サイエンス

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Dr.古川の宇宙支局便り:/5止 宇宙へ行った今、人生最大の目標は何ですか?

 Q・宇宙へ行った今、人生最大の目標は何ですか?(岐阜県・中1)

 ◇宇宙医学研究に貢献

 国際宇宙ステーション(ISS)での長期滞在を通して、飛行士以外の人々が将来、宇宙に定住することは可能だと思うようになりました。ただし、その際に考慮しなくてはならない医学的課題もあります。

 最大の課題は骨や筋肉の衰えです。宇宙は地上と違い、重力に対抗して身体を支える必要がないので、骨や筋肉が弱くなってしまいます。これまでの経験から、骨の量は1カ月に1~2%減ることが分かっていますが、これは、骨が徐々に弱くなっていく骨粗鬆(そしょう)症の約10倍もの速さに相当します。

 私は滞在中、毎日2時間程度の運動をしましたが、それでも衰えを完全に予防できません。長く過ごせば過ごすほど影響は大きくなっていきます。定住には問題なくても、地球に戻って再び生活することは難しくなってしまうでしょう。JAXAはNASAと共同で、地上で骨粗鬆症に使われる薬が宇宙飛行士にも効果があるかどうかを、私を含むISS長期滞在飛行士の同意を得て研究しています。

 次に放射線の問題です。宇宙には「宇宙放射線」と呼ばれる自然の放射線が存在します。地上では、大気や磁場のおかげで、宇宙放射線はほとんど地表には達しません。しかし、ISSが飛行する高度約400キロには、太陽粒子線や銀河宇宙線などエネルギーの高い粒子が降り注いでおり、一部はISSの壁を突き抜けてきます。宇宙飛行士の被ばく量は1日あたり0・5~1ミリシーベルトと高いのです。

 滞在中は、日本が開発した小型で高性能な個人線量計を常に身につけます。帰還後、どんな種類の放射線をどの程度浴びたかを割り出し、宇宙飛行士の健康管理や防護対策に役立てます。将来的には、薬や食べ物(例えば抗酸化作用があるビタミン類やポリフェノール類)などを取り込むことで、被ばくを減らす対策も期待されています。

 さあいよいよ帰還です。地球に帰ったら、宇宙で働くという特殊な経験を生かして、人の役に立ちたいです。具体的には、宇宙医学研究の発展、できれば日本独自の有人宇宙船開発へも貢献できればうれしいです。=おわり

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 ■人物略歴

 ◇古川聡(ふるかわ・さとし)

 1964年横浜市生まれ。東京大病院外科で医師として勤務していた99年、旧宇宙開発事業団(現宇宙航空研究開発機構=JAXA)の宇宙飛行士候補に選ばれた。米航空宇宙局(NASA)などで訓練を積み、01年に正式に宇宙飛行士に認定された。ISS長期滞在中は「毎日新聞臨時ISS宇宙支局長」として、医師の目から見た宇宙での暮らしについて情報発信。8月には東日本大震災の被災地の子どもたちと交信した。趣味は野球、ソフトボール。

毎日新聞 2011年11月22日 東京朝刊

 

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