて五時間。まああこんなもんだろう。慶市は満足して靴を脱いだ。そしていつものようにアミノバイタルを飲む。スケートを始めてから筋肉痛と疲労がひどかった。スケートをする日は、始める前と後と眠る前に、アミノバイタルを飲んでいた。これを飲むと筋肉痛が殆ど翌日に残らなかった。
慶市は車に乗り込み、今日は家には向かわない。女と会う約束をしていた。イタリアンレストランを予約してある。女のアパートの前で車のクラクションを鳴らす。女がすぐに出てきた。
「もう超久しぶり。なんでずっと会ってくれなかったの?」
「忙しかった」
「何やってたの?」
「アイススケート」
「何それ、子どもの遊び?」
「俺は本気だ。フィギュアスケート始めたんだ。来年には大会にも出るつもりだ」
「そうなんだ。よかったね、本気になれるものが見つかって。慶市ずっといらいらしてたもんね。私知ってたよ。慶市が必死で夢中になれるものを探してたこと」
「ああ」
「よかったね」
そう言うと里佳は慶市にキスしてきた。
「一生懸命な慶市好き」
甘く囁いた。慶市は里佳の気持ちを体で受け取って、抱きしめた。
「ありがとう。お前にはいつも悪いな。苦労ばっかりかけてな」
「いいの。そういう慶市が好きなんだもん、私」
慶市はもう一度里佳にキスをして激しく舌を入れる。
「駄目よ。ここじゃ」
「したいんだ」
「わかった、好きなようにして」
慶市はキスを貪るように続けた。
「飯行こうか」
慶市は言い、車のアクセルを吹かした。
予約したレストランは殆どカップルで満席だった。味が評判の店だ。ナポリ風のピッツアを頬張る。
「すごい食欲」
里佳があきれる。
「ああ、運動してきたからな。後二時間もしたら里佳とまた運動しなくっちゃならないからスタミナ付けてる」
「バカ」
里佳がワインのせいではなく顔を赤くする。
その夜二人は熱く燃え上がった。
「どうしたの。今日の慶市すごい」
「ああ」
「すごい。もう駄目」
慶市は攻め続ける。
「ああぁ」
里佳が凄い声を上げた。里佳の膣が痙攣している。慶市は追うように射精した。里佳の体の上に体をかぶせるようにぐったりとした。
「好き」
里佳が慶市にキスしながら甘い声で言う。
「俺も里佳が好きだ」
やさしく里佳の体を撫でながら言った。
「ジュースか何か飲むか?喉からから」
慶市が言うと、
「私も」
里佳が言う。
冷蔵庫からポンジュースのボトルを持ってきて、慶市はぐびぐびと飲み込む。里佳に渡すと、両手でボトルを持ちごくごく飲んでいる。
「おいしい」
もう一度キスをしてセックスをした。セックスの後のことは憶えていない。二人とも意識を失うように泥のように眠った。起きたら朝の八時だった。慶市は着替えた。里佳が、
「行くの?」
「ああリンクへ行ってくる。鍵はいつものところに置いておいてくれ。来週は多分平日にも会える。残業少なそうなんだ。携帯にメール入れるから」
まだ里佳は眠そうで、わかったと頭で頷く。
慶市は駐車場まで歩くと、車に乗り込みリンクに車を飛ばした。今日も三十度を超える真夏日だった。

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あの人

あの人は死にたいと、言った。だから私は止めはしなかった。だって本当にビルの上から飛び降りる勇気が、あの人にあるなんて思いもしなかったから。警察に聞かれた時も、そう言った。ちょっとケンカして、あなたなんか死んじゃえばいいと言ったこと。そしてあの人は部屋を出て行った。まさか死にに出て行ったなんて思わなかった。いつものように他の女の所に行ったのばかりと思っていた。大体私が原因で死んだのだろうか。私はあの人の女の一人に過ぎない。悲しい。悲しい。なぜあの人の死がこんなにも私を哀しくさせるのだ。あんなに私を苦しめたあの人の死を、私はどこかで望んでいたではないか。望んでいたではないか。嘘はつかせない。あの人を憎んでいた自分を。それは愛だった。憎む程、殺したい程、私はあの人を愛していた。今こそ認めよう。あの人を私は罵倒ばかりしていた。でもそれは愛していたから。あまりにも愛していたから、私はあの人に求め過ぎた。あの人は私の愛を怖がった。あんまり私の愛が強かったから。あの人は弱い人。何かあるとすぐ別の女のところに逃げ込んだ。そこで優しくされて安心していた。そのくせそこでは満足できなかった。ここまであの人を理解していながら、私はあの人を死なせてしまった。あの人の弱さを知りながら。私はなんとかしてあの人を守らなければならなかった。それは私の使命であり義務だった。誰も強制はしないけれど、私が自分に課した義務。一番大事な義務。私はそれを怠ったのだ。私は一生後悔するだろう。あの人を失った事を。でもそれはしかたがないこと。あの人はもういないのだから。私があの人を思い続けないで、誰があの人を愛し続けるというのだろう。今こそ言おう。心の底からあなたを愛していました。尊敬していました。結婚したいと思っていました。どんな反対があろうと。ずっと愛していました。心の底から愛していました。

shiroyagiさんの投稿 - 04:39:20 - 0 コメント - トラックバック(0)

