きょうの社説 2011年11月24日

◎「食の歳時記」事業 選定後の魅力発信策が大事
 北陸新幹線金沢開業を見据え、石川県は県内食材から数品を絞り込んで名物とする「い しかわ食の歳時記」事業に乗り出した。石川の食のイメージアップを図り、誘客につなげる狙いがある。

 石川は多彩な食文化を有する一方、富山の氷見ブリや福井の越前ガニなどのように、石 川を連想させる代表的な食材が浮かびにくい現状がある。全国の関心が集まる新幹線開業は石川の食を発信する好機であり、看板となる食材、料理を打ち出して、食文化の魅力向上につなげてもらいたい。

 豊富な食材に加えて、石川には料理を引き立てる素材もそろっている。選定食材を活用 した料理開発には、九谷焼や輪島塗、山中塗などの器や能登の塩、いしる、みそ、しょうゆなどを十分に生かしてほしい。関係者の知恵を集めた「オール石川」の新たな名物料理を生み出す機会にもなるだろう。

 石川の食のおいしさには定評があり、地域活性化の大事な資源でもある。例えば、リク ルート(東京)がまとめた「じゃらん宿泊旅行調査2011」によると、都道府県魅力度ランキングの「地元ならではのおいしい食べ物が多かった」部門で、石川は全国3位に入り、カニ、のどぐろ、治部煮などが評価されている。

 1位のカツオの高知、2位の牛タンの宮城と比べると、石川と強く結び付く食材は全国 的に浸透していないといえるが、実際に石川を訪れると、食のおいしさ、多彩さを実感する人が多いのだろう。それだけに、石川の食の可能性をもっと探りたい。石川で味わってみたくなる旬の食材、料理をこれまで以上に印象深く伝えることができれば、誘客と石川の食全体のイメージを向上させる効果が期待できる。

 食材の選定に当たっては、厳しい地域間競争の中で、石川ならではの食材、他の産地と の差別化が問われる。食のブランド化は容易なものではないが、世界農業遺産に認定された「能登の里山里海」などの石川の豊かな自然風土や生産者の工夫も伝えるなどして付加価値を高めるとともに、従来の特産物の売り込みとはまた違った効果的な情報発信が求められる。

◎死刑の執行判断 「大臣次第」でよいのか
 13人の死刑が確定したオウム真理教事件は、刑の執行が次の焦点になってきた。共犯 者が裁判中は執行を見送るのが通例だが、裁判終結で支障がなくなり、これからは法相の判断に委ねられるからである。

 執行は判決確定順が原則だが、事件の首謀者とされた松本智津夫死刑囚の執行順や死刑 囚から相次ぐ再審請求の扱いなど、これまでも議論されてきた制度の問題があらためて問われることになる。

 平岡秀夫法相は「これまで通り慎重に判断したい」と就任以来の慎重姿勢を変えない考 えを示したが、民主党政権後の死刑執行は2人で、未執行の死刑囚は過去最多の125人に上る。時の大臣の信条や個人的な考えで執行の在り方が変わってよいのだろうか。

 昨年2月に発表された内閣府の世論調査では、死刑を容認する人の割合は85・6%と 過去最高に上った。死刑容認が多い背景には一連のオウム事件があり、厳罰化や被害者支援の流れを加速させたことは間違いないだろう。

 裁判では、死刑判決が相次ぐ一方、地下鉄事件でサリンを散布した林郁夫受刑者は逮捕 後の自白で全容解明に協力したことなどから無期懲役となった。オウム裁判は、生と死を分ける量刑制度の在りようにも深く思いを至らせた。

 地下鉄サリン事件で夫を失った妻は「(松本死刑囚は)真実を語らない以上、生かして おく必要もない」と率直な遺族感情を述べた。教祖の松本死刑囚と、洗脳されて凶行に及んだ信者を同じ極刑に処することに釈然としない思いを打ち明ける被害者もいる。関係者の思いが一様でないことに罪と罰を考える難しさが表われている。

 法務省は死刑存廃を含めて議論する勉強会を設置し、終身刑創設を検討する超党派の議 連も動き出している。裁判員裁判で死刑判決が増えるなか、量刑制度の議論を深めることは極めて大事である。

 だが、そうした議論があることと法相の職務遂行は区別して考える必要があるのではな いか。刑執行をつかさどる最高責任者が責任を回避し続ける状況は、法治国家として自然な姿とは思えない。