プラス記号とマイナス記号

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プラス記号とマイナス記号 (+) は正負加法および減法の表記に使われる数学記号である。これらの記号は多かれ少なかれ類似点のある他のいろいろな意味にも拡張されて使われてきた。プラス (plus) とマイナス (minus) は、それぞれ「より多い」と「より少ない」を意味するラテン語の表現である。日本語においては、プラス記号については、加算記号として用いる場合には足す(たす)と読み、それ以外はプラスと読む、また、マイナス記号については、減算記号として用いる場合には引く(ひく)と読み、それ以外ではマイナスと読む。口語で、プラスとマイナスとを合わせて「プラマイ」(例:プラマイゼロ)と呼ぶこともある。

目次

[編集] 歴史

これらの記号はいまやアルファベットアラビア数字と同程度に見慣れたものであるが、それほど歴史は古くない。たとえば、エジプトヒエログリフの加算記号は文章が書かれる方向 (エジプト語牛耕式で書かれた) へ歩いている一組の脚に似ており、左右反転した記号が減算を表した。

ヒエログリフの加算記号と減算記号
ヒエログリフ 左横書きのとき 右横書きのとき
D54
減算 加算
D55
加算 減算

15世紀初頭のヨーロッパでは、文字PとMが一般的に使われていた。

現代の記号が印刷物に出現したのは、1489年ヨハネス・ウィッドマンによる書籍 Behende und hüpscheenung auff allen Kauffmanschafft もしくは Mercantile Arithmetic で黒字と赤字を示すために使われたのが最初のようである。記号 + はラテン語の "et" (アンパサンド & に似ている) を単純化したものである。記号 は減算を示すとき m の上に書かれたチルダから派生したものか、もしくは文字 m それ自身の省略版だった可能性がある。ウィッドマンは記号 − と + を minusmer と呼んだ[1]

Earliest Uses of Various Mathematical Symbolsのウェブサイトによると、 + と − を最初に加算と減算に使った本として知られているのは、1518年ヘンリカス・グランマテウスが出版した書籍である。

等号の発明者であるロバート・レコードは、1557年に著書The Whetstone of Witteでプラス記号とマイナス記号をイギリスへ持ち込んだ。

[編集] 派生した記号

  • 「+」と「−」を組み合わせた2種類の記号 \pm, \mp は、複号と呼ばれる。
  • 「+」を円で囲んだ記号 \oplus は、直和集合排他的論理和に使われる。
  • 「−」を変形させた \neg は、否定を表す。
  • 「−」を変形させた \smallsetminus は、差集合を表す。
  • 数学記号ではないが、「+」を2つ繋げた2プラス記号(⧺)や「+」を3つ繋げた3プラス記号(⧻)がある。

[編集] 数学での用法

[編集] 加減法

「+」と「−」は、 3 + 2 = 5、3 − 2 = 1 のように加法減法を示す二項演算子である。

「+」と「−」は、数の間だけでなく、アーベル群での加減法を表す。ただし、通常の加減法との混乱を防ぐために専用の記号が用意されている群もある。たとえば、

  • 排他的論理和 (\oplus とも書く): 1 + 1 = 0, 1 + 0 = 1
  • ビットXOR (\oplus とも書く): 00000001 + 00000001 = 00000000, 00000001 + 00000000 = 00000001

それ以外の代数的構造の、加減法に似た(しかし加減法ではない)演算にも「+」と「−」を使うことがある。しかし、これらは正式には専用の記号を使う。

  • 論理和 (通常は ∨ と書く): T + T = T, T + F = T
  • 和集合 (通常は \cup と書く): {1} + {2} = {1, 2}, {1} + φ = {1}
  • 差集合 (通常は \smallsetminus と書く): {1,2} − {2} = {1}, {1} − φ = {1}

[編集] 正負

「−」は、オペランドを加法逆元 (あるいは「反数」) で置き換えることを指示する単項演算子である。− aa の加法逆元である。

正の数に適用されるとき、単項マイナスは負の数を作成する。たとえば、−5は負の5であり、−10.4は負の10.4である。負の数に適用されるとき、単項マイナスは正の数を作成する (負の負数は正である)。たとえば、もしxが3なら、−x は−3であるが、もしxが−3なら、−xは3である。同様に、−(−2)は2に等しい。ゼロに適用される場合結果はゼロである (−0 = 0)。

