経済

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TTPを問う:米通商代表部(USTR)前代表、スーザン・シュワブ氏

スーザン・シュワブUSTR前代表
スーザン・シュワブUSTR前代表

 ◇農業保護に障壁は不要--スーザン・シュワブ氏(56)

 --USTR代表時の08年に米国の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)協議開始を決めた狙いは?

 ◆TPPの起源は、シンガポールやニュージーランドなど4カ国で、小さいグループだったが、高い目標を目指した野心的な貿易協定だった。私たちの構想は、150以上の国が加盟する世界貿易機関(WTO)の自由貿易交渉より更に目標の高い「WTOプラス」の実現だ。地域的な貿易協定からアジア太平洋の枠を超え、最終的にはWTOの交渉に発展する可能性があり、多国間の貿易システムの構築が目的だった。

 --TPPはどのような効果をもたらしますか。

 ◆世界経済は08年のリーマン・ショックからの回復に苦しんでおり、TPPは交渉を開始した時よりも更に重要になっている。市場の自由化は経済成長を生み出すことができるからだ。経済成長を刺激する必要があり、その手段の一つがアジア太平洋地域の貿易障壁を低くすることだ。

 --野田佳彦首相が交渉参加方針を表明しました。

 ◆私たちはTPPを構想した時から参加を呼びかけていたが、日本にとってTPPは極めて意義が大きい。日本は今、厳しい状況にある。中国の台頭などアジア地域での競争は激しく、韓国は多くの国と自由貿易協定(FTA)を結んでいる。日本には円高という課題もあり、より競争力を高めるために、TPPなどの貿易協定に関わっていく必要がある。

 --日本には農業への打撃を懸念する反対論が根強くあります。

 ◆農業はいつでも悩みのタネだ。悲しいことに、貿易交渉の歴史で日本は多くの機会を失っている。日本には農業の政治的な強さがあり、農業の果たす経済的な役割からみて、不釣り合いだ。私が日本に住んでいたとき、農産物はすばらしかったが、とても高価だった。その理由が農業の伝統の保護のためであり、食料の国家安全保障のためであるなら、補助金などで保護する方法があるはずだ。高い貿易障壁や国境対策は必要ではない。

 --農業分野などで日本が妥協を求める可能性もあります。

 ◆野心的な合意を望まない国が交渉に入るのは良い考えだと思わない。私が期待するのは、工業製品や農産品、サービス、投資分野で市場を極限まで開放する包括的な合意を追求することだ。【聞き手・ワシントンで平地修】

 ◇米、日本に市場開放要求など70項目

 日米政府は94年から毎年、相手への規制緩和や制度改革などの要望事項をまとめた「年次改革要望書」を交換してきた。日米貿易摩擦の深刻化を受け、93年に日米首脳が合意した。日本政府が着手した改革は郵政民営化など米国の要望書に盛り込まれたものも多い。

 要望書は日本の政権交代でいったん途絶えたが、民主党政権の日米経済調和対話で事実上、復活。今年2月に米国が示した「関心事項」は、日本郵政の金融事業と民間金融機関との対等な競争条件確立▽海外で安全が確認されているが、日本で未承認となっている医薬品や食品添加物の承認▽厳しい残留農薬基準の見直しなど約70項目を列挙した。

 いずれも日本市場への進出やシェア拡大を図る米国企業などの要望を反映したものとみられ、日本への市場開放要求となっている。日本がTPP交渉に参加するには、米政府の同意が必要で、米側が今後、日本への圧力を強めてくるのは避けられない情勢だ。

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 ■人物略歴

 ◇Susan Schwab

 06~09年にブッシュ政権でUSTR代表を務め、韓国との自由貿易協定など多くの交渉をまとめた。56歳。

毎日新聞 2011年11月15日 東京朝刊

 

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