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2006-12-25

シャトー-千絵ちゃんとぼく-

ぼくは千絵ちゃんとクリスマス・イヴを楽しく過ごした。
赤ワインに子牛のテリーヌを食べた。
夜11時にベッドに入り、朝まで並んで眠った。
ぼくの方が早く目が覚めた。
午前6時30分。
ぼくは千絵ちゃんが目を覚ますまで、じっと待った。
けれども、千絵ちゃんは朝10時になっても目を覚まさなかった。
ぼくは心配して、千絵ちゃんの左胸に耳をあてた。
鼓動はあった。
ぼくは試しに、千絵ちゃんの唇に口をつけた。
千絵ちゃんはむくりと目を開けた。
ぼくはびっくりした。
「死んでたのかと思ったよ。心配したんだよ」
「えへ。心配させようと思って、ずっと寝たふりしてた」
「ばか」
「眠り姫よ」
「ぼくは王子様だね」
「そう。お姫さまと王子様。ふたりは幸せにお城で暮らすの」
「いいね。今度、yahooオークションで城を探してみよう」
「それ、いいね。出品されてるかな」
「きっとあるよ。どこかの暇な富豪が出品してるよ」
「かもしれないね。探してみよう」
MacBookのブラックを起動させて、yahooオークションで、「城」と入力して、enterキーを押した。
出てきた。
ドイツのロマンティック街道のライン川沿いの小さなお城。
1円で出品されていた。
最高入札額を100円で、入札した。
翌日、クリスマスの12月25日。
ぼくと千絵ちゃんは、横浜の中華街でフカヒレを食べた。
家に帰り、yahooオークションを覗いた。
お城の入札額が更新されていた。
なんと10万円。
ぼくは10万千500円で入札した。
オークション終了まで、後5分。
chinbonneと言う入札者が10万2千円で入札してきた。
ぼくは興奮して、10万5千円で入札した。
そして、オークションは無事終了。
落札者はぼく。
ぼくと千絵ちゃんは、一国一城の主になった。
そして、ぼくと千絵ちゃんは、ハイデルベルグの古城に移り住んで、生涯を終えた。
その城の跡には、今はワイン醸造所ができていて、観光名所になっている。
城の隅には、小さなぼくと千絵ちゃんの墓が建っている。
そこには、WE LOVED TOGETHER TO THE DIE、と刻まれてあった。
その事を知る人は殆どいない。
みんなぼくと千絵ちゃんが育てた葡萄畑からできたワインを飲んで帰っていく。
ぼくはそれはそれでいいと思った。
みんながぼくたちのの城を愛して、訪ねて来てくれる。それだけで、充分だった。


