2008-08-16
俺たち『HOT FUZZ』
『HOT FUZZ』を観てきた。イギリス発スーパー・ポリスマン映画。超抱腹絶倒間違いないしのこの映画。
もう、冒頭から笑いっぱなしだった。
ロンドンで勤務していた敏腕警官が、田舎町サンドフォードに赴任する。
そこは一見、なんにも事件がないように見える町だった。が、エンジェルは言う。「いつも何かが起こっている」。その言葉の通り、とんでもびっくり!! 事故を見せかけた殺人事件の宝庫。
果敢に一人で事件解決に果敢に挑むエンジェル。と、相棒のデブのダニー。
ダニーは、刑事物映画のマニアで、『リーサル・ウェポン』がどうのとかいつも言っている。
スピード感溢れる映像とセリフ回し。一々ユーモアとアイロニーに満ちていて、大爆笑。
後半は、アクションも混じり、また意外な展開に物語に惹き込まれる。
でも笑いを忘れないところにクランベリー・ジュースで乾杯!!←ホントは飲めるくせに。(笑)
もうお腹いっぱいの2時間を堪能した。だが、なぜかラストで涙が滲んだ。
噂によると、この監督の前作『ショーン・オブ・ザ・デッド』はもっと面白いらしい。うん、絶対観ようと心に決めた金曜の夜だった。
2008-07-16
『野生の夜に』-亜紀ちゃんとぼく-part2-22
ぼくは、ファイト・クラブを辞めた。ブラッド・ピットは出張中でいなかった。
ぼくはまた、修道院へ戻った。
ピエロさんは、ぼくの帰りを大いに喜んだ。
ぼくはまた、高校へ行くようになった。
学校で、アイミーと会った。
「今まで、学校にも来ないで何していたの」
「引き篭もっていました」
「引きこもり?」
「はい。ずうっと」
「本当に?」
「だから言っているでしょう」
「で、引きこもりはもう終わった訳ね」
「はい」
「じゃあ、わたしの授業にも出てくれるのね」
「もちろん」
「もう、『奥の細道』が終わって、今『義経千本桜』をやっているのよ」
「そうなんですか」
「今日の五限がわたしの古典だからね」
「知ってますよ」
「じゃあ、その時に」
「はい。後で」
ぼくは、教室に戻り、亜紀ちゃんと世間話をしていた。
他愛もない天気のことや新聞の三面記事のような話。
ぼくは、午後の授業をサボり、邪宗門で時間を潰した。
閉店間際まで、店に居座り、アンナ・カレーニナの文庫本を読んでいた。
100ページ読んでも、アンナが出てこなかったので、ぼくは文庫本をテーブルに置き、煙草に火をつけて、一服した。
夜8時30分。
ぼくは邪宗門を出て、商店街をふらついていた。
酔っ払った女の子が話しかけてきた。
「わたし、ミナ。一緒に飲まない?」
「ぼく、高校生だから」
「何言ってるの。今どきの高校生ならお酒ぐらい飲むでしょう」
「ぼくは煙草はやるけど、お酒は飲まないんだ」
「じゃあ、クラブで踊ろうよ」
「いいよ。どっかいいクラブ知ってるの」
「うん。いい穴場があるから、ついてきて」
ぼくとミナは、下北沢の南口のはずれの雑居ビルの地下にあるEdge Endというクラブに入った。
店内は薄暗かったが、学生らしき男女数人が、ジーザス・ジョーンズの曲に合わせて踊っていた。
ぼくは、レモン・スカッシュを頼み、ミナはギネスを頼んだ。
ふたりで乾杯して、フロアに出た。
プリンスの『All Around The World in The USA』がかかった。
ぼくとミナは、音楽に合わせて、踊り狂った。
ぼくもミナも汗をすごくかいた。
ぼくはバー・カウンターへ行き、ぺリエを頼んで、席に戻った。
席は柔らかなソファでできていた。
ぼくは、体を深くソファに沈めて、大きく息を吸った。
夜が更けてゆく。
真夜中。
ぼくは、終電を逃した。
ぼくはミナとルノアールで始発を待った。
ミナはぼくに、深刻な話しがあるのと言った。
「何?」
「わたし、エイズなんだ。つきあってる彼がバイで、移っちゃったの。でも陰性だけどね」
「彼の方は?」
「陽性なの。もう長くはないの」
「そうなんだ、悲しいね」
