2009-11-20
ねこだから許された十の出来事
一 お気に入りのリーバイス501の膝を両方とも破かれたこと二 毎日、噛まれて、手の甲と手首に傷が絶えないこと
三 毎日、引っ掻かれること。傷の痛みやしみるのに、腹を立てたりしないこと(園芸家は、バラの刺に怒ったりはしない)
四 お風呂の湯船に浸かる度、ねこにやられた傷がしみて、つい、飼い猫のことを思いだしてしまうこと(トラウマともいう)
五 仏壇をひっくり返されて、茶器を割られたこと
六 大事に使っていた、ソファを傷だらけにされたこと
七 新聞を、ねこといっしょの空間と時間で、読めなくなってしまったこと
八 ねこが悪さをして、叱っても、反省の色があまり見られないこと
九 きっと、ねこにはねこの言い分があるんだろう、ある種悟りの境
地に達しつつあることに、たまにねこに感謝してしまうこと(諦観ともいう)
十 これから遭うだろう、ねこ人生の最大の災害のために、取っておく。その時は、アメリカの台風のように、災害に名前を付けようと思っている。
まだ、顔をひっかかれていないだけ、幸運だと思っています。
きっと、ねこ歴が長い人には、まだまだ甘いねって、ほくそ笑まれそうですが、以上で締めくくりとさせて頂きます。
平成二十一年十一月二十日 施行
2009-11-19
ジョゼ日記 その9 冬場は毛が伸びる
最近、気になっていた。ジョゼの毛。
寒くなるにつれて、首周りとお腹の毛が長い。
気のせいか。いや、絶対伸びている。
そうか。猫はこうやって、体温調整をしているのか。
猫って便利だなあ。
人間は不便だなあ。
2009-11-09
ジョゼ日記 その8 はじめてのおさんぽ
今朝、朝ご飯を食べていると、窓の外を猫が歩いていた。
「あっ。猫だ」
久しぶりに見る外猫さんに、わたしは思わず声をたてて、叫んだ。
が、よーく見ると、首輪に見憶えがある。
そうだ。この水色の首輪は、うちで飼っている家猫のジョゼではないか。
慌てて、玄関を開けて、外へ出た。
さっきジョゼがいた家の裏に回ってみたが、いない。
表の庭にもどってみた。
なんと、いつものように南側の和室の窓ぎわ、畳の上に、ジョゼがちょこんと座っている。
何にもなかったように。
わたしは、網戸をしっかりと閉じて、ダイニングに戻って、お茶をぐいっと、飲み干した。
それにしても、いつもの暴れぷりとは違って、ゆうゆうと、のそのそ歩いていたなあ。
猫らしかった。
ジョゼの意外な一面を見られた、サプライズな朝だった。
2009-10-14
(仮)孤独という 1,2
このひとは孤独だと思った。わたしが、ついていないと駄目だ、そう思った。
一生ずっと、このひとといっしょにいよう、強く思った。
1
あなたと出会ったのは、もう三年前。
病院の喫煙所だった。
その頃あなたは、メンソールを吸っていて、細いたばこを吸いにくそうに、くちびるを尖らせて、くわえていた。
たばこを切らしたあなたは、隣に偶然居合わせたわたしに、たばこが欲しいとつぶやいた。
その言葉の奥に、わたしは何やら、どきりとするものを感じて、困ってしまった。
それが何だったのか、はっきりとは分からなかったが、このひとは寂しいんだと思った。
あなたは、婚約者がいるの、ぽつりと言った。
それきり会話はとぎれた。
あなたは、不幸なように思えた。
あなたの言う婚約者は、実在していなかのようで、存在がまるでうすかった。
その日、わたしがあなたについてわかったのは、あなたは、誰かを必要としているのではないかという、うっすらとした感触だけだった。
が、あなたと会うのを重ねると、その感覚を実感として、捉えるのだ。
実体が見え隠れするようになったのは、出会ってから、そう長くは時間がかからなかった。
しかし、わたしの身で、いったい何ができるだろうという、懐疑の念が重く、わたしの頭を立ちこめ、そして支配し、わたしは身動きが取れなくなるのが常だった。
そんなわたしの背中を軽く押してくれたのも、あなただったのは、不思議でもあり、必然性をまた感じざる負えないのだ。
2
クロード・ドビュッシーが好きだというあなたは、なぜかエリック・サティの名前さえ知らなかった。
わたしは、フェリージのナイロンポーチからiPod nanoを取り出して、サティを検索、再生してあなたの耳にパッドをあてた。
