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2005-04-23

パンプスムース!

江國香織文・いわさきちひろ絵『パンプスムース!』を読む。優しい江國さんの詩に、やさしいいわさきちひろさんの絵が、素敵な小さな絵本。子どもから大人まで喜べる、かわいい絵本です。

shiroyagiさんの投稿 - 18:36:39 - 0 コメント - トラックバック(0)

レキシントンの幽霊

村上春樹著短編集『レキシントンの幽霊』を読む。七編の短編全てが秀作。個人的には「沈黙」「氷男」「七番目の男」、最近映画化もされた「トニー滝谷」が気に入った。七編のうち四編を挙げたら、お薦めの意味がない。それほど秀作揃い。村上春樹入門の一冊としてもお勧めします。

shiroyagiさんの投稿 - 18:34:54 - 0 コメント - トラックバック(0)

チョコレート・アンダーグラウンド

アレックス・シアラー著『チョコレート・アンダーグラウンド』を読んだ。もしこの世でチョコレートや甘いものが禁止されたらあなたはどうしますか。主人公の少年スマッジャーとハントリーの二人は隠れてチョコレートを密造し密売します。そして自由を勝ち取るための戦いをします。あなたもスマッッジャーとハントリーの二人と一緒に、勇気を持って自由のために冒険活劇の旅に出てみませんか。

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おぞましい二人

エドワード・ゴーリー作・絵『おぞましい二人』を読む。大人のための絵本だ。実在の殺人鬼の夫婦の物語を淡々と描いている。最初のページの二行を読んで、その世界に強引に引き込まれて行った。緻密な絵がまた上手い。言葉はいらない、ぜひ読んで欲しい一冊だ。

shiroyagiさんの投稿 - 18:31:03 - 1 コメント - トラックバック(0)

2005-04-15

歴史講座

父の死因は癌だった。闘病生活は五年に及んだ。地域の病院から癌専門の病院へ移ったのが、死ぬ二年前だった。父は既にその頃ベッドから起き上がるのが困難で寝たきりでいることが多かった。その頃から痛み止めのモルヒネも増えていった。そんな父を家族が交代で二十四時間介護した。
或る晩、父は二度目のモルヒネ注射でぐっすりと寝入っていた。私は安心して仮眠をとることにして、仮設ベッドに横になった。その時だった。突然父がむくりとベッドから上半身起き上がり、喋り始めた。その内容に耳を澄ますと、なにやら歴史の講義のようであった。念のため言っておくが、父は教師ではない。医療関係の職業に就いていた。ただ父が歴史が好きなことは知っていた。父の本棚を眺めると、司馬遼太郎や司馬遷、吉川英治の本がずらりと並んでいた。もしかしたら父は一度も口に出すことはなかったが、歴史の先生になりたかったのかもしれない。父は延々と歴史の講義を続けた。

「みなさん。歴史の話などというと堅苦しい様に聞こえますが、実際はそんなことはまったくありません。話が退屈だと心配されている方はどうかご安心ください。実際歴史等と硬い言葉で言いますが、要するに歴史などというものは、昔の人々の生活なのです。私たちが今こうして毎日生きているように、昔の人達も同じように生活していました。それが歴史の本質なのです。だから念を押すようですが、みなさん、私の話が退屈だなどと心配しないでください。歴史は先程も申したように、私たちと同じ人間の生活なのです。ただそれの時代が異なるだけであって、本質は変わらないのです。人間の生活などというものは百年や二百年で変わるものではありません。だから基本的に私たちがこうやって日々毎日生きているのと変わりはないのです。ですからみなさん、これから始まる私の話が退屈などと絶対思わないでください。きっとみなさんが聞いてよかったと思えるように分かりやすくお話しますので、その点だけはご安心ください」
こうやって父の歴史の講義が始まった。それは午前二時頃から五時頃までに及んだ。私は父がぼけてしまったのを知りながら、少し涙ぐんだ。しかしその内容はとても興味深く、興味をそそるものであった。それは父の知識の範囲を超しているように思えた。内容は多岐に渡った。古代エジプトからユーラシア大陸、日本、とりわけ日本史の話は面白かった。それが本当の事実の事かは、私が歴史に詳しくないのでわかならい。ただ話に惹き込むストーリーテリングの魅力に取り憑かれた様に、父の話に聞き入った。
「みなさん。どうも長い間私の話を聞いてくださってありがとうございました。ですが今日の話はきっとみなさんのこれからの生活に役立つと私は信じています。私はそのために今日急がしいみなさんの前で一見何の役にも立たない歴史などというものを話したのです。どうかその事だけは忘れないで下さい。では私はこれにて失礼します」

父は講義を終えると、ぱたりと横になってすーすーと寝息を立てた。私は複雑な思いで父を見つめ、布団をかけた。
翌朝、父が目を覚ましたのを見計らって、私も仮眠ベッドから起き上がった。と言っても一睡もしてしない。私は父に話しかけた。
「おはよう」
父はのそりと起き上がり、
「どなたですか」
と言った。私は覚悟していた言っても、来るべき時が来たのを悟った。
「息子の孝だよ」
「孝はそんなおじさんじゃない。孝はまだ小学校一年生だよ。どなたですか」
私はもうそれ以上押し問答をするつもりはなかった。
「親戚のものです」
「今まで会った事ありませんね」
「いいえ。小さい頃によくかわいがってもらいました。おじさんはきっと覚えていないと思いますけど」
「そうですか。それはそれは。よく来て下さいました。ゆっくりしていってください」
「はい。そうさせてもらいます」
病室の窓から、朝の光がカーテン越しに差し込んでいた。美しい朝やけだった。

shiroyagiさんの投稿 - 11:45:11 - 0 コメント - トラックバック(0)
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