メカAG ※初出2008-06-25ちょっと前に常温核融合の話題が2つ続いた。大阪大学の荒田吉明と北海道大学の水野忠彦が、それぞれ実験に成功したと発表している。水野の方は昔からトンデモさんとして知られており問題外。何年も前から似たような発表をしており、今回もたぶん荒田の発表があったのに併せて、自分も便乗しようと発表したのだろう。言うまでもないが水野のこれまでの研究発表もまともな研究者からはまったく評価されていない。一方荒田の方は俺はこの人を知らなかった。経歴を見てもまともな研究実績を上げているっぽいので、にわかにはインチキだと断ずることは出来なかった。しかしどうやらこの人もトンデモさんらしい。今までまともな研究で実績を上げてた人が突然トンデモ方面に目覚める事は往々にしてあることだ。ニュートンは錬金術を研究したし、エジソンは霊界電話を研究した。テスラなんかはそれなりにまともな研究もあるのに、むしろオカルト方面の方が有名だ(笑)。 * * *この手の話で注意しなければならないのは、この研究は「○○学会で発表された」「○○研究所から評価された」という話。この「○○」の部分がくせ者で、トンデモさん同士がそういう学会を作っている事が少なくない。つまり権威の対極にあるような人達が仲間内でお互い「これはすごい実績だ」「この研究データは間違いない」と褒めあっている。それなりの権威を持つチェックの厳しい研究機関から評価されなければ、いくら内輪で称え合っても意味がない。で、水野が発表するという「国際常温核融合学会」というのも所詮はこの手の人達が集まって作った学会であり、ぶっちゃけ権威は全くない。そもそも水野は「核変換」説を主張している事になっているが、この説は実質的に何も内容がない。喩えるなら「UFOは宇宙人の乗り物と考えるとつじつまがあう」というのと同じレベルだ。まあ仮説の一歩としては別にそれでかまわないのだが、何年だってもそこから前進する気配がない。普通は仮説を立ててそれによって生じる結果を予測し、実際の実験結果が予測に近い値になりました、と発表するのが筋だろう。いや、別に何を発表しても自由だが、そういう形で発表しなければ周囲から支持は得られない。ところが彼の発表は「なんか奇妙な事が起きました」「これはきっと核変換です」となる。奇妙な事が核変換のためなのか、他の化学反応なのか、単なる実験ミスなのか、全然検証しない。普通は不純物が混じったとか計測機器の故障とかそういう「当たり前」の可能性から順次排除していき、それでも「どうしても説明できない」となって初めて「未知の可能性」に踏み込むものだ。 * * *荒田の方は最初半信半疑だったのだけれど、JCF(日本固体内核融合研究会)の顧問をしていると分かって期待が急速にしぼんでしまった。だってJCFからしてその手の人々の集まりなわけで、言っちゃ悪いけれど、まともな研究者ならわざわざ好きこのんでそんな胡散臭いところの顧問をしないだろう。ようするにこの人も胡散臭い人達の仲間なのだ。また荒田は高温学会で発表を行ったというが、この学会の会長がそもそも荒田のようだ。学会自体はまともっぽいが、会長の暴走に会員達はさぞかし困ったのではなかろうか。ちゃんとした研究成果ならもっと発表すべき適切な場がいくらでもあるだろう。なぜわざわざ胡散臭いところで発表するのか?つまり研究成果自体が胡散臭いからだ。また荒田は2002年にも同様の研究発表を行っているが、その時も一時的に報道されただけだった。 * * *そもそも1989年の最初の常温核融合の発見の発表も、ユタ州やユタ大学が研究資金の調達を優先したために、ろくな検証が行われずに話題ばかりが先行してしまった。むしろ大学当局や州政府は外部の人間による検証を妨げようとさえした。せっかく千載一遇のチャンスで掴んだ金づるが、変に外部の人間によって検証された結果、否定的な評価をされたらイメージダウン甚だしいからだ。そもそもユタ州というのがモルモン教の強い影響下にあるうえ、決して先進的な地域でもなく、そういう背景があったからこそ世紀の大発見に大学も州政府も盲目的に飛びついたわけだ。水野が所属しているのは北海道大学だし、水野の研究発表を報道してるのも新聞では北海道新聞だけのようだ。北海道の人には失礼だがなんとなくユタ州とイメージがダブる。しかしながら大学当局と州政府は丸め込めたが、さすがに連邦政府は騙せず、研究費の供出を拒否されている。それに懲りず大学や州政府は常温核融合関連の研究施設を自前で作り外部からの投資の盛り上げを図ったが、成果が出るわけもなく、その後ひっそりと閉鎖された。1989年の常温核融合「事件」は、最初の一歩は単なる未熟な研究者の早とちりだったが、それ以降の展開は思いもかけず手にした金の卵を産むガチョウを如何に手放さずに守るかという大学当局と州政府の醜い政治劇だったといえよう。 * * *※この部分、コメント欄から追記常温核融合に関しては大学当局と州政府は明らかに真実の追究よりも連邦政府からの予算獲得を第一に動いているわけで。たとえば研究者を隔離したり、核融合によって生成されたという物質の調査を妨害したり。たとえばユタ大学の当時の学長は連邦政府から資金を引き出す交渉を有利にするために、すでに民間から投資の話が来ているとでっち上げた。後日それが学長自身が作った大学の隠し口座からの資金提供だということがバレて、学長は辞任している。最初は他愛のないミスだったかもしれないが、その後は明らかな政治劇。 * * *余談だけれどコンピュータ雑誌I/Oを出している工学社は、いつの頃からかこの手のオカルトっぽい書籍を出している。水野も常温核融合関係の本を工学社から何冊か出している。「Xファイル」みたいな本も出していたような。何なのだろうねぇ。最初何を血迷ったのかと思った。