低い、鈍い音がした
落ちていた瞼を開けると、倒れ伏した飛び蜥蜴が光に包まれ姿を消していた。
そのソウルの光を背にこちらへと歩く影があった、それはまるで御伽噺の英雄のようで、しかしよく見た姿だった。
「あぁ、君ですか」
その姿は私を何度も助けてくれた男のモノだった
私と同じフリューテッドの鎧を身に纏い、右手にロングソード、左手にカイトシールドを持っている
「……ビヨールはどうなりましたか?」
男は何も語らず首を横にして答えた
「…そうですか。」
わかっていた事だった、それでも確認せずにはいられなかったのは、僅かな希望に縋りたかったからなのか。
これで残った双剣の一振りも折れてしまった。
ボーレタリアの双剣、ビヨールとヴァラルファクス
ボーレタリアの三英雄、つらぬきの騎士メタス、塔の騎士アルフレッド、長弓のウーラン
他国にまで轟いた我が国が誇る英雄達
だがその英雄たちは、この色の無い濃霧も中で果て、逝ってしまった。
…もはやこの国は終わりだろう、ソウルに餓えた人間、デーモンが跋扈する呪われた王国。
たとえ霧が晴れたとしても、もはや立て直すものはいない
英雄は倒れ、王は身を落とし
そして私ももう…
「……この上に、父がいます。」
階段に身を預け彼に伝える
彼は少し驚いたようだったが、そのまま続ける
「いや、父、オーラントの姿をした、ただのデーモンでしょうか。」
父に会い、声を張り上げ、問いかけた
なぜこんな事をしたのかと
なぜ国を滅ぼしたのかと
だがその返答は剣だった
私の手の中に合ったルーンソードを弾き飛ばし、返す剣でルーンシールドを貫かれ
私の脇腹を貫いた
父がしたのはそれだけ、一言も話すことは無く
私を貫いた後、玉座に腰を下ろした
「真意を問い、諌めようと、無謀な旅を続けてきましたが独りよがりの茶番だったようです……」
本当にそう思う
諌めると?あの父を、王を諌めると?
無防備な背中を斬りつける事もできない臆病者に?
貫かれた私は、抵抗する事も、弾かれた剣を取りに行くこともしないで
ただ、逃げた
血が止まらず、体も動かなくなり、蟲のように這いながらここまで逃げてきて、気を失った
「お願いです。父を、殺してください。あれはもう、人の世に仇なすものでしかありません。」
呆れ果てる、自らの義務を放棄し、その義務を他人に託す自分に
なのに口は止まらない、義務を果たそうと口は勝手に言葉を紡ぎ続ける
…義務を果たせなかったのに、まるで義務を果たしたかのように見せようとしている
「これを……。ボーレタリア霊廟の鍵です。」
まるで相反する想いを秘めながら、鍵を彼に渡す
そもそも、私は何故この鍵を使っていないのか
王を止めるにはこの中の物が必要だとわかっていたはずなのに
後悔が渦となり私を飲み込んでいく
「霊廟には、父の剣、ソウルブランドと対をなす、デモンブランドが祀られています。」
……情けない
情けない情けない情けない情けない情けない!!!
弱い自分のこと、弱い心のこと
彼に助けられたこと、飾り物にしかなれなかったこと
守れなかったこと、報いることができなかったこと
……………そして、何よりも
「それで、父を……」
薄くなった視界で彼を見る
その姿はあまりに強く焼きついていて、薄くなった視界でもはっきりと見えた気がした
その姿はよく見た姿で、しかしまるで英雄譚の登場人物のようで
私は彼を…………
羨んでいたのだ
男は彼が消えていくのを黙って見つめていた
言葉を発することも無く、ただ、まっすぐに見つめていた
彼が消えてしまうと、彼がいた場所に男は光る石をそっと置いた
男は階段を上りまっすぐな通路に出た
少し進むと、黒い何かが現れてきた
男はそれを確認すると盾を構え、剣を持つ手に力を込めた
その黒い何かは、彼によく似ていた
彼によく似た黒い何かは、ただ愚直なまでにまっすぐ突進してきて
鋭い軌跡で剣を振るった
男はただ盾で防ぎ続けた
黒い何かは最初は鋭い剣筋を見せていたが、業を煮やしたのか力任せに剣を振るった
その姿はまるで、駄々をこねる子供のようだった
鉄と鉄がぶつかる音が響き、最後に一際高い音がなった
男の盾が黒い何かの剣を弾いたのだ
男は黒い何かの体に深く剣を突き刺した
「――――――――――」
男は何かを呟き、剣を引き抜いた
黒い何かは、先ほどの彼と同じようにゆっくりと体を消していった
男は黒い何かが消えるのをまっすぐ見つめ、消えた場所に光る石を置いた
男はしばらくその石を見つめ、元来た道を戻っていった