「悲しい。でも彼との短い時間を楽しむつもり」
「大事にしてあげなよ」
「うん、わかってる」
「少し眠ろうか」
「うん」
ぼくとミナは、ソファに身を沈め、深い眠りに陥っていった。
午前5時30分。
ぼくとミナは、ルノアールを出て、下北沢の駅に向かった。
ぼくは渋谷方面、ミナは吉祥所方面。
ぼくとミナは携帯の番号とアドレスを交換して、別れた。
長い夜だった。
ぼくは修道院に帰ると、ベッドに入り、再び深い眠りについた。
つづく
『ハイ・ファイト・クラブ』-亜紀ちゃんとぼく-part2-21
不安が続く日々は、そう長くはなかった。ある日曜日、ぼくは亜紀ちゃんを映画に誘った。
名画座だ。
『ファイト・クラブ』と『ハイ・フィディリティ』の二本立て。
映画を観終わって、映画館をふたりで出る。
ぼくと亜紀ちゃんは、喫茶店に入った。
そこで、ブラッド・ピットに出会った。
ブラッド・ピットがぼくに話しかけてきた。
「俺を殴ってくれ」
ぼくは、一瞬ためらったが、すぐに頭を切り替え、ブラッド・ピットの顔を殴った。
ブラッド・ピットが床に倒れる。
すぐに起き上がって、ブラッド・ピットは満面の笑みを浮かべていた。
「『ファイト・クラブ』へようこそ」
ぼくは、よろこんで申し出を受け入れた。
ぼくは、ブラッド・ピットに連れられ、ある廃墟のマンションへ行った。
ぼくは、修道院に一度帰り、荷物をまとめて、そのマンションへ戻った。
ピエロさんには内緒で。
そのままぼくは、修道院へ帰ることはなかった。
ぼくはブラッド・ピットと暮らした。
毎晩、マンションの地下でファイト・クラブが催された。
ぼくは週に2回、参加した。
一晩に一度は負け、一度は勝った。
ファイト・クラブの規模は、どんどん大きくなっていった。
ルールで、ファイト・クラブのことは公言してはいけないことになっているにも関わらず、地方都市にも支部ができていった。
ブラッド・ピットは、毎日のように飛行機や新幹線に乗り、支部を渡り歩いた。
ぼくは、本部で指揮を取った。
亜紀ちゃんは、たまにファイト・クラブを訪ねてきた。
そんな時ぼくは、メンバーをマンションから締め出し、亜紀ちゃんとふたりで話し合うのだった。
亜紀ちゃんと何を話していたかと言うと、もっぱら音楽の話だった。
亜紀ちゃんとぼくは、洋楽の話題で盛り上がった。
ヤードバーズの最初のギタリストは誰かとか、ビートルズのデビュー曲は何かとか、話題は尽きなかった。
そんな話を2時間もしていた。
喉が渇いた。
近所のタリーズへ行って、ソワークルを頼んだ。
そこで一服し、また音楽の話題で盛り上がった。
勢いで、中古レコード屋のヨネザワへ行った。
そこのマスターとは、亜紀ちゃんもぼくも知り合いだった。
中に入ると、ぼくは煙草に火をつけた。
紫煙が天井を舞う。
「ドアーズをかけてくれませんか」
「いいよ」
マスターは、ロックのレコードの棚から、ドアーズのアルバムを取り出し、プレーヤーに乗せた。
針をレコードに落とす。
チクチクと、スピーカーからノイズが鳴り、音楽が始まる。
「『Light My Fire』をかけてくれませんか」
「いいよ」
マスターは、ジャケットを確認にて、針を持ち上げ、6曲目に針を落とした。
イントロが店内に鳴り響く。
BOSEのスピーカーが大音量、ジム・モリソンの声が叫ぶ。
曲が終わり、店内に静寂が漂った。
ぼくとマスターは、同時に煙草に火をつけた。
同時に肺に煙を吸い込み、同時に口から吐き出した。
ぼくは煙草を手に持ちながら、店内のロックの棚を眺めた。
Kの棚を見ていると、クラフト・ワークの「ミュージック・ノン・ストップ」があった。
速攻、手に取り、カウンターの横のレコードの上に置いて、キープした。
値段は850円だった。
亜紀ちゃんは、女性ヴォーカルの棚で、ソルヴァイのCDを見つけ、マスターにかけてもらった。
ソルヴァイの優しい、それでいてかわいい声が店内を包み込む。
「これ、頂くわ」
「まけておくよ。700円でいいよ」
「ありがとう」
