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[30266] DB×真剣で私に恋しなさい!(仮)【習作】
Name: 柿の種◆eec182ce ID:e9c30a7e
Date: 2011/10/24 22:20
※この話はドラゴンボールと真剣で私に恋しなさい!のクロスです。真剣の戦闘シーンが「DBかよw」とか良く言われるので、じゃあ本当にDBキャラと戦わせてみようと言うかそういうクロスを読んでみたいとおもったけどなかったので、自分で書いてみました。
短く、さっくり終わらせるかもしれませんが、きちんと完結はさせるつもりです。





[30266] 1話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:e9c30a7e
Date: 2011/11/07 20:27
 これは昔、昔のお話である。
 悟空がピッコロ大魔王を倒し、神様の宮殿で修行を始めてから1年半が過ぎた頃のことである。

「はっ! はっ!」

 神の宮殿で一人突きの稽古を繰り返す悟空。すると瞬間移動したかのように彼の横に黒い肌の男が現れる。神の付き人であるミスター・ポポである。

「悟空、ちょっと来い」

「んっ、何だ、ポポ?」

 突然、現れたポポに対し、平然とした表情で振り向く悟空。それに対し、ポポは無言で反転すると神の宮殿の上に立った建物の方へと向かう。

「そっちに何かあんのか?」

 ついて行く悟空。そのまま建物の中に入り、更に地下へと進んでいく。それは今まで悟空がいままで入ったことの無い場所だった。黙って歩いて行くポポとその後ろを物珍しげに道の周りを見ながらついて行く悟空。
 そして二人が進んだ先、そこには大きなドアがあった。

「この部屋に入る。それが今回の修行」

「えーー!! もしかして、前、入った“精神と時の部屋”みたいなとこなのか!?」

 ポポの言葉に思いっきり嫌そうな顔をする悟空。“精神と時の部屋”の辛さは悟空にして音をあげてしまう程のものであり、修行馬鹿、格闘馬鹿の彼ですら1ヶ月と持たず音をあげてしまう程の過酷なものであった。
 何せ地球の10倍の重力で昼と夜で砂漠以上の温度差があり、何も無い真っ白な空間が広がっているのだ。普通の人間なら1ヶ月どころか1時間と持たないであろう。それを思い出し、露骨に嫌そうな表情をする悟空であったが、ポポは首を振り、彼の懸念を否定し、この扉の意味と修行の目的を説明しだした。

「心配ない。ここは異世界と繋がった扉。扉をくぐったものの実力に合わせて同じか、少し強い位の者が居る場所へと運んでくれる。悟空はこの2年で神様の修行大体はクリアーした。後は実践で経験を積むのが大切」

「んー、つーことは、この扉の先には強い奴が一杯いて、そいつらと戦ってくればいいってことか?」

「そうだ」

 ポポの肯定の言葉を聞いた悟空は目を輝かせ、一気にやる気を見せた。

「そういう事ならオラすっげー楽しみだ。久々にワクワクすんぞ。どんなつぇー奴が居るんだろう!!」

「それはポポにもわからない。それと一つ注意がある。一度中に入ったら3ヶ月は戻って来られない。3ヶ月たったら目の前に扉がでてくる。その扉開ければ戻ってこれる」

「3ヶ月ってーと90日位か。うし、わかった。それじゃあ、行ってくっぞ」

 早速、扉を開けようとする悟空。しかし、そこでポポが彼の襟首を掴み、引き止めた。

「悟空待て」

「な、なんだよ。ポポ、オラ早くつええ奴等と会ってみたいんだけど」

「これ、もってけ。異世界どんなところかわからない。食べ物が手に入るかもわからない。空気だけはあるが他はわからない。それに筋斗雲も異世界にまでは呼べない。けど、これあれば悟空ならばきっと生きていける」

 不満そうな表情をする悟空にポポが袋を差し出す。どうやら選別のようだった。受け取った悟空がそれをあけると中には如意棒と仙豆が10粒程、それにホイポイカプセルが3つとサイズを合わせた亀仙流の胴着入っていた。

「おっ、サンキュー」

 ポポに礼を言うと、早速袋の中から胴着を取りだし、着替える悟空。ブーツとリストバンドを身につけ、準備を整える。

「んじゃ、今度こそ行ってくっから」

「頑張ってこい」

 そして悟空はポポの声援を受けると扉をあけ、異世界へと飛ぶのであった。







「んっ、ここが異世界ちゅう奴か。地球とあんま変わんねえな」

 扉を潜った悟空は気がつくと見知らぬ場所に居た。どうやら、林の中のようで、周囲には木々が生い茂っている。見た目は元居た世界のものと大きな差異はなく、ついでに匂いも嗅いでみるがその辺りも大きな違いは無いようだった。

「さてと、まずは誰かみつけねえとな」

 悟空の目的は強敵との勝負である。まずは強い人間がどこに居るのかを調べなくてはならないと適当に歩きだす。
 周囲の景色を楽しみながらのんびりと歩いていると直ぐに林を抜け、道らしき場所へと出る。道は悟空からみて左右両方へと伸びており、よく見ると左側の方が下がっており、右側の方が上がっている。つまり、ここは山か何かで右に行けば山の頂上へ、左へ行けば麓に近付く可能性が高いと言う事。普通に考えれば、左へ行った方が人が居る可能性が高い。

「とりあえず、こっち行ってみっか」

 にもかかわらず悟空が選んだのは逆方向であった。
 何も考えていないのか、あるいは何かを感じ取ったのか、能天気な表情で歩く彼の表情からその答えは伺えない。
 そしてある程度歩き、山頂に近づいた彼は開けた場所に辿りつく。その場所の真ん中には一人の人間が立っていた。白い胴着を着て、黒く長い髪をした女。彼女に向かって、悟空は気安い調子で話しかける。

「オッス。なあ、オラちょっと聞きたいことあるんだけど、この辺に誰かつええ奴がいるとこ、知らねえか?」

 悟空の声に反応し、振り返った女は彼を見た瞬間に目を見開き、そして獰猛な笑みを浮かべる。
そしてその表情を隠さないまま悟空の問いに対し、答えると共に質問をする。

「強い奴か。ああ、知っている、知っているが、その前に教えろ。会ってお前はどうするつもりだ?」

「おう、ポポに、オラの師匠みたいな奴につええ奴と戦って鍛えてこいって言われてんだ。それにオラ、戦うの大好きんだからな」

「ふふっ、そうか。だが、そういうことなら随分とつれないじゃないか?」

 悟空の言葉を聞いて、女は楽しそうに笑うと。獰猛な笑みに隠しきれない歓喜の感情を加えながら、悟空を睨みつけて言う。

「んっ、どういう意味だ?」

 女の言葉に対し、悟空は意味がわからず、キョトンとした表情問い返する。それに対する答えは言葉ではなかった。

「!!……いきなりひでえな」

 言葉の代わりに突きつけられたのは女の拳。その拳は今、悟空の眼前で止まっている。女が寸止めしたのではない。悟空の顔面に叩きこまれる勢いで放たれたその一撃を悟空が首を動かして、紙一重でかわしたのである。
 その悟空の動きを見て女はますます笑みを強める。

「それはこちらの台詞だな。目の前にこんなに強くて魅力的な美少女が居るっていうのを、それを袖にして他の相手を探そうだなんて、それこそ酷過ぎるってもんじゃないか?」

 いきなり殴りかかったことに対し、全く悪びれず言う女に悟空は怒りもせず、寧ろ納得したとでも言うようにニヤリと笑って見せた。互いに感じとっていた目の前の相手が強者であるという直感、先とりのやり取りによって二人の中でそれは確信へと変わっていた。

「そうだな。おめえの言う通りだ。オラもおめえと戦いてえ。久々にワクワクしてきたぞ」

「ワクワクかな。ああ。そうだな、私もワクワクしているよ。こんなに興奮しているのは久しぶりだ。期待を外してくれるなよ!!」

 ニヤリとした笑いを浮かべ構える悟空。それを見て、女も歓喜の表情を浮かべ、一旦後ろに下がり構えを取ると名乗りをあげた。

「名を名乗っておこう。私は川神流、川神百代だ」

「オラは悟空、孫悟空だ。流派は亀仙流、あと神様に鍛えてもらってかな」

「神か。ははっ、面白い。ならばその言葉が本物かどうか、試させてもらうぞ!!」

 悟空の名乗り返しを笑う。神の弟子など普通に考えれば冗談か何かとしか思えないが、それが真実であるかどうかなど、百代にはどうでもよかった。大切なのはそれを名乗るに相応しい強さを男が持っているかどうか。ずっと感じていた己が餓えを満たしてくれるそんざいであるかどうかであったから。
 彼女の全身から闘気が発せられる。それを感じとり、悟空も全身から闘気を発する。
 こうして後に宇宙最強になる神の弟子と武神と呼ばれる女の戦いの火蓋は切って落とされるのだった。



[30266] 2話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:e9c30a7e
Date: 2011/11/06 22:07
 両者が飛び出したのは同時であった。
 そして、その動きは何れも常軌を逸するレベル。もし、この場に第3者がいたとして、そのものが一般人であれば、否、相当に鍛えた武術家であっても常識の範囲にとどまるものであったのならば二人の姿を捕らえることはできなかったであろう。それができるのは常識の枠を超えた達人のみ、二人の速さはそれ程のものであった。

「たあ!!!」

「てりゃああ!!!」

 二人は互いに秒間数十発という速さで突きを放ち、それらの突きが交差しあう。その突きを二人は時にかわし、時に防御し、時に互いの拳と拳をぶつけ合い迎撃する。両者の実力は拮抗しており、数秒間の間、両者共にクリーンヒットが一度も無い状態が続いていた。
 そしてその拮抗状態を先に崩したのは百代だった。バックステップで距離を取り、力を溜め、大技をしかけてくる。

「川神流、無双正拳突きぃぃ!!」

 大岩をも砕く威力のある必殺の突き。しかしそれを悟空は両腕を交差しガードし受け止めて見せた。

「てりゃああ!!」

 突きの勢いが僅かに落ちた瞬間に両腕を広げ百代の拳を弾き飛ばす悟空。それにより百代の体勢を崩れ、悟空はそこを狙って反撃の蹴りを放った。
 それは普通ならば回避は愚かガードすら間に合わないタイミングの一撃だった。
 しかし百代は素早く左腕をあげ、その一撃を防いでみせた。だが勢いを殺しきることは出来ず、彼女の身体は大きく弾き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

「ありゃ、やりすぎちまった……なんてことはねえよな?」

「勿論だ」

 一瞬、不安そうな表情を浮かべ、直ぐにそれを無用の心配だったとでも言うように問いかける悟空。起き上り、それに答えると同時に急スピードで飛びこんでくる百代。彼女の右手に気が集中する

「禁じ手、富士砕き!!」

「!!」

 その気の高まりようから先程の無双聖拳突きを超える威力があると予測される一撃。流石にそれをまともに受け止めるのは危険だと判断した悟空は上空に飛びあがって、その一撃を回避しようとする。

「川神流、致死蛍!!」

「んなっ!?」

 そこで上空に逃げた悟空に対し気功波が放たれる。まさか、飛び道具が来るとは予測していなかった悟空はその一撃をまともに受けて弾き飛ばされてしまう。
 しかしダメージは然程でもなかったようで空中で体勢を立て直すと体を回転させると、地面に着地して見せた。

「ふぃー、驚いたぞ。おめえもかめはめ波みたいなの使えるんだな」

「ほぅ、その口調だとおまえも気功波を使えるのか?」

 悟空の言葉を聞いて百代は笑う。致死蛍は彼女の使う技の中ではそれ程、強力な技ではないが、それでも余波だけで地面をえぐる程の威力のある技だ。それを受けてほぼ無傷のタフさ、互角のスピード、自分を弾き飛ばしたパワー。期待を遥かに超える悟空の強さに百代は歓喜していた。

「くくっ、これ程とはな。揚羽さん以来の強敵、いや、それ以上だ」

 彼女が今まで出会った中で間違いなく最強クラスの相手、しかも相手の持ち札がわからないが故に勝敗のまるで読めない。この戦いに彼女はこれまで味わったことの無い程の楽しさを覚え、興奮もこの上無い程に高まっていた。

「オラもだ。おめえ見たいに強い奴と戦うのは久々だ」

「ほう、久々と言うことは、他に強い相手と戦っているということか?」

「おう、神様だろ、それにテンシンハンにジャッキーのじっちゃん、クリリン、ヤムチャ、世の中にはつええ奴が一杯いっからな」

 数を数えるように指を折りながら強者の名前をあげていく悟空。それを聞いて百代は元々楽しそうだ表情を更に楽しそうなものへと変える。

「くくっそうか、そんなにもたくさんの強者がいるのか。ずっと世界の狭さに悩んで来たが、どうやら世界は限りなく広そうだ。何れそいつらとも何れ戦ってみたいが、今は目の前のお前に集中させてもらおうか」

「ああ、オラも思いっきしいくぞ」

 お互い歓喜の表情を浮かべる二人はその表情のまま再度、闘気を高めて行く。

「今度はオラのかめはめ波を見せてやる!!か~め~は~め~」

「川神流……」

 そして両掌を合わせるような構えを取る悟空。その手に気が集中していく。それを感じ取り、百代を気を高め集中させる。

「波!!!!!!!」「星殺し!!!!!」

 両者の放った気弾がぶつかり合うぶつかりあう。生じたエネルギーの余波が地面がえぐれ、周りにの木々が倒れていく。しかし、力の拮抗は僅かの間だった。悟空のかめはめ波が百代の星殺しを貫いて百代に迫った。

「ちっ、私が力負けするとはな」

 しかし自分の気弾が打ち破られるよりも早く力負けを悟っていた百代は舌打ちをしながら空に飛びあがっていた。先ほどまで彼女の居た場所をかめはめ波が素通りする。
 攻撃を回避した百代は右手に気を集中させ、反撃の為、再び気弾を撃とうと構えた。
 だが、そこで悟空が不敵な笑みを浮かべ。
 そして次の瞬間、彼の放ったかめはめ波の軌道が曲がって、上空の彼女に迫ったのである。

「何!?」

 驚愕する百代。このままでは直撃は確実である。
 しかしそこで彼女は驚きの行動を見せた。かめはめ波に対し、回避を試みるでも防御するでも、あるいは溜めた気弾を迎撃として放つ訳でもなく、無防備な姿をさらし、溜めた気を反撃として悟空に向かって放ったのだ。

「川神流、星砕き!!」

「!!」

 当然、百代はかめはめ波をまともに受けることになるが、悟空の方も流石に予想外だったのか、百代の放った星砕きを回避できず、その場に二つの爆発音が鳴り響き、盛大な土煙が舞い上がる。
 そしてその土煙が、晴れて行き、戦っていた二人の姿が見えてくる。

「いちち、まさか、あそこから攻撃してくるとはなー。流石にちっと、堪えたぞ」

 悟空は上に着た胴着が破れ、下に着ていた青い胴着が見えていた。その他、全身にいくつもの傷が見え、かなりのダメージを受けているようだった。
 一方、百代の方は悟空よりも更にダメージが大きい。何とか立ってはいるが、これ以上戦えるようには見えなかった。にもかかわらず、彼女の表情には何故か余裕が見える。

「? あんまり、無理しねえ方がいいぞ。ここまでにしといた方がいいんじゃねえか?」

「ふふっ、それはどうかな?」

 百代の表情に訝しがりながら試合の終了を薦める悟空。しかし、百代は余裕の表情を崩さない。
 そして信じられないことが起こる。

「いーっ!!?」

 目の前で起こった出来事に驚愕の声を上げる悟空。何と彼の前でみるみる彼女の怪我が治っていったのだ。そして数瞬後にはまるで最初から怪我などしなかったかのように完全回復していた。

