石器時代の生活をしているのでない限り、あなたの会社もタブレットの大侵攻の影響を受けるだろう。iPadやXOOM、BlackBerry PlayBook、はたまた次々と登場するタブレット端末が押し寄せてくる。個人で購入したタブレット端末を会社に持ち込んで、その端末での業務アプリケーション利用を求めるエンドユーザーもいれば、特に幹部クラスに多いのだが、ノートPCのサブ端末として(場合によってはノートPCの代わりに)ネット端末を用意するよう、IT担当者に求めるユーザーもいる。
しかし、米J. Gold Associatesで実施した調査によると、ほとんどの企業はタブレットの侵攻にその場しのぎの対応しかしていない。実際、話を聞いた企業の中で、現在、モバイル端末戦略を用意し、この標準外で、保護されていないことが多いタブレット端末の大流入に立ち向かっているところはほとんどない。
拡大するタブレットの需要とインストールベースに関して、企業で対応策を評価するときは、複数のポイントを検証してほしい。ユーザー所有の端末(通常はノートPCではなく、タブレットやスマートフォン)を会社への持ち込むことを認める企業は急増している。実際、現在は25〜35%の企業が、個人の端末の利用を促す「Bring Your Own Device」(BYOD)ポリシーを導入しており、これは今後1〜2年で50%に達すると考えられる。
このタブレットの侵攻の結果として、社外秘データ資産のセキュリティリスクが高まっている。実際、現在の大半のタブレット(とスマートフォン)は、わずか数年前まで使われていたPCと同じ処理性能とメモリ容量を持つ。そこで、業務メール、顧客データベース、プレゼンテーション、事業計画など、社外秘データが大量に、このような端末に保存されるようになった。これは、監視されることもなく、PCでは当然期待されるレベルの保護、つまり、複雑なパスワードと認証、データファイルの暗号化、VPN接続などの対策も取られないまま起きている。
ユーザーがモバイル端末を紛失するのは日常茶飯事だ。実際、6カ月のうちに3台のiPadを失くした企業幹部や、1年間で6台のiPhoneを使うことになった企業幹部をわれわれは知っている。これらは極端な例であるとしても、紛失した端末に保存されている機密データの種類と量を想像してほしい。現在、この手の端末のメモリ容量は32〜64Gバイトが主流であることを考えると、ダウンロードされ、失われる可能性がある機密データはどの程度になるだろうか。
米Ponemon Instituteによると、紛失または盗難に遭ったモバイル端末から個人データが流出した場合、修復に必要な費用は1件当たり258ドルになるとみられるという。従って、1万件の個人データを紛失すると、会社に258万ドルの損害が発生し、さらに、コンプライアンス違反のために監督官庁から罰則を受けることにもなりかねない(規制の厳しい業界は注意)。
1年間に紛失されるノートPCの割合(5〜10%)とスマートフォンの割合(15〜25%)を基に、タブレットが1年間に紛失または盗難に遭う割合を考えると、10〜15%になるだろう。例えば、ユーザーが5000人いる会社であれば、年間250〜500台のノートPCが失われる。この会社にタブレットが大々的に導入されれば、年間500〜750台が失われるかもしれない。このタブレット侵攻に伴い、企業は、最も価値ある資産、つまり、タブレット端末ではなくタブレットに保存されているデータを保護するためのタブレットセキュリティ戦略を否が応でも用意しなければならない。端末は数百ドルかもしれないが、データは数百万ドルに値する可能性があるのだから。
データ資産を保護し、金銭的にも大きな損失につながりかねない紛失や盗難を防ぎながら、ユーザーの意向を受け入れるために企業がすべきことは何だろうか。1つは、各種モバイル端末とその機能および保護機能(または保護上の制約)、アプリケーション、企業データの利用を許可するユーザークラスについて検討した、詳細なモバイル端末戦略を策定することだ。
これは、企業資産のセキュリティをできる限り確保しながら、総保有コスト(TCO)を最小限に抑える企業のモバイル戦略の基盤となる。実は、多くの組織が見過ごしているが、実際にモバイル端末に必要な費用はTCOの15〜25%にすぎない。一般的なスマートデバイスでは、多くの場合、年間1ユーザー当たり2000〜3000ドルだ。特にタブレットの侵攻が起きている今となっては、例外なくどの企業もモバイル端末戦略を策定すべきだ。モバイル端末戦略はセキュリティだけではなく、賢い運用と費用抑制にも関係している。
本稿筆者のジャック・E・ゴールド氏は米コンサルティング会社J. Gold Associatesの創業者であり主席アナリスト。同氏は、モバイル、無線ネットワーク、パーベイシブコンピューティングの第一人者である。ビジネス分析、戦略プランニング、アーキテクチャ、製品の評価や選定、企業アプリケーション戦略について、顧客にアドバイスを提供している。J. Gold Associatesを設立する以前は、Meta Group傘下のTechnology & Research Servicesの副社長の他、DECおよびXeroxの技術およびマーケティング部門の管理職を歴任している。