佐賀県「やらせ認識」 05年原発討論会 知事関与否定

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佐賀県主催の公開討論会を巡る県、九電第三者委、九電の見解

 九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)に使用済み核燃料を再利用する「プルサーマル」を導入する計画をめぐり、2005年に県が主催した公開討論会に九電が参加者の動員や質問の仕込みなど「やらせ」をしていた問題で、古川康知事は22日記者会見し、当時の県の原発担当職員が事前に仕込みなどを認識していたのに制止しなかったと認め、謝罪した。

 県が職員の関与を認めたのは初めて。知事は自らの監督責任を取り、給与を減額すると述べた。一方、仕込み質問への自らの関与については「指示や要請はしていない」とこれまで同様に否定した。

 古川知事は、県が討論会の進行シナリオ作りを九電に依頼していたことも認め、安全性をめぐって根強い反対があったプルサーマル計画について「推進の当事者である九州電力を深く関わらせたことは批判を受けてもやむを得ない」と陳謝。「人事管理や組織の問題があった」と自らの責任にも初めて言及した。

 しかし、討論会の公平性については「慎重、推進のパネリスト同士で議論を深めるのが主な目的。意義は損なわれていない」と釈明。プルサーマル導入を撤回するつもりはないとした。

 会見に先立ち、この日午前、牟田香副知事が県の内部調査の結果を発表。県が進行シナリオ案を九電に依頼し、最終稿まで計6案が作成されたと説明した。九電の動員や仕込み質問については、当時の県原子力安全対策室の室長を始め複数の職員が「九電が社員などに参加や、関係者に質問するよう呼びかけていたことは気付いていた」と証言したという。

 しかし、「公開討論会の運営や成果に特に影響を及ぼす事柄ではない」との認識から、動員や質問者の用意を知りながら、制止しなかったとしている。同様の認識から担当職員は、古川知事や当時の副知事、担当本部長ら幹部には報告していなかったと結論づけた。

 内部調査は、九電の「やらせ」問題を調査した第三者委員会が、仕込み質問は「県側と九電側との緊密な連携協力の下に、県側が認識、容認した上で行われていた」と指摘したことを受けて10月、牟田副知事を長とする調査チームを発足。古川知事や当時の幹部、九電関係者から聞き取りをしていた。

 第三者委は、公開討論会の一般参加応募者約千人のうち655人が九電関係者だったと認定。賛成の立場から質問した8人のうち7人が、一般参加者を装った九電関係者だったとした。

■知事、監督責任のみ

 やらせを県職員は知っていたが、知事には報告していない――。原発を巡る討論会での九州電力による仕込み質問について、佐賀県は22日公表の調査結果で、こう認定した。古川康知事は監督責任しか認めず、「トカゲの尻尾切り」にも見える結果に「身内の調査は甘い」と批判が出ている。

 「県民に心からおわびを申し上げる」。古川知事は22日の記者会見で頭を下げた。玄海原発(同県)のプルサーマル計画を巡る討論会(2005年12月)で、県主催なのに九電に進行シナリオ作成を丸投げしたことや、九電の動員や仕込み質問を職員が止めなかったことへの謝罪だった。

 一連のやらせ問題で知事は初めて自身の「責任」を認めた形だが、やらせの事前把握は否定し続けた。「明確に報告を受けた記憶はない」。自ら決めた処分は減給にとどまった。

 だが、調査結果で「知事は知らなかった」とされた根拠はあいまいだ。「(報告の有無は)公文書からは確認できない」「職員は『報告したかどうかは記憶にない』と述べた」……。会見で知事は「報告は受けていなかったと思うが、証明は不可能」とも語った。

 討論会の翌年の06年、知事はプルサーマル計画を受け入れる考えを表明し、09年に日本初の試みが始まった。このため討論会の正当性を問う質問も出たが、知事は「九電関係者からの質問もあったようだが、(議論を深めるという)意義が損なわれたことはない」と強調。だが、県幹部の間には、計画受け入れへの影響について「全くなかったとは言えない」という見方もある。

