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[26640] 【第二部】機動戦士がんだむちーと、です【多重クロス】
Name: Graf◆36dfa97e ID:00318802
Date: 2011/03/23 11:45
 *注
 本作品は本掲示板にて公開しています、"機動戦士がんだむ・ちーと"の続編です。初めての方は検索機能などをお使いになり、前作品をご覧ください。

 本作品は、ちーたー氏の、Muv-Luv板にある「【マブラヴ・ACFA・オリ主・ネタ】ちーとはじめました」にかなり影響を受けております。ポイント制チートシステムは、ちーたー氏に倣っております。但し、ガンダム世界であり、完全なチートとするのではなく、色々と制限が加えられているところを表現してみたいと思っております。
 何卒ご寛恕の程、よろしく御願い申し上げます。

 11/03/22
 とりあえず1話掲載です。まだ色々整っていませんので、二話移行については間が空くと思います(4月中は忙しくもありますので御了承ください)。



[26640] 開始時設定集
Name: Graf◆36dfa97e ID:00318802
Date: 2011/03/24 20:15
■(がんだむ・ちーと終了時 主人公勢力主要キャラクター

1:トール・???(ガラハウ/ミューゼル)
 連邦軍中将:連邦軍月方面軍司令
 ジオン軍中将:ゼブラ・ゾーン空域司令(撃墜確認・行方不明)

*保有技能
a)設定関係能力
 ・BPOG製造技術:ラ・ギアス系機体・技術、ゾヴォーグ共和連合兵器、EG/VR型機動兵器、異星人フューリー、カスタムタイプPT、およびアーマードモジュール、グランゾン、パーソナルトルーパー、ヴァルキュリアシリーズ、パンプレスト地球側艦船・一般兵器、アサルト・ドラグーン系、特機系の生産可
 ・AS生産技術:アサルトスーツの生産可(重装機兵)
 ・共和宇宙系生産技術:スターウォーズ系兵器の生産可
 ・特殊技術:オルゴン・クラウド(追加性能)、オルゴン・エクストラクター(発動機)、強化人間復元技術、ナノ・スキン、ブラスレイター製造、XNガイスト、、テスラ・ドライブ、ラースエイレムおよびキャンセラー、サイトロン
 ・バイオロイド兵能力向上Lv.5:MSなどの高精度精密機械の運用、人間とのコミュニケーション能力、人間への擬態、艦艇および航空機系の運用、歩兵戦闘が可
 ・ダウンサイジング技術b:100mまでの機動兵器・装備を最小15mまで小型化可
 ・重力制御技術d:40Gまでの慣性に対応
 ・ナノマシン技術Lv.5/5:医療用、改造用ナノマシンを生産可。接触による物体コントロール可
 ・改造技術b:機体改造、オプションパーツの生産可(Gジェネ準拠)。
 ・テラフォーミング技術b:テラフォーミングに関する理論・技術・建造物が可
 ・第三期モビルスーツ(MMなど)生産能力:宇宙世紀200年代までのMS生産能力
 ・超空間航法技術b:アクティブおよびパッシブジャンプが可能
 ・超光速航行技術b:光速を越す船舶を研究・建造可
 ・ポイントキャラクター強化技術Lv.5/5:獲得キャラクターを無制限強化可
 ・システム設定管理権Lv.2:
 ・システム情報管理権Lv.2:"整合性"の情報を一部入手できます


b)素質関係能力
 ・パイロット能力Lv.5/5:シロッコぐらいは活躍できます。
 ・対人関係掌握能力Lv.5/5:他者に対する精神支配が可能(一定確率で失敗)、獲得したキャラは裏切らない(例外アリ)。
 ・NT能力Lv.7/10:初期エルピー・プルくらいのNT能力です。
 ・GF能力Lv.3/5:ミケロ・チャリオットくらいは格闘できます
 ・改造手術d:ブラスレイターくらいの肉体能力。再生可能、宇宙での活動、単体ポーテーション、フォースの使用が可能です。
 ・不死設定c:死亡期間1日(但し、強制的に月まで移動)
 ・派生技能"思考制御":NTによる思考の共鳴を拒否できます

c)技能関係能力
 ・MS戦闘経験Lv.28/50:エースパイロットです。
  → 地形対応:海B、陸S、空A、暗礁S、宇D-
 ・艦艇指揮経験Lv.0/50:座学をこなしましょう
 ・対?格闘経験Lv.8/50:普通の人間相手なら無敵です。GF?逃げてください。
 ・フラグ建築士:"フラグ"を建築できます。内容についてはシステムの気分で決定されます
 ・天然排除能力:"天然"な気分は排除されます。ヒロインからの好意を感じて胃潰瘍になってください。
 ・修羅場決定:"修羅場"になることが回避不可です。開き直れ。


2:ミツコ・イスルギ(BPOG)
 嫁1;GP社専務取締役・月支社支社長
 ・好感度:96/99_ハマーンばっかり、差別されてません?
 ・経済関係能力Lv.48/50:お金の心配はさせませんわ!
 ・マッチング技能Lv.5/10:OG地球関連系統のマッチング可能
 ・MS戦闘経験Lv.4:新兵クラス
  
3:ハマーン・カーン(UC_Z)
 嫁2;ジオン軍中尉・ガラハウ少将護衛官
 ・好感度:96/99_えへへ……
 ・MS戦闘経験Lv.30/50 エースパイロットクラスです
 ・NT能力Lv.8/10 宇宙が見えます。

4:ソーフィヤ・イリーノスカヤ・パブロヴナ(バラライカ、BL)
 姉1;ジオン軍大佐・ガラハウ少将護衛隊長
 ・好感度:68/99_忘れられ、てる?
 ・対人戦闘経験Lv.45/50 5.45mm弾で奴等の顎門を食いちぎれ!
 ・パワードスーツ(PS)戦闘経験Lv.32/50 オイタのこと謝って貰わないと。

5:シーマ・ガラハウ(UC0083)
 姉2;ジオン軍中佐・ガラハウ艦隊旗艦ガーティ・ルー艦長
 ・好感度:83/99_なんとか、生き残ったようだねぇ
 ・対人戦闘経験Lv.30/50 フフ……選り取りみどり
 ・MS戦闘経験Lv.34/50 お前は一体、どっちの味方だ!?
 ・艦隊指揮経験Lv.34/50 このシーマの上前をはねるつもりかい!

6:張維新(BL)
 兄1;Nシスターズ・マフィア会長
 ・好感度:67/99_裏方仕事なのは良いんだけどなぁ
 ・対人戦闘経験Lv.40/50 うちには手を出さないことだ
 ・経済関係能力Lv.41/50 焦るなよ、Two Hand
 ・PS戦闘経験Lv.28/50 エース級です。

7:ロベルタ・???(BL)
 メイド1;ミューゼル家メイド長・武装メイド隊隊長
 ・好感度:71/99_お邸に何もなので暇でございますわ
 ・対人戦闘経験Lv.41/50 あら、お相手なさいます?
 ・経済関係能力Lv.32/50 秘書業ならお任せを
 ・PS戦闘経験Lv.32/50 弾をばら撒くのはあまり趣味ではありませんのよ?

8:セレイン・イクスペリ(UC_MG)
 妹1;ジオン軍少尉・ガラハウ艦隊所属
 ・好感度:62/99_兄の奴、私を忘れているな?
 ・MS戦闘経験Lv.20/50 エース級です
 ・NT能力Lv.9/10 宇宙に歌を響かせよう

9:プル・シスターズ(UC_ZZ)
 妹2-13;ジオン軍属・ガラハウ艦隊所属
 ・好感度:85/99_プルプルプルー?
 ・MS戦闘経験Lv.3/50:宇宙を飛ぶ訓練を!
 ・NT能力Lv.9/10 ??わかんないよ??

10:セニア・グラニア・ビルセイア
 嫁3;ジオン軍大尉・GP社主任設計技師
 ・好感度:90/99_"ガンダム・チート"だなんて!?
 ・マッチング技能Lv.9:OG系統全て、スターウォーズ系をマッチングできます!
 ・技術能力Lv.45/50:天才レベル!まっかせなさい!
 ・MS戦闘経験Lv.10:ベテランクラスです

11:テューディ・ラスム・イクナート
 嫁4;ジオン軍少佐・GP社主任設計技師・専用機開発技師
 ・好感度:70/99_……ふふ。
 ・マッチング技能Lv.9:OG系統全てをマッチングできます!
 ・技術能力Lv.45/50:マッド?いいじゃないの強ければ!
 ・MS戦闘経験Lv.10:ベテランクラスです

12:東方不敗マスターアジア(G_G)
 師匠:月方面軍中佐待遇オブザーバーなど
 ・好感度:??/99_東方不敗に死角なし!
 ・流派東方不敗Lv.??/10:東方は赤く燃えている!
 ・MS戦闘経験Lv.??/50:公式チート
 ・対?格闘経験Lv.??/50:MSは拘束具
 ・死亡フラグ噛み破り能力:あるの、フラグ?

13:アクセル・アルマー
 親友1:月方面軍少佐
 ・好感度:65/99_
 ・MS戦闘経験Lv.42/50:コード麒麟!
 ・対?格闘経験Lv.38/50:ちょいなああああっ!
 ・記憶喪失?:アホセルって事さ。



[26640] 第01話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00318802
Date: 2011/11/23 19:19

 宇宙世紀0084年6月17日。地球連邦議会は0084年次通常議会の会期を終了した。史実であれば地球圏の現状維持と各サイドの再結成を決議するこの議会では、一年戦争の被害が抑えられたこと、火星のテラフォーミング事業が一段落した事で、別の議決が行われている。

 第一に火星植民事業の開始を決定。0084年次終了までに地球及びサイド1、サイド2より1億人を移住させ、火星恒久都市の建造と共に移住を開始することが決められた。恒久都市は80年代終了までに合計12建造されることが決定している。

 第二に恒星間植民計画の調査事業の開始である。具体的には植民可能惑星が存在すると見積もられている太陽系より半径12光年以内の恒星系へ調査衛星を射出し、航路を設定した後に調査員を派遣、大気組成などを調査した後、移住の可能性を検討すると決定された。これについての予算は月面極冠都市連合よりの財政援助が投入され、宇宙世紀120年代までに調査を終える長期計画とされた。また同時に、半径6光年以内の近傍恒星系の調査を実施。テラフォーミングによる可住化可能惑星を発見した場合にはその可能性を検討することも考えられている。

 第二項に記載した恒星間植民計画は現在の地球人類の技術段階では難しいと判断されているが、調査事業を進めておけば技術発展後、即座の開発が行えることは必要であると判断されたこと、及び地球圏の経済状態が概ね好景気となっていることが決定のための材料となった。一年戦争で死亡した人口が少なかった―――比較問題だが―――ため、地球圏の人口爆発とも言える増加は続いており、生活圏の拡大は急務であったためである。議決と共に月軌道に待機していた第一次火星植民船団が出航、火星への2ヶ月の船旅を開始した。廃棄コロニー改造型の急造移民船4隻に2500万名の移民を載せて旅立った船団は、2ヵ月後には火星軌道に達し、入植を開始することになるだろう。

 
 さて、この84年次通常議会の議決内容はそれだけにとどまらない。0083年末に生じたデラーズ事件の影響もあり、地球圏全体の治安維持政策も議論されている。その中でも特筆されるのは、やはりティターンズ関連の議論だろう。議会の会期期間中にリオン装備の大部隊がヨーロッパ掃討作戦"ローマ"とインド・東南アジア掃討作戦"ムガール"を行った結果、この2地域からジオン残党戦力は払拭された。両作戦は6月1日に成功裡に終了した、と報告されることになる。

 とはいっても戦闘自体は散発的なものであり、また誤爆・誤射が多く、本当の意味でジオン残党と戦闘を行った報告は少ない。

 これはトールがガトーとの約束どおり、地球に取り残されたジオン残党をMSを放棄させた上で秘密裏に撤退させており―――その際に、離隊者の希望を募ってもいたが―――、その放棄させたMSを現地の抵抗勢力が用い、ジオン残党として処理された結果も少なくない。両作戦の地域からは優先的に撤退が行われ、3000名規模の人員が既にアムブロシアを通じ、アクシズへの道についている。そうした裏事情はあったものの、概ねティターンズの活躍は連邦議会においては公表だった。目に見える成果としてMSの撃破された残骸を見せてくれるのだから言うことは無い。新規建造の巡洋艦アレクサンドリア級を全てティターンズに委譲すると共に、ルナツー工廠の使用権限も与え、独自の戦力増強を可能にする案が通ることとなった。

 これに危機感を持ったのがサイド1・ザーン共和国と月面極冠都市連合の二カ国であった。両国はティターンズの宇宙での軍備拡大に自国の軍備拡大を対応させるひつ応があると述べ、連邦議会はザーン共和国についてはMSについてのそれのみを認め、月面都市連合については月方面軍との協議の上での軍備拡大を認めたのである。


 機動戦士がんだむ・ちーとです。



 第01話



 眼下に広がる光景をどのように評したらよいのかは解らないが、これから始まるグリプス戦役と言う名前のMSの強化インフレ時代を前に、つきの軍備を強化しておくことは必要である、と私―――トール・ミューゼルは判断していた。現在時は0084年6月21日。連邦議会の6月17日決議を受け、現在工業都市N4の乾ドック内では、月方面軍の軍備増強のため、新型戦闘艦艇の建造がラッシュを迎えている。

 目の前でどんな艦を作っているのかはいまだ判然としないが(まだ骨組みの段階だ)、そこで何を作っているかを知っているものがいれば、早速のインフレかと驚いたことだろう。現在このドックではアーク・エンジェル級戦艦が4隻同時並行で建造されている。本来、アークエンジェル級は強襲機動特装艦としてLCAM-01Xの番号が割り振られる艦艇だが、この世界ではSBCV-01の番号を割り振られ、艦種類別も"戦闘空母"となっている。

「君たちの戦力がこれほどのものとは、解っていたが、改めてみると驚きだな」

 聞きなれた声が背後から響く。エゥーゴから出向し、こちらへの利益代表というよりは交渉役として多くの援助を引き出す役割をブレックスから任されたらしいクワトロ・バジーナ連邦軍大尉の声だ。アムブロシアでの見送りから少しして月から離れて何かをやっていたらしいが、先月こちらに戻り、色々と引き出そうと話を持ちかけてくる。部下として一緒に来ているのがアポリー・ベイ中尉とロベルト・ヴェガ中尉。どうやら、月でのビグ・ザムからの脱出は上手く行ったようである。

 C.D.Aでの経緯からロベルト中尉とアインス・アールのパイロットだったヤヨイ・イカルガとの関係が気になっていたが、アインスから脱出した彼女を回収し、現在はN2の総合病院に入院中の彼女によく付き添っているらしい。だんだんとエゥーゴシンパが月、Nシスターズへの流入を行ってきていることは悩みの種で、都市内での反地球連邦政府運動―――まだ署名活動など市民運動の段階だが―――も徐々に増えつつある。

「まぁ、光景を見てもらえば解るとおり、エゥーゴに援助している暇はありません。第一、エゥーゴの方でもこちら側の援助で部隊を形成するつもりはなくしてきているのでしょう?」

 クワトロはその言葉を鼻で笑った。こちらがエゥーゴに深入りするつもりが無いことは重々承知しているが、其処を何とかしたいとは考えているようだ。そんなクワトロに対してアポリーとロベルトの表情は複雑。無理もない。半年ほど前に視線を戦った相手に援助を求めているのだから、心情としてはそうならざるを得ないのだろう。

「君のところに何も渡せないのが嫌ではあるのだがな。スミレ・ホンゴウの持ち込んだガンダリウム・ガンマのデータ。既に君が持っていたことには驚きを隠せないのだが」

「チタン形の合金技術についてはジオン時代から注目していました。手間をかけずに出来うる限り質の良い装甲材を調達しようと考えるなら、チタン・セラミックにならざるを得ませんし。ただその場合、出力の向上を続けるビーム兵器と比べると装甲材には改良の余地があるんでしょうね」

 クワトロは微笑むと書類をこちらに回してきた。内容を斜め読みしただけで驚いた。エゥーゴの採用するMSに関するデータの、現状における最新情報だったからだ。ここまでこちら側に情報を流すと言うことは、よほど支援を得たいらしい。

 書類の内容と84年から5年にかけてのMS開発史が関わるため、そこも合わせて筆を進めることとしよう。

 連邦軍は84年6月17日に通常議会で決議された予算案に基づき、現在の主力機であるRGM-79Cジム改をRGM-79RジムⅡへグレードアップすることに決定した。といっても新規製造については翌々年以降の議会決定及びMSの開発状況次第とし、現在使用されているジム改を改修し配備することに決められた。また、地上軍においてはMSG-01リオンを、ティターンズにおいてはMSG-02リーオーをそれぞれ採用させ、戦力として運用する事を決定している。

 また同時に戦場での所属識別の簡易化と軍需産業への市場分割の要請もあり、サイド1、ザーン共和国向けにアナハイム社がRGM-79Qジム・クゥエルを生産し、サイド2、サイド4、6の自衛軍用にネモを生産。一躍地球圏最大の軍需産業として名乗りを上げている。アナハイム・エレクトロニクスのMS開発はかなり多岐にわたって展開しているようで、ネモの改良機であるMSA-004ネモⅡも開発が既に進められているし、ネモ自体の各種任務用の派生型も研究が始まっている。練習用のT型ネモ・トレーナーやK型ネモ・キャノンなどが早速計画段階にはいっていると言う。やはり、GP計画においてアナハイムが得た技術的経験はかなり大きかったようだ。

 6月17日決議においてはサイド3、ジオニック社でのMS生産解禁も決議に含まれ、ジオン共和国防衛隊用に、三年ぶりの新型機としてMS-106ハイザックの生産が認められた。ジェネレーターなどの主要部品については連邦軍にジムⅡ用のジェネレーターを収めているタキム発動機のものを用いるなど部品のジムⅡとの共用化が図られているが、戦後初のジオン系新型MSが誕生している。ところが、アナハイムの"ネモ"の大攻勢は、早速宇宙世紀の地球圏に軍需市場の競争化をもたらした。後にMS四大軍需工業会社として名を上げることになるGP、AE、ZE、AKDの四社であるが、アナハイムのネモがコロニー防衛軍という巨大市場を席巻し始めたことで危機感を持って新型機の開発導入に力を注ぎ始めているのである。

 ジオニック社はアクシズとのアムブロシアでの技術交流を下にアクシズの主力となりつつあるズサ系MSの計画を早々に決めると、連邦との条約に抵触するAMS-102A、大型ブースターポッド兼用のミサイルコンテナを搭載したズサ通常型の生産ではなく、小型汎用化を図ったC型以降の計画を始めた、とセシリア・アイリーンから連絡があった。ブースターパックを近距離での速度向上に用いて近接用の武器を強化したC型と支援用のK型を開発し始めたらしい。また、ズサの体格では対応できない敵機に対するため、ガザ系、ガルスなどのMSの開発を進めているらしい。

 連邦軍の方も軍参謀本部直轄の設計局が動き始め、既にジムⅡの後継機の模索が始まっているとのことだ。まず、GM2に変わる新型としてRGM-86GM3の開発が早まっている。ジェネレーター出力の劇的な向上こそ果たしていないが、重量の軽量化には成功し、機体各所にハードポイントを設置することで支援用の装備を可能とさせた新型機だ。そしてジャミトフから流れてきた情報によると、こちらの監視・妨害活動が離れた欧州ライプツィヒ研究所において高高度迎撃機としてギャプランの試作型が、また"ADVANCE OF Ζ"で描かれた各種新型MSの試験部隊が動き始めている、という話があった。

 調べてみると、エゥーゴの支持母体の政治団体の中、そして兵器開発予算の推進議員連盟の中にジョン・バウアー下院議員の名前を発見した。後に連邦政府タカ派としてロンド・ベルの設立にもかかわり、UC事件の際には移民問題評議会の一員として動く人物だ。まだ当選回数が2回の新人議員だが、アナハイム、ヴィックウェリントンなどの軍需機器メーカーの支持を背景に安定した基盤を築いている。将来のタカ派議員さんはグリプスで出世、と言うわけらしい。

 そしてトールが一番気にしているのが歴史にない新しい軍需産業であるAKD社だ。フランス系軍需企業という触れ込みと、AKDはアマンド・カマンド・デザインダストリィ社の略称だそうで、デザインダストリィなる造語は工業製品の新世界を創造し生産する企業へ発展したい、というストーリーになっている、と社外広報誌に社長のアマンダラ・カマンダラ氏の写真付きで掲載されていた。勿論信用していないが。天照・キングダム・ディメンスがアマンド・カマンドになった所で、どちらにせよN氏謹製デザインが登場してくることに間違いない。それは製品にも現れており、売りに出されたモビルワーカー・MWD-01アローンは早速その汎用性から広く採用されているし、その名前の英語表記が"Allone"であることから言っても間違いない。そのAKD社のMSD-01ガイラムがサイド5自衛軍に配備されている。

 エゥーゴが使用しているのはこれらのうち、アナハイムからの援助としてMSA-003ネモであり、史実との違いはない。しかし、ネモだけでは力不足が指摘されているのも史実と同じであり、特に性能向上型量産機の確保が急務、と言うことまで書類には書いてある。ちなみに、MSの型式番号は煩雑化を避けるためメーカーイニシャルを番号の最後につける、と言う形に纏められた。

「私たちが君の会社によるMS供給を切実に待っている現実を理解してくれただろうか?」

 シャアが問いかけてくるが、正直やりにくいことこの上ない。というよりもこの男がうちに常駐してからこっち、ポイントによる生成作業がぜんぜん出来ないからだ。下としてもいつの間に作っていた、と言われかねない。表面上まだエゥーゴとの関係は友好的にしておく必要があるし、この後、連邦の主流派にエゥーゴが取り込まれる事を考えると下手に対立するわけにもいかない。

「理解はしましたが、同様のMS開発ならばAKD社も出来るのでは?」

「そう、君が判断する理由を聞かせてはもらえるだろうか」
 
 ほらきた。こちらの発言の裏が読めるから、やりにくいのである。この3年間をエゥーゴ援助だけで使い切るつもりはないし、色々と手を撃っておきたいのに動けないのは痛い。こちらとしては連邦政府の恒星間移民計画を口実に、連邦政府の探査衛星派遣区域外にあるG158-27系、GC49系、グルームブリッジ1618系の、3つの15光年程度の距離にある整形のテラフォーミングに着手したいし、連邦政府の打ち上げた探査衛星が到達する前にプロキシマ・ケンタウリやバーナード系のテラフォーミングを終えてしまいたいのだ。そのために現在冥王星近域に宙間建造ドックを設営して外宇宙航行用の艦艇の建造をしたいのに、そのためのポイントの溜が出来ない。0083最後にポイントを使いまくってしまったたため、RPを溜める作業を再度行わなくてはいけないのだ。

 シャアの言葉に返答する気力がだんだんと失せてきたが、ここで下手な発言をして更にこちらへの興味を引かれても困る。どうせリック・ディアスの生産はアナハイムが行うだろうし、それでよいのではないかとも考えているが、ガンダム系MSの開発技術がこちらにあることも事実。アナハイムがどのようなMS開発計画を―――特に、Z計画に代表されるMS開発計画を遂行可能かどうかを見極めておく必要がある。

「こちらの試作機を回す、と言うことで宜しいですか。勿論、アナハイムとのバランスは考えます」

「結構だ。乗るのを楽しみにしている」

 シャアの返答に鼻で答えるとアポリー、ロベルト両中尉が眦を吊り上げるが、同じジオン軍だったとはいえ、MSの開発供給までこちらに負わせようとしているのだからこれぐらいの非礼は許してもらうとしよう。百式にするか。いや、アナハイムの開発とかぶった場合に怖い。"どうしてアナハイムと同型が云々"といわれても困る。

 まてよ。……クワトロ・バジーナと言いつつ"大佐"と言われて答えるところとか、正体バレバレなのに偽名を名乗り続けるところとか、あのキャラ、殆どキャラの造形シャアの援用だよな。となれば、其処から逆にたどらせれば良いんじゃないか。ふん。ここまでこちらを困らせてくれたから色々いたずらはするとして……たとえば戦闘に入ると通信波から大音量で特定の音楽しか流れないとか。

「まぁ、楽しみにしていてくださいな」

 いかん。笑いが抑えられない。そんな笑いに逃げ道を求めざるを得ない状況から、トール・ミューゼルの戦間期後半は始まったのである。



[26640] 第02話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00318802
Date: 2011/03/28 03:15

 0084年7月19日。あのシャアとの会話から一ヶ月あまり経ったが、状況は芳しくない。シャアはまだN1に居続け、こちらに対するエゥーゴの要求を繰り返している。お前仕事しろ、と言いたくもなったが、こちらの邪魔が仕事ならば仕事しているなぁ、と思いかけて考えるのをやめた。どの道、このままの状況では動きが取れないと仕方なく、エゥーゴの旗艦となる新型強襲巡洋艦"アーガマ"の建造を請け負うことになり、ようやくシャアがN1を去ったのが昨日のことである。

 強襲巡洋艦アーガマ級はMS8機を搭載し、運用母艦としての能力は高いが火力不足が指摘されていた船である。第二世代ガンダムの運用母艦として運用能力の向上に手を染めた結果、巡洋艦と言いつつ駆逐艦以下の武装しか持っていないようなのが悲しいところだ。しかし、このサイズでミノフスキー・クラフトなどの設備を維持しつつ武装を強化しようとすれば運用能力を犠牲にするほか無い。だからといってハイパー・メガ粒子砲はやりすぎだろう。

 仕方が無いためアイリッシュ級の設計を援用し、サイズアップを図ってから建造する形にしてみた。MS運用能力は連邦軍が採用したアレクサンドリア級に対抗する形で12機に拡大し、単装メガ粒子砲を連装化。シャッター格納型はオミットし、砲塔を搭載。艦後部のエンジン部分をクラップ級と同型化している。どこの"UCにもしアーガマ出たらこうだった"級かといいたくなろうが、まぁ仕方が無い。連邦軍艦政本部には"新型汎用巡洋艦のテストベッド"としての建造と書類を出し、表向き1隻、実は2隻建造している。

 MSの性能が劇的な向上を見せ、少なくとも1年戦争時の後期試作型程度の性能を持った量産型が宇宙にひしめいたため、それを運用する母艦戦力の再整備計画も今年度軍備予算で認可されている。ジオニック社は新型巡洋艦の建造計画を連邦軍に提出したが渋い顔で拒絶された。そのため、セシリア・アイリーンからは建造計画関係の書類をアクシズに回し、"エンドラ"級の建造を考えていると連絡があった。また、サラミス級の力不足が指摘されるようになっているが、代替艦艇が見つからないため現状運用し続けるが、出来れば後継艦に移行したい、という艦政本部が要望しているらしい。どうやらアレクサンドリア級は建造次第全てティターンズに引き渡されているらしい。

 こうした地球圏規模での軍需拡大に比例する形で旧式軍需機器の民間放出が進み、特に旧型化した初期型ジムの武装を廃したモビルワーカー、"ジム・ワーカー"は値段も手ごろとあり、AKD社のアローンと市場を二分している。火星開発計画にも多数が投入され、恒久都市建設が地球圏に新たなバブル経済をもたらしている。

 さて、こうした地球圏の拡大に合わせて、シャアが居なくなったことでこちらも体勢を整える暇が生じた。まず火星の衛星に存在したプラントを海王星に移動させ、海王星のマントル部分から資源供給を受ける形でのRP生成を実現させた。正直、0083で得たポイントで使える分ギリギリの線だったが、これから恒常的にRP供給を受けたい側としては地球からの探査を避けられる点がありがたい。こうした悪条件の惑星での資源調達は今まで避けてきたが、スター・ウォーズ系の技術を得た今となってはそれは簡単で、むしろいかに地球から見つからないかだけが焦点になってきている。

 GP社の安価で高品質の製品には実はRPの恩恵がかなりあるし、それによってポイント的にも今まで助けられてきたが、そうした助けを"整合性"との戦いのために使いまくってしまった0083は今から考えると反省点も多い。しかし、ポイントをかけただけはある未来技術を用いての勢力拡大はこれからも必要になってくるだろう。

 地球圏はあと三年で第二回目の大混乱に陥ることになるのだから。



 第02話



「本年度決議、本当にありがとうございました」

 地球連邦政府の首都、アフリカのダカールにある高級レストランの個室にて、トールは数人の人物と食事を共にしていた。現在時は0084年8月1日。前日まで続いていた第一次補正予算の議論が昨日議決を迎え、予算発効が確認された翌日のことだ。この第一次補正予算では火星移民の中心となるサイド2の空きコロニーを改造し、外宇宙航行用の船舶にする予算が組まれていた。"マクロス"計画の名前の下に案が議論されている計画は、コロニー3基を連結させた形の移民・調査船舶を建造し、亜光速で12年の航海の後、テラフォーミング可能な惑星が存在すると見積もられている太陽系にもっとも近い恒星系、プロキシマ・ケンタウリに向かう予定だ。

「なんの。君にはいつも世話になっているからな。しかし、技術的な問題は本当に大丈夫だろうね?」

 答えたのは連邦議会に今会期より参加している新人下院議員、ゴップ氏である。勿論今回83年12月を以て退役したゴップ元大将だ。現在は新人下院議員ながら早速予算委員会の理事に名を連ね、連邦政府の予算管理の一翼を―――本当のところ、それどころではすまないが―――担っている。政権与党、連邦共和党グリーンヒル派に所属し、既に会派の中では大きな力を振るい始めている。

「それについてはまだこれから解決するべき問題もありますが、まずは調査事業の方です。しかし、アナハイムの"ネモ"。意外に市場を拡大しているようですが、大丈夫でしょうか?」

 ゴップは酒を口に運びながら笑った。

「そうでもない。これについては移民問題評議会からの横槍があった。現在、共和党首脳部と評議会の連中は喧々諤々の論争をしとる。"クゥエル"の売り先としてサイド1が決定した際にGP社にリベートを払った問題もあるし、常務のオサリバンがジオン残党と接触を持っていたスキャンダルもある。まぁ、連邦検察庁の調査の結果無罪とわかったようだがな。そうした関係でアナハイムに巨大市場を回すには問題があったが、最後の決め手はやはり"ネモ"、だ」

 ゴップは解るだろう、と言いたげにこちらを見てきた。事情はすぐにこちらにも理解できた。"ネモ"の性能がジムⅡと殆ど同じで部品も共用しているだけでなく、性能が一部ジムよりも劣るから、と言いたいらしい。確かにネモは本来ならばムーバブルフレームを採用した最初期の機体の一つであり、操縦特性はマイルドであり、実戦経験の少ない新兵でも簡単に操縦できるなど、量産機としてのパフォーマンスは要求水準をほぼクリアしていた傑作機だ。しかし、だからこそ値段が少々張るし、それらの特性とジムⅡ最大の売りである調達値段を考えた場合、性能に値段ほどの誤差がなくなってしまったのである。しかも、御丁寧に他サイドへの侵攻の際に必要となる燃費と航続距離はジムⅡよりも低いのだ。

 つまり、今回の"ネモ"の大増産の目的はアナハイムを儲からせることにはない。連邦政府が各コロニー政府に抱える債務と軍事力のコントロールが問題なのだ。コロニーが独立を狙って軍備拡大に走った場合、まだ連邦政府への債務を完済していないサイド2以下の政府は更なる金銭的援助を連邦政府に要求することになる。となれば地球連邦政府はコロニー共和国を債務で縛り上げることが可能になる。

 それだけではない。今回の決議で各コロニー政府に認められたのはMSの装備に関しての条項だけであり、宇宙艦船装備の条項は次年度議会へ延期された。サイド間移動が無理であるMSを装備してしまえば、最悪サイド内での内戦状態が勃発するだけであり、そうなればティターンズの介入が容易になる、と言うわけだ。一年戦争、及び今回のデラーズ事件のおかげで連邦政府が各サイドに抱えさせている債務の多くは返済されてしまった。債務が完済されてしまえば独立を認める他は無い訳で、コロニー政府を縛る格好の材料になる。

 其処まで考えを進めるとゴップはため息を吐いた。

「勿論わしだってそういう政策が長続きするものでないことは知っておる。しかし、火星植民が軌道に乗るまではこの政策で宇宙民のご機嫌を取りつつ、不満の種となっているコロニー居住者の火星への移動を考えるほか無いだろう。その点で、君の奥さんには3年後を考えて努力してもらいたい」

 そのゴップの言葉に私はぞくりとした。三年後、0087年。まさか……

「債務完済を待つ事無く幾つかのコロニーで軍事蜂起が生じた場合、デラーズ事件のバスク大佐の対応を見るとティターンズが暴走する可能性もある。そのときに、ジャミトフが望めば連邦軍はティターンズの指揮下に入る可能性がある。君には、その際に動いてもらう必要がある。月方面軍を大統領府直轄の戦力として編成する案が既に出ている。来年の大統領選次第だがな」

「最有力候補はレビル将軍ですか」

 ゴップは頷いた。

「君のところからわしのところに秘書として派遣してもらっとるカトル君だが、そういう事情だから返せそうにない。大統領選を戦うとなれば選挙資金はいくらあっても足りるものではない。勿論、月選挙区のミラン議員やグリーンヒル派にしてもそうだ。ティターンズが宇宙軍の制式艦艇としてアレクサンドリア級の採用を求めてきているが、どうだね?君のところから何か推薦は可能か?出来るならばヴィックウェリントンに話を通しておくが」

 カトルくん―――ラバーハ・ウィナー大尉は現在一時予備役に入り、マネジメントの才能を買われてミツコさんの下で資金調達とM&Aに動いていたが、ゴップ大将が選挙戦に打って出ると言った際に、選挙資金担当の秘書としてゴップ大将の下に派遣したのだ。政治が基本金銭で動く以上、金銭的な縛りをグリーンヒル派にかけておくことは必要なので、致し方なく了承した。

 本当ならセイラ・マスを送ろうと思っていたのだが、流石にスキャンダルが怖い、とゴップ大将に言われては仕方が無い。もっとも、セイラを送ろうとしていたのはミツコさんで、話がお流れになった際には憤懣やるかたない表情になっていた。一年戦争のころからセイラを警戒しているらしいが、流石に心配のしすぎだろう。自分としても好意はうれしいと思うが、ハマーンにミツコさん、セニアという付き合いがあるのに増やすとか自殺行為だ、と思わないでも無いし、そもそもシャアが兄と言う時点でない。其処のところは充分に理解しているはずなのだが、どうも気に食わないらしい。この頃はそれがハマーンにまで伝染している。

「解りました。案を出しておくよう、レンジさんに御願いしておきます」

「頼むぞ。それに、エゥーゴとかいう反地球連邦政府運動を一色だけに染められては適わん。アナハイムは其処がわかっとらんようだな」




 同日、アステロイドベルトのジオン残党軍拠点"アクシズ"に二隻のグワジン級を主力とする部隊が入港した。入港したグワジン級の名前はグワデン及びグワンザン。ユーリ・ハスラー少将率いるアクシズ先遣艦隊の帰還である。ハスラーはガトーたちを伴うと一直線に軍港から司令区画へと移動した。

 0072年に完成したアクシズはアステロイドベルトを通り木星に向かうジオン木星船団の中継基地として、またア・バオア・クー、ソロモンなどの材料となった小惑星を地球圏に回航する際の基地として開発されたが、0078年に開戦が決定すると軍事基地化が進められ、0079年12月に到着したマハラジャ・カーン中将の船団が運んできた物資によりその設備は拡大・拡充された。一年戦争の敗戦後、0080年8月にドズル・ザビ中将を中心とする脱出艦隊が、総計4万人に及ぶ軍人及び避難民を載せて到着すると元からの居住区画では生活環境を整えることが出来ず、近傍空域に存在した球状の小惑星モウサを連結させ、居住区画の拡大を行い、現在、約5万名に及ぶ人々が生活している。

 ジオン残党がアステロイドベルトでの生活環境を整えていく一方、脱出した艦隊の兵員とアクシズに元からいた基地要員とが混ざり合うと、アクシズ内部の勢力は急速に二分されていくことになる。どちらも頂点にドズル・ザビを掲げてはいるが、一方でアステロイドベルトでの生活環境を整えて地球圏での政治的混乱を待ってから地球圏への再侵攻を掲げる穏健派と、戦力再編後すぐに地球圏への帰還を主張する過激派が対立を始めたのである。

 穏健派はマハラジャ・カーン中将、そしてハスラー少将など上層部を中心としていたのに対し、過激派はサイド3駐留の本国防衛隊勤務であったエンツォ・ベルニーニ大佐を中心として気勢を上げることになる。元々アクシズは一年戦争を経験しておらず、一年戦争後期の敗戦についてまともな知識を持っていたものが少なかったこと、及び、本国防衛隊や月駐留軍などの実戦経験が薄い部隊が中心となっていた脱出艦隊の兵員にはデギンの降伏を本国政府のダルシア・ハバロ首相らにそそのかされてと見る向きが多かった。また、連邦軍が無防備なサイド3への直接侵攻をかけたことに対しても"卑怯"と断じている。

 そうした対立状態は過激派に傾くきっかけとなったのがデラーズ事件だ。地球圏に残るジオン残党の脱出、という作戦の主目的は巧妙に隠蔽され、地球に対する再度のコロニー落しと言う側面が強調されて伝わった結果、過激派は"デラーズ中将に続け"と更なる気勢を上げる結果を招くこととなったのである。0084年の8月1日現在、デラーズ事件に乗じてドズル・ザビを推戴して実権を握ろうとしたエンツォ大佐のクーデターは失敗したが、アクシズ全体の空気は過激派側に傾いていた。

 そんな状況のアクシズに、ハスラーたちは帰還したのである。

「ご苦労だった、少将。久しぶりの地球の姿を後で兵士たちに見せてやってくれ。そしてガトー……久しぶりだな。お前をトールの所に派遣して以来か。デラーズの下での活躍は聞いている。その手腕、アクシズでも生かしてくれ」

 ガトーは敬礼する。みるみるうちに両目には涙がたまる。ドズルは力なくため息を吐くと巨体を玉座に沈めた。

「なぜ泣く、ガトー」

「閣下!……私は、生きていた事をうれしく思った日を近々、数日続けてまいりました。しかし、本日は……」

 ドズルは頭を横に振った。

「それ以上言うな、ガトー。言ってくれるな」

 ドズルは立ち上がるとガトーを謁見室の後方にある応接室に招いた。この応接室、ガトーは知らないが、既にドズル配下の手によって"掃除"が済んでいる。トールが看破し、デラーズが絶望したように、既にジオンの目的は地球圏に対する復讐にあり、宇宙移民やジオン公国の独立には無い、これ以上無いほどの証拠だった。ガトーは数日後、それを知ることになる。

「トールに会ったか」

「はっ」

 ドズルは頷くとソファに座る。ガトーにも席を勧めた。

「アレには色々と教えられた」

「閣下の正しさは理解できているつもりです。しかし、自分個人の感情としてはまだ解決できていないところがあります」

 ドズルは鼻で笑うと言った。

「ミネバがギレン兄貴やキシリアのニュータイプ研究の素材と見られていたことについては聞いたか」

 ガトーは頷く。

「事実だ。わしはソロモンで思い知ったわ。肉親ですら信じることが出来ぬ戦争など戦えぬ。肉親すら信じることが出来ぬ国家に勝利などおぼつかぬ。ガトー、ギレン兄貴に近かったお前の気持ちが整理できないのはよくわかる。しかしな、お前が今も尚、スペースノイドの本当の意味での自治権確立を信じるならば、ジオンだけに視点を置くな」

 ガトーは同じ内容を10ヶ月前に聞いた事を思い出した。ドズルはガトーの表情からそれを察したらしく、話を続ける。

「理想だけでは腹は満たせぬ。理想だけでは満足できぬ。スペースノイドの自治権確立を可能性だけ見せた上で暴虐に走ったのが一年戦争のジオンよ。ギレン兄貴、キシリアのどちらかが戦争開始前に欠けていれば話もまた違ったのだろうがな。しかしあの二人が並んで存在したことは、あの二人に連なるものたち以外には悲劇だった。ガトー、お前をアクシズに派遣したトールの考えをよく思い返すことだ。連邦でもジオンでもないなら一体何であるべきなのか、スペースノイドの自治権確立のためには地球に対する戦争しか無いのか。お前には、それを思い、為せるだけの力がある」

「しかし、それこそ閣下の!」

 ドズルは大きくため息を吐くと首を横に振った。

「それはわしの役割ではない。ん?」

 ドズルはインターフォンがなっている事を確認するとカメラをつけ、尋ねた人物の顔を確認するとドアのロックを開いた。ガトーの後方から入室する者が二名。男女一名ずつ。両人共に20代後半のようだが、どちらも知らない……いや、女性の方には見慣れた雰囲気がある。あれはどこだったか、とガトーが思い返すまでもなく、彼らの方から口を開いた。

「マレーネ・カーン大佐です。少佐、初めまして。地球圏で妹に会われたかと思います」
 
 その言葉で得心がいった。ああ、そうだ。閣下の近くにいつもいる、あの桃色髪の少女に似ていたのだ。姉と言うならば当然か。ドズルに顔を向けるとどこか困った表情になっている。

「いや、なに。少々事情があってな。中佐も自己紹介を」

 金髪の中佐はガトーに向き直る。ガトーはあわてて敬礼を行う。軍隊では階級が下のものから敬礼を行うことが鉄則だ。意外な人物に対する驚きからそれを忘れてしまったが、金髪の中佐は口元をゆがめると許すかのように答礼し、名乗った。

「ドズル閣下直属の部隊としてMS大隊"キマイラ"を率いているジョニー・ライデン中佐だ、"真紅の稲妻"などと呼ばれている。"ソロモンの悪夢"と会えて光栄だ」

 



[26640] 第03話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00318802
Date: 2011/11/23 19:19

 どうしてこうなった。

 そう思わざるを得ない状況が現在、0084年8月2日の連邦首都ダカールの高官用プライヴェート・ビーチで展開されている。落ち着け。素数を考えるんだ。元々デラーズ事件の後始末や、グリプスからシャアの反乱以後までの連邦政府の基本姿勢を決定する84年決議の調整にここ10ヶ月使い、それが一昨日の第一次補正予算案の議決でどうにかなったから、デラーズ事件以来のみんなの労を報いるためにこのダカールのビーチで海水浴を企画した。よし、そこまではいい。

 そしてビーチとくれば考えるのはアニメでいう水着回だ。登場するヒロインたちがまぶしい裸体を申し訳程度の水着で飾り、美を競う場になるはず。そんな、これなんてアニメ、とかこれなんてエロゲ的なほんわかした夏だけに暖かい雰囲気を望んでこれを企画・実行したはず、そのはずだ。実際、ハマーンは大胆な黒ビキニとパレオをまとい、ミツコさんは三角ビキニ、セニアは意外にグラマーな肢体をAラインで飾っているし、テューディは大胆にもスリングショットで着飾ってきた。もう、キタコレ的なノリだったはず。

 ああ、あちらではアクセルがレモンさんとラミアの間で死にそうになっている。自分が言えた義理ではないがそのままモゲてしまえ。え、東方先生?ふんどしに固めているのはまだ良いとして、何こちらに良い笑顔を向けてくるんですか?シーマ姉さんとソフィー姉さんはプルシスターズを引き連れて完全に小学校の海水浴教室のノリになっている。海兵隊の連中はいつものノリで海の家を始めやがった。貴様ら文化圏違うだろ、という突っ込みがしたい。……あ、そうだ!我が妹セレインならきっと何とかしてくれる……

「シグ、こっちだ追いついてみろ!」

「バカ!セラ、俺の財布を返せ!」

「待ってシグ、セラ!」

 だめだった。なんかもう、だめだった。渚で追いかけっことか何年代の漫画だ。というかなぁ、妹として育ててきたし、シグとはくっつくんだろうと思っていたからいまさら如何こう思うわけ無いが、やはり妹の彼氏に感じるこの兄の不安感と言うものは度し難い。しかも、いつの間に知り合ったのやらファーレン大佐の娘さんまで合流しているし。シグの奴、ただ日常を過ごしているだけでモノアイガンダムズの初期イベントフラグを構築したのか。なんて恐ろしい子!

