2009-05-23
珈琲券とご主人のありがとう
ねずみさんでは、コーヒーが50円安くなる五枚つづりの珈琲券を出している。わたしは、その珈琲券を買っていた。
常連さんは、その珈琲券を使っていない。
最近、ねずみさんに通いはじめたわたしは、その意味がわからなかった。
けれど今日、思った。
ねずみさんのコーヒーの定価は、決して高くない。
常連さんは、そのことを分かっていて、お店のことやご主人やママさんのことを考えて、その珈琲券を使わないのだ。
わたしのパスケースには、あと一枚珈琲券が残っている。
が、その券は使わないつもり。今夜、風呂に入りながら決めた。
また、今後その珈琲券は買わないと思う。
その一枚は、大事に取っておこうと思う。
ねずみさんの絵が描かれているその券はかわいいい。
今日は、ねずみさんのところで、紅茶を飲みながら、ママさんと軽く猫のことをおしゃべりして、新聞を読み、『神曲 天国篇』の解説を読み終えた。
やっと一ヶ月かかって、『神曲』を読み終えた。
バター・トーストにジャム、ホットミルクの昼食。
そのあと、キヨさんのいるヨネザワへ行き、趙国良さんの胡弓と斉藤英美さんのキーボードのCDを聴きながら、キヨさんとおしゃべりした。
その後また、ねずみさんへ行って、コーヒーを飲んだ。
いつものように帰り際、ねずみさんの家で飼っている外猫さんのための募金箱(わたしはそれをお賽銭箱と呼んでいる)に小銭を入れて、店を出ようとしたら、
ご主人が言った。
「ありがとう」太くて温かい声だった。
今までは、ありがとうございます、とかいつもすみません、とか言われていた。
初めて、ありがとう。それだけ言った。
わたしは何だかうれしかった。
それだけのことなのに、とってもうれしかった。
2009-05-22
シンちゃんの珈琲ゼリー
先日、東華飯店で、いつものようにランチセットを頼んだ。一品にご飯、スープとデザートがつく。
食後に、デザートを食べた。
美味い。
珈琲ゼリーのように見えるけど、何かが違う。
お会計の時に、奥さんに訊いてみた。
「あのゼリーは、黒蜜ですか」
「いいえ。珈琲ゼリーですよ」
「おいしかったです」
わたしは店を出た。
そして今日。
また東華飯店へ行った。
デザートは、またこの間のゼリーだった。
ご主人のシンちゃんがいたので、
「あのゼリー。珈琲に思えないですよ」
「だろう。秘密があるんだ」
以下詳細は略
「絶品ですよ。絶品」
「ありがとう」
シンちゃんの趣味で、東華飯店には最近JAZZが流れている。
今日は、女性のJAZZヴォーカルが流れていた。
シンちゃんにそのことを言うと、
「JAZZがかかっている中華料理屋も珍しいですよね」
「JAZZって、聞いていて、煩わしくないんだよね。ボサノヴァをかけるときもあるし、最近は、JAZZが多いかな」
そんなシンちゃんの店は、ある情報誌で街一番の店に選ばれた。
最近、週に二回は、ここでランチをとるのが、愉しみのひとつだ。
2009-05-16
とりとめのないはなし
今日は、めずらしく、午前中にスーパーへ買い出しに行っただけで、家でのんびりと過ごした。ダンテ『神曲 天国篇』を第十三歌まで読み、UKロックのMAXIMO PARK『QUICKEN THE HEART』とヨーロピアン・ジャズのTILL BRÖNNER『OCEANA』を聴いて時間を持て余すように。
本に飽き、ジョゼと戯れる。
時刻は午後四時。
ジョゼが一番おとなしくなる時間。
わたしのあぐらの中で、丸くなる。
そして、いつの間にか眠っていた。
今日は、一週間ぶりにブラッシングした。
毛がいっぱい抜けて、わたしの黒いトレーナーと古着のリーバイス501に毛がついた。
毛玉取りで、丁寧に毛を取る。
『神曲 天国篇』は、第三十三歌で終わるので、あと二十歌で読み終わる。
「地獄篇」「煉獄篇」と続けて読み続け、やっと「天国篇」にたどり着いた。
この間ほかの本はまったく読んでいないので、正に『神曲』で過ごした一か月間だった。
できれば、「天国篇」を五月中に読み終えたいと思っている。
が、なぜか夜は読書が進まない。
ねずみさんか、電車の中が一番本が読める空間。
家にいると、つい音楽や映画のDVDを見てしまう。