「瞬間回復と言ってな。どんな怪我でも私は直ぐに治せるんだ」

「ひぇー。ズリ-な、そりゃ」

 呆れたと言った表情をする悟空。何時も周りを呆れさせることの多い彼にとってはある意味珍しいことである。
 そんな彼の様子を見ながら百代は問いかける。

「ならどうする? 降参でもするか?」

「いや、オラ、そう簡単に諦めねえぞ。それにおめえとの戦いは楽しいからんな。こんなとこでやめたらもったいねえ」

「そうこなくてはな」

 構えを取り、戦闘継続の意思を見せる悟空。期待通りの答えを見せてくれた彼に百代は今日、幾度目かになる獰猛な笑みを浮かべると彼女もまた構えを取った。しかし、そこで勝負再開とはならなかった。

「止めんか、この馬鹿孫が!!!」

 その場に戦いを止めるものが現れたからである。


(後書き)
感想の方を見ると、ほとんどの方が悟空楽勝だろうという意見でしたが、とりあえず、この作品のパワーバランスは今回の話しのような感じですすめて行こうと思っています。

PS.一話を微修正しました。
・悟空の神様の神殿での修行歴を2年から1年半に変更
・ポポの選別に亀仙流の胴着を追加



[30266] 3話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:e9c30a7e
Date: 2011/11/14 11:46
 百代の祖父にして川神流の師範、鉄心であった。鉄心の額には青筋が浮かんでおり、怒りの形相を浮かべている。
それに対し、百代は彼の怒りを意にも介さず、彼に負けない位の形相で睨み返し叫びをあげた。

「じじい、邪魔をするな。私は今、これ以上無い位に楽しんでいるんだ!!」

「馬鹿もん、精神修行のための山ごもりだというのに、暴れてどうする!?」

 それに対し、怒声を更に強くする鉄心。二人が今、ここに居たのはあまりに強すぎる百代の闘争本能を制御するための精神修行のためであった。百代はそれを嫌ったが、その修行を終えたのなら強力な対戦相手を用意するという条件で承諾させていたのである。
 精神修行のために山ごもりしているのに、行き成り初対面の相手に喧嘩を売ってしまったのだから、それだけでも怒るのは無理ないが、鉄心更に怒りの理由を付け加えた。

「それにここは、川神の敷地ではないのじゃぞ。みてみい、周りを!!」
 
 その言葉に虚をつかれた百代が周囲を見渡すとそこには大穴の開いた地面や倒れた木々などとかなり酷い状態があった。

「あー、まあ、ちょっとまずかったか?」

「まずいわい!! こんなことでは約束は取り消しじゃぞ」

「あー、それはいい。それよりもこいつとの戦いを再開させろ」

 自らのした自然破壊には多少ばつの悪そうなしたものの、約束についてはどうでもいいとばかりに答える百代。まあ強さの分からない、自分を満足させてくれるかどうか定かではない相手よりも確実に強いと分かり切っている相手との勝負に価値を見出すのは当然の話だろう。それに気付き、鉄心も一瞬口ごもる。

「む……だが、まずは説明せい、その若者は一体誰じゃ?」

「オラのことか? オラは孫悟空だ。それにしても、百代も強かったけど、じっちゃんも相当強そうだな。オラ、戦ってみたいぞ」

 一旦、話しを逸らしつつ、最も気になることについて尋ねる鉄心。尋ねた相手は百代に対してだったが、代わりに答えを返す悟空。その答えを聞いて鉄心は考える。

(ワシの実力を見抜くか。まあ、モモヨと互角に戦える程のものならそれは当然として、いきなり戦いたいと言ってくるとはのう。モモヨと同じ戦闘狂か? しかし、モモヨとは違い、邪気が感じられん。戦う相手に餓えていないのか、精神修行ができているのか、あるいはその両方か……。理由次第ではこの男の存在、モモヨに対し精神修行よりもいい影響を与えてくれるかもしれんの。じゃが、その前に確認せねばならんか)

「ふむ、孫悟空か、西遊記の英雄と同じ名前じゃのう。中国の出身か?」

 鉄心がまずしなければならないこと、それは悟空の素姓を確認することだった。
彼はこの世界の武術の頂点に立つ川神院の総代である。にもかかわらず、今まで彼は悟空のことを噂すら聞いたことがなかった。悟空は異世界から来たのでそれは当然なのだが、当然のことながらそんな事情など知るよしもない鉄心の立場からすれば、この世界で最強、強過ぎると言われる百代と同等、あるいはそれ以上の強さを持つ悟空の存在を噂ですら聞いたことが無いというのはかなり不可解なことである。最も、表だって知られた世界トップクラスの武術家達に対し、実力で大きく上回る武道四天王のメンバーの知名度が国外ではあまり高くないということもあるので絶対あり得ないという話しでもないのだが。

「いや、オラはパオズ山出身だ」

「パオズ……? 聞かない地名だな? やはり中国のどこかっぽい名前だが。じじい知ってるか?」

「いや、わしも聞いたことがないのう」

 悟空の答えに首を捻る二人。それに対し、悟空があっさりとした調子で爆弾発言を投下する。

「そりゃそうだ。なんてったって、オラ、異世界の人間だかんな」

「「はっ?」」








「ふむ、つまりお主は異世界の神様の弟子で、修行のためにこの世界に来たと……。正直信じられんが、嘘を言っているようにも見えん。何か、証拠となるようなものはあるか?」

 爆弾発言の後、詳しい事情説明を受けた百代と鉄心。人を指導する立場として多くの人間を見て来た鉄心から見て、悟空が嘘を言っているようには見えなかったが、異世界から来たなどというのは鵜呑みにもできない非常識の話しである。証明を求める彼に対し、悟空は頭を書いて悩む。

「証拠つーてもな。どんなのみせたら信じてもらえっか、オラよくわかんねえんだけど」

「そうじゃのう。例えば、この世界に無い不思議な道具などがあれば証拠と言えるかもしれん」

「ああ、だったら、いいもんがあっぞ」

 鉄心の言葉に悟空は荷物のなかから如意棒を取り出す。武器に見え、事実武器として使用できるその道具を取り出したことに二人は僅かに警戒の態度を見せるが、悟空はそれを気付かず、如意棒を天に向けると言った。

「伸びろ、如意棒!!」

 その言葉に答え、一瞬の間に数百メートルの長さにまで伸びる如意棒。それを見て驚く鉄心と面白そうな表情をする百代。如意棒は悟空の世界にも一つしかない貴重品である。不思議な道具と言えばある意味これ以上無い位不思議なものである。

「どうだ? こいつで証拠になっか?」

「うっ、うむ、だができればもう一つ位何かあるといいのう」

「んじゃ、こんどはホイポイカプセル使ってみっぞ」

 如意棒を戻して尋ねる悟空に対し、確信を得るため更なる証拠を求める鉄心。その言葉に悟空は今度はホイポイカプセルを取り出し、その中の一つをスイッチを押して投げる。カプセルの中身が解放され起こる爆発。
 そしてそこに一体のロボットが現れる。

「ナニカヨウカ」

「あれ、おめえ……レッドリボン軍の時の奴だろ。久しぶりじゃねえか!! てっきり壊れちまったかと思ってたぞ」

 掌に治まる小さなカプセルがロボットに変わったことに当然、百代や鉄心は驚くが、悟空はその姿を見て別の意味で驚きの声を投げた。何故なら、そのロボットはその昔、悟空がレッドリボン軍のシルバー大佐の家から壊された筋斗雲の代わり持ち出したカプセルの中に入っていたロボットだったからだ。
 そのロボットの操縦する飛行機に乗って、北のジングル村を目指したはいいが、ロボットが凍ってしまい、飛行機が墜落してしまったため、そのまま別れてしまった相手である。

「アア、コワレタ。ケドオマエヲサポートスルタメ、ポポガオレナオシタ」

「へえー。よかったじゃねえか。よろしく頼むな」

 再開を懐かしむ悟空を他所に百代と鉄心が小声で会話する。

「モモヨ、どう思う?」

「正直、私はあいつと戦えれば素姓とかは割とどうでもいいが、多分本当のことを言ってるんじゃないか? クッキーも大概非常識な変身をするが、幾ら九鬼財閥でも、物体をあそこまで縮小したり拡大したりできたりはしないだろう?」

「そうじゃな。そうするとやはりあの男の言っていることは真実ということか」

 もし仮にホイポイカプセルのようなものがこの世界で開発されたとしたら、それは一般に流通するまで最上級の機密情報として扱われるのは間違いない。そんなものを平気で見せるあたり、悟空が異世界から来たという言葉はかなり信憑性の高いものだった。
 故にここまで見せられた証拠から悟空が異世界を来たという言葉を二人はとりあえず信じることにする。
 そしてそれを踏まえた上で鉄心は改めて問いかけた。

「わかった信じよう。それで、お主はこれからどうするつもりじゃ?」

「んっ、ああ。オラ強い奴と戦う以外に特に目的ねえかんな。とりあえず、おめえ達と戦ってみたいと思ってんだけど」

「ふむ、そうか。確か3ヶ月で元の世界に戻れるのだったな? ならば、それまでの間、川神院で過ごすつもりはないか?」

 悟空の答えを聞いて鉄心はそう提案する。それを聞いて百代は驚いた顔をした。

「おい、じじい。私は嬉しいが、川神院に流派のもの以外のものを入れることになるぞ。いいのか?」

「かまわん。無論、幾つかの場所には立ち入り禁止にさせてもらうがな。戦う場所や日時を任せてもらえれば互いの希望通りモモヨとの対決も認めるし、食事の面倒も見よう。どうじゃな?」

 門外不出の技を伝える川神院としてはかなり異例の申し出だが、これには様々な思惑がある。
 まずは、単純な善意。異世界から来た行くあての無い人間を放りだすのは人情的にできないという考え。
 次に警戒。百代に匹敵する戦闘力を持つ人間を放置することの危険性に対する考慮である。これまで接した感触から鉄心は悟空を善人であると捕えていたが、善人でも窮すれば罪を犯すこともあるし、異世界人であることにより常識の違いから全く悪気なくこの世界では問題行動なる行動を犯す可能性もある。そして鉄心が見誤っており、実は悟空が何らかの企みを持っている可能性も0にすることはできない。それら全て可能性を考慮した上での保護と監視をするという思惑がある。
 最後に期待。同格の実力者が側にいることで、最低でも戦闘に餓えた百代のガス抜きをすることができる。そしてできるならば百代が精神的な成長、変化をしてくれることを鉄心は期待していた。

「メシくれるんか。だったら、オラ全然、文句ねえぞ!!」

 
 そのような思惑など知る由もなく、単純に戦いと食い物、悟空にとって二大欲求とも言えるものを提供してくれると言う提案に飛び付く悟空。
そんな悟空の単純さを見て、そして鉄心の思惑を半分位悟りながら、自分の望みが敵うという状況に百代は楽しそうに笑う。

「くくっ、じじい、珍しく話しがわかるじゃないか。わかった、私も、少しだけ待ってやる」

 そんな百代を見て、師範代への説明など、今後の厄介な面倒を思い溜息をつく鉄心。こうして悟空は異世界の武術の総本山、川神院でホームスティすることになるのだった。



[30266] 幕間
Name: 柿の種◆eec182ce ID:e9c30a7e
Date: 2011/11/03 03:08
 これは川神百代が孫悟空と出会った頃にあった出来事である。
 百代は『風間ファミリー』と呼ばれる友人グループに属している。
幼馴染7人に新人2人を加えたそのグループであり、彼女にとって最も居心地の良い場所に一つである。
 そしてそのグループには9人を纏める一人のリーダーが居る。
彼の名は風間翔一、彼は今、危機に陥り、そしてこの上なく興奮していた。

「くぅ、まさか、この目で本物の恐竜を目にすることができるとはな」

「ああ、全くだ。だが、今はこの危機を乗り切ることを考えないとな」

 翔一は今、父親と共に大きな岩の陰に隠れていた。その岩の向こうには、彼等の会話に出た存在“恐竜”が存在していた。
 全長20メートル程度、ティラノサウルスに似た外見をした巨大な爬虫類。当然のことであるが、翔一が産まれ住む地球には現在そのような生物は存在していない。にもかかわらず、彼等の直ぐ側にそのような存在が徘徊しており、その存在によって彼とその父親は命を脅かされていた。
この状況は九鬼財閥がクローンで絶滅した生物を復活させたと言う訳でもなく、勿論、模型やロボットだと言う訳でもなく、彼等が今居るのが、“彼等が産まれた地球”ではないからであった。
 南米の奥地で発見された遺跡を冒険家である父親と共に探索した翔一は隠し通路を発見。その先にあった『この扉をくぐりし者、強き魂持ちし者ならば、未知なる世界へと誘わん』と書かれた扉を潜った所、一瞬めまいを感じたこと思えば、気がつけば二人は見知らぬ場所、異世界へと移転していたのである。
 そしてそこで二人は恐竜を発見、同時に二人は恐竜に発見され逃走。現在、隠れてやり過ごそうとしているのであった。

「大きな声を出すなよ」

「おう、俺も食われて、消化されるのはごめんだからな。しかし、この興奮を思いっきり叫べないのは辛いぜ!!」

 小声で注意する父親に対し、小声で答える翔一。自由奔放と言う言葉を形にしたような二人であったが、慎重さもなければ冒険家などやっていられない。興奮や緊張から大声をだしたり、物音を立てるような迂闊な真似はしなかった。

「ぐぅぅぅぅぅ!!!!!!」


「……親父、どうして居場所がばれたと思う?」

「嗅覚が鋭いのかもしれんな」

 最も、ミスをしようがしまいが、結果として見つかってしまっては、それは何の意味もないのだが。








「うおおおおおおお!!!!」

「うおおおおおおお!!!!」

 風の如き速さで逃げる二人と追いかける恐竜。最近の定説では骨格等から予想し、ティラノサウルスは走るのに向いた体のつくりをしておらず、巨体を考慮に入れてもその走る速度は人間の足で逃げ切れる程度と言われている。故によく知られた凶暴で強い恐竜とのイメージとは異なり、実際はハイエナのように他の動物が狩った獲物の残りを餌としていたのではないかと予測されているのだ。
 しかしその説が間違っていたのか、あるいはそもそも目の前の恐竜をティラノサウルスと同一視すること自体が誤りだったのか、人間としては快速である二人を上回る速度で恐竜は走り追いかけてきていた。

「くそっ、はええ!!」

「おまけに凄いパワーだな」

 最初に隠れていた岩や木々などの障害物を利用して何とか逃げる二人だったが、恐竜は足が速いばかりでなく、障害物を破壊しながら進むパワーまでも備えており、間の距離は数百メートルもない。加えて走り続けた消耗から二人の体力は尽きかけており、このままでいけば二人が追いつかれ食われてしまうのは時間の問題であった。

「こうなったら翔一、俺が囮になる。お前だけでも逃げろ!!」

「なっ、何、馬鹿なこと言ってるんだ、親父!!」

 自らが犠牲になると発言する父親に翔一が走りながら叫ぶ。それに対し、父親は同じように走りながらニヒルな笑みを浮かべ答えてみせた。

「心配するな。俺一人なら上手く立ちまわって見せる。お前は自分のことだけ考えてろ」

「んなことできるか!!」

 自分も生きて見せるといいながら、父親のその表情には覚悟が浮かんでいた。それに気付き、納得できないと叫ぶ翔一。とは言え、このままでは二人共食われてしまうだけなのは明らかである。何とか打開策を考える翔一。何かいいものは無いかと周囲を見渡し、そこで彼の目にあるものが入った。