同級生-5-

勇作は英語が得意だった。理由は簡単。中学時代から洋楽のロックを聴き込んでいたので、耳から英語を覚えた。歌詞カードと音楽を聴き比べた曲は、何百曲にも達している。デビッド・ボウイ、イギー・ポップ、ザ・ドアーズ、サイケデリック・ファーズ、ザ・クッラッシュ、ジャム、セックス・ピストルズ等、挙げたら切りがないからこの辺で止める。だから英語の成績は抜群に良かった。文法は嫌いだったができたから問題はない。なんと言っても発音がいい。多分耳がいいのだろう。ネイティブに近い発音は、英語教師の山岡より上だった。山岡は勇作を避けていた。自分より明らかに発音がいい勇作には授業中指を指さない。それに勇作の明らかに山岡をバカにした態度が許せなかったのだろう。勇作は読書も好きだったので、大概の小説は原文で読んだ。その後、分からなかった細かい所を理解するため、訳書を読んだが、雰囲気で読む原文の方が、作品を純粋に楽しめた。
そんな勇作がTOFLを受けた。勿論自身があった。が結果は惨敗と言うか試合放棄だった。問題を読んだ瞬間、勇作は怒りが込み上げてきた。こんな文章が理解できて、海外での生活で何の役に立つんだ。俺の語学力なら今ロンドンに住んでも生活には困らないことを知っていた。が、TOFLの問題は、ロンドンで生活するのに別に必要のないことばかり聞いてきた。試験の途中で、勇作はやる気を失くした。問題用紙の余白に、ロックの歌詞を考えて書いていた。I'm a Rock。題名を書いた。書いている途中で試験時間が終わり、歌詞を書いた紙は回収された。別に良かった。たいした詞じゃなかった。いつでも書ける。勇作は試験会場を出ると、CD屋に行った。気になっているバンドの新譜が出ているはずだ。要Check it out!勇作は呟いて、店に入った。CDを探していると、クラスメイトの千鶴がいた。邦楽のコーナーで試聴している。勇作は声をかけようか迷った。千鶴とは入学初日以来話していなかった。まあ会えばおはようって言った位か、よく覚えていない。千鶴がヘッドフォンを外し、CDを手に取ってこっちに歩いてきた。目が合った。千鶴は口を英語のOの発音の形にして、こっちに駆け寄ってきた。「阿部君じゃない。CD買いにきたの?」
「違う。万引きしにきた」
千鶴が一瞬あぜんとして笑った。
「超受ける。阿部君てギャグのセンス抜群だよね。最初からそう思ってた」
「そうか。そんなこと言うの瀬戸だけだぜ」
「そうかなあ。みんなセンス悪いなあ」
「お前何CD買うんだよ?」
「じゃーん。松たか子でーす」
「松たか子は日本人の中じゃ結構いいよな。ドラマの逃亡者の主題歌だった『時の舟』ってあったじゃん。あれ好きだったな」
「やっぱり阿部君センスいいよ。ギャグだけじゃない」
「服のセンスは?」
「超ダサイ」
「なんだよ。ミュージシャン風はバツか?」
「バツ。小奇麗な格好したら似合うのに」
「俺はこれがいいの。俺は自分の好きな格好をする。流行は関係ない」
「かっこいいこと言っちゃって。似合わないよ。阿部君三枚目だもん」
三枚目か、そう言われて、言い返す。
「俺これでもバンドでギターやってんのよ。バンドでギターって言えば、ヴォーカルの次にモテる訳。わかる?」
「で、モテてんの?」
「いや、全然」
「やっぱり。でもモテなくっていいんだよ。たった一人の人に愛されればそれで充分なんだよ」
「そうかあ。俺は女はべらかして、両手に花っていうのやってみたいな。ミュージシャンとして」
「自分としてはどうなの?」
「うん、興味ない。俺が好きでそいつも俺が好きならそれで充分だ。絶対そいつを離さない。そいつを幸せにしてやる」
「かっこ良すぎます。で、相手はいるの?」
「只今募集中」
「よかった」
「何がいいんだよ。全然よくねえ。早く運命の人に会いたいぜ」
「案外近くにいるってこともよくある話よ」
「どこに?」
「ここに」
「どこに」
「ここに」
「瀬戸が?ありえねえ」
「わあ、傷つく。傷つきやすい乙女をつかまえて」
「どこが乙女じゃ。この貞子がっ」
「ひどい。だったら阿部君はのび太。ドラえもんの」
「なんじゃそりゃ?じゃあ瀬戸はしずかちゃんか。お風呂覗かれちゃうんだよな。なんでいつもしずかちゃんって昼間から風呂入ってるんだろ」
「マンガなんだからいいの。のび太君」
「のび太はやめろ」
「ハイハイ。阿部君でしたね」
「俺はもう少し店を見てくけど、瀬戸は?」
「私は帰る。夕飯作らなくちゃいけないの」
「親いないのかよ。ううん。今日は私の当番なの。メニューはサバの味噌煮。渋いでしょ」
「うまそうだな。食いに行こっかなって冗談だよ」
「分かってる。ハイハイ。切りがないから、私帰るね。バイバイ。明日学校で」
「ああ、バイバイ」
二人は別れた。勇作は一人になると少し物寂しさを感じた。CDの棚を見ながら歩きながら、瀬戸のことを考えていた。変な奴。でもいい奴だな。勇作は結局何も買わずに店を出て、通りに消えていった。

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2005-03-02

山泉

甲州街道を高尾山方面に向かって、千人町を越えた辺り、右側にある手打ち蕎麦屋です。蕎麦を打っているところが見ることもできます。うどんもあり、昼にはランチの御膳もあります。デザートには葛きりがお勧めです。

shiroyagiさんの投稿 - 23:13:49 - 0 コメント - トラックバック(0)

ラ・パーラ

ニュータウン通り、多摩市中沢にあるイタリアンレストラン。本格的なピッツァとパスタ、イタリア料理が楽しめる。味はお約束します。予約を入れないと、席はまず空いていませんので、まず店に一報を入れてください。

shiroyagiさんの投稿 - 23:08:36 - 0 コメント - トラックバック(0)
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