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2006-12-24

大聖堂-千絵ちゃんとぼく-

ミサに参加するために、フィレンツェの大聖堂に行った。
既にひとが集まっており、厳かにミサは始まった。
2006年12月24日。
ぼく手袋をして、ドウモに向かった。
ドウモの前で、友だちのケイちゃんと待ち合わせていた。
午後6時。
ケイちゃんは、時間ぴったりに現れた。
静かにドウモの扉を開けて、1番後ろの方の木の椅子に座った。
椅子は冷たく冷えていた。
ぼくはケイちゃんの椅子にハンカチを敷いた。
膝には、ぼくのコートを掛けた。
それでもケイちゃんは、ぶるぶると震えていた。
厳粛にミサは始まった。
祈り、アーメン、と口にする。
神の御心のままに。
キリストが神の御心に従い、その運命を全うしたように、わたしも人の子としての覚悟はある。
啓示が降りれば、神のためになら、なんでもする。
傷害や詐欺、万引き、強盗の類い以外のことならば。
金貸しを殺すことだって、ドストエフスキーではないけれど、やりかねない。
そんなことを考えながら、頭を下にしていた。
神父が募金を募りにそれぞれのところにやって来た。
わたしはありったけに金、財布に入っていた3万8千9百4拾円を財布ごと、籠に入れた。
神父は何も言わずに受け取った。
その金が、やましいもので、その財布が、今朝殺した老婆のものだと知ったら、どう思うだろう。
わたしは良心の呵責に苛まれながら、聖歌を歌った。
SILENT NIGHT を歌って、心が清らかになるのをを感じた。
今朝、殺人を犯した者の懺悔の聖歌。
歌声はなんと狂気沁みていただろう。
立っているのいがやっとだった。
ミサは無事終了し、私はドウモを出た。
フィレンツェの街は、いつもの喧噪とは異なって、静寂だった。
道には、昨日降った雪の跡が残っていた。
わたしは雪道を1歩1歩踏みしめながら、ドウモから10分程離れた自分の住むアパートメントに帰った。
ひとり七面鳥を食べ、赤ワインを飲んだ。
国際電話で、シンガポールにいる千絵ちゃんに国際電話をかけた。
MERRY CHRISTMAS。
ふたりの間で、同じ言葉がやりとりされ、電話を切った。
今度、ふたりで会うのは、12月31日。
ギリシャのアテネ。
ぼくの誕生日1月1日と、千絵ちゃんの誕生日1月2日をふたりで祝うために、お互いの住む処の中間地点で会うのが、毎年の恒例だ。
2007年1月1日、ぼくは37歳になり、1月2日、千絵ちゃんは33歳になる。
来年の5月にふたりは結婚して、東京に戻る予定だ。
東京での生活は勤め始めて、5年後以来なので、8年ぶりだ。
東京もさぞ変わったことだろう。
ニューヨーク、パリ、ロンドンに続き刺激的な街とも言われる東京。
とりあえずは、観光客気分で京都と奈良に行ってみよう。
それはきっと素敵な体験だと思うから。
千絵ちゃんとふたりで、哲学の道を歩けるなんて、ああ、いい気分だ。
それまでに、今の仕事を整理して、他のひとに引き継がなくてはならない。
もう少しがんばろう。
クリスマス・イヴの夜、ひとりでワインを口に傾けながら、小さく囁いた。MERRY CHRISTMAS、千絵ちゃん。
今頃、ぼくが送ったプレゼントをクリスマスツリーの木の根に置き、クリスマス・カードを読んでるかもしれない。
そう考え出すと、今にもシンガポールへ飛んで行きたくなった。
雪が降ってきた。
今夜は冷えるぞ。
ぼくは暖炉に薪をくべると、葉巻を吸いながら、暖炉の火をひとり見つめた。


