2008-02-20
Long &Sleepless Night
眠れなかった夜東から昇る朝日に
赤い目で、おはようと言おう
AM5:30
まだ日は昇らない
明るくなったら
ベランダに出て一服でもするだろうに
空腹の身を抱えて、朝を待つ
仕方なく、ヴォルヴィックを喉に流し込む
眠れない問題
自ずと我が知っている
内に抱えるCaseの重要さに
君は、そしてぼくは気づいているのだろうか
もし君が無垢のままだったら
ぼくは君の純真さに跪く
知ってしまった哀しみは
無垢なるEveである君を
ぼくの肋骨をもってしても
土から形を成すことはできない
神は夜を作り、人に眠れとのたまわった
バベルに君臨する支配者は
神を畏れず、天上に城を築く
それもこれも、眠れぬ夜の戯言
聞くひとも読むひとも無いこのカオスに
おれはなんと顔を向けよう
ああ、日輪の鐘が鳴る
一本の煙草を持って、外を徘徊する
酒を飲むには、遅すぎる
せめてバッカスの恵みに煽られれば
この一時のLong &Sleepless Nightを愉快に過ごせるのに
あ。東の空が淡く白みががってきた
さあ。ベランダに出て、一服の快楽に耽るのだ
2008-02-19
焦げつく匂い
煙草を根元まで吸うフィルターが焦げつく
空を見上げる
夕暮れの空
東の方角に月がうっすらと出ている
この月を誰かも見ているのだろう
峠を越えるその時
富士山が見えるか
毎朝確認するように
バックミラーは映しだす
白く雪に覆われた富士の山
秩父山系
こうして朝が始まり
暗くなった空の下
根元まで吸った一本の煙草と共に
夜は更け
わたしは眠る
2008-02-15
手ぶくろに想う
ヴァレンタインデイ。初めてのデート、寒い夜だった。少女は男の子と、公園の観覧車に乗った。
少女はベージュ色のコートの裾を捲り、ピンクの手ぶくろを取った。
バッグの中に手を入れ、夜を更かして作ったチョコレートが入った包みを取りだして、膝の上に置いた。
男の子の顔を見た。男の子は心上の空、遠く夜景を眺めている。
「きれいだね」
男の子が言うと、少女の方を振り向いた。笑顔だった。
少女はその日、自分の中で、心が初めてときめいたのを、小さなその胸の奥、鼓動が速く高鳴るを知った。
わたし、この人が好きなんだ。その時初めて思ったように。
少女は躊躇うことなく、膝の上の包みを手に取り、
「初めて作ったから、自信ないけど・・・」
男の子の顔の表情がぱっと明るくなり、
「ありがとう・・・。ほんとのこと言うと、女の子からチョコもらうの初めてなんだ。ここで食べていいかな」
男の子はたどたどしく、ピンクのリボンを解くと、包み紙を丁寧に剥がし、折りたたんで、紺のピーコートのポケットに仕舞った。
箱を膝の上に置いて、蓋を持ち上げる。
「おいしい。口の中がとろけそう。今はひとつだけにしておくね。残りは家に帰ってゆっくり味わうから」
観覧車は、ふたりの永遠の時間をよそに、短く時間の環を1周し終えようとしていた。
観覧車が地上に降り、重力がふたりの間にふりかかった。
男の子が、少女の手を取った。
少女はためらったが、男の子はぎゅっと手を握った。
手は冷たかったが、次第に温もりに変わっていった。
ひとの温かさを初めて知った時間だった。
男の子は家まで送ってくれて、次に会う約束をして、その日は別れた。
少女は自分の部屋で、その日の余韻、しばし浸っていた。
ふと我に帰り、バッグの中を探った。
かじかんだ手が、バッグの内側に当って、擦れた。
手ぶくろが、片方見つからない。
少女は左の手ぶくろだけはめて、右手は男の子と結んでいたのだ。
バッグの中の物を全部出したが、手ぶくろは見つからなかった。
少女は気がつくと、男の子の携帯に電話を入れていた。
「ないの。手ぶくろが。きっと観覧車の中に忘れてきたんだと思う」
「大丈夫。明日、ぼくが取りに行ってくる。だから、今日は安心しておやすみ」
明くる日。夜まで待っても男の子からの連絡はなかった。
少女は男の子の携帯に電話をしたが、発信音が続くばかりだった。
その夜、少女は一睡もできなかった。
少女と男の子が会うのは、その夜が最後になった。
男の子は、その夜遅く、観覧車のある公園に行くと親に伝え、自転車で家を出た。
そして、自動車と事故に遭い、その短かすぎる命を失った。男の子の左手には、しっかりとピンクの手ぶくろが握られていた。
そのことを少女が知ったのは、男の子の母親からの電話だった。
あれから3年の月日が流れた。
少女はもう少女ではなく、ひとりの大人の女性になっていた。
ピンクの手ぶくろは、今でも彼女の机の引き出しの奥深くに仕舞われている。
毎年、その季節が近づくと、かつて少女だった彼女は、今でも少年のままのその男の子のことを、思いだす。
眠れない夜には、引き出しを開けるみることもあった。彼女と少年のイニシャルが縫われた手ぶくろに。手ぶくろを頬に寄せ、頬ずりしたあの寒い夜。
