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オウム裁判:きょう終結 妻亡くなり事件は終わった--松本サリン被害者の河野さん

 オウム真理教による一連の事件は21日、教団元幹部の遠藤誠一被告(51)=1、2審死刑=に最高裁判決が言い渡され、上告が棄却されれば全公判は終結する。以前に遠藤被告とも面会した松本サリン事件の被害者、河野義行さん(61)に、事件発生時から公判終結までの思いを聞いた。【聞き手・石川淳一】

 夜、自宅の庭からカタカタと音がする。出てみると犬が倒れていた。部屋に戻ると今度は妻もけいれんしていた。子供たちを集めて救急車を呼び、私もそのまま入院した。

 翌日には病院で警察の聴取を受け、「本当のことを言ってください」と。犯人扱いされ、1カ月後の退院時にはマスコミに囲まれた。きっと逮捕されると思っていた。子供を落ち着かせるため「何もしていなくても死刑になることもある。間違うのが人間なんだ」と言い聞かせた。だからオウム真理教が起こした事件だと分かったが、恨む気持ちはすぐ切り替えた。恨んでも幸せになれない。

 それからは被害者支援の充実を訴えた。事件に唯一の功があったとすれば、被害者支援の法整備。それまでは被害者は検察の「証拠物」程度の扱いだった。あとは普通の人が犯罪に遭っても生活できる保険があるといい。被害に遭えば経済的ダメージがあるし、加害者を訴えて勝訴しても相手に支払い能力がない現実もあるから。

 08年、妻の意識が戻らないまま亡くなった。私の中では、その時点で事件は終わった。14年間、妻が回復する方法があるなら試そうとあの手この手でやってきて、あとは闘うものはない。裁判は私のグラウンドではないと思っていたから「裁判が終わるから何なの?」という気持ちだ。

 09年から4被告に面会した。遠藤さんは「たぶん死刑になるだろう」と言うので、私は「死刑判決が出たら裁判官に『呪ってやる』と叫べ」と冗談も言った。被告への被害者感情は一切ない。それを言ったらマスコミも警察も私には加害者だ。過去の負の感情は捨ててもいいと心の中で整理できている。

 今も警察とマスコミは当時とシステムが一緒だと感じる。メディアは、報じたことが翌日になって事実じゃないと分かったら修正すればいいのだが、訂正に抵抗がある。報じたことが事実でないといけないという思いは捨てればいい。

 捜査機関はメンツを捨て、有罪に持ち込むことが目的でないという考えが大事。現場にある事実は曲げてはいけない。見立て捜査でなく、事実を押さえることだ。

 口永良部(くちのえらぶ)島が最後の楽園と聞き、妻の3回忌と自分の還暦を区切りに昨年、鹿児島に移り住んだ。事件後、会社から帰って妻を介護し土日は講演と、自分の時間がほとんどなかった。これからは年金だけで釣りと温泉のスローライフ人生を送ろうと思う。

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 ■人物略歴

 ◇河野義行(こうの・よしゆき)さん

 オウム真理教が94年6月、教団進出に反対する住民との裁判が係属していた長野地裁松本支部の裁判官などを狙い、長野県松本市でサリンを発散させた「松本サリン事件」の被害者で第1通報者。事件の死者は刑事裁判上7人だが、08年8月にサリン中毒による低酸素脳症に伴う呼吸不全のため60歳で亡くなった妻澄子(すみこ)さんは8人目の犠牲者。02年から3年間、長野県公安委員を務めた。著書に「『疑惑』は晴れようとも」など。

毎日新聞 2011年11月21日 東京朝刊

 

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