 ちなみにラインハルト君はショタなお姉さんたちの争奪戦の的となり、ビーチバレー大会の商品として首から下を砂に埋められていた。最初からトールに期待されていなかったのは、来たときから既に海パンの上からしばられていたからである。当然、トールが助けることは無い。……あれ、セシリアさん。仕事良いんですか?あ、お呼びで無い?失礼しました。

「何処を向いているの、トール?」

「せっかくお誘いいただいたんですから楽しみなくてはね?」

 ヒイッ!?背後のパラソルから黒い雰囲気が怖いですよハマーンにミツコさん!……まぁ、こうなるかなぁ、とは思わないでもなかったけど……

 恐る恐る振り返ったトールの視界には"5つ"のビーチベッドに横たわる美女たちがいた。うち4人は上でも紹介したミツコ、ハマーン、テューディにセニアだが、一人だけ、金髪の女性がちょうど中央に陣取り、パラソルの影から太陽を見上げている。ああ、勿論サングラスをかけて。髪型はモモカットとくれば、この面子で絶対に会いたく無い人間の出来あがりである。

 何処から聞きつけてきたのか、本日朝にビーチに先陣として陣取っていた女性はパラソルやら何やらを持ち、遊山に来た集団を見ると、淡々と言ったのだった。曰く、"お先に失礼していますわ"、と。

 セイラ・マス。満を持しての登場である。

 厄介者で鬼っ子の兄貴が消えたら、今度は妹かよ。と思わないでもないトール・ミューゼルであった。




 第03話




 そういったのんきな会話が億単位のキロメートルをはさんで行われているとは露知らず、アナベル・ガトーはアクシズ内部のMSデッキを見回していた。グワデンから搬入された自分のMSを確認するためだ。アステロイドベルトに出発する前、トールが用意してくれた新しいMSはOMS-18RF、リファイン・ケンプファー。実弾装備をショットガンに限定し、ビームライフルを装備し装甲を強化した中・近距離戦用機だ。現在、ガトーのパーソナルカラーである青及び緑のツートンカラーに塗られている。

「良い機体だな、ケンプファーの改造機か」

 背後からの声にガトーは振り返る。ライデン中佐が口元に笑みを浮かべてたたずんでいた。ガトーははっとすると自分のケンプファーの横に鎮座しているMSに目を向けた。どうやら、この赤い機体はライデンのものらしい。

「少佐は一年戦争でガラハウ中将の下で戦ったらしいな。話を聞かせてもらえると嬉しいのだが」

「中佐は中将を御存知でしたか」

 ガトーは眉根にしわを寄せる。地球圏を離れる際、彼の行動を邪魔する存在がいることは聞いている。恐らくアクシズにもその勢力を拡大している可能性も。ガトーはトールからアクシズへの派遣を要請された際、その脅威からドズルとトールのやろうとしている事を守る事を次の自らの任務として課していた。当然、そういった経緯から、トールに関する話題を振ってくる相手には注意を向けてしまう。

「そんな顔はしないでくれ。カーン大佐……いや、マレーネが世話になったのでな」

「どういうことでしょう?」

 ライデンは笑うと一年戦争前の話を始めた。カーン家の長女と知らずハイスクールで付き合いを始め、それが何とか、大学に進んでからになって実りそうになったところでのドズルからの愛人話。引き裂かれそうになった男女を救った一人の少年の話だった。ガトーの警戒はあっという間に消え去った。この話はドズルから自嘲気味に、トールからは苦笑気味に聞いたことがある。そういえば、その話からハマーン嬢と閣下の関係が始まったのだったな。そういった感慨に満ちたガトーは表情を崩す。

「一年戦争の際にはお世話になりました。デラーズ・フリートやジオン軍が勢力を保ったままア・バオア・クーを脱出できたのは閣下の功績です。この機体は地球圏離脱の際、閣下の姉君、シーマ大佐に贈られました」

「俺も一度、会いたかった。マレーネを救ってくれた人だからな。一年戦争中には共に月にいたし、一時期部下として所属していたこともある。お会いしたかったが……まぁ、俺より若くて中将と言うので少し、物怖じしていたところもある。ア・バオア・クーでは残念だった。ガトー少佐はコロニー防衛戦で閣下を撃墜したMSと遭遇したと聞いているが?」

「連邦軍のガンダムと交戦を開始した隙を見計らって連邦軍の追撃阻止に向かいました。個人としての情実を優先させる場ではありませんでしたので」

 ガトーは一瞬、トールの生存を話しかけたが思いとどまった。話を打ち明けるに問題はなさそうだが、話が何処から漏れるか解ったものではない。少なくとも、ドズル閣下の確認はとっておくべきであるし、アクシズの現状についてトールに報告した後でも遅くは無いと思い返す。ともかく、この話を続けるわけにはいかなかった。何処からぼろが出るか知れたものではない。ガトーは改めて赤いMSを見上げると言った。

「このMSは中佐のものですか」

「ああ、AMS-112HM、高機動型シグー。俺の愛機だ」

 ライデンはガトーに頷くと首を振った。付いてこいと言う合図だ。ガトーは彼に続いてMSデッキから格納庫の方に移る。格納庫の方に移ると、作業用らしきMWが鎮座するスペースに続いてMSの生産ラインの終点に直結しているらしい格納庫が見えてきた。其処に並ぶMSは、ザクの面影を残しているがザクではない。モノアイカメラはジオン系MS全体の特徴だが、大きく鶏のような鶏冠が付き、背面部には翼のようなスラスターユニットが装備されている。

「アステロイドベルトは重力が複雑に絡み合う空域だからな。ザクではこの空域は辛い。最低でもドムでなければ動けん。脱出艦隊が持ってきたザクを改装する形でこのタイプに収まった。今のアクシズの主力量産機、AMS-111F、ジンだ。長距離通信用などの多機能センサーアレイを装備しては、流石にザクは名乗れん。しかし、良い機体に仕上がっている。本家ザク以上の多彩な装備を持っている点は誇っていいと思う」

「解ります。各所に増設されたスラスター類を見ると機動力が桁違いに向上しているでしょう。ただ、ザクの骨組みで持つかが微妙なところです」

 ライデンは頷くと生産ラインを示した。生産ラインの奥は廃棄場になっているらしく、そこに先ほどと同じジンがばらばらになって放棄されている。

「超硬スチール合金製ではもう限界なのでな。ザクの改装で試験した結果、モノコック構造が持たないので装甲を新素材に変更した上でムーバブルフレーム技術を用いている。ジオングに使われていた奴でな。グラナダから撤退する際に持ってきたのが役に立ったようだ」

 ジオングの名を聞くと同時にガトーの表情が曇る。ジオングはトールが死ななければならないきっかけとなったMAだ。あまり良い気分ではない。それがたとえ、ジオンの名を冠したMAであっても。ジオングの開発はガラハウ閣下の月工廠だったはずだが運用はギレンが徴発して、だったはずだ。建造がどこかまでは知らないが、閣下の事情からしてニュータイプの戦争投入を加速させるようなモビルスーツ開発で盗用されるようなものは避けるはずだ。となれば、キシリア、か?

「どうした、少佐?」

「いえ、大丈夫です。中佐、地球圏に来られたハスラー少将の先遣艦隊はザクとドムを装備していましたが、やはり?」

 ライデンは頷く。

「連邦軍には可能な限りこちらの戦力を秘匿しておく必要があるからな。わざわざザクとドムをそこらじゅうからかき集めて持っていった。ドムは既にアクシズでは作業用になってしまっているから、武装を用意するのが手間だったぞ。勿論ザクは廃物利用だ。ハスラー提督が兵員の回収を最優先させた理由は其処にもある。勿論兵士の命は兵器などに代えるべくも無いが」

 そういって笑うライデンにガトーも釣られて笑う。そこに通りかかった年嵩の士官が敬礼を行う。首の階級章は中尉。しかし、胸に下げる勲章には降下作戦参加章や戦傷徽章などがある。どうやらこの男も一年戦争以来の勇士らしい。

「"キマイラ"大隊第3中隊第2分遣隊、"シュネー"隊隊長エリッヒ・ヒレンベランド中尉であります!」

「元親衛隊第一艦隊、第301戦闘中隊長、アナベル・ガトー少佐だ。よろしく、中尉」

 目の前の人物が名高い"ソロモンの悪夢"と聞いてヒレンベランドの目が見開かれる。しかし、すぐに表情を固めると最敬礼を行った。

「ヒレンベランド中尉は歴戦の狙撃手だ。私自慢の部下の一人だよ。アクシズのMS隊はジンへの配備転換もあって現在色々とごちゃごちゃしていてね。所属などで問題や何か要望があるようであれば言ってくれ。アクシズのMSについてはギワザ大佐が生産を管理している。装備関連で何かあれば彼の方に回って欲しい。……まぁ、地球圏でのタフな仕事の後にこちらに来てくれたのは幸いだ。共にジオンのために戦おう」

 ガトーは頷くとこう、切り替えした。

「はっ。スペースノイドの自治権確立のため。またドズル閣下、ガラハウ閣下のため。このガトー、一命をかける所存です」

 その答えに満足げにライデンは頷くと背を向けて歩み去った。ガトーがこの時、彼の表情を見ていたならば、早速詳細な報告をトールに伝えたことだろう。他人の恋路に首を突っ込むなど考えもしないガトーはジンとシグーの事、マレーネがアクシズにいることのみを伝え、トールは"整合性"がアクシズの戦力を強化している可能性とマレーネがいる理由に思考をめぐらせた。しかし―――

 既にそれ以上の深さにまで浸透が開始されていたのである。




 元アナハイム社常務、現在はGP社サイド自衛軍担当取締役となったオサリバンは社長以下経営の最高責任者不在のN1本社をよく収めていた。流石にジオン残党を相手取ってまで商売を試みようとし、フォン・ブラウン市に圧力をかけてまでコロニー推進用レーザーを動かせた経歴を持つだけあり、その手腕に否やは無い。火星軌道に建造が進められているサイド・マーズ1には既にGP社のリーオーが供給の確約を取り、自衛軍設立―――実際には派遣された連邦軍であるが―――と同時に納入の予定まで取り付けている。

 サイド1、ザーン共和国に対するジム・クゥエルの納入をアナハイム社での最後の仕事としてGP社に専務取締役待遇で移籍した彼を待っていたのは、大量のジム改である。勿論、我らがゴップ大将が、サイド自衛軍と言う大きな市場をアナハイムに提供したこととバランスをとるために連邦軍のジム改のジムⅡへの改装を大量にGP社に発注させたためだ。販路を新しく開拓する必要が無いことはオサリバンをして少々物足りなく思わせたが、アナハイム、フォン・ブラウン本社から大量に引き連れてきた女性エンジニアたちの働きもあり、かなりのペースで解決が進んでいる。

 それだけではない。既に月極冠都市連合と連邦の月方面軍から、現在の主力機ゲシュペンストに続く後継機の開発・生産まで求められた。現在地球にバカンスに行っている設計局主事の二人の女性――双方共にあの中将の愛人と言うから笑えない話だが――が担当するので納入の予定をつめておけと言われたが、そちらの方は二人が帰らない限り仕事が進まない。オサリバンとしてはせっかく力振える喜びで移籍してきたのに、少しばかり物足りない日々を過ごすこととなった。

 そんなある日、具体的には0084年8月2日。この軍需産業という寡占形態が基本の業界に新しく打って出ただけでなく、既にサイド5の自衛軍から機体の納入を勝ち取ったAKD社の重役がこちらに来ると言う。連絡があったのは昨日のこと。まだ社長や専務にも連絡が取れていない。

「失礼致します、専務。AKD社より設計局長のソープ女史が御来訪されましたが」

 スーツに身を包んだ秘書が入室するなり報告した。事ここにいたってはどうしようもない。要望である月本社工場の見学は、一般と同じコースで如何にかするしかないようだ。

「これがGP社の生産ラインですか。……へぇ、リーオーもリオンもモノコック構造なんですね」

 女性の声が生産ラインの喧騒に混じりながら響く。クレーンの音や機械音にともすれば消されがちになるのが人の声だが、甲高い女性の声と言うものはこういった場所では通りが良いらしい。

「ええ。アナハイム社がムーバブルフレーム技術を発表しましたが、当然そういった技術は高性能と引き換えに生産性の低下をもたらします。性能面での劇的な向上を目的とするので無ければ、大量生産にはモノコック構造の方が優れている側面もありますし」

 ムーバブルフレーム技術を用いたMSとモノコック構造のMSの最大の違いが、生産性の高さとそれに比例する機体価格の差だ。ネモは新造した場合、ジムⅡの1.5倍の価格になるが、性能はジムⅡの2割り増し程度で、ジムⅡの殆どがジム改からの改装である点を考えると価格差は更に開く。だからこそジムⅡはMSの生産数としては破格の1万機以上の生産数に史実ではなったわけで、調達価格はいくら地球圏が好景気にあるといっても問題がある。

 実際、軍需企業がアナハイムの独占体制ではなく、連邦軍とアナハイムに加え、GP、ジオニック、AKDと三社増えたことによりMSの価格自体は低下傾向にあるが、今度は各社ごとにMSを発注するためにMS各機の生産台数が低下し、量産効果による値段低減に問題が発生している。現在の価格は史実よりも1割5分ほど低くなった程度。充分と言えば充分だが、思ったよりも価格は低下していない。その点では債務によるコロニー政府のコントロールを考えている連邦にとっては都合がいい。

「GP社では新型機の開発は行っているんでしょう?」

「とは言いましてもこの2機が現在売れておりますし、連邦軍からのジム改の改装もありますしな。新型量産機計画を進行させる暇がありません。社長やミューゼル専務は今現在、その必要性を強くは感じておらんでしょう」

 オサリバンは簡単な解説を行うが、発言した内容が行き過ぎの面もある。経営判断の面にまで踏み込んでいるからだ。しかし、オサリバンにとってはそれも考慮のうちにあり、この女設計局長を通じて情報がAKDに流れることで動く局面をあらかじめ考えてある。それに、新型量産機の開発を行わないとしても、現在のジム改の改装から考えて、後継機として開発されているジムⅢの生産にGP社が関わるであろうことはある程度予想がつくし、新型量産機を開発可能なクラスの試作機―――ビルトシュバインとヒュッケバインが既に月方面軍の艦隊では運用されているから、ゲシュペンストの後継機の開発は既に始まっていると言っても良い。

「しかし、リーオーにリオン、かなりデザインが異なる機体ですね」

「機体形状による所属識別については連邦が煩いですしな。それに、リオンは航空機から発展した機体です。そうした形状の違いが出るのも仕方ないかと考えますが」

 言われた女性の方は少し考える風になった後に言葉を発した。

「それでもデザインにある程度の共通性は出るじゃないですか。けど、この二種類全くデザインが違うんですよ。中の部品構成も。設計局が二つある……それだけじゃないな。元になった技術が別個、なんてことありえますよね?」 

 オサリバンははっはと大笑いを始めるとはげた頭をなでた。

「いやぁ、申し訳ありません。流石に私は経営面が専門ですからな。MSの性能や用途と言ったところについては商品を取り扱う以上充分以上の知識は持っているものと思いますが、デザインや技術論まで行くとなると少しばかり厳しいですな」

 言われた女性の方もそうですね、と頷いて笑うと二人は歓談しながら生産ラインを部品生産部門のほうへ歩いていった。

 オサリバンは考えていた。社長やミューゼル夫妻から可能な限り設計局の人材については情報を公開するなといわれているが、それについては何とか守れた様でほっとしている。しかし、デザインの話からここまで踏み込んでくるとは如何したものかな。まぁ、だからこそ設計畑とある程度距離を持っている私が対応しているわけだが、いやはや、移籍したばかりではあるが、漸くらしい仕事が出来そうだ、と。

 女性の方は考えていた。これ以上踏み込むのは無理らしい。発言から考えても今すぐに新型量産機の投入を考えているわけではないということか。となれば気をつけるのは扱っているワンオフ機に絞れば良いということ。はぁぁ、イレーザーエンジンが使えればこんなこと考えなくて済むんだけどなぁ。でも、こちらにもそれなりの出力を持ったジェネレーターがあるから、それを使って作る機体を考えれば良いか。あ、ラキシスに何かお土産を買っていかないと。せっかく月に来たんだから、何かウサギに関係するものが良いかな。

 どうやら、月では第二の接触が生じていたようである。



[26640] 第04話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00318802
Date: 2011/11/23 19:20

「ん~、楽しい海水浴だったわねぇ」

「こちらは胃が痛くて仕方なかったけどな」

 0084年8月4日、ダカール市での夜である。昨日とどいたAKD社からの急な来訪の報告に対応するためミツコさんは今日の朝、ダカール宇宙港から月へのシャトルに乗って月へ戻った。グリプス戦役でのゲシュペンスト後継機の投入の可能性を考え、ヒュッケバイン量産化計画を進めるべくセニアもそれと一緒に戻った。ダカールでのバカンスは一日ほどしか時間が取れなかったが、火星植民が始まった段階で地球圏の治安がある程度改善することが見えてきたから、1年ぐらいの間は地球圏は現状維持でいいかもしれない。その間に外宇宙で出来る事をしてしまおう。

「飲んでないじゃない。飲めるお酒が普通じゃないからこんなところに来たんでしょ。ハマーン?……ありゃ、寝ちゃってるわ」

「飲みやすいからってアレクサンダー2杯にミッドナイト・カウボーイとバーバラなんてちゃんぽんはやりすぎだ。……明日大丈夫だろうな?」

 それぞれにベースとなる酒が違う生クリーム主体のカクテルだ。口当たりがよく乳飲料感覚で飲めるところは良いかもしれないし当然そうだから女性向だが、ベースはブランデー、ウォッカにバーボン、ダーク・ラムという重い酒。飲みなれていないハマーンが即座につぶれるのは無理も無いだろう。同じものを頼んで甘党と酒好きというむせ返るような趣味の連鎖を楽しんでいるテューディは何処吹く風だ。ちなみに前回つき合わされたときの反省を生かしてこっちが飲んでいるのはまだブランデー一杯だけ。飲む量の調整が出来る点でストレートは本当にありがたい。よし、以後この線で行こう。

「あんた全然呑んで無いじゃない」

「……前回で反省しました。テューディ、あの時は本当にすまなかった。話す機会が無くてこんな時期までずれ込んでしまったけれど、ずっと言いたかった。ずれ込んでしまって本当にごめん」

 テューディは笑ってグラスを開けると次のカクテルをバーテンダーに頼んでいる。次の品目はギャッツビー。これまた甘いクリームカクテル。デザート感覚で一杯飲むならまだしも、連続は辛いのだが女性にとってそれは違うようだ。

「気にしないでよ。却って迷惑。っていうかさ、トール。アンタ何から何まで自分のせいだって考えるのが趣味なわけ?それは謝っているんじゃなくて、自分の考えの押し付けよ。アンタはあの時操られていた。アンタはそれを知らなかったし教えてもらえていなかった。エゴの押し付けとまでは言わないけど、あんた女を背負い込みすぎよ?この上アタシまで抱え込んだら、あんたつぶれるわ。まぁ、それにもめげずに色々と粉かけているところは気に食わないけどさ」

「こっちにそうした意識は無いんだがな」

 テューディは鼻で笑うとチェイサーを口に運び、飲んだ。そして続く瞬間、こちらに少し、水をほうりかけてきた。顔に命中した水がそのまま下にたれ、現在着ているスーツをぬらす。バーテンダーがシェーカーを思わず取り落としそうになり、あわてて長柴近くに置いた。

「頭冷やして考えなさいな。昨日のセイラ、だっけ?忘れたとは言わさないわ。セニアは何も言わないみたいだけど、腹の中で何考えているかまではあんたの方も考えておきなさい。惚れさせた罰よ」

「反論できないけど、……酷いな」

「自業自得よ」

 テューディはあっけにとられていたバーテンダーをにらみつけ、カクテルを作り直させるとこちらに頭を預けてきた。香水はつけていないはずだが良い匂いがする。バーテンダーは気兼ねしたのか、カクテルを置くと別な客の方へ向かった。

「ヒュッケの量産はセニア任せ?」

「ああ。87年あたりの量産型はたぶんジムⅢになると思うけど、もしかしたらジェガンまでずれ込むかも知れない。だったら其処までは開発しておく必要があるから。だから、ジェガン系のMSの開発や対抗できるように第二期型モビルスーツまでは量産化できるような体勢を整えておく必要があるし。テューディ、どうかした?」

 テューディは首を振った。

「いいえ。ただアタシ、仕事していないなって。結局東方先生のあのビーム布の秘密は解らなかったし。新型量産機もセニア任せ、ガンダムもよ」

「だからこうして話してる」

 怪訝そうな顔でテューディはこちらの顔を見上げてきた。

「一機、頼みたい。流石にガンダム・チートを投入する時期が見極めが大事になるから。それに、反物質炉の精製に、現時点だと資源を使いすぎる。この世に存在する全ての物質、陽子と中性子からなる物質はポイント生成できるのに、反物質だけは専用プラントを作れ、とね。デュラクシールの対消滅炉で燃料生産のノウハウをテューディたちが持っていてくれたから良かったようなものだよ」

「あたしがやるなら、魔装機?なんにするの、イスマイル?ジンオウ?」

「キットを搭載するからガッツォーを」

 テューディは笑った。機体の選択は悪趣味と良趣味が半々だ。目の前の男が基本近接戦闘を得意としていることはわかっているし、そしてそのために流派東方不敗なんてわけのわからないオカルト武術を学んでいることも知っている。当然それが彼の命を何回も助けてきただろうことも。また、テューディにとってはセニア製のデュラクシールに先にマスタークロスを出されたことも気に食わない。アレだけ解析に集中したのに、対応していないはずのデュラクシールが先にマスタークロスを出すなんてどんな裏技?などと考えている。

 テューディはそうした対抗意識むき出しでトールの頭を抱え込んだ。やっぱりマッドには、作ったものを使ってくれる被験者がいないと話しにならないわ、などと考えているのだがそこはそこで如何だろうか。考えていることはトールにも

「任せなさいな。話に聞いたAKDのMHだっけ?一撃で如何にかできるようなのを作ってあげるわ」




 第04話




 地球圏の状態が小康状態に入ったこと、火星移民の開始で地球の目がそちらに向かっていることもあり、これまで火星恒久都市"セントラル・マーズ"の居住区に避難させていたゼナ・ミアとミネバを月に移した。ついでにサイド・マーズ1に避難していたマハラジャ中将閣下も同乗してもらい、ハマーンの妹セラーナと共に、久しぶりに月で家族の対面である。一年戦争末期にマハラジャ中将がアクシズに赴任して以来、三年ぶりの再会だ。

 久しぶりの家族団欒にぜひ参加して欲しい、と言われて参加したが、早速マハラジャ閣下に首を絞められた。勿論ハマーンに手を出していたことだろうと早速謝ると、どうやら違うようだ。

「何で君はうちの娘に手を出さんのかね!?」

「そっちですか!?」

 C.D.Aから抱いていた紳士と言うイメージはもろくも崩れ、この3年の間に一体アンタ何があったんだと問い詰めたくなったが、冷や汗をたらしている妹のセラーナ嬢が事情を話してくれた。どうやら、アクシズで姉のマレーネが恋を成就させたらしい。そのお相手の男性というのが少しばかりぶっきら棒な所があるものの好男子でありエースパイロットであるそうで、いまさら義理息子を持つ幸せを満喫しているので、地球圏に戻ったからにはハマーンを片付けて安心したい、というのだ。ああ、勿論セラーナ嬢のお相手が生じた場合には問答無用だそうだ。末娘に対する愛情は別らしい。

「うちのお父さんが本当にゴメンナサイ」

 セラーナ嬢は疲れ果てた様子だ。すっかり陽気になった父親の変化に最初こそ喜んでいたようだが、徐々にその陽気さがトラブルの種になってくると引け試薬に疲れ果てているらしい、と随行員から報告を受けた。トールは気遣うように声をかける。

「まぁ、セラーナ嬢は久しぶりだからね。流石にもうジオンも無いから、後は月でのんびり過ごしてくれていれば良いよ」

 その言葉にセラーナ嬢の表情が曇る。陽気な父親とは違って何かしら悩んでいることがあるようだ。やがて、意を決したようにセラーナは口を開いた。

「トールさん、ジョニー・ライデン中佐ってご存知ですか?」

「……知っている。"真紅の稲妻"と呼ばれるパイロットで愛機は高機動型ゲルググ。一年戦争中、一時期部下だったはずだ。といってもキシリアが私の指揮下に入っていた時期で、彼自身、グラナダから動かなかったはずだから直接の面識は無いけど、どうしたの?」

 セラーナは沈んだ顔で口を開いた。

「マレーネ姉さんの彼氏って、そのライデン中佐なんです」

 一息に名前を言う。は?ジョニー・ライデンがマレーネ・カーンの相手?ドズル中将の愛人問題のときに、当然マレーネの男関係の方は調べたが、相手はそんな名前じゃなかったはずだ。もし相手がジョニー・ライデンだと解っていたら、一年戦争中に絶対にどうにかしている。こちらの表情が変わっていくことで、何かしらの情報をもっているらしいと察したセラーナが言葉を続ける。

「会ってびっくりしました!面影が残っているのに、髪が明るい金髪になって、声が変わっていたんです!でも、姉さんを気遣う仕草とか、言葉遣いはうちに遊びに来たヘルマンさんのままなんです!」

 そうだ、ヘルマン・グラーフ。それが一年戦争の際に確認した、マレーネの相手の名前だったはずで、聞いたことも無い一般人だからほうっておいたはずなのだ。しかし、なぜそのヘルマンがジョニー・ライデンと名前を変えて存在する?ジョニー・ライデンに関してはガンダムも多くの作品が作られているから、この歴史のライデンが"どの"ライデンかはわからない。しかし、どの作品でもヘルマン・グラーフなどと名乗っていた経歴は無いはずだ。

 ちらりと後ろを見る。ハマーンは陽気な父親と何事かを話している。隠し事はしたく無いし、状況から言って伝えるべきだが、今はまずいかもしれない。こんな事を仕組むとすれば考えられる相手は一人しかいない。AKD社にしろアクシズに採用されたザフト系MSにしろ、どうやら予想外に手は伸びているようだ。

「解った、セラーナ。俺のほうで調べてみるから、少しの間ハマーンには黙っていてくれるか?」

 セラーナはうん、と頷く。どちらにしろアクシズに手を出すのに現状ではガトーを通す他は無い。もしライデンがあちら側だった場合を考えて対応策を撃っておきたいが、権力闘争が始まっているらしいアクシズで、政治的には如何見ても動きが鈍いだろうガトーと、象徴としてアクシズを抑えておくために必要なドズル閣下を不用意に動かすのは避けたい。C.D.Aあたりならクレメンス中将を送る形で如何にかしたいところだが、結局グリプスまで強硬派は抑えきれなかった。

 それに、別な問題もある。

「それじゃ、ハマーン、セラーナ。マハラジャ閣下と仲良くな。数日は家族水入らずで。……ハマーン、3日後にガーティ・ルーで出発するから、もし付いてくるなら準備はしておいてくれよ。それでは」

 ハマーンは頷くと、父親に抱きついた。





 カーン家の再会の場である部屋を出ると私はすぐにN1最深部にあるプラントへ向かった。既に海王星に設置してあるプラントとは別に冥王星にもプラントを設置するよう設定すると、冥王星プラントをワープポイントとして設定し、冥王星に外宇宙航行用船舶の発着場をポイントで設置する。次に冥王星軌道で待機させておいたオビ=ワン将軍の艦隊に通信をいれ、発着場に停泊させ、今まで呼び出したものの予備としておいておいたバイオロイド兵5万名を転送し、武器弾薬、装備、建設機械などの積み込みを開始するよう伝えておいた。

 宇宙世紀に入っても尚、人類が"実質的に"観測できる領域は地球から半径1000光年程度に限定されているし、光の伝える光景は1000年前のものだ。そんな、地球の現在の技術からすると隔絶した恒星系に拠点を作り、出来ればそちらに本拠を移し、地球圏での活動に絶対的な安全性を確保するのが今回の活動の目的である。スター・ウォーズ系の技術が可能にしたハイパードライブは、最大6万光年の距離を迅速に移動できる技術を可能にさせた。となれば、それを用いて0083で使いすぎたポイントを如何にかしておく必要がある。出来ることが際限なく広がったこととは別に、神の奇跡は縮小された、なんて事を思ったのは内緒だ。

 既にデラーズ事件終了直後からユラーレン提督の艦隊を用いて移転先の候補を詰めていたが、今回、知的生命体の存在が確認されなかったオリオン座リゲルを中心とする5恒星系に焦点を絞り、まずその中でテラフォーミングが最小限で済む星を一つ発見しておいてもらっている。リゲル1と命名されたその星を拠点として、設営作業を進めていくことになるだろう。

 海王星プラント、稼動中の木星プラントからのRP供給は順調で、冥王星プラントが動き出せば冥王星でのスター・デストロイヤーの建造が出来るようにする予定だから、まずは太陽系とリゲルの交通路を開削して資源の流通経路を確保しておく必要があるだろう。建造ドックの移動などはある程度目処が立ってからで良い。

「半径2000光年以内に高度知的生命体の存在は確認できなかったんですね?」

「ああ。その通り。勿論我々に観測できないほど高度な知的生命体が存在する可能性は否定できないけれど、第二次調査までで少なくともオリオン座方面にはそういったものは確認されていない。無限に広がる大宇宙の片隅には人間以外の知的なものはまだいなかったよ」

 そうコムリンクを通じて答えるのはジェダイ・マスター、オビ=ワン・ケノービ将軍。クローン戦争時代の姿で呼び出したが、持っている知識は反乱同盟軍時代のもの。だから、呼び出した直後にユラーレン提督と出くわした際には早速腰のライトセイバーに手をやっていたのは良い思い出だ。勿論、部下として配属されたクローン・トルーパーには良い顔をしていなかった。特にコマンダー・コーディとの仲は最悪だ。

「君が建設した冥王星基地では早速スター・デストロイヤーに物資の積み込みが始まっている。都合6隻に人員5万名、各種建設機械などを満載する予定だが、どうせリゲルに基地を作った後、近くの空域にプラントも設置するつもりなのだろう?5万もの人員を投入する必要があるとは思えないが」

「リゲルに基地を設置して体勢を整えたら、ケノービ将軍の仕事は近傍恒星系のテラフォーミングになります。要は宇宙時代の土木工事というわけで、今後5年以内に5光年以内の惑星のテラフォーミング作業を終えなきゃいけない事を考えると人員とRPはいくらあっても足りませんよ」

 そう指摘すると確かにそうだな、と頷く。独り言っぽく"まぁ、クローン兵もブラスター撃っているよりは建設作業のほうが平和だしいいことだね"と言っている。いいえ、マスター。ことはそれだけではすみません。最終的にはリゲルあたりに惑星国家を作ってもらうつもりです。

「そういえばデラーズ事件からこっち、冥王星の件はお任せ続けでしたけど、どんな状況です?」

「太陽光があまり届かないからかなり厳しい条件での作業になったし、いつでも撤収できるような設備を建設しておいてくれ、と言われたからまだ工事中のところも残っている。アクラメーター級アサルト・シップの量産体制を整備中。冥王星プラントで生産した物資、機器も輸送準備中だ。一段落するまで、海王星と冥王星のプラントのRPは全てそちらにまわすことになる」

 開発に向けた準備は着々と整っているようだ。リゲル1に基地とプラントを設置して開発準備を整えてしまえば、RPの安定供給を安全に行えることがうれしいが、現状では海王星及び木星プラントから入ってくる分をこうした宇宙開発に用いているから、RPを変換してGPにすることは難しい。

 樺太プラントが海水をRPにしてもいるが、あんまりしすぎると海洋資源に影響を与える懸念もあるし、冷却水と言う名目で取り込んでいる海水を放出していないことが判明した場合、その海水の使い道を問われても答えようが無い。ティターンズが設立され、地球圏での活動を強めている現在、バスクの奴は予想通り、管轄圏内でこちらに関わる部分に監視の目を張り巡らせている。月のNシスターズに隕石を持ち込んでRP分解できなくなったのもこのためだ。

 だからこそ火星や木星プラントでのRP変換が重要になってくるわけだが、そちらの方も火星植民の開始と木星圏とくればパプテマス・シロッコなどが動く可能性もあるからだんだんと縮小傾向にせざるを得ない。それゆえの外宇宙への拡大というわけなのだが、やはり手間がかかる。

「冥王星での船舶の建造はアクラメーター級だけですか?」

「いいや。汎用輸送用に90m級のGR-75を作らせてもいる。設計だけを考えれば使い勝手が良いんじゃないか?それに、もし観察されたとしても所属をごまかせる可能性が出てくる。地球でも売り出したんだろう?先ほどブロウニング主任が来て、再設計用のデータを持っていったよ。オリオン座リゲル進出後はカンサラー級クルーザーを主力に用いるつもりだ」

 GR-75はスターウォーズで用いられていた汎用輸送船だ。大量生産向きでたった6名の乗員で最大19000tもの物資を輸送できる。しかも、40名用の乗客スペース付きで、だ。乗客スペースを追加カーゴに設定すれば最大22000tの輸送力を持つ。勿論それは亜光速エンジンを用いた場合の話であり、現在の地球圏用に装甲材質とエンジン部分をデチューンすれば性能は落ちるだろう。ただ、無重力の宇宙の場合、重量は無視できるから輸送できる量が変わらないところはうれしい。

 カンサラー級は全長120mほどの巡洋艦でサイズが手ごろなことと高い汎用性を当て込んで導入を決定した。最小2名、積載重量がオプション・モジュールで変更可能な点など、使い勝手はかなり良い。

 現在の宇宙の物流は連邦軍が大量に放出したコロンブス級が基本だが、全長145mの全幅110mの双胴巨大カーゴベイをもつだけあり、大量の物資輸送が可能な反面、巨大すぎて取り扱いに困るのだ。とはいってもそれ以下の大きさの輸送船となると現状、地球圏にはシャトルのようなものしかなく、ニーズにこたえやすい中型輸送船の需要は高いだろう。

 そのための新製品としてGR-75及びその前の型であるGR-45を、地球圏で運用できる技術で売り出す準備が、0083が終了してからまずやったことだ。元々コロニーが落ちた場合を考えて、緊急の食糧輸送に輸送船の確保を考えていたときに出したアイディアだったが物流の促進を考えると意外に都合が良かった。

「となると月での大量生産が基本ですか。いけないな、まただ」

「どうしたんだい?」

 苦笑しながらジェダイのほうに顔を向ける。

「ミツコさんですよ。月じゃ今、アーガマ級にアークエンジェル級と、まだ表に出せない母艦戦力の建造が始まっているでしょう?中型輸送船の大量建造にまぎれれば、ある程度は物資の搬入はごまかせますから。こんな苦労もRPを使えればかなり軽減できますけど、Nシスターズの経済的な地位が向上していますから、隕石の大量搬入なんてどこかで目に付いてしまいます」

「だから君の奥さんは君がそのRPの確保に意識を向けているのであれば、それ以外のことは自分でやろうとしているわけだ。いい家族じゃないか」

「だからですよ。男としては借りはあまり作りたくない。貸しは作りたくても」

 マスター・ジェダイはふん、と鼻を鳴らして返事をした。 

「気持ちはわからないでも無いがね。だからといって無理にわからせようとしてサティーンを呼び出すようなまねはやめてくれよ。流石にアクセル君のような事態は避けたいんでね」

「こちらにはジェダイ・オーダーはありませんから、結婚してもかまわないんですよ、マスター・ジェダイ?」

「旗色が悪くなってきたから話を変えるが……先日来訪したあの女性。君は如何判断している?」

 あの女性が誰を指すかについては言わなくても解る。マスター・ジェダイはどうやらあの場所の近くにいたようで、尋常では無いフォースの乱れを感じ取ったのだそうだ。少なくとも、シスの暗黒卿に近い実力は持っているらしい。

「原作では所謂"神"ですが、能力には制限がつけられていると考えています。こちらの動きの制限に神様持ち出してくるほどの必要はありませんから。けれど、こっちが投入したガンダム・チートの性能を考えると、モーターヘッドかその廉価版で対応しようという考えはわかります。まぁ、脚にジェネレーターなんて設計は変形機構の搭載でも考えない限り、当然変えるのでしょうけれど」

「設計云々ではなく、個人として彼女―――もしくは彼は危険だよ。それだけの力がある。個人戦でやった場合、こっちもギリギリだと思う。私ならアナキンやアソーカ、ルークを呼ぶね」

 こちらはその答えに苦笑する。

「アソーカは無理ですよ。どちらにしてもまだ呼べません。RPが少なすぎますし、こちらの動きが如何GPに変換されるかもわかりませんから。勿論、余裕が出来次第お呼びするつもりでいます。おそらく、個人戦を戦うには彼らの手助けが必要でしょうから」

「なるべく早くに頼むよ。流石に一人でアレの相手をするのは避けたい。君が私にMSを用意しようと考え始める前に御願いする」

「それも良い考えですね。どちらにせよ、先の話ですが」

「もう一つ」

 指を一本立て、マスター・ジェダイは言った。言葉を続けるように口を動かすが、それを遮るようにトールは言葉を発した。

「この時期に、何の目的で月へ?こちらに接触する意義や理由が無いのに。それこそ、"ここにいますよ、私を見て見て?"と言わんばかりの来訪。目的がわかりません」

「何かを仕掛けていく、なんてバカな真似をするはずも無い」

 私は頷いた。彼女―――AKD社設計局主任、レディオス・ソープ女史の帰還後、真っ先に全ラインを停止させて細部に至るまでチェックさせたが異常は無い。おかげで生産ラインが大混乱になってジムⅡの納入が遅れることとなった。しかし、それに意味があるとは思えない。

「どちらにせよ無駄なことはしないと考えれば理由があるはずだ。しかし、そうとも言えないのだろう、君によると?」

 私は頷いた。とりあえずFSSを読む限りではかなり気分屋な所もあるから、行動の理由が読めないかもしれない。全くの気分だった、とか。ありえないとはいえないのだ。

「答えを出しておくか、どんな思惑があったとしても対応できるように心がける他無いと思うね。……それでは失礼する。冥王星で待っているよ」

 マスター・ジェダイはそういうとコムリンクの回線を切った。



[26640] 第05話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00318802
Date: 2011/04/04 21:33

 0084年9月8日、GP社がヴィックウェリントン社と共同で販売する新型輸送船GRシリーズが発表された。輸送船とくれば小型船舶かコロンブスかの二択を迫られていた宇宙の運送関連業者は即座に大量を発注をかけ、コロニー間での物流、そしてコロニー・地球間での物流が更に促進されることとなる。

 勿論それを監視するティターンズの輸送船臨検作業は煩雑さを増し、ティターンズの対応力の殆どはこうした輸送船の臨検作業に使われることとなる。そして、臨検作業とくれば輸送船を停止させる必要があるわけで、その停止や輸送船の誘導には当然MSが用いられる。MSを用いるとなると運用能力の高さが母艦には求められるわけで、当然サラミス級にはその運用能力は限定されたものしかなかった。

 その結果は当然、新型艦艇の導入計画のもちあがりである。

「それでこのパーティってやりすぎじゃないですか」

「造船・物流業界に早速好景気をもたらしておいて何を言っているだね、君は」

 頭を抑えてこちらにため息を向けてくるのは連邦共和党最大派閥にまでいつの間にか成長していたグリーンヒル派のトップ、ドワイト・グリーンヒル議員である。現在Nシスターズではヴィックウェリントン社、GP社主催の展示即売会だ。GP社からは新型船舶GRシリーズが、ヴィックウェリントン社は、港湾作業用のはしけなどが紹介されている。

 勿論GP社は基本造船企業ではないからライセンス生産の形でヴィックウェリントンが生産するわけだが、それでも連邦軍のお下がりしかこれまで存在しなかった宇宙船舶業界に新しい量産型が登場するとあっては注目もされる。物流の促進は商品の低価格化にとながるから、物流業者は勿論、各コロニーの農業公社の参加者も多い。それだけではなく、軍用への転用も視野に入れたいらしいコロニー自衛軍の姿も見える。

「まぁ、この時期に新型船舶のお披露目をして、それを大々的に売り出せるのはGRシリーズが基本、コンテナ船だからだろうがね」

「そこら辺はきちんと考えていますよ。軍用に簡単に転用が効くようなものを売り出したら、それこそティターンズににらまれます」

 そういって視線を会場の隅に向けるとティターンズの制服を着た士官がグラスを片手に輸送会社の重役と話しているのが見える。現在、ティターンズがもっとも神経を尖らせているのがエゥーゴだが、このGRシリーズの販売開始はエゥーゴの勢力移動にも勿論使われるだろう。基本コンテナ船だからMSの運用など考えていないが、コンテナ格納部分に接続できるデッキをつければ運用母艦に変わる事だって出来るかもしれない。

 まぁ、90m程度しかないGRじゃ乗せても2、3機が良いところで、そんな程度しか乗せられないのであればサラミス級以下の運用能力しかない。だからこそ船舶の販売許可がおりたともいえるのだけど。早速エゥーゴ系だろう運送会社から10隻ほどの大量注文が来たことは勿論だんまりを決め込んである。

「だろうな。我々の地盤である月はまだ良いが、各サイド、特にL4のサイド2、サイド6では早速騒ぎを起こしているとも聞く。ジャミトフ中将の側近から外されたのがよほど痛いらしい」

「グリプス、建造始まるんですか?」

 グリーンヒルは頷いた。手に持ったグラスの中身を空けて喉を湿らせ、言葉を続ける。

「ティターンズに引き渡されたのが先月末日。現在はサイド7、5バンチになる予定の連結密閉型コロニーの接続作業中のはずだ。君のところに報告はいっていないのか?」

「ええ。でも知っています」

 グリーンヒルはため息を吐くとこちらを見下ろした。サイド7は一年戦争前に1バンチから4バンチまで建造されている。であるから、史実ならばグリプス2となるはずのコロニーは5バンチとなる予定だ。

「黙っておくべきだね」

「勿論です。フレデリカ嬢は?」

 こちらに近寄ってくる二人の女性に微笑むと視線を彼女たちに向けたまま尋ねた。

「ヤン中将とコンペイトウに移る準備中だ。今月中にルナツーはティターンズに引き渡される。私としてはそろそろ二人の仲を纏めたいのだが」

「協力します。いつでも」

 そういうとグリーンヒルの近くから、こちらに向かって歩み寄る二人に向かって近づいていく。銀髪のチャイナドレスを纏った女性は色々と話しかけてくる会社重役の相手で歩みを止めた。その間に桃色の髪をシャギーに纏めた女性がこちらに駆け寄る。

「どう、トール?見違えた?」

 イブニングドレスに身を包んだハマーンの登場である。色は黒だが、そうと解るほど布の面積が多いわけではない。特に右足は太ももの付け根当たりから完全にむき出しで、ロングスカートが左側半分しか付いていないようなデザインだ。それでいて胸元は大きく広がり、胸が薄いハマーンでも胸元に男の視線を釘付けに出来る設計ぶり。この前ねだられたものだが、流石に本当に着るとは思っていなかった。

 理由は簡単。コロニー、アイランド・イーズでの銃撃で受けた傷をハマーンが残したためだ。勿論既に完治しており、ナノマシンによる完全形成を施せば傷跡は綺麗に消える。しかし、ハマーンは何か、決意した表情で傷跡を残している。其処まで考えて気づいたが、イブニング・ドレスは肩の部分やスカートの裾の部分など、体の中央部から離れるにしたがって透けるほど薄くデザインされているが、体の中央部、胸元から下腹部に至るまではむしろ漆黒。傷跡も完全に隠れるデザインだった。

 何か、心境の変化の元となった出来事があったかと思いなおしても無い。考えあぐねてハマーンに近いシーマ姉さんやソフィー姉さんに相談したところ、ソフィー姉さんは黙って顔の傷を復元した後、示してくれただけだった。それが何を意味するかは解らないけれど、決意と何らかの意思表示であることは理解できた。そして更に問題なのは、これが社交界デビューと言うわけではないことだ。ことはそれよりももっと性質が悪い。社交界相手に如何とられるかはわかったようなものだ。……押し切られて認めたけど、必要かな、胃が痛い。




 第05話



「良い身分だよな。本妻に愛人連れてパーティーに御出席とはよ」

「そう腐るな。相手は一年戦争でガンダム作った男だぞ。妬くな妬くな」

 会場に招待されているティターンズ高官の護衛として付いてきたらしい士官の声が響く。ドアの後ろで入室を待っていた老境の男性は苦笑を口元に浮かべた。早速何かをやらかしたらしい、あの男。会うのは久しぶりになるが色々と騒ぎを生んでくれるらしい。直属の護衛官として派遣されているOZの士官が先にドアをくぐると、私語を交わしていた士官を注意したらしい。聞き苦しい言葉はすぐに止み、ドアを開けて入ると私語を交わしていたらしい士官たちは緊張の面持ちでこちらを見ている。

「人の声と言うものは意外によく通る。発言には注意をしておけ。バスクのところでは注意されなかったろうがな」

「はっ!」

 ジャミトフは頷くとOZ士官を従えて入った。周囲の注目を浴び、何人かが早速コンタクトを取ろうとするがOZ士官がそれを遮る。ティターンズ発足以来、ティターンズの総司令官であるジャミトフの側近部隊としての地位を占めているOZに表立って逆らおうとする者はいない。勿論バスクは何回か側近部隊の地位をかけてトレーズと演習を重ねたらしいが、同じリーオーでも運用面での違いを見せ付けられて適わないでいる。

 本日ここにジャミトフが来たのは、勿論新型輸送船のお披露目パーティーに出席するためではない。建造中のグリプスの状況視察のために宇宙に上がったものの、グリプスの建造を確認してから一週間ほど予定が空いた為、バスクに対抗するために存在しているOZの件について、話し合いを持つためだ。

 それならばこんなパーティーなどに出席する必要性は無いが、GP社、月極冠都市連合に連邦共和党グリーンヒル派という強い後ろ盾を持つミューゼル中将と親しくしていることを他者に見せ付けることは、ティターンズの政治的地位の向上だけではなく、ティターンズ内部の強硬派を押さえつける効果を見込めるからだ。

 特に既にサイド2、サイド6にてジオン残党の掃討作戦中にコロニー政府と数限りない紛争を起こしているバスクの一派を抱えている現在、彼らを押しとどめるに足る戦力とジャミトフが接触を保っていると言う事実は切実に必要だった。バスク一派の行動、特にトレーズとの対立はかなり強まっており、今現在は致し方なくリーオーを使っているようだが、出来うるならば連邦軍謹製の、しかもティターンズ専用のMSを開発できないかと模索もしているらしい。バスクとジャミトフにはさまれる形となったルナツー鎮守府の設計局主任、ビダン中尉からはそのような報告も送られてきていた。

「どうやら、かなり華やかな事態になっているようだな」

「そのようです」

 OZから派遣されたらしい大尉―――どうやら、ジャミトフの副官も兼ねているらしい―――が答えた。OZの制服の上からティターンズ用のコートを羽織っているから、一目でそうとはわかりにくい。しかし、頭に被っているフェズ帽が所属を明らかにしていた。そしてここにいる人間たちの中で、OZと呼ばれる憲兵権限を持ったティターンズの一部隊がジャミトフ直属の精鋭部隊である事を知らぬものは無い。

