2009-04-05
非通知
半年ぶりに聞いた景子の声にこころが震えそうになった病院の公衆電話からかけてきたという非通知の声は早口で
きっと喋りたいことがたくさんあったのだろう
わたしも思うわず早口で、聞きたいことが山ほどあった
が、聞き役にまわり 景子の近況に耳を傾ける
景子の乖離がまたぶり返しているらしい
実はそんな予感がしていた
景子は乖離した自分であるひよりのことは憶えていない
ひとから聞いて、それをわたしに話すのだ。笑いながら
わたしは景子の声にまじめに耳をすます
景子には今は逢えない
面会は家族のみ。こちらからの電話はナースステーションを通して、景子に伝わるらしい
入院している病院を聞いたので、ネットで調べてみた
海側のその病院は、わたしから遠い
最近車を売ったわたしが行くには、電車を乗り継ぐのだろう
今はそれさえ許されない
景子はまた非通知の電話をかけてくるだろう
今日の景子は、今どきテレフォンカードの残数を気にしながら喋る
事実、カードは二度挿入されていた
次に景子から電話があった時、わたしが電話で話す時には
コレクトコールでわたしの払いにしようと、夜風呂に入りながら思った
そんなに先の話ではない
あしたかあさって
今頃、消灯時刻を過ぎた景子はベッドの中で眠れない身体をくねらせていることだろう
こんな夜には景子のために、一遍の言葉を残したいと思い
拙い詩を書く。景子を思いながら、
ジョゼ日記その3 猫缶とジャンプ力と甘噛み
ジョゼのご飯は、乾いたキャットフードと猫缶を併用している。獣医さんが、猫缶もあげた方がいいと言ったので、最近使い始めた。
猫缶は喰いがとってもいいので、見ているこっちが気持ちよくなってくる。
今朝いつものように猫缶をあげると、いつものジョゼのように、すぐに食いついてきた。
が、10分程目を離してジョゼのところに戻ると、なんとジョゼが戻したのだろうものが床にこびり付いていた。
猫缶は完食で、キャットフードは三分の一程食べたようだが、そのほとんど全部を戻していた。
わたしは驚いて、「ジョゼ。大丈夫」。何度も声をかけた。
案外ジョゼはけろっとしていて、試しにジョゼの好きなボールを蹴ると、勢いよくジョゼはボールを追いかけてきた。
どうやら体調は大丈夫らしい。
が、わたしはどうやら今朝あげた猫缶に原因があるのではないかと疑っている。
猫缶は三種類試しに買っていて、シラス入り、かつお節入りは見事に平らげていた。
今朝初めて赤身というのをあげた結果がこうだった。
わたしはずっとそのことが気になっていたが、午前中は自分の部屋の大掃除をした。
昼ご飯の後、どう考えてもおかしいと思い、明日の月曜日に猫缶の製造会社のお客さまセンターに問うてみようかなどと思っている。
ご飯は朝夕、一日2回なのだが、今日の夕飯には猫缶はあげなかった。
今日はまだジョゼが嫌な思い出が残っているかもしれないので、明日の朝もう一度、違う猫缶をあげようと思っている。
話は変わるが、ジョゼのジャンプ力は日に日に向上している。
毎日走り高跳びのバーを少しづつ高くしていくマンガだったかアニメだったか、があったが、正にそんな感じだ。
棒に紐状の毛糸がついたおもちゃがジョゼのお気に入りなのだが、それを上手く使うと、真上にジョゼの体長くらい跳び上がる。
わたしの方が興奮して、「すごいよ」と連発している。
まったく猫って動物は見ていて飽きない。
一階の南側の和室がジョゼの部屋兼寝室なのだが、ペットショップで買ったケージの中に敷いた綿のシーツの上には寝ないで、わたしのお古の椅子の上がお気に入りのようで、朝一番に部屋を覗くといつもそこにいて、わたしの気配を察したのか、こちらを見ている。
ジョゼがおとなしいのは、お昼ご飯から夕方で、わたしがお昼ご飯をダイニングのテーブルで食べていても、横で眠っているか、毛繕いしている。