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2006-12-23

常世-千絵ちゃんとぼく-

ぼくは、『ブレードランナー』を観た。
ハリソン・フォードが格好良かった。
ルトガー・ハウワーも良かった。
リドリー・スコットは、『トゥルー・ロマンス』も最高だ。
ぼくは家の42インチのテレビで、千絵ちゃんとDVDを観た。
すぐに眠ってしまった。
夜中に目を覚ました。
喉が渇いていた。
アクエリアスのペットボトルを一気に飲み干した。
朝まで眠った。
朝、ベッドから起きると、千絵ちゃんはもう赤坂のオフィスに出勤した後だった。
ぼくは、目覚ましに黒ビールをひっかけた。
目が覚めると、PCのPHOTOSHOPを起動させて、仕事をこなした。
昼飯に、バビ・グリンを食べた。
豚肉は辛くて最高に美味しかった。
バリ島で食べたのと同じ味がした。
ぼくはバリ島に行きたくなって、飛行機のチケットを予約した。
いつもの宿、ニョマン・カルサ・バンガローズ。
14泊15日の旅。
千絵ちゃんは、スカルノ・ハット国際空港で、トランジットした時に、空港で迷子になった。
ぼくは放送を流してもらい、千絵ちゃんを探した。
見つからなかった。
ぼくはひとりでバリ島のウブドに入った。
千絵ちゃんはなんと先に宿に入っていた。
「驚いた。なんちゃって」
「ばか。心配したんだぞ。どうやって来たんだ」
「ひとりで、タクシーに乗って来た」
「もう。何やってんだか」
ぼくは怒ったが、千絵ちゃんは一向に気にしていなかった。
仕方がなく、そのまま、その夜はキング・サイズのベッドでふたりで眠った。
翌朝、目を覚ますと、一面が田園風景だった。
静かな朝だった。
朝ご飯が運ばれてきた。
ぼくと千絵ちゃんんはテラスで黒米のお粥を食べた。
ふたりで自転車を借り、近所を散策した。
子どもたちが川で泳いでいた。
ぼくと千絵ちゃんも水着になって、泳いだ。
喉が渇いた。
ぼくはパパイヤの木の根っ子に眠る老人を起こして、パパイヤの実を取ってもらった。
ぼくと千絵ちゃんはパパイヤの実を食べた。
すごく甘かった。
近くを歩くと、ドリアンの独特の匂いがした。
ぼくは無性にドリアンが食べたくなった。
ぼくはドリアンの木に登り、ドリアンの実をふたつ取った。
ひとつを千絵ちゃんに渡した。
千絵ちゃんは鼻が曲がるような顔をして、ドリアンを捨てた。
ぼくは、
「こんなに美味しいものを、もったいない」
「こんな臭いもの、よく食べられるね」
「大好物」
「信じられない」
ぼくはドリアンの実をふたつ平らげた。
お腹が痛くなった。
ぼくは近所の民家のトイレを借りた。
下痢はすぐに治まった。
帰りの飛行機は、夜10時出発だった。
ぼくは免税店で、セブンスターを2カートン買った。
千絵ちゃんにも2カートン買ってもらった。
ぼくはご機嫌で、空港の喫煙所でクーラーを浴びながら、セブンスターを吸った。
日本に着いたのは、朝11時だった。
ぼくは疲れていた。
六本木の自宅に帰ると、速攻でベッドに入り、眠った。
起きると、真夜中だった。
千絵ちゃんは、隣でぐっすり眠っていた。
ぼくは千絵ちゃんを起こさないように、ベッドから出ると、インスタント・ラーメンを食べ、『ブレード・ランナー』を観た。
面白かった。
ぼくはレプリカントと闘った。
千絵ちゃんはレプリカントに負けて死んだ。
ぼくはなんとかレプリカントに勝ち、千絵ちゃんを弔った。
弔いの墓は高尾山の麓に立てられた。
ぼくは毎朝、千絵ちゃんの墓に菊の花を供えた。
夢の中に千絵ちゃんが現れ、
「もう花は要らないから、早くわたしのところへ来て」
ぼくはその晩、伊豆の別荘でガス自殺した。
そして、千絵ちゃんのところへ逝った。
幸せだった。
もう、ふたりを引き裂く者は誰もいなかった。
ぼくは常世で、永遠の永遠に千絵ちゃんと暮らした。
これ以上、幸せなことはなかった。
ぼくは死んで、初めて愛の偉大さ、愛の深さ、生きていることの素晴らしさを知った。
千絵ちゃんはもうぼくから離れることはない。
そう思ったら、ぼくは気持ちよく成仏した。


