誰の手で握りつぶされたのか。使用済み核燃料の受け入れを提案する02年のロシアの外交文書。「経済産業省トップ(事務次官)にも報告していない」と証言する資源エネルギー庁関係者もおり、隠蔽(いんぺい)の徹底ぶりが浮かぶ。当時、国の審議会では六ケ所村再処理工場(青森県)稼働の是非が論議されていた。「判断するために貴重な情報。事実ならとんでもない」。委員から怒りの声が上がった。【核燃サイクル取材班】
「エネ庁には04年初めにファクスが届いた」。関係者が明かす。在ロシア大使館に届いた文書は内閣府の原子力委員会に渡り、その後エネ庁へ。エネ庁では一部幹部への配布にとどまり経産省事務次官に渡らなかったとされる。「六ケ所の邪魔になる。どうせ握りつぶすんだから上に上げる必要はない」。関係者は独自の理論を展開した。エネ庁原子力政策課で課長を務めていた安井正也・経産省審議官(原子力安全規制改革担当)は取材に、文書が存在するかどうか直接答えず「記憶にない」と繰り返した。
「シベリアに国際管理して埋めるというのはどうか」。03年6月の参院外交防衛委員会で舛添要一参院議員(当時自民)が質問した。原子力委員会の藤家洋一元委員長は「自らの責任において処理すべきだ」と海外処理を否定する答弁をした。藤家氏は取材に対し「『ロシア』という話はこの時に初めて聞いた」と説明、01~04年の在任中、ロシア側から文書による提案は「ない」と語った。原子力委員会には事務局役の職員(官僚)が約20人いる。経産省同様、一部の「官」が握りつぶしたのか。文書の宛先の尾身幸次・元科学技術政策担当相も「(文書は)ない」と完全に否定しており、謎は深まる。
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「隠蔽が事実だとしたらとんでもない」。経産相の諮問機関「総合資源エネルギー調査会・電気事業分科会」で委員を務めた大阪大の八田達夫・招聘(しょうへい)教授(公共経済学)は憤る。
六ケ所村再処理工場は当時放射性物質を流しておらず、解体すれば費用は3100億円で済んだ。しかし、使用済み核燃料を処理するアクティブ試験(06年3月)などを経て本格操業した後廃止すれば1兆5500億円かかる。八田氏は04年3月、分科会で「大変な解体コストがかかる。(再処理せず直接地中に捨てる)直接処分という選択肢も考慮すべきだ」と主張。八田氏は「工場を放射性物質で汚すか汚さないかを判断する上でロシアの提案は非常に貴重な情報だった」と語った。
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■六ケ所村再処理工場を巡る動き■
80年 3月 電力各社が「日本原燃サービス」(現日本原燃)を設立
84年 7月 電気事業連合会が青森県と六ケ所村に再処理工場など核燃サイクル3施設の立地申し入れ
85年 4月 青森県と六ケ所村が「受け入れる」と回答
89年 3月 日本原燃が事業申請。建設費7600億円、97年完成と計画
93年 4月 着工
96年 4月 建設費1兆8800億円に変更。完成を03年に延期
99年 4月 建設費を2兆1400億円に変更。完成を05年に延期
12月 使用済み核燃料貯蔵施設が操業開始
01年12月 使用済み核燃料貯蔵施設のプールから漏水するトラブル判明
02年10月 ロシアから再処理などを提案する外交文書が届く
04年 1月 経産相の諮問機関「総合資源エネルギー調査会」が再処理費用などのコストを約19兆円と公表
6月 原子力委員会の新計画策定会議が再処理継続などの議論開始
11月 新計画策定会議が再処理継続の方針を決定
12月 再処理工場で劣化ウランを用いる「ウラン試験」開始
05年 3月 建設費を2兆1900億円に変更。完成を07年5月に延期
06年 2月 建設費を2兆1930億円に変更。完成を07年8月に延期
3月 実際に使用済み核燃料を通す「アクティブ試験」を開始
08年12月 高レベル廃液をガラスで固める工程でトラブル。試験中断
10年 9月 完成を12年10月に延期
11年 3月 東日本大震災で一時外部電源喪失
毎日新聞 2011年11月24日 東京朝刊
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