が、朝夕のご飯は戦争状態だ。
台所の火がついているコンロに近づいたり、食器やタッパーが並んでいるテーブルの上を徘徊する。
甘噛みが、日に日に強くなってきた。
噛まれると本気で痛い。
先日獣医さんが子猫だから仕方がないと仰っていたが、もう少し経てば甘噛みをやめるのだろうか。
家に客が来た時に、甘噛みを本気でやられたら、困るなあと思う。
とにかく明日の朝、猫缶をもう一度あげてみて、ちゃんと戻さずに食べてくれることを祈る。
2009-04-02
ジョゼ日記 その2 赤毛のアンと猫のジョゼ
寝る前、階下ですごい物音がした。飼い猫のジョゼが暴れているんだろう。そう思いながらも確かめに行かず眠ってしまった。
そして午前5時半。
階下の物音で目を覚ました。
家人が鳴らす電話の子機から、「SOS,SOS」と声が響いた。
わたしは急いでベッドから飛び起き、ジーンズを履き、階下へと降りた。
ドアを開けると、そこには荒れ果てた風景があった。
ご飯が床に撒かれ、テーブルの上の小物が床に落ちていた。
そして一番大切なジョゼはと言うと。
赤毛のアンの銅製の置物の三つ編みした髪の毛が首輪に引っかかり、首でアンを引きずっていた。
アンの置物を首輪から外す。
ジョゼは解放されたよろこびからか、我慢していたせいか、トイレへと駆け込んだ。
そして砂を後ろ足で数回掻くと、おトイレを始めた。
家人と話す。
「こんなことがあるんだねえ」
「うん。何百分の一の確率かもしれないね」
その朝のジョゼの朝ご飯の食べっぷりは見事だった。
一気に、合わせて50グラムの猫缶とキャットフードを平らげた。
きっと深夜の過酷な運動でお腹も減っていたんだろう。
家人とそんなジョゼを哀れみながらも、笑ってしまった。
が、もし重いアンのせいで、ジョゼの首に障害が残ったり、万が一首の骨が折れていたかもなどと考えると、ぞっとした。
早速アンを他の部屋へ仕舞った。
我が家はどんどんジョゼに暮らし易いように変化してきている。
今は高い所へ上る場所を作るため、籐棚を一つジョゼの優越感と満足感を充たすため、開放しようと考えている。
それでジョゼが台所に上らなくなればいいのだが、どうなんだろう。
こればかりは、開けてみないと分からない。
ジョゼ日記 その1耳あか問題上昇中
毎年二月二十二日は猫の日らしい。字面の通り、ニャンニャンニャンだ。
今年(2009年)の二月にはまだ自分が猫を飼うなんて思ってもみなかった。
が、今うちにはアメリカン・カールの牡猫ジョゼがいる。
ジョゼがうちに来てから、わたしの生活の精神的中心はジョゼになった。
朝起きて自分の顔を洗うより先に、ジョゼの水とご飯、トイレの掃除をする。
それから落ち着いて自分の顔を洗顔フォームで洗い、電気シェーバーでひげを剃り、やっと朝食になる。
休みの日は、毎食後30分から1時間、一緒に遊んだり、ブラッシングしたりしてコミュニケーションを取るように心がけている。
最近ジョゼの毛並みがいいのは、自分のブラッシングの効果だと思っている。
我ながら親ばかならぬ、飼い主のおバカっぷりを周囲に発散している。
今日二度目の動物病院に行ったら、治療中先生に「おとなしくて偉いね」と褒められた。
その時のわたしは自分が褒められるよりもずっとうれしくて、「家では駆け回っているんですが」と謙遜した。
が、ジョゼは本当に治療中じっとしている。
アメリカン・カールという種は、耳が上に向いて尖って耳の穴が小さいのが特徴で、耳の掃除が難しい。
一週間前にも病院で耳かきしてもらい、大量の耳あかが出たが、今日も耳あかがすごかった。
自分でも毎日耳あかのチェックをして、耳薬を一滴さしていたが、気がつかなかった。それ程耳の奥の方に耳あかが溜まっていて肉眼では見ることができない。ジョゼがたまに右耳を掻いているのは知っていたが、毎日耳を見ていたので、ここまで溜まっているとは思わなかった。