「親父、あそこだ!!」

 足を止めあるものを指差す。それは進行方向右手の岩壁に開いた洞穴だった。全長2メートル位の大きさで、人間は入れるが恐竜は入れないサイズ。恐竜のパワーと言えど木と違い、岩は破壊できないだろうから逃げ込むのには最適な場所だった。

「よし、行くぞ!!」

 当然、父親もこれに賛同し、方向転換しその場所を目指す。当然、追いかけてくる恐竜。洞窟までの距離はどんどん小さくなる。だが、それと同時に、二人と恐竜の間にある距離も詰まって行く。

「くっ、間に合え!!」

 長時間走り、疲労の溜まった体に鞭打って二人は走る。
 洞窟までの距離は後、100メートル。

「あと、一息だ、翔一!!」

残り、70メートル。

「親父踏ん張れ!!」

40メートル。

「「うおおおお!!!」」

 気合いの叫びをあげる二人。だが、そこで二人の強運は尽きた。洞窟まで後、20メートルと迫った所で、恐竜が二人に届く距離にまで追いついたのである。二人を喰らおうと大口をあけ迫る恐竜。

「くっ」

 流石の二人も死を覚悟し、そして、鮮血が舞った。

「!?」

 牙を折られ、口から血をだした恐竜の鮮血が。
 それを為したのは一人の男。二人が目指した岩壁の上、崖になっている所からその男は飛びおり、そしてその勢い恐竜の顔面に蹴りを見舞ったのである。
 そしてその男は一旦、地面に着地すると再び飛びあがり、その両手を獣のかぎ爪のような形にし、恐竜の顔面に連撃を見舞った。

「狼牙風風拳」

 狼の牙を連想させる鋭さを持って、マシンガンの弾丸の如き速さを持って振るわれる連撃。それを受け、恐竜は白目を向くと昏倒しその場に倒れた。

「すげえ、まるでモモ先輩みたいだ」

 感嘆の声を上げる翔一。ちっぽけ人間が巨大な恐竜を虐げる。あまりに非常識な話しである。そのような非常識なことができそうな存在を彼は今まで一人しか知らなかった。
 そして、彼にとって二人目となった非常識な存在が二人のもとへ近づいてくる。

「危なかったな。怪我はないか?」

「おう、助かったぜ!! 俺は風間翔一。あんたは!?」

 興奮し、名前を恩人に対し名前を尋ねる翔一。少しばかり失礼な行動であったが、男は特に気にした様子もなく、苦笑だけを漏らす。

「その様子だと大丈夫そうだな。ああ、俺の名前だったな……」

 そして男は自らの名前を名乗った。

「俺の名はヤムチャ。武闘家さ」


(後書き)
普通の物差しで測れば、すっごく強いヤムチャが普通にかっこいい話って感じで書きました。
後、無印DBの世界はキャップに物凄く似合いそうだなあって思って書きました。



[30266] 4話(補足追加)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:e9c30a7e
Date: 2011/11/14 09:41
「ねー、ねー、みんな聞いて。今度ねえ、うちに居候が増えるんだって」

 金曜集会で一子が切りだした話題に、風間ファミリーの注目が集まる。

「居候、なんだってまた。どういう奴なんだ?」

 友人の家に人が増えるということに関し、好奇心と心配が7対3位で混じった疑問を発する大和。ちなみに、心配よりも好奇心が多いのは川神百代他、川神院の人達に対する信頼からである。彼女等に対し危害を加えられる相手を想像することがまず難しい。

「んっとねー、お姉様とじーちゃんが山ごもりの最中に会った人で、何か異世界から来た男の人なんだって」

「はっ、異世界? 一子、お前、頭大丈夫か?」

 一子の口から飛び出した非常識な言葉に岳人が呆れた表情をする。他のメンバーも似たりよったりで、中には本気で心配しているような表情を浮かべているものも居た。それに対し、一子が怒る。

「失礼ね!! まあ、アタシも最初、お姉様から話しを聞いた時は流石に信じられなかったし、しょうがないと思うけどね。なんでも九鬼君のとこでも作れないような凄い道具を持っていて、お姉様と互角に渡り合ったんですって。しかも年齢もお姉様と同じ17歳らしいわ」

「姉さんと互角って、まさか格闘でか!?」

 一子の言葉に信じられないと言った感じで叫ぶ大和。姉を目標と、将来はそのライバルとなることを目指す一子は少し複雑そうな表情で頷いた。一子の肯定見て驚く風間ファミリーのメンバー達。百代の超人的な戦闘力を知る彼等にとって、彼女に匹敵する戦闘力の持ち主が居て、しかもそれが自分達と同世代だと言うのは驚嘆に値する話しであった。

「九鬼財閥でも作れないような道具って言うのも凄いね。それが本当なら、確かに異世界から来たって言う話しも信じちゃうかも」

 京の言葉には説得力があった。風間ファミリーの番外メンバー的存在であるクッキー、人間とほぼ同じレベルで思考するロボットを作れるなど、九鬼財閥の技術力は他組織に比べ、数十年先を行っていると言っていい。その技術力を凌駕する道具を持っており、百代に匹敵する戦闘力を持つ人物と言うのは確かに異世界人と言われても信じてしまえるし、実際、百代と鉄心はこれらの証拠を持って、悟空の話しを信じたのである。

「異世界人か……キャップが居れば会いたがっただろうな」

「寧ろ、既に飛び出して行ってそうな気がするね」

 異世界人の存在を皆が信じ始めた中、クリスがふと思いついた言葉を口にし、モロがそれに同意する。
 風間ファミリーのリーダーである風間翔一は好奇心の塊のような男で、今は父親と一緒に冒険中のため、この場にいないが、もし居れば異世界人の話しに一番の興味を示したのは間違いない。モロの言うように飛び出して行ってしまう光景も想像するに容易いものがあった。
 しかしその話題の当人が、今、現在異世界に居り、しかも話題の異世界人の友人と共に居るなどとは流石に彼女達の想像の斜め上であったが。

「しかし、キャップじゃないが俺様もちょっと興味があるな」

「そうですね。私、異世界の人ともお友達になってみたいです」

 異世界人に興味を示す岳人と由紀恵。それを聞いて大和が少し考え込んだ後、一子に質問する。

「ワン子、その異世界人は何時から川神院に住むんだ?」

「んとね、来週の月曜からだって。それまでは向こうでお姉様とじいちゃんと一緒に修行してくるらしいよ」

「3日後か……。よし、みんな、3日後に川神院に遊びに行かないか?」

 大和の提案にクリスが顔を顰め、少し窘めるような口調で行く。

「相手に断りも無く会いに行くのは失礼ではないのか? 引っ越しのその日に初対面の相手に尋ねて来られても相手は迷惑だろう」

「別に異世界から来た人に会いに行こうって訳じゃない。友達の家に遊びに行くだけ、そして修行から帰った姉さんを出迎えるだけだ」

 常識的なクリスの突っ込みに対し、大和は屁理屈じみた言い訳を述べる。転校して当初、本当に世間知らず出会った頃のクリスならば、彼の言葉を信じていたかもしれないが、他ならぬ大和にさんざん揉まれ、成長した彼女はその意図を見抜いて見せた。

「それはどう考えても建前だろう? それ位はわかるぞ」

「ああ、だけど単なる好奇心からじゃない。理事長が認めた話だから大丈夫だと思う。俺達が心配するようなことじゃないかもしれないけど、姉さんと互角で、九鬼財閥にも造れないような凄い道具を持っている奴だ。警戒はして置きたい。川神院に、姉さんやワン子に危害を加えるような奴でないのが自分の目で確かめておきたいんだ」

「そうだね。私も少し心配。特にワン子が」

 クリスの指摘を認める大和。
 そして彼は真剣な表情になると、自分の気持ちを正直に述べた。川上院はこの街では不死川や九鬼、綾小路に匹敵する権力をもっている。当然の如く外敵も多いのだ。何らかの企みを持った存在が近づく可能性は決して低く無い。
 その言葉を聞いて納得するクリスと同意の意を示す京。

「そういうことなら私も吝かではないな。その異世界人を名乗る男が、万一、不埒な輩であれば、私が成敗してくれる」

「モモ先輩と互角の相手にクリス一人じゃ無理」

 クリスの決意に突っ込みを入れる京。無粋な突っ込みに怒ろうとするクリスだったが、それよりも早く京が再度口を開く。

「だから、その時は私達全員で対処する」

 その言葉にクリスは出そうとした言葉を止め、そしてその代わり、その場に居た者達が次々と同意の言葉を発した。

「そうだね。僕に何ができるかはわからないけど」

「まっ、心配し過ぎだと思うが、もしもの時は、勿論、俺様も協力するぜ」

「はい、私も及ばずながら」

 いざと言う時には例え命をかけてでも仲間を守る。全員がその覚悟とその覚悟に繋がる強い絆を持っていた。直接、口に出さない者達も心は一つである。

「まっ、岳人の言う通り心配し過ぎかもしれないし、その人が本当に何の悪意も無いって言うのなら、それが一番なんだけどな」

 そこで大和が釘をさす。
 警戒は必要だが、警戒し過ぎて、敵意の無い相手を攻撃してしまうのは最悪である。まずは、見定めることが大切と指摘し、その後しばらくして金曜集会は解散となるのだった。







 一方、その頃、悟空と百代は風間ファミリーの懸念も知らずぶつかり合っていた。

「てりゃああ!!!!」

「とおおおおおお!!!!」

 上空50メートルにまで跳びあがった二人の拳が激突する。
 そして、その二人の足元で悲鳴を上げる人物が一名。

「お前等少しは加減せい!! 結界を張り続けるこっちの身にもならんか!!」

 周囲に被害が及ばないよう結界を張り続ける鉄心。
 しかし如何に川神院総代の彼とて、この二人の力を抑える結界を張ると言うはあまりにも負担が大き過ぎることであった。

「ははは、悪いなじじい。だが、1敗2分け、初敗北の借りを返すまでには手加減できん! いくぞ悟空」

「えーと、いいんか?」

「おう、かまわん!!」

「よし、なら、行くぞ!!」

 鉄心の負担に対し、全く気にした様子を見せない百代とほんの少し躊躇いを見せるものの、百代の言葉にあっさり意を返す悟空。

「か~め~は~め~」

「か・わ・か・み」

「やめんか、この馬鹿等がああああああ!!!!」

 悲鳴と怒りの混じった叫びをあげる鉄心を無視しに二人は気を集中させていく。

「「―波!!!!」」

 そして悟空のかめはめ波と百代のかわかみ波が激突し、結界は見事に吹っ飛ぶのであった。




(後書き)
真剣世界の時間軸は大和が2年の夏休み中です。
原作のイベントはいくつか起きていますが、大和は誰ともくっついておらず、川神大戦、KOS、一子の師範代試験、竜舌蘭ルートでの出来事のようなでかいイベントはまだ起こっていないという設定です。
後、感想にありましたが、ドラゴンボール世界側の時間設定は悟空が神様の宮殿で修行しているころですので、当然、幕間のヤムチャもその頃のヤムチャになります。盗賊の頃のヤムチャでは恐竜に勝てないでしょうし……チチが勝ってて、そのチチにヤムチャは勝ってるからいけるかも?

PS.強さ議論の感想が多いので、その辺について私の考えを大雑把に説明させていただきます。
 あくまで私の解釈なので異論のある人も多いと思いますが、このSSではそんな感じのパワーバランスだという話しです。

 まず、百代がフリーザ並と言うのは、原作で、まゆっちが「一般人の戦闘力を5とすると百代が最低でも一千万不可思議、下手をすれば無量大数」と言っていることに関し、一千万不可思議を一千万だと勘違いされた方がいるのではないかと思います。
 一千万不可思議は現在では使われていない数字の単位で10の87乗になり、この単位を含めた数え方だと無量大数は10の88乗になります(ちなみに現在の数え方では無量大数は10の68乗)これがDBの戦闘力とイコールだとするとフリーザどころか、スーパーサイヤ人4のゴジータでも足元にも及ばない強さになると思われます。これについては作中の描写と比べてみて、真面目な数値とは考えづらくネタだと判断しました。元々、真剣恋はパロの多い話ですし。っと、言う訳でもこの数値は強さの考察からは完全に無視しました。
 次にDB側ですが、亀仙人の月破壊については後の描写(彼よりも強いピッコロ大魔王やテンシンハンが気のほとんどを費やして放った攻撃が街破壊やそれ以下の威力なこと)と矛盾することなどから考察対象としては半分除外し、百代がやったように大気圏外に突き抜けるような気弾を無印DBのキャラでも撃てる程度の参考としています。
 また、亀仙人の強さ描写として発射されたマシンガンの弾を全て掴むというものがありますが、これに対し、原作で武道四天王の一人である揚羽が発射されたショットガンの弾を全て掴むという比較的近い描写がありますのでこの辺を基準にしてパワーバランスを設定しました。本当はもう少し前の時期の悟空の方が丁度いい気もしましたが、大人悟空にしたかったので、この時期を選びました。両作品のキャラが活躍できるよう多少バランス調整したりする部分はあると思います。
 以上です。矛盾はあると思いますが、あまり細かいところは気にせずに読んでもらえると嬉しいです。



[30266] 5話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:e9c30a7e
Date: 2011/11/19 08:05
「お姉様、お帰りなさい!!」

「おう、妹、姉を出迎えとはいい心がけだ」
 
 一子が金曜集会で悟空のことを話してから3日後、予定通り川神院に帰ってきた百代に一子が飛び付き、それを受け止めた百代はそのまま彼女を撫でまわす。

「姉さん、お帰り」

「んっ、大和か。あれ、他のみんなも居るのか?」

 そこで一子の後ろから現れる者が居たキャップを除くファミリーのメンバーである。少し驚いた顔をする百代。

「みんなで姉さんを出迎えようと思ってね。それと、噂の居候の人を見てみたいと思って」

 百代から問われる前に理由を正直に告げる大和。最も、嘘は言っていないだけで明らかにわざと説明をしていない部分はあるが。

「……何か、隠し事してないか?」

「いや、してないよ」

 鋭く気付く姉と全く動揺せずに答える大和。それを見て百代は大和に対し、おもむろヘッドロックをかけた。

「いい度胸だな舎弟。姉に隠し事ができると思っているのか?」

「いや、ほんとにしてない、してないから!!」

「往生際が悪いな。それに、一緒に居ると言う事はお前達も知ってるな、一体何を隠しているのかを」

 顔をあげジト目で風間ファミリーのメンバーを見る百代。その視線にたじろぐファミリー達。ちなみにヘッドロックはかけたままであり、その腕の中の大和が悲鳴を上げ続けている。

「居候の人が不審者で無いか確認しにきた」

 そこで京があっさりと薄情する。それを聞いて、百代は一瞬、不意をつかれた顔をした後、その意味を理解したらしく、納得した表情に変わる。

「あー、そういうことか。まあ、確かに怪しいよなあ。何てたって異世界人だもんな。そんな奴が友達の家に住みつくなんて話し聞いたら心配の一つもするか。にしてもさー、それを私に秘密にするとか仲間外れにされてるみたいで嫌だなー」

 うんうんと言った表情で頷きながら嫌味を言う百代。それを聞いて、由紀江が慌てて弁解をする。

「すすす、すいません。あの、決してこれはですね。モモ先輩を仲間外れとかそういうことではなく、確証も無い内からそういうことを話して、モモ先輩や居候になった方を不快にさせてはと言うことでして、単なる心配のしすぎだったらその時は正直に話して大人しく怒られて、その後は笑い話にでもできればと言った訳でして……。あー、すいません、こんな言い訳ばかり!! でも、大和さん達はモモ先輩達のことを心配して……」

