豊川一家5人殺傷事件の初公判=名古屋地裁岡崎支部で(代表撮影)
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24日に初公判を迎えた豊川一家5人殺傷事件の裁判員裁判は、事実関係の認定ではなく、量刑に影響する責任能力の程度が焦点となった。岩瀬高之被告(31)の精神的な障害をめぐって「刑の減軽には値しない」と主張する検察側と「責任能力は限られる」とする弁護側。さらに殺意の有無や犯行に至る経緯でも、両者の主張が激しく対立した。
◆「社会適応能力あった」「心神耗弱状態だった」
岩瀬被告の責任能力の程度をめぐり、検察側と弁護側の解釈は真っ向から対立する。
検察側は、岩瀬被告に自閉性障害があると認めながらも「父親の口座の管理や、ネットショッピングを頻繁にするなど一定の社会適応能力があった」と主張。自分の行為の善悪を判断する能力や、その判断に基づいて自分の行動を制御する責任能力が備わっており、刑の減軽に値しないとした。
弁護側は、岩瀬被告は知能指数が低く、他人との意思疎通が難しい自閉性障害が伴っていたと指摘。「1年で仕事を辞めたのは後輩の指導ができなかったため。カードで最初に借金したのも詐欺に遭ったのが原因」として「仕事をせず借金を重ねたのは障害が原因」と強調した。
さらに犯行時、岩瀬被告の記憶が、軍手をはめて包丁を手にしたところで途切れ「両親や兄弟らを包丁で刺した記憶がない」と話していることから、責任能力が限られる心神耗弱の状態にあったとして刑の減軽を求めた。
◆「家族全員に強い殺意」「傷害の意図しかない」
検察側は「外形的な事実から、家族全員に対する強い殺意があったと立証できる」と自信を見せる。
岩瀬被告は先端がとがった包丁を使用。5分という短い間に、首や背中などに致命傷になりうる傷を負わせた犯行状況を指摘。自室に火を放ち、事件直後に犯行を認める供述をしていることなども根拠として示した。
これに対し、弁護側は「殺す気はなかった」「包丁では人は死なない」という岩瀬被告の供述を列挙し、傷害の意図しかなかったと主張する。「自分のしたことの結果を想像できない被告の障害の特性を考慮する必要がある」とも指摘。最初に母親の正子さん(60)の太ももを刺したのは殺すつもりはなく、その後、記憶がないことから、殺すという積極的な意思はなかったとした。
◆「ネット解約で犯行へ」「交流手段途切れ混乱」
岩瀬被告のネットショッピングに手を焼いた家族は、それまで被告に任せていた父親の給与口座の管理を事件の1年ほど前から次男に託した。事件の2週間ほど前にはクレジット支払い用の口座も解約。被告がネットショッピングのため、鍵を掛けて管理していたポストも取り外した。
家族の実力行使に徐々にいら立ちや疎外感を募らせる被告。事件の数日前には家族はとうとうインターネットを解約。被告が契約し直したにもかかわらず、再び解約した。検察側は家族との不和が積み重なった末、ネット解約が犯行の引き金になったと主張する。
一方、弁護側も対人関係に難がある被告にとって、ネットは外界との唯一の交流手段だったとする。それが突然、途切れたことで混乱し、犯行に至ったと説明。行きすぎた家族の行動が岩瀬被告に対する「包囲網」をつくり、障害のある被告の混乱を助長したとも指摘した。
弁護側によると、被告は、家族が鍵付きポストを処分した際、自ら警察に通報。何日も「ポスト、ポスト」と家族に迫ったため、家族が被告を懲らしめようと、ごみ処理場に置き去りにすることもあったとした。
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