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2006-12-20

満天の星-千絵ちゃんとぼく-

ぼくは夜中に目を覚ました。
深い夜の中で、ぼくは1本の煙草を吸った。
煙草の火は、火山のように赤く光った。
ぼくは地面に煙草を揉み消した。
火が周りに飛び散った。
ぼくは溶岩のように散らばった火の粉を、ひとうひとつ消して行った。
部屋に戻ると、ぼくは、カーペンターズをオーディオに入れた。
Macで作業しながら、カーペンターズを聴いた。
トップ・オブ・ザ・ワールドでしんみりして、ベッドで横になった。
イエスタディ・ワンス・モアで、涙を流した。
横に眠る千絵ちゃんが、そっと涙を拭いてくれた。
ぼくはお礼に、千絵ちゃんの桃色の頬に口をつけた。
千絵ちゃんは、ううん、と声を発して、ベッドを整えて、また眠った。
朝が来た。
ブライター・デイ。
ぼくは朝焼けの広場で、ラジオ体操をした。
第2まで体操した。
ぼくは家に戻ると、キッチンに入り、スクランブル・エッグで朝食を摂った。
千絵ちゃんがベッドから起きて来たので、もうひとり分のスクランブル・エッグを作った。
ふたりでコーヒーを飲みながら、昨夜見た夢の話をした。
ぼくはラクダにに乗って、砂漠を旅した話をした。
千絵ちゃんはサンリオ・ピューロランドで、キティちゃんと握手したんだって。
ぼくは食後に、ラムレーズンのアイスクリームを冷凍庫から取り出して、ふたりで、シェアした。
ぼくは家で仕事を。千絵ちゃんは赤坂の事務所に働きに出て行った。
12時に、ぼくはパスタを作り、千絵ちゃんは事務所の近くの喫茶店でランチ・セットを食べた。
千絵ちゃんは定時に仕事を終え、丸の内線で家に帰ってきた。
まだ時間が早かったので、ふたりで星を見に行くことにした。
八ヶ岳の別荘まで、車を飛ばした。
空は、満天の星空だった。
ぼくと千絵ちゃんは、丘の上の野原に寝転び、オリオン座を眺めた。
星に吸い込まれそうな錯覚がした。
お腹が空いて、ぼくは近所のレストランに行った。
魚のマリネとカボチャ・スープ。食後に、エスプレッソとティラミスを食べた。
帰りの車の中で、千絵ちゃんはぐっすり眠ってしまった。
ぼくはブランケットを千絵ちゃんの膝の上に掛けて、高速道路を走り抜けた。
真夜中。
ぼくは家に着き、千絵ちゃんを抱えて、部屋に入った。
部屋の中には、ぼくのセブンスターの煙草の匂いが立ちこめていた。
ぼくは千絵ちゃんをベッドに寝かすと、ひとりで、スタンリー・キューブリックの『時計仕掛けのオレンジ』を観た。
刺激的だった。
ぼくはドトール・コーヒーで買ったWALKERSをかじりながら、DVDを観た。
途中で寝てしまった。
ぼくは千絵ちゃんの隣で、深い寝息を立てて眠った。
それはなんと幸せな時間だっただろう。
千絵ちゃんはもうこの世にいない。
1年前、急性白血病で死んでしまった。
髪の毛が抜け落ちて、そんな千絵ちゃんをぼくは見ていることができずに、ぼくは病室には姿を見せなかった。
千絵ちゃんは、ある秋の深夜に静かに息を引き取ったそうだ。
ぼくは千絵ちゃんの墓がある高尾山の麓に居をかまえた。
毎朝、千絵ちゃんの墓参りを欠かさなかった。
今でもぼくは忘れない。
あの八ヶ岳で見た、満天の星空。
その時、一筋の涙がぼくの目の裏側から流れ落ちたことを。
ぼくはその時既に、予感していたんだ。
千絵ちゃんともうすぐ別れなくてはならないことを。
だから、ぼくは千絵ちゃんと、今を一生懸命生きたんだ。
悔いは無い。
ぼくにとっての半身。
千絵ちゃんがいなくなった今、ぼくのレゾン・デートルはどこにもない。
だから、ぼくは1人で隠遁生活を始めた。
やがて、その庵で、ぼくは息を引き取った。
誰もぼくの死を知る者はいなかった。
両親はもちろん、親戚も皆、死んでいたから、ぼくの死が、発見されたのは、死後10年。
たまたま、登山に来ていた大学生が発見した。
ぼくの遺書に基づき、ぼくの遺骸は千絵ちゃんの墓の中に一緒に納められることになった。
こうして、ぼくと千絵ちゃんはやっと一緒になることが出来た。
ぼくは神に感謝する。
この地球に、同じ時間に、千絵ちゃんと巡り会えたことを。
だから、ぼくは後悔はしない。
2度と千絵ちゃんと離れることは無いことを知っているから。
ある冬の日。
墓の下でそう思った。
きっと千絵ちゃんも同じだろう。