今ではもう遠く、記憶の彼方、彼女の思いでの中だけに生きている。
こんな物語りを書いてみたくなった、2月の夜。
C.Mさん 「ハピ・エンディングじゃなくて....申し訳ないです w
2008-02-13
手袋に想う
駅の改札を入り、階段を下りていると、右隅に黄色い小さな手袋がひとつ落ちていた。目線を上げ、前を見ると、小さな女の子が階段を三段跳びでかけ降りていた。わたしは、女の子の手を見た。
女の子は、両方の手に赤い手袋をしていた。女の子は暗い通路を右に曲がって、消えていった。
わたしは、横目で枯れ葉のような手袋を眺めながら、階段の隅に忘れ去られた小さな黄色い手袋をそのままに、そこを去った。
持ち主を失った手袋は哀しい。
失くされた瞬間、今までどんなに愛されていようが、他人から見れば、ただの塵同様に扱われる。人混みに流され、かつては愛おしくも愛された手袋は、足蹴にされ、ひどく汚い物のように汚れる。
駅に落とし物の届け出をされることもなく、手袋は深夜の清掃で、ちり取りの中に終われる。
雪ならば、いつかは溶けて無くなるだろうに。
手袋の不憫なこと。
片方を失った手袋に用はない。
愛着を、小さいだろうもみじのような手は、その感触を、冷たさで知ったはずだ。ジャケットに片方の手だけ入れながら。
今ごろ、そのもみじのような手は、なくした物の大きさに、大きな眼から溢れ出る涙を拭いているかもしれない。
そのように、一夜でも深く愛されていたことを知れば、かつて手袋と呼ばれた塵は、よろこぶだろうか。
わたしには分からない。だから答えることもできない。
せいぜい、その子に新しいピンクの手袋を買って、今度はなくさないようにと、イニシャルのC.Kとでも赤い糸で縫ってあげることぐらいしかできない。大人にしてやれることは、こんなことくらいなのだ。
2007-12-22
フィギュア1
映画『俺たちフィギュアスケーター』の公開が始まった。コメディ映画だけれど、ぼくにとってはフィギュアは第2の青春だった。
体を壊すまでは毎週、週末になると、家から1時間弱のスケート・リンクに通っていた。
最初リンクに行ったのは、なんとなくで、インライン・スケートなんかもやっていたからだった。勿論フィギュアをテレビで見るのは好きだった。
でも、まさか自分がやるとは思っていなかった。と、言うか自分が始めるには遅すぎると思っていた。
ある夏の休日、初めてそのスケート・リンクを訪れた。
通年営業で夏場もそのリンクは開いていた。
ぼくは青いビニール製の貸靴を借りて、紐を結び、リンクに上がった。
アイス・スケートは、前に付きあっていた彼女と来て以来だったが、いい感じで滑れた。と思った。
そんな時、ある老年の男性が声をかけてきた。
「あんた筋がいいよ。教室に通うといいよ」
老人はそう言いながら、しなやかに滑って去っていった。
その老人は、ぼくが教室に通うようになってからも、色々と面倒を見てくれた。
新しいオオタスケートの靴を買ったのはいいけれど、足のくるぶしが死にそうに痛かった。
インストラクターの現役アイス・ダンス選手の時田先生に、靴を見てもらって、くるぶしの部分を広げてもらったりしていた。それでも痛みは軽減しただけだった。
それでも、フィギュアは続けたかった。
教室で、基本を学び、そしてターン、スピン、ジャンプを学んでいった。
いつしか、教室の他に個人レッスンも受けるようになった。
スリージャンプが一番好きだった。
もちろん、アクセルが目標だったが、転倒して、何度か脳震盪を起こし、記憶を失い、気がつくと、リンクサイドのベンチで、氷のうを頭に当てている自分がいるのだった。
不思議なのは、記憶を失っている間、仲間のスケーターたちと笑い話などをしていたらしいことだった。
後でその話を聞くと、全く記憶にありません、といつも言うのだった。
いつかはマスターズの大会に出たい、そう思いながら、アミノバイタルを飲みながら、1日7時間はリンクにいたと思う。
そんな矢先、前から患っていた持病が悪化して、練習を中継せざる負えなかった。
また、ぼくの通っていたリンクが閉鎖されることが決まった。
リンクの最後の営業日、仲間のスケーターたちと、リンクの玄関のところで記念撮影をした。
ぼくが個人レッスンを受けていた福屋優子先生は、新しくできた千葉のリンクに行くことに決まった。
1度だけ、福屋先生に会いに、首都高を通り抜け、アクアリンク千葉に行った。
それが、ぼくがスケート・リンクに行く最後になっている。
最近は、グランプリ・シリーズもろくにちゃんと観ないようになっていた。
そんな矢先の『俺たちフィギュアスケーター』の公開が決まった。
きっと笑ってこの映画を観られる自分がいる。
そしてまた、ぼくの中のフィギュアへの情熱の火は、胸の奥底にくすぶって、まだ完全に消えてはいない、そう信じている。