「あー、いい、いい。まあ、お前達の気持は嬉しい。だが間違いなく心配のし過ぎだな。あいつが何か悪だくみしてるとかそう言うことはまずありえん」

 必死な様子の由紀江を宥め、悟空を警戒する必要は無いときっぱりと言い切る百代。あまりに信用し過ぎているような言葉に逆に不安を覚えたモロが尋ねる。その言葉には仲間以外に対し、信頼を向ける彼女の言動に対する僅かな嫉妬も混じり、少しトゲのあるものになる。

「どうしてそこまで言えるの? 世の中には表面を取り繕うのが上手い人とかも居ると思うけど」

「あー、それは見てもらった方が早いな。あいつは今、広間で飯を食ってる筈だから行ってみろ。直接、会ってみれば直ぐわかるぞ。あいつを疑う程、馬鹿らしいことは無いってな」

 呆れを顔に浮かばせた表情で言う百代。その意味がわからず、怪訝な表情を浮かべながらも、言われた通り、広間へ向かう大和達。
 そして広間に辿りつき、少し緊張の面持ちになる大和達。そんな彼等の態度を無視して百代が無操作に扉を開ける。
 そして、そこには彼等が見定めようとしていた人物の姿があった。

「んっ、むぉむぉよ、おめえもめしくぅいにきたふぁんか? んっ、ふぉいつらだわれだ?(んっ、百代か。おめえも飯食いに来たんか? んっ、そいつら誰だ?)」
 
 飯を頬張り、頬をリスのように膨らませた状態で物を話す孫悟空の姿が。
 





「私の愛しい友人達だよ」

「へえー、お前等、百代の友達なんか。オラ孫悟空だ、よろしくな」

 百代の簡潔な紹介に、口の中の食べ物を飲み込むと、箸とどんぶりを持ったまま屈託の無い笑顔で言う悟空。そのあまりの無邪気さに大和達は一気に毒気を抜かれる。

「ああ、よろしくな孫。俺は直江大和。えと、確か姉さん、百代姐さんと同い年なんだよな。敬語の方がいいかな?」

「ああ、別にいいぞ。オラ、そういうのあんまよくわかんねえし」

「なら、このまま話させてもらう」

 とりあえず、当たり障りの無い言葉で自己紹介をかわす大和。
そしてそこでは切りこんだ言葉を放とうとする。

「ところで、孫は異世界から来たってことだけど……」

「おう、この世界のつええ奴と戦って鍛えてこいって言われてんだ。百代や鉄心のじっちゃんはすげーつええし、この家には強そうな奴が一杯いるし、オラもうワクワクが止まんねえぞ!!」

 それに対して返って来たのは何の裏も感じさせない単純な答え。二人のやりとりを見ていた百代が笑って、大和の耳元で囁くように言った。

「なっ、心配するだけ馬鹿らしいだろう?」

「……ああ、そうかもな」

「なんか、無邪気過ぎるね、この人」

「何て言うか、キャップとワン子を足したような感じだね。純粋っていうか無邪気っていうか。天然かな、一言で言うと」

 百代の言葉通り、ファミリーの中でも特に排他的な傾向の強い京やモロですら疑うのが馬鹿らしくなりつつあった。
 まだ少ししか言葉をかわして居ないが、何か企んでいると疑うには悟空の言動一つ一つがあまりに子供っぽく邪気を感じさせないのだ。加えて彼等の身近にも天然で無邪気、奔放な性格をしている人物がいるので、こう言うタイプに対し、親近感を覚えてしまうと言うのもあるし、演技で取りつくろった偽物であれば見破れる自信があると言うのもある。
 そんな訳ですっかり気を許した彼等は悟空に対して自己紹介をすることにした。

「私は川神一子、ワン子って呼んでね」

「椎名京」

「クリスティアーネ・フリードリヒ、クリスと呼んでくれ」

「島津岳人だ。ナイスガイでもいいぞ」

「師岡卓也、モロって呼ばれるね」

「えと、その、黛由紀江です」

「んと、大和に、ワン子、京に、クリス、岳人、それにモロにユキエだな。よし、覚えたぞ!」

 一度に自己紹介されたにも関わらず一発で全員の名を覚えたらしく、笑みを浮かべて言う悟空。
 そして彼は一つの疑問を発した。

「そいや、ワン子、おめえ、百代と同じ名字だな」

「うん、私はお姉様の妹なのよ」

「妹?ってことは姉妹ってことだろ?その割に似てねえな」

 その発言に許しかけた気を引き締め、敵意の視線を向ける京とモロ。それに対し、一子本人はそれ程気にせず、苦笑いだけを浮かべて自分の身の上を説明する。

「私は養女だから、お姉様やじーちゃんとは血のつながりは無いの」

「そうなんか、道理で似てねえと思った。けど、なら、オラと一緒だな。オラも赤ん坊の頃、山ん中捨てられて、じっちゃんに拾って育ててもらったんだぞ」

 一子の家庭の事情を聞いても、気まずい雰囲気を一切だすことなく、ただ納得したと言った風な反応をする悟空。
そしてあっけらかんとした調子で自分の身の上が同じような感じであることを語ってみせた。その話に百代を含め、全員が驚いた表情を浮かべた。

「そいや、ワンコ子のじっちゃんって、鉄心のじっちゃんだろ? ワン子は鉄心のじっちゃんから武術を習ったんか?」

「うーん、直接の指導はルー師範代からの方が多いけど、一応じーちゃんからも少しは教えてもらったかな」

 悟空の質問に少し考えて答える一子。その言葉に悟空は予想が当たったとばかりに嬉しそうな表情になって言った。

「やっぱそっか。オラのじっちゃんも武術家で、オラも最初はじっちゃんから拳法、習ったんだぞ」

「へえー、そうなんだ。凄い偶然だね。えと、孫君でいいかな?」

「おう、いいぞ。けど、その呼び方何かブルマみてえだな」

「ブルマ?」

「ああ、ブルマってのはオラの仲間で……」

 思わぬ共通点の多さに目を丸くする一子。
 そして親近感が増したらしい二人の間で会話が弾む。それを見て由紀江が大和に話しかけて言った。

「すっかり、仲良くなっちゃいましたね。一子さんと悟空さん」

 その声を耳に聞き、一子との話しに夢中になっていた悟空が彼女達の方に視線を向けて言った。

「おう、ワン子おもしれえ奴だかんな。それに百代からおめえ達の事はいっぱい聞かされってっけど、みんな頼りになるいい奴等だって聞いてっぞ。確かにおめえらかなり鍛えてるみてえだな。特にユキエ、おめえかなり強えだろ? オラ、戦ってみてえな」

「ああ、やっぱりわかるか。私も前々からそう思っててな。是非とも戦ってみたいと思ってるんだが、どうにも乗り気になってくれないんだよな」

 悟空の言葉に共感して彼の肩を叩く百代。二人して由紀江に視線を向ける。見られてたじろぐ由紀江。それを庇う意味も込め、大和が彼女の前に立ち、百代に対し質問した。

「なあ、ところで姉さん、孫が姉さんと互角ってのは本当のなのか?」

「んー、あー、そうだな。なんなら、お前達で試してみたらどうだ? こう見えてもこの男は割と器用だからな。手加減、結構上手いぞ」

 大和の質問に何故か言葉を濁し、代わりにとんでもない提案をする百代。
 由紀江はまだしも、他のメンバーと百代との間にはあまりにも大きな力の差がある。その百代と互角に戦った相手と勝負など如何に相手が手加減してくれるとは言え、無謀でしか無い。しかし、そこで立候補するものが居た。

「ふむ、ならば自分が行こう。モモ先輩と張り合う程の実力者、勝てると思う程自惚れてはいないが、いい経験となるだろう」

「あー、クリ抜け駆けする気!! そうはさせないわよ!!」

 クリスと一子である。両者は張り合うように悟空との対戦を望む。
 そこで更に京が手をあげた。

「モモ先輩クラスの相手に一人ずつ言っても瞬殺されるだけだから、私を加えて3対1ってことでどう?(……最低限、かっこつけさせないとクリスはともかくワン子は落ち込んじゃうかもしれないしね。もしかしてモモ先輩はそれが狙い?)」

 参戦の意と、3対1の戦いを提案する京。後半の言葉は口に出さず内心でだけ呟く。

「3対1か……。悟空、構わないか?」

「おう、いいぞ!」

 百代の問いかけに対し、やる気を示す悟空。こうして武士娘3人と悟空は試合をすることとなるのであった。



(後書き)
今回は難産でした。展開についてかなり推敲したつもりですが、少し強引な展開が多かったかも。不自然に感じなかったでしょうか?もしかしたら、展開そのものを直すかもしれません。



[30266] 6話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:e9c30a7e
Date: 2011/11/14 09:42
 一子は長刀、クリスはレイピア、京は弓、それぞれの得意の武器をもち、それに対し、背中に如意棒を背負った悟空。
 そしてその両者の間には審判として百代が立ちあっていた。

「西方、川神一子、クリスティアーネ・フリードリヒ、椎名京」

「はい!!」

「はい!」

「はい」

 答えると共に武器を構え闘気をたぎらせる武士娘3人。
 
「東方、孫悟空」

「おう、オラ何時でもいいぞ!」

 如意棒は抜かず素手のまま自然体を取る悟空。

「いざ尋常に……始め!!」
 
「やあーーー!!!」

 百代の試合開始の言葉が発せられると同時に気合いの掛け声をあげながら飛びだす一子。先手必勝とばかりに初撃を放つ。その一撃はかなりの鋭さがあり、しかしやや大振りで単調さが目立つ上段からの振り下ろしであった。

「よっと」

 その一撃を切っ先を見切り、紙一重でかわす悟空。攻撃をかわされた一子は直ぐ様体勢立て直し2撃目を放つが、しかしそれも回避される。

「はあっ!!」

そこで今度はクリスが飛びだす。放たれるレイピアの一撃。真っ直ぐに伸びた鋭い突きが悟空の身体を貫く。

「クリス!!」

 叫び、同時に矢を放つ京。悟空の身体を貫いた一撃は、クリスの腕に何の手ごたえも与えず、悟空の姿が空に書き消える。彼女が貫いたのは彼の残像であった。
 そして本物の彼はクリスの真後ろに一瞬で移動していた。しかし、それを見逃さなかった京が彼に向けて矢を射たのである

「いい目してるな、おめえ」

 京の放った矢を掴み、自分の動きに反応して見せた京に対し、感心した様子を見せる悟空。
 それに対し、間近で見た悟空の動きに脅威を感じる一子達。しかしながら臆することはなく、一子が再び彼に向かって飛びこんでいく。

「たあ!!」

 一子は真っ直ぐに近づくと、悟空の眼前、後少しで手が届く位の距離に近づいた所で、長刀の柄を地面に押し当てると棒高跳びのようにして、上空高く舞い上がって見せた。

「川神流……天の槌!!」

 落下の速度を利用して放たれる強烈な踵落とし、その一撃を悟空は両手を交差して受け止める。

「おめえ、面白い技使うなー」

 両手で一子の踵を受け止めながら楽しそうな表情で言う悟空。
そして悟空は腕を押しだし、一子の身体を弾き飛ばす。空中に投げ出され、無防備に近い状態になる一子。それをフォローしようとクリスと京が攻撃をしかける。

「零距離刺突!!」

「はっ!!」

 クリス必殺の一撃と京の矢が同時に悟空を襲う。しかしそれらの攻撃は一瞬の間に抜かれていた如意棒によって弾かれるのであった。








「すげえな、あの3人相手に一人で互角かよ」

「いや、どっちかって言うと京達の方が押されてるね」

「ああ、けど、ワン子達には悪いけど、この位なら姉さんと互角てのはちょっと大げさだったのかな」

 悟空と武士娘達の戦いを観戦し、3者3様の感想を漏らす風間ファミリーの男3人。そこに審判を務めていた筈が何時の間にか彼等の傍に寄って来ていた百代が現れ、大和の頭を掴んで解説を始める。

「甘いぞ、弟。今の悟空のスピードは本気の2割以下、パワーにいたっちゃあ1割も出してないだろう。総合的に評価するなら私と戦う時は今の50倍は強いな」

「げっ、まじかよ。つうことは、クリス達が100人以上居ても本気をだしたあいつに勝てねぇってことか」

「とんでも無いね。ってか、モモ先輩のとんでも無さの方も改めて理解させられるよ」

 百代の説明に驚愕を通りこして呆れた表情をする岳人とモロ。一子やクリスとて重火器を持った相手にも立ち向かえ、表の世界最強クラスの一歩手前位の実力を持ち、握力100キロ越えの岳人でも敵わない位に強いのである。そんな彼女達の最低150倍は強いと言うのだから悟空や百代が如何に非常識かということがわかる話しである。

「そうだな。だが、今位に手加減した悟空にすら3人がかりで勝てないようではな……」

 そこで一子を見ながら呟く百代。その表情は真剣で辛そうな想いが浮かんでいた。

「姉さん?」

「いや、何でも無い。さて、私もあいつが棒で戦うのを見るのは初めてだからな。手加減しているとはいえ、どう言った戦い方をするのか楽しみだ」

 百代の様子がおかしいことに気付く大和。それに対し、百代は誤魔化すように悟空達の戦いに視線を戻した。
 少し納得しないものを抱えながら大和も視線をそちらにもどす、そこには悟空の攻撃を必死に防ぐ二人の姿があった。









「てりゃてりゃてりゃ!!」

「くっ」

 マシンガンのように連続して放たれる突き、そうかと思うと、旋回させ変化させてくるしなやかで縦横無尽な動きに二人は翻弄されていた。

「っと、ふぃー、京、おめぇ、あいかわらずうめえな」

「どうも」

 京の放った矢を弾いて言う悟空。
 如意棒が抜かれて以降、形勢は完全に彼の有利に変わっていた。しかし二人が追い詰められそうになると京が的確なフォローを入れてくれるので、何とか粘れている形になっている。

「ありがとね京。さーて、そろそろ反撃行くわよ!!」

「意気込むのはいいが、大丈夫なのか? 無策で行って勝てる相手ではないだろう?」

 そこで気合いを入れ直す一子と突っ込むクリス。正々堂々を信条とし、正面から挑むことを好むクリスであるが、力の差を考えればそれは無謀でしかないと分かる。
そしてそんな不安を感じる彼女に対し、一子は妙に自信ありげな態度で答えて見せた。

「ふふーん。クリと初めて戦った時、お姉様に言われたのよ。『もっと本能で戦えって』」

「……それは、無策で突っ込むというか?」

 一子の表情にクリスが呆れの表情を浮かべる。それに対し、一子が怒って叫ぶと、自分の作戦を説明した。

「違うわよ!! いい、まずアタシが突っ込むから隙をついてクリスが攻撃して」

「ふむ、だか、それではこれまでと同じではないのか?」

 この戦い一番足を引っ張っているのは一子である。彼女がピンチになり、他の二人がカバーする。あるいは、一子とクリスがピンチになり、京がカバーする。大まかな流れはこの繰り返しだ。今、言った一子の作戦ではこれまでの流れを繰り返すだけのように思える。
 そして一子の方も、そのことに自覚があったらしく、少しばつの悪そうな表情をした。しかし、直ぐに前向きな表情になって言った。
 
「まあね。けど、次はちょっと違うわよ。今までは悟空君に隙を作るところまでいかなかったけど、今度はやって見せるわ。戦いながらちょこちょこ試して、やっとコツを掴んできたから」

「コツ? なにやら、自信がありそうだな。わかった、犬、お前を信じよう」

「任せて!! じゃあ、行くわよ!!」

 作戦が決まり、悟空に向かって飛びかかる一子。それを迎撃しようとする悟空。ここまではこれまでと同じである。しかし、そこからが違った。

「てえええええええい!!」

 悟空の如意棒で放った突きを、一子は薙刀を高速で旋回させ防いで見せたのだ。継いで悟空は2撃目も放つが、一子はそれも回転させた薙刀で防ぐと、踏み込んで更に接近した
 その動き方を見て百代はあることに気付く。

「ワン子の奴、悟空の動きを真似にしたのか!?」
 
 一子が薙刀を旋回させた動き、それは悟空が如意棒を使い、戦いの中で何度か見せた動作によく似ていた。付け焼刃である筈なのに、妙に様になった感じで、百代からみても中々に見事な動きであった。
そして、彼女は必殺の一撃を放つ。

「川神流、山崩し!!」

「っと」

 防御のために旋回させた勢いをそのまま使い、スムーズな流れで放たれ場一撃が悟空の脛を狙う。それをバックステップしてかわす悟空。しかし、突然動きのよくなった一子に驚いたのか中途半端な高さに飛んでしまう。

「そこだ!!!」

 それは千載一隅のチャンス、空中に着地するまで、自由に身動きの取れない一瞬の隙を狙ってクリスが全速で走り込み、その加速を全て生かした突きを放とうとする。それに対し、如意棒を構える悟空。

(取った!!)

