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【眼光紙背】チベット騒乱の背景にある中国の宗教問題

眼光紙背

門倉貴史の眼光紙背:第27回

08年3月14日、中国のチベット自治区のラサで大規模な暴動が発生した。これに対して中国政府は厳しい態度で臨み、暴動を鎮圧したが、その後、チベット系住民と中国当局の衝突は四川省、甘粛省、青海省にも広がっていった。

人権意識が高いことで知られる欧州諸国は、チベット系住民への中国政府の強硬な姿勢に対して批判の声を強めており、ドイツ、ポーランド、チェコなど一部の国では、08年8月に開催される北京オリンピックの開会式をボイコットする意向を発表している。チベット動乱は、北京オリンピックにも無視できない影響を及ぼす可能性があるといえよう。

では、なぜチベット騒乱が起きたのか。今回、大規模な暴動が発生した背景には、中国政府によるチベット仏教への厳しい弾圧がある。具体的な事例を挙げると、たとえばチベット仏教を信仰する信者は、チベット仏教の最高位であるダライ・ラマ14世の肖像画を持つことが認められていない。また、チベット仏教では高い位の僧を「生き仏」とする習慣があるが、チベット仏教の信者が「生き仏」を選ぶにあたっても中国政府の許可を得なくてはならないのだ(07年9月に施行された「活仏転世管理弁法」による)。

実は、中国当局はチベット仏教に限らず、キリスト教やイスラム教など様々な宗教に対して厳しい統制・管理を行っている。

中国の憲法は信仰の自由を認めており、また07年10月に北京で開催された中国共産党第17回党大会では「政党、民族、宗教の調和」が確認されたが、現実には宗教活動を自由に行うことはできない。表向きは宗教活動の自由を認めているが、中国共産党が厳格に管理をしているというのが実情である。実際、米国の国務省が07年9月にまとめた年次報告書では、宗教の自由を認めていない、あるいは宗教活動を著しく制限している国として、北朝鮮、イラン、中国などの8カ国が挙げられている。

まず、キリスト教(カトリック)については、中国では政府公認の「中国天主教愛国会」が、バチカン(ローマ法王庁)の承認を得ることなく独自に司教を任命している。中国のカトリック教徒は年々増加しており、現在では1200万人の非公式のカトリック教徒がいるといわれる。中国でのカトリック信者の増加を踏まえて、ローマ法王庁は中国とのぎくしゃくした関係の修復を目指している。

一方、イスラム教についてみると、中国国内のイスラム教徒の総数は、約3900万人に上る(06年)。そして、1955年に設置された中国北西部の新疆ウイグル自治区に、ウイグル、カザフ、キルギスといったイスラム教を信仰する民族の多くが暮らしている。

新疆ウイグル自治区のイスラム教徒も、宗教上の活動を制限されており、イスラム教徒の5大義務のひとつとされる聖地メッカへの巡礼もままならない。中国政府が厳しい渡航制限を設けているためだ(旅券申請できるのは平均年収の10倍の貯金を1年以上維持している者など)。自治区のイスラム教徒900万人のうちメッカへの巡礼ができるのは年間3000人程度にすぎない。このため、公安当局の目を逃れて、こっそりメッカへの巡礼に出かける人も多いといわれる。新疆ウイグル自治区では、中国政府への抗議運動や独立運動が頻繁に発生している。

中国政府は、北京オリンピックを前に、07年以降、抗議運動や独立運動などが起きないように宗教活動や少数民族などへの締め付けを強化したが、これが逆効果となって、少数民族が不満を募らせることになり、今回の暴動に発展したと考えられる。

中国当局が、各種の宗教活動の自由を尊重したうえで完全な宗教の自由を認めない限り、いくら弾圧を強化しても、少数民族の独立運動や抗議運動は今後も散発的に起こり続けることになるだろう。宗教的な弾圧を緩めることが、暴動や抗議活動を沈静化するための唯一の方策といえるのではないか。

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