今もBBCで放映されたドラマ『LIFE ON MARS』を、英語の勉強のためもあり、英語字幕で見ている。
同じ回を何度も見ているので、なかなか進まない。
今はシーズン2のDISK2を見ている。
この『LIFE ON MARS』は、題名から見て、わかる方もいるかもしれないが、DAVID BOWIEが1973年発表したアルバム『HUNKY DORY』の収録曲からタイトルがつけられている。
劇中でも、同名曲がかかるシーンがあり、この曲に重要な意味が込められている。
また、このドラマのスピンオフ作品『ASHES TO ASHES』も、同じくDAVID BOWIEのアルバム『SCARY MONSTERS』収録曲である。
ちなみに、「ASHES TO ASHES」という言葉の原典は、祈祷書(The Book of Common Prayerからの引用であり、「earth to earth;ashes to ashes, dust to dust」である。
さらに、この一節の原典は、旧約聖書 創世記第3章「蛇の誘惑(失楽園)」19節からのものであると、されている。
ドラマ『LIFE ON MARAS』は、1993年に生きていた刑事が1973年にトリップしてしまう話だ。
このトリップが昏睡状態による夢の話なのか、狂気なのか、タイム・トラベラーなのかは、ラストでも明かされていない。
見る者にその解釈は任されている。
そんなことを考えながら、『LIFE ON MARAS』を見ている。
こんな夜は長く感じられて。
眠るには惜しいが、そろそろ眠ろう。
明日は午前中、雨が降るそうで、午後から外出したい。
入院中の景ちゃんに今日の午前中に投函したオードリー・ヘップバーンの絵はがきが、いつ彼女に届くのか、気になる。
早く元気な景ちゃんが見たい。
iPhoneに入っている景ちゃんの写真を見ては、早く彼女の明るい笑顔が見たくなる。
こんな夜に、眠る前に景ちゃんのことを想いながら、枕に顔を沈めよう。
取留めもない思いと考えが交叉する五月の土曜日の夜。
さあ、眠る時間だ。
部屋を暗くして、軽いJAZZをかけよう。
2009-05-15
なつかしい味
ねずみさんで、珈琲を飲みながら、新聞を読んでいると、キヨさんが自転車から降りるのが見えた。キヨさんはシンちゃんがいるカウンター席に座った。
マスターと世間話をしている。
シンちゃんが帰ると、キヨさんはわたしに、カウンター席に来いと合図した。
わたしは、珈琲カップを持ち、席を移動した。
マスターと三人で、お話した。
マスターと、ちゃんと話すのは、今日が初めてだった。
奥さんも加わり、雑談から政治、街の行く末まで話し合った。
珈琲がなくなるのを、奥さんが気づき、そっと、
「こっちの方がいいでしょ」
湯呑み茶碗を置いた。
色が薄い。
飲んでみて、思わず、
「おいしい」
ため息とつぶやきがほとり出た。
それは、もう久しく飲んでいなかった、こぶ茶だった。
その味が何とも言えないほどで、店を出ても、こぶ茶、こぶ茶と呟いていた。
2009-05-14
スラムドッグ$ミリオネア
貧困と絶望のどん底に、一条の希望を見るジャマール。その兄サリームに、自分を重ねて見た。
生きること。信じること。愛。希望。
誰もがジャマールのようには生きられない。
エティカでさえ、ジャマールの純粋さにはついて行くことができなかったが、サリームもエティカも、ジャマールに希望を見いだす。
すべてを捨てて。
サリームはカインなのか。
インドにおいて、少数であるイスラム。
最下層の野良犬が生きていくには、汚れるしかない。
が、ジャマールは、自分の信念に正直に生き続けた。
多くの実際のジャマールたちは、きっと野垂れ死んでいくのだろう。
だから、多くのひとがジャマールに自分の夢を見たのだ。
過ちを犯しながら、生き続けたサリームでさえ、ジャマールに希望を託す。
誰もが一度は罪を、背負っている。
故に、誰も明るい場処を渇望する。
人間の性、業を描いた秀作。
疾走感溢れる映像と音楽とともに、インドを舞台に生き続ける若くて幼い生命。
ショウではない、本物のインド。
泥臭いチャイの味がした。
煙草の煙とともに。