きょうの社説 2011年11月21日

◎マントル到達計画 北陸が壮大な夢の先導役に
 金大が年末から実施するペルシャ湾岸オマーンにある海洋底の化石の本格調査は、海洋 底を掘削し地球深部「マントル」到達を目指す国際プロジェクト実現に向けた大事な取り組みとなる。

 地球の深部は人類にとって宇宙と並ぶ未知の領域であり、調査研究を通じて地球環境の 変動や地震が起きる仕組みの解明などが期待されている。しかし、地球の薄皮といえる地殻を掘り抜いてマントルに到達する計画は20世紀には果たせなかった。金大はそのマントル到達に向けて2010年代後半にも実施される「21世紀モホール計画」の主導的な役割を期待されており、研究成果は地球環境などの国際的な課題に貢献するとともに日本の科学技術の発展につながる可能性を持っている。

 大陸に比べて地殻が薄い海洋底は「地球内部への窓」として重要視されており、今回、 金大が新潟大と連携して取り組む調査は、陸上に露出している海洋底化石「オフィオライト」を調べて、海洋底の謎に迫るものである。北陸が壮大なプロジェクトを支える知的拠点となるように研究を進めてもらいたい。

 金大は理工研究域自然システム学系の荒井章司教授らのグループが陸海の双方から海洋 底に関する研究に取り組んでおり、オマーンでの調査は、海洋底に穴を掘ってマントル物質の回収を目指す「21世紀モホール計画」にも生かされる。日本が建造した地球深部探査船「ちきゅう」の誕生で実現の可能性が高まっており、研究をリードしてきた金大の役割はより大きくなっている。オマーンでは野外実習も実施することにしており、次代を担う人材の育成も重要な課題である。

 宇宙開発では、小惑星探査機「はやぶさ」の帰還が、人々に夢や希望を与えたとして大 きな話題となった。宇宙ヨット実証機「イカロス」には金大宇宙物理学研究室が開発した装置が搭載され、宇宙の謎を追っている。地球深部も同じようにロマンを感じさせる世界である。研究成果を社会に還元させて、多くの人が先端科学への関心を深め、地球を探る夢を共有できるようにしてほしい。

◎東アジア外交 海洋安保で影響力発揮を
 東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の首脳会議で、南シナ海や東シナ海の海洋安全 保障でASEANと日米が連携を強め、中国と対立する構図が鮮明になった。東アジアにおける海洋安保の新しい枠組みづくりで日本がイニシアチブを発揮することを求めたい。

 野田佳彦首相はASEAN首脳との会議で、インフラ整備事業への支援表明に加え、海 上交通の安全を確保する基本的なルールの重要性を指摘し、海洋安保に関する協議機関の設置を提唱した。米国が初めて参加した東アジアサミットでも同様の主張を行った。

 南シナ海で中国と南沙諸島などの領有権を争うASEAN加盟国は、海洋権益で中国と 対立しながらも、経済面では対中依存を強めざるを得ず、中国の顔色をうかがいながら、対中けん制のため米国や日本の影響力に期待している。

 戦後の日本外交に関してASEAN加盟国は、対等な協力者の立場からの支援を打ち出 した「福田ドクトリン」を高く評価しているが、それに代わる積極的、効果的な対ASEAN外交の展開を求める声も聞かれる。

 この点で、野田首相が従来の資金援助や経済連携の推進にとどまらず、海洋の紛争を解 決する多国間の枠組みづくりに積極的に関与する姿勢を示した意義は大きい。米国がアジア太平洋地域に外交・安保の重心を移す中、米国と連携しながら日本の存在感、影響力を発揮してもらいたい。

 経済面で日中の相互依存が深まり、東シナ海のガス田開発交渉などの懸案を抱える日本 外交も、えてして中国の顔色をうかがいがちである。南シナ海問題に「介入」する日本に中国側は反発、いら立ちを強めているが、東シナ海と南シナ海のシーレーンの安全を確保することは、日本にとって死活的に重要である。海洋安保の方針がぶれては、ASEANや米国の信頼を失いかねない。

 経済で中国との互恵関係を追求する一方、海洋安保でASEAN各国やインド、オース トラリアなどとの防衛協力を拡充する、まさに戦略的外交が重要である。