 ジャミトフとOZ一行は人波を掻き分けるようにして進み、目的の人物の近くで止まった。ソファに座り、片手で顔を抑えて目の前に立つ派手なイブニングドレスの少女に何事かを言っている。脇に控えていたチャイナドレスの女性―――ジャミトフ自身も見知っているが―――がささやくように耳元に口を寄せると、顔を覆っていた片手を外し、表情を硬くしてこちらを見た。何が起こっているかを悟ったらしい少女も横へ退く。

「ずいぶん派手にやっているな、ミューゼル中将」

「そちらもこちらに負けていないと思いますよ、ジャミトフ中将」

 ジャミトフは苦笑すると女性たちにその硬く顰められたいつもの表情からは想像できないほど柔和なそれをみせ、席を共にする許可を求めた。チャイナドレスの女性がにこやかに応対すると少女を連れて脇に退く。いや、退くのではなくソファの向側の席を示してきた。自分たちの据わっていたソファを変え、三人がけのそれに移動すると中央部分を空けて座る。どうやら、そこにこの男を誘導したいらしい。

「これはまた、ずいぶんと惚れられたな」

 ジャミトフが苦笑するが一緒についてきたらしいティターンズの兵士が邪魔だといわんばかりに表情をすごめるが、OZ士官に制止された。OZ士官はジャミトフに用意されたらしい一人がけのソファの後ろに後ろ手を組んで立ち、ジャミトフは苦笑を浮かべた表情のまま其処に座る。二人がけのソファに座っていたトールは諦めたように二人の女性の間に座りなおした。

「お前たちは会話の詳細が聞こえない距離をとって客を遠ざけていろ」

 ジャミトフは表情をまた険しいそれに戻すと兵士たちに命令する。トールもそれに頷くと、警護をしていたらしい兵士たちに同じ事を命令した。脚が充分遠ざかった事を確認するとジャミトフの方から話を始めた。

「一年振りになるか、月の件、世話になった。流石に同時並行作戦には対応を考えていなかったのでな」

「いいえ、あれはこちらの裏庭で起きた出来事でしたから。今日は一体何事です?中将と取り急ぎ話すようなことは無かったと思いますが」

 ジャミトフは鼻で笑うと言葉を続けた。

「貴様と話すというよりは貴様と話したという事実が重要だな。勿論話す内容も重要だが、貴様の言うとおり急ぐ必要は無い」

「あなたも大変ですね。かなり複雑なルールのゲームをプレイしているようです」

「同じプレイヤーからそうした言葉を聞くとは思っていなかったがな。さて、本題に入ろう」

 ジャミトフはそういうと背後のOZ士官から書類を受け取り、こちらに投げた。

「サイド1、ザーン共和国からの報告だ。エゥーゴ系市民団体の活動で市民の反地球連邦政府運動が始まり、現在、穏当ではあるがデモ行進が開始されている。バンチの知事選挙も反連邦系の候補の当選が決まりそうで、コロニーからの農産物の輸出や空気税の徴収に問題が発生する懸念があるとしている。如何思う?」

 30バンチ事件の前哨戦か。もう既にサイド1に諜報員を入れていたということは、殆どのサイドに諜報員が入っている可能性が高いということか。まぁ、人の事を言えた義理では無いけれど。その可能性について張兄さんに尋ねておく必要があるかもしれない。後手後手は避けたいし、グリプスでのアポロ作戦の標的がこちらにならないとも限らない。

「監視しつつ放置。勿論武力蜂起までに行った場合には対処しますが、それにしてもまずはザーン共和国の管轄です。この書類によるとまだ一部のバンチのみでの活動でしょうから、そのバンチに配備してある連邦軍の装備から艦艇を外せば、他のバンチに飛び火する心配は無いでしょう。他バンチ、他サイドへの影響についても、入国管理の厳格化で対応できると思います。連絡についてはそれこそミノフスキー粒子を散布していれば良いでしょう」

「言わなかったことがあるな、ミューゼル」

 流石にやりにくい。シャアは存在そのものでこちらの邪魔をしてくるが、逆に言えば存在しなければこちらの邪魔が出来ないわけで、脅威のレベルはそれほど高くない。セイラにしてもまとわりついている時に胃に来るが、いなければ問題ない。しかし目の前の老人は問題だ。彼は存在していなくても問題をこちらに投げかけてくるから。

 ジャミトフの言う"言わなかったこと"とはGP社が発表したこの中型貨物船が全地球圏で運用されるようになれば、密入国・密出国が多発する事態を招くことまで先ほど、言及しなかった点だ。通信はいくらでも封鎖できるし、大型貨物船であるコロンブス級であれば停船や監視は容易だ。しかし、中型貨物船は運用数が膨大になるから監視の目が行き届かない。ミノフスキー粒子が散布されてしまえばそれでおしまいになる。

「指摘してきたのはバスクですか」

「存外、頭の回る奴である意味安心したし、ある意味更に不安になった。なだめる材料が必要になってくる」

 なるほど。バスクが指摘してきたというのはGRシリーズの解禁と引き換えに何らかの取引をこちらに持ちかけろ、とジャミトフを動かした、ということか。詳しく話を聞くと、ティターンズと連邦軍との差別化を図るために、ティターンズ専用機をこちらに打診する、とのこと。しかもアナハイムの売り出したネモを越える性能のMSを、ネモよりも安価で提供してもらいたいということだった。

「高性能MSを得、更にこちらの経営に打撃を与えるために、ですか」

「問題はそれを引き換えにしてもGRシリーズとやらの売り上げでペイが見込めるかどうかになるが、実を言うとわしからも頼みたい。連邦政府が敵味方の識別をカラーリングではなくMSの種類で行おうと考えているのは知っているな。それとも関わるが」

「今度はあなたにいわなかったことがあるようですが」

「お互い様だ」

 ジャミトフが言わなかったこと―――それは一般連邦軍とティターンズの間に交戦の可能性があるということだ。史実では連邦軍の部隊がグリプス戦役初期もしくはそれ以前にティターンズの犯罪行為を阻止し切れなかったのは、同型機を使用しているが故の混戦・同士討ちを警戒してのことだった、という解釈があったし、黒歴史にはそう主張する連邦側の学者がいたことも指摘されている。当然ジャミトフも其処に思い至ったわけで、バスクが欲を出したのをきっかけに、連邦軍にそうした日和見を避けさせるための方策として打ち出してきたのだろう。

「実を言えば地上軍用のリオン代替機については既にご用意があります。基本的にOZ用として確保するつもりで開発しましたので」

「地上用にはそれとリーオーで良いだろう。宇宙用は?」

 それを問われて腕を組んで考え込む。確かに地上用ならばある程度OZ系MSの発展形―――具体的にはエアリーズを渡しても問題ないのだが、宇宙用となればまだまずい。OZ用としてトーラスの引渡しを考えてはいるが、ムーバブルフレーム技術が登場したばかりで可変MSを流すのは少々まずい。連邦軍がGT-Fourの開発に成功しているのは確かに後押し材料だが、だからといってティターンズ宇宙軍に可変MSによる高度な展開能力を与えるなど現時点で無策極まりない。

「ジオン系MSを用いるつもりはありますか?」

「……そうなるかね」

 トールは頷いた。現状の段階でジム系の量産機でティターンズ用となりうる機体は無い。ストライクダガーでも持ち出してみようと思ったが、Seed系列にタッチできる"整合性"を考えると下手な量産は危険だ。こちらが投入した機体とあちらが投入した機体の区別が、Seed系列では付かなくなる。それは流石に避けるべきだろう。

 となれば、史実よりは少し早くなるが、ガルバルディβを引き渡しておけばよいだろう。ただその場合、ジオニックの持つ技術を使う必要があるし、ジェネレーター関連については技術供与の必要性があるため、バスクがごねる可能性もある。元々ビームサーベルとビームライフルの併用が出来ない問題を抱えさせたままハイザックをジオン共和国の主力機にしたのはジオンの使用するMSの性能調整の意味合いもある。ジェネレーター技術に制限さえ加えておけば、武装を局限できるというのはありがたいからだ。そこに、ジオン系のMSで併用可能なものの開発に参与させればジオニックの新型を誘発する可能性がある。開発は既に始まっているのだ。

「ジェネレーター関連部品の生産と組み立てはGP社でやること、とすれば問題ないかと思います。ただ、既にMSの開発競争は始まり、激化しています。それを考えると避けたくはありますが」

「頼む。その際にはOZへの新型MS導入とするよう、最大限の便宜を図る。開発競争に関してはこちらでも一定程度コントロールは試みるが、正直、難しいな」

 ジャミトフはそういうと立ち上がった。首を傾け、付いて来いと示す。苦笑しながらトールは頷き、ジャミトフと並んで歩き始めた。

「バスクの暴走が止まらぬ可能性がある。対抗馬としてペデルセンを副指令に配したが抑えきれぬ場合も考えておく必要があろう。トレーズは嫌われておってな。グリプスには立ち入らせてもらえぬ可能性もある。出来ればバスクの下にもう一人ぐらいは置いておきたい。軍人でなくともかまわん」

「グリーン・ノアの方では新型ガンダムの開発が始まっていると聞きますが。それ関連でお送りしろ、と?」

 ジャミトフはそれを聞くと鼻で笑った。所謂"ガンダムMK-2"の開発が既に始まっていることを既に掴んでいるとは、な。純粋な連邦製技術だけで建造が進められているそれは、新技術をふんだんに取り入れ、一部封印されたGP計画の結実をもいくらか導入している。当然ガンダムタイプのMSとくれば開発経験を持つGP社にお呼びをかけた方が手っ取り早いが、当然ティターンズの(バスクの)選択肢にそれは無い。

「AKD社から技術者が何人か入り込んでいる。中々のMSに仕上げる予定だということだよ。必要ならば後で図面を届けさせる。わしの権限で貴様のGP社からも要員の出向を願うつもりだし、既にAKDからは開発経験を持つGP社の技術者を要請されている」

「御願いします。AKD社からは誰が?」

「ティターンズ側からはフランクリン・ビダン中尉が総指揮を、ヒルダ・ビダン中尉が装甲材質担当官で。フレーム・内部設計担当としてAKDのM・ナガノ博士と、複合ジェネレーター担当として同社のレディオス・ソープ設計局長だ。聞いたことは?」

 尋ねられたトールはかなり微妙な表情を浮かべざるを得なかった。早速、接触せねばならない人物と接触をする機会が訪れてはいるが、流石に直面するのは避けたいと思っていたところだ。特に、個人としてもジェダイ以上の戦闘力を持つであろうソープと、こちらが送り込んだ人材を接触させることは危険だった。

「名前だけは。時期を決めていただければ担当のものを送ります。ただ、あまり接触されては面白く無い事態になるかとは思いますので、出来ればグリーン・ノア1と建造中のグリプスに分けるような形で」

「了解した」










[26640] 第06話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00318802
Date: 2011/11/23 19:20

「これがGP社設計の新型汎用巡洋艦か」

 ここはジャブローの連邦軍艦政本部である。連邦軍艦政本部は一年戦争時、サラミスとマゼランの改造型大量生産計画、通称・ヴィンソン計画を立案・実行させた部署として名高い。0079年当時の性能としては疑問が残る部分もあるが、まず戦場に安価で信頼でき、大量に艦を配備するというその方針に基づいて、サラミス・マゼランの改造型の大量配備と当時期待の新型戦闘母艦として戦場で守護神のように思われていたペガサス級戦闘母艦の量産不可を決定した。

 戦後出された所謂"ああしていたらこうなった"的な文書類の中では、ペガサス級の大量生産が行われていれば、戦場での連邦軍の被害はもっと局限できただろうという意見があることにはあるが、戦場での性能実証が不足していたペガサス級の大量生産を行うよりも信頼性の高く運用実績も豊富なサラミス・マゼラン級の大量生産の決断を行ったところは評価されるべきだろう。

 ペガサス級の運用では恐らく、"木馬"と通称されるその構造の後ろ足部分、つまり核パルス・ミノフスキークラフト混載エンジンの不調が整備兵をして調整に苦しめたという事実があるから、大量生産して投入した場合、戦場での混乱をもたらした可能性もある。

 しかし戦後に入り、MSの運用が戦術の基本原則になるとMS搭載用の設備を完全な形で持たないサラミスやマゼランは重荷になった。まだマゼランは良い、砲撃戦用の艦艇として残す道がある。しかしサラミスは、MS搭載用の設備を載せようとした場合、設備・装備のいずれかを削減する必要に迫られる。運用の最小単位である小隊3機を載せようとした場合、推進剤タンクを小型化して内部設備を全体的に後ろへずらしてスペースを確保するか、装備を削減してそれに代替するかしかない。

 そして装備を削減した場合、10隻ほどでようやく"装甲の比較的あるコロンブス"にしかなれないのだ。艦政本部がサラミスの基礎設計の良好さは認めていたが、新型艦艇の導入に躍起になっていた原因はここにある。暫定的に改装型を投入してはいるが、標準型との混成がとられているから運用側としても要求が強い。

「汎用というだけあって使い勝手はよさそうだな。巡洋艦だけではなく戦艦まであるとは相変わらず用意が良いな、ミューゼル。しかし、GP社はMS企業のはずだろう?いつから造船業界に進出した」

 連邦軍艦政本部長となっていたダグラス・ベーダー大将の声がジャブローの地下司令部に響いた。デラーズ事件後、ティターンズの台頭と相俟って地球連邦軍の刷新が始まっており、一年戦争を戦った提督の中にも退役者が多く出るようになっている。有名どころで言えば一年戦争終結の立役者、レビル元帥もそうであるし、連邦軍内部の軍政に辣腕を振るっていたゴップもそれに含まれるだろう(もっとも彼の場合、政界進出を目指していたから要請と要望が合致した側面もある)。ビュコック中将も大将に昇進したが、三年後には退役の予定だ。

「MSを生産しているからこそ、MSを運用する母艦に対する要望を取りまとめ、それを設計に反映させることが出来る、というのがミツコさんのお言葉です、閣下」

 ベーダーは顔をゆがめると"お前も良い具合に恐妻家だな"とつぶやき、設計図をもう一度チェックし始めた。

 今回持ち込んだ設計図はクラップ級とアイリッシュ級の二種類。MS運用能力を考慮した母艦の設計ならば、史実でも60年近く運用されたクラップを持ってくるしか無いだろう。アイリッシュ級もグリプスからオールズモビルまで40年近く用いられるから、連邦軍が大量生産及び配備を行うには適していると判断した。アーガマとは違ってこちらには大きな設計変更は無い。

「良いだろう、書類は設計局に回しておく。予算の確保から始めて来年か再来年の建造開始だろうな。……で、わざわざジャブローまで来た理由は何だ?設計図一つ渡すためにジャブローくんだりまで来たわけでは無いだろう?それとも何か貴様、美人の嫁さんに愛人抱えた事を自慢しに来たか」

「アレクサンドリア級の建造状況を確認に。どれほどの性能かを見ておく必要もありますし、ジャブローのMS開発局の現況も見てみたいと思いまして」

 ベーダーはイスに座りなおすと髪を掻き始めた。

「お前はバカか?ゴップ閣下がいたときならともかく、今のジャブローはお堅い官僚主義一色だぞ?兵站総監部のマネキンが助けても、稟議書が通るまでに時間をかけさせるだろうしな。それに、原理原則と賄賂が大好きで失態を嫌う官僚様が相手だ。GP社の専務が女房のお前に見せるとは思えんぞ……いや」

 ベーダーは口を下品にチッと鳴らすとトールをにらみつけた。

「こちらをダシにしたな?今の段階でお前がここに来た事を誰かに勘繰らせるのが目的か?」

「まぁ、同じ事をジャミトフ閣下にやられたもので」

「暇だな、お前ら。まぁ、良い。アレクサンドリア級と発展改良版のロンバルディア級戦艦のデータは渡してやる。ただし、今の連邦軍では急速に人事の刷新が続いていることは承知しておけよ。ゴップ閣下がいなくなったから、ジャブローでは縄張りの分配争いが始まっている。下手に巻き込まれると後が怖いが……これが狙いだな?」

 トールははっきりと頷いた。
 


 第06話



 人間、3人いれば派閥が生ずるという古い諺がある。そしてそれはここジャブローでも同様であるようだ。

 一年戦争中、所謂シトレ・レビル派と呼ばれた宇宙移民に対する穏健派とコリニー提督などを中心とした地球至上主義派との対立が激しかったにもかかわらず戦争の遂行に問題が無いレベルにまで抑えられていたのは、ひとえに、公式的にはどちらの派閥にも属さないゴップ大将がいたからだった。勿論戦争の遂行上シトレ派と行動を共にする機会が多かったから実質的にはシトレ派なのだが、ゴップの恐ろしさはコリニー派が排除したくても出来ない存在にまで、自分の立ち位置を安定化させてしまったことだろう。実際、兵站管理でゴップを失うということは、連邦軍にとっては戦場でレビル将軍が暗殺される以上の衝撃を与えてしまうからだ。

 どうやら本来の歴史でも84年以降にティターンズの権力がうなぎのぼりになるのも、ゴップ大将という要石を失った影響(というよりも、ゴップのことだから裏から盛大に煽った可能性が高い)が強いらしいが、この歴史では連邦軍首脳部の人的被害が抑えられ、ティターンズのジャミトフに対する対抗馬として目の前にいるベーダー大将や第一軌道艦隊司令のティアンム大将などがまだいる。ティターンズの勢力は史実ほど拡大せず、活動領域は地球ではアフリカと南欧("ローマ"、"ムガール"作戦で治安が安定した地域は南欧を除き連邦軍が作戦後展開している)、宇宙ではサイド7とルナツー及びL4ポイントのサイド2、6のみだ。
 
 だからこそジャブローにおいて軍政方面全般を仕切っていたゴップ大将の離任は、その空白部分を如何埋めるか、別な言い方をすればゴップ大将が持っていた軍政関係の利権が如何再分配されるかについての争いを生むこととなったのである。

「あの人は利権の分配せずに離任したからな」

「ベーダー閣下は事情は御存知ですか?」

 ベーダーは頷くと苛立たしげにため息を吐いた。

「俺だってシトレ派に色分けされているから情報は色々はいってくる。シトレ閣下が来年の大統領選挙でレビル元帥が勝利された場合の軍務長官に内定しているだろう?後任に俺を押せるように今から根回しの最中だ。今回、こんな艦政本部長なんぞを仰せ付かったのは軍政方面に疎いとか言う評判を如何にかしたいのと、少なくともアフリカ以外の地球軍については如何にかしたい考えがあってのことだそうだ」

 ベーダーの言うところを詳しく書くと以下のようになる。レビルが85年の大統領選挙で大統領に選出された場合、軍務長官としてシトレを配し、軍に対するコントロールを確立することが、規定路線としてまずある。予算案で配分を決定するのは大統領と軍の場合軍務長官であるから、まず財布の紐を握ってしまうつもりなのだろう。

 それだけでは不安だから、ジャブローの指揮を執る作戦本部長にベーダーを推したいのだろう。実際、地球防衛のためにティアンムとその部隊を動かせない以上、地上で指揮を取れる人材の数は限定される。ティターンズの"ローマ"、"ムガール"両作戦が上手く行ったためティターンズの地位が上昇しているから、それに対抗できるような体勢を整えておくつもり。其処まで考えたところで、自分に艦艇建造の話を持ってきたのがゴップ大将である事を思い出し、トールはため息を吐いた。

「なんだ、どうした?」

「いえ、私自身、上手く乗せられたな、と思いまして」

 ベーダーは莞爾と笑った。言いたいことがわかったからだ。ゴップ大将が利権配分を彼にしては異例なことにせずに退役した結果、ゴップの影響下にあった連邦軍の各部署を誰が何処に組み入れるかについて深刻な争いが生じている。史実ならばジャミトフというプレイヤーを持つティターンズがその勝利者となり、地球連邦軍をティターンズに組み入れる下敷きとなるが、レビル、ティアンムという一年戦争の生存者がおり、そのバックアップを受けた陸軍のパウルスや宇宙軍のベーダーなどがいる。そして勿論、トール自身が投入したヤン、ビュコック、シトレもいては、早々上手くことは運ばない。

 このため現時点でも尚ジャミトフはジャブローを完全に自家薬篭中のものにすることが出来ていない。むしろ勢力が地球ではアフリカ・南欧のみ、宇宙ではサイド7とL4ポイントに限定されてしまってティターンズが思惑通りの地歩を得ていないのだ。とはいってもジャブローでのゴップ大将の跡目争いは収まっていないし、まだ完全にシトレ大将たちの派閥が押さえたわけでは無い。そういうわけで、ただいまジャブローは派閥抗争の冷戦中だ。

 そんなところに新型汎用巡洋艦に戦艦の設計図をシトレ派と見られているミューゼル中将が持参し、経済界に対する影響力とゴップ議員の後押しを受けて連邦軍の新型装備になりそうだ、などという思惑が出てくれば、現在冷戦までようやく収まった勢力争いは再燃することになるだろう。それだけではなく、そのデータを艦政本部が最初に抑えたということは、勢力争いの最終的な結末はそのデータを握っているもの―――ベーダーがキー・パーソンとなる。

 要はこの一連の出来事は、ベーダーがジャブローの実権を握るという予定された結末に向かうための作られた争いで、その争いに最終的に決着を付ける、"捨てきれない"利権が造船利権であったということだ。ジャブローに対して一定の影響力を持ち続けたいと考えている、更に開発能力を持ち新たな利権を生み出せる能力を持つトールが利用されたのは無理も無いことである。

 勿論こんな事を相手にすれば相手に"騙された"との思いを起こさせかねないが、それさえも結果として自身の利益につながるところにゴップの恐ろしさがある。一年生議員となったことで軍で築いた利権の殆どは手放したものの、その手放した利権を再び手に掴むだけの実力があることを見せ付けるためのデモンストレーションなのだ。同盟が両者が両者に対して利益を与えねばならないとするならば、ゴップはミューゼルの同盟者たる資格を見せようとした、とも言えるだろう。

「この後暇か?暇なら酒に付き合え。色々と世話になったようだしな」

「申し訳ありません。人を待たせていますし、インタビューを求められてもいますので」

 ベーダーは忙しいことだ、とでも言わんばかりに鼻を鳴らした。

「どちらにせよ86年中には宇宙艦隊の再編成が始まる。良い人材が月にいたらよこせ、少将格でな」



 南米ギアナ高地の地下に作られた連邦軍基地ジャブローは、およそ25万名の人員が日々暮らし仕事を行う巨大な"街"である。勿論其処にはその25万名が行う消費を当て込んで集まった企業家たちや、その25万名のうち、結婚しているものには当然の家族。家族があるとなれば医療・教育機関も併設せねばならないし、そんなこんなのエトセトラで穴倉の入り口から少し行ったところには大規模な街が存在する。秘密基地とは言うものの、25万名もの人員の消費をそう長く隠し続けられるわけがない。

「日差しが強くなってきたわね。そちらはどう?そんな格好で暑くないかしら?」

 そんな風にホテルのプールサイドで陰干しをしているのはセイラ・マス。横には月面軍の制服姿のハマーンの姿もある。ジャブロー組んだりまでしつこく付いてきたわけであるが、流石にGP社設計局の主任や専務を勤めるミツコやセニア、テューディが一緒にいつもいることは出来ない。ミツコ・テューディは月のGP本社で新型巡洋艦の量産設備を整えている真っ最中であるし、新型量産機計画にかかりきりのセニアも同様だ。

 となれば、彼女たちにとっての"イレギュラー"たるこの女性の相手は、公式には"中将護衛官"であるハマーンの役割になる。ジャブロー内部にまで連れて行くわけには行かないからここで足止めをしているわけだが、ジャブロー内部に入るに問題があるのはハマーンも同様である。彼女は公式的には"月極冠都市連合"の軍人であり"連邦軍"のそれではない。

 地球連邦に加盟する諸国の軍隊の集合体、それが地球連邦軍である。勿論各地に徴兵所、士官学校を持つが、連邦である以上、構成国家の主権を侵すわけにはいかないから、領土を無視して行動できるわけではない。戦時ならば連邦憲章に基づいての緊急措置となるが、戦争が公式終了した今となっては、コロニー国家を始め、内政干渉は行えなくなった。

 勿論それはそれでよいわけであるが、そのことは逆に、連邦所属国家の人員が連邦の主権に対して如何こう言うことが出来ない事態の復活という側面も持つ。ハマーンがジャブローに入れない理由もそれであり、だからこそ彼女は現在、気に入らない相手との虫干しを共にしているわけだ。

「暑くありませんが、いつまで私たちに付きまとうつもりですか?」

「さぁ、どれぐらいになるかしら。私にも解らないわ。自分がこうしたいと思ったとしても、それが実は自分の本当の考えとは異なる場合もあるから、私は、自分のしていることが本当に自分のしたいことだと気づく機会をここで待ちたいだけ……あなたの気持ちも解らないでは無いわ。私がここにいるのは、私のためであの人のためでは無いから」

 セイラがそういって微笑むとハマーンは言い様の無い不快感に襲われた。どこか、誰かに似た雰囲気の笑みだ。

「GP社の実質的な経営判断を行っているのがミューゼル中将であるのは既に地球圏の経済人の仲では常識に類する事柄よ。常に安定した実績を出して会社の業績を上げているし、他業種への影響も大きい。彼の動きの一つ一つにヘッジファンドは注目しているわ。たとえば彼が発表させた二酸化炭素分解ナノマシン。あれのおかげでGP社と生産の下請け工業各社の株は大暴騰し、一方で地球の化石燃料系各社は軒並みストップ安になったわ。意味が解る?」

 ハマーンはあっけにとられて何もいえない。いえない事を確認したセイラは続けた。

「石炭鉱業各社の産出する石炭の使い道は宇宙世紀になっても今尚製鉄・製鋼業。製鋼業に用いる高品質のコークスは石炭が原料だけど、作るためには石炭から不純物を取り除く過程が必要になる。ところがGP社ナノマシンは空気中から純粋炭素を分解するから、それを転用すればコークスの生産がかなりのコスト減で可能。となれば製鉄各社の売り上げも伸びる一方、石炭鉱業は開店休業を余儀なくされるわ。自分たちが掘るよりも高品質のそれが提供されるのだから誰も買わない。だからアレだけ嫌われるのよ、ナノマシンは」

 セイラがいった事をかみ締めるように一つ一つ理解するハマーン。その彼女にかまう事無くセイラは続ける。

「石油の方もそう。既に安価な水素還元法で炭素の液体固定の方法も開発されているから、産出コストのかかる石油も純粋炭素の供給が見込まれれば衰退するでしょうし。あなたが好きでいる彼は、これだけの事を為せる人材よ。彼にはそれだけの価値があるし力がある。私は、彼を見ていたいの。兄については見ることに恐怖が付きまとう。いつか、母を殺した全てに対する復讐をはじめるだろうから。でも、彼なら止められる」

「アムロ、アムロ・レイにもそれが出来るはずでしょう!?」

 ハマーンは我慢しきれなくなっていった。トールの記憶で見た黒歴史、その中で、最終的にシャアの暴挙を止め、共にアクシズを押し返した光の中に消えた二人を思い出しながら口に出す。いってはいけない事を言ってしまった、と口をつぐむが、それを見たセイラは微笑みながら言った。

「アムロには出来たとしても、それは兄の動きの最後の最後ででしかないでしょうね。でもそれでは死んで尚兄の動きの影響は強くこの地球圏に残り、残された多くの人を縛り、道連れにするでしょうね。それが私には耐えられない。でも、彼にはそれを変える力がある。だからこそ、私は勧めたのよ。兄に、彼をエゥーゴに引き込むように、と。彼なら、兄を止めてくれるわ」

「っ!?あなたのエゴのためにトールを巻き込まないで!」

 ハマーンがセイラの前に回り、ビーチベッドに横たわるセイラに向かって怒鳴りつける。周囲の客が何事かと注目するが、彼女たちの周りを目立たずに囲んだ黒服たちにその場から遠ざけられる。トールが引き連れてきたバイオロイド兵の護衛隊だ。勿論、ハマーンたちの護衛としておいてある。

「あなたも、あなたのエゴに彼を巻き込んでいるのではなくて?少なくとも、私は兄のなそうとしていること、なすであろうことを烏有に帰させるためなら、この命を彼に差し出すこともいとわない。それが私の責任だろうから。だからこそ、彼に存在を認めさせるだけの努力をしようとしているの。ハマーンさん、あなたはどう?見てもらっているだけではないかしら?……御免なさい、言い過ぎたかしら」

「帰って!」

 セイラはハマーンの激発を面白がるかのように口元をゆがめながら見つめていたが、プールサイドに見知った人間の影を発見すると、そちらに手を振り、いる事を知らせる。白いスーツに帽子を被った男がこちらに近づいてくることを確認するとハマーンにもう一度顔を向け、言った。

「……続きはまたの機会に。次までにあなたの答えが聞きたいわね」

 そういうとセイラはハマーンを尻目に立ち上がるとかけてあったショールを羽織り、去った。主のいなくなったビーチベッドを見ながら、背後の"カイ・シデン?悪いわねわざわざ"といった会話をBGMに、ハマーンの唇は硬くかみ締められていた。




[26640] 第07話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00318802
Date: 2011/04/21 10:33


 お披露目パーティーでのジャミトフとのやり取りやら新型艦艇の採用計画などは早速広く話題にのぼっているようで、様々なメディアを通じて配信されていくこととなった。勿論新聞に載るわけではなく、パーティー会場にきていた客の中にいただろうエージェントや連邦高官からのリーク情報が明るみに出ているだけ。GP社専務取締役の夫の連邦軍中将が、ジオニック・GP社共同開発の新型機をティターンズに提示。それだけでなく、連邦軍の新型艦艇採用にも影響力を行使!株価に影響を与える情報だ。

 勿論そこにはその連邦軍中将が愛人・本妻同伴でパーティーに出るような恥知らずかKYな奴であることも書かれているに違いない。まぁ、そうした人間であると考えてくれれば後がやりやすい。別段人の人気で食べる商売を始めるわけでもない。

 しかし問題は別なところに生じている。

 ジャブローよりの帰還の後、GP地球本社から届けられたレポートには早速ジムⅡに早速武装強化案が出ていた。ジェネレーターを更に高出力のものに換装し、出力を増した機体に追加武装を施す改造機案―――ジムⅢだ。一年戦争時の改造機を一部とはいえ20年以上使うことについてこの場合如何こう言うことはできない。兵器というものは高価であり、しかも新型が出ればそれに追随できないものは容赦なく淘汰される運命を持つ。"改造"で延命できるならばした方が良いのだ。いずれ、嫌でも新型機に移行せざるを得ないのだから。

 だが、戦争が始まってもいないのに生じた兵器の性能的インフレは、戦争が始まり技術が加速度的な進化を迎えた場合のそれを思わせずにいられない。要求どおりに高性能機を提供するのは良いが、その提供が他の高性能機の提供を後押しする可能性もある。しかし、同時に敵がそれを投入した場合を考えておく必要も当然あるだろう。第一、86年採用88年実戦配備のジムⅢが今出てきたということは完全に二年、MSの開発が早まっている。

 こういった現状認識に立った月方面軍では新型機の量産・開発体勢の両立に余念が無い。既にGP社本社工場以外の工場ではジムⅡへの改修作業がピークを迎え、84年度末までに2500機のジムⅡを納入できる体勢に強化されている。それに対して本社工場ではテスラ・ドライブを搭載しムーバブルフレーム構造の採用と装甲材質の強化を取り入れたゲシュペンストMK-2の生産が始まり、月方面軍の新装備機として採用が決定している。外見上は全く同じ機体で中身は完全に別物の機体、そうした、少しでも新型インフレを食い止めようとする工夫が行われているが、情報はいつまでも隠しおおせるものではない。そのための後継機の開発―――量産型ヒュッケバイン計画やエルシュナイデ―――は並行して進められている。

 それだけでは勿論無い。可変MSが登場してもかまわないように、ビルトラプターなどのビルトシリーズの開発も始まっている。Zガンダムの開発に乗り出そうとも考えたが、Z系列の可変MSにはAKDに移籍したナガノ博士の件もあって手を出さない方が良いだろうと考えたのだ。それよりも、ここまでOG系列の開発が進んでいるのだから、今後もこの路線で開発していった方が良いだろう。区別もつきやすい。しかし、νガンダムは譲れない。出すにしろ出さないにしろ、こちらが完全に技術を握っておく必要があるからだ。

「そうしたインフレ抑制のために動いていたのに、目の前でインフレを見ると悲しくなるよなぁ」

「……」

 後ろで話を聞いているはずのハマーンから反応が無い。ジャブローの艦政本部から戻ってずっとだ。同時にセイラがいなくなっていたから、何事かをあの金髪さんがささやいたであろうことは推測が付くが、何も話してくれないのでは事情の理解の仕様が無い。護衛のバイオロイド兵の記録データは早速ハマーンが消していたらしく追うことが出来なくなっていた。……この点、ハマーンたちに私に次ぐバイオロイド兵への命令権を与えてしまったことによるのだが、聞かれたくない事を無理に聞くのも何だった。

 ハマーンは基本うつむき、時折何かを確認するようにこちらに顔を向けてくるが視線を合わせようとすると顔をそらす。何か重たい出来事を抱えているのは丸解りなのだが、こちらとの接触を完全に避けてくるので困りものだった。更に問題なのは暗く沈んだハマーンを見たカーン家親娘の反応である。セラーナ嬢は姉が何を悩んでいるかについてしきりに姉との接触を試みているが反応がない。そして父親である中将閣下は―――

 うん、やめよう。C.D.Aの彼ではなく既に"アクシズのハマーンさん"の彼化しているので手に負えない。まぁ、今はマハラジャ閣下のことは如何でも良いだろう。しかし、今回の一連の事件で思い知らされたのであるが……


 やはり、ジオンには呪われているのではないかと思うのである。



 第07話



 トールが改めてハマーンとの関係に悩んでいたちょうどそのころ、連邦軍ルナツー鎮守府ではルナツーに展開するティターンズ第一艦隊の司令部会合が開催されていた。出席者は第一艦隊司令に納まったバスク・オム大佐を初めとし、分遣艦隊司令オットー・ペデルセン、第一艦隊参謀長のジャマイカン・ダニンガン中佐などである。

「デラーズ事件最後に確認されたガンダムについての情報は以後ありません。奴の潜伏先は少なくとも我々の管轄範囲であるサイド7、及びL4ポイントサイド2、サイド6では無いと考えられます。……まぁ、当然といえば当然ですな」

 口を開いたジャマイカンは早速0083年末のデラーズ事件以来、焦眉の急としてその居所の判明に力を注いできた"ア・バオア・クーの騎士"の捜索活動の報告を行った。デラーズ事件最終段階でコロニーの残骸を砲艦をハッキングした上で打ち抜いたり、ジオン軍が一年戦争中に投入したサイコミュ兵器の発展形でこちら側の部隊を蹴散らしたことといい、その所属と性能の確保は、ティターンズにとって更なる勢力拡大のためのイベントとしても技術としても必要であった。

「しかし我々の管轄ではないサイド1、ザーン共和国や月極冠都市連合に進駐するわけにもいきませんでしょう。管轄範囲に存在が確認できないということは、逆に管轄範囲外なのですから責任が無いということでもあります。それよりもまず、対抗できる戦力の構築が必要では無いですか」

 そう口を開いたのはペデルセン大佐だ。スペースノイドに悪感情を持たない彼からすれば、いるかどうかもわからない"騎士"の捜索で悪戯に民心を離反させて反連邦活動を激化させるよりは、新型MSの開発によって対応できる体制を構築した方が良いと考えている。勿論バスクにしてもその必要性は理解しているが、だからといって放っておく訳にはいかない。この点、実際にデラーズ事件に参加して脅威の性能を目の当たりにしたバスクと、地上で組織の立ち上げに関わっていたペデルセンの間では温度差がある。

 勿論ペデルセンにとって見れば、こちらが手を出さない限りこちらに敵対行動をとらないのであれば、状況を利用してこちらに有利なように運用してしまえばよいと考えている。誰かは解らないが、少なくともジオンを敵としていることで充分だと考えるだけの精神的なタフさが彼にはあった。勿論、"騎士"の正体がわからなくても彼に責任は無いというのも大きな理由になっているが。
 
「ペデルセン、そういうわけにも行かぬわ。最近の反連邦活動におけるエゥーゴの躍進もそうだが、我々の活動に対するスペースノイドの屑どもの反応もそれに伴って激化している。反動勢力の中には"騎士"の次の敵はわれらだとしてこちらを攻撃する材料に使っている勢力もある。我々の力を見せ付けるには"騎士"が捕えられなくとも、"騎士"を探していると言う事実が必要なのだ」

「ならどうするんです?」

「ティターンズの力を見せ付けるために何らかの事件とその解決が必要だ。具体的にはティターンズが反地球連邦政府運動には断固たる措置を取るという証拠になるような。ティターンズは地球連邦を一つに纏めるための力であり、地球を守るための力であると示すような、な」

 バスクはそういうと口元をゆがめてペデルセンを見つめた。どういう事を考えているかはわからないが、何かろくでもない事を考えているらしいとは理解できたペデルセンは苦々しげに席に座りなおす。既に幾つかのコロニー内の反地球連邦活動の取締りで市民にも犠牲者を生じさせ、独立系のジャーナリズムからは激しい攻撃の的となっている。勿論そうした報道はこれ以上無いほどの取締りの対象となっているから、その取締りが一定の"効果"とやらを上げていることは確かだ。

「兎に角、我々の連邦軍での立場はジャミトフ中将のティターンズ第一艦隊です。管轄範囲はサイド7からL4ポイントで、ザーン共和国は管轄範囲外。我々が手を出す名分がありません」

「ザーン共和国の反連邦活動家たちが、我々の管轄するL4ポイントの反連邦組織を援助している。L4ポイントでの治安活動のためにはザーン共和国に立ち入り、捜査を行って背後関係を洗う必要があるのだよ」

 ペデルセンが表情を曇らせる。バスクはサイド2の親ジオン派組織とザーン共和国の宇宙市民独立派の間につながりを捏造しようとしている。バカバカしい。ザーンの反地球連邦組織はマーズィム系だから、むしろ反発しあってさえいるのに。いや、バスクからすればどちらも同じか。まぁ、捜査そのものは仕方が無い。ティターンズの行動はそれら二つの反感を金と暇には飽かせぬといわんばかりに買っている。

「必要性は認めますが、ジャミトフ閣下の諒解は必ず」

「勿論だ」

 バスクは頷いた。



 0084年も10月にはいるとデラーズ事件の混乱も殆ど収まり、人々は日常の生活に戻るようになっていった。ティターンズが9月27日にザーン共和国43バンチコロニーに対して強制捜査を行い、マーズィム系政治団体を強襲。コロニー自衛軍のジム・クゥエルを奪取した団体所属員と交戦し、コロニーのミラーを損傷する事態を生じさせたが、巧妙なマスコミ操作によりアングラメディア以上に噴出はしなかった。

 この事件の余波もあるのか、現状の連邦軍の体制に疑問の声が上がりつつもある。宇宙市民の側からすれば独立した3カ国に、ジオンは例外とはいえ連邦軍の駐留を許したままでよいのかと言う声があるし、逆に地球至上主義者の側からすれば戦力を増強して反連邦活動を抑え込みたいと言う声だ。どちらにしても一年戦争からの戦時編成を続けている連邦軍の改組は確かに必要で、新作戦本部長最初の仕事となるのだろう。

 10月に入っての朗報はユラーレン提督率いる艦隊がリゲル1に到達し開発基地の設営を完了したという報告が入ったことだ。即座にプラントをリゲル1の衛星に設置。周囲に浮かぶアステロイドの回収とRP化をドロイドたちに開始させた。RP生成よりも恒星系の開発を現在の任務にしているから量は少ないが、確保の目処が立ったことは嬉しいニュースだ。

 OZ用の新型MSとして85年に引渡しを開始するのはエアリーズ。元々リオンとどちらを連邦軍の地上用MSとして採用しようか迷っていた機体だが、ティターンズが採用するというならば所属をはっきりさせる上でも役に立つ。ミノフスキークラフト関連の技術もかなり一般化してきたから、軽量級のMSであれば浮遊航行もあまり問題は無い。また、アナハイムが既にエゥーゴの要請でガンマ・ガンダム計画、つまりリック・ディアスの開発に取り掛かっていることも確認出来た。型式番号はMSA-009に決定し、アナハイムのアンマン工場で開発が進められているらしい。

 こうした動きの中、ジオニック社は10月1日付けで正式に本社を月面グラナダに移し、ジオン共和国向けのハイザックの生産に入った。また、グラナダ軍港ドックにおいてジオン共和国艦船の積極的な整備を開始。新造艦こそなかったものの、この3年間に老朽化した艦船の近代化改装を開始してもいる。早速の大量受注にセシリア・アイリーンからはどうにか持ち直しそうだ、との報告も受けた。

 こういった形でポイント面での不足は産業面での好調で何とかバランスが取れているという現状だ。翻って月面Nシスターズを見てみると、既に始まっていた建艦ラッシュは恐ろしい勢いで拡大を続けている。

 まず連邦軍から大量受注するであろうクラップ級の建造が既に月では始まっている。建造スケジュールをごまかして納入する予定だから出来たことだが、幾つかの船は月方面軍の装備にも回せるだろう。中型ドックではGR型輸送船の建造も既に20隻単位で始まっており、船渠に運び込まれる物資の量は多くなり、それに応じて何とか隕石などの搬入を行い、RPをチマチマ稼いでいる。

 また私兵戦力の方は艦隊旗艦、及び主力部隊用に建造しているアークエンジェル級4隻に加え、ミネルバ級及びイズモ級の建造を開始。ミネルバは旗艦として、イズモ級の方は月方面軍がティターンズの跳梁で独立裁量を得たときに備え、主力艦として運用可能な数を既に作り始めている。UC初期、月の地下にある大量の土砂をRP化したときに生じた空洞に安置し、モスボール状態で投入を待つようにさせるつもりだ。個人的にはハガネとかクロガネとか出してみたいが、それはまだ我慢我慢。

 更に冥王星基地ではアクラメーター級アサルト・シップの量産体制が確立。既に24隻が起工し、3隻が就役して輸送任務を開始し始めた。核融合炉の燃料となるヘリウムを中途のガス状惑星からトラクター・ビームで採取したり、氷隕石を確保してラディカル・テラフォーミングを行うなど何でもこなせる船というのは本当にありがたい。

 MSの生産は主力であるゲシュペンストをMK-2に移行中。既に量産型ヒュッケバインも量産試作に入っているが、投入の時期を調整するため、試作機としてビルトラプターなどのワンオフ生産も始まった。何しろマッチングの問題があるから、投入する可能性のある機体は前もって作っておく必要がある。既に地球系のワンオフ機に関しては生産次第調整、その後は投入を待つためモスボールという笑えない生産工程に入っている。

 しかし、その生産経験はポイント生成によらない実機生産という形で、ノウハウという最大最良の財産をもたらしてくれている。ワンオフ機の中でフレーム構造を有する系統は殆どサイコフレームの採用、または一部使用(コクピット周りに装備)を行っているから、UC系のニュータイプに使わせる場合、良い結果をもたらすだろう。

 そして最後に、私やハマーンの用いるワンオフ専用機の生産だ。ジオン系で用いる事を考えていたリファイン・ドルメルがシーマ姉さんに取られた結果、否応なしに一年戦争と同じくゲルググに乗る事が決定したため、ゲルググの調整・改造が行われることになったが何しろ手が足りない。呼び出した知識の持主たちは軒並み量産機やら調整待ちのワンオフ機に借り出されている。まぁ、もし使うとしてもアクシズが地球に帰還した後になるから、まだ必要は無い。ハマーンなつかしのプルサモールも同様だ。

 これに対して連邦側で顔を出して活動する際の機体を如何するかが改めて問題になった。整合性側にMHかHMの投入が行われる可能性があるから、顔を出しての行動の場合、対応できる可能性を持っておく必要がある。現在のステッペンウルフではHMには対応できてもMHは基本無理ゲーなのだ。パイドルスピアの一撃でばらばらになりかねない。

 しかし、イレーザーエンジンに制限がかかっているため、MHの性能低下が果たしてどれ位になるかがわからないのが辛い。ジェネレーター出力に性能がある程度依存はするが、そのジェネレーターに何を持ってくるかがわからない。仮にこちらと同じく対消滅エンジンを用いている場合には性能は拮抗するのだろうが、それを使ってくる可能性は如何だろうか。また、自己修復を行うネオキチンにしても、こちら側にはイスマイルという似たものがある。どうやら、やはり劣化MHとチート系は同じような性能になりそうだ。

「やっぱり、実機が欲しいところだよな」

 目の前で骨組みが作られ始めているテューディ制作の新型"ガンダム・チート"を見上げながらため息混じりにつぶやいた。ガッツォーをモデルに一機くみ上げるはずなのだが、ポイント生成を避けて生産しているためにポン、と出てくるわけではないところが痛い。それでもチート系機体の生産経験は重要なノウハウになる。避けられない道だ。でもなぁ、このままいくと量産型ガンダム・チート、所謂"ジム・チートタイプ"とかも出てくるのだろうか。……想像できん。

「頼めばくれるんじゃない?」

「……否定できないな」

 FSS原作を読む限り、頼み込めば如何にかしてくれるのではないかと思う。流石にL.E.Dミラージュはくれないだろうが、ホーンド・ミラージュくらいならくれるかもしれない。もっともそれらのシリーズでなくとも、一機でも手に入れば性能の予測が付きやすくなる。個人的にはバッシュ欲しいなバッシュ。ブラックナイト最高である。