 しかし、クリスは勝機を確信する。加速した勢いを使えば、悟空の如意棒で防御しても棒ごと弾き飛ばせる。空中では回避はできない。カウンターを狙ってきても悟空の如意棒とクリスのレイピアでは腕の長さを考慮しても彼女のリーチの方が長いため、成功しない。
 悟空が本気をだせば幾らでも対処の手はあるが、そうでない限り、この一撃が決まるのは確定の筈だった。ただ一つ、誤算がなければ。

「伸びろぉぉぉ、如意棒!!」

「なっ!?」

 それはクリスが悟空の持つ棒をただの棒だと思っていたことである。一気に長さを増した如意棒が高速で接近していたクリスに対し、カウンターで決まる。
 完全な直撃が決まり、その場に倒れるクリス。

「クリ!!」

(馬鹿!! まだ、終わってないぞ)

「っと」

 クリスに気を取られる一子。内心で警告の声を発する百代。
 そして一子の首筋に、彼女が気を取られている間に接近していた悟空の手刀が入れられる。

「これは……駄目だね。降参するよ」

 一子が気を失うのを確認し、仲間2名の戦闘不能に勝ち目無しと判断し、最後に残った京がギブアップをするのだった。



(後書き)
戦闘シーン、前半はDBぽく、後半は真剣恋ぽくを意識して書いてみたつもりです。
両方の作品のバランス取りに苦労しつつ、割と楽しんで書いてたり。



[30266] 7話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:e9c30a7e
Date: 2011/11/14 11:47
 川神院医務室。悟空との戦いで気絶した一子とクリスがそこの部屋のベッドに寝かされていた。他に医務室には大和とモロが居る。一子とクリスが目を覚ますまで交代で誰かが傍につくことにしたのである。何せ、流石に全員で側につくことが出来る程、流石に医務室は広く無かった。

「おっ、起きたか?」

「大和か、何故お前がここに……。そうだったな、確か、私は悟空と試合をしていて……ここが医務室と言う事は私はやられたのか?」

 一子より先にクリスが目を覚ます。
 そして記憶を辿るが、自分がやられたことをはっきりと理解していないようであった。その言葉に心配する大和。

「ああ、そうだ。思い出せないのか? もしかして、記憶が飛んでいるとか?」

「いや、それは大丈夫だ。気絶する直前のことまではっきり覚えている。わからないのは、何故、あのタイミングで相手のカウンターが成功したのかなのだが……」

 クリスは首を振って心配は無いことを伝えると、自分が何に対し疑問を抱いたのかを説明する。その説明を聞いた大和は彼女が何故そのような疑問を持ったのかを理解する。何せ彼等は戦いの後で説明されるまで、如意棒をただの棒であると思っており、長さを変化させる不思議な道具であることなど知らなかったのである。カウンターは一瞬の間に起きた出来事だったので、当事者であるクリスには何が起こったのかわからなかったとしても無理の無いことであった。

「ああ、それはな……」

 大和が如意棒について説明をし、それを聞いて驚いた顔をするクリス。
 そして話しを聞き終えた彼女はしかめっ面を浮かべた。

「なる程、しかし、それは少しずるい気がするな。幾らなんでもそのような武器を使うなど反則ではないのか?」

「いや、そんなことは無いぞ、クリ」

 クリスの不満の言葉に対し答えたのは、ちょうどいいタイミングで交代にやってきた百代だった。その後ろに悟空の姿もある。

「確かに如意棒の存在は幾らなんでも予想できないだろう。だが三節昆のような仕込杖ならば、戦っている最中に長さを伸ばすことは可能だからな。無警戒であったお前の不注意だ」

「むっ……確かにそうだな。すまない、みっともないことを言った」

 百代の指摘を受け、納得するクリス。
そして自分の敗北に対し、言い訳のような言葉を言ったことについて、対戦相手であった悟空に謝罪し、頭を下げる
当然の如く、悟空は全く気にした様子を見せない。代わりに彼女に対し問いかけをする

「んっ、別にいいぞ。それより、おめえ、怪我の方は大丈夫なんか?」

「怪我……いたっ、いたたたたた!!!」

 悟空に言われて体を捻って、自分の身体を点検しようとしたクリス。そこで身体に走る痛みに悲鳴を上げてしまう。実は彼女の身体にはカウンターで入った如意棒の一撃によりアバラ骨にヒビが入っていたのである。動いた表示にそこに力が加わってしまったようだった。

「だ、大丈夫!?」

「あ、ああ、大丈夫だ」

 体勢を直し、痛みを落ち着かせるクリス。そこで悟空が小さな袋を取り出す。

「わりぃ。おめえの最後の一撃、いい感じだったかんで上手く手加減できなかった。これ、飲んどけ」

 謝罪すると袋の封となっていたひもを時、一粒の豆を取り出すとクリスの方に投げる悟空。それを掴み、訝しげな顔をするクリス。

「これは何だ?」

「仙豆って言ってな。どんな怪我でも直してくれる不思議な豆だ」

 悟空の説明を聞いてあまりの胡散臭さに訝しげな顔をする大和。しかし根が素直すぎるクリスはあっさりと信じたようだった。

「ほう、異世界には凄いものがあるのだな」
 
 大和が制止する間も無く、仙豆を飲み込むクリス。次の瞬間、彼女は目を見開き、驚きの声をあげた。

「むっ、これは!!」

 自分の体を捻り調子を確認するとベットから立ちあがる。
そして勢いよく身体を動かし始め、改めて歓声をあげた。

「凄いなこれは!! 本当に怪我が治ったし、疲れも何もかも吹っ飛んだぞ!!」

「なっ、すげえだな?」

「ほう。私の瞬間回復のようなことが誰にでも起こる訳か」

「「………」」

 素直に感動を現すクリスと少し自慢気な様子の悟空、普通に感心する百代。その横で3者に比べば常識人な大和とモロは何と言っていいか分からず立ち尽くす。
 なんやかんやで騒がしくなった病室。その影響で一子がそこで目を覚ました。

「う、ううん、どうしたの……みんなで騒いで」

「あっ、ああ……実はな……」

 目を覚ました一子に試合の決着についてや先程起こった出来事を説明する大和。話を聞いた一子は少し悔しそうな顔をした。

「そっか、結局、負けちゃったのか」

「ああ、だがワン子、最後のはなかなかよかった。あれはやはり悟空の動きを真似したのか?」

 それに対し妹に甘いが、戦いに関しては割と厳しい指摘が多い百代が珍しく彼女の健闘を称えてみせる。
そして気になっていた一子の動きに対し尋ねた。
 尋ねられた方の一子は、一瞬驚いた顔をした後、褒められたことに笑顔を浮かべ、説明を始める。

「うん、前にお姉様に『下手に考えず、もっと、本能で戦えって言われたでしょ』けど、アタシどうしたらいいか全然わからなかったの。意識するとかえって動きがぎくしゃくちゃうし、本当に何も考えずにやったら直ぐやられちゃうだろうし。他の人の戦い方を参考にしようかとも思ったんだけど、ルー師範代やお姉様の動きを見ても何かしっくりこなくって。そしたらね!! 今日、悟空君を見てピーンと来たの。一目見て、“これだ!!”って思ったのよ!!」

「なるほどな」

 興奮した様子で勢いよく言う一子の説明を聞いて百代は得心を得る。一子の指導者であるルー師範代は理性が強く、本能に頼るよりも寧ろ考えて戦うタイプである。百代はどちらかと言えば本能で戦うタイプであるが、野獣のような闘争心を持ち攻撃的な彼女の戦闘スタイルは一子とは明らかに異なる。
 それに対し、高い闘争心を持ちながら奔放に戦う悟空のスタイルは一子の目指すべきものに近いところがあった。一子がすんなりと動きを真似ることができたのもこの近さ故であった。勿論、それは彼女の下積みとなっている膨大な努力、基礎があってこそであるが。

「しかし悟空、お前の戦い方は素手の時と武器を持っている時で随分と印象が違うな」

 だが、納得したことで彼女にはまた新たな疑問が浮かぶ。悟空と一子で戦闘スタイルが似ていると言ったが、それは武器を持っている時限定の話である。素手の時の悟空は無駄な動きが少なく、どちらかと言うとルー師範代に近いものがあった。

「んっ、そうか? オラ、意識してねえけど。……そういやあ、オラ、神様んとこで修行し始めてから如意棒で戦ったのて、一子ん達と戦うのが初めてだ。もしかしたらその所為じゃねえか?」 

「なる程、新しい師によって戦闘スタイルがより高度なものに変わったと言う事か」

 『心を空にし、雷よりも速く動く』これが神の教えであり、それを実践した結果、悟空の戦闘スタイルは確実に変化していた。従来の野生のパワーを全開にした動的な動きをするスタイルから、本能的な直感を研ぎ澄ませながら平静で無駄のない動きをし、パワーを瞬間的に爆発させる形へと進化しつつあるのである。
しかし神の修行後、如意棒を扱ったことがなかったので、昔の要領で扱おうとし、スタイルも昔のそれに近いものになったと言う訳であった。
 尚、進化した悟空のスタイルはタイプの似ている一子にも当然、適している。だが非常に高度な戦い方で、悟空ですら未だ完成させていないものであるため彼女には10年どころか20年は早いと言わざるを得ない。

(悟空の動きを取りこめば、一子は確実に一段上のレベルに上がれる。だが、それがいいことなのかどうか……)
 
 状況を理解した百代は内心で苦悩する。実の所、百代は一子に川神流師範代になるという夢を諦めさせるつもりであった。
 悟空と戦わせたのもその一環。最終的な引導は無論、彼女自身が渡すつもりであったが、頂点との力の差を自覚させたかったという意図があった。同時に、もしも戦いの中で一子が期待以上の資質を見せてくれたのならば考え直すことも彼女の頭の中にはあった。妹の夢を応援したいという気持ちも、彼女が師範代として自分をサポートしてくれるのならばこれ以上に心強いというのも嘘では無い想いとしてあるからだ。
 そして、戦いの中で見せた彼女の実力は最後の動きを見せるまでは万に一つも川神院師範代になる資質は無いと言うものだったが最後に彼女は可能性を見せた。しかし、それはあくまで可能性、それも微かなものでしか無いのである。

(可能性が答えになるまでには時間がかかる。そしてその時には別の道を選ぶ選択肢は狭まっているだろう。万に一つの希望を目指すか、それとも……)

 家族としてどうするべきか苦悩する百代。しかし、彼女が結論を出す前に、一子が百代が考えていたことを言ってしまう。

「悟空君、お願いがあるんだけど、これからもアタシと稽古の相手をしてくれないかな?」

「おう、いいぞ。鉄心のじっちゃんから、街が壊れちまうといけないからしばらくモモヨとの対戦は禁止するって言われってからな。オラもやることなくてどうしようかって思ってたとこだ」

「って、おい!!」

 思わず叫ぶ百代。彼女に視線が集まる。誤魔化すように咳払いして言う百代。

「いや、一子、あのな……」

「お姉様、もしかして駄目? 川神流以外の人の動きを学ぶのってもしかして禁止だった?」

 何とかごまかしの言葉を言おうとする百代。しかし、怒られると思ったのか目を潤ませ、上目づかいで自分を見る一子の姿を見てたじろいでしまう。

「いや、そんなことはない。他流の技を取りこみ発展させていくのは武術家として正しい姿だ。勿論、盗まれる方からすれば面白いことではないから、川神院のように門外不出と定め、教授を禁じたりもする。だが、見て盗んだことに対し責めるようであればそれは武術家として失格だろう」

「なら、いいのね!!」

「うっ、まあ……な」

 義姉の承諾と取れる言葉に笑顔を浮かべる一子。それに対し、言葉に基本、妹に甘く、行動を制限する正当な理由もないため、結局、頷いてしまう。

「あっ、それと悟空君。もう一つお願いがあるんだけど。クリの怪我を直した仙豆って奴って古傷にも効くのかな? もし、効くなら一つ欲しいんだけど」

 その言葉に目の色を変える大和とモロ。これまで武術の話しをしており、門外漢の立場であるため、黙っていた二人だったが、心配し少し体を乗り出す。

「ワン子、お前、古傷なんて抱えてるのか? どっか、痛むのか?」

「あっ、いや、そうじゃなくて。九鬼君にあげようかと思って」

 九鬼英雄、大和達と同じ学校のエリートクラスに在籍し、九鬼財閥の御曹司である。彼は一子に惚れており、アプローチをかけ続けている。それに対し、自分に対しどうしてそこまで好意をもつのか疑問に思った一子が尋ねたことがあり、その時彼はその過去を語った。
 英雄は昔、野球をやっていて本気でプロを目指していた。しかしある日、富裕層を狙ったテロに合い、腕に大きな怪我をし、野球をすることが出来なくなってしまったのである。
 そして、そんな風に夢を失った過去を持つからこそ、嘗ての自分のように夢を目指し、努力する一子の姿に惹かれ、今ではそれをきっかけにその全てを愛するようになったと言うのだ。

「アタシの知り合いでね、昔に怪我をして今でも腕が上手く動かない時があるんだって」

「そういうことならかまわねえぞ。そいつに渡してやってくれ」

「ありがと」

 一子の簡略化した説明を聞いてあっさり仙豆を渡す悟空。礼をいい笑顔でキャッチする一子。しかしそれを見て大和が難しい表情をし、思いついた懸念を指摘した。

「なあ、ワン子。九鬼の怪我を直してやるのは、おれも一緒にあいつの話しを聞いて、事情を知っているから別に反対しない。けど、そんなことしたらあいつますますお前に好意をいだいちゃうんじゃないか?」

「えっ?」

 大和の指摘を聞いて一子が顔を青くする。好きな女の子からのプレゼント、ましてそれが自分のずっと抱え続けてきたジレンマを解消してくれるものであればそれはどれ程の歓喜かであろうか。しかもそれをくれると言うことは、ある意味相手が自分のことを気にかけていてくれた証明みたいなものである。間違いなく、好意は倍増されるであろう。

「ど、ど、ど、どうしよう!?」

 がくがくと震える一子。一子は別に英雄のことが嫌いではないが、その濃過ぎるキャラを苦手としているのである。その相手からより強烈なアプローチをかけられると言うのは迷惑を通りこして恐怖である。

「あげるのやめればいいんじゃない?」

「そんなことできないよー!!!」

 モロが最も単純な解決方法を指摘する。しかし、お人好しの一子その選択を簡単に選べる筈も無く、結局、しばらくの間彼女は苦悩するのであった。








(おまけ 医務室を出た後の義姉弟の会話)

「ところで、姉さん、さっき孫が神様の所で修行だとか何とか言ってたけど、あれってどういうこと?」

「んっ、ああ、それならば、言葉通りらしいぞ。悟空はなんでも異世界で神と称される存在の弟子をやっているらしい……」

「……本当に非常識にも程があるな」

 立て続けに見せられる非常識さに呆れと共に、大和は百代の言った「悟空を疑う程馬鹿らしくなることは無い」の意味を改めて理解させられるのであった。




(後書き)
前々回で百代が言葉を濁したところは一応伏線です。とりあえず、百代と戦う時、悟空は手を抜いてはいないとだけ答えておきます。

PS.日常編が続いて、単調だという意見がありました。それについては当初の予定ではあと数話日常編(2-Sの生徒との接触とか)書いた後、最終章に突入の予定だったのですが、同じように思っている方が多いのであれば、日常編は短縮しようかと思っているのですが、どうでしょうか?



