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2008-07-08

『哀しみよ、こんにちは』-亜紀ちゃんとぼく-part2-18

ぼくは修道院へ帰った。
帰ると、ピエロさんがぼくの帰りを待っていた。
「どこへ行っていたんだい。ぼうや」
「どこって、学校に決まっているじゃない」
「何を言ってるんだ。1週間も戻らないで。一体どこで何をしていたんだい」
「えっ。一週間も帰らなかったって。だって今日学校を早引けして帰ってきただけだよ」
「何度も言うようだが、ぼうやは一週間帰ってこなかったんだよ」
「本当に。じゃあ、あの夢は本当のことだったのかな」
「あの夢ってなんだい」
「銀河鉄道に乗ったんだ。火星やホワイトニング、惑星イオとオリオンに行ったんだよ」
「なんだって、銀河鉄道。夢を見ていたんじゃないのかい」
「でも、一週間帰ってこなかったって、本当のことなんでしょ」
「ああ、本当だとも」
「じゃあ、やっぱりぼくは宇宙へ行ってたんだ」
「不思議なこともあるもんだ。ぼうやには、昔から不思議な何か力のようなものがあると感じていたが、どうやらぼうやには何か特別な運命を背負っているのかもしれないね」
「運命」
「そうとも。運命だ」
「ぼくは一体何を背負っているっていうの」
「それはわたしにはわからない。知っているとしたら、神さまだけかもしれない」
「神さま。ぼくは神さまにお会いしたいんだ。ずうっとそう思ってた。銀河鉄道に乗る人は死んだ人か神さまに会うひとなんだって。火星で会った本屋さんご主人がそう言ってたんだ。でも、ぼくは神さまには会えなかった。オリオンには会ったけどね」
「オリオンってギリシャ神話のかい」
「うん」
「それはすごい経験だ。オリオンは何かぼうやに言っていたかい」
「時が来たら、また会おうって」
「時か。ぼうやには、やっぱり何か自分では抱えきれない運命を背負っているのかもしれないね。時が来たら、きっとすべてわかるだろう」
「うん。実はぼくも、銀河鉄道に乗って、世界観が変わったっていうか、今までの自分とは何か変わったように感じているんだ。ただ、それが何かはわからないけどね」
「そうだろう。こういうことは自分でどうこうすることではなく、神さまの意思で行われる秘蹟なんだろう。ぼうやは、ただ時を待っていればいい。それまで、よく勉強して、いろいろなことを学ぶんだよ」
「うん。ぼくは芸術が好きだ。文学が好きだ。美術が好きだ。音楽が好きだ。踊りが好きだ。だからぼくはもっともっと芸術に傾倒していくと思うよ」
「それもいいだろう。自分の好きな道をお行き。それがきっとぼうやにとって一番いいことだろうから。自分の好きなことを徹底的に根詰めるまでおやり」
「実は、ぼくは詩人になりたいんだよ、ピエロさん」
「詩人だって。詩じゃあ食べていけないよ。せめて小説家ならちょっとは食べていけるかもしれないが」
「でも、ぼくには詩が真実であり、真理なんだよ」
「まあ、人生は先が長い。じっくり考えて自分の人生を歩んでいくことだね」
「うん、わかった。そうするよ。実は今日頭が痛くなって早退したんだ。またちょっと頭が痛くなってきたから、少し横になるね」
「大丈夫かい」
「大丈夫だよ。じゃあ、行くね」
「お大事」

ぼくは自分の部屋に入って、制服も脱がずにベッドに横になった。
ミニコンポで、ホセ・カレーラスのアリアを聴きながら、ぼくは寝入った。


つづく


shiroyagiさんの投稿 - 18:41:04 - 0 コメント - トラックバック(0)