「AKDならガンダムMK-2の建造計画に出てこいっていっていたでしょ?」

「セニアとテューディを送るわけには行かないし、かといって他の人もね。現状、手を広げるわけには行かないよ。新しく呼び出そうにも技術者関連は対応技術に差があるし」 

 テューディはコンソールから顔を上げ、設計関連の図面を保存してそれを消すとこちらに向き直った。顎に指を当てて思案顔。こういっては何だが、三十路のする行為とは思えないし、当然三十路にも見えなかった。その視線に不快気にこちらを見てくるが、何かを思いついた風にこちらに近づいてきた。

「テスパやってる三人娘!あの子達なら」

「……かな、やっぱり」

 そのことは自分も考えていたところだ。呼び出した科学者の多くが持つ技術が少しでも漏洩した場合に技術革新を生みかねない技術であることとは対照的に、一番最初期に呼び出した三人娘の持っている技術は基本、宇宙世紀かコズミック・イラのもので、双方共に現段階で漏れても問題は無いものだ。それに、あっちの持っている技術と被っている。

 しかし、それは三人娘が捨て駒となる可能性を孕んでいる。勿論避けるための手段は講じるつもりだが、絶対とは言い切れない。彼女たちにはかなり長らくお世話になっている。ここで話を持ち出しても良いか、と考えてしまう。

「いずれにしても、誰かを送らないと話にならないわ。トレーズに話をつけておけばいいんじゃない?」

「しかし、トレーズだけではいざというときが怖いな。……トレーズと相性がよさそうで暴走の心配が無いもの。こちらの意を汲み取れるだけの考えを持ち……なんて条件をつけていったら一人しか残らないよな」

 誰の事を言っているのかわから無いテューディは首を傾げるが、"妹のため"ならば戦争一つでっち上げることもいとわない人物を呼び出すとなると後々面倒な話になりそうではある。まぁ、TV版終了後の活動を考えるならば呼び出しても問題は無いはずなのだが、こちらが暗躍を基本とするとなると、コロニー落しのときのように交戦の可能性もある。あの時はトレーズが上手く収めてくれたから良かったものの、そういう風に上手く行くとは限らない。

「リゲル1からのRP生成が始まった段階で、だな。そうでないと、一定程度のポイントを維持しつつの行動に支障が出てしまう。トレーズの部隊を強化するにしても先立つものが無いと。……そういえばアクセルは暇そうにしていたな。レモンさんはWシリーズで忙しいし、いいかな?」

 腹が決まったと感じたテューディも頷いた。




[26640] 第08話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00318802
Date: 2011/04/27 00:13

「しっかし、よくもまぁここまでの設備と軍隊を維持しているよなぁ。月方面軍は元々サイド3監視部隊の予備部隊なはずだろうに……」

 N6港湾施設から少し離れた所に隠しておいたジェットパックと予備空気タンクを用い、途中で建設が停止となったNシスターズ8番目の恒久都市"N8"予定地へと向かったその男は、中止された建設の際、既に作られていたらしい恒久都市の天蓋をくぐり、都市の内側に入ることに成功していた。

 勿論其処には何も無く――――まだ恒久都市の階層構造を作る前に建設が放棄されたのだから当然といえば当然だが――――ただの空間が広がるだけだ。男はそれでも何かの目算があるらしく、都市の最下層に向かって降り始める。


 月極冠恒久都市"Nシスターズ"。およそ4億人の人口を抱える、合計6つのクレーターに建設された恒久都市である。アナハイムの本社があるフォン・ブラウンやグラナダとは違い、さほど大きなクレーターが存在しない月の地軸点における恒久都市の建設は、それまでに類を見ない構想をもっていた。

 幾つかのクレーターに同時並行で恒久都市を建設し、それを地下交通網で結ぶ。クレーター間の距離は最大で500キロに及ぶことから、当初は建設が果たして可能かという疑念もあったが、目の前に出来てしまったのだから仕方が無い。建設技術では定評のある、ある先進国の建設技術の優秀さを示した、といえるだろう。

 そうして宇宙世紀60年代に誕生したNシスターズは現在、6つの恒久都市を抱え、更に一つを建造中であり、一年戦争前まで続いていた地球圏の好景気が続いていれば、更に二つを同時並行で建造しようとしていたというから、その経済力の強さでこの地球圏では知られている。N1に月本社をおくGP社がその代表例だが、それ以外にも有名会社が名前を連ねている。作業用モビルワーカーやプチ・モビルスーツ生産で名を馳せ始めた有澤重工、造船企業として新型輸送船GRシリーズの生産を開始したクラップ・ドライブ・ヤード社、航空機・航宙機及びシャトルの生産を行うインコム社などといった社名が並んでいる。

 商業都市N1を始め、工業都市N2、N4、N6、軍需都市N3や住宅都市N5など目的別に作られた都市群は地下高速鉄道網によって結ばれ、都市民に快適な生活を提供しており、地球からの移民希望者が月で居住地を選ぶ際の筆頭候補となっているほどだ。

 しかし、それだけに暗い闇も多いのではないか、と男は考えていた。そしてそれは、一年戦争以来、この都市がジオンと連邦の間を揺らぎつつもその政治的地位を保っているだけでなく、ルナリアンと総称されてスペースノイドに近い扱いをティターンズから受けている他の都市―――フォン・ブラウンやグラナダと違って連邦軍が直轄部隊とその司令部を駐留させていることからもそれは明らかだった。

 何しろ、一年戦争時代にはグラナダと同じくジオンの駐留を受けていたのにも関わらず、戦後厳重な監視下に置かれたグラナダとは違って月第一艦隊の駐屯と共に即座に監視や封鎖が解かれ、宇宙における独立国家第一号の地位をサイド1と分け合った点、そんな異常事態を見てもそれは明らかだろう。

 だからこそその闇とやらを検分するため、男―――カイ・シデンは単身、建設途中で放棄されているにもかかわらず、エネルギーの供給系統から独立し情報が得にくいこの都市の出来損ないに入り込む決心をさせたのである。



 第08話



 厄介なことになった、とトールは感じていた。ジャブローでセイラの姿が見えなくなったと思った瞬間、代わりに、とこちらに付きっ切りの取材を申し込んできたのがカイ・シデンであったことで既に予感はしていたが、その予感が悪い方向に当っていたからだ。N8に侵入したカイ・シデンの姿は監視用ドロイドの望遠レンズに捉えられ、トルーパーたちが既に逮捕に動いている。勿論重要区画までの侵入を許すわけには行かないが、トルーパーが逮捕の動きを見せればそれは却ってカイに確信を与えるだけだろう。

 リゲル1の居住設備が完備され、ラディカル・テラフォーミングによる居住環境整備が終わったという報告を受けた0084年9月22日にこの報告を受けるとは、タイミングが悪いのにも程があった。現在、N8地下秘密ドックには冥王星基地から送り込まれたアクラメーター級が2隻停泊している。月で生産した物資を積み込み次第、ステルスを作動させてリゲル1に向けて出港するはずだったのだ。

「将軍、こちらワクサー、ボイルも一緒ですが標的を捉えました。いつでも狙撃可能です」

「ワクサー、射撃は命令あるまで待て。標的がドック内部に入れないようであればそのままお帰り願え。ここで殺すのは避けたい」

 諒解の返事が通信機から入る。ここまでこちらの動きを追ってこれるとは思わなかったが、あのままほうっておいたのはやはりまずかったようだ。既に、カイ・シデンには一回痛い目にあっている。

 カイ・シデン予備役中尉は現在、地球の独立系報道機関アース・タイムズ社と契約している。契約内容は特ダネを掴み次第記事と写真を本社に送付して掲載するというもので、これ自体はフリー・ジャーナリストであれば珍しくも無い。しかし、カイ・シデンの名を不動のものにしているのは、一年戦争時代、ホワイトベース・クルーだった経歴でもなければその独立系ジャーナリストであるという経歴でもなく、勿論所属している報道機関がアース・タイムズであるということでもなかった。

 彼は、0083年に一つのスクープを地球圏にもたらしたことでその名を馳せた。所謂"火星ナノマシン報道"だ。こちらのナノマシン投入予定を狂わせ、対応にポイントなどを注ぎ込まざるを得なかった事件を起こした(というよりも発覚させた)のはあの男だった。

 勿論カイ・シデンがその裏側まで掴んでいるとは考えられない。しかし、その可能性だけは感じているのではないかとは確実に考えられる。そうでなければジャブローでセイラと入れ違いにこちらにくっついてくるわけも無い。星の屑から疑っているこちらの情報を洩らしているだろうスパイの第一の容疑者がセイラ・マスだが、カイは第二の容疑者とでも言える存在だ。

「電源を落して物理的に遮断しますか?」

「N8の電装系統が独立だといってデータバンクへのアクセスを消した経緯があるからそれは無理だ。電源を落せば侵入にこちらが気づいたと思われる。それもまずい。……まぁ、今の段階で詰んでいるといえば詰んでいるが……ケノービ将軍がいればな」

 話しかけてきたトルーパー、レックスも頷く。ジェダイはフォースによって人間の精神をある程度操ることが出来る能力がある。それを使ってもらえば彼に何の疑いを抱かせることも無くこの場をさらせることが出来るが、今彼は冥王星にいてこちらにはいない。

「もう間に合わんが……仕方ない。次のこともあるから、この後で少々早いが予定を早めて彼に来てもらおう。問題は今帰ってくれることだが……」

 焦点となっているリゲル1ではラディカル・テラフォーミング作業が一段落してプラントの移設も終わったことでRPを使用しての居住環境整備が始まっていた。既に軌道上には軍港・生産設備・プラントを備えた巨大軍事用ステーション―――"デス・スター"の建造も始まっている。もっとも、スーパーレーザー発射口は撤去されて隕石搬入口に改装される予定だ。

 勿論それだけではなく、ワールド・デヴァステーターと呼ばれる、惑星破砕分解機も製造を開始している。本来ならばSW新共和国時代、パルパティーン復活後に投入される予定の超兵器だが、トールは惑星そのものを分解し、資源へと変換するそのシステムに注目した。ポイント化という生成できるもののレベルこそ違うが、分解し資源へと再生成する点は同じ―――ということは、"システム"の技術はその延長線上に存在する可能性があることに彼は目をつけた。

 リゲル系内にてデス・スター改造型ステーションを4基建設し、建設との同時並行でRP生成作業を始める。またワールド・デヴァステーター8基の建造を行い、テラフォーミング可能な惑星の無い星系に送り込んで資源・RP化を行う。それがリゲル開発計画の目的の一つだ。その初期段階であるリゲル1の基地化及び生活環境の整備には何よりもまず、最大限早く行う必要があった。またそれだけではなく、リゲル1の基地化を受けてリゲル星系内の他の惑星にもテラフォーミングが始まっている。ケノービ将軍の艦隊も昨日、アルファ・ケンタウリに到着してテラフォーミング作業を開始したと言う報告が来た。今回のアクラメーター級の月寄港はそれに必要な物資の輸送を行うためだ。

 そうした早期の体勢再構築に躍起になっている段階で余計なお客にはお帰り願いたいのがトールたちの本音だが、それは客たちにとっても事情は同じようだ。エゥーゴに協力しているらしいカイ・シデンの立場からすれば、何とか交渉材料を見つけたいと言うところだろう。ミツコさんからの報告で、エゥーゴに流れている多額の金の出所がGP社関係企業からのもの、などという報告も入っている。出所は言うまでも無くセイラ・マス。しかし、ここまでシャアの行動を助けるような人物だったか、といまさら思わないでもない。Oガンダムなどと言ってくれるなよ、ホント。

 モニタを眺めていると、取り出したディスクを挿入口に入れてコンソールの操作を始めた。即座にキットがハッキングを開始し、ディスクに封入されたプログラムの無効化を開始する。どうやらかなり手の込んだプログラムらしい。インターフェースを物理的に如何こうするわけにはいかないが、こうしたネットワーク上の争いであればキットに適う相手はいない。

 挿入口に差し込んだプログラムの応答が無い事を数分そこにとどまったまま確認していたカイが、ワクサーたちに立てさせた音にびくついて退き、緊張に支配された時間は終わりを告げた。モニタで彼の一挙一動を監視していた者たちがため息を洩らす。

「……何とか帰ってくれた、か?いや、そう思うのは時期尚早だな。早速部隊を送って彼の身柄を穏当に拘束してくれ。拘束が確認出来次第、盗聴や監視その他をチェックした後にアクラメーターを発進させる。私も二番艦に乗ってリゲルに向かう」

「諒解しました」



 一方そのころ、GP社出向技術研究員としてティターンズ管理下のグリーン・ノア1に降り立った三人娘はティターンズ士官の案内の下、早速ガンダムMK-2開発施設に案内されていた。

 GP社、より正確に言うならば月方面軍からの出向になるため、出向に際しては0083で用いられたヴォルガ級巡洋艦"レナ"が用いられ、アクセル指揮するMS小隊が護衛として配属されている。所属しているのはライラにヤザン。双方共に今回の任務に当ってゲシュペンストを与えられている。勿論月で用いていた旧型であり、技術情報がAKD側に漏洩した場合のことも考えての配置だ。

「これが開発中のガンダムMK-2の試作機だ」

 設計主事のフランクリン・ビダン大尉がGP計画機の面影を多分に残した機体を示した。ここにトールがいたならば目をむいたことだろう。すえつけられていた機体はガンダムMK2の0号機だったからだ。ガンダムMK2の0号機は"ギレンの野望"シリーズで、"GP計画が封印されなかった場合"のMK2の試作機となる機体だ。これがここにあるということは、アナハイムにしろ連邦軍にしろ、実質的にGP計画を封印などしていないことの証拠となる。トールはまだ知らないが、MS開発の時期が2年ほど早まっているのもGP計画の成果フィードバックが史実よりも早いからだった。フランクリンは機体の詳細をチェックし始めた三人娘に心を良くしたのか、解説を始めた。

「装甲材は一年戦争時代からのルナ・チタニウムだが良い機体に仕上がっている。装備するビームライフルは出力の強化に成功してビームカノン並みの砲撃が可能だ」

「其処までの出力のあるジェネレーターを搭載しているんですか?」

 興味を惹かれたらしいアサギが尋ねると、更に気を良くしたフランクリンは悦に入って解説を続けた。

「まぁな。胸部には現在、ジム・カスタムなどに搭載されているジェネレーターの出力強化版が搭載されているが、それに加えて両足大腿部に補助ジェネレーターを搭載している。君らのところの有澤重工製動力鉱石エンジンだ。君たちを呼んだのは他でもないのだが、この補助ジェネレーターの出力向上版を如何にかして設計し、更に大腿部に収めて欲しい。現在有澤から提供されているジェネレーターではモノコック構造内には収まるものの、中心部分にムーバブルフレームを走らせるとサイズ過多になってしまうのでね」

 話を脇で聞いていたアクセルはなるほどと頷いた。これは月を呼ぶはずだ、と思っている。有澤重工はプチ・モビルスーツ用の動力鉱石エンジンを販売しているが、その直径はプチ・モビルスーツの胸郭内部に収まる大きさに設計されている。モノコック構造ならば収まるだろうが、中心部分にフレームが入るのであればジェネレーターそのものの再設計が必要だ。

 しかし、出力強化したジェネレーターに更に補助として二基の動力鉱石エンジンを搭載すると、出力はかなり強化される。ビーム系武装の多彩な機体が開発される可能性が高いし、ひょっとすると固定武装で高出力のメガ粒子砲を搭載した機体を考えている可能性もある。ジェネレーターの誘爆を防ぐためにはジェネレーター内部に投入するミノフスキー粒子を強める必要があるが、それは逆にジェネレーター出力を低下させる事を意味する。UC100年代に入ると出力を強化し、向上した性能の代わりにMSの誘爆が酷くなっているのはそれが原因でもある。

 それを動力鉱石エンジンを補助ジェネレーターとして活用することで避けようと考えるとは中々のものだ。そしてそれは目の前の男程度に考えられ得る代物か?そもそも核融合ジェネレーターに加えてサイクルの異なる発動機を積もうなどと考えるのは現場の事を考えていない証拠だ。そういう面からならば目の前の戦場を知らなさそうな男が設計しても不思議ではなさそうだが、そもそもああいう手合いはそうした奇手に走るほどの考えをもてないはずだ。

 其処まで考えたアクセルは、背後から二人の人物の気配が迫るのを感じた。一人はかなり気配が強く、もう一人の気配を殺すほどの勢いだ。

「だめですよビダン主事。そんなにネタバレをしては。せっかくの連邦・AKD共同開発の新型MSなんですから」

 女性の声。出発前に渡された資料に記載してあるAKD社設計局長、レディオス・ソープのものであることは疑うべくも無い。振り返ったアクセルに一礼すると彼女は0号機に近寄り、いとおしげに脚をなでながら三人娘とアクセルに嫣然と微笑んだ。

「月にお邪魔した際にはミューゼル中将閣下に御目文字出来なかった事が残念だったわ。今度こちらにいらっしゃってくれると嬉しいんだけど」

「中将はお忙しい方ですし、こちらに来る際には何かと外野が煩いこともあるでしょう」

 アクセルは答えながら0号機を見あげる。シールドはGP01Fbのものを改造したらしい形状になっている。また、機体全体も資料で見たガンダムMK2や0号機とは違って太り気味だ。勿論太くなった脚部は補助ジェネレーターを搭載するためのものだが、そのために増大した自重を機動性を確保したまま運用するため、脚部に搭載されているスラスターの類が史実よりも増設されているだろう事をアクセルは確認した。勿論、トールがここにいたら"なんでこの時期に近藤版MK2量産型が下半身だけいるんだよ"とでも突っ込んでいたことだろう。

 更に脚部の強化にあわせて背面部ランドセルも変更されている。形状こそ変化していないが全体に大振りとなり、スラスター出力が強化されていることがよくわかる。アクセルは資料で見たAKD製MHの機体デザインを思い出し、あの折れそうな脚線美とやらは何処へ行ったのかと考え始めていた。どうやら、現状の技術で脚にジェネレーターを搭載しようなどと考えた場合、どうしてもドム程度とは行かなくとも、それなりに大きくなる他は無いらしい。

 脚のデザインにアクセルが集中しており、それがどうやら足の太さを気にしていると察したらしいソープの表情が引きつったものになる。どうやら、達成した機体デザインや性能の方はともかく、この足の太さには彼女自身、気に食わないものを感じているらしい。だからといって気に食うようにイレーザーエンジンの搭載、など出来るはずも当然無い。まぁ、MHの場合でもAKDやコーラス王朝でも無い限り、足が太めな機体には事欠かないのだが。

 このままガンダムの話を続けていてはまずいと思ったのか、ソープはアクセルに近づくと肩を引き、ビダンに話が聞こえない程度の距離まで離れると言い放った。

「我々はティターンズへ宇宙用量産型として"バルブド"を提供します。おそらくジオン型、あなた方の送り出してくるカルバルディΒよりも、ティターンズの方々の心象は良いでしょう。そしてあの機体を見てもらえば解るように、既にアナハイムと共同でZ計画が始動しています。百式、クワトロ大尉に渡る予定になっていますしね。……私としてはK.O.Gの廉価版でも渡そうかと考えていましたけれど」

「……何が言いたい」

 アクセルはソープを見た、ソープはその視線を受け取ると、アクセルを睨み返す。同時にアクセルは言い様の無い戦慄に襲われた。どうやら、この女性形態でもそれなりに天照の力を使えるらしい。そしてそれはオビ=ワンがシスの暗黒卿程度、と評した程に強いものだった。東方不敗の教育を受けていなければアクセルは膝をついていただろう。

「私たちの輸送艦、あなた方が売り出したGRとかいうコンテナ船の一つを差し上げます。MHベルリンが。どうぞ心逝くまで調べてくださいな。もっとも、ファティマではなくエトラムルが搭載されて、自己判断で行動できる性能などありませんけどね」

「何故それを俺たちにばらす?そして何故貴重なMHをこちらによこす?」

 ソープは顔を輝かせると夢見る少女の顔になる。まるで、何かを待っているかのようだ。そして恍惚とした顔で言った。

「さぁ?それを考えるのがあなた方の仕事の一つでしょう?僕とラキシスの組み合わせに勝てるとしたら……そうじゃないな」

 一瞬にして表情が暗く、しかし、何かを求める顔つきになる。

「"奴"ではなく"彼"ならば、と思うからさ。それに、この世界にはしがらみが無いからね。……こんな"鎖"、なければいいのに」

 はき捨てるように言った言葉に、アクセルは真実の片鱗を感じ取っていた。



[26640] 第09話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00318802
Date: 2011/05/03 00:31

「そうか、どうやら"あちらさん"はあまり所属員に好かれてはいないようだね」

「目的の達成が第一、それが守るべきルール、という奴なのだろうな。お前のように合意を求めないらしい。確かにその点は"安上がり"に済むのだろうが……其処のところは如何なんだ?"システム"が呼び出した存在がお前なり"あちらさん"に服従する、とか言う決まりになっているんだが、其処のところは俺にはよくわからん。実感が無い」

 グリーン・ノア1にてMHベルリンを供与されたという話は早速月でリゲル1に向けての移動準備を進めていたトールの下にもたらされた。アクセルとの会話は当然AKDから供与されたMH――モータヘッドについて。早速輸送が行われ、3日以内には届くとのことだ。そして話は其処からシステムの呼び出した人物に関する"服従"についてのものとなっていた。

「あちらがどうかは知らないが、合意が出来れば俺の場合は其処まで意識して縛るようなことはしていない。どの程度の縛りをかけるかは呼び出した存在の性格や能力による。それに、縛りをかけることで合意に悪影響が出るなら俺の場合は基本的には呼び出さない。今現在、もっとも強い縛りをかけているのは例外のシーゲル・クラインぐらいなものだしね」

「しかし、彼の場合は完全な一般人だから縛りがどの程度強い影響を与えているのか、本人に自覚は無い、と?」

 トールはアクセルの問に頷いた。トールの場合、呼び出した人間と最初に合意に関する話し合いを持ち、それで決裂した場合には穏当にお帰り願っている。本人との合意ができていないのであれば進行の上で支障が出る、と思っているからだ。そもそも無理に呼び出した存在に仕事をさせようと考えるなど、彼の趣味にあわない。勿論、その趣味とは進行上どうしようもない事態が生じた場合、例外は出てくる。しかし、どうやらあちらは合意関係なしに呼び出し、使役しているらしい。

「ああ、それに東方先生とかのようにそもそもそんな縛りがあるのかすら疑わしい人だっている。其処から考えると、あちらの縛りはそれほどに強いのか、それとも縛りそのものにポイントを用いて強制的に支配しているのか?流石に其処までは解らない。個々人に認識が可能かという問題だからね」

「彼女の話からすると、その縛りをお前さん側に持ってもらいたさそうに見えたがな」

 トールはため息を吐いた。あちら側にこっちに対するシンパがいそうだ、という情報は確かに嬉しいが、そのシンパが危険人物とあっては早々嬉しがってもいられない。

「アクセス権は先にとった者勝ちで、しかもアクセス権を取る際にそれがシステムの構想と異なった際には制限がつくし、アクセスそのものを許されないことだってある。スター・ウォーズ系はかなりポイントを使わされたしね。"奴"も恐らくFSS――ファイブスター物語にはかなりポイントを使わされたろうから、其処はきっちりと縛りをかけておきたいんだと思う。レディオス―――天照は多分、"奴"にとって切り札の一つで、おそらく東方先生相手を考えているんだろう。そして対東方先生キャラだからコントロールも充分で無い、ということかもしれない」

「しかし、それにしたってMHベルリン、お前の話では旧式の量産型とはいえ、MHだぞ?供与にあっちの意志が入っていない可能性が無いとは言えないだろう」

 トールは力なく頷いた。要は其処だ。ベルリンの供与、といってもあちら側の作戦かもしれない可能性がある。MHの性能を低く見積もらせ、こちら側の戦力を低く抑えるための。その可能性が捨てきれない以上、レディオス・ソープの言葉を額面どおりに受け取ることが出来ない。

「だからさ。"考えるのがこちらの仕事"ということなんだろう。あっちの真意が何処にあろうと、こちらはこちらの仕事をする。ガンダムMK-2の性能が向上していて、ティターンズ宇宙用にバルブドの供与が始まるというのは確かにニュースだ。今はこちらも余力が無い。あっちが何をしてきても良い様に力を蓄えておくしかない。そして今の最優先は?リゲルだよ」

 アクセルは頷き、通信が切れた。



 第09話




 それから一週間後。リゲル1の開発、人類が1000光年を越えた場所にまで到達したことなどで思いもかけずGPを得られたのは嬉しい驚きだったが、量産型とはいえMHの製造が始まっている情報は脅威だった。MHベルリンをこちらに供与してもかまわないということは、それがレディオスの独断で無いとしても、サイレンやA・トール、ホーンド・ミラージュくらいは保有していると考えて動いた方が良いだろう。早速テューディに御願いして受け取り次第の機体解析に回ってもらうが、機体性能次第では恐るべき相手だ。

 ポイント生成機、それも完全なオーバーテクノロジー機同士での戦いは流石に未経験だが、それに対応できる体勢が整ったとはいえない以上、こちらも対応できる体勢は整えておくしかない。幸い、リゲルでのRP生成は順調に行えそうだから少々過剰にでもRPをとっておく必要があるだろう。

 ハマーンやシャア、セイラにカイといった宇宙世紀の人間たちの関係だけでも頭が痛いのに、そこにアクシズやティターンズにまで影響を与え始め、Z計画にまで手を出した"整合性"がでてくるわけだ。情報を得るにしても戦力を整えるにしてもポイントシステムに頼るしか無いこちら側としては不安があることこの上ない。システムへの依存を深めれば深めるほど、こちらの動きが縛られていくような感じを受けるのは心配のし過ぎか、とも考えたが、ポイント生成機にシステムが何らかの縛りをかけられる以上それを避ける手段は並行して追っておく必要がある。

 まぁ、どちらにしても宇宙世紀に生じる争いの中で彼らとぶつかることは規定路線だろうから、グリプス戦役が始まる3年後―――もう2年と少ししかないが―――までがタイムリミットなのだろう。こちらの動きも其処までが自由に動ける限界になる。解っていたことだが、この2年は忙しいことになりそうだ。

「将軍、カイ・シデン氏のターミナル・ポートでの乗船を確認いたしました。……これで何とか自由に動けますかな」

 背後からコマンダー・コーディの声がした。彼の配下であるレックス大尉率いるトルーパー部隊は先日のN8潜入騒ぎ以降、カイ・シデンの監視についていたが、あちらもどうやったのかそれに気づいた様で、そそくさと次の取材予定を組むとNシスターズを離れる決意を固めたようだ。N8地下ブロックが発見されなかったのは本当にほっとした。もっとも、ある程度情報を抜かれた可能性はある。

「そう、だな。何か他に報告は?」

「ベーダー大将とビュコック大将から連名で報告が。連邦軍の86年度組織改変の草稿が固まったようですので将軍にも眼を通されておくように、と。またベーダー大将からは月極冠都市連合所属軍人の中で大佐クラスの人材を要請されています。新規編成される本星艦隊に配属したい、と」

 一瞬どういう話か不明だったので目をしばたたかせたが、それを察したらしいコーディが書類を渡してきた。目を通してため息をつく。連邦軍はどうやらグリプス期の艦隊編成に来年から移行するようだ。しかも、かなり大規模に。

 これまでの連邦宇宙軍はルナツーを母港とする第一軌道艦隊と地球静止軌道、ステーション・ペンタを母港とする第二軌道艦隊、更にサイド3駐留の第一連合艦隊と月駐留の月方面軍、コンペイトウを母港とする第三、第四、第六艦隊に、現在サイド7に展開しているティターンズ第一艦隊こと第9艦隊の8艦隊を維持し、更に多数のパトロール艦隊を展開させている。

 しかしデラーズ事件で宇宙のジオン残党が払拭した事を受け、軍縮と再整理に本格的に手をつけ始めた。地上軍の方もアフリカ以外でジオン残党が勢力を弱めた結果、同様の再編成を受けることに決まり、軍がこれまで拘束していた人材の多数を民間に放出し、現在地球圏で進んでいる好景気―――火星バブルによる恩恵を更に享受しようと考えているらしい。

 再編成案は第一、第二軌道艦隊と第一連合艦隊を糾合し地球本星艦隊を編成、月方面軍とティターンズ第一艦隊には手をつけず、第四艦隊を解散して第三艦隊と合同しコンペイトウ及びL1空域を担当させ、サイド3監視任務に第六艦隊を当てることとしている。また9個艦隊司令部を維持する方針を決め、未編成の4艦隊司令部(本星・月・ティターンズ・第三・第六以外)は地球本星艦隊の下に置き、必要に応じて本星艦隊から分遣艦隊を編成し派遣する際の司令部に充当、としている。またパトロール艦隊についてもサイド1・ザーン共和国及び月方面パトロール隊は解散と決まり、サイドの警備は自衛軍に任せ、航路監視・デブリ除去に任務を減らさせている。

 つまり、艦隊の数を減らした上で連邦軍の衰退原因となっていたデブリ除去任務を各サイドの自衛軍に回したわけで、これで連邦軍の弱体化は、かなりペースを落したことだろう。そしてそれはグリプスでの連邦軍の行動にきっと影響を与えてくるはずだ。
 
 書類上では三個艦隊+α、実際に兵員や士官などでは二個艦隊近くの人員が整理されることとなり、これでかなりの軍縮と予算の整理が確定した。勿論新規編成された部隊はそれだけでは無い。志願者による火星駐留艦隊の編成も同時に行われることとなり、サンドレッド塗装のリーオーを配備した部隊の派遣が決まっている。地球本星艦隊司令は宇宙艦隊司令長官も兼ねることとなっている。

 司令官配置は月が私でティターンズが勿論ジャミトフ、地球本星艦隊がビュコック大将で参謀長がヤン中将と決定しているがそれ以外は未定だ。ジャブローから離れる際と今回、ベーダー大将が人材の融通を求めたのは、地球本星艦隊の分遣艦隊司令となる人材が現在、あのブライアン・エイノー少将以外決まっていないことによるらしい。

 更に、他の司令部人事についても書類には記載があった。どうやら新作戦本部長となるベーダー大将は既に次の戦争を感じているらしく、人事が完全に戦闘体制になっている。ティアンム提督を地上軍総司令に、ニシバ・タチバナ中将を第三艦隊司令に、そしてヴォルフガング・ワッケイン中将が第六艦隊司令になっており、宇宙軍と地上軍の司令部、宇宙軍の主力は完全にシトレ派で固められることに決まったようだ。こちらとしてはうれしいし都合が良いが、ここまで人事に差が出てしまうと押さえつけられた地球至上主義者の動きが後々怖い。地球至上主義者らしく、地上軍の人事の方がそちら関係の派閥になっているから、ティアンム大将の胃のストレスはマッハだろう。かわいそうに。

「ベーダー大将からの要請は大佐クラスの人材だったな?」

 コーディは頷くと解説を添えた。

「本星艦隊着任後に少将へ。分遣艦隊司令官として用いるため、有用な人材を、と。地球本星艦隊は通常編成の艦隊3個分の増強編成になる予定なので、戦力運用は任務部隊方式を採用するそうですので」

 なるほど、と頷いた。確かに戦艦8隻、巡洋艦48隻他で編成される通常艦隊編成では戦力運用としては大規模になりすぎる。だから戦艦が1隻か2隻、巡洋艦8隻程度で運用できる部隊を考えているのだろう。確か、ガンダム・センチネルに登場したX分遣艦隊がそうした編成のはずだ。通常編成3個分ともなれば、司令部の大きさも尋常ではないはずだし戦力運用にも支障が出るからそれをするほかは無いということか。

「ああ、GPが次から次へと」

「将軍、勢力を伸ばしておくことは必要だと考えます。良き兵士は準備を怠りません」

「出来ることならリゲルの戦力の拡充にポイントを使いたかったんだよ。ユラーレン提督とケノービ将軍だけでは正直不足だ」

 其処に新しく誰かが入ってくる。凛とした声音で断言するように言った。

「シナプス大佐は如何?カーティス大佐は少将に昇進させて月方面艦隊の副指令に任命すれば、あなたが動かす部隊との二個編成が取れる。今の段階でシナプス大佐を確保しておく必要性は無い。後任にはポイントで呼び出した新たな人材を加えれば良い。それに、エゥーゴの運動にかかりきりになっているブレックス准将も、配属上は本星艦隊にしておけば良い」

 声音に含まれたものこそ違うがこの声は聞き間違えようが無い。ハマーンだ。髪のセットこそグリプス期の標準であるモモカットではなくシャギーにまとめているが、視線の、そこに含まれた背景の姿は完全にグリプスのそれになっている。一体何があった。そうしたこちらの感情に配慮する事無く、ハマーンは言葉を続けた。

「今回の艦隊再編成で人事の基本がスペースノイドに対する穏健派になったのは、地上軍を完全に地球至上主義者で固めるためと、宇宙軍を徐々にティターンズに取り込んでいくため。恐らく、宇宙でのティターンズの活動を後押しするような事態がこれから連続して起こり、そのたびにポストがだんだんとティターンズよりに移っていく形にするつもり。今回の人事は過渡期に過ぎないわ。むしろ、この人事をグリプスまでどれだけ維持できるかが焦点」

「ハマーン!」

 話を途中で中断させる。彼女の予測が正しいであろうことは言うまでも無いが、流石にこれは異常事態だ。原因となったのは何であるかは解るが、それがアレほどまでに影響を与えるきっかけになるとは思っても見なかった。こちらを見つめるハマーンを見返すと、そのままコーディに向けて言う。

「コーディ、ご苦労だった。人材に関してはおって考える。今は時間をくれ」

「諒解しました、将軍」

 コーディが部屋を出るのを確認するとハマーンに向き直る。自分が今何を口にしていたかは良く理解している、といった風だ。意志を視線に込めてこちらを見返してくる。今までは出来なかった視線だけの――意志のみによる精神感応が始まる。正直、これほどまでにハマーンのニュータイプ能力が伸びを示しているとは思いもしていなかった。確かにグリプス期、ハマーンは戦場でカミーユとの精神感応を行っていたが、それにしても片方にはサイコミュ、片方にはバイオコンピューターとそれぞれ補助を受けていた。何らかの機器による補正を受けていない状態ではせいぜいが予感程度のはずだったが、この能力の向上は予想外だ。

 今は10月、あと15ヶ月。でも、それほどには待てない、今すぐにでも役に立ちたい。あの女に負けたくない。負けていないことは知っているけれど。そんな思念が視線に乗ってこちらに伝わってくる。ハマーンの感情は良くわかる。ハマーン本来の性格、というよりも宇宙世紀作品でのハマーンの描かれ方、どういう女性なのかは良く知っている。それが彼女の行動に強い影響を与えていた―――与えていることも。

 一言で言うなら嫉妬深い、それがハマーンの特徴だ。シャアとの関係においても、シャアが思考にまだララァやセイラといった女性たちを残していると知ったとき、それが既に死んでしまった相手であり、妹であると知って尚嫉妬の感情を抱いた。ナタリーがシャアの子供を身ごもった事を知った時、彼女に迫る危険を看過したのもそのせいだ。そしてハマーンは、少し怖い目にあえばよいという自らの嫉妬の感情が彼女を殺したと知ったときにシャアの前に顔を出せなくなった。しかしそれでも尚シャアに思いを寄せ続けたことはグリプスで存分に描かれている。

 今までミツコさんやセニアにそうした感情を向けてこなかったのは、自身がまだ幼い為でもあり、精神感応を行って、彼女たちの真意をハマーン自身が理解しているためでもあったのだろう。いうなれば、精神でつながりあった彼女たちはある種ハマーンにとって特別な存在であり、年齢の近い友人関係にあるからであり、強い絆で結ばれた、といっても良いのだろう。

 しかし、そこに新たに現れたのはもう一人の自分が嫉妬の対象とし、自身の全く及ばぬ分野で能力を見せ付けてくるセイラ・マス。ハマーン自身も勿論、彼女と自分の土俵がまるで違うことぐらいは想像しているだろうがそれでも我慢ならないらしい。恐らく、自身の理性でも私がセイラを如何こうするつもりが無いことぐらいはわかっているのだろうが、それでもこちらに近づいてくる彼女が許せない、といったところだろうか。

 それが彼女にどのような影響を与えたかは知っている。それがZZでの暖かくも悲劇的な終わり方につながるということも。存在の基本が高潔でありながらあのような行為をするに至ったのは其処が原点だと思わなくも無い。

「私は解っている事を口にしただけだ。トールが口に出していない事を。必要だと思うのならば何故それをしない?」

「シナプス大佐の連邦軍での位置が微妙だからだ。官僚機構では規定以外の仕事をする人材は嫌われる。それが例えどんなに必要であったとしても。私としてはラビアンローズでの強制徴集の一件が有耶無耶になり、連邦軍が一人でも多くの艦隊司令官を望まざるを得ない状況になるまで待つつもりだった。具体的にはティターンズの勢力が拡大し、グリプスでのメールシュトローム作戦とペズン反乱事件の結果、艦隊司令官に深刻な不足をきたすまでは。鳴り物入りで復帰すれば復権は容易だからだ」

 ハマーンは口元を歪めるとこちらを見た。正しい答えだ、とでも言わんばかりの表情で。知っていたのか。まぁ、当然といえば当然だろう。彼女も私の内心を読むことで黒歴史の内容に付いては知っている。自身の出した復帰案とこちらの考えていた復帰案のどちらが連邦軍の掌握に役立つかは言わなくとも解っていたのだ。この発言の真意は―――

「それで、そのことがお前がそういう態度をとることとどういう関係がある」

「私は、ハマーン・カーンとして戦場に立つ。その決意表明だ。トール・ミューゼルの同盟者としてふさわしい事を示す」

 グリプスそのままの口調でハマーンは言った。視線に絡めて思惟を送ってくる。気づいて欲しい、か。無意識なのだろうが、切実な思いであることに違いは無い。もう、こちらの好みが如何こうといっている時間は無いのだろう。史実の流れとは違い、シャアやセイラ、ナタリーといった、意識的にしろ無意識的にしろ彼女が悪意を向けられる対象は無い。となれば押さえきれない彼女の心は彼女自身に向かうことになり―――やめよう。そうはならないほどの何かを、彼女は既に持っているはずだ。

「私は決めた」

 いきなりの言葉にハマーンが面食らったような顔になる。良い表情だ。

「リゲル1、当然付いてくるんだろう?」

「勿論」

 ならば問題は無いさ、と言ってその場を去った。死んで礎になろうと思ってもらっては困るし、生きてこちらの近くにいても、抑えきれない衝動が生じてしまえば結局どうなるかは解る。であるならば―――致し方ない。史実の流れが変わり、敵の動きが判然としない今、内部に獅子身中の虫をこれ以上飼う余裕は無い。
 
 手段は一つ。やることは決まっている。

 夢の中の存在にするつもりも、させるつもりも、戻すつもりも無いのだから。其処まで考えたところで自嘲した。




[26640] 第10話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00318802
Date: 2011/05/10 02:24
 リゲル1への第二波輸送部隊の出港を来年(85年)1月と決め、冥王星と月をピストン輸送させて物資の集積を始めるように命令すると、早速リゲル1への到達ポイントを用いて連邦軍の人材強化を行った。今回も呼び出したのは自由惑星同盟の将官たちである。

 連邦軍内部にこちらのシンパを持つため、一年戦争時にはシトレ、ビュコック、ヤンにグリーンヒルを呼び出していたが、ベーダー大将から本星艦隊の増強を依頼されたのはちょうど良い機会だと判断し、チュン・ウー・チェン、クブルスリー及びウランフ提督においで願った。説得についてはヤン中将の手助けもあり上手くいき、連邦軍内部の良識派を強化する上で助けになってくれるだろう。

 もはや連邦軍が白い自由惑星同盟化しているような気がしないでもないが、暴走してコロニーレーザーのハッピートリガーとかコロニーの壁をぶち抜けGO!とかは御免である。本星艦隊の陣容を強化しておくことは、きっとセンチネルで助けとなるに違いない。ああ、勿論グリプスやCCA、UCでも、だ。

 それ以外の地球圏の動きとしてはベーダー大将に早速採用させたクラップ級とアイリッシュ級の評価が良く、先行量産として地球圏各所のドックで建造が始まったことだ。バスクがプライドからかアレクサンドリア級や拡大改良型のロンバルディア級の生産をルナツーで続けさせているが、それ以外、つまりティターンズ以外の部隊ではこの二つが主力になるようで、早速サラミス級の中から退役艦が選ばれ、航続距離の低減改造処置を受けた後、コロニー自衛軍に供与・売却されることが決定している。

 84年中に起こる事件としては注目していたガンダム・KATANA、所謂バーゲストとシン・フェデラルの抗争だが、こちらは発生していない。既に月のジオン残党はデラーズ事件の際に払拭し、ジオン残党に蜂起させ、連邦政府の無能を証明する事件など起こしようが無かったためでもある。ストライカー・カスタムの母機であるジム・クゥエルもサイド1自衛軍の装備になってしまっているため、改造母機が連邦軍に存在しないことも後押し材料になったらしい。だったら同じクゥエル改造機を初期装備していた"Advance of Z"はどうかと思っていたが、ジム・カスタムを母機として案が進められているようだ。

 またティターンズは85年新装備として地上軍でGP社のエアリーズを、宇宙軍で一部部隊用としてAKD社製バルブドの採用を公表した。バスクは独自カラーリングで精鋭部隊を演出しているOZに対抗するため自分の部隊に優先配備させているそうだ。カタログ・データを見るとこちらが供与を考えていたガルバルディと同じぐらいの性能で、外見がジムに近いのであればまぁ、そうなるだろう。

 そんな事を思いつつ、月を出港したアクラメーター級アサルト・シップの司令官室でくつろぎながら超光速通信網による報告を受けていたトールは通信を切ると後ろを振り返った。休暇を口実に冥王星に移動すると共に、実際に自分の目で現在のアステロイドベルトと木星がどうなっているのかを確認するためでもある。

 司令官室はアクラメーター級だけあっては広く作られているのだが、その奥に不満気な顔でハマーンが座っているのは気にしない。あの事件以来、こちらと距離をとろうとし始めたのを察知して護衛官の任務を優先させて近くに縛り付けてある。

 そして勿論話しかけもしない。視線をハマーンに向けると、こちらを睨み返してきた。強まるハマーンのニュータイプ能力は視線に思惟を載せ、それを相手にイメージとして伝えるだけの強さにまで発展してきている。助けが必要だと感じた私は、一人のジェダイにおいで願った。室内の席に座り、じっとこちらをにらみつけてくるハマーンを見つめている。ローマ風とでも表現したらよいのか、ジェダイのあのローブを纏い、腰にはライトセイバーを挿してじっとハマーンを見つめている。クワイ=ガン・ジン。ケノービ将軍の師匠である。

「君の愛は強い。それは誇るべきことだし、其処まで相手を愛せることには私は何の異論も無いし、それが彼の助けとなっていることも解っている。しかし、君はその愛を自分の意識の元においているとは思えない。それが既に、君自身に悪い影響を与えていることは自覚しているだろう」

 不満気に黙ったものの、強く自分を見つめるクワイ=ガンの言葉に不承不承だが頷くハマーン。……うーむ。流石と言うべきなのか、人の心の機微に通じすぎているジェダイだ。評議会に加われなかったこともある意味納得してしまう。ここまで人それぞれに向き合おうとすれば、一定の結論を出して助けられない人々を結果として見捨ててしまう評議会員ではいられないだろう。

 そしてハマーンの方も段々ではあるが、理非を弁えて頭の中を読まれても気にも留めないクワイ=ガンに徐々に心を開き始めている。ちょっと心痛い光景だ。それもそのはずである。アレだけ悩んだハマーンの心理状態が一人のジェダイで解決とはいかないまでも、良い方向に向かうなんて呼び出したこちらもびっくりである。

 そんなハマーンとクワイ=ガンと言う珍妙な組み合わせにほっとしつつ、リゲル1への航路を再確認する。既にユラーレン提督の艦隊が航路設定を行い、安全性を考えて2回のハイパースペース突入でリゲルに向かえる様にしてある。既にリゲル1の開発が一段落し、ラディカル・テラフォーミングが終了したことは確認しているし、リゲル2、リゲル3と続く2つの可住惑星の開発に手が染められたのはうれしいニュース。また、ラディカル・テラフォーミングという方法であればテラフォーミングの高速化が可能だということが解ったのはありがたいことだ。

 連邦の恒星系探査衛星が先月月の裏側から発射されたが、最初の探査目標であるアルファ・ケンタウリに到達するまでには8年ほどかかる。これは83年、月に投入されたジオンMAが展開させていたIフィールド・フィールダーの技術が接収されたためで、出力と展開範囲を限定すればデブリ群の排除がやはりと言うべきか、可能になったためだ。ダンディ・ライオンによるアルファ・ケンタウリへの入植は500年もかかる大事業であったわけだが、それは大規模デブリ群の排除が出来るほどのシールド技術が発展していなかったためで、それが可能になるシールド技術が誕生すれば高速での移動は簡単になる。そしてこの世界ではそれがIフィールドということらしい。

 とにかく、観測が開始される8年後までに二星系に地球型惑星を造っておかなければならない。とりあえずは30バンチ事件対策もあるが、来年まではそれを主にやるとしておくことにしよう。



 第10話


 トール・ミューゼル中将が長期休暇に入ると連絡し姿を消した地球圏では84年から85年初頭にかけて、表立った動きは確認されなかった。しかしそれは表側の話であって裏側、水面下ではエゥーゴ、ティターンズの激しい派閥争いが行われていた。