ぼくはクラフト・ワーク、亜紀ちゃんはソルヴァイを買って、ヨネザワを出た。
その晩、ぼくはファイト・クラブで、初めて会う男と闘った。
その男の胸には、ハートの刺青が彫られてあった。
一目見て、その男はぼくの頭に印象づけられた。
闘いは、ぼくのカウンター・パンチで決まった。
男は、床に這いつくばって、唸っている。
ぼくは、手を差し伸べて、「Are You OK?」声をかけた。
男は黙って、手を差し出し、ぼくの力で起き上がった。
ぼくと男は、握手して、別れた。
「また来週ファイトしよう」とぼく。
「いや、来月だ」と男。
ファイトの後、パブに寄って、ギネスを煽った。
亜紀ちゃんが後からやって来た。
「わたしは未成年だから、オレンジ・ジュース」
「ここは酒場だ。酒以外出さない。子どもはとっとと家に帰りな」
パブのオヤジが言った。
ぼくと亜紀ちゃんは、パブを出て、散歩道を歩きながら、手をつないだ。
亜紀ちゃんを家まで送った。
「もう学校へは来ないの」
ぼくは、ファイト・クラブへ行くようになってから、ずっと学校をサボっていた。
「わからない。学校がぼくにとって必要なのか。今はファイトに夢中だから」
「あなたがいないと、学校がつまらなくて」
ぼくは鼻から抜いて、不敵な笑みが顔に浮かび上がった。
「わかった。1週間、時間をくれ。それまでに返事をするから」
「いいわ。1週間ね。必ずよ」
「OK」
ぼくは、亜紀ちゃんと別れて、ぶらぶらと川沿いの道を、月を眺めながらマンションへと向かった。
つづく
2008-07-08
『創造される不安』-亜紀ちゃんとぼく-part2-20
金曜日。午後1番の授業はアイミーの古典だった。
紫式部の続きをやった。
今日のアイミーはとっても真面目で、雑談はなかった。
ぼくはアイミーの授業を一生懸命ノートに取り、真面目に聞いた。
アイミーの授業はとても興味深かった。
亜紀ちゃんも真面目に授業を聞いていた。
授業の終わる10分前、アイミーが急に雑談を始めた。
「わたしは、大学で美術研究会に入っていたの。そこでよく絵を描いていたものよ。学祭では、展覧会をやって、自分の絵やみんなの絵を発表したの。サークルの部室、BOXって呼んでいたんだけど、そこで毎週金曜日に集まりがあって、その後、みんなでお酒をよく飲みながら、芸術の話や恋の話に花を咲かせたものだわ。授業の空き時間にもBOXによく寄って、サークルの仲間とお話ししたものよ。わたしが描く絵は、具象と抽象の中間のような絵で、ちょっと変わった絵だったの。マーク・コスタビとキース・へリングが大好きで、すごく影響を受けたの。4年生の卒展で出した絵は、みんなから評判もよかったのよ。赤と緑とオレンジの絵で、自分でも気に入って描いたんだけど、1時間くらいで描き上げたのよ。わたしはアクリルが好きだったの。乾くのが早かったから。油は乾くのを待つのが嫌いだったから、ほとんどやらなかったの。マーク・コスタビの絵は、宮部みゆきの『理由』の表紙にもなっているのよ。わたし、マーク・コスタビの絵が欲しかったんだけど、お金がなくて買えなかったの。でも、画集を2冊持ってるのよ。とっても気に入っているわ。キース・へリングはエイズで死んじゃったんだけど、日本へも来てるの。山梨県にキース・へリングの美術館もあるの。一度行きたいと思っているんだけれど、車じゃないと不便なところで、わたし車の免許持ってないから、行けずじまいなのよ」
そこで、終業のベルが鳴った。
「はい。今日はこれまで。また次回。次は、『奥の細道』をやるからね。松雄芭蕉よ。名前くらいは知っているでしょ。じゃあ、またね」
アイミーが教室を去ると、みんなは席を立ち上がり、各々仲間同士でお喋りを始めた。
次の授業は物理だった。
ぼくは、物理が大嫌い、って言うか、まったく理解できなかった。
小テストでも、5点とか取っている。
亜紀ちゃんに教わるのだけれど、まったくわからなかった。
また、数学も全然ダメだった。
サイン・コサイン・タンジェントとか、まったく分かりようがなかった。