[30266] 8話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:e9c30a7e
Date: 2011/11/17 20:59
「さーてと、準備万端っと」

「んっ、ワン子、おめえ、何やってんだ?」

 早朝6時、タイヤを2個先につけたロープを腰に結ぶ一子。それを見て悟空が問いかける。

「あっ、悟空君おはよう。朝の修行よ。タイヤを引っ張って走るの」

「へー、おもしろそうだな。オラも一緒にやっていっか?」

「いいわよー」

 一子の話しを聞いて興味を持った悟空は彼女に案内されて修行用のタイヤ置き場からタイヤを運んでくる。一個あたり10キロ前後の重さがあるタイヤを一度に6個も持ち上げて軽々と持ち上げて運ぶその姿は一般人であれば目を丸くするものであろう。

「こんぐらいでいっかな」

「うわっ、すごいわね」

 2往復し12個のタイヤを用意した悟空はそれを全てロープで結びつけ腰に結びつけようとする。それを感心と驚きの混じった表情で見る一子。
ロープが結び終わり、準備が整ったので、二人はタイヤ引っ張り一緒に走りだす。そのスピードは重量物をつけていると思えない位速く、少し身体を鍛えている位の人が普通にランニングするよりもかなり速いペースで走る。

「ユーオーマイシン、ユーオーマイシン」

「んっ、なんだ、それ?」

 いつもの掛け声をあげながら走る一子に悟空が尋ねる。

「えーと、これはねー。えーん、意味忘れちゃった。……っと、とにかく、気合いを入れる掛け声よ!!」

 答えようとし、泣き顔になる一子。その後でそれを勢いで誤魔化すように指を真っ直ぐ突き出し、宣言する。
 ちなみに勇往邁進とは『困難をものともしないで、ひたすら突き進むこと』という意味である。

「ふーん、なら、オラも言ってみっか。ユーオーマイシン、ユーオーマイシン」

「ユーオーマイシン、ユーオーマイシン!!」

 ワン子の説明を聞いて意味のわからない真似する悟空。そのまま掛け声をあげながら走る二人。するとそこで、二人に対し、近づいてくる人力車があった。そんなものに乗る存在はこの街には一人しかいない。

「はっはっはっはっは、九鬼英雄、ここに参上。一子殿、おはようございます。トレーニングですかな? 朝からあなたに会えるとは素晴らしい幸運だ。んっ、そっちの男は誰ですかな?」

 当然の如くその人物は九鬼英雄であった。人力車は一子と悟空の傍に止まりそれに乗る彼は高らかに笑う。風間ファミリーの他のメンバーが傍に居ないために、隠れることもできず、顔が引きつり、後ずさりながら対応する一子。

「あはは、九鬼君おはよう。えっとね、この人は悟空君って言ってね。旅の武術家で、今、川神院に滞在しているの」

「オッス、オラ、悟空だ」

 大和の考えたカバーストーリーを答える一子と片手をあげて挨拶する悟空。
 余計な揉め事を起こしたり、頭がおかしい人と思われるのを避けるため、悟空が異世界人と言う事はあまり言いふらさない方がいいだろうと言う配慮だった。

「ほぅ、川神院に滞在を許されるとは相当な実力者なのですかな?」

 一子の話しを聞いて悟空に興味を持つ英雄。勿論、そこには一人の男として、好きな相手と一緒に居る正体不明の男の素姓を探ると言う感情も多少は含まれている。最も彼はよくも悪くも器がでかいでため、過剰な嫉妬心を抱き、悟空を敵視したりすることは無いが。
 
「うん、お姉様と同じ位、強いのよ」

「なんと!!」

「それは驚きですねえ」

 一子の答えに従者の忍足あずみと合わせと揃って驚きの表情を浮かべる。百代の鬼神の如き強さは川神学園に通うものであれば誰でも知っていることである。最強と言えば百代と言っても過言ではない程で、その強さは完全に別格扱いとなっている。故に、悟空が彼女と同等の強さを持っていると言うのは正に驚愕の事実であった。

「ううむ。にわかには信じ難いですが、一子殿がおっしゃるのならば本当なのでしょう。それでそのような相手と一緒にトレーニングとは、何か教授を受けているのですか?」

「うん、悟空君の戦い方は凄く参考になるから。今は、ただのランニングだけどね。あっ、そうだ。悟空君、仙豆を」

 悟空の話しをして、仙豆のことを思いだす一子。九鬼の怪我を直す為に仙豆を渡すことについて、一子以外の手から渡すという案も当然考えたのだが、それには一つ問題があった。それは食べるだけで怪我が治る豆と言う胡散臭すぎるアイテムを一子以外が渡したとして果たして受け取ってくれるかどうかという問題である。
 そこで解決策を考え、最終的には一子が傍にいる状態で、彼女の推薦のもと他の誰かから渡してもらうと言う折衷案に結局は落ち着いたのであった。
 
「おう、おめえ、これ食ってみろ」

「むっ、なんだ、これは。豆か?」

 仙豆を取り出し投げる悟空。それを掌で受け止め、訝しげな顔をして眺める英雄。そこで、一子が解説をする。

「それは悟空君が旅の途中で手に入れた不思議な豆で、食べるだけで怪我が治るんだって。それで、もしかしたら九鬼君の腕も治るかもしれないと思って」

「おめえら、英雄様にそんな得体のしれな……一子様、英雄様の腕は九鬼財閥のいかなる名医が見ても完治はさせられなかったものです。薬などでは残念ながら治すことはできませんわ。下手をすれば何か副作用がでてしまうかも」

 主に危害が及ぶのではないかと一瞬、本性が出かけるあずみ。直ぐに猫を被り直し、『変なものを食わせるな』という言葉をマイルドな表現に言い換えて警告してくる。

「うっ、うん、でも本当にそれは効くの。クリスも怪我が直ぐ治っちゃったし、それに川神水や川神キノコみたいな不思議な食べ物もあるでしょう?」

 川神水とはアルコール0%にも関わらず、飲むと酒を飲んだように寄ってしまう不思議な水で、川神キノコは食べると正確が反転しまう不思議なキノコであり、どちらも川神市で採取できるものである。
 それ等を考えると怪我が治る豆と言うのも確かに多少の説得力はある。

「ふむ、一子殿が下さったものならば少なくとも身体に悪いものではないでしょう。その心遣いありがたく頂きますぞ」

話しを聞いて英雄が仙豆を口に入れ噛み砕く。あずみは止めようとするも、主人が決断してことに口を挟むこともできず、彼を見守った。
 そして、砕けた仙豆を飲み込んだ瞬間、英雄の表情が変わる。

「英雄様!! 大丈夫ですか!?」

 それを見て心配するあずみ。それに答えず、英雄はわなわなとふるえている。

「てめえら、英雄様に何を飲ませた!!」

 殺意をほとばしらせた憤怒の表情で悟空と一子に詰め寄ろうとするあずみ。予想外の事態に答えることもできず慌てる一子。
 そして無理やりにでも口を割らせようとあずみが飛びかからんとした時、英雄が驚愕の声をあげた。

「信じられん。腕の痺れが完全に消えたぞ!!」

「えっ!! 英雄様、本当ですか!?」

 英雄は腕を振って調子を確かめるが、そこには何の痛みも無い。自由に動き、また麻酔などで痛みだけを消した時等とは違い、鋭敏な感覚も残っている。それはつまり古傷、より正確に言うならば慢性的な怪我が完全に治った証であった。

「信じられん……」

 もう一度、呟くように声を漏らす。実の所、如何に愛する相手からのプレゼントと言え、英雄は仙豆の効力を本気で信じていなかった。心遣いが嬉しかったのは本当だが、精々がよく効く漢方、少しでも効力があれば儲けもの程度に思っていたのである。それが一瞬にして、完治という劇的な効果に、そして失ったものを取り戻したことに彼は計り知れない衝撃を受けていた。

「よかった、治ったのね!」

 英雄の回復を自分のことのように喜ぶ一子。同じく喜ぶあずみ。
 そして次の瞬間、彼女達は信じられないものを目にする。

「えっ、九鬼君、泣いてる?」

「英雄様……」

 それは傲岸不遜を絵に描いた様な男が人前で流した涙だった。
 言われ涙に気付いた英雄はそれを拭うと顔をあげる。その時には既に彼の目に涙はなく、まるで憑き物が落ちたようなすっきりとした笑顔を浮かべる。

「……みっともない姿を見せました一子殿。そして改めて感謝します。それと、悟空殿と言ったな。先程の物を提供してくれたこと、感謝する」

 威厳の籠った姿で、九鬼は一子に対し礼を述べる、次に悟空の方に顔を向け、彼にも礼を言った。
 普段、他者を見下してはいるが、感謝すべきときや敬意を払うべき時、あるいは謝罪すべき時には誰が相手であっても素直にそれを素直に実行できるのがこの男の美点であった。

「別にいいぞ。オラが何かした訳じゃねえし」

「そうは如何。恩を返さぬようでは九鬼の名が廃る。何か、望むものはないのか?」

「んー、なら、ごちそういっぱい食わせてくれよ。オラ、腹いっぱい飯くいてえ!」

「わかった。最高級の料理を用意し招待をしよう。っと、申し訳ない一子殿、悟空殿。今日は九鬼財閥の方にも顔を出さなくてはならないのでな。これで失礼する。招待の日時はまた、後でこちらから連絡しよう。それでは!!」

 特に謝礼を求めない悟空であったが、強くすすめてくる九鬼に食べ物が欲しいと答える。九鬼はそれに承諾すると、用事の時間に気付き、走り去って言った。
 それを見送る二人。
 そして、その姿が見送ると悟空がポツリと言った。

「変わった奴だったなあ。おめえの友達、面白い奴が多いんだな」

「あはははは、けど、変わってると言えば、悟空君も変わってるじゃない?」

「そっか?」

「うん、何せ異世界人だし」

「そっか、そういやあそうかもしんねえな」

 自分のことを棚に上げて言う悟空。それに対し、渇いた笑いを上げた後で、微妙にと言うかかなりずれた突っ込みをいれる一子であった。


(後書き)
悟空と一子は相性いいけど、両方ともボケタイプなので時々会話が難しいです。キャラが変だと思ったら指摘いただけるとありがたいです。
ところで、ちょっと皆さまに質問があるのですが、原作でワン子がつけている重りの重さは12キログラムと記述がありますが、これって両手で12キロだと思います?それとも片方12キロだと思います?100メートル11秒台とか割と現実的な身体能力から考えると両手で12キロだと思いますし、戦闘時の(気で強化した?)動きとかみると片手で12キロでもそんなに違和感ないですが。個人的には両手合わせて12キロかなと思ってるんですが、よろしければ皆さまの意見お聞かせください。



[30266] 9話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:e9c30a7e
Date: 2011/11/20 21:29
「あーーーーーーーーー」

 昼休み、一子が自分の鞄を見て突然叫びをあげた。それを見て大和達が彼女を注視する。

「どうした、ワン子?」

 尋ねる岳人に一子が涙目で答える。

「お弁当忘れちゃった……」

「ありゃりゃ、じゃあ、今日は食堂か購買?」

「それが、今月はちょっと金欠でお金無いの……」

 モロの質問に涙を更に多くして答える一子。

「それじゃあ、今日はお昼抜き?」

「えーん、そんなのいやだよ」

 モロの言葉に完全に泣きだしてしまう一子。そこに大和が一言、助言を差し伸べる。

「誰かに金を借りればいいだろう?」

「えっ、貸してくれるの!?」

 大和の言葉を聞いて希望に顔を明るくする一子。しかし、大和はそれを冷たく切り捨てた。

「いや、俺は貸さない」

「えーん」

「持ち上げて落とす。Sだね、大和は」

 京の突っ込み。ちなみに彼女自身はどうするかと言うと、見ていて面白い一子の姿を少しだけ眺めてから、救いの手を差し伸べるつもりだった。
 しかしそこで、予想外の方向から救いの手が現れる。

「おーい、川神はいるか?」

「あれ、お前2-Sの」

「井上か。どうした、また委員長目当てか?」

 教室のドアを開けて2-Sの井上準が入ってくる。その手には見覚えのある包みがあった。

「あれ、それ、私のお弁当箱?」

 その正体に気付く一子。準に近づき、彼から弁当を受け取る。

「ああ、おまえん家で下宿してる悟空って奴が届けに来たぞ。学校まで来たはいいが、川神の居る教室の場所がわからんかったらしくてな。間違えてうちの教室にやってきて騒ぎを起こした後、俺が弁当引き受けるって言ったら帰ってたわ」

「はっ?」

「相変わらず、行動が読めない人だね」

 自分が弁当箱をもってくることになった理由を説明する準。その話しを聞いて呆気に取られた顔をする大和と、早くも彼の破天荒慣れたのか単に興味が薄いのかあっさりとした口調で言う京。

「そっか、悟空君が持って来てくれたのか。後で、お礼言わなくっちゃね。井上君もありがとう」

「ああ。じゃ、まっ、俺はこれで……」

 一方、一子は素直に悟空と準に感謝する。礼を言われた準の方は一子の礼に対し、気だるそうな表情で応対し、自分の教室へと帰ろうとする。しかし、そこで2-Fのロリ委員長甘粕真与が現れ、彼に賞賛とお礼の言葉を投げかけた。

「井上さんはいい人ですね。川神さんにお弁当を届けていただいてありがとうございます」

「いやあ、何、当然のことをしたまでですよ!!」

 真正のロリコンである彼はその言葉で一気にテンションが高くなる。いつもの光景を生温かく見ながら、大和は考える。
 
「それにしても孫の奴、2-Sで一体何をしたんだ?」

 






――――数時間前―――――

「じゃあ、悟空君、何時も通りここで」

「おう、学校がんばれよ」

「うん」

 悟空が川神院に滞在するようになってから10日程が過ぎていた。その間に川神学院は新学期に入っており、朝の早朝トレーニングを一緒にした後、途中で別れ一子は学校に、悟空は川神院に戻るのが二人の日課となっていた。
 そして何時も通りに一子が学校に向かうを確認した悟空はそのまま川神院に向かって走り出し、数分後目的地に帰りつく。
 するとそこには一人の影があった。

「あっ、悟空殿、おかえりなさい。一子殿はやはり学校に行かれましたか?」

「おう、途中で別れたぞ。どうかしたんか?」

川神院の玄関に立っていたのは、門下生の一人であった。
 ちなみに悟空は大和の考えたカバーストーリーを川神院でも採用し、旅の武術家で鉄心の正式な客人という扱いになっている。
そして門下生相手に何度か組手もしており、当然全勝している。そのため常識にかけるところなどがあるが、憎めない性格で実力ある武闘家として門下生達に認知されており、親しみや敬意を持たれていた。

「実は一子殿、お弁当を持って行くのを忘れたようでして」

「えー、って、ことはあいつ、今日飯抜きか!?」

 弁当箱をつりさげて答える門下生に大袈裟なリアクションを取る悟空。最も彼の感覚で言えば、食事を抜くと言うのはそれ位のリアクションを取ってもおかしくない出来事であったが。
 そして一子がかわいそうだと思った悟空はちょっと考え込むような仕草を取るといい事を思いついたとばかりに手を叩いてみせた。