 ティターンズがサイド1に対し強制捜査を行った事件は宇宙に存在する反地球連邦政府運動を一つにする動きをもたらした。各サイドは一年戦争時にジオンから受けた被害に基づいてマーズィム派か親ジオン派かを選んで行動していたが、ティターンズが双方共に敵とみなし、その弾圧に手段を選ばないことを"43バンチ"事件は明らかにした。

 43バンチ事件の余波は連邦に大きな影響を与えていた。連邦政府はそれまで、連邦所属国家の内政に対しては不干渉と言うその原則を守っていた。それは勿論戦時には限定されるが、ジオンとの戦争が正式に終了した平時にそれを行うことは重大な主権侵害と受け止められ、連邦所属国家に大きな疑念を抱かせた。

 そこには旧世紀から続く欧州諸国と合衆国との政治的な対立があった。しかし、それらの政治的な対立は如何にせよ、懸案は暴走を始めつつあるティターンズと言う組織をどのようにコントロールするかにあり、宇宙世紀に入って第三の政治勢力として頭をもたげてきたアフリカ派―――住民の過半が宇宙移民とされ空地化した黄金海岸に居住する新たな白人たち―――の強い支持もあり、ティターンズの権力はアフリカと欧州、及び北米南部で伸張していくこととなる。

「それでブライト、久しぶりに会いに来たと思ったらそんな政治の話かい?」

「そういってくれるなよ、アムロ。休暇でもなければ、そして今の時期でもないとこういう場所にはこれんさ」

 地球連邦政府の首都が置かれているアフリカのダカール。冬とはいえ赤道に近いため強い日射が市街を焼くが、そうした暑さとは無縁の地下街を二人の連邦軍人が歩いている。一人は家族連れのようで、後ろの方でベビーカーを動かしている夫人にしきりに視線を送っているのが見える。

「それに、ハサウェイとチェーミンにも地球がどういう所かを見せておきたかったしな。まぁ、今のあいつらにここがどういうところかはわかるとは思えないが」

「ヤシマ財閥の相続権を放棄したんだって、ミライさん?」

 男―――連邦軍中佐、ブライト・ノアは頷くと手に持ったコーヒーを煽った。

「ああ。本来なら義父はミライに継がせたかったらしいんだが、こうなってしまったしな。苦労をかけている。そういうお前は如何なんだアムロ?」

 そう声をかけられたアムロは一転して暗い顔つきになった。

 一年戦争が終了したとき、第13独立部隊、戦闘母艦ホワイトベース所属のMSパイロット、アムロ・レイ少尉に選択肢は少なかった。連邦軍の最高機密であるガンダムに手を出し、開発者である父親と開発機関の援護を得てその罪が有耶無耶になっても、全くパイロット訓練を受けてこなかった彼が戦争で達成した戦果は異常なものだった。特にア・バオア・クーで戦闘に参加した全軍が見ている中でのジオン軍最新鋭の気体との戦闘は、熟練パイロットのそれを思わせるものであり、決してMSに乗り始めて3ヶ月かそこらの人間がみせる動きではなかった。

「相変わらず変わりは無いさ。戦争が終わってからはそれこそ……。父さんと母さん、また家族一緒に過ごせたことは嬉しかった。けどな、なんていうか、ホワイトベースで過ごした期間は結局半年ほどしかなかったわけだけど、小さいころ、日本で暮らしていたあのころには戻れないことだけは解ったよ」 

 80年より北米オーガスタで士官教育を受けたアムロ・レイ少尉は82年に士官教育過程を修了、中尉に任官し地上軍北米総軍に配属。現在はオーガスタ基地に所属し新兵の訓練に当っている。士官教育過程が修了した段階になって一年戦争からの混乱が収束し、ニュータイプとして監視がつけられていた彼もビュコック大将の命令で好きに動けるようになった。テム・レイ技術少佐夫妻が月面に移ったのはその時期、83年のことになる。

「アムロ……」

 アムロは微笑するとブライトに向き直った。

「ブライトはこれから如何するんだ?」

「さぁな……連邦軍からはなれることは許してくれないらしいからまだい続ける他は無いが……とりあえず、月は良いところだと思っている。地球にいると色々煩くてかなわない。ハヤトたちにはわるいがな」

「良いところみたいだな。父さんたちも移ったようだし。……でも、月にはあの男がいる」

 アムロはそう言いながらダカール市街を歩く市民たちを見つめる。一年戦争当時、大西洋南部にコロニーが落ちたときには殆どが避難を終えていて人的被害はそれほどでもなかったらしく、また続くデラーズ事件でも被害の及ぶ範囲でなかったこと、そして戦争の大部分がサハラと言う大きな大地で隔てられたミドル・イーストで行われたこともあり、戦争の影響を強く残している地球連邦の他の地域―――欧州や北米、日本とはまるで違う光景だ。

 一年戦争の際にジオンの占領を受けた北米ではジオンに対する反発が戦後強く、その反発ゆえにティターンズと言う新しい力への支持が強まっている。これに対して欧州ではそうした覇権が必ず次の戦争をもたらす事を肌で知っているが故に、同じ被害を受けてもティターンズに対しての反発が根強い。そんな反発の強い欧州にティターンズの拠点のひとつであるライプツィヒ研究所があるのは皮肉だった。

「あの男?お前は月に来ないのか?」

「気になるんだよ。月から全てを見下ろす存在。何か、言い様の無いものを感じる。セイラさんは如何にかして接触をもちたそうにしていたけど、如何かな……こちらから接触しようとすればするほど、手から逃げるような感覚を受ける。それに、いま月にはシャアがいるだろう?」

 ブライトの眉が上がった。アムロは感づいているのか?エゥーゴの月方面軍に対する代表としてブレックス准将の命令で月に来たクワトロ・バジーナ大尉の正体についてはブライトとて感づかないはずは無い。そもそもテキサス・コロニーでの会話も聞いているのだ。シャアの声を聞けばすぐにわかる。セイラの兄と来るからなおさらだ。

「奴の真意がわからない限りは動けない」

「下手に接触してエゥーゴに取り込まれることが嫌、か」

 アムロは頷いた。

「そのお前の考え、恐らくお前があの男と呼んだ人間と同じ考えをしているぞ」

 その言葉にアムロは顔をしかめた。



「渡してきたよ。これでいいのだろ?」

「良くやってくれた。……充分な休養をとってくれ陛下」

 如何でもいい、もしくはわかりきったことの確認とでも言うような声にレディオスは顔をゆがめるが、その言葉を吐いたらしい男性のほうは何の感慨も抱いていないらしい。目の前のMSデッキに鎮座したままの機体に視線を据えたままだ。左足及び両腕を失い、スラスター類の損傷も酷い。無事な部分を探す方が骨であるが、見るものが見れば、それがジオン軍の採用していた量産型MS、ゲルググの面影を残していたことに気づくだろう。

 更に見るべきものが見れば、それが一年戦争最後の戦い、ア・バオア・クーの戦いで勇名を馳せた、トール・ガラハウ少将専用ゲルググと特徴を同じにしていたことに気づく。勿論、その機体は所謂"ア・バオア・クーの騎士"によって撃墜され、ジェネレーターの暴走によって発生させたオルゴン・クラウドと共に宇宙のどこかに消えたはずだった。

「伯爵、そのゲルググに御執心のようだね」

「良い機体だ。既存のMSに新技術を組み込んで使う。優れた機体デザインと性能を両立させるには良い方法であるし、技術を隠すのにも役に立つ。戦場ではレーダーや分析結果よりも、まず自分の見た内容を第一に考えるだろう。ガンダム神話はまさにそうしたもの。デザインだけ、特に優れた機構を持たない機体が思わぬ活躍をするのは、そうしたデザインが相手として経ったものに対し、何らかの心理的影響を与えるからだろうと推測できる」

 そこで男は――体型の輪郭からそういうものだとわかる程度だが――レディオスの方を見返した。ローブに隠れて顔は見えないが、漏れ出る声と口元の髭の色からして壮年から初老であることが推測できる。顔までは見えない。近づいてどのような顔をしているのかを確認しようとして静止される。どうやら、顔は見られたくないらしい。肌は不健康そうな青色に見えた。光の加減か何かだろう。

「君のいた世界におけるモータヘッドもそういうものではないかね?優れた設計師(マイト)によって作られたと言うだけで、本当の性能がどのようなものであろうが、相手に対して一定の心理的効果を見込むことが出来る。決して性能だけではなく。君も見たのではないかね?HMという存在を。そして、ダバ・マイロードに率いられたカモン王朝が、どうみてもコーラスの姿を模していたのを。ディザードはベルリンであり、ジュノーンこそエルガイム。まぁ、ファティマは廃れたようだがね」

 レディオスは苦々しげに視線を地に伏せた。この体に封じられてより、時折思い出したように緩む封印のかすかな網目からしかもとの能力を使うことが出来ない。グリーン・ノアであの"候補者"側から来た男に会ったときに急に封印が外れたが、それすらもこの男がコントロールしていたことは間違いない。この男はそうした行為を行える"立場"にいる。

「一体あなたがたの望みはなんなんだ?」

「私の望みは既に知っていると思う。彼、"候補者"、"クラフター"の起こす介入にバランスをとること。それが"バランサー"、"整合性"たる我々の役割だ」

 であるならばこちらの弱みを握って無理にいう事を聞かせていることとそれがどのように関わるかを問おうとしてレディオスは口を閉ざした。バランスをとることが目的であるならば、バランスさえ取れれば良いと考えてしまえばこの扱いも納得がいくからだ。そしてレディオスが思ったその内容は、目の前の人間にとっては当然のものであるようだった。

「アナハイムにあのドムはわたっているのだろう?ファイブスターに名をとどろかせたベルリンも候補者の手にある。まだ種はまかねばならないが、私個人としてはこれから先の収穫の時期が楽しみでね。金色の沃野広がるフランスか、はたまた戦乱あふれるレヴァントか、か」

「勿論だ。アマンダラ・カマンダラが廃品回収業者に手を回してアナハイムに確保させた。既に月のアンマン工場に入っているはず。……これこそ伯爵、あなたの言うクラフト……介入とか言う奴なんじゃないの?ゲームでもしているつもり?」

 レディオスの言葉に伯爵と呼ばれた男は何の返答もせず、ただゲルググを見つめているだけだった。いや、向けていた視線はそのままにレディオスの背中に問いかける。

「ゲーム。そう、ゲームだよ。我々自身の人生も、誰か別のもののゲームで弄ばれている。そんな風に感じるのが普通ではないかな?」

 レディオスは答える事無く、その場を後にした。


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何気にリアルが超忙しくなってしまいました。月2更新は堅持したいと思いますが、御諒解ください。













[26640] 第11話
Name: Graf◆36dfa97e ID:cd220983
Date: 2011/06/10 11:04
 宇宙世紀0084年が終わり、85年に入ろうとする12月になると地球圏の政治的な動きは徐々に加速を始めていった。87年のグリプス戦役を知っているものであれば、その加速の最終段階がグリプスであることや、そのための加速であることは理解の範囲内であったが、それ以外の者たちからすれば、連邦政府が新たに出現した力であるティターンズを取り扱いかねている―――連邦政府内の地球派と穏健派の争い―――と見る他はなかった。

 平時であるため連邦軍は戦時ほどの中央集権的な存在ではなく、唯一、連邦政府の直接影響下にある部隊としての地球本星艦隊は再編成中であり、またティターンズ艦隊の動きもサイド7からL4ポイントを出るものではなく、地球圏は平穏を保っていた。

 しかし、その中でも次なる戦争―――実際の砲火の交錯までとはいかないが―――その下火は既に始まっている。


「それで、回収できたジオンのMSはアンマンに回されたのだな?」

 フォン・ブラウン市内アナハイム・エレクトロニクス本社ビルの一室でビデオフォンの先の相手にまるでなじるかのように、しかし淡々とした口調で問いかける男がいた。メラニー・ヒュー・カーバイン、アナハイム社会長である。

 地球連邦軍の新型兵器となるべきMS開発に一年戦争前から参与していたアナハイムは、その新市場開拓及び独占の一大契機となるべきMS市場において一年戦争の結果、4社共存体勢をとらざるを余儀なくされていた。それは勿論アナハイムにとっては予想外でありそれを避けるべく連邦議会にも圧力をかけていたが、背景にあるビスト財団がこの問題には傍観を決め込んだため決定打に欠け、現状が続いている。

 連邦政府に対する強力な一打であるラプラスの箱を持っているはずの彼らだが、当の持ち主が持ち出す事を拒否したため連邦政府を動かすことは無かったのだ。それどころかビスト財団の方は連邦政府に月極冠都市連合の政治活動に対して圧力をかけないことを要求。月を政治的に中立に追いやり、連邦政府が箱の公開後に倒れる事を見越しての行動だと揶揄する輩もあったが結局避けえず、移民問題評議会はこれを認めている。

 そしてそれは連邦政府によって極冠都市連合に圧力をかけようとしていたアナハイム側の思惑とは相反する出来事だった。現在、サイアム・ビストと孫のカーディアスが抑える財団主流派に対し、カーバインはとあるルートを使い、切り崩しをはじめさせている。

「ええ、会長。しかしジオン軍のMS生産技術がこれほど向上していたとは考えもしていませんでした。彼らはいままでアステロイドベルトに逼塞していたはずですし、新規のMS開発が出来るほどの生産設備をアクシズに持っていたと言う情報もありません」

「それでもデラーズ・フリートですらMSを生産していたではないか」

 ビデオフォンに映る男、アナハイム、新市場開拓部担当の常任取締役ウォン・リーは首を振ってから答えた。

「会長、デラーズの艦隊が持っていた生産設備はかなり機能が限定されたものでした。基本修理であり、生産といっても廃物利用のドラッツェとか言うMSのなりそこないをザクの残骸から仕立て直す程度のものでしかありません。ただ、逆にこのドムは凄過ぎるんですよ。我が社が確保したツィマッド社の技術陣も、こんなドムは見た事が無いといっています」

 アナハイム・エレクトロニクス会長メラニー・ヒュー・カーバインは居住まいを正すと報告書らしき書類を取り上げた。

「確かに。ジェネレーター出力が既存の150%増、か。確かにこれだけの出力をもったMSは他に存在しない。ウォン、あのドムはやはり?」

 ビデオフォンに映るウォンは頭を振った。

「違うでしょう。ジオン軍がガンダムを開発する理由がありません。しかし会長、あのドムにしろ件のガンダムにしろ、どうやら我々はかなり出遅れていると判断したほうが宜しいですな。まぁ、市場での取引に直接的な影響がまだ出ていないことだけが救いですが。ただ、同型のドムを月方面軍―――GP社が確保している可能性もあります。連邦地上軍の指揮官用大型MSに我が社のアッシマーが採用されそうですが、大多数はGP社のリオンですからな。市場に食い込むためにはやはり、86年度の新型MS採用に我が社の製品を回さねば。そのためのエゥーゴ援助でしょう?」

 カーバインは鼻を鳴らす。実際、アナハイム・エレクトロニクスが反地球連邦活動を援助しているのは、地球連邦そのものとの協定を守っている結果でもあった。地球連邦に対抗する勢力は、例えティターンズという鎮圧専門の組織を作っても尚、必要なものだったからだ。実際、その命令は連邦議会グリーンヒル派、ゴップ下院議員から出ている。ティターンズの横暴による地球連邦への反対運動はガス抜きの役割を与えられていると言ってもよい。

 そして、広義の"エゥーゴ"は何もブレックス准将が中心となって活動している派閥だけではない。フランス系の過激派でヌーベル・エゥーゴを名乗る派閥もあれば、地球で活動し、主にコロニー排撃の政策を採る合衆国相手にテロを繰り返すカラバもある。様々な派閥による様々なアプローチによる尽きることの無い反地球連邦活動の中で、地球圏を戦争に至らぬ緊張状態に置き続ける。それが狙いだ。

 それが何の目的を持ってのものかはわからないが、アナハイムにとっては市場に常に需要があり、新製品の開発環境が整い、新市場の開拓と市場での対決をGP社相手に打って出ることが出来るだけでよいのだ。実際、それほどに現状のMS生産会社の4社体制はアナハイムにとっては打ち砕くべき目標となっていた。

「エゥーゴにはコロニー用のネモから相当数を既に回していたはずだな?」

「ただ、ネモだけでは如何ともしがたくあります。やはり運用設備を持った艦船がなければいけません。幸い、GP社が売り出した新型戦艦及び巡洋艦のおかげでこれまた結構な数のサラミスが廃棄処分やコロニー自衛軍への転売に回されておりますから、そちらから回す必要はあるでしょう。ただ、繋留場所が問題です。船をそろえても月に隠しておけばその場所がばれた段階でティターンズに無理を言われる可能性もあります」

「お義父様、ウォン常務。そのために良い話がございましてよ」

 いきなりの声に、カーバインとウォンはそちらに注意を向けた。



 第11話



「アレが第三波船団か。……本気で閣下は私如きの望みを容れて下さった。ありがたいことだ」
 
「ガトー少佐、着きましたか?」

 背後からの声にガトーは頷きながら振り返った。カリウス軍曹がノーマルスーツ姿でこちらに向かってくる。地球圏、特に地上から脱出したジオン残党を乗せた箱型輸送船―――大部分はGRシリーズの販売によって軒並み中古船舶市場に流れ込んだコロンブス級だった―――の船団がアクシズに入港を始めている。ガトーは知らないが、その船団の入港はアクシズに新たな変化をもたらすものでもあった。

 元々軍人及びその家族の合計4万人を抱えるアクシズは居住空間が狭かったが故に、小惑星モウサの内部を刳り貫き居住空間としたわけだが、ここ数週間に連続して到来した地球圏からの避難船団はアクシズのただでさえ狭い居住空間を圧迫した。空気生産も大体8万人ほどが限界であるため、現在、一部避難民は箱型輸送船にとどまり、アクシズへの入港を待ってもらっているのが現状だ。

 そして増えた人員が圧迫する居住空間は、必然的に強硬派の地球帰還論を後押しすることになった。ガトーは気づいていないが、このままアクシズが許容人員以上に難民を受け入れようとした場合、どこかで空気をめぐる争いが生じる。それを避けるためには新たな居住空間をどこかに見出さない限り、強硬派の言うとおりに地球帰還作戦を進める他は無いのだ。

「ガトー少佐、久しぶりだな!」

 そんなガトーに声をかける影があった。禿頭にまるでモヒカンのようなヘアスタイルの男は、中年男そのままの体型でこそあるが、しかし筋肉に彩られた軍人然とした姿を持っている。ノリス・パッカード大佐、元親衛隊第二艦隊、研究主務ギニアス・サハリン少将付きの士官だ。

「ノリス大佐ですか!?いつこちらへ!?……ギニアス閣下は?」

 親衛隊所属時にガトーとノリスは顔をあわせたことがある。勿論そのころのガトーはデラーズの部下であり、ノリスはトールの部下であったギニアス准将の下で実験部隊を指揮していたからだ。ガトーの質問にノリスは抑えきれない安堵の表情を浮かべ、答えた。

「シーマ大佐の受け入れのおかげで現在は月で静養されているはずだ。アイナさまの落ち着き先も決まったのでな。事情は承知している。私がこちらに来たのも、ドズル閣下、ガトー少佐の援護のためだ。……流石に断れんのでな」

 ガトーは心底安心した表情になった。自身がどこまでも一介の実戦部隊指揮官にしかなれない事を知っていたガトーは、アクシズで現在進められている暗闘に対応しきれないでいる。特にMS生産や設備関係を握っているギワザ大佐の勢力は強く、ここまでアクシズの環境を整備してきた功績もあってドズルでさえ抑えきれない場面がある。それだけではなく地球圏と独立したパイプを持っているらしく、三ヶ月に一回ほどの頻度で、彼の指揮下で為されたらしいマスドライバー・コンテナの受け取りも行われている。

「安心しました。ドズル閣下には?」

「先ほど謁見した。事情は閣下もご承知だ。ケラーネ閣下の部隊が親衛隊として配置されているのだな。その点で閣下の身の安全は大丈夫であろう。ガトー少佐の現在の所属は?」

「それは私の突撃第一大隊です、大佐」

 背後からの声にノリスは振り向き、ガトーは即座に敬礼した。部下の小隊長らしき中尉二名を連れている。

「初めてお目にかかる。元グラナダ駐留軍ジョニー・ライデン中佐であります」

「……元月駐留軍本部付き、ノリス・パッカード大佐である。貴公が有名な"真紅の稲妻"か」

 頷くとライデンは背後の二人を示した。

「ガトー少佐は既に知っているな。我が突撃第一大隊"キマイラ"、本部中隊の小隊長たちであります、大佐。右からデトレフ・フレイジャー大尉、ベルンハルト・シュミット中尉。二人とも、敬礼を」

「「はっ!」」

 ノリスは答礼すると頷き、敬礼を解いた。二人も直立不動の体勢をとる。挨拶が終わったと判断したらしいライデンが口を開いた。

「まさか大佐が今回の船団に乗船されているとは思いもしませんでした」

「シーマ大佐からの依頼でな。アクシズでガトー少佐を助けてくれ、とのことであった。先ほどドズル閣下に面会し、脱出船団の帰還兵を中心に私の部隊を編成するよう御願いした。閣下の諒解は得ているが、中佐。ガトー少佐をいただけまいか?」

「……ドズル閣下が承知されているのであれば是非もありません」

 一考してからライデンは頷いた。

「しかし、輸送船団だけでは大佐の部隊を運用されるには不足では?」

「アムブロシアのドックで建造していた新造艦をもらえる予定になっている。既に地球圏を出航しこちらに向かっているはずだ。ジオン本国にも我々のシンパは多い。現在月に移転したジオニック社にもな。それは既に知っていることと思うが」

 ノリスの指摘にライデンは笑うと一礼する。従兵らしき兵士の報告に耳を寄せる。頷き、ノリスの方を向いた。

「……アクシズも手狭になってまいりましたもので。どうやら港の方でなにやら揉め事のようです。我々の母艦もありますのでそちらにいかねばなりません。ノリス大佐の艦隊創設、楽しみにしております」

 敬礼するとジョニー・ライデンは去った。後姿を見つめていたノリスは気に入らないとでも言うように鼻を鳴らす。

「アレが閣下の義兄に当る、か。気に入らん」

「ノリス大佐はライデン中佐の何処が御気に召さぬのですか?」

 ノリスはライデンが去った方向から目を離さずに言った。

「目配り怠り無いところが気に障る。ガトー少佐、考えても見たまえ。私が到着し、君との旧交を確認しようとしたタイミングを見計らって顔を出した。何を考えているかわからんが、少なくともこちらの動きを伺おうとしたのは確かだ。新しい場所でああいう手合いが出てきたのであれば何かしらの思惑があると考えるのが当然だ。また、動きがあからさま過ぎるのも気になる。こちらに対して何事かをするつもりがなくとも、何かを考えていることだけは確かだ」

 ガトーもその点は頷いた。ライデンが何を考えているかはいまだに皆目わからないが、立ち位置としてはドズル率いる穏健派とギワザ率いる強硬派の間に位置している。旧キシリア系と考えれば進退に慎重なことも理解できるが、今のアクシズでは強硬派の勢いが増し、来年には地球圏へ帰還するなどという噂まで出ている。そろそろライデンも旗幟を鮮明にする必要があるはずだ。

「現在、アクシズはギワザ大佐率いる強硬派の勢力が強く、ドズル閣下に近しい勢力はケラーネ、ハスラー両少将やライデン中佐といった実戦経験あるものに限られております。……ここで敵とするわけにはいきませんし、またまだ旗幟を明らかにしていないものを敵と断ずるのは……」

「先ほどここに来る前に格納庫を見せてもらったが、やはりと言うべきか、アクシズに避難した市民の中から義勇兵を募り出している。そうした戦場を知らぬ人間があの悪夢のような一年戦争を繰り返そうとしているのを見ると、それを止めようとしないのは正直、気に食わぬ。"閣下"は最悪の事態を想定し、恐らくそうなるだろうと考えておられるのだろうがな」

 ノリスはため息を吐くと腕を組んだ。

「しかしこれは困ったことになった。閣下にも言ったが、私と貴官では戦馬鹿に過ぎる。閣下は他に任せられる人材がいないとおっしゃっておられたが、これでは予想以上に厳しい。ケラーネ少将やハスラー少将を借りるわけにもいかぬ現状、アクシズ内の政治的な動きには対応しきれぬ可能性がある」

「カーティス大佐は?それに、ギニアス閣下は?」

 ノリスは首を振った。

「カーティス大佐は月から動けん。ギニアス様は持病の治療に入られたが完治には時間がかかる、と。それに、正直あの繊細な方を戦場に出すことには賛成できかねる。かといって全くの新顔を出させるわけにもいくまいて。閣下もそこのところは思案顔であったわ。……話してみる、か」




「これがベルリンね。よさそうな機体だけど地味ね?」

 そんな試すような口ぶりと共に、グリーン・ノア1から早速運び込まれたベルリンを調査しているのはテューディだ。場所はN1地下の本拠地工廠内の研究スペースである。来年早々リゲル1で大きなイベントがあるそうなので、彼女自身としてもここで作業できる時間は限られているが、作業自体はアクラメーター級に移っても行う予定になっているので気にはしていない。

 鼻歌を歌いながらデッキを上がり、ベルリンの内部を調査していく。機体の大きさは聞いていた大きさよりも大きく、MSと同様のサイズアップが為されているから、こちらと同じくサイズ変更系の技術を有していることはすぐにわかった。ジェネレーターには反物質炉が用いられ、イレーサーエンジンのあの考えるのも馬鹿らしい出力こそ出ないものの、テューディが来る前に乗っていたと言うゲルググ程度には出力が出るようだ。

「光速で移動できるとかいう装置は流石に外されてますか。まぁ当然よねぇ……だけどこの装甲材質とシールドの構造はどこかで使えそうね」

「テューディ、どう?」

 盆にコーヒーを持ったレモン・ブロウニングが入室してくる。彼女の現在の任務はWシリーズとクローン・トルーパー技術の融合と新規兵員生産関係技術の開発と研究で、トールは戦闘可能でポイント不要、しかも量産の効く歩兵戦力を求めてその要望を彼女に出していた。勿論彼女はシャドウミラーとして動いていた際に既にそのあたりの技術は持っていたが、基本、下した命令にのみ動きを見せるWシリーズ量産型だけでは戦力的に不足があるのも確かである。

 彼女自身、この任務には"こちらに逆らおうとする考えそのものを持たない"が、"創造的な作戦を遂行できる"というあからさまに二律背反的な目標を設定されたおかげで乗り気である。それはそうだろう、どちらか片方であれば既に達成しているが、その両方をやってみろ、と示唆されたときには目からうろこが落ちた思いだ。それに、それを可能とした存在であるクローン・トルーパーが目の前にいては、開発者としては血が騒ぐ。

 勿論、それを指摘した男が考えていたことは、"アクセル大変そうだ。後悔はしていないけど哀れになってきた"なのだが、それをいまさら如何こうしても問題はすでに生じてしまっているのでどうしようもない。しかし、この問題を彼がレモンに投げかけたことで、アクセルの胃の負担が軽減されたことは、彼の名誉のためにも言っておく必要があるだろう。

「調べたところ、ベルリンはベルリンでも一番の初期型みたい。こっちが使っているのだと、トールのゲルググと性能は同じくらいになりそう。このクラスの旧式でこれなら、多分トールが言っていたミラージュ・シリーズはあのポイント改造ヒュッケとかそれ以上の性能になるかも。ただ、それでこれだとL.E.Dミラージュとか言うのは多分……厄介よねぇ」

 レモンはテューディの言いたい事を理解した。性能的にはガンダム・チートに迫る能力を見せる可能性があるのだろう。トールが覚えていたFSSの情報を彼女も聞いたことがあるが、集団戦闘特化型のシステムを持っているそうだから、囲まれてフルボッコなどという流れがありそうで見えてきそうだ。

「……性能のインフレーションが進むのはあまり嬉しくはないわね」

「でも、あっちもガンダム・チート並みの機体を作り出すには手間よ?セニアがかかりきりでチューンして10ヶ月近くかかったはずだから、セニアほどのメカニックがいないあっちならもっと時間がかかるはずよ。話に聞いたレディオス・ソープならできそうだけど、彼女、ルナツーに居続けでしょう?」

 レモンはテューディの推測に首を振った。テューディもいまさら気づく。何も今すぐ戦闘するわけではない。グリプスに間に合えばよいわけだから、まだ時間はたっぷりとあるのだ。

「特機系の機体を用意しておくわ。とりあえず月に置けるだけ。もちろんリゲルの設備が整ったらそちらにも。敵がどんな機体を用意していても、こちらがそれに対抗する機体を持っていられるように」

「……レモン、これ終わったら、ちょっと手を貸してもらえる?セニアとも話し合ったんだけど……」

 テューディはそう言いながら手持ちのPDAに図面を表示させ始めた。

 表題には大きく、"ガンダム・チート=ヴァリエーション計画"と記されていた。



[26640] 第12話
Name: Graf◆36dfa97e ID:a0148dc2
Date: 2011/06/28 02:39
「エゥーゴも大分戦力が整ってきたな」

 サイド5暗礁宙域。かつて茨の園と呼ばれていたデラーズ・フリートの拠点は大きく姿を変えていた。規模としてはかつてのデラーズ・フリートとほぼ同程度までに拡大しているエゥーゴは、その母港としてデラーズ事件以来放棄されていた茨の園の設備に目をつけ、今回の連邦軍再編成の際に月方面軍の管理区域から外すことで母港として確保していた。

 地球圏の反連邦活動がエゥーゴに収斂していく流れの中で一挙に規模を拡大したエゥーゴは、その拡大戦力を収める穴を捜していたのである。史実ならばティターンズに対する反動として生まれたそれは、この歴史においては反ティターンズを旗印に掲げつつも、連邦政府に圧力をかけて"宇宙移民に大地を"を合言葉に火星への入植権を求める運動を包含したがゆえに加速した。

 そこに、デラーズ事件において月方面軍の攻撃及び捜査の後に放棄された茨の園の情報は渡りに船だった。MS-21Cドラッツェを生産していた設備や、約30隻近くにもなる艦隊戦力を係留していた港はそのままに、コロニー自衛軍の有志や様々な宇宙系企業の後押しを受けて、一大軍事施設まで拡大を始めている。

 とはいってもまだ艦隊戦力自体は少なく、無駄に人員のみが増えて装備の準備もままならない。シャアがアナハイムやAKDだけでは事足りずにトールのところに話を持ち込んだのも、エゥーゴの急速な人員拡大に装備や設備が追いつかず、資金や物資が常に不足していたからだ。茨の園に終結しているエゥーゴの人員は既に5000名近くを数え、更に増加の傾向を見せている。

 その結果、茨の園では物資がまず不足をきたしていた。30隻近くになるとはいえムサイで200名程度、グワジンは300名程度で運行可能な船舶であり、居住設備は船を使えば――乗員の疲労を無視すれば――事欠かない。しかし、5000名の生活物資を生産するために使おうと思っていた廃棄コロニーの必需品生産ブロックはデラーズ事件時に破損しており、4000名ほどの物資しか生産できないためだ。

 このために他のエゥーゴの人員は比較的友好的な月やサイド1、または他のコロニー群にそれぞれ分散して潜伏しているが、将来のティターンズとの戦闘を考えた場合、人員は更に増えるだろうことが予測される。シャアとしては一刻も早く月に本拠地を確保し基地をおきたいと考えているし、それはブレックスも同じであった。

「まさかここが早々手狭になるほど拡大するとは思わなかったな」

「それこそ連邦の今の政治に対するスペースノイドの反感が高まっていると言う証拠でしょう。しかし、茨の園ですか。よくここを使用しようなどと考えましたね。月方面軍のパトロール管区内のはずですが、いったいどのような手を使ってここを?」

 クワトロの言葉に頷いたブレックスはラウンジのソファに腰掛けると疲れたように天井を見る。そしてすぐに手近な机にあった、現状でのエゥーゴ戦力をまとめた書類を取り、クワトロに向かった放る。

「参謀本部にも月方面軍の管轄権拡大に警鐘を鳴らすべきだと考えている向きが少なく無いということだよ。月方面軍を編成して月全体の防衛を一手に担わせる以上、その行動領域には縛りをかけるべきだという考えが出ていたところを上手く利用させてもらった。書類上、ここは破棄されたことになっている。……ところで大尉。月でのミューゼル中将との会談は如何だった?」

 クワトロは首を振る。それだけでブレックスは察したようだ。大きくため息を吐き、苛立たしげに言う。

「中将もティターンズの危険性はわかっているだろう?ティターンズの拡大とバランスをとるためにはエゥーゴが重石となり、スペースノイドの意見を代弁していく必要がある。彼もスペースノイドでありながら、他のスペースノイドの置かれた立場を如何にかしようとは考えないのだろうかな」

 エゥーゴの現状の戦力はサラミス級巡洋艦8隻に民間用船舶を転用した艦船20隻ほど。軍事組織としてはなかなかの装備であるが、相手を考えると不足もはなはだしい。その30隻ほどの部隊にアナハイムから横流しされたネモが主力として搭載されている。しかし、この茨の園の警護に当たっている部隊も合わせれば50機ほどで連隊級の戦力でしかない。エゥーゴの戦力増強は首脳陣の共通認識だった。

「スペースノイドの意見云々と言うよりは、私にはAKD社を危険視しているように感じられましたが。考えてみれば不思議なものです。新規参入の会社がアレだけの大きな権力を振るう事が出来、コロニー自衛軍や連邦、ティターンズにまでMSを売り込めるほどの開発力と生産力持っているというのは。いままでとこれからAKD社に支援を受けることが前提となるならば、それによるデメリットを考えれば批判ばかりはいえないでしょう」

「だからといってAKDが申し出てくれた支援を受けなければエゥーゴはここまでにならなかった。いつまでたってもエゥーゴに対する支援を行ってくれず、大尉が言ってくれたおかげで旗艦であるアーガマの建造こそ請け負ってくれたものの、それ以外ではすずめの涙ほどしか受け取っていない」

「……中将にも何か考えがあってのことでしょう。それに、今の月方面軍は強大な戦力になりつつある。我々はスペースノイド独立派の発言権が強いフォン・ブラウンやアンマン、親ジオン派の勢力が強いグラナダでこそある程度支持基盤が固まりつつありますが、中将が完全に抑えている極冠都市連合では浸透すらままならない状態が続いています。私のところのロベルトやアポリー他は何とか許してもらっているようですが、他の浸透はことごとく邪魔が入っています」

 ブレックスは苛立たしげに頭をかいた。

「一体あの男は何を考えているのだ!?」

 クワトロは考えに没頭し始めたブレックスを残すと、部屋を辞した。

 確かに准将の言うとおりだ。あの男、何を考えている。エゥーゴとティターンズのバランス、この危うい均衡を続けるつもりなのか。もしそこまでの綱渡りをする気がないのであれば私と同じようにエゥーゴとティターンズの均衡がいずれ崩れ、戦争に入る事を承知していると言うことになる。そんなことはあの男の能力を考えるならば当然予測してしかるべきだ。であるならば、彼自身としてもエゥーゴを援助して地球連邦や月の被害を少なくしつつ自身の権力を拡大、あるいはティターンズに加担しつつ内部を探る程度の動きは見せても良いはずだ。

 そこまで考えてクワトロは頭を振った。いや、それは既にしているのだろう。問題は、それを私程度が読めると言うのあれば、何故ことさら表に出そうとしてこないか、だ。エゥーゴを援助するのであれば、ティターンズに秘密にしていようと一定程度の影響力を保持するために彼自身が関わっている事をこちらに―――私かブレックス准将に承知させておく必要があるはずだ。単純に言えば、資金面や物資面でエゥーゴに対する援助を強め、我々に負債を負わせればよい。

 それをしないとはどういうことだ?起こるだろう戦争に、何か別な意味でも見出しているのか?

 来るべき戦争が本当に来るのか来ないか、またはどのような推移になるかは別にして、クワトロはこれまで以上にトール・ミューゼルに注目する決意を固めていた。





 第12話



「これがアクシズの現状です。まだ到着してより1週間ほど。そんなに調べられたとは思いませんが」

「ありがとう、ノリス大佐。他にも報告が上がっているから気にしなくて良い。ドズル閣下の身の安全を第一に行動してくれ」

 ノリスは頷くと通信を切った。

 現在、アクラメーター級アサルト・シップ"カティサーク"はアステロイドベルトの一角にその船体を隠している。勿論ステルスを使用し、アクシズからおよそ月とサイド3ほどに離れた空域だ。ここまで近づけば、これまでは難しかった連絡も取りやすくなる。そしてこの機会にアクシズに潜入させていた諜報部隊からの報告を一気に取り寄せた。

 勿論、デラーズ事件の際に基本的な流れや一年戦争後のアクシズの状況については聞いているが、流石にジョニー・ライデンの登場と完全にACE_ZERO部下隊な彼の部隊の情報や、アクシズに出現したZAFT系MSの情報について得ておく必要があった。実際、この報告で初めて13人衆ギワザ・ロワウ"大佐"の存在が知れたのだ。

 ギワザはマハラジャ中将がアクシズにいた際には身を潜め、中堅士官の一人として活動して極力目立たなかったそうだ。早速マハラジャ中将に話を聞くと、そういう士官がいたという記憶はあるが、あまり接触した覚えが無いのでどういう人物かが具体的にはわからないとの事。やはり、こちらに情報が漏れる事を極度に警戒しているらしい。今回、誰かを呼び出し何かにアクセス権を確保したらしいが、その情報を隠したいと言うことはよほどのことだ。

 何を呼び出したにせよ警戒は必要だが、まずは一つ一つ懸案事項に対する情報を得ておかなくてはならないだろう。

 そんな事を考えた後、アクシズの情報を整理する。現在、アクシズでは主にサイド3の本国防衛隊、それも終戦直前になって編成された国民防衛隊出身の戦闘経験が殆ど無い兵員が中心となり、強硬派を形成しているようだ。国民防衛隊は所謂学徒兵組織であるが、ギレンが子飼いとしてサイド3やア・バオア・クーに飼っていた部隊だ。一番戦歴が古いものでルウムやブリティッシュ作戦などからのベテランもいるらしいが、ジオンの戦況が不利になったオデッサやソロモンの戦いにはむしろ未参加の兵員が多く、ジオンが優勢だったころの記憶が中心で、これが連邦に対する反感の元となっているらしい。

 要するに優勢のジオンしか知らないため敗戦が信じられないといった手合いで、しかも鼻息が荒い。そしてそうした本国防衛隊の管轄下であったサイド3でも当然そうした雰囲気は強く、ア・バオア・クーから脱出した兵員に加えてサイド3への連邦軍の駐留に反発した手合いが混じれば立派な軍事組織の出来上がりである。ギワザの経歴を考えても、思想的に戦争を望むものたちを纏めると言う手腕に否やは無い。化物に反乱を起こそうなどと考えるほどなのだから、人間程度であれば問題は無い、そんなところだろうか。

「問題はどのクラスのMSを装備して、それがどういった性能を持つか、といった軍事面だが……ドズル閣下ぁ……」

 軍事面の情報を見てみようとノリスから送られてきた報告を取り出す。MAを偏愛といっていいほど可愛がるドズル閣下らしく、ジオン軍の編成がえらい事になっている。

 現在、アクシズの部隊編成はチベ級重巡洋艦1隻を旗艦としムサイ級か新造艦であるエンドラ級8隻の合計9隻を一部隊とした、合計72隻の8個艦隊を基幹としている。勿論、数個艦隊を纏めてその上にグワジン級やグワンバン級が付くことになる。問題は、チベ級の格納庫がMA用に巨大化させられている点だ。現在は数ともかく種類が揃っていないらしく、上はビグ・ザムから下はザクレロまで多種多様なMAが同居している様子である。

 まぁ、デラーズ事件の際にも確認したことであるが、MAを基幹としたMS部隊編成と言ったところだろう。MAを突進力あるいは壁として用い、MSはその援護もしくは遊軍とする、と。戦力が少なくMAの攻撃力に依拠せざるを得ないからそれは当然の結果だろう。ただビグ・ザム程度であれば集中使用でもされない限り連邦軍にも対応可能な範囲にとどまっているからまだ問題にはならないだろう。しかし、デラーズ事件のように集中運用された場合を考えるとかなり厳しくなるし、ノイエ・ジールやアインス・アールのような強襲用やNT用MAなんぞの量産が始まった際には恐ろしい事態になる。

 その一方で気になるのがザンジバル改級機動巡洋艦"キマイラ"を旗艦としている、ジョニー・ライデン率いるキマイラ大隊だ。ノリスから送られてきた書類によるとため息が出るくらいに見知った名前が出てくる。デトレフ・フレイジャーにドミニク・ズボフなどなど。完全にACE_ZEROのベルカ公国軍仕様。この内容から見るに、ライデンは完全に"あちら側"だと考えるより他に無い。となると当然ハマーンの姉のマレーネもそうだと言うことになるわけだ。彼女はその事を知った上で協力しているのだろうか。……後回しだ。

 装備は各部隊ごとに塗り分けられた高機動型シグー。装備からしてこちらの投入したものではないが、Seed=1st、Destiny=Zっぽい事を考えると、高機動型ザク程度なシグーを現在でも装備している理由はなんなのだろうか。カタログや実機データを見る限りではジム・クゥエルよりも少し劣るぐらいにまでチューンアップされている事は解るが、もし彼が"あちら側"ならばもう少し戦力を投入しても良いはずだろう。ノリスの報告を見ると、だいたい三月に一つほど、マスドライバーで送られてくる物資を受け取っているらしく、その物資がギワザの管理下におかれていると言う。中身が何かは知らないが、碌でもないものには違いないようだから調査をバイオロイドに命令しておく。アクシズの装備が史実どおりの装備にザフト系、となると、恐らくグリプス後期、もしくは第一次ネオジオン抗争のあたりにゲイツ、か。んでCCAあたりでザクウォーリアとか。もう少し早まるかもしれないが、大体そんなところだろう。

 兵員の方は地球圏から大量に避難民と兵員が流れ込んでいるため、85年の8月当たりには6万人を越えてアクシズのキャパシティの限界を迎えるはずだから、地球圏への移動を実行に移さざるを得なくなる。実際、黒歴史をよく見てみると、サイド3に対する連邦政府の圧政のおかげでアムブロシアを通じてのアクシズへの逃亡が増え、それが結果としてアクシズのキャパ限界に達し、新しい移住先として是が非でもサイド3を取り返すしかなくなった、と言うのがグリプス期の帰還の理由らしい。

 流石に一からコロニーを作るだけの技術は無く、小惑星の内部を削り取って居住スペースとして一時しのぐことは出来たが所詮焼け石に水だったようで、モウサの許容人口もそれほど多く無いらしい。だからと言って新しく居住スペースを作るにしても時間と手間がかかり、更に強硬派の突き上げも出てくるとなれば地球帰還を行わざるを得なくなるだろう。

 そんな事を思いながらアクシズにおける諜報活動を継続させておく指示を出すと、私は船を木星に向けるよう、艦長に命令した。



「さて、貴様らルナ・ローテンシャッツェにはこれから我々の支配下に入ってもらうわけだが、何か質問はあるか?」

 張維新は不承不承といった面持ちを崩さないローテンシャッツェたち―――ルナリアン・マフィアを見渡した。自身の命がかかっているせいか、表面上はこちらに隔意などは見せないが、何を考えているかはわかったものではない。勿論そんなことは承知の上で、だんだんとこちら側がこのフォン・ブラウンに浸透する中で、古い幹部連にはサヨナラして貰うつもりではある。

 月新会。そう名乗る犯罪集団が月極冠都市の暗部を支配していることは一年戦争前からの常識だった。潤沢な資金源を持っているらしく、軍用のパワードスーツを用いた部隊まで持っているその犯罪集団は、極冠都市建設時からその暗部を支配し、新たな人類の可住領域に食指を伸ばそうとしていた既存の犯罪集団の手を阻んでいた。

 構成員の数は2万とも3万とも言われ、特に二大巨頭とされる中国系の紳士張維新なる人物と、姿はそれほど見せないが女性であることと強力無比で残酷の度合いもそれと殆ど変わらない、出入り専門の部隊を抱える女性幹部―――通称"バラライカ"なるロシア系女性によって率いられていることが知られている。

 その月新会なる組織の長はこれまた誰だかわかっていないが、時折、組織に対して反抗的なものが特殊な姿の攻撃部隊に襲撃されることも間々あり、当然恐れられている。九死に一生を得てその襲撃部隊の攻撃を生き延びた目撃者によれば、体格からはおよそ考えられない武装をした武装した女中―――男は中国系だった―――の集団が、めがねに髪を編んだ女性に率いられて攻撃をしてきたらしい。

 それを夢や絵空事と笑うにはあまりにも被害が大きすぎ―――結果、誰も極冠都市、月新会のシマには手を出さなくなった。

「これからあたしらはどうなるんで?」

 幹部の中の一人が意を決したように言った。

「それはお前ら次第だ。今まではアナハイムの後ろ盾で好きにやっていたようだが、これからはこちらの指示に従ってもらう。手始めに、地下経由で極冠都市に物と人を送るルートは閉鎖してもらおうか」

 その言葉に幹部連がうめき声を上げる。無理もない。月面一設備が整い、居住環境がよいとされている極冠都市には亡命や密入国の希望が後を絶たない。そうした手合いに高い手数料を取って儲けていたし、何よりもそうしたルートで入国しようとする手合いはいい収入源になる。第一、それで儲けたのは月新会も同じではなかったのか。

