きょうの社説 2011年11月26日

◎提言型政策仕分け 法的根拠無き提言は無力
 行政刷新会議が初めて実施した「提言型政策仕分け」は、公開の場での議論を通して国 民に政策課題を提示し、関心を深めてもらうという点では一定の成果があったかもしれない。

 だが、法的根拠を持たぬ会合では、提言を政策に反映させるのは難しい。2年前の事業 仕分けでは「建設凍結」と判定されながら、野田佳彦首相自身が財務相時代に事業再開を指示した国家公務員宿舎「朝霞住宅」の例もある。

 朝霞住宅で批判を浴びた野田首相は、仕分けの結果をもとに予算編成に当たるよう関係 閣僚に指示するという。ただし、閣議決定はしない方針というから、どこまで拘束力を持つかは分からない。予算編成の過程でうやむやにされてしまうようなら、事業仕分けの二の舞である。

 逆にすんなりと政策に反映されたとしても手放しでは喜べない。誰も責任を問われない 場面で出された結論があっさり予算化され、国の方向性を決めてしまうことにも疑問を感じるからである。法的根拠のない提言はしょせん無力であり、無理に権威付けするのは、むしろ有害なのではないか。

 例えば高速増殖炉原型炉「もんじゅ」(福井県)に関しては、計画の抜本的見直しが提 言された。年金については本来より高い「特例水準」での給付が続いていることへの批判が続出し、「2012年度から速やかに解消すべき」と踏み込んだ提言が示された。

 だが、こうした国策に関わる重要な問題は、政府・与党が責任を持ち、十分な議論を重 ねた末に方向性を示すものであって、法的根拠の無い結論が重視されるとしたら、おかしな話だ。面倒な問題は、仕分けに「丸投げ」し、政府内での論議を省略してしまうことになりかねない。

 行政刷新会議の法的位置付けを明らかにするはずだった「政治主導確立法案」は既に廃 案となっている。予算の無駄をあぶり出す手段として政策や制度の在り方に踏み込んで検討する提言型政策仕分けに意味を持たせたいならば、遠回りなようでも法的根拠を持たせるための法案を成立させるところからやり直さなくてはなるまい。

◎除雪ボランティア 災害に生きる雪国の共助
 本格的な冬の到来に備え、北陸で除雪ボランティアを制度化する動きが広がってきた。 社会福祉協議会を窓口にした高齢者支援、企業の社会貢献を促す仕組みなど、地域で制度の内容は異なるものの、いざという時の人手を安定的に確保したいという狙いは共通する。東日本大震災で存在感を増した災害ボランティアの活動も影響しているのだろう。

 豪雪時にはこれまでもボランティアが活動していたが、公的機関が仕組みを整えること で、必要なところに、いち早く善意を生かせることが可能になる。こうした雪国ならではの共助のネットワークは、震災や豪雨など他の災害時にも役立つはずである。

 白山市社会福祉協議会は白山麓と鶴来地区の高齢者、障害者宅で除雪ボランティアの公 募を始めた。昨冬に生活道路が雪で埋まり、一人暮らしの高齢者が自宅に閉じこめられるケースが相次いだからである。募集対象は県内在住の高校生以上の個人、団体で、民生委員や町内会長の要請で現地に入る。社福協による同様の取り組みは富山県でも広がっている。

 過疎地では、集落が雪かきを助け合う機能が弱まっている。白山麓では2006年に屋 根雪の重みで民家が倒壊し、高齢の母娘2人が亡くなった。逃げる間もない大地震と違い、早い対応があれば避けられた事故かもしれない。除雪中に川へ流されたり、屋根から転落するなど、豪雪時の犠牲は高齢者に集中している。過疎、高齢化による雪害リスクを減らすことは大きな課題である。

 金沢市は06年から始めた地域と雪かき協定を結ぶ学生ボランティア制度を、一般市民 や社会人グループにも広げた。地域を特定した仕組みは、他の災害が発生した際の支え合いの基盤にもなろう。

 建設業者の経営悪化で除雪車の確保がままならず、自治体が新規購入する動きも出てい る。ボランティアによる除雪も、記録的な豪雪になれば限界がある。ゲリラ豪雪で対応が後手に回り、交通まひを引き起こすケースもある。自治体は現行の仕組みに弱点がないか点検を怠らないでほしい。