2008-07-07

『時計仕掛けのパパイヤ』-亜紀ちゃんとぼく-part2-17

アイミーの声がぼくを眠りから覚ました。
ぼくは学校の机の上にうつ伏せになっていた。
どうやら古典の授業中だったらしい。
「めずらしいじゃない、わたしの授業で眠るなんて。疲れてるの」
「いいえ。なんだか長い夢を見ていたようで。とても遠く永い夢を」
「古典の授業で、平安時代にでもタイム・スリップしていたのかしら」
「いいえ。そんなんじゃないんです。どこか宇宙の果てへ旅立っていたような気がしていたんです」
「SF映画の見すぎじゃない」
「ああ、そう言えば、この前『2001年宇宙の旅』を観ました。最近SFずいてて、アーサー・C.クラークの『幼年期の終わり』も読んだんです」
「ハヤカワ文庫の」
「いいえ、最近新訳が出た光文社古典新訳文庫のです」
「そう。ハヤカワの訳もいいわよ」
「アイミー、読んだんですか」
「昔ね。昔つき合っていた彼がSFが好きで、ブラッドベリとかヴォネガットなんか、影響されてよく読んだわ」
「へえ。そんな過去があったんですか」
「昔のことよ。もう過去の話。今ではひとりなシングル・ライフよ。まあ、一人暮らしだから、パラサイト・シングルではないけどね」
「さびしくはないんですか」
「・・・・、さびしい。そうね、眠れない夜と雨の日には、忘れかけてた愛がよみがえるわ」
「なにそのフレーズは」
「オフコースの『眠れない夜』よ。西城秀樹も歌っていたわ。テレビの『ザ・ベストテン』にも出てたんだから」
「いつの時代ですか、それ」
「久米宏がTBSにいた頃だから、もう随分前になるわね。そんな時代もあったわ。若かりし我が青春の日々ね」
「へえ、アイミーにもそんな頃があったんですか」
「失礼ね。わたしにだって、美しき青き若葉の頃があったのよ」
「想像できないな。アイミーの若い頃の写真見てみたい」
「またまた失礼ね。まだわたしだって女ざかりよ。これでも結構モテるのよ」
「でも、シングルでしょ」
「わたし、面食いで、相手を選ぶから。まず、マザコンはダメ。不潔はいや。身長は180cm以上。次男で、できればお金持ちの息子がいいな」
「それは、理想が高すぎ。それじゃあ、相手が見つからない訳だ」
「人生のパートナーは大切よ。そんな簡単に妥協はできないわ」
「でも、時には妥協も必要でしょ」
「我が人生に悔いなし。また然り妥協もなし」
「だれの言葉」
「今思いついただけ」

その時、他の女子生徒が、授業はいいんですか、とぼそっと呟いた。
「あら、すっかり脱線しちゃったわね。じゃあ、『紫式部日記』に戻りましょう」

その直後、終業のベルが鳴った。
「じゃあ、また来週。これで今日の授業はお終い」

亜紀ちゃんは、今日学校を休んでいるようだった。
隣の席には、少し埃が積もっていた。
実際、あの体験はなんだったんだろう。
実体験だったのか、ただの夢まぼろしだったのか、ぼくの頭は混乱を極めて、まったく頭がスムーズに働かなかった。
その内、頭痛がしてきた。ぼくは保健室へ行き、保健師さんからパブロンをもらい、小一時間ベッドで横になった。
しばらくすると、うとうとと浅い眠りが訪れた。
夢の中で、亜紀ちゃんと出会った。
高原の真夏の午後、白いベンチにふたり手をつないで座っている。
亜紀ちゃんは白い麻の帽子をかぶっている。
風が強く吹いて、亜紀ちゃんは帽子が飛ばないよう、帽子を手で押さえている。
「風強いね」
「うん。行こうか」
「うん。ソフトクリームが食べたいな」
「OK。ぼくはバニラチョコがいいな。亜紀ちゃんは」
「わたしはバニラ」
公園の売店で、ふたりソフトクリームを食べる。
暑いので溶けるのが速く、滴るのを防ぐように、ソフトクリームを頬張った。
「おいしいね」
「うん。甘い」
「亜紀ちゃんのくちびるはバニラ味。とってもおいしい。甘くていい香りがする不思議のとびら」

そこで、目を覚ました。天井が白く、窓から光が差し込んでいた。
くちびるを舐めると、うっすらとバニラの味がした。

「起きたの」
「はい。もう大丈夫です。授業に戻ります」
「今日は早退した方がいいわよ。まだ明日があるんだから」
「わかりました。そうします。じゃあ、教室に戻ってカバンを取ってきます。今日はどうもありがとうございました。失礼します」
「お大事に」
ぼくは、教室に戻りカバンを掴むと、誰にも言わず、教室を出た。
帰り途。川沿いの土手に座って、i Pod Touchで、亜紀ちゃんと一緒に取った写真を見た。
亜紀ちゃんがとても遠くに感じられ、とっても愛おしく感じた。

つづく


shiroyagiさんの投稿 - 22:36:55 - 0 コメント - トラックバック(0)

2008-07-06

詩集『雨』より その2

友だちのKちゃんの同意を得て、ここにKちゃんの詩を掲載します。

詩集『雨』より

外は雨
荒れ狂う 波に白いしぶき
悲しみに 溺れる 1人の少女
髪は乱れ 涙に顔を 濡らし
幸せの 白い鳥に 手をさしのべる
雨の降る夜
一人 淋しく 想う


shiroyagiさんの投稿 - 16:28:26 - 1 コメント - トラックバック(0)