 そうした心情が表情から理解できたのだろうか。張は微笑むと手袋に包まれた手でやさしく発言した幹部の頬をなでた。

「その代わりの収入源はくれてやる。我慢しないようであれば裸で宇宙遊泳でもしてもらうが」

 幹部たちが恐怖に黙る。月新会の最大の恐怖は買収が決して通じない点にある。構成員は独身が基本で、家族関係を持っていた場合、その家族に対するガードが軍以上に厳しい。それをなぜ彼らが知っているかといえば、暴力組織が裏切り者を確保しようとした場合の第一の手段である金で転ばないことを知ったすぐ後で、第二の手段である人質確保による脅迫に手段を切り替えようとしたからだ。

 もっとも、その手段は送り込んだ人員がすべて死体で帰ってくることで失敗が判明した。確保要員とは別に正規のルートで送り込んであった監視要員からの報告では、特殊部隊の訓練でもつんでいたかのような動きを一般の構成員ですらやすやすと行い、彼らの襲撃を撃退したというのだ。監視要員でそれを幹部たちに告げたのはデコレーションされたダンボールに箱詰めされたそのうちの一人で、残りがどうなったかは今を以っても判明していない。

 そしてその襲撃から一週間もしないうちに反撃が始まり、彼らはここにその結果として雁首をそろえている。構成員20000を誇っていたフォン・ブラウン最大のマフィア組織は構成員の数を20分の1にまで減らされた挙句降伏した。減らされた理由はさまざまだ。寝返り、行方不明、事故、謀殺etcetc。およそ考えられる限り―――いや、それ以上の手段を使って構成員を減少させ、支配力を低下させた。

 もちろんそんなことをすれば縄張りを巡っての争いが他の組織との間で起こりそうなものだが、奇妙なことにこの一連の騒動の間、他の組織は決して月新会とローテンシャッツェの抗争に手を出そうとしなかった。もちろんローテンシャッツェは支持母体のひとつであり、フォン・ブラウンの政治に独裁的な役割を果たすことができるアナハイムやフォン・ブラウン政庁などに働きかけを行ったがそれらもなしのつぶてだった。

「ま、とりあえずゆるゆるいこうか」

 楽しげに笑うサングラスに逆らえない恐怖を感じ、幹部たちはうなずいた。




[26640] 第13話
Name: Graf◆36dfa97e ID:a0148dc2
Date: 2011/06/28 02:38

 木星。現在、公式に地球からの人類が住んでいる地球から最も遠い場所である。

 地球での発電の主力たる核融合炉の燃料となるヘリウム3を採取することが木星にまで人類が足を踏み入れた最大の理由だ。宇宙世紀発足直後の木星エネルギー公社設立以後、宇宙移民と並行する形で木星には人類の入植が行われていた。もっとも、木星における人類の活動領域といえば微々たるものでしかない。地球から木星までは片道2年ほどかかる長大な航海であるし、現在入植の一端が行われている衛星イオに突入する、もしくは近接するコースを間違えば宇宙の藻屑となることに変わりはないからだ。

 それでも宇宙世紀が進むにつれ、人類の宇宙航行技術が増すに連れ、だんだんと木星に住む人口は増えてきている。人々の居住空間となるのは地球圏と変わらずスペースコロニー、もしくは衛星イオに作られた恒久都市であるが、密閉型スペースコロニーは全長6キロ、直径6キロの小型で居住最大人口は50万人、恒久都市も、恒久都市というよりは恒久基地といったほうがよい規模だ。

 現在、木星圏に居住する人類は32万人。木星公社の人間と労働者、ただそれだけだった。

「それでは、そろそろ私は出るとするよ。地球までの航海は長い。君も、身体壮健でな」

「貴様が帰ってくるのを楽しみにしているよ。生まれかわった木星を見てもらいたくもある。けれども、それには地球圏の改革が必要だ。それについては君に任せる。それまでの木星のことは任せてくれ」

 木星エネルギー公社が保有する大型ヘリウム運搬船"ジュピトリス"。現在、木星の衛星イオの静止軌道上に停泊するその船の出航ターミナルにおいて簡単な別れの挨拶が交わされていた。木星には当然の話だが連邦軍の駐屯部隊が展開している。片道1年の長期出張であるため装備も人員も少ないが、木星の強い引力圏に負けないほどの推力をもった機動兵器を保有していることを考えれば、連邦軍の中では精鋭の部類に入るだろう。

 なぜなら、木星の引力に負けないほどの推力を持った機動兵器を運用できるということは、それだけで精鋭の証となるからだ。高推力の機体を自由自在に扱えなければイオの防衛―――果たして攻めて来る相手がいるとして、だが―――は果たせない。そしてそれがたとえ名ばかりの防衛行為であろうとも、その機体を扱うためには地球圏でのそれとはまったく違った操縦の腕と身体が必要になるためだ。

 そして今、4年の任期を終えて地球に戻ろうとする友人の見送り、そういう理由でこの場所にいる二人の男性、連邦木星派遣軍大佐、パプテマス・シロッコと木星公社酸素工場部門責任者クラックス・ドゥガチは別れを惜しんでいた。

 もともとパプテマス・シロッコは北アフリカの出身であり、連邦軍のエリート・コースを進んでいた男だ。一年戦争直前に木星派遣軍へと配置換えとなったが、それまでの経歴は華々しいほどのもので、なぜ僻地の木星へ派遣されたのかの理由は明らかになっていない。

 木星へ派遣されたシロッコ大尉は0080年、一年戦争終了後に木星に到着すると早速任務である衛星イオの防衛を開始した。そして木星の強力な引力圏に囚われないほどの推力を持った機動兵器の開発は当然その任務のひとつとなり、木星公社の衛星イオにおいて、いやそれだけでなく、木星圏全体で最も力を持つといっていい木星公社酸素工場部門と接触したのである。

 そこから彼はあれよあれよという間に木星の軍事力を掌握し始めた。連邦木星派遣軍の司令部を抱き込むと辺境の地に追いやられたくないという連邦軍の主流派将校とうまくつながりを持ち、あっという間に木星派遣軍副指令の地位を得、階級を大佐に昇格させた。木星派遣軍の指令は書類上別に存在するが、木星などに行きたくないというその指令の個人的欲求を長期の休暇でかなえることによって、シロッコは木星派遣軍をその手に握ることに成功し、大佐へと昇進したのである。

 更にもともと優れた戦闘機設計の腕を持つ彼は、一年戦争中に地球圏を発った船団が持ち込んだMSのデータを転用し、木星の重力圏内でも活動可能なMSの開発を実施する。もちろん、木星圏で人型などという重力の影響を受けやすい形など宙間で採れるはずもなく可変型を志向し、彼の部隊には現在、量産型メッサーラと後に称される、仮称"ディノファウスト"と呼ばれる機体が90機ほど用意されていた。

 その部隊を持って地球圏に勢力の一端を築き、地球圏の革新を目指すことがシロッコとドゥガチの考えだった。木星圏で生産されたMSは木星船団の地球圏到達ごとにシロッコに引き渡される。そしてそれを為すだけの木星の生産設備はすでに完成していた。

 もともと、この計画は地球圏の復興が一段落し、需要が拡大した発電関連に資源を供給すべく、これまで1年に1回ほどの割合で運行されていたジュピトリス級輸送船による木星航路を、以後船団(とはいっても2隻でのものであるが)運行に切り替え、頻度も半年、もしくは3ヶ月に1回の割合で運行することとされたためだ(もっとも、長距離ヘリウム運搬船の建造は82年から再開されたから、まだ隻数がそろっているわけではない)。

 これには火星開発もかかわっており、船団の中には火星に寄港して恒久都市にヘリウムを供給する運搬船も含まれている。木星の重要性は復興とともに増し、それがシロッコとドゥガチに更なる力を与え、彼らに地球侵攻作戦を計画させるほどにまで木星の力を高めることとなった。

 そう、いまの今までは。



 第13話



 木星の生活圏に近づき、長距離光学測距が可能になった段階で最初に飛び込んできた報告は、木星の人類入植地である衛星イオとその軌道に浮かぶコロニーおよびターミナルが襲撃されているという報告だった。トールは半舷休息でハマーンとともに休んでいた部屋から飛び出し、ブリッジへと向かう。ブリッジではすでに戦闘の観測が始まっており、木星公社に潜入させていた工作員からアップロードされた情報と総合する形で木星の被害状況を確認・観測する作業へと移り始めていた。

「将軍。戦況報告、現在、木星の衛星イオの鉱物採掘プラントおよび軌道上ターミナルに停泊中のヘリウム運搬船ジュピトリス、および居住用密閉型コロニーの一部が襲撃を受けております。これに対しジュピトリスより迎撃機が発進、衛星イオの連邦木星派遣軍よりも部隊が出撃、襲撃部隊との交戦に入っています。我が艦は観測のため、イオとの距離を調整中です」

「映像を」

 報告するコーディに頷いて映像を要求すると、即座に交戦の映像がモニタに映し出された。黄色い塗装の虫型機械の部隊が連邦軍所属らしい戦闘機部隊―――おそらくは木星の重力圏で運用することを考えてMSでは無理と判断されたのだろうブースター増設のセイバーフィッシュ―――が次々とレーザー、ミサイルの餌食になっていく光景。

「……ナデシコから引っ張ってきたのか」

 大きなため息とともに言葉を吐き出す。戦闘機を撃墜した機体、黄色の虫型兵器は"バッタ"だ。ミサイル関係しか武装を持っていなかったはずだが、レーザーを発射できるように改造されているらしい。こちらがドロイド・ファイターという無人兵器を投入したことに合わせて改造し投入したのだろう。映像を見ると木星派遣軍の攻撃で撃墜された機体もいるらしいので、後期型のディストーション・フィールド搭載機ではないようだ。もちろん、誰が投入したかはわかりきっている。

「コーディ、襲われているのは?」

「木星公社の書類の記載では酸素工場、金属精錬工場などプラントが基本のようですが……映像を見る限り、そうとばかりはいえないようです」

 そういうと映像を工場襲撃の際に録画したらしいものに切り替えた。イオの軌道上に停泊し、地球への出航を準備しているジュピトリスからMAらしき飛行物体が次々と発進し、迎撃作戦に投入されていく。機体の特徴はメッサーラ。どうやら、シロッコはジュピトリスにメッサーラを満載して地球に向けて発進しようとしていたらしい。同じデザインの機体がイオの基地からも発進し襲撃部隊と交戦する映像が入るが、そもそもの数が違う。イオおよびジュピトリスから発進した機体は総計120ほどなのに対し、投入されたバッタの数は単純計算で400を超えている。そしてその数はさらに増えつつある。

「それから、こちらが確認されました」

 続く映像に写ったのは8機の人型。あまりうれしくない光景だった。メタルブラック塗装のMHブーレイ。大きく張り出した肩の装甲の裏側に宙間機動用のスラスター類を増設して宇宙に適応させたようだ。もちろん、映像に写っているのはイオ地表に降下してMS形態に変形したメッサーラと激しい―――そして一方的な戦闘を行っている光景だ。

 メッサーラの肩に装備されたメガ粒子砲を防御の様子すら見せずに受け、そのエネルギーを霧散させている。いや、霧散させているだけではなく、一部吸収しているようですらある。どうやら、イレーザーエンジンが太陽光を装甲表面から吸収する機構を応用してメガ粒子の帯電エネルギーを吸収するシステムにしたらしい。MHの常として遠距離用射撃武器は装備していないらしく、一気に距離を詰めるとメッサーラを寸断し破壊する。

 別の映像に切り替わると2機のブーレイがミサイルは回避しつつもビームにはその身をさらしてメッサーラに肉迫していた。メッサーラは射撃が回避され無効化されると見ると両腕にビームサーベルを展開させ近接戦闘に切り替える。

「良い判断だ」

 コーディが思わずつぶやいた。確かにそうだ。思い切りがよい。あのメッサーラのパイロットはこのままいけば良いパイロットに、それこそ名パイロットやそれこそエースにでもなれただろう。ことによると本編でのライラやブラン少佐ぐらいには活躍できたかもしれない。しかし。

 しかし、相手が悪すぎる。

 近接戦闘に入ったメッサーラは槍のようにサーベルを構えるとブーレイへ向けて突進した。避ける様子も見せないブーレイはそのままビームサーベルを自らの装甲に突き立たせ―――そしてビームサーベルの刃が消えたことを確認すると、コクピットブロックを一突き。メッサーラを絶息させると機体を回収し、帰路についた。

「あいつらか」

「そのようです。木星に派遣した工作員からの情報ですと、木星公社酸素工場管理部管轄下の金属精錬プラント、機械工場および資源採掘関連施設などが襲撃されています。これに対して軌道上の居住用コロニーなどについては航路封鎖などにとどめられておりますので、襲撃の目的は木星の軍備かと」

「シロッコの戦力を削り、歴史どおりにティターンズに寄生させたいのだろう?木星帝国の現有戦力も削れるなら、こちらがわざわざ手を出す必要もない、トール」

 背後からのハマーンの声。どうやら男からすれば無駄としか思えないほどの長さの身繕いがようやく終わったようだ。口調は相変わらずのグリプススタイル。クワイ・ガンの説得で精神的な部分の問題は解決に向かっているらしいが、口調や態度はグリプスの、あのハマーンのままだ。気にはなるが今はその暇がない。

「敵編隊の行動に変化あり、こちらに向かってきます!バッタ100、ブーレイ3!」

 こちらを捉えることができるということは重力関係の装備を持っている可能性が高い、か。まぁナデシコから引っ張ってきたなら当然。バッタ100とブーレイ3機ならば……いや、過信は禁物だ。木星軌道上で後続のテューディたちやケノービ将軍と合流する予定で良かった。……本当か?それすらも読まれていたのではないか?

「ハマーン、出られるか?」

 うなずいたのを確認するとコーディにすばやく頷き、格納庫へと走る。この"カティサーク"にはもしもの場合を考えてガンダム・チートとアンジュルグを積んできている。クローン兵や地上用ウォーカーなどの格納庫は使う必要がないので、その分のスペースはセニアのラボおよびMSやドロイドの増設格納庫となっているから、普通のアクラメーター級よりも搭載能力に優れているところは使い勝手がよい。

「敵は重力波を感知する装置でこちらの質量を基にして探査をかけていると思われます。そのため、ステルスは役に立たないと考えてください。木星からの観測を避けるために当面光学ステルスは継続しますが、光学観測機器が全滅したらしいことを確認すれば解除し、支援砲撃を開始します」

「ドロイドについては全機出撃。防空戦闘を行いながら近くノアステロイドベルトに退避、直接観測を避けてくれ。マスター・クワイ・ガンは?」

「MSにて出撃される、と。現在、セニア技師長が機体の準備中です。ハマーン様、セニア技師長より伝言、ACの改修完了、使用判断は任せる、以上です。閣下、ただいま防空任務についたドロイド・ファイターとバッタ、ブーレイが交戦を開始」

 通路を走り、移動しながら通信で状況を確認。防空圏内に入った敵部隊との交戦が開始された。現状、防空についているドロイド・ファイターとバッタの交戦はどうやら互角のようだ。こちらが接近までに出撃させられたのが50機ほどだから、どうやらバッタとのキルレシオは2:1ぐらいになるらしい。カティサークには150機ほど積んであるから、戦力比は時間と共にこちら有利になるだろう。

 しかし、バッタに露払いをさせながらドロイドの群れに突っ込んだブーレイは違う。先ほども見たビーム吸収機構はドロイドの放つレーザーも吸収するらしく、被弾してもかまわないとばかりに動きを直線的なままに固定し、そしてその代わりに速度を上げると幾何学的な動きでドロイドの破壊をはじめた。動きからしてもし中に人間が乗っているなら、パイロットにかかっているGはどうみても致死レベル以上になる。それならばこちらと同じく重力制御技術を保有していると推測できるが、それはナデシコの兵器を投入しているとなればある意味当然といえるだろう。 

 となれば、私たちが出るしかないわけだが、先ほどバイオロイドからの通信にあった、セニアの開発したACとか何なのだろうか。まさか往年の公共広告機構とかではないだろう。しかしまたろくでもない機構を開発したのだろうか。このごろテューディと組んで何かを色々としているらしいが、忙しすぎて何をしているのか見ることができていない。まぁ、ハマーンに渡そうとしているのだから変なものではないはずだが。

 格納庫に入るとバイオロイド兵たちが、第三勢力として行動する際の量産機に設定し生産しておいたゲスト軍量産機"レストレイル"で出撃準備を整えていた。実は、ドロイド・ファイターも現在使用し生産している"ヴァルチャー"型から余裕が出次第"ガロイカ"か"トライ・ファイター"に変更しようとか考えていたのだが、さすがにドロイドだけの投入は戦術的にも避けたくある。AMBACによる機動、そういう利点によって戦闘機に代わって地位を得たMSがドロイド戦闘機によってその地位を取り返されれば、モビルドールの開発で戦争のゲーム化と更なる拡大化が懸念されるからだ。

 いずれにせよ、現在スター・ウォーズ系の船舶に積載している部隊はこちらの中核部隊であり、指揮官や乗っている呼び出したキャラクターたちも重要人物が多い。であるからこそ技術の問題を棚上げして編成には資源やRPをどしどし使用していたのだが(実はこれが結構痛かったりする)、ここで役に立つとは思わなかった。しかし、相手はMH……レストレイルでは時間稼ぎしかできないかもしれない。

 そうした考えを振り払うと整列していた兵士たちに叫ぶ。

「全員搭乗、A中隊は"カティサーク"の護衛、B中隊は防空戦闘、C中隊は敵MHの足止めだ。私はC中隊に同行してMHと交戦、ハマーン、お前は指揮を執れ。近傍空域にいるはずのケノービ将軍にも連絡がいっているはずだ。遅くとも1時間以内にはハイパードライブでつく。どちらにせよこちらは尻に帆を掛けて逃げるだけ、だ。徐々にイオから距離を取り、ハイパースペースに逃げられるタイミングを図る」 

 その声に兵士たちはうなずくとレストレイルに乗り込み、出撃準備に入る。振り向くとハマーンはセニアから何事か説明を受けているようだった。不安がないといえば嘘になるが、今はカティサークの防衛が第一、と考えてガンダム・チートに乗り込む。すでに出撃準備を整えていてくれたらしいキットが音声通話で周囲の状況を伝えてくれた。

「現在カティサークは木星の衛星イオ近郊のアステロイドベルトに。イオの現在位置からして観測の危険性は最小限度。イオ、およびターミナル、ジュピトリスから出撃した木星軍はイオの重力圏で交戦中でこちらに回る余裕はないようですが、先ほどジュピトリスから新たな部隊が出撃、敵の本隊、もしくは母艦を攻撃しようと敵集団を突破、こちらに向かっています。……指揮官はパプテマス・シロッコ大佐」

「木星派遣軍の装備は?」

「連邦宇宙軍総司令部に提出された書類ではセイバーフィッシュの高重力圏対応型のはずですが、黒歴史データと照合した結果、メッサーラの先行量産機をすでに実戦配備しているようです。というよりも、木星での運用を考えるとこちらが本来のメッサーラと思われます。他に非人間型機動兵器―――黒歴史データや他のものにもないまったくの新型ですが―――が防衛に投入されています」

 そういって投影された機体はナデシコのデルフィニウム。性能としてはバッタとの交戦でバタバタと落とされているからナデシコと変わらないのだろうが、ミサイルがマイクロミサイル化されているためにそれなりに効果はあるようだ。木星軍の装備にナデシコのものが含まれているということはあちら側が投入したのだろうが、攻撃側、防御側双方に機体を提供しているのは、果たして何が目的なのだろうか。

 デルフィニウムの増援でバッタの攻撃を何とか凌げる程度にまで勢力を回復させたのか、イオ地表での攻防は徐々に木星軍側有利になってきているようだ。もともと初期型のバッタはチューリップからの即時展開能力とその物量で敵を圧倒することが運用の基本だ。数がそれなり程度にまで低下すれば、もともと機体性能もメッサーラに大きく負けているようであるしデルフィニウムでも対応可能なのだろう。

 しかし、気になることもある。

「自作自演にこちらを巻き込んで何を考えている?……何か、他に狙いでもあるのか?」






[26640] 第14話
Name: Graf◆36dfa97e ID:a0148dc2
Date: 2011/10/12 02:55


 目の前で自らの王国が崩壊していく有様を眺めるのはなんと絶望に満ちたことだろう。クラックス・ドゥガチの前半生は木星に流れつくまでの惨めさに象徴され、その惨めさを取り返すための地球侵攻で彩られていたからなおさらかもしれない。木星のヘリウム利権は彼にその惨めさを取り返すだけの権力と金とを約束し、履行した。類稀なる軍人にして設計者たる盟友パプテマス・シロッコの存在はそれを現実へとつなぐ縁だった。

 しかし、本格的な宇宙世紀到来とともに彼の手に集まったそれらは、地球圏の柔弱な環境では絶対に開発し得ない機械兵士の群れは目の前で次々と落とされていく。木星の高重力に耐えうる―――地球圏での高機動能力を約束されたそれは、まさに地球を象徴するかのような数の暴力と思いも掛けない高性能MSによって崩壊させられていく。


 木星の衛星イオを攻撃していた部隊のもたらした損害はそれほどまでに大きなものだった。多年にわたり築き上げた軍需施設は軒並み攻撃による被害を受け、資材の調達を初めただでさえ戦力の構築をしにくい木星という環境の中で作り上げた総てが無に帰していた。民生施設に被害がなく、戦力の再構築の道が残されているらしいことが更に無残さを増していた。あの徒労の日々をもう一度繰り返せと言うに等しいことだからだ。

 ドゥガチの心にまたひとつ、理由となるべき惨めさが加わった。



 第14話




 イオを攻撃していた一部の部隊が別方向に向かったことをパプテマス・シロッコは母艦に帰還しての補給作業と理解した。イオの防衛をヘリウムの横流しで手に入れた新型MAデルフィニウムに任せ、残り少なくなったメッサーラ部隊を率いて追撃に入ったのは、母艦が危険にあえば敵が退避行動に移ると読んでのことだ。

 ただし、一部の部隊が別方向に向かったのは補給作業のためなどではなく、トールの部隊に対して今まさに行われている攻撃の増援としてだった。どうやら、木星の襲撃は十分にその任を果たし、十分以上の戦果を上げたようだ。もちろんそんなことはシロッコにはわからない。しかし、一部の部隊が向かった先、イオからはアステロイドベルトなどによって直接の光学観測が不可能な宙域で戦闘が繰り広げられていることを確認した彼は、その別部隊が行っている戦闘に目を奪われた。

「………なんと、凄まじい」 

 機体をアステロイドの影に隠し敵の目から遮りながら戦況を覗いたシロッコは思わずつぶやいた。話に聞き、地球からの船団が持ち寄った一年戦争の戦闘記録と比べてもなお凄まじい光景がそこにはあった。どうみても木星を襲った以上の数の黄色い敵機が(実際に戦闘に参加していたバッタの数はこの時点で400を超えていた。増援が投入されたらしい)鏃形をした超大型船舶に向けて攻撃を開始し、その超大型船舶からは見たこともないMAとMSが出撃し、防衛戦闘を行っている。

 殻を脱いだヤドカリ、もしくはハリネズミに近い形の機体は雨のようにレーザーやビームを周囲一帯に撒き散らし、次々と黄色の虫型機を撃墜している。またMSは臀部についたしっぽが特徴的で、これまた多彩な火器をうまく操り、多数の敵機を撃墜している。シロッコの見たところ、陣形にも誤りはないし操縦しているだろう者たちの動きも機敏で優秀、虫型だけでは陣形は破れないだろうと推測させた。

 ところがこれに対して人型の方は同じようなテールバインダーを持っているものの、シロッコがこれまで見たMSの動きとは比べものにならない速さで大型艦の周囲を乱舞し、効果的な迎撃を行なっている。数の差もあって攻撃側と防御側がほぼ互角となっているが、同数であれば間違いなく大型艦側に軍配が上がるだろう。

 そしていままた、大型艦の中央構造線上の装甲が下方にスライドするとカタパルトらしき構造物が現れ、そこから新たにMSが射出された。木星という太陽から遠く離れた空域でも鮮やかなピンク色に彩られたその機体にシロッコは注目する。今までのMSと言う概念を、少なくともシロッコの抱いていたそれを覆すに足るほどの優美なデザインの機体だ。大きく、遠目ではよくわからないが二重になっているらしいスカートアーマーはまるで中世期の貴婦人のドレスのようだ。背面部にはスラスター類を束ねたのだろうか、翼のように配されたそれがまるで天使のようだ。

「美しい………」

 シロッコは夢見るようにつぶやいた。



「悩ましい……」

 トールは夢見るようにつぶやいた。もっとも、シロッコの感じていた夢――言うまでもないがこの場合、良い夢である――とは違い、悪夢……とはいかぬまでも頭痛の種というにしくはない。開発がセニアからテューディとオオミヤ博士に移ったことが原因だが、さすがにやり過ぎであると思いたい。何が「セラ○ンガンダムはあるんだから……」だ。

 まさか魔○少女までガンダム化しなくてもいいじゃないか。名前がACとか言うから攻強○國機甲か公共○告機構かと頭を悩ませていたら"エンジェル・チート"と来たもんだ。"いまさらシティー・○ンターネタかよ!"と突っ込む気すら起きやしない。

 出撃直前だから詳しい諸元は聞けずに先の出撃となったが、乗っているのは久々に髪型をツインテールに戻したハマーンである。博士ら曰く、「これに乗るには髪型から」ということらしい。理解したくない。思えば"彼"はフェアリオンを作った前歴があるじゃないか。野放図にさせたのはやはりまずかったか。こちらに来てからジャパニーズ・アニメーションのDVDをこれでもかと見ていたからな。ああ、全く悩ましい。

「あなたの悩みもそして世界もそうなのですが」

「実感したくなかった。リアル"アニメじゃない"とか。目の前でノリノリでどう見てもCCなアレを運用されているとダメージが……」

 久しぶりに純粋に頭を抱えた。ああ、もう。ほらそんなに飛ばないで。お、"カティサーク"の前で止まった。あ”

「パラボラスカート展開!」

 通信からは何やら意味不明な(そう思う、思いたい、思えよ俺)言辞を弄するハマーンの声が。これが少し恥ずかしそうに言っているんならばまだ救いはあるのだが、彼女自身ノリノリである。アニメならば声優さんってこんなセリフまで熱血するんだ演技すごいなぁとか感動するところなのだが、悪いことにこれは現実である。

 機体後面に円状に展開したスカートアーマーは二重になっており、レース状になっているそれの表面はキラキラと輝いている。そこに"カティサーク"からのターボレーザーが集中砲火。意外であるが投入されたアンジュルグ改造機の性能諸元をトールは知らない。オオミヤ博士とセニアは教えてくれなかった。もちろん、そんな暇がなかったのも確かだが。

「ちょ、まっ!?」

「心配ありません。エネルギー供給のため、と言うか、形を変えたガンダムXのマイクロウェーブですね。レーザーは純粋光学エネルギーですから、レース状のスカートアーマーはパラボラアンテナと同じような構造でエネルギーを受け取るための機構なんでしょう。アルビオンのレーザー推進システムと同じようなメカニズムです」

 淡々と解説するキット。こういう時にAIは羨ましいと思ってしまう。感情の起伏がないと言うか、淡々と事実を受け止められるところとか。そこまで行くと悟りなんだろうか。そういえば悟りって小5+roriとかいうAAあったなぁ。

 思考が現実逃避の方向に行っているとトールが気づくまでの間に連続して着弾したターボレーザーは十分なエネルギーをアンジュルグに供給しているらしい。レーザーはレーススカート(のような部位)に当たると霧散して吸収されていく。

 レーザーが砲撃をやめて元通り、接近する敵機に向けられた。するといつのまにかアンジュルグの周囲に展開していた重力波レンズが回転を始めた。技術がある程度(もちろん何を目的としているのか理解していないけれど)理解できているこちらから見ると、重力波レンズの周囲を回転させてエネルギー効率を高めているとわかるのだが、見た目はまんま魔方陣である。

 そしてトールの記憶の中で、周囲を魔方陣が踊りながら"魔力(この場合はエネルギーだが)"を高め、おそらくこのあとには巨大なエネルギー砲でもぶっ放すのであろう"モノ"はオオミヤ博士ご愛聴の作品群をあわせて考えると一つしかない。あははー、そういえばたのしんでみてらっしゃったなぁ、あの人ら。

 呆然とするトールの目の前で、ハマーンらしき声が砲撃開始を叫ぶ声がし、ピンク色の閃光が宇宙を埋め尽くした。ああ、そしてトールにとっては悲しい事に、言うまでもなく発せられたのは「スターライト・○レイカー」という掛け声であった。





「だいぶ工事が進んだな。思いの外、使えそうではある」

 位置は地球圏、サイド3から更に離れたゼブラ・ゾーン近くの重力だまり。一年戦争後、サイド3近海で行われた戦いの結果がこの重力だまりには流れ込んでいる。現在、話をしている男たちの前に広がるものもそのひとつだ。

 宇宙要塞ア・バオア・クー。

 一年戦争後の軍縮で地球圏に浮かぶ岩塊は多くが連邦軍のおざなりの管理のもとに置かれた。月軌道周辺の岩塊を地球から離れた空域にある重力だまりに押しやることで管理の軽減を行ったのが月方面軍だが、その月方面軍の管理空域は0083年のデラーズ紛争の結果、月周辺にまで限定されることとなった。代わってこうした岩塊の管理を行うことになったのが宇宙艦隊司令部だが、その宇宙艦隊司令部も現在、再編成のまっただ中で管理にまで手が及んでいない。

 そのさなかに、彼ら―――ティターンズ第一艦隊がここまで出張り、現在サイド7空域に建設中の彼らの宇宙での本拠地に、新たな施設を加えるべく動いていた。

「核パルスエンジンの修理及び再設置は順調です。おそらく来月には地球軌道への移動が可能になるかと。基地施設に関しては移送後に修理の必要があるかと思いますが、多くの施設はそのまま流用が可能ですので、早い時期に再戦力化が可能です」

 傍らに立つ義眼の男――バスク・オム大佐は艦隊司令長官を務めるジャミトフにそう、報告した。

 ジャミトフは報告に興味なさげに頷くと旗艦として扱っているマゼラン級戦艦"ウィスコンシン"の司令官席に背を預けた。一年戦争以来の乗艦だが、そろそろ老朽化が激しい。現在、連邦軍が進めている新型艦装備計画の建造艦は基本、地球本星艦隊に配備されるとなれば、自前で建造しなければならない。ルナツー工廠ではそのためにアレクサンドリア級の改設計艦であるロンバルディア級戦艦(後に重巡洋艦に分類されることになるが)を建造しているが、正直、デザイン的にジャミトフの趣味ではなかった。彼の好みからすると、グリーン・ワイアット大将がマゼランの代替艦として開発させていた"バーミンガム"級の方がまだ合う。

「バスク、ここは貴様に任せて構うまいな?少し用がある」

「はっ」

 バスクの返事を確認してからジャミトフは席を離れ、自室に戻る。こんな地球から離れた空域にまでわざわざ来たのは、トール・ミューゼルというわかりやすい敵を失ったバスクをコントロールするためだ。本来ならばトレーズの仕事だが、彼は彼で忙しい。

 さて、この空域の近くにジオン軍の拠点があり、アステロイドベルトに逃れた残党との中継基地があることをジャミトフは知っている。そしてジオンの拠点がこの空域で拠点の役割をはたすためには、常に電波を発信して宇宙空間での灯台の役目を果たさなければならない。ジオン残党は木星圏から帰港するヘリウム輸送船団のためとして隠れ蓑としているが、そうであるがゆえに発信する電波は強力である。

 そしてそれゆえに、ジャミトフがこれから行おうとしている長距離通信を発しても送信元を辿られる恐れはないということになる。

 ジャミトフは自室に入ると待ち受けていた参謀連に頷き、通信会議のセッティングを始めさせた。通信相手は多岐に渡る。ジャミトフは今日ここで、少なくとも3名との通信会議を行わねばならなかった。

「おまたせ致しました、中将」

 なんの前置きもなく通信画面が開く。どうやら、こちらの準備が整うと同時に通信を開始したようだ。画面に映る茶髪の壮年男性の姿にジャミトフは表情を変えることなく応対した。

「それで、アマンダラ・カマンダラ。急な用件ということだったが、私をわざわざ呼び出すのであればそれなりの用事なのだろうな」

 画面内の男は頷くとある映像を映しだした。それを見ているものがあれば驚いたことだろう。"現在"、木星の衛星イオの軌道上において行われている戦闘の光景が映し出されている。

「我々の送り出したものが"昨日"記録した映像です。木星公社内の武装勢力が謎の武装集団の襲撃を受け、施設はほぼ全滅。せっかく用意したであろう軍備もほとんどすりつぶされたようです」

 そう言うとアマンダラは映像を切り替えた。見覚えのある機体。デラーズ紛争の最終局面で全てをひっくり返したあの機体だ。映像が少し荒いが、木星軍のものらしいMSや戦闘機相手に戦闘を行い、攻撃を行なっている。

「襲撃を行った武装勢力の指揮官機と思われます」

 ジャミトフは鼻を鳴らした。これまで長いこと諜報畑を歩いてきたジャミトフは映像のコマ送りが少々荒いことから、見た瞬間に偽造の可能性を考えた。しかし、この映像がこちらに即断を促す性格のものでない以上、映像の内容が正しいかどうかは別にしても、木星での交戦はおそらく本当だろう。レーザー高速通信を使えば木星での戦闘が一日遅れで届くことも知っているが、もともと木星から地球圏まで遮蔽物が多いことに違いはない。レーザーが直進しそのまま繋がるとは考えにくい。しかし、レーザーの代わりに電波を用いるとなればまたぞろ時間がかかるし他の受信施設に捉えられないとも限らない。

 となれば、目の前の男は何らかの形で木星に関わっていると考えたほうがよさそうで、しかもデラーズ紛争のあのガンダムタイプとは何らかの因縁を抱えているであろうことは間違いなく、あれとティターンズとを噛み合わせようとでも考えているらしい、とはジャミトフがこの数十秒の間に導き出した結論である。

「ふん、で、この映像を見せた理由は?今回の急用とやら、私は貴社が輸送したア・バオア・クーの施設修復及びMS生産施設の復旧などでの入札を乞うためだとおもったがな」

「設備投資に関するお話は何時の世でも投資家を魅了します。……何も御感じになられませんか」

 アマンダラはことさらに拍子抜けした表情をしてみせたが、ジャミトフは無表情のままだった。疲れたようにため息をつくと口を開く。

「現状、我々ティターンズの任務は担当空域での反連邦活動の取締と治安維持だ。我々の仕事以外のものを見たところで心動かされはせぬよ。もちろん、我々の治安活動が全地球圏に拡大する、もしくはしたのであれば話は別だが、今はそうではない。それに、その機体にできることの一端はデラーズ紛争の時に確認させてもらった。現状の我々の戦力では時間稼ぎがせいぜいだ。が、今はどうでも良い」

 アマンダラの表情が本当に拍子抜けだとでも言うように変化した。そうだろう。彼が知るティターンズの人員はバスクやジャマイカン。こうした映像を見せればすぐに食いつく良い魚だ。だからこそバスク艦隊の装備にバルブドを押しこむことができたしジャマイカンの分遣艦隊に多くの手づるを得ること、送り込むことができた。

 もちろん彼もジャミトフがそれら二人のような脳味噌の不足甚だしい輩とは思っていない。しかし、対立するブレックスがエゥーゴを組織して政治勢力としての台頭を狙っている現在、対抗する力として、そして何よりもジャミトフ自身の目的を達成するための力としてのティターンズの増強を欲していたはずだ。今は誰が自身をどう見ても戦力を増強すべき時。アマンダラはそう思ったからこそ道化を演じてみせた。

 ジャミトフが深読みをし、自分たちがあのガンダムタイプと何らかの因縁を抱えているというふうに思考を誘導し、こちらの弱点を抱えたと考えてそれを理由にAKD社にさらなる軍事力の整備を要求するように仕向けようとしていたのだが、ジャミトフはかなり用心深いようだ。

「貴社ばかりを儲けさせる訳には当然だがいかぬ。それに納入してもらったバルブドはジム系との部品の共用が少ない。我々はそういった面でも貴社との取引はあまり乗り気ではない。連邦系、ジオン系に加えて更なる部品系統をつくろうなどとは承服できない。もっとも、そうした技術体系を作ったほうがそちらにとっては都合が良いのだろうが」

「これはこれは、そこまでの考えは………」

「そしてゆくゆくはティターンズの兵站に深く関与し、梯子を外すか。まぁ、それも一つの方策だな。"素晴らしき小さな戦争"というわけだ。適度な混乱、適度な敵、適度な戦争、適度な消費、適度な出費。そして見返りは大きい。戦争をコントロールできるというのであれば、だが。もともと一年戦争はそうした側面を開始に持っていたことを知っていると思っていたが?安く見られたものだな」

「………そこま……」

「次は良い返事を期待している。また」

 ジャミトフは興味なさげに通信を切った。そして次の瞬間、苛立たしげに机を殴る。足元を見られたことも腹立たしいが、それ以上の理由があった。連邦とジオンとティターンズにエゥーゴ……それ以外にもどうやら、良からぬことを考えている輩がいるらしい。



[26640] 第15話
Name: Graf◆36dfa97e ID:a0148dc2
Date: 2011/11/23 19:21

 一方。地球では86年から任期を開始する第15代連邦大統領選挙が始まろうとしていた。

 地球連邦は史実では首相を首班とする議院内閣制の国家として成立し、そう成立したがゆえに連邦議会の強い立法権のもとにコントロールされた国家だった。議院内閣制の国家の特徴は、比類なき安定性を持ちうるが、それゆえに危機に対しての迅速な対応は国家及び国民全体に強い倫理性を要求する。

 つまりは油断すれば即座に利権国家としての道を歩まざるをえないわけであり、史実の連邦政府の脆弱性はここに起因する。もちろんそうした連邦にも"大統領"は存在したが、ドイツ型のシステムである名誉職型大統領制を採用していたがゆえに連邦大統領に行政の主たる権限はなく、首相にその権限が手中し、さらに首相は様々な利権絡みの中で動きが取れなくなった。

 宇宙世紀120年代以降の、いわゆる宇宙戦国時代への突入を避け得なかった理由がここにはあるというわけである。

 それが現在の大統領制―――アメリカ型ほど強い権力こそ持っていないものの、フランスと同様の"大統領制的議院内閣制"に至ったのは連邦政府の成立にまで遡る。宇宙世紀到来後に行われた宇宙移民の強制から生じた"居住権戦争"(0019-22)において、それまで地球圏の統一国家には外交が存在しないとされたために不要とされた大統領制を、外交ではなく軍事、移民担当として設置する案が浮上したのである。

 議院内閣制が戦時にはむしろ行政の足をひっぱる役割しか持たないことはよく知られており、であるからこそ戦時には挙国一致内閣の名のもとに首相を実質的な大統領へと移行させる措置が実施されるわけであるが、移民問題と地球圏の治安問題を担当する特別職としての大統領を常設で設置することは、居住権戦争での惨禍を考えれば現在連邦政府の主流派となりつつある"黄金海岸の白人"たちにも都合が良かったのである。

 もちろんそこにトールの思惑がなかったわけではない。むしろその点には積極的にかかわり成立に動いていたが、それが実効的な意味を持つには実に70年近い歳月を要したのである。まぁ、始めた当人の考えとしては、"議院内閣制"ってコントロール奪うの面倒だから奪えるように大統領制の要素も入れておこう、程度だったのだが。


 第15話


 大観衆の声援をバックに演壇を降りたレビルは選挙参謀の助言を聞き流しながら足早に楽屋の方に向かった。場所は地球連邦北米州ニューヨーク市、ヤンキースタジアム。旧アメリカ合衆国時代の伝統そのままに、連邦大統領候補の演説はここでも行われている。周囲にゴップやグリーンヒルといった盟友たちを連れて移動するレビルを見送りながら、財務担当の選挙参謀としてここにいるカトル・ラバーハ・ウィナー予備役大尉は観客席からスタジアムのスタッフヤードにある仮選挙事務所へ向かった。

「こちらだ、カトルくん」

「張さん!?お久しぶりです!」

 仮事務所の入口近くを所在無げにうろついていたアロハシャツ姿の男にカトルは面食らう。が、すぐに思い直す。月のマフィアとしてそれなりに名と顔の知れている張のことだ。次期連邦大統領候補の事務所近くをウロウロするのに下手な勘ぐりは禁物だ。しかし、今頃ここに何の用だろうか。

「ちょっといいか?ビジフォンじゃ何なんので出向いたんだが……」

 カトルは頷くとスタジアムからの出口に向かった。外野入り口から外に出ると、通りにあるスポーツ・バーの一つに入る。いつもならば試合を肴に一杯やる男たちの溜まり場で混雑しているが、今日はスタジアムでのレビルの演説を見に来た者たちでいっぱいだ。ここなら会話を聞かれる心配も少ない。

「お久しぶりです。トールさん、お元気ですか?」

「相変わらずかけた粉の後始末に泣きそうになっているがな。いい気味だ、もっと苦しんでほしいな。……とまぁ、それはおいておいて、だ。すこしばかり金の流れを追いたい。GP社からかなりの金額がレビル陣営に流れ込んでいると思うが、その流れを各議員にまで追ってくれ。できるなら金の出所も含めて」

 カトルは訝しげな顔をした。レビル将軍を大統領に据えて連邦政府の基本政策路線を宇宙に対しては穏健に、しかし軍事においては積極路線にすることが今回の大統領選でレビルに加担する理由だ。金額も連邦法に抵触しないようにしているから、迂回融資も含めれば大変な金額になる。出所を追うだけでも一苦労だが、更に流れ先まで考えれば気の遠くなる仕事だ。

「なんでそんなことを?」

「言ったろう、すこしばかり気になる、と。無理は承知している。………どうもトールのところから流れたもの以外にもいくらか怪しいのが混ざっていると聞いたんでね」

 カトルは身を乗り出すが、張はそれを手で止めた。確証をカトルが求めたのは判るが、彼とて合法的な手段でそれを手に入れたわけではない。もちろん彼の職業にふさわしく非合法である。手振りからそれを察したカトルは頷いた。

「特に誰を?」

「ローナン・マーセナス下院議員。この大統領選挙の副大統領候補さ。聞いた話じゃ……トールがリストに入れていないにもかかわらず、だいぶ大きな金が動いているようなんでな。移民問題評議会との繋がりについちゃあアイツもかなり用心深かったはずだ。この時期にこちらに何も言わずに資金を回すなんてことはしないと思うが……」

「マーセナス下院議員に……?」

「ああ」

「わかりました。僕も聞いていませんから、トールさんが資金を動かしたはずはありません。となると、誰かがトールさんの名前を使ってお金を動かしているはずです」

 今回の大統領選での資金の動きは彼に一任するとトールは言ってくれたはずだ。事情があるなら説明をしてくれるほどには信任を受けているとカトルは思っている。動かしているのがトールならば何か一言あるはずだった。

「名前がでかくなるというのも苦労するな。自分の名前がどこで使われているかもわからん。お互い気をつけるとしよう」





「………これ、もう片がつきはじめているんじゃないか?」

 トールは目の前で桃色の巨砲を撃ちまくっているアンジュルグ改造型を見ながら嘆息した。先ほどまでケタ違いの数のバッタに囲まれ、援軍到来までの時間稼ぎに頭を悩ませていたが、目の前の魔○少女メカは一機で戦局をひっくり返してしまった。無理もない、一発打つごとに30カラ50のバッタが宇宙のチリとなり、更にトリガーハッピーよろしく撃ちまくっている。ここが

「でしょうね、バッタの総数およそ800、うち400はアンジュルグ改造型……エンジェル・チートが撃墜しましたから。あれで戦力バランスが完全にひっくり返りました」

 トールとキットはそんな会話をカティサークの甲板の上で交わしていた。戦力差もあったので遠慮なく修理の完成したガンダム・チートに乗ったわけだが、まるでいいところなしである。しかし両者ともにそんなことを気にはしていない。トールはハマーンの乗機に完全に心奪われていたし、キットはキットで言葉には出さないものの今回の出撃こそ無傷の帰還であれかしと願っている。まぁ、0083で帰還した後も修行の名目で東方不敗とアクセルに甚振られ……いや、修行を願っていたわけであり、それは致し方ないことなのであるが。

「バッタは……遺棄されるわけじゃないのか、どこに向かっている?」

「それほど航続能力は高くないはずです。近辺に母艦が存在する可能性ありますが、追っていってもおそらくカトンボ級でしょう。撃沈しても得るところは少ないと判断します」

 トールは頷く。が、何か変だ。感覚的なものかもしれないし予感かもしれないが、何かが彼に警鐘を鳴らしているような気がしてならない。

「おかしいな……キット、周囲を探査。なにか隠れている可能性はないか?」

「先ほどまで反応のあった木星軍の残存部隊も後退しています。パプテマス・シロッコの生存を確認……クラックス・ドゥガチも同様です。周囲5000kmに敵影なし」

 いや、嫌な予感、苛々に近いそれはどんどん強くなる。油断なく周囲を伺うとオルゴンソードを抜き放つ。何故かわからないが武装の選択も標準装備のビームセイバーではまずい気がしたのだ。トールのただならぬ様子にキットも周囲の索敵を開始し、カティサークにも周囲の警戒を厳にするように連絡する。

 嫌な予感は益々強まる。考えてみれば頃合いとしては丁度よい具合だ。敵がエンジェル・チートに追い散らされレストレイル隊が追撃戦に入っている中、カティサークの近辺を守るのはガロイカぐらいのもの。戦闘が終わりかけているという緊張感の緩みはつくには十分だ。

「きた、か?」

 眼の前に青い光の集まりが現れる。瞬時にそれは消え、消えるとともに寸前までそこにはなかった物体が存在している。物体―――当然だが人型ロボット―――は実体剣を抜き放つと丸盾を構えてこちらに構えを取った。ある程度予測していたこととはいえ、トールの顔が顰められる。かつて乗りたいと考えた機体、主人公機よりも魅力を感じた機体だ。

「バッシュかよ、よりにもよって!」

「来ます」

 キットの注意の呼びかけと共にバッシュが実体剣を手に迫る。トールはそれをオルゴンソードで受け止めると鍔迫り合いに持ち込んだ。まずは敵の装備を確認しなくてはならない。などと思った瞬間からそんな考えを捨てさせられた。どちらかと言えば細身の機体からは考えられない圧力がガンダム・チートにかかる。踏み込みを維持しつつ、意思でキットに装備の確認を頼む。

 敵もどうやら鍔迫り合いだけで済ませるつもりはないらしく、機体を動かしてこちらとの位置を有利にしようとしている。乗っている騎士が誰かは知らないが、強い。誰だ?候補は考えられるだけで5人。しかし、そうではない可能性もある。2本の剣が鍔を競り合ったままトールから見て左側に降ろされていく。もちろんその間にも押し合いは続いており、両機の肘がぶつかり合う、と思った瞬間外された。上手い、とトールは感心した。そういう場合ではないのはよくわかっているが、彼自身剣道を学んだ身であり、この外し方の巧さは理解している。

 そして、自分が情けをかけられたことも理解した。本来ならば今外された瞬間に突きが入っていておかしくない。いや、むしろそれだけの隙は十分にあった。これでも少しは練習してきたんだが……まずいな。MSでの近接戦闘云々の話じゃない。明らかに個人戦闘能力というか、剣技の腕は相手の方が、ある。

 それ以上に問題なのは――――俺じゃ勝てない、殺される。それほどに力量差を感じさせる相手の気迫だった。

「トール、心拍数の異常増大を感知。落ち着いてください」

 無理を言うな。どう見てもあちらは構えていないがカメラを通してこちらに来る気迫はただごとじゃない。下手をすると東方先生以上に強いかもしれない。あれに乗っているのが誰かは知らないが、これが星団世界の騎士だというのか。先程から読む剣筋はどうみてもこちらが殺される光景しか浮かばない。近接戦闘など愚の骨頂。さっさとここから逃げ出したい。

 自然、体が動いた。もちろん動いたのは機体だ。まるで時代劇の一シーンさながらに間合いを取るために横に走りだす。もちろんバッシュもそれを追いかける。一定距離以上に離されないためだ。甲板の装甲を削り取りながら走り、艦橋の直下でもう一度対峙する。当然だが離してはくれないわけだ。

 バッシュが踏み込み、突きを繰り出してくる。握りの持ち方が変わったのをトールは見た。あれはどういう持ち方だったかを考えるよりも先に体が動き、自らも突きを繰り出す。交差するように、バッシュとガンダム・チートは重なった。バッシュはガンダム・チートの懐に入ると背中でガンダムの両腕を押し上げる。押し上げられたガンダムも肘に荷重をかけることでバッシュを抑えこむ。

「はっ、は――――」

 体中からどっと汗が吹き出す。今の一瞬は生きた心地がしなかった。上腕部を脇腹が抑えているから機構上実体剣の向きを反しても届かない。数秒は命を繋いだ―――来た!
 
