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きょうのコラム「時鐘」 2011年11月27日
今月は虹をよく見た。北陸の11月は虹の季節である。氷雨にも負けず、鉛色の雲にも負けず、七色の虹は初冬の空を彩る
以前、今ごろの季節だった。ある港町の波止場で、足もとから虹が立ちはじめ、全身すっぽりと包まれたことがある。虹のアーチは二重になって港から遠い山の頂上にかかった。虹の正体は、きらきらと光る細かい水滴でできた霧だった 北陸の紅葉が一番きれいなのもこの曇天(どんてん)の季節だ。霜月(しもつき)の青空を「もうけもの」と呼ぶ人の気持ちがよく分かる。赤い甲羅(こうら)のカニがこの季節にとくべつに好まれるのも色が影響しているだろう。「紅」と「虹」とは何と似ているのだろう 明治の国文学者、藤岡作太郎に北陸の時雨(しぐれ)どきのうっとうしさを記した一文がある。「もういや、もういやと思う、故郷のこの天気」と11月の空を嘆(なげ)いている。東大の教官となって青く晴れ渡る関東の冬空を見た後の感想である。ぼやくのも無理もない だが、ふるさとの「あの天気が懐かしい」とも書いている。「懐かしいとは、惚(ほ)れたってことよ」と作太郎は言いたかったのかもしれない。師走がそこまできている。 |