『オリオンを発つ』-亜紀ちゃんとぼく-part2-16

ぼくは暗闇の中、男の声がする方へと近づいていった。
シルエットで浮かぶ男の後ろには、燦々と光が満ちていた。
男は両手を広げ、ぼくを迎えているように見えた。
ぼくは自然、男の腕の中に支えられるように、抱え込まれた。
男は優しく言うのだ。
「君がここに来るのはまだ早い。銀河鉄道に乗ったのは神の悪戯だ。だが落胆することはない。時が来たら、君はきっと神に出会えるだろう。その時を待てばいい。分かるかい、ぼうや」
「でも、ぼくはここまで来たんだから、神さまにお会いしたいです。あなたは誰ですか」
「わたしの名は、オリオン。最高神ゼウスに仕える、神々たちのひとり。ぼうや、わたしの言うことを聞いて、家に帰るんだ。今日の朝、テラへと向かう列車がある。それにあの女の子と一緒に乗るんだ。大丈夫。また、時がわたしたちを再会に導いてくれる。案ずることはひとつもない。またテラで、自由な高校生活を送るがいい」
「なんで、ぼくのことをそんなに知っているんですか」
「はは。わたしには君のことはなんでもお見通しさ。まあ、時が満ちてからのことは、わたしにもよくはわからないがね」
「時とさっきから仰ってますが、何の時のことですか」
「時は時さ。その時が来なければ、神以外誰にもわからないことなのだ」
「はあ。ぼくは何か特別な存在なんでしょうか」
「それも、時が来ればわかることさ。それまで、自分の生活を楽しむことだ。それが、自己の成長に一番の薬なのだ」
「わかりました。今日、地球に帰ります。そして学校へも行きます」
「そうするがいい。ではまた会おう。詩はやめるんじゃないぞ。詩は神の言葉の欠片。その断片を君は詠うんだ。そして人々の心に、魂の詩を訴えるがいい」
「拙い詩を詠んでもいいですか。
この出会い
生まれた時から 定められた
この邂逅
そして三度会う
その時 ぼくは大人の仲間入り
見違えたぼくの成長に あなたは驚きの言葉も出ない
輝かしい 未来と呼べる ぼくの過去に隠された 秘密の函
その函は パンドラと呼ばれる
函が開く時が
ぼくの時
それまで 三度の邂逅を待たねばならぬ
では、ぼくは行きます。会えてよかったです。あなたの名前と存在は、ずっと忘れません。またお会いしましょ」

ぼくはオリオンに挨拶をして、奥のテーブルに戻った。
亜紀ちゃんは、テーブルに肘を付いて、眠り込んでいた。
ぼくは亜紀ちゃんの頬をそっと触り、耳元で囁いた。
すると、亜紀ちゃんはむくっと起き上がった。
「もう、行くよ。今日ぼくらはオリオンを発つ。そして地球に帰るんだ」
「何かあったの」
「いいや。ただ地球に帰る時が満ちたということさ。神さまに会えなかったのは残念だけれど、いつかまた機会もあるだろう。さあ、行くよ」

ぼくは亜紀ちゃんの手を取り、ノワールを出た。
オリオンの姿はもうなかった。
そして、通りでタクシーを拾い、ホテルへと向かった。
ホテルに着くと、急いでシャワーを浴び、荷造りをして、チェック・アウトした。
ホテルでタクシーを呼んでもらい、それに乗り込み、ステーションに向かった。
ステーションに着くと、まだ出発の時間まで15分程あったので、バールでクロワッサンとエスプレッソを頼んだ。
煙草を一服する。
すると、ステーションに列車が入り込んできた。
ぼくは煙草を揉み消し、列車の停るプラット・ホームへと向かった。
そして、発車のベルとともに、列車が動き出した。
オリオンよ、さよなら。また会おう。心の中で呟いた。
列車はあっと言う間に、宙に出て、星だけが光る暗闇の底を走っていった。

つづく


shiroyagiさんの投稿 - 10:41:19 - 0 コメント - トラックバック(0)

2008-07-05

詩集『雨』より その1

友だちのKちゃんの同意を得て、ここにKちゃんの詩を掲載します。

詩集『雨』より

雨の降る夜
星の消えた空
ぬくもりの 箱の中
閉じこめられた 冷たい孤島
いくつもの 線を 描く雨
天の奥底から 誰かの涙


shiroyagiさんの投稿 - 22:45:01 - 0 コメント - トラックバック(0)
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