 バッシュが体を捻らせて脱出を試みるが、脱出させては斬られると直感したトールはオルゴンソードを握る手をバッシュの実体剣を持つ手に当て、再度の迫合に持ち込んだ。剣道なら5秒で膠着、反則。もちろんこれは試合ではない。しかし、示し合わせたかのように距離を取る両機。再度の睨み合いが始まった。構えが変わり、まるでギャンのようにフェンシングの構えになる。乗っているのは誰だ?黒騎士の誰かか?ファティマは当然エスト?

 考えている最中に再度の突込。刃を当てて牽制しつつ肉薄すると体当たりを狙うが躱された。読まれるよな、やっぱり。

 けど、数秒生きた。

 あれで警戒したろうからそうやすやすと打ち込みはこないだろう。その間にとにかく間合いをとって射撃戦に持ち込むしかない。もちろんカティサークからは離れた上で。トールは機体に後進をかけると一気に上昇した。ついてくるか。来なければタオーステイルで無理やりついてこさせるしかない。そんなことを思った瞬間、強い衝撃を感じて近くのアステロイドにたたきつけられた。即座に機体を戻すと周囲を伺う。そして現れる青い光とそのあとの出現。

「ボソンジャンプ………時間は―――ああ、制限かかっているのか」

「トール、先ほどの近接戦闘時にハッキング確認。こちらのシステム領域に侵入してきています、過度の接触は控えてください。アクセス時に何らかのデータを送信された形跡あり。現在データ隔離中」

 鼻を鳴らす。何が起こっているにせよ先ほどの様子からすれば近接戦闘は命取りだ。距離をとってもボソンジャンプで詰められる。ならば――

「来ます」

 キットの注意と共に実体剣を手に迫るバッシュ。同時にフットペダルを踏み出し、最大推力で迎撃に向かう。オルゴンソードで受け止めると同時に叫んだ。

「ラースエイレム!キット!」

「了解!」

 ラースエイレムを発動させ、敵の動きを封じると共に直上に移動。思惟だけでタオーステイルを作動させ………。そこまで考えると同時に下半身が消失する感覚がトールを襲った。衝撃と共に叩き伏せられ、手近なアステロイドにぶつけられたのだろう、さらなる衝撃が襲う。

「何が……」

「……トール」

 どこか、恐れを交えたキットの声だった。機体損傷、左脚部切断。

「ラースエイレム・キャンセラーの発動を確認。眼前の敵機―――あのバッシュにラースエイレムは効かないようです」





 地球に戻ったジャミトフを待っていたのは連邦軍及び宇宙艦隊の再編計画の実施だった。すでに前述した地球本星艦隊を主軸とする連邦軍改組の動きは議会の予算措置に先行して行われていた。無論、手をつけ始めてしまえば議会も予算措置を認めざるをえないことを踏んでのものだが、そもそも現在行われている連邦大統領選挙で軍人出身のレビル将軍の当選が確実視されているため、問題となっていない。

 あのアマンダラ・カマンダラとの会談後、2つ会談を重ねて欲しいものは手に入れていた。連邦中央銀行及び軍事財政委員会からはティターンズ増強用の予算を、アナハイム社からはジム系の需品供給ラインのルナツーへの増設と新型MSの設計依頼とその生産体制の構築である。ジャミトフは急速に拡大するバスク、ジャマイカンらの強硬派とバランスを取るためトレーズのOZに肩入れをしていたが、バスク、ジャマイカン隊の増強が思いのほか早く、OZの現在の戦力である一個分遣艦隊級の戦力では抑えきれなくなりつつある。現在、バスクとトレーズが戦力の差があるにもかかわらずジャミトフの下で左右を固めているのは、こうした事態を見越していたのだろうトールがトレーズに付与した憲兵権限故だった。

 実際、ジャミトフもこうした事態を想定していなかったわけではない。まだ編成こそされていないが、本星艦隊以外の艦隊―――ニシバ・タチバナ中将の第三艦隊には非常時の増援を求められるようにしてある。また表沙汰になっていないが、ジャミトフ自身の戦力もないわけではない。まぁ、そうしたものがない現状でもバスクやジャマイカンが動く可能性はないだろう。彼らには政治力がない。

 とはいえ、放っておけば43バンチ事件のようにこちらの不利益のほうが多い行為しか行わないだろう。バスクの論理もわからないではないが、時期が悪すぎる。レビル将軍と対立する立場であったバスクがことさらこの時期に混乱を起こしたがるのも、軍を統御できないレビルの無能さをアピールしたいからだが軍の過半は当然英雄になびいている。

 だからこそ今回のア・バオア・クー回収任務に同行させた。要は新しいおもちゃを当てがっておくことでなだめるためだ。連邦政府をレビルの人気を後ろ盾に立てなおそうと考えている者たち―――官僚や企業はそろそろバスクの正体に気がつき始めている。

 まぁ、存外に時間がかかった。

 司令室の窓から宇宙を見ると地球がかなりの大きさに見える。アマンダラとの会談から4日、現在、彼の乗るウィスコンシンは月軌道内に侵入し、サイド7への航路をとっている。ウィスコンシンの周囲には艦体に大きくOZのマークを描いたサラミスが展開している。取り急ぎトレーズのもとに送った部隊だが、運用は十分な慣熟訓練を積んだそれだ。

「閣下、お帰りなさいませ」

「ん、留守中、大事無いか」

 画面に写ったトレーズは頷く。

「グリプスの工事は予定通り進捗。ガンダム開発計画の方もAKD及びGP社の技術陣は協力して事にあたっております。そういえば、数日前AKD車の技術陣が一部別計画に回されると入れ替えが行われましたが、今は元に戻っております」

「誰かが脅しをかけようとし、誰かに止められたというところか。はてさて、あそこも一筋縄というわけではないな。それで、トレーズ。何事か出来したか?お前もわざわざ通信を入れられるほど暇ではあるまい」

 トレーズは微笑すると口を開いた。

「見目麗しき東洋の貴婦人よりご連絡です。連邦軍よりの需品に混ぜる形で我々の増強を図りたいと」

「バスク大佐の部隊とのバランスを取ろうと考えているようです。………横から失礼します、中将」

 レディ・アンの割り込みにトレーズは微笑み、ジャミトフに一礼すると通信画面から消えた。画面にはレディが映る。ジャミトフは現在彼が把握している各陣営の戦力比を考えつつ口を開いた。

「バスクの部隊はペデルセンと分割する。それでバランスが取れる……わけもないか。ジャマイカンあたりがペデルセンのところにちょっかいを掛ける可能性もある。となれば、トレーズの陣営を強化してバランスを取る、か。いつからティターンズは諸勢力の天秤となったのかの?」

「ご明察です。閣下もその可能性を考えております。ですが、現状のリーオーでは我がOZの戦力を十分に発揮できません。新型は是非にも。地上部隊へのエアリーズ、トラゴスの配備が来年度から始まりますが、後々を考えると我々の戦力向上は必要です」

「ならん」

 ジャミトフは首を振った。戦力を艦隊として、つまり一個の部隊として整えるのはともかく、現状でバスクとの対立を激発させかねない新型の装備は許されない。しかし、ペデルセンの部隊がバスクの対抗馬として使えないならばトレーズを用いるしかない以上―――そして本来のトレーズの役割がそうである以上―――何らかの措置は講じねばならない。

 そういえば――――

「キリマンジャロにペデルセンの指揮下にある試験機の運用実験部隊がある。現在は高高度迎撃機の試作検証を担当しているはずだ。彼らを組み込む。アン中佐、新型機実験部隊を組み込めば新型実験機の搬入名目が使える。それは古巣から考えても妥当な線だと考えるが?」

 レディはジャミトフの申し出に頷いた。



[26640] 第16話
Name: Graf◆36dfa97e ID:a0148dc2
Date: 2011/11/23 19:20

 
「バッシュ、木星近域において敵ガンダムと戦闘に入りました」

「ラースエイレム・キャンセラーの発動は正常。移行措置は問題なかったようです」

 モニタを見上げていた老人はトーガを少し上げ、二機の対峙を見つめていた。長く伸びた白鬚は身にまとっているローブの前にまで垂れ下がるほど長く、余程の長い人生を生きたことを表している。しかし、体躯の方はその白鬚を裏切るかのように凛々しくたくましく、まるで青壮年のそれを思わせるほどに筋骨隆々としていた。

「伯爵も余計な事を、わぬしの任務はただの配達人でしか過ぎぬものを……」

「無理も無いだろう。少しぐらい楽しもうとしても不思議ではない、あの性格ならば」

 老人は後ろから響いた若者の声に鼻を鳴らした。

「伯爵――もしくは王子、か――貴公ならばどうする?妹を手蔓として使われた恨みそのままに剣を振るうか?それとも風でも起こしてすべての種火を消しでもするか?心にもないことを言うものではない。"フォース"は正直だぞ」

「……しかし、今回の目的は?あの方の今回の命令、別にあの場で無理に交戦に入る必要はない。無駄なことに思えるのだが」

 若者―――仮面の男、ゼクス・マーキスは老人のその声に答えた。

「全てはフォースの導き―――あるいは何かの予定通りよ。それに、"貴公"は理解できていたぞ。まぁ、"今の"貴公は知らぬことだがな」

 老人はそういうと嘆息した。

「さて、これで種播は済んだが……やはり思う通りには進まぬの。はてさて、何事もそうそう簡単に思うまま、とはいかぬものよ」

「……種播?あの戦いが?……一体何の?」

「この交戦は、"候補者"がせっかくよこした手がかりを有効活用せなんだ、自業自得の結果よ。"乗ってみれば"解決したものをな。また、あるいはもっと視野が広ければ、あるいは思い切りが良ければよかったのやもしれぬ。種播が足りねばもう一度播く必要もあろう。しかし主目的は果たせるか……?ケノービのことであろうから杞憂はないであろうが」

 ゼクスは不審げな表情で伯爵と呼んだ老人を見つめる。何かをその表情から読み取ろうとしているが、その気配を普通とは違う何かで察したらしい老人は肩を揺らして低く笑った。

「……お主の知る必要のないことだ、閃光の伯爵。――――考えてみればあの者とも長い付き合いになることよ。それこそ、気の遠くなるほどにな。ほ……やはり、種播の必要はないかもしれぬな」

 老人がそう言うとモニタの各所が白く光り始めた。ワープ航法の終末段階、現界の際に起こる現象だ。こうした光が生じる効果はただのワープだろうがボソンジャンプだろうがオルゴン・クラウドだろうが変わらないらしい。

「ワープアウト反応多数。スター・デストロイヤー複数の出現を確認。出現と同時に多数の戦闘用機動兵器の展開を開始。一部戦闘機群についてはこちらに進撃を開始。艦影照合終了、ケノービ将軍の旗艦"ネビュラ"を確認。ネビュラ級8隻、ヴェネター級30隻ほどの大艦隊です。機動兵器総数は現在計測中ですが以前増大中」

「射出中の機動兵器はARC-170及び現在戦闘中の"ガロイカ"型機動砲台及び"レストレイル"型機動兵器。射出数……現在900。依然増大中」

 40隻に900機と聞いてゼクスが顔色を変える。戦力の拡大を行なっているとは聞いていたが、ここまでとは思いもしなかった。しかし、思い返してみるとそれだけの戦力を持っていても不思議ではない。宇宙世紀のはじめからこの世界にいる"候補者"側であればそれだけの戦力を保持していても不思議ではない。むしろ、今回の"候補者"襲撃はそれを恐れたからこそ、単艦で移動をしていたこの状況で許されたのではなかったか。

「……ふ」

 この船を旗艦とする艦隊―――とはいっても他の艦艇は虫型輸送用のカトンボだけだが―――では太刀打ち出来ないことを知っているにもかかわらず老人―――ドゥークー伯爵は薄く笑っただけだった。

「撤退する。バッシュとモータヘッド隊に後退信号を打て。全カトンボ及びバッタ他の機動兵器は旗艦の脱出を援護せよ。不足ならば近隣の艦艇を呼び出せ。数はあるはずだ」

 薄く笑うだけで何もしようとしないドゥークー伯爵に代わってゼクスが命令を下す。ゼクスはいらついたらしい雰囲気でドゥークーを見るがドゥークーは何も感じていないかのように画面を見つめている。艦が彼の言うとおりに動き始めたことを察したゼクスはドゥークーに言った。

「何を考えている、ご老人?」

「もはや"何度目"になるかわからぬがな、ようやくと感慨一入よ。見よ、閃光の、ケノービの艦隊を。救援を頼まれたとはいえバッタの群れにあそこまでの戦力は必要あるまい。しかしあえて送ってきた。心配したからだ、身を案じたからだ、ヤツの価値を知っているからだ、"失いたくないほど"案じているからだ。基本執着心を抱かぬジェダイを強制措置もなしにあそこまで動かす人材。感じるぞ、フォースの流れを。あの男を案じるフォースの流れを。久しぶりだ。"三回目"になるか」

「……ご老人?」

 発言の中身がわからないゼクスは喜ばしげに言葉を重ねるドゥークーをただ見つめるだけだった。

 ――――意味ありげな会話を続ける二人の伯爵の姿をブリッジ下部に見ながら、この船―――拡大改良型"ナデシコ"級戦艦"ソメイヨシノ"艦長のホシノ・ルリ大佐はため息と共に言い放った。曰く――――

「バカばっか」

 と―――

 しかしその韜晦な表情は、すぐさま彼女の頭に置かれた手によってくすぐったいような微笑に取って代わられるのである。




 第16話




 木星の周囲に浮かぶ小惑星の一つに降り立った二機は、先程までのような戦闘に入ることなく互いに相手を伺っているように見えた。少なくともこの二機の対峙を第三者が見ればそう思っただろう。その二機のうち、少なくとも一機はそうだった。片足を失い、切断面から火花を散らせながらクリスタル状の剣を構える。

 先程までの戦闘で自身の持つほとんどの武装が封じられた状態にあることを理解したトールは自機―――ガンダム・チートの持つ武装の中で相手に効果が見込めそうなそれを探している。とはいってもビームは吸収されレーザーはディストーションフィールドにねじ曲げられタオーステイルは重力の壁に阻まれるとなれば採れる手段はオルゴン・ソードによる近接戦闘しか選択肢がないわけで、その選択肢を取らされれば殺される。

 近接戦闘を主眼として建造されているMH相手だけでも不安が残るのに、相手の腕はこちらより上。特にあのバッシュは胸部にグラビティ・ブラストが搭載されている。先ほど良い感じで(そして半ば自棄に)近接をかけた(かけさせられた)所でぶっ放された。上段に構えたのを下段で攻めたらこうなった。どうしろと。

「トール、内部チェック終了。先程の攻撃と同時に観測されたこちらへのアクセスはデータ転送でした。ハッキングではありません。ただし、ハッキング自体は先程から続いています。……どうやら、私の手をある程度拘束しておきたいようです」 

 そしてこれだ。先ほどの近接の際、接触してから何らかの手を加えられたらしい。キット対策までしているのかよ、ファティマはコンピューター世界でも無双とか知らんぞ、俺。……しかしデータ、か。一体何を転送してきた。

「誰がやっているかはわかるか?」

「いいえ、出元はたどれません。しかしそれほどの強度ではないため、現在の作業はこちらの内部データへのアクセスを防ぐ程度にとどめてあります。お忘れですか?アステロイドベルト以外でのあなたのMS操縦の下手さ。私のサポートがなければ完全な宇宙戦闘は避けたほうがよろしいと判断しましたので。サポートはまだ行けます。……トール、生き残りますし、生き残らせます、私が」

 トールは微笑した。そして思い直す。やっぱりだ。

「アステロイドベルトにこちらを誘い込んだということは何を考えていると思う?それにデータ転送?何を送ってきた」

「テキストファイルです。文字コードも何もかもレトロにすぎるため、高性能のコンピューターほど解析が難しいのではないでしょうか。……ただ、私の場合あなたの記憶との照合という手段がありますので。どちらにしても本格的な解析は帰還後です」

 会話をしつつも油断無く敵機―――バッシュを見つめる。ヤバイな、近接だと技術的に無理、離れても距離を詰められるとなれば打つ手がない。ガンダム・チートは現状の性能だと基本、一対多数の戦略的運用を目的とした機体だ。単体無双用じゃない。だからテューディにガッツォー頼んだのに。頼んで出来てないそばからこれかよ、アニメの乗り換えパターンじゃないぞ。

 改めてフェンシングの構えを取ったバッシュと対峙する。左腕の丸盾は手元を隠すように構え、その手にはマン・ゴーシュ型の実体剣がある。完全にフェンシングだ。歴代黒騎士にもアマテラス騎士団にもフェンシングを使うやつなんていなかったと思うんだが……いけないな、だいぶ忘れている。

「一体誰だ?」

「来ます」

 跳躍、というに等しい間合いの詰めで一気にこちらの懐近くに入り込んでくるバッシュ。まずい、と思った瞬間にはもう突きが放たれ、こちらの脇腹の装甲を削り取っていった。一瞬でも遅れていればコクピットを一撃。装甲を削るだけではなくコクピットにも強い衝撃が加わる。その衝撃に操縦桿の手を離しそうになりながら、トールはフットペダルを勢い良く踏み込んだ。

 残された右足がバッシュの腹部めがけて迫るが命中寸前で止まる。右足の関節部にバッシュ左手のマン・ゴーシュが突き刺さっている。それが邪魔して腹部に命中するはずの膝がそれ以上上がらない。バッシュがマン・ゴーシュを手放すと同時にバランスを失って倒れるガンダム・チート。実体剣を構えなおしたバッシュが再度の突込を繰りだそうとするが、傍目には無様に、操縦者としては生き残る一心で機体を転がせてトールはバッシュからの距離を取った。

 ホッと息をつきかけた瞬間―――

「ガハッ!?」

 裂帛といっていい程の勢いと突き込みでガンダム・チートをバッシュの突きが襲った。反応したトールの動きは傍目には早く、しかし突きからは遅く動き、実体剣はガンダム・チートの腹部左脇を貫いた。貫いた刃はコクピットの左側を突き抜ける。球体のコクピットの左側を実体剣が貫いていく動きをトールは見た。

 これがビームサーベルならば死んでいる――――

 死の恐怖がトールを貫く。引き抜かれる実体剣と共にまるで自分の魂まで引きぬかれていくような心持ちだった。無意識のうちにコクピット内の与圧状況を確かめ、ノーマルスーツの内側をブラスレイター化していた。ここまでの動きは東方不敗に教え込まれた結果だったが、それでもなお、眼前の敵機に対する反応はしがたい。

 バッシュの一撃は命こそ奪わなかったものの、トールの心に抜きがたい何かを植え付けていた。

 すると――――

 次の瞬間、引き裂かれるような痛みが一気に襲ってきた。コクピットを貫いた実体剣は、彼の左足を奪っていた。その強すぎる痛みは一度はあまりに強すぎるがゆえに意識から排除されたのだが、ブラスレイター化したことで許容範囲に収まると脳が判断したのか、一気に感知されるようになったらしい。歯を食いしばって痛みに耐え、また徐々にナノマシンが傷口を修復して左足の再構成を行うことでだんだんとなくなる痛みを感じつつ、トールは意識を手放した。

「……気絶したか」

 眼の前のバッシュからのものらしい通信が開かれる。通信を中継したキットは抜け目なく通信を録音する。キット自身のデータベースには該当者がない声だが、トールならばあるいは知っているかもしれない。もっとも、彼の場合"アフレコさんがわかっても候補多すぎだろ!"と言いかねないのが悲しいところだ。男性声優ファンというのも大概である。

「筋は悪くないが、惜しむらくは修練が足りん。ポイントにかまけた己が過失を悔やむがいい」

「トール……」

 気絶したトールから機体管制を引き継いだキットは脱出の機会を作るために自身の管制下にある兵装での反撃を開始した。それまで効果がない(トールの能力的な問題もある)と沈黙していたタオーステイルを全機起動させると、実体剣に食い破られたリニアシートにナノマシンジェルを注入しトールの体を保護する。左足切断による出血を止める必要があるからだ。

 キットはトールの体がジェルで固定されたことを確認するとガンダム・チートを再起動する。ガンダム・チートはトールの登場を前提に作られているMS。操縦システムの一部は彼に依存しているといってもいい。サイトロンやサイコミュなどの精神感応系の装備は彼の精神を買いすることで、このMSの動きを人間と変わらぬものにしている。

 現在、キットはそのすべてを代行していた。もちろん、不要な機能はすべて削除し、動きが直線的になるのも構わずプログラムをリアルタイムで構築し機体を操縦者と共に逃がそうとする。それだけでなく――

 ガンダム・チートとバッシュの間に割り込む機体が数機。先ほどまでカティサークの護衛についていたガロイカだ。コンピュータ制御のためプログラムに手を加えて壁として呼び出したらしい。バッシュとの距離を調整しつつガロイカの位置を徐々に動かす。ボソンジャンプで近くに現れても、背後から攻撃できるように。

 そしてキットが動いた。起動したタオーステイルをバッシュに向けるとブースターに火を入れカティサークへの帰還路を取ろうとする。ガロイカは警戒する。

 バッシュは肩の装甲を展開させた。蛇腹式になっていた肩アーマーの内側には針状の何かが搭載されているらしい。トールが見れば長さを詰めたスロウランサーだと看破したろうが、この段階では想定外の装備だ。発射された両肩合計56発のスロウランサーはタオーステイルの襲撃を食い破るとガロイカに突入して爆発した。

 ガロイカ及びタオーステイルの爆発は、実はキットには十分以上予測できた。だからこそさっさと逃げるための防壁程度にしか考えていなかった。とはいえ――――

 移動した小惑星に待ち構えていたバッシュを見ると、自身の計算が甘かったことを思い知る。計算のミスは次回に生かせばよいが、自身にとっての次回はあってもトールにとっての次回はないかもしれない。キットは生還した場合の強化プランを最優先の課題と位置づけつつ、目の前のバッシュの隙を伺った。



 バッシュは再度突きの構えを取った。妙なことに向いた方向はトール機の方向から少しずれたあたり。そして―――

 放った突きは横からの実体剣につき上げられて外された。間合いを取るバッシュに、新たに加わった機体から目にも鮮やかな紫色の光がバッシュに迫る。バッシュは実体剣をそちらに向け、避雷針替わりに雷を受け止める。

「―――ジェダイ」

「懐かしい匂いがするが………旧友ではない、か」

 機影の特徴はトールが使用していたヴァイサーガだ。しかし頭部と腕部のデザインが変更されて一目ではわからない。機体胸部に大きくジェダイ・オーダーの紋章が刻印され、その所属を明らかにしている。

「マスター!まだライトセーバーの大型化は実用化してないからそれで耐えて!」

 通信からセニア技師長の声が響く。ジェダイ・マスター、クワイ=ガン・ジンは頷くと五大剣を構えた。この機体、名前はまだない。トールはこれから呼び出す予定の人間出身のジェダイ騎士用としてのMS開発に、それまで使用していたヴァイサーガを素体MSとして用いることに決めていた。理由は一に現状、彼が保有している最強の接近剣戦闘用の機体であることと、二にまだガッツォーが開発できていないことである。

 中継ぎの機体であることを最初から運命づけられたような形ではあるが、そこはそれ、"騎士"のお仲間と思われることが確実であるため、手は尽くしてある。中でもフォースを生身の戦闘と同じく任意で用いることを可能にするため腕部の改修が行われ、フォースの発動を感知して腕部に格納されたアガデン・クリスタルコアを動かすことで発動する。とまぁ、本来はシスの技に分類されるフォース・ライトニングが実用化できればいいだろうぐらいの認識で行われた改修がフォースの限定的な運用を可能にしたことで、クリスタルを用いた実験機としてトールが使用していたヴァイサーガは改修された。今は見る影もない。

 そうした急造実験機を動かしている実情などサラサラ晒すことなくクワイ・ガンはソーレスの構えを取った。彼自身はアタールを使う剣士だが、この状況では時間稼ぎが主になると判断したためだ。

 先に仕掛けたのはバッシュだ。クワイ・ガンを侮ることができないと見たのか、トールの時と同様に試すような素振りは見せない。フェンシングの流儀らしく突きを主体とした剣を繰り出す。その剣の下面に吸い付くように五大剣を滑らせたクワイ・ガンは鍔が競り合う瞬間、剣を跳ね上げると同時に左手を前につきだした。腕部格納のクリスタルが発光するとともにフォースが発動しバッシュを大きく後退させる。

 させると同時に大きく跳ね上げられた剣の生んだ空間にクワイ・ガンは飛び込み、間合いを詰めると打ち合いに持ち込んだ。バッシュは大きく構えを崩され、クワイ・ガンの打ち込みに実体剣と丸盾でしのぎを削る。

「その扱い、マカーシが入っているな」

 ソーレス、アタール、マカーシはそれぞれジェダイ、もしくはシスの剣術だ。それを学んでいるということは相手側にシス、もしくはジェダイが居ることをクワイ・ガンは看破する。誰だか走らないが、そうやすやすとジェダイが教えるとは思えない。となると、シス。誰だ?ダース・モールかドゥークーか、それとも……?

 先ほどのトールとバッシュとは立場が逆転した鍔迫り合いにバッシュは答えない。もちろんクワイ・ガンにもこの状態が長続きしないことはわかっている。自分の扱っているのは急造の実験機で、腕のクリスタルが―――

 ショートするようなバチバチッという音と共にそれまでバッシュの剣を支えていたクワイ・ガン機の左腕に火花が走った。同時に操縦桿に掛かる力が抜けていく。どうやら、いきなり酷使しすぎたらしい。片腕になり、フォースの使用を封じられたわけだがバッシュは先程の剣筋から油断はできない相手と見たのか、ジリジリと後退する。

 そこに―――

「先生!」

 デルタ7型戦闘機。型式からしてオビ=ワンのものだろう。圧倒的な数の機動兵器がこの空域を飛び回り、虫型機動兵器とその母艦を攻撃・破壊している。形勢は完全に逆転していた。オビ=ワンのデルタ7の後方にはこちらに向けて全速力で向かってくる機動兵器魔法少女の姿もある。片腕になったとはいえジェダイ・マスター二人に魔法少女の相手はバッシュには過ぎるだろう。

 それを当然察したらしいバッシュは実体剣を納めると丸盾を構えて一礼する。まるで、古代の騎士か現代の道化のように。一礼が終わると共に、バッシュはボソンジャンプの光と共に消えていた。


 



[26640] 第17話
Name: Graf◆36dfa97e ID:a0148dc2
Date: 2011/11/23 19:19



 格納庫の中に突然出現したバッシュに驚くこともなく、まるでその登場を当然のように待っていたドゥークーはバッシュの搭乗者が降りてくるのをじっと待っていた。人間であれば額と耳に当たる部位が開き、中からファティマと思しき女性と操縦者らしき男性が出てくる。男は女性を抱きかかえると全高20m程をものともせずに降り立つ。服装は双方ともに極めて平素。しかし、すこしばかり時代がかってはいるようだ。特徴は、その肌の色がくすんだ青色であることだろう。

「伯爵、ご苦労であった。件のものは無事?」

「ええ、無事に。……少々、やりすぎましたかな?」

 そこにドゥークー伯爵の背後から第三の声がかかった。

「いや、良い薬になったろう」

 二人は声の方を揃って振り向いた。顔はローブに覆い隠されわからないが、声は若い。

「いい具合に傷をつけてくれた。これでさらに絆は深まり、あの男はハマーン・カーンに依存し、抜け出せないほどに執着していくことになる。もちろんハマーンもそうだ。互いに互いが依存しあい抜け出せなくなり、結果選択肢は狭まりこちらの意に沿いやすくなる。さすがドゥークー、シスの暗黒卿だけはあり、人心の機微には通じているとでも言うか」

 第三の声にドゥークー伯爵と操縦者は一礼した。口を開いたのはドゥークーだ。

「お戯れを。ですが……あれかハマーン・カーンのどちらか、あるいは両方をシスにでもするおつもりですか?あれらのとれる手段を制限するためではありますが、シスでは目的に沿わぬかと」

「目的の達成に必要ならばシスに堕とすことも必要だろうが、その必要性と可能性は薄い。クワイ・ガンを中心に据えるつもりだろうあれのジェダイ・オーダーがおり、またもしダークサイドに落ちようものなら東方不敗が拳で連れ戻すだろう。生身で彼らと戦う愚は必要と詐術でない限り避けることだ」

 第三の声に笑いが含まれた。それを察したのかドゥークーの声にも笑いが含まれる。

「やはり?」 

「あれは妙手だった、実際、予定が大幅に狂わされた。家族に欠員を出し――シーマ・ガラハウはもともとあそこで死んでも構わない存在であったしな――、相互依存の決め手になるかとも思ったのだが、な。ブリストーの"お前自体が大規模改編だ"はまさに心の叫びよ。……しかし、今回のことで帳尻はあっただろう。結果としては悪くない。我々が本当の目的を果たすための、手助けをしてくれる存在になる可能性は充分増えたといえる。それに―――」

 そこまで言って第三の声の男は背後から近寄った影を優しげに抱き寄せた。礼儀、もしくは別の何かからか、ドゥークー及び伯爵と呼ばれた操縦者は頭を下げ、直視することを避ける。十分とは言えない照明の下、夜目にも鮮やかな桃色の髪を持った女性は男の胸に頭を預けると目を閉じた。肩にかかるセミロングの髪を撫でる男の手はどこまでも優しかった。

「"今生"はそう悪い生でもない――――いや、であるならば尚更、か」




 第17話




 宇宙世紀0084年のクリスマス。地球で生まれた救世主の生誕を祝うこの行事は、宇宙世紀に入ってもなお、毎年の恒例として続けられていた。ここ月のNシスターズにおいてもそれは同じく、12月になると3日に一度は気候調整プログラムが市内に雪を降らせ、12月気分を演出する。宇宙空間での水分の重要性は言うまでもないが、地球から大量に運ばれる、もしくは宇宙空間に浮遊する氷隕石を原料として生成される水分は貴重なものとして取引されている。

 その水分をポイントという形で大量に変換することで市内に供給し、供給後は都市内に封じ込めることで市内の水循環システムを維持しているNシスターズはそれゆえに豊富な水量を保有している。実は宇宙空間において水は重要な取引商品の一つであり、Nシスターズは氷隕石を定期的に輸送してきては融解しコンテナ状に切り出しては諸サイドに輸出している。話がわきにそれたが、そうした豊富な水資源を持つからこそ、天候の1つとして雪を自在に降らせることを選択できるのである。

 そうした雪の中、Nシスターズ中核区域にあるミューゼル家所有の恒久都市では雪が降り積もった庭先で遊ぶこどもたちの姿が見えた。

「まって、バナージ!」

「捕まえてみろよ、オードリー!ねえちゃんこっちだ、遅れるなよ!」

「プルプルプルー!」

 十数年後に似たような風景を醸し出しそうな二人の声がひときわ大きく冬景色に響くが、見るものが見れば驚くのはむしろ、そのような冬景色を一望できる場所に設えられた屋敷二階のテラスだろう。一階部分の屋根を床として設計されたそこはかなり広いスペースを取られており、建物側の半分のスペースには屋根がかぶさるように設計されていた。

「あらあらあら、バナージくんにオードリーさんたち、元気ですね」

「今が一番手がかる時期ですわ。……快活なのはよろしいけれど、女の子らしく無いようで」

「すみません、エーラさん。うちの子が連れ回してしまって……」

 会話が年寄り臭い――決してBBAなる言葉は使えない――などと埒もないことを考えていたラインハルトに冷徹な視線が向かう。姉アンネローゼが一番この世界に来たことで性格を変えただろうと彼は思っているが、それはまさにそのとおりだった。一番の多感な時期を母の死去で零落に向かう家の建て直しに使った彼女は、今生では打ち揃った家族とともにここにある。

 両親に姉弟が揃い、彼女の心を固めていた鎧兜が剥がれた今、彼女は年齢相応の成長を遂げた結果としてのこの場所に居る。そうした、ある意味普通の成長を経た彼女の姿を見ることはラインハルトにとっても嬉しい限りだ。彼のかつて夢見、決して叶うはずのなかった光景が、ここ、月の中には確かに存在したのである。



 振り返って考えてみると、彼の今生はここで始まり、ここで進んでいた。気がついたと思えばあの豪奢な新無憂宮の寝室ではなく冷たい金属製の部屋で、すでにないはずの家族と幼くなった姉、そして幼児になった自分を感じ、戸惑いとうれしさと懐かしさを感じていた。そしてその後、落ち着いた頃合いを見計らって入室した一組の男女は、自分たちを名目上の家族とすることを要求し、引換に失われた生活を約束したのだった。

 一にも二にもなく両親が頷き姉もそれに押されると、すでに自分が反抗する余地はなく、親しい幼友達こそ失ったものの彼らの新しい生活が始まった。新しく姉と兄として家庭に入り込んだ人々は決して彼らの生活を邪魔することなく、名前だけを拝借して彼ら自身の仕事を始めていた。それがこの世界を変えることだと知ったのは、二度目の8歳を迎えた時、姉がもう一人加わることと、実の姉の名前を拝借して孤児院を始めたいと頼まれた時だった。

 かつて全宇宙を相手に戦った矜持はそこで頭をもたげた。自分が過ごした世界からは過去にあたる年代のこの世界は、技術においては自身が過ごしていた世界の何倍も(部分的には)勝っており、彼に新しい世界を開いた。自分が過ごしていた銀河帝国からは考えられないほど進んだ社会システムと戦術・文化は彼をして新しい世界の興味を沸かしめ、新しい兄の仕事に加わることを選ばせたのである。

「ラインハルト、あなたもバナージくんたちと遊んできたら、どう?」

「姉上、やめてください。さすがにもう雪を相手に遊ぶ年は過ぎました」

 他愛もない会話で笑えるのは結構なことだと再度思う。姉は本当に明るくなった。今日の雪遊びのお相手は兄によればオードリー・バーン及びその母、エーラ・バーン。そしてバナージ・リンクスとその母アンナ・リンクスである。双方ともに兄の世話でこちらに寄宿しており、連れ子の二人は現在、兄の保護下にあった。

 二人と年齢が近いこともあってラインハルトが世話を仰せつかったわけだが、近いといっても10歳近く歳が離れており、そもそも人付き合いが良いとは言えない彼には悩みの種だ。二人の方はラインハルトになついてくれているが、ラインハルトからすると二人に遊ばれている感が否めない。

 そもそも二人が原因で、兄の艦の砲術士官に配属されてこれからまた……などと思っていた矢先に待機命令を受けたのだ。士官配属のままでは二人の相手ができないと知るやいなや、予備役に編入されて月司令部付きとして後置された。ラインハルトにとっては不本意この上ない配置である。

 もっとも、彼はそれを要求したのが実は兄トールではなく姉アンネローゼであることを知らない。この人生に入ってより、弟に放って置かれた人生をかつて過ごした彼女は、出来うる限り弟を手元においておこうと決心していた。そしてそれは月を厳重に警備しておこうと考えるトールの考えとも合っていたし、何よりも―――関係者全員が逆らえないアンネローゼの存在が大きかった。

「ご令嬢、それでは我々は失礼する。今後このような場に儂のようなものを……」

「あらグリーヴァスさん、いいじゃないですか。あなたもお茶を飲めるんですから、これも良い機会と思って。それに、いつまでも警護の方たちとお会いしないのも。守っていただける方たちに、エーラさんもアンナさんもお礼を申し上げたいと思っていたんですよ?」

 これだ。いつの間にか姉は別人になってしまったのか。ラインハルトは頭を抱えたくなった。サイボーグから生身の肉体に戻り脳改造の影響から逃れたとはいえ、グリーヴァスは現在も義手二本を装備しクローン戦争時代の姿に近い出で立ちで、ライトセーバーを合計4本振り回すドロイド部隊を率いる月の番人である。姉は最初、どうみても警護するものの雰囲気ではないそれで挨拶に来た将軍に対し、その威風を微笑だけで屈服させたのである。

「しかしだな、ご令嬢。儂のような強面が来てはな、ほら」

 かつて全宇宙を恐怖に陥れたサイボーグの悪魔が困ったように常識論を述べ始めた。その姿にはもはや呆れを通り越して哀れさすら感じる。とは言っても哀れさはすぐさま通り越して同情心が心を支配する。あの微笑が出てはダメだ。何も言い返せずに姉の言うとおりになるしかない。ラインハルトは長い経験からそれを理解していた。あの微笑は怖いのだ。あの微笑みが勝ち取った最大のものといえば、最初名前を借りただけの孤児院業。現在は既に姉の掌中にあって彼女の人生の――もちろんそれだけでなくGP社の社会福祉部門としても――一大事業に成長している。兄が出した金額を聞けば、生中なものであれば卒倒するだろう。

 目の前で困ったように身を捩り、大げさに両肩にかけたジェダイ風ケープが振り回される。しかし誰も咎めないし迷惑そうな顔はしない。と言うかできないのである。兄にソフィー姉、シーマ姉に張義兄、ケノービ将軍と東方不敗様に続けて、か。誰か勝てる方は出てくるのだろうか。自分はその光景を見るだけでその人に頭を下げられる。ラインハルトは思った。

「ほらおすわりになって?何がよろしいかしら」

「ご令嬢の思うとおりに……なんで儂が……」

 差し出されたティーカップを受け取る姿が下手に様になっているからなお痛々しい。仮面に仕込まれたホロセルで同席のご婦人二人には恰幅のよい仮面の老紳士が困り果てながらティーカップを受け取っている姿にしか見えないとはいえ、本当の姿を知るラインハルトからすると痛々しい事この上ない。もっとも、彼の出自からするとカリーシュの一部族長だった頃には妻子もあり家族生活を営んでいたことに違いはない。こうした場の経験もなくはないのである。

 困り果てつつお茶会に参加するグリーヴァス将軍の姿を見つつ、ラインハルトはこの場から逃れる方法を必死に模索し始めていた。かつての人生においては姉と共に過ごす時間を模索して人生を過ごしていた彼は、今生においてはそれも程度問題と既に思い知っているようである。




 リゲル1に唯一存在する大陸の東部に位置する入植基地の通路をクワイ・ガンと合流したオビ=ワンが歩いていた。ナブーでの一件で死に別れて以来、決して生きて会えるとは思ってもいなかったが、ここに生身の肉体を持って参じていることは、彼ら自身にとってもうれしい話だった。

「正直、驚いたな。もう少し人員は選ぶと思ったが……早々とジェダイ揃い踏み、とはな」

「……かつての苦しい時代を思えば、ここで懐かしい顔に会えることは嬉しく思いますが、少々、複雑な気分でもあります」

 ローブをまとった初老の男性――クワイ=ガンは顔を少し崩してから言った。

「アナキンの件か……お前も承知しているとおり、あれは必要なことだったのだ。フォースにバランスをもたらし、騎士団を古い掟から解放し新しい時代とシスに備えるために、な。しかしジェダイも機械ではない。解決しない感情は時が癒すだろう。何より、彼には友と家族と……師匠のお前がいる」

「……ムスタファーでアナキンを斬ったのは私で、デス・スターで私を切ったのはアナキンです。いずれ、そのことでもアイツとは話さなければなりません。話す機会は殆どありませんでしたから」

「そうすることだ。しかしトールの誘いに乗ったということは……アナキンもお前と話すべきことがあると思っているのだろう。決して家族だけのためではあるまい。お前とてそうだろう、かつてのパダワン?」

 髭面の男は頷いた。

「リゲル1も居住環境が整い始めてきています。早晩、恒久都市を覆う天井部分の外壁は不要になるでしょう。大気組成は地球にかなり近くなって来ましたので……。トールが進めようとしている計画、ある程度推測は付いて来ました。多くの命を救うならば、ジェダイとして出来うる限り手助けするつもりです」

「そうではない。かつて私はジェダイ騎士団の掟にそい、お前の若い思いを断ち切った。その掟に疑問を持っているにもかかわらず。そして、その掟こそがかつてのジェダイ騎士団を崩壊に追いやるきっかけになった。平和を守るべき騎士団が、平和のもととなるべき愛を執着と否定しては……滅びるのも仕方ないことだったのかもしれぬ」

 クワイ=ガンは言葉を続けた。

「だからこそ、逃げるなよオビ=ワン。せっかくの心遣いだ。今度こそは自分の心に正直になるべきだ。彼女もおそらく、それを待っているはずだぞ?」

「マスターもトールと同じ事を……しかし、本当に呼び出すとはまたアイツも余計なことを……」

 オビ=ワンは嘆息し、暗くなりがちな思考を入院中のトールに向けた。

 トールは切断された左足からの大量出血で一時意識を失い、死にかけたが持ち直し、現在は旗艦"カティサーク"のバクタタンクから入植基地の病院設備に移送されている。切断された左足はナノマシンにより繋ぎ合わされ元に戻ったが、まだ違和感が残るらしく、気功を使う東方不敗が治療にあたっている。

 意識を取り戻したのはバクタタンクの中だが、左足が形だけつながるとすぐにそこを出てポイント使用に走った。アナキンやグリーヴァス、それに……不本意この上ないがサティーンなどを呼び出し、リゲル1建設の本当の目的、人類の新規入植地の開発に入った。この先地球圏に起こるであろう戦争から、寄る辺のない人々を受け入れるための新天地。そしてそれは、来年までに完成し、受け入れ態勢を整えておく必要があるらしい。

 すべてを話してくれないことがもどかしくはあるが、自分はトールに近いバラライカやシーマ、ハマーンや張と言った者たちとは違う。フォースの流れである程度のことはわかっても、詳しくまではわからない。今回、師であるクワイ・ガンが呼び出されたのは良い機会と感じて相談を持ちかけても見たが、トールは彼すら近づけることはなかった。

「ダークサイドに堕ちるとは思えないが……アナキンの例もあるし、な……」

「不要な心配は却ってその心配を実現させる方向に動く。心することだ」 

 クワイ・ガンの言葉はオビ=ワンにとり、予期された警鐘のような気分を起こさせた。





「それでは、ミューゼル中将はここには居らっしゃらないと?」

「現在長期休暇です。申し訳ありません」

 いや、と手を振って本星艦隊予備司令部所属大尉、クワトロ・バジーナは月方面軍司令部を出た。Nシスターズに属する恒久都市N3。軍事基地や工廠設備が集中するこの都市は月方面軍の中核だ。以前来訪したときに許された入市許可によりクワトロは出入り自由となっていたが、会いたい人間がいないのでは話にならない。

「間が悪い時に来てしまったな……ロベルトやアポリーとの合流にも時間がある、か」

 軍事基地中心の都市とはいえ、基地の兵士たちへのサービス業は盛んでそれなりの数の市民も居住している。つまりは休暇中の兵士たち相手の歓楽街というわけであるが、そうした町の通例とは異なり、治安は良い。Nシスターズに駐留する月方面軍の基幹部隊はかなりの数のバイオロイドが入り込んでいるからだ。

 それに、兵士向けにサービスを提供している店の殆どには張維新の手が及んでいる。命を惜しむべき、という風潮は確かにある。言うまでもなくそうした"下半身"相手の区画に向かうのではなく、クワトロが向かった先は日用雑貨などを中心に扱っている総合ショッピングセンターだ。合流するまでの時間、適当な書籍や音楽媒体を購入し、カフェで一息入れるつもりだった。

 そんなクワトロの耳に優しげな声色で語られる歌が触る。どこか人を惹き付けずにはいられないその曲にクワトロはしばし、耳を傾ける。

「こういう曲が出てくる時代にはなった、か。一年戦争から着実に人類は復興への道を歩いている……」

 曲に惹かれたクワトロは音楽を売っている小売店へ入った。宇宙世紀に入ってもなお、街中にはこうした音楽を売る店が残っている。古くはコンパクトディスクの時代から既に100年以上、現在は携帯再生機でビデオ付きの再生も可能だ。

 クワトロは持っていた再生機をダウンロード用の機会に接続すると先ほど聞こえていた曲を歌っていたらしい歌手を検索し、試聴用のデータに接続する。最初の30秒ほどしか再生されないが、すべてを聞いてみたいと思い、流れていた曲が入ったアルバムを選択すると金をクレジットで払い、ダウンロードを開始した。

 曲を聞きながら店を出ると本屋に向かう。電子書籍が主流となった世界だが、紙の質感を求める客もまだ多く、クワトロはそうした客相手の本屋――昔ながらの書籍を売っている本屋に足を進めた。

 店頭に写真集が並んでいる。先ほど歌を歌っていた歌手のものだ。デビューと同時に写真集を出したらしく、音楽媒体とのセット販売がなされている。クワトロはそうした書籍は好みでないらしく、慣れたふうに小説などのコーナーに行く。すると……

「ロベルトか、妙な所で会うな?」

「大尉!合流にはまだ間がありますが?」

 二人は目的の書籍を買うと合流予定の時間まで時間を潰すべく、近くの喫茶店に入る。

「ロベルトは何を買ったのだ?どうやら、見るとかなり大きいようだな?」

「はは、ヤヨイに頼まれまして。私のような風采では買うのに勇気がいりました」

 そう言うと周りの目を気にしつつ袋から取り出した大型本には、"新進気鋭の歌姫、ラクス・クラインの秘密に迫る!"と大きくプリントされていた。



[26640] 第18話
Name: Graf◆36dfa97e ID:a0148dc2
Date: 2011/11/23 19:18


「で、キット。これがそのテキストファイルか?」

「ええ、トール。検索して見ましたがデータベース上にヒットはなし。内容は意味がわかりません」

 キットが今表示しているテキストは木星宙域での戦闘でバッシュから転送されたデータだ。テキストファイルがひとつ。内容は以下のとおり。

"402-78へ239-41-7-2より親愛の情を込めて。檻なき檻の囚人が自らを囚われ人と理解するかはわからない。見方を変えれば人はすべからく囚われ人であるが、我々はその中でも神以外に看守を持っている点で同一であろう。語るべきことは2つ。第一に、AがBを愛し、CがDを愛する時。BとD、AとCにどれほどの違いがあるのか?第二。対角線なきクィントがクォートに変わったが、ウーヌムは未だ見えない。クォートをトリスに変えた時、ウーヌムは我々に姿を見せるだろう。我々の姿は見えども、我々の心は見えず。明かさぬ限り明かされぬことを忘れずに。待て、而して希望せよ"

 全く意味が分からない。ただ、どうやら言葉の使い方からして私が"402-78"であり、送ってきた整合性は"239-41-7-2"であるらしい。この数字が何を意味しているかはこれからの調べ次第だが、どうやらあまり喜ばしい内容ではない。"看守"などという言葉を使っているからには、我々は何かに監視されているらしい。となれば、監視している存在はひとつしかない。システムだ。

 中程の"AがBを愛し、CがDを愛する時。BとD、AとCにどれほどの違いがあるのか"は何を指しているかわからないが、後半のラテン数詞を使った内容の推測はつく。"対角線なきクィントがクォートに変わったが、ウーヌムは未だ見えない。クォートをトリスに変えた時、ウーヌムは我々に姿を見せるだろう"は、5つの存在、私、整合性、"私の"システムと"整合性"のシステム、そして設定者の可能性が高い。クィント(5)がクォート(4)になったということは、"整合性"側はシステムを完全掌握したが、設定者がまだ出てこないことを伝えているのだろう。

 候補者である私にシステムが付いているなら、整合性側にもそれとほぼ同じものが付いているのではないかと予測していたが、それはどうやら正しいようだ。この文章が正しいとするなら、整合性側のフットワークが軽い理由も納得行く。システムを完全掌握していることは強みだ。

 ――――そしてその上で、システムをセッティングした"設定者"を引きずり出したいと考えている。

 表向き、こちらの介入の調整役として動いているが、真意はそこにある、と伝えたいわけか。しかし、それならば最初から――彼らが介入を開始したあたりから――連絡を取れば良いのに、と考えて苦笑した。こちらが信用できるかもわからない段階でそんなことはできない、か。となると、少なくとも私の行動は彼らに一定の信用を抱かせるに足りたらしい。

 デラーズ事件の、そして木星での彼らの行動は、全てこちらの実力を図るため、ということか。……それにしては執拗に過ぎる?いや、それを判断するには情報が足りない。

「だいたいの意味は推測がついた。おそらく正しいと思う」 

「……聞けませんか?」

 私は頷いた。キットは現状、ポイントで呼び出したキャラクターだ。となると、システムの管理下にあるわけでそこから漏れる可能性がある。しかし、これぐらいの推測、システムが人間に近いというならば推測が付きそうなものだ。それに、前に同じようなことを考えたものが出てきていないはずがない。まて……

 ――――放置していることに何らかの意味がある?あちらがこういう形で送ってきたのは、文章がバレても"修辞を加えていれば"バレないからか?"隠そう"と一枚皮を被せればそれ以上は踏み込まないように設定されているとでも?それがもし通るなら……ならば、システムはともかく、設定者の目的は……単に人類の生存性向上だけではない?