今日は病院で、耳あかの原因がミミダニのせいかもしれないということで、背中に薬をさした。
来週また、薬の効果を見るために病院へ行くことになっている。
それで耳あかが少なく、または無くなっていれば、ミミダニのせいだったということだ。
耳あかがあんまり溜まると、外耳炎になるらしい。
そうなると、かゆみより炎症で痛みが出てきて、耳掃除なんて暴れてできなくなると先生が言った。
今日病院の帰り、ペットショップに寄り、念願だったジョゼのキャリーケースを買った。
4月12日まで割引キャンペーンだということで、トイレの砂と缶詰も買った。
上に書いたようにわたしの関心は今やジョゼにしかない。
ジョゼが来てからわたしは、家族に、他人に寛容に、優しくなったように感じる。
ジョゼがわたしの尖ったところを丸く収めてくれる。
ジョゼは家では暴れん坊で仕方のない仔だが、怒ることも含めて、わたしの感情は豊かになった。
怒りながら笑ったり、家族との会話もさらに増えた。
わたしが寝る前に心の中で最後におやすみを言うのはジョゼに対してだ。
一日はジョゼで始まり、ジョゼで終わる。
その生活に今本当に満足している。
ジョゼのことを書くと切りがなく、また取留めがなくなるので、この辺で終わりにしよう。
どうせまた、書きたくなることは毎日増えていくのだから。
毎日が驚きと喜びと好奇心に満ち溢れた、子ども時代以来の輝かしい日々が永くいつまでも続くことを願わずにいられない。
2009-03-31
猫たちの夜
うちの猫は夜になると、外へ出る。どこへ行くのかと、ある日跡をついていくと、そこには草原があった。
ここはどこなのだろう。
わたしが記憶する限りでは15分も歩いていない。
大体、猫の行動範囲は五百メートル四方とある本で読んだことがある。
うちの近所にこんな場処はない。
わたしは不思議に思いながらも、猫の様子を窺った。
すると、どこか遠くの方で猫の鳴き声が聞こえた。
草むらの陰に、月明かりに照らされ数匹の猫がいるのが分かった。
わたしはこれが噂に聞く猫の集会かと興味津々で、猫たちに悟られないように猫の集会を見ていた。
すると、一匹のペルシャ風の仔がわたしに近づいてきた。
そして言うのだ。
「なんであなた猫なのに、集会に出ないの?」
「えっ。猫だって」
「そうよ、あなた立派な牡猫じゃない。何言ってるの」
わたしはその子猫の言うがまま、連れて行かれた。
草原の中央で集会は行われている。
わたしが行くと、見事なキジトラの大猫が叫んだ」
「おお。我が同志。集会に出るのは初めてだね?」
不思議なことに、わたしには猫の話す言葉がすべて分かった。
わたしは促されるまま、集会の場で自己紹介をした。
喫茶店「ねずみのこと」の外猫のジョゼです。今日はお招き頂き、ありがとうございます」
わたしは、招き猫のポーズで挨拶を交わした。
その夜は、深夜明け方未明まで、猫たちのカーニヴァルが行われた。
みな顔にマスクを被り、仮面舞踏会が催され、わたしはさっきのペルシャとジルバを踊った。
踊りが終わると、ペルシャがわたしに言った。
「パパ。おうちに帰ろう」
「パパ?」
「そうよ。何言ってるの。わたしのパパじゃない。今日はパパちょっとおかしいわ」
わたしはなんだか自分でもその仔がわたしの娘のように思えてきて、ペルシャの言うがまま、その仔が言う家へと誘われていった。
そこはまるでペルシャ宮殿。
「おい。こんな立派なお城のようなとこに入っていいのかい?」
「何言ってるの?パパはこの宮殿の王様じゃない。しっかりしてよ」
「ああ、そうだったね」
わたしと娘は威風堂々、宮殿の門の前に出た。
すると門が自然に開き、「王様のおかえりー」。門番の大きな声が聞こえた。
わたしと王女は、宮殿の奥深くへと消えていった。