2011年11月23日03時00分
■放射能測定器:上
身の回りの放射能汚染の度合いを知りたい――。放射線測定器が飛ぶように売れています。でも、ひとくちに測定器といっても、種類はさまざま。どのような機種を、どんな点に注意して選んだらよいのでしょうか。
■製品ごとに得意分野
11月19日の土曜日、東京・秋葉原の電気街にある専門店「東洋計測器」。大通りから1本、路地に入ったこの店も客足は途絶えない。福島や広島県から来た人も。3万〜20万円の十数種類の機器が並ぶ一角で、東京都杉並区の会社経営和気庸人(わけ・つねひと)さん(38)が店員の説明を受けていた。
1〜5歳の3児の父。放射線の影響が気になり、3月は子どもを四国に避難させた。自宅の庭の汚染度を業者に調べてもらったが、数字を自分の手でもつかんでおきたいと考えるようになった。
インターネットで測定器のことを調べたが、どれを選べばいいかわからなかった。店員から「心配するような高い線量が出たときは、まず行政に連絡したほうがいい」とアドバイスを受け、日本語の取扱説明書が付いた3万円台のロシア製測定器を買った。
原発事故後、子への放射線の影響を心配する親や祖父母の来店が後を絶たず、数百台が売れた。技術者相手だった従来の10倍以上。売り場担当の石橋昌美さんは「何を測りたいのか」を必ず客にたずねるようにした、という。
一般に売られているのは、空気中を漂ったり、地表や屋根に積もったりしている放射性物質が出す放射線の量(空間線量)を測る機器だ。ただ、この機器は食品そのものに含まれる放射性物質の量は測れない。食品を測る場合は、大型で高額な装置が必要だ。
空間線量を測る機器も、見た目は似ていても測定方式によって特徴は異なる。
たとえば、「ガイガーミュラー(GM)管式」は、放射性物質が出す「ベータ線」や「ガンマ線」などをまとめて測定する。ベータ線は遠くまで進まない性質があり、放射性物質がついたモノの表面近くで検出されやすい。そのため、庭の地表面などモノの表面の汚染を調べるのに向く。
一方、ガンマ線だけを検出するタイプが多い「シンチレーション式」。物質を突き抜けて遠くまで進むガンマ線は人体に外部から影響を与えやすい。健康影響を把握するために、多くの自治体が空間線量の測定に使っている。
このほか、「半導体式」と呼ばれる測定器などがある。石橋さんは「目的にあった機器を選ぶのが、正しい測定への第一歩です」と話す。
■測定範囲と誤差に幅
たくさんの人が測定器を手にするなかで、測定方式の違いでは説明がつかない「粗悪品」も出回り始めている。
「どこを測っても2種類の数値しか示さない」「数値が表示されない」。全国の消費生活センターには事故後から7月末までに苦情・相談が計約400件寄せられた。国民生活センターがインターネットの通販サイトで5万円前後で売られていた9種類(いずれも中国製)の精度を調べたところ、6種類ではそれぞれ2倍を超える誤差が出た。
米国製の測定器を持っている埼玉県越谷市の宮沢弘二さん(72)は、以前参加した住民グループの測定会で、機器によって示す値が違うのに驚いた。「ひと桁違うものもあり、市民測定の現場は混乱している」と話す。
放射線測定に詳しい産業技術総合研究所の斎藤則生・放射線標準研究室長は「用途による違いのほか、どこまで低い線量を測れるか、誤差が出る幅はどの程度か、などを選ぶ際に見てほしい」と話す。
参考になるのは、カタログや仕様書だ。測れる線量の範囲は「毎時0.001〜9.999マイクロシーベルト」、誤差なら「±20%以内」などと書かれている。誤差の幅が狭い方が精度が高い。
測定器は、ネットのほか、電器店や理化学機器を扱う専門店で買える。住民に貸し出す自治体もある。「東洋計測器」の石橋さんは「わからないことがあったら、店などで聞いてほしい」と話す。(小林未来)
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