【ブリュッセル斎藤義彦】クラスター爆弾の全面禁止をうたう08年締結のクラスター爆弾禁止条約(オスロ条約)を骨抜きにする新条約締結の動きが明らかになった。新条約作りを主導する米国などがクラスター爆弾の使用を続ける意思を明確に表示した「条約無効化工作」と言え、日本などオスロ条約批准国の中にも新条約案に理解を示す国が増えている。
しかし、規制を緩和する条約は、爆弾を大量保有する国が使用を正当化するだけでなく、他の国に圧力をかける手段として使われかねない。
米国などがオスロ条約加盟国の結束に付け入るスキは当初からあった。
オスロ条約加盟国のほとんどは、米露中など大量保有する国が参加しないオスロ条約は「実効性が不完全」だと考えている。このため、米露中も参加する軍縮会議「特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)締約国会議」での条約の議論は重要だとみなしている国が大半だ。このため、新条約案に難色を示しているオスロ条約加盟国も、CCWで結論がまとまれば、正面から反対することは難しくなるとみられている。
米国が主導する現在の条約案には、「オスロ条約加盟国の権利や義務に影響しない」との付帯項目が記されている。また、一部条項を「留保」することにより、相矛盾する条約への参加が可能となる「条約法に関するウィーン条約」もある。
とはいえ、新条約に参加するオスロ条約加盟国は、いずれ爆弾を廃棄するのかどうかの決断を迫られるのは間違いない。親米の立場を取る国でオスロ条約を批准していない国は、廃棄に取り組まない可能性が出てくる。
日本など批准済みの国は、米国の顔色をうかがいつつ、新型爆弾だけ保有する政治的決断をする可能性もある。
対人地雷については、部分的な禁止条約しか作れなかったのに失望した非政府組織やカナダなど有志国が、CCWとは別枠で全面禁止条約を提唱、97年に対人地雷禁止条約が締結された。この条約には米露中は参加していないが、加盟国は158と国連加盟国の8割に増加。この包囲網で保有国は事実上、地雷を使えなくなった。このプロセスを踏襲したのがオスロ条約だ。
対人地雷禁止条約が規制の緩い条約から全面禁止へと高まったのに対し、今回の規制の緩い条約案は全く逆を行く。「米露中を巻き込むべきだ」という主張は美しいが、新条約案はオスロ条約と原理的に相いれない。オスロ条約加盟国は骨抜きに加担すべきではない。
相矛盾する複数の条約に参加する道を開いているのが、条約についての一般的ルールを定めた「条約法に関するウィーン条約」(1980年発効)だ。日本など計111カ国が参加するこの条約は、ある条約について一部規定に留保することを認めており、留保を表明した国はその部分に関しては当該条約から拘束されない。
例えば、日本は78年に「国際人権規約」に署名した際、公務員のスト権や死刑の制限、高校・大学の無償化といった国内法と矛盾する条項を留保した。また、ノルウェーなどは商業捕鯨の一時停止を決めた国際捕鯨委員会の規定を留保し、商業捕鯨を続けている。
クラスター爆弾についても、日本などオスロ条約加盟国が新条約に加盟した場合、留保を活用する可能性がある。ただしクラスター爆弾の全面禁止を定めたオスロ条約は「留保を付することはできない」と定めているため、留保し得るのは新条約だけだ。【真野森作】
毎日新聞 2011年11月21日 東京朝刊
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