「よし、ならオラがそいつを届けてやる。ワン子の学校ってあっちにあるでけえ建物だろ?」

「えっ、いや」

 悟空の申し出に対し、彼に任せることに不安を感じる門下生。しかし、彼が戸惑っている間に悟空は門下生のてから弁当を持ち去り、そのまま走り去って行ってしまう。その速さは修行中の彼にとても追いつける速度ではなく、途方に暮れたままそれを見送るのであった。






「まじかで見るとやっぱでけえば。ワン子の教室ってのはどこにあんだろ?」

 学校までは無事に辿りついた悟空であったが、一子が2-Fというクラスに在籍しているということすら把握しておらず、当然の如く迷っていた。校舎を歩きまわった末に外にでてしまう。

「確かクリスや京も同じとこで勉強してるって言ってたな。とりあえず、大きそうな気の集まってっとこを探してみっか」

 意識を集中し気を探知する悟空。その結果、特に強い気が感じられる場所が一箇所、そこそこに強い気が集まっている場所が二箇所見つかる。

「んー、この特に強い気がモモヨだろ? けど、残りの二つの内どっちかはわかんねえな」

 今の悟空ではまだ修行が足らず、特定の人物を識別することまではできなかった。今の彼にできるのは気の強さを感じ取ったり、漠然とした質を掴むことまでである。2つの候補の内、どちらが一子のいる教室が、腕を組んで考えた悟空が結論を出す。

「まっ、適当に選んで、間違ってたらもう一つの方へ行ってみりゃいっか」

 実に彼らしいアバウトな結論であった。
 そして即時行動とばかりに悟空は選んだ場所、2-Sの教室へと移動を開始する。校舎の外から移動し、2階の窓目がけて飛びあがるという手段で。









「んー、一子の奴居ねえな」

 窓枠にぶら下がり、2-Sの教室の中をのぞきこむ悟空。当然のことであるが、そのような行動をすれば、教室内はパニックになる。

「うわっ、何だこいつ!?」

「うわー、お猿さんみたいー」

 驚愕する生徒Aと楽しそうな表情で悟空を見る白い髪の少女、榊原小雪。
 そして悟空の顔を知る人物が彼の正体に気付く。

「おう、これは悟空殿ではないか」

「あっ、おめえ、確かヒデオだったな」

「うむ、我は九鬼英雄だ」

 腕を組んで何時も通り自信満々な態度で言う英雄に教師である宇佐美巨人が問いかける。

「おいおい、お前の知り合いか九鬼」

「うむ、我の腕を治してくれた恩人よ。精密検査の結果でも、最早我の腕には何の異常もないとのことだ」

「ほぅ、それは興味がありますねえ。英雄の腕は近代医学を駆使しても完全には治せなかった程の怪我、それを治したという不思議な豆、医者の跡取りとして私も興味があります」

 英雄の言葉に彼の友人、葵冬馬が悟空に関心を持つ。彼は大病院の跡取り息子であり、怪我が治る前の英雄の腕の状態もその腕が治った経緯も彼から聞いて知っていた。

「悟空殿、とりあえず教室の中へ入って来たはどうだ」

「わかった。……よっと」

 片手で振り子のように身体を揺らし、教室の中に入る悟空。すると小雪が彼に近づき、そしていきなり抱きつく。

「お猿さーん」

「おや、小雪はどうやらあなたが気に行ったようですね」

「雪が初対面の相手に懐くなんて珍しいな」

 悟空に抱きつき、楽しそうにする小雪。それを見て彼女の幼馴染である冬馬と準は少し意外そうな表情を浮かべた

「マシュマロ食べる~?」

「くれんのか? おう、食うぞ!!」

 悟空に抱きついたまま、マシュマロを取り出して差し出す小雪。
 それを喜んで受け取ると早速口に入れ、笑顔を浮かべる悟空。一応、年頃の男女が抱き合っているような体勢を取っている筈なのだが、二人の雰囲気は全くと言っていい程、そう言ったものを感じさせないでいた。代わりに動物と子供がじゃれ合っているようにも見える。

「のう榊原、お主は何故、そこの男にそんなに懐いておるのじゃ?」

 その光景を見て、不思議に思った不死川心が問いかける。それについて、小雪が笑顔で答える。

「この人お猿さんだから。おもしろくて、めずらしーと思って」

「猿か。確かに猿のような粗野な雰囲気が漂っておるのう。高貴な此方とは偉い違いじゃ」

 小雪の言葉を自分なりに解釈し、納得したように頷く心。しかし小雪はその解釈を否定する。

「違うよ~。この人は猿みたいなんじゃなくて、本当にお猿さんなんだよ~。だって、こんなに邪気が無い人居る訳ないも~ん」

「小雪の台詞、どういうことですかね?」

「さあな。だかなんとなくわかるような気もするぜ。どういう訳か、この男を見ていると幼女を見ている時のように汚れ無きものを見ているような気分になる」

 冬馬の疑問に準が答える。
 過去の経緯から人の心、特に悪意に敏感な小雪と準は悟空を見て、何かを直感的に感じ取ったようだった。しかし冬馬はそれをわざと曲解する。

「おやおや、準も私と同じで、男も女も好きな感覚に目覚めたようですね」

「ちげえよ!! 俺は幼女一筋」

にこやかに言う冬馬に己の誇りをかけて魂を込めて突っ込む準。無論、突っ込んでる内容も彼以外にとっては全く誇れることではないが。まあ、それはともかくとして己の主張を貫いことで落ち着いたらしく、穏やかな表情になって言葉を付け加える。
 
「まっ、単なる友達なら仲良くなってみたい気もすんがね」

「そうですか。なら、私は性的な意味で仲良くなりたいですね。変わった髪型ですが、中々整った顔立ちをしていますし、細マッチョと言うのもたまにはいいかもしれません」

「おいー!!!! 」

 しかしその直後の親友の言葉で再びテンションをあげられてしまう。

「冗談ですよ。私には彼の様な存在はちょっと純粋過ぎます」

 平静な表情で冗談だという冬馬。しかしその後半の言葉は何でもないことのような口調で言っているのに、何故か僅かな寂しさが感じられた。

「まあ、何でもいいが、授業が中断してるんだがね。んで、九鬼の恩人さん、あんたは何でここに来た訳?」

そんな彼を他所にいい加減に教師としての務めを果たさなければならないとばかりに巨人が小雪と悟空の間に割って入って入り、悟空に対し尋ねる。
その問いかけを聞いて、自分がここに来た目的を思いだす悟空。

「いけねえ、忘れるとこだったぞ。ワン子に弁当届けに来たんだって」

「ワン子というと一子殿のニックネームだったな。そうか、一子殿は今日、食事をお忘れになったのか。ならば、この我が一子殿のために、特別にフルコースを用意しよう!!」

 豪華な食事を手配しようとする英雄。それを2-Sの中の数少ない常識人である準が制止する。

「おいおい、そんなことしたら間違いなく、あの子恐縮してひきまくりだぜ。つか、弁当あるならそれ届けりゃいいだけだろ。えーと、あんた2-Fの場所は……いや、あんたを校舎内に移動させるとまた騒ぎになる気がするな。俺が代わりに届けておいてやるよ。上手くいけばついでに委員長の御尊顔も眺めて来られるしな」

 悟空に2-Fの場所を教えようとして、それよりも自分が届けた方が色々と都合がいいと判断し、自分が届けることを申し出る準。

「サンキュー。おめえ、いい奴だな」

それに対し、悟空は素直に礼を言って弁当を受け渡す。そこで再びでてくる巨人。

「はいはい、用事が終わったら帰ってくんないかね」

「わかった。じゃ、よろしくな」

 巨人に教室から追い出され、悟空は窓を飛び降りて外に出るとそのままり去って行った。それを見て、心が呆れた表情で呟く。

「全く2-Fの奴等がまともに見える位とんでもない山猿じゃ。しかし、まあ見物する分には中々面白い奴だったが」

「結構、イケメンだったもんね。あのお猿さん」

「にょわー!! や、山猿の顔がどうだろうと、高貴な此方には関係無いわ!!」

 上から目線で悟空を評していた所に、小雪の予想外な突っ込みが入り、対人関係のスキルが低さ故に慌ててしまう心。それを生温かく見守るクラスメイト達。これが、2-Sの教室で起きたことのあらましであった。
 

(後書き)
当初考えていたネタが尽きたので日常編はこれで終了です。
次回より最終章に入ります。でも、日常話もあった方がいいという意見をたくさんいただいたので、修行話とか日常話をちょこちょこやりながらクライマックスの展開に近づいて行こうと思っています。

PS.2-Sが何階かという公式な設定はみつからなかったので、適当に2階と設定しました。
もし、間違っていたら指摘お願いします。



[30266] KOS編 1話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:e9c30a7e
Date: 2011/11/19 08:58
「なあじじい、何時になったら、悟空と再戦させてくれるんだ」

「こっちに戻ってきてからまだ2週間じゃろうが。少しはこらえい」

「んなこと言ったって目の前に極上の餌がぶら下がってるんだぞー。おまけに悟空がこっちの世界に居るのって、後2ヶ月ちょっとだろ。今の機会を逃したら次にチャンスがあるかどうかもわからないっていうのに、我慢しろって方が難しいぞ」

 悟空との対決を禁止され、それに対し鉄心に不満を言う百代。鉄心にしても彼女の言う事が全くわからないと言うでもなかった。確かに期限付きで異世界の強者と戦えるチャンスとなれば、現役時代の彼であってもまず間違いなく心踊らせたであろう。それに加え、元々ガス抜きを含め、百代の心境の変化を期待し、悟空を川神院につれてきたのである。戦わせてやりたい気持ちはある。
 とはいえ、最悪の場合の被害を考えると悟空と百代を戦わせるには、鉄心と師範代全員で結界を張るか、彼が同行の上、街中から離れる位のことはする必要がある。既に夏休みも終了しているので、前者は勿論、後者だって頻繁にできる訳ではない。
そこで彼は彼女が興味をひくであろう出来事について、その気を紛らわすことにした。

「仕方無いのう。いいことを教えてやる。本当はまだ、秘密なんじゃがな。今から2ヶ月後に九鬼財閥が、ある催しを実施することになっておる。KOSと言う名の格闘大会で4人1組と言う事以外はルールが無いことがルールだそうじゃ。賞金は何と500億円、賞金と名誉、そして強者との戦いを求めて世界各地から強豪が集まることになるじゃろう。元々、未知なる強豪の発掘が目的らしいしのぅ。この催しに川神院も協力することが内密に決まっておる」

「おっ、そいつは2倍の意味で魅力的な。賞金に強敵との戦い。私も出ていいのか?」

 鉄心の話しに彼の期待通り、大いに興味をひかれる百代。
 そして彼は百代の問いかけに頷き意図を説明する。

「うむ、当初はお前とわしとルーは出場できない予定じゃったが、九鬼財閥の九鬼揚羽が悟空君のことをどこからか聞きつけたらしくてのう。その実力をその目で見たいと言う事で彼に対しては出場を許可するそうじゃ。しかし、一人、あまりにも特出した選手が居てはバランスが取れないと言うことで、お前だけは出場が認められておる。勿論、悟空とは別のチームになることが条件じゃがな。当初は七浜での開催が予定されておったが、一般人に被害の及ばぬ場所に変更になった。十分に力を出し切るがよい」

「願ったりかなったりだな。だが、そういうことになると、悟空と戦えるのは後、1回だけということか?」

 悟空が元の世界に帰る時期を考えると、2ヶ月後の大会が悟空と戦える次の機会であるならば、実質それが最後の機会になってしまう可能性が高い。そのことに心配と不満と若干の怒りが混じった表情を浮かべる百代。
 それに対し、鉄心は少し考えて答えた。

「……まあ、わしとルーの立会のもとなら稽古なら許可しよう。無論、気功波系の技は禁止じゃぞ」

「よし、それならばOKだ!! 感謝するぞ、じじい。さてと、なら、早速チームを結成してくるとするか」

 返って来た答えに満足すると百代は早速メンバー集めに向かおうとする。しかし、そこで彼女は制止をかけられる。

「待てい。まだ秘密だと言ったじゃろうが。あまり、公にするでない。発表は3日後の夜の予定じゃ。その前に秘密を誰かに明かしたりしたら出場はさせんぞ」

「ぐっ、……わかった」

 出場を許さないという脅しの言葉に百代は仕方ないと言った表情で頷く。
それから3日間、彼女は話したくても話せない話題を抱えていることの辛さにうずうず、いらいらとし、それを周囲がみて不安があるのでった。







 そして3日後、KOSの開催が公開されると鉄心の予想通り、世界中の強者がこれに興味を持ち、次々と参加を表明することとなる。






 並び立つ世界の強豪達。






「兄さーん、僕の計算では、僕達の優勝確率は99.98%だよー」

「グゥゥゥド!!」

 アメリカからは全米格闘チャンピオンカラカル・ゲイルとその弟ゲイツ、そして軍のスーパーソルジャー計画によって産まれたエリート戦士であるワンとツーがチームを組んで。






「俺の力、みせてやろう!!」

 ロシアからは暴れ熊と呼ばれる身長230センチメートルの巨漢、セルゲイが。






「行くぞ、我が弟子達よ、強者達との戦いを求めて!」

 アルゼンチンからは太陽の子と呼ばれる強者、メッシが。






「ヨガの力を世界に知らしめよう」

「余はメム23世。コブラ神拳の伝承者だ」
 
 インド、エジプトの連合からはダルビッシムとメム23世の微妙にキャラかぶってるコンビが。






「くくっ、こりゃあ、おもしれえ。おい、お前等、こいつに出るぞ」

「ひゃっはー、ゲームみてぇでなんかおもしろそうじゃねえか」

「ふーん、ついでに新しいマゾ奴隷でも見つけてみるかね」

「ふあー、ねむい……」

 日本の親不孝通りからは川神院の元師範代とその弟子達が。






 中には強い関心を持ちながら、参戦を諦めた強者達も存在した。

「ふぅーむ、国の最高指導者が最強ってのも、他国に対するアピールになると思ったが、時期が悪いな。仕方ない、諦めるか」

「500億円か。そんだけあればオジサン、夢がかなえられそうだが、流石に川神百代がでるってんじゃ、分の悪い賭けすぎるわな。噂ではあの教室乱入君もでるってことだし……ふぅ、分かっちゃいだが上手くいかないねえ、世の中」

 日程の都合で参加を諦める日本国首相、あまりの勝算の低さに戦略的撤退を選ぶ川神学園教師。

 




 そして……

「くく、九鬼揚羽、お前はこう思っているのだろうな。この大会を武術家達の祭典だと。だが、違う。お前達は自ら世界に示すことになるのだ。武術の時代が終わったことをな。才能、努力、血筋、それら全ては科学の技術の前にひれ伏す。そう世界は気づくことだろう。それらの無意味さをな」

 ある組織の研究所、そこに武術ではなく、異なる力によって世界の頂点に立ち、その力を誇示しようとするものが居た。
 そしてその後ろには男によって産み出されたその力の象徴となる存在が。

「例え、誰であろうと、武神と言われる川神百代だろうと、全盛期の鉄心だろうと、私達の敵では無い。なあ、人造人間5号、6号、7号」

 暗闇に3つの影が浮かびあがる。その存在を見ればこう言うだろう。
 『人の姿、形をしているのに、生命の象徴である“気”をまるで感じない』と。







 集まる強者達、2ヶ月後、KOSの舞台にて彼等は一体どのような戦いを繰り広げるのであろうか?
 その答えを知る者はまだ、誰も居なかった。




(後書き)
最終章、KOS編スタートです。主人公達側のチーム分けは次回で。



[30266] KOS編 2話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:e9c30a7e
Date: 2011/11/20 22:15
「世界中の強い奴等が集まってくんのか!? 天下一武道会みてぇだな。オラ、すんげぇ楽しみだ!!」

