きょうの天鐘

●天鐘(2011/11/19掲載)
 昔話ではキツネやタヌキ、老夫婦、親子など少数の登場で構成されたものが多い。表現も単純明快で分かりやすい。それだけ鮮明に、話の中に込められた教訓や風刺が記憶に焼き付けられるのだろう▼父子の昔話を紹介したい。布団を買えず、普段ワラをかぶって寝ていた。だが見えっ張りだった父親は貧しさを恥じ、そんな暮らしを隠そうとした。そのため、人の前ではワラを布団と言え―と、子供をしつけた▼ある日、客として招かれた席で、日頃の成果が出てしまった。子供が「ととの首筋に布団の葉がくっついているよ」と言った。付いていたのはワラだったが、しつけられた通り、布団という言葉が口をついて出た▼父親はきっと、恥をかいたに違いない。子供の指摘は、言葉を使い分けることで実態をゆがめてしまう父親の姿を批判する結果になった。一読すれば笑いを誘われる父子のやり取りだが、決して笑えない風刺を感じさせる▼この話は、民俗学者・柳田国男の『日本の昔話』(新潮文庫)に収められている。父親が代表する大人の身勝手を浮き彫りにした。人間の心理を突いており、現代にも十分当てはまる▼外交の大舞台で、国益の確保を掲げている野田佳彦首相。ある程度は駆け引きが必要なのかもしれない。だが例外なき貿易自由化をめぐり、日米に混乱が広がった。相手に気を遣うあまり、内外で言葉を使い分ける「布団とワラ」の外交になれば立ち行かない。