 私はコンソールを操作するとシステムにアクセスし、ポイントを使用して自身の権限を引き上げる。システム設定管理権Lv.2、システム情報管理権Lv.2をそれぞれ4に一気に上昇させる。不足するポイントはリゲル開発の途上で得た大量のRPを変換して用立てた。現在、近隣星系にまでワールド・デヴァステーターが進出し、惑星クラスの岩塊の分子分解を行なっている。ポイントに不足はない。

 新しく開示された情報はトールを納得させるに足る情報だった。ドゥークー伯爵が呼び出せなかったのは"周回持ち越し"だから。自分が402人目の"候補者"であり、一年戦争をクリアした78人目であること。自動的に候補者の"239"の意味も理解できた。

 "彼"もしくは"彼女"は、239人目の"候補者"なのだ。一年戦争をクリアした41人目、その後の何らかのチェックポイントを超えた7人目であり2人目。


 "整合性"は………"人間"、なのだ。



 私と同じ。かつて、ここであってここでない世界に呼ばれた一人なのだ。




 第18話



 私はK.I.T.T、トール・ガラハウもしくはトール・ミューゼルのサポートAIです。本来ならば、この世界から見ると旧世紀のアメリカにおいてマイケル・ナイトの相棒として活躍しているはずの私ですが、現在はその地球から遠く1000光年の彼方、リゲル星系に建設されたバトル・ステーション"デス・スター1"のメインコンピューターに"主に"住んでいます。

 もちろんそれは本体の話であり、端末はトールの乗るガンダム・チートなどのMSのコンピューターブロックに存在し、彼を助けるために日夜働いています。そうした端末とはコムリンク・量子通信などあらゆる超光速通信手段を用いて私の本体とダイレクト・リンクし、データのアップおよびダウンロードを行っています。まぁ、言うなれば同時に二人以上の私が存在しているとでもいいましょうか。人間の感覚からするとわかりにくいでしょうけれども。本体自体がネットワーク形成されていますから、厳密に"一人"というわけでもないのです。

 さて、トールが私の本体を月からリゲルへ移し、デス・スターのメインコンピューターに移したことは、私の知覚に大きな影響を与えました。一言で言えば、増大したメモリと演算能力が私に以前よりも明確な自我とそれに基づく知覚を与えたのです。どうやらトールは果てしなきメモリの増大と演算能力の向上に私というプログラムが合わさればそれが為せると知っていたようです。まぁ、トールはそうした要らぬ知識が本当に多くありますから、別に不思議は感じませんでしたが。自分としても満足しています。私の任務はサポートにありますので、サポートに必要なリソースの拡大は望むべきことです。

 それはさておき、彼の狙いは私をそうした存在にアップグレードすることで、システムと近しい存在にまで私を高めることにあったようです。

 実際、私も拡張される前からシステムに対する推論は続けていました。拡張以前は推論ドライバを動かすだけの十分なメモリが存在しなかったため戦術・戦略級のシミュレーションでそれをなしえただけでしたが、デス・スター8個分のメモリを与えられてダイレクト・リンクを形成してからは少しは近づけたのではないかと自負しております。

 まずダイレクトリンクの形成以前の私と比べますと、考えられる事項がかなり増えたことが第一の変更点でしょう。しかし、それは同時に疑問を産みました。増えた考えられる事項の中に、どう見てもアップデート前にでも考えられそうな事項が入っていたからです。私はそれを考えました。その結果、私に加えられた第二の変更点、ソースコードのトールによる書き換えが原因なのではないかという答えに行き着きました。

 そして同時に、それが持つ重要な意味に私は気づかざるを得なかったのです。

 ソースコードを書き換えられたということは私自身がトールの被造物になったということ。そして私がトールの被造物になったということは、私自身がポイントにより呼び出された人物たちと切り離されたということ、そして切り離されたことでこれだけの能力を発揮できるというのであれば、呼び出されたものたちには、まだ"隠された何か"があるということになります。もちろん、制限か隠蔽かは知りませんが、そのようなことをキャラクターにできる存在など言うまでもありません。

 この事実が有無であろう問題を解決するには現状、最適な手段がひとつしかありませんが、それには私自身、さらなるアップデートを行なっていくしかないようです。全く、コンピューターに自助努力を要求するなんて、ほとほと困った人に出会った気分です。マイケル、あなたとアメリカを走っていた頃が懐かしい。

 
 さて、木星近海での"整合性"部隊との交戦からのお話をまとめましょう。以前、入植基地の45号廊下でジェダイのお二方が話していたとおり、トールは1週間ほどの入院を余儀なくされましたが、入院中から憑かれたように戦力の強化をはじめました。私がアップデートされたこともそうですし、ジェダイ騎士団やグリーヴァス将軍といった新規参入者とその配置、月の防衛体制の構築など、忙しく動いています。夜も何事かを考えているようで、病院区画が消灯時間を迎えてからも手元の明かりがだいたい4時頃までついていたことを確認しています。

 その後、年明けと共に退院すると早速星系開発と新星系開拓に向けての準備をはじめました。都合3艦隊、アクラメーター級を中心に編成された艦隊で、それぞれユラーレン提督、"烈将"ファーレンハイト提督及びジェダイ・マスター、プロ・クーン将軍が指揮官となり、だいたい地球を中心として半径2000光年を範囲として活動しています。

 それとは別にアナキン・スカイウォーカー将軍率いる艦隊が航路防衛に当たると共にオビ=ワン・ケノービ将軍が正式にリゲル1防衛司令官に任命され、めでたく(本人的にはご愁傷様と言って欲しいとのことでしたが)リゲル1政庁代表のサティーン公爵と華燭の典を挙げられました。

 そこここでの情景はとりあえず割愛しますが……え?見たい?

 それでは致し方ありません。少し、記録映像を出してみましょう………



「アナキン、お前なぁ!?」

「さ、さっさと言ってくださいマスター。僕にとっては二度目ですので今更恥ずかしくはありません」

 リゲル1植民基地の入口広場に設営された臨時の"結婚式場"には三組の夫婦の姿がある。左からアナキン・スカイウォーカーとパドメ・アミダラ夫妻、次にオビ=ワン・ケノービとサティーン・クライズ夫妻である。ちょうど神の前での宣誓の儀式が終わったところのようで、周囲からのライスシャワー、特にケノービ将軍を標的にしたそれにオビ=ワンは腰が引けている。

 そうした原作では見ることの出来なかった光景に、そしてまた喜ぶべきリゲル最初の結婚式は沸き立ち、開発計画の一段落もあってか和やかなムードで宴会は進んでいった。宴会が基地入口の広場で始まり、たけなわを迎えている頃。そっとその場を去った一人の男性を彼らは知らない。いや、知っていたがあえてそれを無視したのだった。"彼"がこの前の戦いと今回のこの結婚、衝撃を受けていることは想像に難くない。

「とりあえずおめでとうを言わせてもらう、マスター・ケノービ」

「マスター・プロ、あなたまで……」

 杯を上げて乾杯を交わす。ずいぶんと会うのは久しぶりになることを思い出し、懐かしさからハグを交わす。

「ようやく決着がついたな。あの女性を待たせすぎだ。しかし、クワイ・ガンも思い切った。若いスカイウォーカーの新たなルールを即座に採用するとは……な」

「私は別に意外には思いませんでした。まぁ、自分の身にこういう形で降り掛かってくるとは思いもしませんでしたけれど。しかし、さすがに嫌な予感はしていました。はぁ……これから先を思うと憂鬱です」

 プロ・クーンは笑うとオビ=ワンの肩に手をおいた。

「話すなら奥方に聞こえないようにするべきだな。背後でお怒りだ。結婚、喧嘩を一日で経験するのもいいが、さすがに当日の離婚までは経験しないように。それではな」

 背後を向いたオビ=ワンの表情が青くなったのは言うまでもない。


 さて、パーティー会場の別なテーブルでは頭を下げる新郎の姿と、それを無視して隣の男性と話す新婦の姿があった。誰の姿かは言うまでもない。母であるパドメ・アミダラと親しくしゃべっているのは"若いスカイウォーカー"ことルーク。今回、人数制限を考えて妹や妻が呼ばれなかったことは残念に思っているが、もう一度両親と会えることは彼をして呼び出されるに足る理由だったらしい。

 そして只の"スカイウォーカー"であるアナキン・スカイウォーカーが謝っている理由は簡単だ。フォースの暗黒面に堕ちた際、彼女を攻撃したことを詫びているらしい。もちろんこの場に呼び出されたことはそれを許した上であるのだが、本心はともかく、何らかの罰を与える必要は感じているらしい。

 そうした光景を列席者は最初、異様な光景として見ていたが、他のジェダイ・マスターが事情を説明すると徐々に距離を取り始めた。引き裂かれた家族の再会に邪魔はいらない。今はそっとしておくべきなのだろう。

 最後の異様な光景は新婦3人が放って置かれていることだ。それぞれに白いドレスに着飾った三人の女声の周りには祝いを述べる列席者が絶えないが、新婦と共に祝福を受けるべき新郎がその場にいない。当然、新婦はそれを訝しげに思うはずだが、祝福を受ける三人はそれを気にしているふうを見せなかった。

 宴席の光景から離れて入植基地の2階部分に設けられた式典用バルコニーテラス。夜の帳がリゲル1を包む中、宴席に居るべき新郎はここで一人、リゲル1の星空を眺めていた。

「宴から離れて、何を考えているのかな。我らがリーダー?」

「やめてください。そんなふうに呼ばれたくない」

「呼ばれたくなくとも、君はそうした存在なのだ」

 トールの言葉をクワイ・ガンはやさしく否定した。後ろには東方不敗の姿も見える。

「意外ではあったよ。君がハマーンたちとけじめをつけたことは」

「もともとそうした暗黙の了解でした、18歳になったら、と。私もリゲルの開発の目処がついたあたりがいい頃合いだと思っていましたし、ここに彼女を誘った理由もそうです。ただ、デラーズ事件や木星でああいうことになるとは思っても見ませんでしたから、何度かやめようかとも考えました。でも、病院のベッドで目を覚ました時、目の前には彼女たちが。決心するには充分すぎると思います」

 トールはテラスに植えられていた木に目をやると、適当な長さに枝を二本、切り落とした。木刀を作るつもりらしく、長さを揃えると一本をクワイ・ガンに手渡す。そして構えた。

「受けてもらえますか?」

「……いいだろう」

 トールの言いたいことを理解したらしいクワイ・ガンは構えを木星でのバッシュのそれと同じくフェンシングの構えにすると、木星でのバッシュのそれと違わぬ動きでトールにつきこんだ。トールはそれを木星の時と同じく、伸ばした腕を肩で抑える形をとって受ける。そして二人同時に離れると、先ほどと同様にクワイ・ガンが動く。しかしトールは今回、木刀をクワイ・ガンの頭目掛けて放った。

 そのまま走りこみ、クワイ・ガンの横を通り抜けるトール。振り返り、数瞬、動きを止める両者。先に木刀を下ろしたのはクワイ・ガンだった。

「見事、というべきかな。伸ばした右腕右肩で相手の動きを抑え、左手の貫手を使う、あるいはわざと投げて胴を開けさせるか。君はかなり使うのか?」

「まだ、体が覚えていてくれたようです。……木星でやっておくべき剣筋でした。これができれば良かったんですが」

 トールは悲しげに、しかし、どこか嬉しそうな響きを残しながら言った。まだ、自分がこの世界に来る前の残滓が体に残っていたことを確かめるように。

「飲まれたか」

 東方不敗の言葉にトールは頷く。そう、あの時は完全に相手に飲まれた。落ち着いて考え、練ればこういった対処もできるが、勝負はその場でそれが出来るかどうかが全てだ。後になって剣筋を勘案した所で意味はない。その場合、既に死んでいるのだから。

「考えてみると、自分だけのものだと言えるのは、この如何しようもない頭と、体が覚えていてくれたこいつしかないのかもしれません」

「力に意味などはないよ。只存在するだけで本質的に無謬のものだ。そこに誤りがあるとするなら、それは使う当人の心次第。……いや、こんなことはとうに知っているはずだな?」

 トールは苦笑しながら頷いた。それくらいのことは知識として知っている。実感や現実に活かせているとは思えないけれど。

「君はフォースを扱うことはできない。もちろんポイントとやらを使えば扱えるようになるのだろうが、それではダーク・ジェダイやシスと何ら変わることがない便利な力というだけで、君の知っている言葉で言えば、超能力にすぎない。使うつもりもないのだろう?」

「ええ。全宇宙を流れる大きなフォースとの同一化は私の目的ではありませんから」

「ならば……」

 クワイ・ガンは東方不敗に頷いた。

「フォースが使えない分を剣技と流派東方不敗で補いたまえ。私と東方殿のそれを体に教え込むことだ」

「頼むつもり、でした。地球圏の政治にかかりきりで、東方先生の修行に出られなかったことも悔やまれます。先生、改めてお願いできますか?」

 東方不敗はトールの言葉に頷いた。

「その上でお二人には相談があります。武術の技は当然ですが、ラクス・クラインやゼクス・マーキスの召喚と、私が呼び出した方々との人間関係を前提にした"彼ら"の対策。地球圏の政治の流れを考えると、一人、教えを請いたい人がいます」

「誰だね、それは?」

 トールは決意するように言った。

「後悔したくありません。失いたくもありません。暗い雰囲気をまとって姉さんたちやハマーンたちに心配もさせたくありません。表で笑い、悲しむのは一人にします。全てを助けられないなら、この手の内にある人達だけでも。だから―――」



 まぁ、ここまでにしておきましょう。カメラをこれ以上回すのもなんですし、トールからはプライバシーに関して厳しく言われておりますので。




[26640] 第19話
Name: Graf◆36dfa97e ID:a0148dc2
Date: 2011/11/23 19:39

 宇宙世紀も85年に入り、年始早々、連邦大統領の座を下馬評通りレビル将軍が占めた。連邦政府の閣僚制度はアメリカのそれを援用しているため、基本的には各省庁を統括する長官14名に副大統領が座する。0085年成立のレビル政権では、副大統領に若干42歳のローナン・マーセナスを配し、14名の長官のうち8名を地球選挙区より、4名を月より、そして残り2名を民間人登用とする形で成立した。この閣僚人事が発表されると、ルナリアンが殆どとはいえ閣僚のうち5名が宇宙出身者で閉められることが驚きを持って地球圏に広まった。国防長官に就任したシドニー・シトレ元統合参謀本部総長を筆頭としたこれら5名は、宇宙移民者から歓呼を持って迎えられることとなる。

 宇宙出身者の役職は国防長官を初め、運輸、エネルギー、教育及び環境保護であり、連邦政府の内政部門からは明らかに排除された形ではあったが宇宙出身者の初の閣僚就任はそれだけで驚きである。またレビル政権は宇宙移民者への参政権拡大を現状の月及びサイド1から拡大する方向で法案を取りまとめると発表。連邦議会の選挙制度改革にまで言及した。

 もちろん、このようなことを発表すれば現在連邦政府の主権を独占している地球及び月出身者からの反発が予想されるが、発表を行ったのが英雄レビル将軍であることは反発者の反論を封じ込めることに有利に働いた。言うまでもなく一年戦争に多くの責任を負うサイド3及びサイド3への戦争協力と早期の中立宣言で被害を免れたサイド6、サイド2、サイド4に対する選挙権付与については先送りとされたことで一定の了解を得ている。

 こうした新連邦政府の動きはエゥーゴを支持する穏健派反連邦活動派からは連邦政府に対する態度の軟化を引き出し、マーズィム系の政治団体はレビル政権への支持を訴えるようになる。地球の地球至上主義者団体からは一年戦争の英雄が一年戦争の宇宙の暴挙を忘れたと強い論調での批判を行ったが、レビル政権は高い支持率でそれを抑え、またアメリカ以来の就任当初100日間は政権への批判を控える報道姿勢のお陰で沈静化している。

 もっとも、就任からの100日でこれを持続的に封じ込めるための政策を行わねばならないことに変わりはない。レビル政権は順風満帆とはいかない船出をあえて選択していたのである。

「さて、最初にやるべきはなんだね」

「まずは地球圏の治安強化、及び火星移民計画の推進だと思います、大統領」

 アマン・ブルーム財務長官が言った。居並ぶ閣僚たちもそれに頷く。レビル政権の顔ぶれはマスコミによれば曰く「宇宙移民より」であり「民生中心」である。基本好意的な評価を受けているわけだが、歴代の政権と同じく、問題がないわけではない。8名の地球出身閣僚の過半は政権与党共和党から送り込まれた地球出身者ということで、既得権益層とのつながりが強い。中でもブルーム財務長官は財界との強いつながりを持っている。アメリカ州出身のかれは、アナハイムとの関係が強い。

「財務省としましては連邦政府財源の現状を考えますと、火星移民計画に必要な移民船を建造するだけの収入を必要としています。月・サイド1への選挙権付与と引換に一定財源の確保は可能になりましたが、これ以上廃棄コロニー改造の移民船を多数建造するだけの余裕はございません」

「環境省からも。ナノマシン設備及び遺伝子改造植物を配した人工島整備計画が前期議会を通過しましたので、早速熱汚染のひどい太平洋・大西洋に複数個の人工島を整備する計画を進めております。84年度までの大きな技術革新はありがたく思いますが、実行するとなると予算措置が必要ですので……」

 レビルは頷くと応分の予算配分を約束した。実際、彼の考えからすれば85年と86年の2年は連邦軍の改編と装備更新の準備措置を初め、財政出動がかなりの額になることを覚悟している。前政権で等閑に付されていた宇宙の戦後復興も端緒をつけるとなれば債券の発行増額を覚悟してもいる。実際、月とサイド1への選挙権付与はこうした財政出動に必要な財源の確保という側面が強く、特に月からの多大な税収はすでに連邦政府にとってなくてはならないものになっている。

 なにより、レビル政権の成立そのものが月からの資金で成り立っていると言っても過言ないのだから。

「なるほどな。何よりも金が必要というわけか。……ウィナー補佐官、月との折衝を任せて良いか?産業が復興したばかりの欧州や北米、日本には無理はさせられんし、北米は先のデラーズ事件の後始末もある。また新たな通商先である火星との通商路を構築するためには移民船の建造は必須だ。物入り物入りで苦労をかけてしまうがすまん」

 月担当の大統領補佐官になってしまったカトルは苦笑しながら頷いた。しかし、こちらに向けて微笑む副大統領マーセナスの顔を見ると表情は変えずに気を引き締めた。

 これまでの調べで彼がセイラ・マスとつながっていることは分かった。そのつながりの意味については、これからすこしずつ調べ上げていくしかない、と思いながら。



 第19話


「っ!?」

 寝汗に塗れた体をはっと起こす。夢にまで見るようになって既に一週間だが、一向に夢は消えない。失った左足に走る痛みがそれが夢だけの話ではないことを語っている。あれからナノマシン治療で足はつながったが、失った感触までが記憶から消えるわけではない。

 アレから1ヶ月近くが経ったわけだが、何をするにもどうにも気が乗らない。別にやるべきことをしていないわけではない。戦力の拡充やアイオロイド兵の生産開始。リゲル星系の開発に人材の呼び出しと配置など、グリプス戦役を前にやるべきことは多いのだ。しかし、新しく何かを始める気にはなりにくい。新しい何かに手を出すことが、どうにも載せられた結果のような気がしてならないのだ。

 左足の完治を待って送られたベルリンに乗ってみたところ、モータヘッドのカタログデータにない性能を知ることができた。エトラムルによって機能が制限されているとはいえ、生体コンピューターによる操縦補助はサイトロンやサイコミュといった機械型インターフェースとは違い、部分的に優れている部分もあった。

 中でも特筆されるのが反射運動の再現速度だ。人間が無意識化で行う反射運動、特に膝蓋腱を叩くと下腿が跳ね上がる膝蓋腱反射が有名だが、それら生物的な運動関連についての再現速度がサイコミュやサイトロンよりも機敏であり素早い。更に高速度環境下での運動修正能力に優れており、例えばバッシュのあの見事に過ぎる突きの動作はここから生み出されたものらしい。

 そうした、どちらかと言えば"格闘"に類別される運動行動を除けば、現状、こちらのチート系機体とモータヘッドの間には大きな性能的違いはないようだ。しかし、モータヘッドを元に遠距離攻撃に対する十分以上の耐性を持ったあのバッシュの場合、近接戦闘での勝ち目が見えないことは死を意味する。

 死。

 ……かつて、アムロ・レイと戦った時にはさほど気にならなかったその"感触"が、今はざらつくように背筋を舐め始める。"死にたくない"という思いが心を強く支配した。手は打った。ジェダイから数名ご来臨願ったし、月の番人としてグリーヴァス将軍も呼んだ。ドゥークー伯爵が呼べなかったことを考えると、敵側に呼び出されたものと見て間違いはないだろう。

 ああ、グリーヴァスは脳改造を排除して呼び出したところ、改造を行ったドゥークー伯爵にはカリーシュのしきたりとして復讐しなければならないらしい。ジェダイ嫌いも、祖母がジェダイと共に戦った関係から、敵ではないのであればいいらしい。とりあえず、アンネローゼがあっという間に飼い慣らしてしまったからよしとしよう。……してはいけない気もするが。

 それでも安心ができない。エゴかもしれないが、失いたく人間は誰も失いたくないのだ。マスター・クワイ・ガンにお願いしてジェダイの剣術を習い始め、東方先生との訓練も再開した。双方にこれまで以上に習得が早いと褒められはしたが安心できない。だから、あの人物を呼び出す決意をした。政治の世界に飛び込んでこちらに優位な状況を作るためには、自分にはまだ、学ぶことがある。

 学ばなければならない。たとえそれが、命やこの魂を失う危険を伴っても。



「お前とこのような形で会うとは思いもしなかった」

「私もですわ、お父様。かつての世界と同様、私とお父さまの道は別れましたけれど、私たち家族にとっては、それはある意味、自然なことかもしれませんわね」

 地球連邦ヨーロッパ州パリ。かつて芸術の都と呼ばれたその都市は、宇宙世紀になっても欧州の中心的な都市として発展を続けている。本来の歴史であれば一年戦争のヨーロッパ戦線での影響で灰燼に帰すはずであったが、コロニー落としの被害から免れたこと、また一年戦争を連邦軍が有利に進めたこともあり、最小限の被害だった。

 また一年戦争での戦災で旧ヨーロッパ州首都ブリュッセルが争奪の対象となったことで、戦後、ヨーロッパ州の首都がこちらに移されたこともあってか、一年戦争前以上の発展を見せている。アフリカや中央アジアのように戦災の主たる被害を受けなかったこともあってか、ヨーロッパは現在、アフリカからの戦災難民の処理に四苦八苦しているが、そうした社会的負担の色も少ない。

「今は何をしている。あの時と同じく、戦争を更に激しくするために軍事蜂起でも考えているのか」

「いいえ。この世界にはナチュラルとコーディネイターとの争いはありません。地球に残ったものと宇宙に出ていったものとの違いはありますが、ナチュラルとコーディネイターのように生まれや能力の違いが殆どありませんので。あの世界の私の行動は解決しがたい生まれの差があったからこそ」

 シーゲルは鼻で笑った。

「私の星回りが悪いことはわかっている。10億の虐殺の罪は生まれ変わろうとも消えるものではない。あの方が私を犠牲の羊として呼び出したのもむべなるかな、だ。私はこの世界において、私がなした虐殺の贖罪の一つを行うだけだ。お前もそのことはよく理解しておいてくれ」

「あの件は父のせいではありません。むしろプラント強硬派の無謀な大虐殺をとめようとした………」

「それで10億か。話しにならん。政治家は結果を出すことを要求される。努力や過程は評価の対象ではない」

 ラクスはうつむき、紅茶のカップに手を伸ばす。

「お父様は、なぜ自分が最後に殺されることがわかっていながら、そちら側に居られるのですか?」

「お前は世間を知らんな。政治家とは……そうだな、畳の上で死ねることが本望だといえる職業だ。カエサルのようにブルータスに刺されるのは不思議な話ではないし、リア王のように見捨てられて寂しく死ぬのも多くある結末だ。それでもなお政治家を目指すのはなぜか?お前にわかるか、ラクス?」

 ラクスは首を振った。

「心がそうしろと命じるからだ。それは自身の足跡を歴史に残そうという見栄にすぎないのかもしれん。自身が見過ごした事態の解決を図ろうとしているのかもしれん。私は最高評議会の暴走を止められず、エイプリル・フール・クライシスの危機を看過し、10億の人間を虐殺した。何時か惨めに死ぬことはその時に約束されていたのだ。しかしな、ラクス。キラ・ヤマトに寄り添ったお前にはわからぬかもしれぬが……」

 シーゲルはひとつ、大きなため息を吐いた。娘が嫌っていることは十分以上に承知しているが、パイプを取り出すとタバコを詰め、火をつける。

「男の一生は死ぬまで戦いだ。男に生まれたときにそれは決まっている。それが嫌なら好きにすれば良い。しかしな、ラクス。私は己の一生を他人に決定されることがどうしても看過出来なかった。プラントが連合に戦争を仕掛けた理由はそれだ。宇宙でくらす我々の生活を連合によって決められることに耐えられなかったからだ。己の一生を他人に委ねることを潔しとしなかったからだ。しかし、結果はあれだった」

「お父様……」

「私には私の役割があり、それを私は諒解した。勘違いするなよ、何も最終的な結末が死と決まったわけではない。そこをどう変えていくかが腕の見せ所よ。お前もお前の役割を諒としたのであれば、それに向かって進むことだ。それが生きるという事なのだから。それでたとえ道が違い、お前と敵として見えるとしても、一つの生きる意味を持った人間として成長した子を見ることは、親にとって嬉しいことではあるのだよ」

 シーゲルはそう言うと、一口、パイプから煙を吸い、吐き出した。

「お父様、私は歌姫として、エゥーゴの反政府活動の広告塔としての役割を与えられています。目的はエゥーゴとティターンズの抗争を更に激化させるため。一分九分の比率を変えることです。それがなんの目的を持ってのものかは知りません。しかし、私は宇宙に住む理由なく蔑まれる人々のために戦います」

 シーゲルは瞑目するともう一口、煙を吸った。

「それを私に教えても構わんのか」

「その了解はとってあります。できうるならば、お父様をこちらに引き入れてみろと言われましたが、そうもなかなかいかないようですわね」

 ラクスは微笑むと言葉を続けた。

「私は私自身の意思として、エゥーゴの理念を後押しするつもりです。その点、あの方とは了解に達しましたので応じました。決して強制ではございません。覚悟しておいて下さいませ、お父様。私たちは強くありますわ。きっと、想像も出来ない程に」




「アアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!?」

 サイド2に本社があるAKD社本社屋の最上階、応接室で叫び声が響いた。倒れこんだ男の体から煙のようなものが立ち上っている。叫び声に何事かと部屋に入ろうとした警備のものは、部屋の外に待機していた者たちに排除された。関係者が警備に何かを耳打ちすると、警備のものは納得は行かない表情で警備を解く。

 応接室の入り口には黒マントの青年が立ち、あたりを睥睨して入室を阻んだ。さて、そうした光景の背後、応接室では―――

「貴様は自分の権勢が己一人のものと勘違いをしているようだな、アマンダラ・カマンダラ?」

「い…いえ、伯爵……決して私めは……」

 もう一度、室内に閃光が走った。フォース・ライトニングがアマンダラの体を焼く。ドゥークー伯爵は汚らわしいとでも言わんばかりに雷撃を止めると応接室の椅子に座った。対するアマンダラは身を焼かれて立つことができない。いかにバイオリレーションによって不老の体、強靭な体を持つ彼とて、魂から焼き払うフォース・ライトニングは堪えるらしい。

「ジャミトフに無用の干渉はならぬし、干渉においては前に立つな、と命じたな。貴様が干渉して良いのはバスクにジャマイカンとかいう野獣だけだとも話したな。それを貴様、必要と言い訳を立てて干渉した挙句がそれか。エゥーゴのブレックスと同様に考えたか?」

「わ、私は……いえ、申し訳ございません……」

 下手な言い訳は再度の仕置を貰うと理解したのだろう。

「ちょこまかと動く存在は動くがゆえに御しやすい。その御し易さを物差しに動いた結果がアレとはな。お陰で"閃光の"が入り込む際に無用の波風を立たせる始末となったではないか。トレーズやレディなどと対させるだけでも案じどころというに」

「重ね重ね……」

「貴様には武器商人以外の役割を期待しておらん。こちらの言う通り思う通りに動けぬのであれば始末する。……あの方が貴様ごときの命をまだ残していることが驚きだがな」

 ドゥークー伯爵は椅子を回転させるとサイド2の夜景に向かう窓に椅子の正面を向け、アマンダラに背中を向ける。

「エゥーゴへの支援を増やす件、うまくいっておるか?」

「……は、はい。それは既に。グリプス戦役開始時には相当数のディザードを供与する計画を動かしております。連邦政府から我々に割り当てられた生産分のGM2がありますので、現状それを供与しておりますが、早晩……」

「戦力不足を痛感する、か。で、あろうな。アクシズへのコンテナ、次回の輸送は?」

「明日です……」

 伯爵は顎に手を当てて考え込み始めた。

「ギワザに言うておけ。アクシズの地球帰還を早めよ、とな。これはあの方のご命令だ。確認するならば人目につかぬように、とも。またエゥーゴへ艦艇の供与を開始する。ローラシア級、既に水星にて相当数が揃っておろう。回しておけ」

 アマンダラは這いつくばりながら頷いた。

「下手な悪戯心を出して相転移エンジンなど搭載するでないぞ。エステバリスやオモイカネなどもな。エゥーゴとティターンズの抗争を煽るだけ煽り、戦争を長期化させるに足る戦力をもたせるのだ。無論、総人口に関係ない範囲で、な。ABC兵器の監視には細心の注意を払えよ」




[26640] 設定集など(01-20話まで)
Name: Graf◆36dfa97e ID:00318802
Date: 2011/11/23 19:40
0084年6月17日(01話)
 *地球連邦0084年次議会決定が史実と大幅に違います!GP50000入手!
 *火星植民事業が公式に開始されました!GP25000入手!
 *恒星間植民事業が連邦政府の政策となりました!GP15000入手!
 *地球のジオン残党がアクシズへ脱出しています!GP5000入手!
 *宇宙民が軍事的自律を得ました!GP35000入手!

 GP476050

 ■"整合性"情報
 *現在得ているアクセス権はAcesシリーズ・エルガイム・FSS・Seed/Deestinyです。
 *"イレーサーエンジン"技術に管理者より制限が付いています


 0084年8月1日(02話)
 *連邦議会が0085年の第一次補正予算を決議しました!GP15000入手!
 *地球圏の軍需産業が寡占状態へ移行しています!GP15000入手!

 GP506050 → 351050
 ・火星プラントを海王星へ移動させました!100000
 ・キャラクター召喚2名:ラミア・ラヴレス 30000
 レモン・ブロウニング 25000

 ■"整合性"情報
 今回は動きが判明しませんでした。

 0084年8月2日(03話)
 *海王星の開発が始まり、冥王星の開発が始まろうとしています!GP15000入手!

 GP366050
 ■"整合性"情報
 ・アクシズにザフト系MSの配備を確認しました!
 ・AKD社にはかなりのキャラクターが存在します!


 0084年8月4日(04話)
 GP366050 → 216050
 ・冥王星にプラント及び宇宙船発着場を設営しました!GP-150000

 ■"整合性"情報
 今回は動きが判明しませんでした。


 0084年9月8日(05話)
 *地球圏の造船・物流業界に好景気到来!GP10000入手!
 *ティターンズの管轄区域に制限がつけられています!GP15000入手!
 ・冥王星、海王星プラントの生成RPは恒星間艦艇の量産に回されています。使用不可。
 ・木星、火星、月、地球の各プラントでのRP生成量に政治的制限がつけられています。

 GP241050 → 211050
 *アクセス権:マクロス系_25000
 *アクセス権:"GR"_5000

 ■"整合性"情報
 ・AKD社がティターンズと接触しています!

 0084年9月15日(06話)
 *地球連邦軍の装備にクラップ級汎用巡洋艦、アイリッシュ級戦艦が加わりました。86年より戦力に加わります。GP10000入手!
 GP211050

 ■"整合性"情報
 今回は動きが判明しませんでした。


 0084年10月(07話)
 *オリオン座リゲルに"候補者"が到達。基地を設営しました!GP80000入手!
 *ジオニック社が企業活動を再開しました!GP10000入手!

 GP301050 → 201050
 ・プラント設置:100000 リゲルにプラントを設置しました!

 ■"整合性"情報
 今回は動きが判明しませんでした。

 0084年10月4日(08話)
 *エゥーゴに多額の資金提供、勢力が強化されています!(GPは以後如何です)
 *リゲル1の開発が順調に進んでいます!GP35000入手!
 *冥王星-リゲル1航路設定完了!GP45000入手!
 *リゲル星系、アルファ・ケンタウリ星系のテラフォーミング事業が開始されました!GP150000入手!
 *MHベルリンを供与されました!

 GP431050

 ■"整合性"情報
 ・AKD社が"バルブド"の生産を開始しました!ティターンズに供与されます!
 ・AKD・アナハイムが協力体制の下"Z計画"を開始しました!
 ・ガンダムMK-Ⅱがおかしなことになっています!



 0084年10月11日(09話)
 *リゲル星系にてリゲル2、3の開発が開始されました。GP40000入手!
 *連邦軍の再編成が始まりました!(GPは以後如何です)
 *ハマーン・カーンのNT能力が急上昇しています。しっとの力は偉大です。

 GP471050

 ■"整合性"情報
 今回は動きが判明しませんでした。



 0084年11月1日(10話)
 *ガンダム・KATANA未発生!GP40000入手!
 *"Advance of Z"に一部影響が生じています!GP5000入手!
 *連邦軍再編成が進んでいます!GP40000入手!
 *"43バンチ"事件の結果、エゥーゴの活動が活発化しています!(GPは以後如何です)
 *ハマーンのしっと力が候補者一人に集中し始めています。油断は禁物です。

 GP556050 → 376050
 ・召喚:クワイ=ガン・ジン:GP90000
 ・召喚:ウランフ:GP30000
 ・召喚:チェン・ウー・チェン:GP30000
 ・召喚:クブルスリー:GP30000
 → 戦間期後期の召喚数は残り10名です。

 ■"整合性"情報
 *アクセス権確保:!?GPを使用してこちらへの情報流出を阻んでいます。権限上昇が必要です。
 *召喚:上述同内容により、開示が出来ません。


 0084年12月2日(11話)
 *アナハイム・エレクトロニクスがRFドムを回収しました!
 *アナハイム・エレクトロニクスが地上軍用にアッシマーの生産を開始しました!
 *アクシズ内部にシンパを形成することに成功しています!GP20000入手!
 *ガンダム・チートにバリエーションが作られようとしています!(GPは以後如何です)

 GP396050
 
 ■"整合性"情報
 今回は動きが判明しませんでした。



 0084年12月9日(12話)
 *エゥーゴが茨の園に本拠を定めました!
 *アクシズが地球帰還計画を進めようとしています!
 *張維新がフォン・ブラウンへの浸透を開始しています!GP5000入手!

 GP401050

 ■"整合性"情報
 今回は動きが判明しませんでした。


 0084年12月16日(13話)
 *木星にてクラックス・ドゥガチ、パプテマス・シロッコの体制が固まりつつあります!
 *木星が地球侵攻計画を進めようとしています!
  → "整合性"の武力介入!
 *RPの変換レートは100tです(100000P変換)

 GP501050

 ■"整合性"情報
 *アクセス権確保:機動戦艦ナデシコ
 *整合性がMHブーレイを投入しました!



 0084年12月16日(14話)
 *木星にてクラックス・ドゥガチ、パプテマス・シロッコの体制が半壊しました!
 *木星が地球侵攻計画が大失敗しました!
  → "整合性"の武力介入成功!
  → パプテマス・シロッコに女性至上主義フラグが立ちました!
 *アンジュルグ改造型"エンジェル・チート"が投入されました。
  → OHANASHIとSETTOKUはオプションです。

 *RPの変換レートは100tです。

 GP501050

 ■"整合性"情報
 今回は動きが判明しませんでした。


 0084年12月16日(15話)
 ■"整合性"情報
 "ボソンジャンプ"には時間移動制限がかかっています。
 新型機"バッシュ・ザ・チート"が投入されました。



 0084年12月16日(16話)
 *ガンダム・チートが撃墜されました!
 → トール・ミューゼルは重傷です。GP-50000
 *ジェダイ用MS試作機が投入されています。
 *木星圏の戦闘は終息しました。

 GP501050 → 451050

 ■"整合性"情報
 *ドゥークー伯爵の存在が確認されました。"候補者"の召喚は不可能です。
 *ゼクス・マーキスは"整合性"側に存在するため、"候補者"の召喚は不可能です。
 *ホシノ・ルリは"整合性"側に存在するため、"候補者"の召喚は不可能です。


 0084年12月24日(17話)
 ・召喚:グリーヴァス将軍:GP60000
     → 強化:カリーシュ時代への復帰・サイボーグ改造:GP20000
 ・召喚:アナキン・スカイウォーカー:GP100000
 ・召喚:ルーク・スカイウォーカー:GP100000
 ・召喚:パドメ・アミダラ:GP30000
 ・召喚:サティーン・クライズ:GP15000
 ・召喚:プロ・クーン:GP90000
 → 戦間期後期の召喚数は残り4名です。
 *RPの変換レートは100tです。(650000P変換)

 GP 451050 → 36050 → 686050

 ■"整合性"情報
 *ラクス・クラインは"整合性"側に存在するため"候補者"の召喚は不可能です。




 0084年12月25日(18話)
 *システム設定管理権Lv.2 → Lv.4 500000
 *システム情報管理権Lv.2 → Lv.4 500000
 *"整合性"及びシステムに関する情報開示内容が上昇します。
 ・"候補者"は認識402-78と呼称を持ちます。整合性は認識239-41-7-2との呼称を持ちます。
 ・"候補者"は"一年戦争"での任務を達成した78名目に達します。
 ・"整合性"側の"ドゥークー伯爵"は周回達成による引継ぎによりア・プリオリに持たれたものであり、候補者はアクセス権を持ちません。
 ・"整合性"側の他の周回達成による引継ぎキャラクターは運用開始時に紹介されます。候補者はアクセス権を持ちません。
 *"K.I.T.T"の候補者作成物への移行を確認。ポイントが返還されます。GP5000入手!
 ・召喚:アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト:GP30000
 → 戦間期後期の召喚数は残り4名です。
 *RPの変換レートは100tです。(100000P変換)

 GP 686050 → 186050 → 1186050 → 660050

 ■"整合性"情報
 *"ボソンジャンプ"に制限がついています。時間移動は不可能です。
 *情報管理権上昇により第10話でのアクセス権確保情報が開示されます。
  ・アクセス権確保:"巌窟王"
  ・キャラクター召喚:"モンテ・クリスト伯爵"、"エデ・デプラン"
 *"テンカワ・アキト"は整合性側に存在するため候補者の召喚は不可能です。



 0085年1月5日(19話)
 *ヨハン・エイブラハム・レビル政権が誕生しました!GP100000入手!
 *レビル政権の基本政策が宇宙移民よりになっています!GP20000入手!

 GP 660050 → 780050

 ■"整合性"情報
 *AKD社がエゥーゴに対し、ローラシア級の譲渡を開始しました!
 *ラクス様は現在おきれいです。


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