ぼくは完全な文系で、理数系はまったくと言っていいほど、できなかった。
だから、もし大学へ行けるとしたら、美大か文学部へ行きたいと思っていた。
亜紀ちゃんは、なんでもできたから、どう思っているかは、わからない。
まだ、亜紀ちゃんと将来の話をしたことはなかった。
が、いつかはきっとそんな話をする日も来るだろう。
その時、ぼくと亜紀ちゃんは、どんな進路を選ぶのだろう。
今のぼくには、まるでわからないことだった。
でも、いつかはお互いの将来の話を真剣に話し合わなくてはならない。
それだけは、自覚していた。
が、そんな日が来るのは、ぼくにとって、不安を感じるのだった。
つづく
『心の学校』-亜紀ちゃんとぼく-part2-19
次の朝、ぼくは朝4時に目が覚めた。二度寝しようとしたが、眠れなかった。
仕方なく、ぼくはコンポでパコ・デ・ルシアのフラメンコ・ギターを聴きながら、トルストイの『アンナ・カレーニナ』を読んだ。
夜が更ける。
ぼくは、雨戸を開けて、ベランダで煙草を吸った。
朝が赤白く、光を帯びてきた。
6時。ぼくは食堂へ行き、みんなと一緒に朝ご飯を食べた。
トーストとチーズにハムエッグ。
カフェ・オレでトーストを喉に流し込んだ。
制服に着替える。
もう、ネクタイの締め方も慣れたもんで、一発で上手くいった。
ネクタイを少し緩めて、ブレザーを羽織る。
ピエロさんに、行ってきます、と言って修道院を出る。
川沿いの通学路を歩きながら、川面を眺めていた。
坂を上がって、学校へ着く。
教室には、亜紀ちゃんがいた。
ぼくは亜紀ちゃんの隣の席に座った。
「おはよう」
「おはよう」
「昨日は休んだんだね」
「うん。家でずっと眠っていたの。長い夢を見ながら」
「それって、もしかしたら銀河鉄道の」
「そう。なんで知っているの」
「ぼくも銀河鉄道に乗ったからさ」
「じゃあ、あれは夢じゃなかったの」
「どうやら、現実のことだったらしいね」
「そんな不思議なことがあるのかしら」
「でも、ピエロさんが、一週間家を出てたって言ってた」
「えっ、本当。わたしはいつも通り学校へ行って、家に帰ってたみたいよ」
「マジ。じゃあ、あれは一体なんだったんだ」
「わたしにもわからない」
そこで、始業のベルが鳴り、英語の授業が始まった。
英語の授業では、映画の『カサブランカ』のシナリオをやっていた。
ラストのシーン。ハンフリー・ボガードがイングリッド・バーグマンに言うセリフ。
映画の和訳では、「君の瞳に乾杯」だけど、英語では、「God Bless You」だったのに、ぼくは驚いた。
午前中の授業が終わる。
ぼくと亜紀ちゃんは、一緒にランチを食べた。
学校の敷地の森のベンチで、サンドウィッチを頬張った。
そして、映画や本の話をたくさんした。
亜紀ちゃんは最近、『17歳のカルテ』を観たと言った。
ぼくはその映画を観ていなかったので、どんな映画なのと訊いた。
「精神病院の話。ウィノラ・ライダーが境界性人格障害と診断されて、精神病院に入院して、そこでアンジェリーナ・ジョリーと出会うの。アンジェリーナ・ジョリーがすっごく色っぽかったな。映画の中で、『ダウン・タウン』をギターで弾きながら歌うシーンがあるんだけど、感動しちゃった」
「そうなんだ。ぼくも今度観てみよう。TUTAYAで借りてみるよ。そろそろ行こうか」
「うん」
午後の授業が始まった。
退屈な午後、ぼくは授業中ずっと眠っていた。
放課後。
ぼくは亜紀ちゃんと一緒に、マックへ寄った。
ハンバーガーをひとつ食べた。
コーラを飲みながら、亜紀ちゃんとこの間の夢のような体験について話し込んだ。
だが、話は結論を得ず、お互いの意見が一致することはなかった。
結局結論は出ず、その日は家に帰った。
帰り途。
ぼくは亜紀ちゃんの手をむすんだ。
亜紀ちゃんの手はとても温かかった。
亜紀ちゃんの温もりが、ぼくの手を通じて、ぼくの心臓をドキドキさせた。
ある五差路で、別れて、明日また学校で会う約束をした。
つづく