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【社説】

“オレ竜”の花道だった 落合・中日の8年

 オレ流の精華のような日本シリーズの戦いぶりをファンの心に焼き付けて、落合博満監督は花道を去る。お疲れさま、ありがとう。監督、そして竜戦士。

 惜しかった。だが、不完全燃焼ではないはずだ。落合博満監督がチームの采配を振るのはこの日が最後。背番号66はすべての仕事をなし終えて、昇竜が天を差すように、決戦の地を後にした。

 オレ流野球の集大成

 レギュラーシーズンを制した者同士、しかも互いに連覇、だが、ソフトバンクは昨年、CSファイナルで涙をのんだ。中日はロッテとの日本シリーズで引き分けを含む七試合を戦って、あと一歩及ばなかった。両雄とも「完全優勝」という忘れ物がある。譲ることのできない真の頂上決戦だった。

 「実力のパ」の中で、今年の鷹(たか)は最強だった。チーム打率、防御率ともに十二球団トップ、二位に17・5ゲーム差をつけて、ペナントレースをぶっちぎり。CSファイナルも無敗で通過した。

 中日は十二球団最下位の打線が不安視された。大方の予想は、ソフトバンクの圧勝だった。ところがふたを開けると、敵地でいきなり延長戦を二連勝。野球評論家が青ざめた。そして意見を改めた。

 中日の三勝はすべて敵地で2−1。リリーフ陣の重圧は尋常ではなかったはずだ。セ・リーグ最強の投手リレーが、今シリーズでも際立った。

 「守り勝つ野球」「点が取れなければやらなきゃいい」。二〇〇三年、監督就任当時の落合語録。その姿勢は終始変わらなかった。

 中継ぎの浅尾拓也投手の“奮投”は、今季も特筆に値する。昨年に続き球団記録を塗り替える79試合を投げて45ホールド、それに7勝10セーブ、防御率は何と0・41だ。シリーズでは抑えとしても鷹打線の前に立ちはだかった。

 浅尾と守護神の岩瀬仁紀投手ら四人の主なリリーフ陣は、シーズン中計一本しか本塁打を許していない。通算300セーブを達成した岩瀬は、シリーズ通算20試合を投げて一点も取られていない。指揮官は最後の最後まで、継投のかたちを崩さなかった。

 先発陣では、指揮官が「うちの屋台骨」とたたえたエース吉見一起投手の力投が輝いた。谷繁元信捕手の好リード、好送球が、ソフトバンクの誇る機動力を封じ込め、投手陣の支えになった。

 “落合チルドレン”たちは、鷹の猛打に屈していない。その意味で、今年の日本シリーズは、守り勝つ落合野球の集大成、花道だったと言っていい。

 竜党が支えてくれた

 福岡も名古屋もドームは超満員。日本シリーズは、今年もファンや地域を熱くした。震災に沈んだ気持ちを奮い立たせてくれた。

 低反発球の採用で、打ち上げ花火の応酬は影をひそめたが、四球と失策の少ない緊迫した試合展開、両軍の野手が随所で見せた超美技は、現場で体感するプロ野球の魅力を堪能させた。何より短期決戦の日本シリーズは、見ている方も一戦一戦気が抜けない。

 一方、セ・リーグの観客動員減少には歯止めがかからない。中日は前年比2・2%の減。ヤクルトと首位争いの最中も、ナゴヤドームに空席が目立っていた。

 「勝つことが最大のファンサービス」というオレ流哲学は、多分正しい。しかし、シーズンを通じてドームに足を運んでもらうには、それだけでは足りないらしい。

 ファンは、ただ試合を見るだけでなく、一体感を求めて球場にやって来る。監督や選手により近づきたくて、高価なチケットを買い求める。名古屋から福岡まで駆けつける労さえ惜しまない。ヤフードームにこだました去りゆく指揮官を惜しむ声。これも、中日のユニホームを着た監督をもっと見ていたい、その声をもっと聞きたいと願う気持ちの表れなのだ。

 勝つためには徹底した情報管理が必要で、選手を守るのが監督の役目というのもうなずける。しかし、たとえば谷繁が黄金の継投を支えてきたように、プロ野球とその選手を支えるものが、ほかならぬファンであることも、真のプロなら忘れるべきではない。

 名将が残した宿題は

 球場をもっと魅力的な場にするファンサービスのあり方は、新監督や選手にとっても来季の大きな課題になる。

 在任八年で優勝四回、チーム初のシーズン連覇と五十三年ぶりの日本一を達成し、Bクラスの経験なし。一時代を画した紛れもない名将は、完全優勝、そして観客動員という宿題を残して、花道を去っていく。これもまた、オレ流らしい。

 来季から二度目の指揮をとる高木守道新監督がそれにどう答えるか。竜党とともに、船出を見守りたい。

 

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