固相抽出法による放射性ストロンチウム測定の留意点

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測定技術

3M社製 RadDiskによる放射性ストロンチウムの測定

放射性ストロンチウム・・固相抽出法による測定の留意点

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固相抽出用による放射性ストロンチウム測定の留意点

1.       検出対象となるのは、Sr89Sr90

RadDiskは、分子認識技術を用いて、ストロンチウムを選択的にディスクに吸着・回収します。 この過程では、放射性ストロンチウム89/90が同時に回収されますので、測定値は、Sr89Sr90の合算となります。

放射性ストロンチウム89と90の構成比

福島第一原子力発電所の事故で放出されたと推定される放射性ストロンチウムの総量は、次の通りです。

ストロンチウム89: 2,000テラベクレル 半減期 50.5日

ストロンチウム90:  140テラベクレル 半減期 28.9年

ストロンチウム89の半減期は50.5日ですので、9月時点では、5ヶ月経過し、当初放出量の6%程度にまで減少している事になります。 ストロンチウム90は、ほとんど減少していない事を踏まえると、9月初旬時点ではほぼ同量程度と推定されます。 

従って、RadDiskによる測定については、おおよそ半分程度が半減期の長いSr90と推定されます。

(注記:この試算は回収されたストロンチウムが福島原子力発電所由来である場合となります。 過去の大気圏内原子力爆弾実験、チェルノブイリ原子力発電所事故由来の残存放射性ストロンチウムである場合には、ストロンチウム90の構成比が高くなります。仮に本測定において、由来が過去の原爆実験又はチェルノブイリ原発事故のストロンチウムを回収していると仮定すると本測定の測定値は、ストロンチウム90の値であると解釈されます。 尚、2005年〜2009年における神奈川県による放射能測定調査では(横須賀・対象:草地土壌)、ストロンチウム90の測定値は1.7〜2.3 Bq/kgの水準でした。 また同時期において東京都新宿区における同様の測定においては、1Bq/kg未満の測定値でした。)

2.      回収物のストロンチウムの同定

RadDiskによるストロンチウムの回収後、回収された物質がストロンチウムである事の同定は、いくつかの方法で実施されています。 まずディスクのγ線放出を検証する事で、γ線を放出する核種が残存しないかを確認できます。

回収元素の特定には、蛍光X線による元素特定、ディスクからストロンチウムを溶出した上でICP-MSによる元素分析による特定などが実施されています。 これらの確認を通じてRadDiskは有効にストロンチウムを回収する事が確認されています。

3.       検出されたストロンチウムについての解釈

放射性ストロンチウムの測定結果については、十分な考慮が必要です。 放射性セシウムと同様、雨樋の下や、水のたまるような場所(側溝や排水溝)などでは、放射性物質が蓄積する可能性があります。 このような場所では、周辺より放射性物質を含む水・泥が流入し、その後乾燥し、またその後に流入する事が繰り返されます。 この結果、放射性物質が蓄積する為、測定値は高めとなります。 放射性ストロンチウムの測定値もこのような放射性物質を含むチリが集積・堆積するような場所では高くなり得ます。従って、放射性ストロンチウムの測定値を判断する場合には、どのような場所から由来した検体なのか留意が必要です。 土壌の測定の場合であれば、畑なのか、一般土壌なのかなどにより結果の解釈は変わります。 放射性ストロンチウムの場合、最も警戒が必要なのは、水や食品を介して体内に取り込まれる事です。 従って、検出された場所が食料生産や水源などであればより注意が必要です。 逆に、堆積物などで量が少ない場合には、放射性物質の濃縮(堆積)が発生していたとしても、総量としては小さなものであれば、直ちに人体の安全に影響があるものではありません。 

放射性ストロンチウムは、検査方法の煩雑さや測定に必要な時間などを考慮すると、放射性セシウムの測定とは比較できない労力がかかります。 従って、測定においては、ポイントを絞ったサンプルの準備が必要でしょう。

参考のみですが、同位体研究所において調査した放射性ストロンチウムの存在比(放射性セシウム対比)は、多くが1%未満でした。 この点から放射性セシウムが例えば10,000ベクレルを超えるような場所では、放射性ストロンチウムも100ベクレル程度の存在も疑われますので、測定の検討も有効かと考えられます。

株式会社同位体研究所

2011年10月