 百代からKOSの話しを聞いて目を輝かせる悟空。
 そして彼女は一番気になっていることを尋ねた。

「ああ、それでだ、聞くまでもないとは思うが、悟空はこの大会にでるつもりはあるか?」

「ああ、勿論でるぞ!! 2ヶ月後までに思いっきり修行して、鍛えてとかねえとな!!」

「そうこなくてはな」

 悟空の回答に満足しニヤリと笑う百代。鉄心とは悟空が参加する前提で話しを進めていたが、一応秘密扱いだったため、肝心の本人の意志の確認が今まで取れていなかった。もし悟空が不参加の意志を示していたら百代は彼と戦えないばかりでなく、下手をすれば出場許可まで取り消されかねなかったため、悟空の回答に満足そうな態度をみせる。

「けど、悟空君、チームのメンバーはどうするの?」

 一緒に話しを聞いていた一子が疑問を発する。KOSは4人1組の参加がルールで定められており、それより多い人数でも少ない人数でも参加することができない。つまり、自分以外に3名のメンバーを集めなければいけないと言う事だ。

「あっ、そうか。まいったなー。オラ、こっちの世界にはあんま知り合い居ねえんだよな」

「なら、悟空君、アタシが一緒にでてあげようか?」

 困り顔の悟空に一子が提案する。

「いいんか? けど、おめえはモモヨと組むんじゃねえのか?」

 一子の提案は悟空にとってはありがたいものであったが、彼女は百代と組むものだと考えていたので、その点について疑問を発する。

「私の方は風間ファミリーの他のメンバーを誘えばいいからな。特に問題はない。だが、そうなるとワン子、私とお前は敵同士ということになるな。この私に挑もうとはいい度胸だ」

「えっ? えっ? えっ?」

 一子の代わりに答え、そして相手を威嚇するような獰猛な笑みを浮かべる百代。言われた一子の方は、百代と敵同士になると言う事実に気付いていなかったのか、単に彼女の強烈な視線にやられたのかパニック状態になる。無論、百代の方は本気で怒ったり、責めたりしている訳ではなかった。あくまで妹をからかって遊んでいるだけである。脅える一子の姿をある程度見せた所で冗談だと告げるつもりでいた。しかし、そこで一子は百代の予想に反した反応をみせる。

「の、望み所よー!!アタシはお姉様のライバルを目指しているんだから!!」

 動揺から立ち直り、百代に対し、立ち向かうと宣言してみせたのだ。これには百代も驚く。悟空と一緒に修行する内に何か影響を受けたのか、妹を見誤っていたのか、あるいは単にその場の勢いだったかもしれないが、いずれにしても彼女にとってそれは予想外な反応だった。それはまるで何時も自分に甘えてくる妹が一人立ちしまったようで百代は少し寂しく、同時に嬉しく感じ、そして不安と期待の両方を覚えた。

「!? ほぅー、言うじゃないか。……なら、期待しているぞ。お前が私を楽しませてくれるのをな」

「うん、2ヶ月後までに絶対に強くなってみせるわ!!」

「ううーん。可愛い奴」

 複雑な感情は表に出さず、期待だけを口にして一子の頭をなでる百代。撫でられた彼女は嬉しそうな表情を浮かべ、改めて気合いを入れ直した。その親に褒められた子供が張りきるような姿は何時も通りの彼女であり、先程感じた寂しさもあって、百代は彼女を抱きしめて頬ずりする。

「うしっ、じゃあオラ達のチームは、オラと一子で後、二人だな」

 話が纏ったのを見て言う悟空。その言葉に対し、百代は一子を離すと彼に対し、提案をした。

「ああ明日は丁度金曜集会だからな。私のチームメンバーを決めるとき、一緒にお前のチームに入る気がある奴がいないかどうか聞いて見よう」

「前にあったおめえの友達だよな。あいつらなら頼りになりそうだ。よろしく頼むな」

 その提案を受け入れ百代達に任せる悟空。
そして百代が悟空にKOSのことを伝えた翌日、秘密基地には風間ファミリーのメンバーが集まっていた。

「……っと、言う訳なんだが、参加する気のある奴はいるか?」

 百代が悟空とのやりとりを説明し、自分や悟空とチームを組む相手を募集する。それに対し、最初に反応を示したのはクリスだった。

「自分は参加しようと思っている。だが、実は昨日の夜、マルさん達ともりあがってしまってな。それを聞いて父様も興味を示し、一緒に参加する約束をしてしまったんだ」

「あー、先約があるって言うなら仕方ないな。他に誰か参加するつもりの奴はいるか?」

 クリスの答えに納得し、再度の問いかけをした彼女に反応したのは2名。京と大和であった。

「私もみんながでるならでようかなと思う」

「俺も参加しようかなって思ってる。試合形式次第ならサポートとして役に立てると思うし、姉さんが心配だしね(心配なのは主に姉さんがやり過ぎないかだけど、孫の奴も居るし、場合によっては姉さんがピンチになることもありそうだしな)」

 京は実力的に大会に参加するのにふさわしい力があり、大和は戦闘力の方は決して高くないが、攻撃の回避は割と得意だし、なにより頭を使った作戦立てなどに役に立てる力がある。百代もチームのメンバーの候補として考えていた相手だった。
ついで、更に二人の者が参加の意志を2名が示した。

「わ、私もみなさんと一緒に戦いたいです」

「おう、オラも勿論参加するぜ!!」

「俺様もでるぞ」

 由紀江と岳人、後ついでに松風であった。しかしこれに対しては一部のメンバーが難色を示す。

「まゆっちは問題ない。寧ろ、敵ならば戦いたいし、味方ならば頼りがいがある。だが、岳人は少しつらいんじゃないか? 弱いとは言わんが相手は世界規模の強者だぞ」

「それに銃もOKってルールだしね」

「まっ、その辺は俺様も理解してるぜ。無茶はしないつもりだ。だがなんせ500億の賞金だからな。パスするには惜しいぜ。それに、優勝すれば、俺様今度こそモテモテになれるかもしれん」

 実力的に岳人では危険が大きいと判断し、百代と京がやんわりとした言葉を出場を取りやめさせようとする。それに対し、百代達の評価を素直に認めた上で、あくまで参戦の意を示す岳人。今は何やら妄想しているのか、だらしらないにやけた表情を浮かべていた。

「流石に僕は辞めておこうかな」

 最後にモロが不参加を表明する。彼は風間ファミリーのメンバーの中では最も戦闘力が低く、この大会には明らかに不向きである。それを自覚しての発言だった。

「なんだよモロ、お前一人不参加か? ノリわりいな」

「流石にね。人数とか足りなくて数合わせってことなら考えなくもないけど、今の人数なら丁度いいでしょ?」

 岳人のぼやきに肩をすくめて答えるモロ。しかし、その話しを聞いて大和が参加希望の人数を数え直し始め。

「んっ? 俺に姉さん、孫にワン子、京にまゆっち、岳人……2チームつくるには一人足りないんじゃないか?」

「いや、そこでクッキーが」

 数の矛盾に気付いた大和の言葉にモロが指を指して答える。その指差された方向を見ると、そこにはこれ見よがしに戦闘形態のクッキー2になりビームサーベルを抜いて、素振りをするお手伝いロボットの姿があった。

「僕よりはクッキーの方がずっと頼りになるしね」

「ふふっ、そうか、いやそれ程でもないが、期待されているのならば答えねばなるまいな」

 モロの言葉に嬉しげな口調で答えるクッキー。それを見て大和は苦笑し、彼を参加人数に数えようとした。

「じゃあ、最後の一人はクッキーっと言う事で……」

「ちょっと待ったー!!!」

 メンバーが確定しようとしたその時だった。勢いよく部屋に飛びこんでくる人物が一人。その姿を見て、皆の声が重なる。

「「「「「「「キャップ(さん)!!!」」」」」」」」

「ずるいぞー。こんな面白そうなイベントから俺を仲間外れにするなんて!!」

「いや、お前、居なかったし、連絡つかなかったし」

 呆れた声で言う百代。部屋に飛びこんできたのは風間ファミリーのリーダー風間翔一だった。休学届を出し、夏休みの間から父親と一緒に海外へと冒険にでかけていた彼は、その1ヶ月半の間音信普通であったのである。尚、そのことについて誰も彼の事を心配していなかった。それは薄情なのではなく、彼ならば何があっても大丈夫だと言う理屈を超えた信頼からである。

「その調子からすると、やっぱキャップもKOSに参加するのか? って、言うかKOSのこと知ってるんだな」

「おう、海外に居ても話は伝わってきたからな。まっ、その前は流石に情報入手できない所に居たけどよ。とにかく、俺は参加するぜ!!」

 大和の疑問に答え参戦を表明する翔一。
彼の言葉中にでてきた『情報入手出来ない所』という言葉にその場に居る者達はTVやラジオの電波も届かないような僻地に潜っていたのだと想像する。まさか彼が異世界に行っていたなどとは想像も出来ないことであった。

「んー、そうすると3チームつくることになるのか、モロを入れても2名足りないね。後、岳人もそうだけど、戦闘の方は大丈夫?」

「ああ。試合形式によっちゃあチャンスもあるかもしれないしな。それに俺には冒険の途中で出会ったヤムチャさんっていう旅の武術家に教わった狼牙風風拳がある。風っていう字が二文字も入っているところが気に行ったぜ!!」
 
「おいおいそんな付け焼刃で……。んっ、ヤムチャ、どこかで聞いたことがあるような?」

 心配する京に対し、自信を持って答える翔一。武術を舐めているようにも取れるその台詞に流石に百代が一言申そうとして、そこでふと彼が口にした名前に引っ掛かりを覚えた。

「お姉様にこの前負けた、ムヤチャとか言う人と間違えてるんじゃない?」

「ああ、そういえばいたなそんな奴。モモ先輩相手に何秒もったっけ?」

「少なくとも10秒はもたなかったね」

「あの相手も、決して弱い訳ではなかったのだがな」

「いや、俺が会ったのは間違いなく、ヤムチャって名前だぞ」

 悩む百代に意見を述べる風間ファミリーのメンバー達。その言葉を聞いて、百代はどこかすっきりとしない気分なものの、自分の気の所為かとも思い、自信を失っていく。

「いや、もっと心躍る相手だったような。いや、ムヤチャの時も戦う前は少しは期待していただろうから勘違いしているのか?」

 戦った手ごたえの無さからムヤチャに対する記憶自体が既に薄くなっているため、混同していると言われてもそれを否定しきれない百代。
 実際は悟空が強敵の名前として聞き覚えがあったのだが、その後の戦いが楽し過ぎたのと、悟空が異世界から来たという話しのインパクトが強過ぎて、その時あげられた名前をしっかりと覚えていなかったのであった。

「まあ、それはそれとしてだ。とりあえず、チーム分けしてその後で足りない2名は考えないか? 順当にいくなら姉さん、孫&ワン子、キャップ、この3チームで分けて、後は各自が希望の所に入る感じでいいと思うんだが」

 悩む百代を他所に、話しを戻し提案をする大和。そこでキャップが疑問を挟む。

「んっ、悟空って誰だ?」

「ああ、そっか、キャップは知らないんだな。えとだな、孫って言うのは……」

 悟空が異世界から来た武術家で、川神院に居候をしていることを話す大和。

「へぇー、どんな奴なんだろう。俺も早く会ってみたいぜ!!」

(何か、キャップにしてはリアクション薄いな)

 好奇心旺盛な翔一にしては悟空に対する興味が薄いことに違和感を覚える大和だったが、今はKOSの方が優先的な話題だったので、話題進行の邪魔にならないとして気にしないことにした。
 
「んで、チーム分けだけど、俺がさっき言った分け方でみんな異論はないかな?」

「おう、俺は構わないぜ!!」

 大和の問いかけにキャップが口に出して同意し、他の皆も頷く。

「それじゃあ、それぞれの希望を教えてくれ」

 大和がそう言うと、皆、次々に希望を口にする。

「私はモモ先輩かキャップのチームがいい。勿論、大和が一緒であることを希望する」

「俺様はキャップと組むことにするぜ。モモ先輩や孫と同じチームじゃあ、俺様の見せ場がねえからな」

「じゃあ、僕もキャップと同じチームで」

「私はどこのチームでも構わないが、しいていうならマスターか大和か京こ同じチームを望むな」

「わ、私もどのチームでも」

「おいおい、まゆっち、主張はハッキリしないと駄目だぜ」

「うーむ、既にチームが決まっている自分はこう言う時、話題に入れなくて少し寂しいな」
 
 口ぐちに好き勝手な希望を言う皆だったが、大和はそれらの意見を整理して、纏めてみせる。

「キャップのとこを希望するのが多いな。じゃあ、岳人とモロは決定で、京は俺と一緒に姉さんのチームな」

「大和!! 同じチームに私を選ぶなんて大和はやっぱり私のことを!!」

「単なる人数の調整だって」

 感激し抱きつこうとする京に対し、冷たく言って彼女の身体を引き離す大和。
彼の意見に不満がでなかったため、チームが決まらず残るのは由紀江とクッキーの二人となり、その二人に対しても大和が指示する。

「んで、まゆっち、本当にどのチームでもいいのならキャップのチームに入って欲しいと思うんだが。それが一番バランスとれそうだしな。折角だからどのチームでも優勝を狙えるようにしたい。どうかな?」

「あっ、はい、私もそう思っていましたから」

「おう、まゆっちはつぇぇからな。銃弾が飛んできてもみんな守ってやるぜ!!」

「ま、松風!!」

 大和の希望に直ぐ様答える由紀江。戦力的に明らかに劣るキャップチームはその分、怪我やそれ以上の事故が起こる可能性が高い。危険を避けるため、戦力の高いメンバーが一人は欲しいところであり、風間ファミリーでNO2の戦闘力を持つ彼女はその点で適任だった。加えて、キャップの意外性と強運、他二人のサポートがあれば、大和の言うように、百代や悟空のチームをおさえての優勝も十分にあり得るチームとなる。

「後は、ワン子のところが2名足りないな」

「うん、それなんだけど、タっちゃんを誘おうと思うんだけど」

「源さんか。それはいいな。声をかけてみよう」

 源忠勝、大和達と同じ島津寮の住人にして、一子と同じ孤児院出身の彼女の幼馴染である。
 悟空、一子チームには明らかに参謀向きなタイプの人材が足りていない。その点から言えば冷静な判断力を持ち、かつそこそこの戦闘力を持つ彼は適任と言えた。

「そうなると最後はクッキーだな。クッキーお前は……」

A:俺と一緒に姉さんのチームに入ってくれ(2-Sメンバー勧誘ルート)
B:ワン子のチームに入ってくれ(クリスが百代チームに編入ルート)


(後書き)
今回で、主人公側のチームメンバーが決まると予告しましたが、書いてる途中でふとKOS編では登場予定の全くなかった2-Sメンバー入れるのも面白いんじゃないかと思い、悩んだ末に決まらず、皆さんのご意見を聞きたいと思い選択肢形式にしてしまいました。
Aルートだと参入した2-Sメンバーがちょっと活躍し、Bルートですとクリスの活躍が増える予定です。よろしければ、ご意見お聞かせください。
ちなみにAルートの場合、編入候補の2-Sメンバーは、「九鬼英雄」「葵冬馬」「井上準」の3名です。男ばっかですが、マルさんはクリスと不死川心は大和かまゆっちと、小雪は冬馬か準とセットでしか入れられないので候補から除外しています。

PS.花粉症の時期が近づいている所為か時々体調が悪い時があるので、更新が不定期になるかもしれません。


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