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2006-12-18

ララバイ-千絵ちゃんとぼく-

ぼくは、Peace and Christmas 2006を観に、いちょうホールへ行った。
その日は、小春日和でいい陽気だった。
友だちの、ラモナ・コルソン・渡辺さんが、ソプラノ歌手として、ステージに上がった。
コンサートは、フォーレのアヴェ・マリアで始まった。
ぼくは感動した。情動の涙を、最前列中央の席で、ラモナさんに向けて、垂れ流した。
千絵ちゃんがピンク色のハンカチを貸してくれた。
ぼくは千絵ちゃんのハンカチで涙を拭った。
ぼくはハンカチを右手で握りしめたまま、コンサートを聴いていた。
コンサートの終わりに、みんなでクリスマス・キャロルを歌った。
Silent Night。
ぼくはそよそよと涙を流した。
隣の席に座る千絵ちゃんが、優しい眼差しで、ぼくを見つめていた。
ぼくは静かに、Silent Nightを歌った。
舞台の上のラモナさんにバラの花束を渡した。
ラモナさんは、何度も、ありがとう、ありがとうと、満面の笑みを浮かべながら、礼を言った。
ぼくは、頷いて、my pleasure、とラモナさんの耳元で囁いた。
ぼくは千絵ちゃんとふたり、手を繋いで、いちょうホールを後にした。
みずき通りのインドラで、キーマ・カレーをナンで食べた。
飲み物は、マンゴー・ジュースを飲んだ。
千絵ちゃんは、チャイを飲んだ。
インドラを出ると、ヨネザワに行った。
トラヴェリング・ウィルベリーズのvol.3を買った。
ジョージ・ハリスンとジェフ・リンとロイ・オービソンが奏でるハーモニーは美しかった。
ヨネザワの店内で、ぼくはペプシ・コーラを飲み、セブンスターを吸った。
ジミ・ヘンドリックスのレコード・ジャケットに、紫煙が舞った。
ぼくはジミヘンが大好きだった。
ウッド・ストックにも行った。
アメリカは遠かった。
ユナイテッド・エア・ラインのエアバス。
ぼくはスチュワーデスにスコッチのロックを頼んだ。
ファースト・クラス。
長髪にパンタロンのジーンズ。
10時間のエア・トリップ。
ぼくはそこで初めてドラッグを知った。
ジミヘンがぼくに、マリファナを手渡した。
ぼくは大きくマリファナを肺の中に入れた。
バッド・トリップ。
ぼくはダウナーした。
狂気がぼくを襲った。
千絵ちゃんが横で、ぼくの手を握っていた。
ぼくは狂気の底で、千絵ちゃんの愛を確かめた。
ぼくは千絵ちゃんと、ニューヨークのセントラル・パークを散歩した。
その時には、ぼくはドラッグ中毒から立ち直って、いっぱしのロック・ソングを書いていた。
ボブ・ディランが、ぼくの才能に目をつけた。
ぼくはボブ・ディランの紹介で、オノ・ヨーコに会った。
訳の分からない絵をアトリエで描いていた。
ヨーコはぼくのことを、気に入ったようだった。
ぼくはヨーコと握手して、別れた。
帰りの飛行機はJAL702便だった。
東京に着くと、真っ先に、靖国神社に参拝した。
英霊の眠るこの社にぼくの友だちが眠っている。
石碑にその名が刻まれている。
ぼくは彼を呼び覚ますように、叫んだ。
起きるんだ。ジョン。
2度と目を覚ますことのないジョンは無口だった。
ぼくは千絵ちゃんと千鳥が淵を散歩して、市ヶ谷で地下鉄に乗って家に帰った。
家に帰ると、ぼくはジョン・レノンのimagineを聴いた。
心に沁みた。
ぼくはそっと千絵ちゃんの小さな胸に手を当て、祈るように囁いた。
今日は一緒のベッドで眠ってくれないか。
千絵ちゃんは聖母マリアのような笑みを携え、頷いた。
ぼくは願いが叶い、心から神に感謝した。
そして、ぼくと千絵ちゃんは、ひとつ枕を共にして、深く眠り込んだ。
深い深い眠りの奥底で、ぼくは、ジョン・レノンに出会った。
ジョン・レノンはアコースティック・ギターを片手に抱え、beautifl boyをぼくのために歌った。
ぼくは、心が安らいだ。
とても気持ちがよくて、ぼくは雲の上に浮かんでいるような気持ちがした。
それ以来、ぼくはジョン・レノンに会っていない。
何度、ジョンの歌声をレコードで聴いても、ジョンはぼくの前に現れてはくれなかった。
その事をぼくは嘆き、ぼくはひどくふさぎ込んだ。
心配した千絵ちゃんがぼくのために、白湯を煎れてくれた。
ぼくはそれを冷ましながら、時間をかけて飲んだ。
そして、ベッドで横になると、夢の中に落ちて行った。
2度と浮かび上がることのない、甘くせつないreveだった。
ぼくは次の日、セントポール寺院で、結婚式をあげた。
100人の友人知人がぼくと千絵ちゃんの幸せを祝うために、集まってくれた。
ぼくは、そのひとりひとりと感謝の握手を交わした。
その日のことは、今でもはっきと憶えている。
あれはそう。千絵ちゃんと約束して3日目のことだった。
今でも、ぼくは千絵ちゃんと、幸福な家庭を保っている。
子どもはふたり。男の子。
ジュリアンとショーン。
ぼくはふたりのために歌う。
beautifl boy。
かつて、ジョン・レノンがぼくのために歌ってくれたように。
ぼくは、ジュリアンとショーンのために、ララバイを歌う。
その光景はあまりに美しく、絵には描けないものだった。
美しい夜の物語。
始まりが今、始まろうとしている。

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