それに対し、「+」はオペランドを変更しない単項演算子である。たとえば、+a = a、+5 = 5 である。この記法は数が正であることを強調したいとき、とくに負の数と対比させるとき (+5 対 −5) に使われる。

文脈によっては、それぞれに応じて異なるグリフを使うことがある。たとえば単項演算子は (2 − 5 = 3 のように) 上付きに書くことがあるが、このような用法はまれである。

[編集] その他

[編集] 数学以外の用法

[編集] コンピュータでの用法

この節で述べるマイナス記号は、原則として、正確に言えばハイフンマイナスである。

  • C言語やその影響を受けたプログラミング言語では、「++」をインクリメント演算子、「--」をデクリメント演算子に使う。転じて、「++」はコンピュータの用語で多少の改善を示すために使われることがある。言語名「C++」はその一例である。
  • 文字列連結に使われることがある。たとえば、"a" + "b" = "ab"。
  • C++などでは、「+」「−」はオーバーロード可能な演算子であり、ユーザー型に対し任意の関数に定義することができる。
  • 音楽ツールなどで、(シャープ)を「+」、(フラット)を「-」で表すことがある。たとえば、C を「C+」または「+C」(ツールによって異なる)と表す。
  • 「+」と「−」は、罫線素片の代わりに使用されることがある。たとえば、横線を「----------------」など。
  • 「+」と「−」はGUI画面上でフォルダが折りたたまれているかどうかを示すために、しばしばツリービューで使われる。「+」はサブフォルダが非表示、「−」はサブフォルダが表示されていることを示す。
  • †(短剣符)の代用に「+」を使うことがある。

[編集] その他の用法

  • (試験の評点などの) 評点方式では、「+」は1段階高い、「−」は1段階低い評点を示す。たとえばB+ (Bプラス) はBより1段階高く、B− (Bマイナス) はBより1段階低い。これを拡張して2つのプラス記号やマイナス記号を使うこともある。たとえばB++はB+より1段階高く、B−−はB−より1段階低い。連続したプラスには2プラス記号や3プラス記号が使われることもある。
  • IPAでは、下に書いた「+」は(わずかな)前舌化、「−」は後舌化を意味する。たとえば、[u̟]は前舌化した[u][i̠]は後舌化した[i]である(+や−が右下に表示される環境もあるが、正しくは下に書く)。
  • 化学記号や素粒子記号では、右上に書いた「+」や「−」は電気素量を単位とした電荷を表す。たとえば Li+リチウムの1荷陽イオン。電気素量の2倍以上の電荷の表記法は分野によって違い、化学では Ca2+ 等、素粒子物理学では Δ++ 等とする。
  • 電話番号の表示で、「+」は、その番号が国際電話番号であることを表す。たとえば、日本の電話番号「03-1234-xxxx」をこの方式で表示すると、日本の国番号は81なので、「+81-3-1234-xxxx」となる。
  • 病原体抗体などの検査で、「+」は陽性、「−」は陰性を表す。検査表で表形式で書かれるほか、たとえば「Rh+」はRh因子への抗体が陽性であることを示す。強い陽性を「++」「+++」、と表すこともある。連続したプラスには2プラス記号や3プラス記号が使われることもある。

[編集] 符号位置

記号 Unicode JIS X 0213 文字参照 名称
+ U+002B 1-1-60 +
+
正符号、加算記号
U+FF0B 1-1-60 +
+
正符号(全角)
U+2212 1-1-61 −
−
−
負符号、減算記号
- U+002D 1-2-17 -
-
ハイフンマイナス
U+FF0D 1-2-17 -
-
ハイフンマイナス(全角)
U+29FA 1-3-93 ⧺
⧺
2プラス
U+29FB 1-3-94 ⧻
⧻
3プラス

ハイフンマイナス記号 (-) はISO/IEC 646版のマイナス記号であり、ハイフンも兼ねている。マイナス記号より幅が短い場合もある。文字集合がISO/IEC 646やASCIIなどのマイナス記号を持たない文字集合の場合に真のマイナス記号の置き換えとして使うことができる。

[編集] 脚注

  1. ^ "plus". Oxford English Dictionary. Oxford University Press. 2nd ed. 1989.

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

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