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野球を教えられなくなった少年野球の監督 

放射能を逃れて避難生活、「故郷に帰れないのは屈辱」

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 夏休みが明けた9月から、周囲の子供たちが南相馬市に戻り始めた。

 「監督、戻ってこられますか」「また野球を教えてもらえますか」

 そんなメールや電話が次々に来る。

 「でも、もう無理です」

 部屋の隅のふとんのすき間に腰を下ろした渡辺さんは、ため息をついた。

 「子どもたちが心配です。グラウンドをいくら除染しても、責任が持てません。監督として、ヘッドスライディングしろ、と子供に言えるでしょうか。子供が放射能で汚染された土埃を吸い込んだらどうするのですか。それを考えると、とてもできない」

 たばこに火をつけると、ふうと吐き出した。

 「浜通り(福島県太平洋岸)も中通り(同県中部)も、全域が原発の『管理区域』と同じ(放射線量)です。おい、いくら何でもそれはねえだろう。本当にそう思います」

原発なら帰してくれない線量

 渡辺さんが被曝線量に人一倍敏感なことには理由がある。

 仕事は電気設備会社の経営である。南相馬市ではごく普通のこととして、原子力発電所の中で仕事をしていたのだ。そのための管理者資格も取った。福島第一原発にもしょっちゅう入っていた。その内部の被曝管理の厳重さをよく覚えているからこそ、渡辺さんには「今では福島県全体が原発の中と同じになってしまった」「そんなところに子供を帰すことはできない」と思うのだ。

 「管理区域の中では、防護服の腕まくりをしたって東電の人に怒られるんです。18歳未満は入れません。それと同じような線量になった福島を、半袖の子供がマスクもしないで歩いているんですよ」

 原発内部で、放射線の高いエリアは「管理区域」と呼ばれる。そこに入るには、年間の被曝量を計測して手帳につける(放射線管理者手帳=略して「放管手帳」)。B地区→C地区→D地区と線量が上がるにつれて防護服が厳重になり、色も変わる(A地区は管理区域ではない。原発の外と同じ)。

 「管理区域を出入りするには、北朝鮮と韓国の境界ぐらい警戒が厳重なんです。外へ出る時、規定より被曝が多いとブザーが鳴ってゲートが自動的に開かなくなる。除染して線量が下がらないと出してくれません。それくらい厳しいんです」

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