経済

文字サイズ変更

TPPを問う:日本自動車工業会会長・志賀俊之氏

 ◇消費者に選択の自由を--志賀俊之氏(58)

 --環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉に参加することをどう評価しますか。

 ◆自動車という商品は、性能や品質、技術などで競争して買ってもらうのが基本。貿易は本来、世界貿易機関(WTO)で枠組みや投資、規制などのルールが決まり、各国が可能な限り同条件で競争するのが理想だが、WTOが進展しない状況では、TPPのような多国間で枠組みが決まっていくのが望ましい。

 --自動車業界にとってのメリットは?

 ◆09年度に自動車メーカーが支払った関税は1300億円に上る。これが無税になるメリットがある。ただ、何より本来あるべき貿易の姿につながっていくことの意味が大きい。自由な貿易がなされ、消費者が好きな商品を自由に選べる環境をつくるというメリットを期待している。

 --自動車メーカーは現地生産をしており、関税撤廃の効果が見えにくいとの指摘もあります。

 ◆国内メーカーは米国でもメキシコでも生産しており、これらの国でTPPの枠組みの中により他国への輸出が始まれば、日本メーカーも大きなメリットを受ける。ただ、関税よりも自由貿易のルールづくりの蚊帳の外に置かれるリスクの方が大きい。TPP協議に参加しないで生じるマイナスを危惧する。

 --米国は日本の自動車市場が閉鎖的だとして開放を求めています。

 ◆日本は1978年から輸入関税はゼロ。輸入車を制限する規制や租税、認可手続きもなく、少量輸入への優遇もある。日本の市場のどこが閉鎖的なのか聞いて、改善する必要があると考えれば対応したい。

 --80年代の自動車摩擦が再現する懸念はありませんか。

 ◆80年代の日本市場は排気量が2~3リットル以上の車も多くあったが、今は2リットルや1・5リットル以下が主流だ。米国車は大半が3リットル超で、日本の3リットル市場は3%しかない。確かに販売台数は多くないが、それを閉鎖的と言うのだろうか。

 --TPPを巡る国内の議論では、農業と輸出産業で意見が分かれています。

 ◆輸出産業と農業が対抗軸として議論されることは残念だ。豊かな日本を引き継いでいくためにTPPがどう貢献するのか。TPP参加の議論が、日本の将来にとって何が良いのかを考え直す機会になってほしい。【聞き手・米川直己】

==============

 ◇自動車輸出、摩擦と協調の歴史

 日本の自動車生産の半分は輸出。10年の経常黒字の7割を自動車産業が稼ぐが、輸出台数が85年に685万台のピークを迎えると貿易摩擦が激しくなった。95年の日米自動車摩擦で米国は、日本の販売網や自動車部品市場が閉鎖的だと批判。政府間交渉がまとまらず、最終的にメーカーが自主的に海外生産を増やすことなどで決着、95年度の輸出は362万台に落ち込んだ。

 その後、各社は海外生産を増やすなどして協調を図り、輸出も07年度に680万台まで盛り返したが、最近はウォン安や欧州との自由貿易協定(FTA)をテコに韓国勢が台頭。現代自動車の今年1~10月の海外販売は11.8%増加した。

 米韓FTAが発効すれば、米国が課す2.5%の関税が5年で撤廃されるため、国内勢はTPP参加で対抗したい考えだ。

 一方、米国はTPP交渉で、自動車の安全や環境など最新技術に関わる規制緩和を求める構え。規制の違いも議論されそうだ。

==============

 ■人物略歴

 ◇しが・としゆき

 76年4月、日産自動車入社。05年4月、最高執行責任者(COO)に就任。10年5月から日本自動車工業会会長。58歳。

毎日新聞 2011年11月16日 東京朝刊

 

おすすめ情報

注目ブランド

特集企画

中小ビジネスを変えるオンラインとは

ウェブサイトが15分で簡単作成、しかも無料で

東海大学:建築学で宇宙に迫る

「はやぶさプロジェクト」のサポートチームに参画