 この討論会の調査を求める声は県議会でも出ていたが、知事は拒んできた。その責任を会見で追及された知事は、こう答えた。

 「反省すべきだと思うが、職員は当初、『そういうことはなかった』と言っていた。職員はウソを言ったのではなく、全く記憶がなかったのだと思う。調査を丁寧にやり、記憶の呼び起こしにつながった」

 今回は副知事らによる内部調査。会見で真相究明の限界を指摘されると、知事は「調査は本当に徹底して行われた」。今年起きた「やらせメール」への関与も指摘されているが、「(今回と)同じような調査は必要ない」と述べた。

 県議会は来月、特別委員会で知事への質疑を予定している。社民党の徳光清孝県議は「県の調査結果は、知事が部下の責任を取るという『いいとこ取り』の演出にすぎない。再調査を求める」と批判した。

■九電、報告書の修正不可避

 枝野幸男経済産業相に、やらせ問題の報告書を「理解不能」と批判された九電は、修正する報告書に佐賀県の調査結果をどう反映させるかの検討を始めた。

 05年討論会の仕込み質問で九電第三者委は県の関与を広く認定したが、九電が認めたのは県との「進行の事前打ち合わせ」のみ。真部利応社長は県の関与を否定してきたが、県が内部調査でやらせを把握していたと認めたため、報告書の内容修正は避けられない。

 第三者委は県との「不透明な関係」も指摘。これも知事が22日の会見で「討論会のシナリオ案作成に当事者の九電を深く関わらせたことは批判を受けてもやむを得ない」と認めた以上、否定できない状況だ。

 真部社長は社内で「報告書を大幅修正するなら辞任する」と公言している。第三者委の郷原信郎元委員長との感情的な対立も深刻で、社内では「社長がどこまで修正に応じるかは、まだ見通せない」(九電幹部)との見方も出ている。

 玄海原発は12月に1、4号機が定期検査のため停止し、既に検査で止まっている川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の2基を含め、九州の原発全6基が止まることになる。九電は、原発の運転再開には、やらせ問題の収束が不可欠とみているが、修正した報告書を国に出せる時期は不透明だ。

 一方、郷原氏は22日、県の調査結果について「身内の調査では限界があり、知事の関与を認定するのは不可能。知事が九電のやらせを全く知らなかったというのは当時の状況から考えにくい」と厳しく批判した。

■郷原氏ら「九電の指摘、認定覆さぬ」

 九州電力の「やらせメール」問題を調べた第三者委員会の郷原信郎元委員長ら3人は22日、九電が元委員あてに出していた質問状に回答した。「九電の指摘はいずれも第三者委の認定を覆すに足るものではない」と反論している。九電は回答を受け、経済産業省に再提出する最終報告書を修正する作業に入った。

 郷原氏らは17日の会見で、九電の20項目に及ぶ質問について、回答全文を同社ホームページに掲載することを条件に回答するとしていたが、「答えられないと誤解される恐れがある」として、先に回答した。

     ◇

 《佐賀県のプルサーマル公開討論会に関する調査結果・骨子》

●県と九電の間で情報交換が行われ、会のシナリオ作成も九電に協力を依頼していた。

●県から九電にやらせを依頼した事実は確認できないが、九電がやらせをしようとしていたことを県職員は認識していた。

●県職員は、九電のやらせが会の成果に特に影響しないと認識し、やらせを制止しなかった。

●九電のやらせを、県職員が知事に報告していた事実は確認できない。

※討論会への「動員」や質問の「仕込み」を「やらせ」と表記しています。

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 〈佐賀県主催公開討論会でのやらせ〉 2005年12月25日の玄海原発3号機プルサーマル計画公開討論会で、九電が動員や仕込み質問をしていた問題。九電や第三者委の調査では、一般参加応募者約千人のうち655人が九電関係者で、賛成の立場から質問した8人のうち7人が、一般参加者を装った九電関係者だった。05年にあった九電、国主催の討論会に続く開催で、古川康・佐賀県知事は翌06年2月に「プルサーマル安全宣言」を出し、3月に九電に対し事前了解を出した。今年7月に発覚した九電のやらせメール問題を調査する過程で明らかになり、やらせ問題の「原型」とされる。

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