「きれいなピアノ曲。ちょっとドビュッシーに似てるみたいだわ。なんていう曲なのかしら」
「サティも、ドビュッシーと同じく、二十世紀フランスのクラシック音楽を支えた一人です。他の曲も聴いてみれば分かると思いますが、かなりジャズに近いものがあります。ドビュッシーにも言えますが」
「お答えになっていないようですわ。曲の名前は?」
「『Je te veux』といい曲です」
「何語かしら。英語ではないみたいですけれど」
「フランス語です。意味は・・・」
「意味は?」
「・・・、あなたが欲しい」
「うふ、知っていましたの。わたし、大学で第二外国語でフランス語を習っていましたから。ちょっと、あなたの反応を見てみたかっただけです。
そう言うとあなたは、左の口もとをす少し持ち上げて、笑みを浮かべた。
えくぼが、左のくちびるの少し下辺りに浮かび上がった。
「いっしょに聴きましょうよ」
片一方のパッドを、わたしの左耳にあて、サティをふたりで聴いた。
ピアノの旋律に、鼓動が重なって、わたしの心臓は敏感に震えて、なんだか身体が昂ぶった。
あなたとの距離が、一歩近づきつつあるのを、わたしは肌身で感じとったのだ。
わたしは、あなたが欲しくなるのを、禁欲主義的な配慮を以て、意識的に自らを抑制した。
あなたは、わたしよりかなり年はかなく、許婚者がいるのだ。
自分に言い聞かせた。
が、そう思えば思うほど、わたしは、あなたの中の女性を強く感じてしまうのだった。
それほど、あなたは美しく魅力的な女性だった。
五分弱、この曲が終わるまで、あなたとのプラトニック関係を築き上げる方案を頭の奥で念じていた。
空論は虚しく、わたしの胸を打った。
烈しく鳴るチャペルの三時の鐘の音とともに。
外出時間が終わった。
病室へ戻らねばならない。
わたしは、プロメテウスのよう重い鎖から解放された気分とともに、また裏腹、さびしい思いをぶらさげて、とぼとぼと病棟へ歩をあゆんでいった。
あなたに、さよならを告げて。
そんなセリフが、フランスのシャンソン歌手フランソワーズ・アルディにあるのを思いだして、苦笑した。
そいうえばこの曲も、わたしの今持っているiPod nanoに入っているのを憶い出した。
今のわたしの気分はまさに、アルディのヒット曲『さよならを教えて』なアンニュイの気分だった。
夕食までの時間。
わたしは無為に、この曲が頭を離れずにいて、ずっと天井を見つめていた。
白いはずの天井には、やはりというようにあなたの顔が浮かんで見えた。
よく見れば、染みなのだが、どうしてもあなたの横顔に見えてしかたがなかった。
いつの間にか、わたしは寝息をたてて、眠っていた。
つづく
2009-10-13
(仮)孤独という
このひとは孤独だと思った。わたしが、ついていないと駄目だと、そう思った。
一生ずっと、このひとといっしょにいよう、強く思った。
あなたと出会ったのは、もう三年前。
病院の喫煙所だった。
その頃あなたは、メンソールを吸っていて、細いたばこを吸いにくそうに、くちびるを尖らせて、くわえていた。
たばこを切らしたあなたは、隣に偶然居合わせたわたしに、たばこが欲しいとつぶやいた。
その言葉の奥に、わたしは何やら、どきりとするものを感じて、困ってしまった。
それが何だったのか、はっきりとは分からなかったが、このひとは寂しいんだと思った。
あなたは、婚約者がいるのと、ぽつりと言った。
それきり会話はとぎれた。
あなたは、不幸なように思えた。
あなたの言う婚約者は、実在していなかのようで、存在がまるでうすかった。
その日、わたしがあなたについてわかったのは、あなたは、誰かを必要としているのではないかという、うっすらとした感触だけだった。
が、あなたと会うのを重ねると、その感覚を実感として、捉えるのだ。
実体が見え隠れするようになったのは、出会ってから、そう長くは時間がかからなかった。
しかし、わたしの身で、いったい何ができるだろうという、懐疑の念が重く、わたしの頭を立ちこめ、そして支配し、わたしは身動きが取れなくなるのが常だった。
そんなわたしの背中を軽く押してくれたのも、あなただったのは、不思議でもあり、必然性をまた感じざる負えないのだ。
つづく