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基礎から分かるチベット問題(下)暴動(2008年5月5日掲載)

 ◇暴動の経緯は?

 ◇「動乱49年」…3月、ラサ--独立求め僧侶デモ

 一連の暴動のきっかけは、「チベット動乱」から49年に当たる3月10日、チベット自治区ラサで独立を求める僧侶らが起こしたデモだった。米政府系の「ラジオ自由アジア」によると、警察は約70人を拘束。その後もデモがあり、14日には住民も加わった大規模暴動へと発展した。中国政府は「暴徒が商店の破壊や略奪、放火をした」と指摘するが、亡命政府は「武力鎮圧で少なくともデモ隊の99人が死亡した」と非難している。

 暴動は周辺各省のチベット族自治州に波及した。ダラムサラの非政府組織(NGO)「チベット人権民主化センター」は、四川省や甘粛省、青海省で抗議デモが相次ぎ、多数の死者が出たと伝えている。亡命政府は4月29日、ラサや周辺での中国側の鎮圧によるチベット人死者が203人、負傷者は1000人以上となり、5715人以上が拘束されていると発表した。

 一方、新華社が報じた死者数は、ラサでの市民18人と警官1人、四川省と青海省での警官各1人にとどまっている。また、ラサ中級人民法院(地裁)は4月29日、3月14日の暴動で逮捕、起訴された僧侶ら30人に対し、無期懲役から禁固3年の実刑判決を言い渡した。

 ◇亡命政府とは?

 ◇印北部に設立--予算、海外からの寄付

 亡命チベット人は現在、世界20カ国以上に約13万4000人がいるとみられている。そのうち、最も多いのがインドの約10万人。ダライ・ラマ14世を頂点とする亡命政府もインド北部ダラムサラにある。

 亡命政府は、ダライ・ラマが亡命した直後の1959年4月にインド北部のムスーリーで設立され、翌60年5月にダラムサラで本格的に発足した。

 元首に相当するダライ・ラマの下で、カシャックと呼ばれる内閣(行政)、代表者議会(立法)、最高司法委員会(司法)に機能が分かれている。

 内閣は首相に相当する主席大臣をはじめ4~8人で構成され、文部省や財務省など七つの部門を管轄している。代表者議会の議員46人のうち、43人は亡命チベット人の直接選挙で決まり、残る3人はダライ・ラマが指名する。このほか、ニューヨークやジュネーブなど主要11都市に事務所を置いている。

 予算の大部分は、亡命チベット人や海外の支援団体などからの寄付で成り立つ。亡命政府が公表した05~07年の開発プロジェクト予算は、7省で計6億8226万ルピー(約17億7300万円)を計上している。

 聖火リレーへの抗議を通じ、広く知られるようになったチベットの旗は、ダライ・ラマ13世の時代にデザインされた軍旗が基になっているという。

 中央の白い三角形は雪山を表し、赤と青の光線は二つの守護神によって伝統が守られることを象徴している。太陽は自由と繁栄の享受を、1対のスノー・ライオンが支える三つの宝石は精神的なよりどころであるブッダとその教え(法)、僧侶を意味している。

 ◇急進派とは?

 ◇独立掲げるNGO--亡命者ら若者主体

 今年1月、ダラムサラに拠点を置く五つの亡命チベット人組織が「チベット人民蜂起運動」を結成した。「チベットにおける中国の不法占拠終結に向けた直接行動」を主張しており、米議会調査局の報告書は急進独立派の台頭として懸念を示す。「蜂起運動」の中核は、チベット人の非政府組織(NGO)として最大規模を誇る「チベット青年会議」だ。世界に80カ所以上の支部を持ち、約3万人のメンバーを抱える。「中国からの独立」を掲げ、チベット人の「本心」を代弁していることが、若い世代の人気を集めている。

 ただ、青年会議幹部会の一人は「多くのメンバーは本気で独立を勝ち取れるとは考えていない」と語る。東大東洋文化研究所の大川謙作助教も「海外留学組などのエリートが独立活動を意識しているが、大きくなり過ぎ、さまざまな立場の人がいる」と解説する。

 中国政府はチベット暴動について「ダライ集団が画策した」と非難し、急進派組織の活動を「証拠」として指摘する。これに対し、青年会議のシバン・リグジン議長は「信じられない言い分だ。抗議行動はチベット人たちの自発的なものだ」と関与を否定した。

 インドには穏健派の「チベット連帯委員会」など大小約50の団体がある。彼らの活動は、亡命チベット代表者議会のガイドラインに沿って認められている。青年会議の活動も亡命議会が認めている形だが、これを中国政府が「ダライ集団の画策」と指摘する根拠にしていると亡命政府はみている。

 しかし、実態は「亡命社会の多様な意見」を認めているに過ぎず、ある穏健派団体幹部は「青年会議の活動が中国を硬化させている」と冷ややかな見方を示す。ダライ・ラマの指導の下にあるとはいえ、亡命チベット人社会は必ずしも一枚岩とは言えないようだ。

<この特集は成沢健一、西脇真一、大谷麻由美(外信部)、浦松丈二(中国総局)、栗田慎一(ニューデリー支局)が担当しました。>

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 ◇ことば

 ◇転生霊童探し

 「仏は不滅であり、その化身である高僧(ラマ)は生まれ変わる」とのチベット仏教の思想に基づき、高僧が死亡すると、側近が即座に転生霊童を探し出すチームをつくる。ラマの生前の言動などから転生する場所を検討。その地方に赴き、誕生時に虹が出たなど縁起のよい兆候があった男児を選び出す。

 さらに候補となった幼児に前世の記憶があるかどうかを調べるため、ラマの生前の側近やラマが愛用した法具を識別させるテストを受けさせる。認められれば、その幼児は活仏(かつぶつ=生き仏)になる。

 転生霊童探しには長い歳月がかかる。転生者は先代ラマのいた寺院で宗派の伝統を教えられ、大切に育てられる。

2010年7月12日

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