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社説

米アジア戦略 中国の孤立避け対話を(11月19日)

 アジア情勢がにわかに騒がしさを増してきた。直接の震源は米国である。

 オバマ米大統領はオーストラリアを訪問し、同国北部に米海兵隊を駐留させる方針を発表した。将来2500人規模にまで拡大するという。

 オバマ氏はオーストラリア議会で「アジア太平洋地域における米国の存在感と任務拡大を最優先事項とする」と宣言した。

 台頭する中国をけん制する狙いは明らかだ。米国が各国との交渉を加速させている環太平洋連携協定(TPP)にも、同じ目的があると指摘されている。米国は軍事・経済戦略を大きく転換して軸足をアジア太平洋に移し、中国と正面から対峙(たいじ)しようとしていると言えよう。

 当然ながら中国は激しく反発している。米国の新戦略が中国との関係を悪化させ、軍事的緊張を高める事態につなげてはなるまい。関係国は中国の孤立化を避け、平和的な問題解決の道を探るべきだ。

 米国の対中警戒感は、2008年秋のリーマン・ショック後も中国が高度成長を維持し、巨大な経済力を見せつけたのがきっかけとされる。

 09年秋に来日したオバマ氏は演説で「米国は太平洋国家だ」と述べており、既にこのころから政策転換を準備してきたことがうかがえる。

 中国の国内総生産(GDP)は昨年、ついに日本を抜いて世界2位となり1位の米国に迫ろうとしている。この経済力を背景に中国は軍備の増強を続け、資源に恵まれる南シナ海などで権益を主張して他国漁船を威嚇射撃するなど沿岸各国とのトラブルを引き起こしてきた。

 こうした中国の行動が米国の新戦略をもたらしたのは間違いない。きょう開かれる東アジアサミットで、米国は中国による海洋権益拡大の問題を中心に討議したい考えだ。

 中国政府は米国を批判しているが、アジア諸国に脅威をもたらしている自らの行動をこそ改める必要がある。権益をめぐる主張の違いは対話によって調整すべきだ。

 昨年の尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件は、日本も南シナ海諸国と悩みを共有していることを見せつけた。

 インドネシア・バリ島できのう開かれた日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)との首脳会議が、海洋安全保障に関する連携強化を柱とする「バリ宣言」を採択したのもそうした危機意識に立つ対応だ。

 ただ、中国が日本の大事な隣国であるのも事実である。対中関係がこじれれば、日本の安全は揺らぐ。

 日本政府は米国やアジア諸国との密接な関係を保ちつつ、中国と各国との亀裂が深まらないよう双方に働きかけていかなければならない。

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