ステータス画面

突きあげられた拳

<オープニング>

「かくめいは、革命は、まやかしだったんだ。兄弟たちよ」
 立ち上がれ、今度こそ俺たちの……。
 男のたどたどしい言葉が染みわたる。
 怒りと涙で、聞き取り難い鈍い言葉。
 だからこそ。
 血を吐く様な思いは、自分にこそあったのだと今更気がついた……。
 拳を上げていた。
 拳が上がっていた。
 拳は、天を目指して突き上げられていた。

 ラッドシティの下層労働者達が、不穏な動きを見せる。
 革命以前。
 手厚い施しを受けていた貧困街の住人よりも、貧しい暮らし。それでもなお、懸命に働き続けた彼らは、革命の思想に共鳴し、その成就のために大きな力となった。
 その功績もあって、革命の後、貧困街への施しは停止。
 彼らの行ってきた仕事に対する報酬に、革命評議会からの補助金が出される事になったのだが……。
 しかし、彼らの生活が潤う事は無かった。
 なぜならば革命の後。食うに困った貧困街の住人が、大挙して彼らの仕事を奪いにやって来たのだから。

 真実、貧困に喘いでいた者たちばかり、というならば、こうまで怒りが振り積もる事はなかったに違いない。
 評議会の方針は、働く意思のある者を区別すべきでは無いというのが原則。革命に功績のある元からの労働者、そして革命前は施しでのうのうと暮らし、革命後に急に働き出した労働者を区別する事はなかった。
 その結果、彼らは、僅かばかりの既得権を失い、以前よりも劣悪な暮らしに押し込められる事になったのである。
 
「マスカレイドを使って襲撃するのは、ジョンという職人とその仲間たち、襲われるのはコンフリーという工房主だね。彼の代になって、こだわりのある一点物主体から、ほどほどの製品を出来あいで沢山造る形に変わっていって……。方針の転換もあって折り合いは良い方じゃなかったみたい」
 狩猟者・セラ(cn0120)はそう苦々しい顔で話を切り出した。笑顔と言うか能天気な態度で明るく振る舞う事が多い彼女にしては珍しい。
「だから大勢の貧困街の人が職を求めて来たってのは、渡りに舟だったみたいだね。事ある毎に、お前たちの代わりは幾らでも居るだの、手袋やシャツと同じレベルだの言いたい放題だったみたいなんだよ」
 そして……。
 ある時、新しい同僚である貧困街出身の職人が、新しい方式には自分の方が優れている、お前たちはもう古いなどと口走り、職人たちの間でも決定的な亀裂が入った処で、一斉に解雇されたのだと言う。
「彼らマスカレイドを使う労働者は、普通の市民でマスカレイドでは無いよ。おそらく、なんらかの思惑で利用されているのだろうね。マスカレイドを倒したら、物証も残らないんで、犯罪者として捕縛する事も出来ないけど。ただ、そのまま解き放つわけにもいかないので、何か理由を付けて犯罪課に引き渡すようにして欲しい」
 襲うのは私有する別荘であり、不法侵入だとか塀の破壊とかが良いかな? と付け加えた。
「時間と場所は、こっちのメモに書いておいたよ。簡単だけど周囲も地図にしてある」
 どのタイミングで仕掛けるかは、お任せするね。と曇らせた顔に無理やり笑顔を作った。
 
「敵だけど、マスカレイドが3体。ビックリ箱を投げつけたら出てくるとか考えると、イマージュなのかな? 倒せば消えるしね。残りは騙されたであろうジョン達一同。彼らは襲いかかって来るけど、みんなから見れば脅威は無いも同然だよ。ただ……、気分は良くないけどね」
 だから絶対に殺さないようにお願いします。
 セラは深く、手をついて深く頭を下げた。
「襲撃する側、される側。どちらにも問題はあると思うけど……、だからといって殺人を犯す事も、マスカレイドに頼る事も認められない。終わったら犯罪課に連行して、色々と背後とか周囲とかを調べる事になるけど、心に響く言葉が上手く思いつけるか判らないと思うけど、何か伝えてあげて後悔を引きだし、もう復讐しないように説得してあげてくれないかな?」
 虫の良い事言ってるって判るんだけどね……、ごめん。そう言いながら付け加える。
「復讐は憎しみしか呼ばないし、後悔から情報をしゃべってくれれば事件の概要が判るだけじゃない。協力したって事で少しくらい何とかできるかもしれないから。『かも』止まりなのが辛いとこだけどね」
 だけど、もう人が憎しみ合い殺し合うなんて見たくないんだ。
 セラはそう言って、もう一度頭を下げ皆を送り出した。


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参加者
撫子の騎士・ケイト(c00857)
意を以って威を駆る者・ガルヴズ(c02903)
悪意聳える闇商人・ミュート(c03458)
瞬刹の閃光・チェザーレ(c05307)
ミスターサー・ルーシルベルト(c06023)
海緑を纏いし御魂狩之護刀・ショウキ(c10227)
あなたに愛を・カエコ(c12550)
かけてはみちる・ディルアーク(c18214)
晴れの日も雨の日も・クロッカス(c18719)
代世紡ぎ・アルスト(c19493)

<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

撫子の騎士・ケイト(c00857)
【目的】
マスカレイド討伐と職人達の説得。

【行動】
先んじてわたくしは警察を装い、別荘の工房主へ会いに参ります。
プロミスを使用しつつ、別荘から外へ出ないよう避難を促す説明を行います。
仲間が屋敷の塀の内側と外側に待機し職人達が侵入してきたら説得し、無理なようなら職務妨害を理由にし逮捕を試みその時にイマージュが出てきたらこれを殲滅し再び説得にあたります。。
わたくしは工房主への説明が終わり次第、内側の方へ急いで合流し戦闘に臨みます。
◆戦闘時の行動
イマージュへはワイバーングレイブを使いながら1体ずつ片付ける戦法でいきます。
溜まったハイパーはワイバーングレイブに使い攻撃します。
職人達は武装解除のKO効果があるデュエルアタックで攻撃を行います。KOはしても止めはさしません。
また職人への攻撃時はバトルトークを使っての説得を試みます。
味方のGUTSが70%以下の場合はコールオブヴァラーでの回復を図ります。


意を以って威を駆る者・ガルヴズ(c02903)
さて…どうやらまたも裏がありそうな事件ではあるな。一体、箱とやらはどこから流れ出た物か…。

壁の内側に待機。
暴徒が侵入してきたら迎え撃つ。

戦闘
マスカレイドを第一目標に大岩斬メイン。暴走を喰らえば即座にライジングレオ。仲間が暴走した場合は癒しの拳。
マスカレイドを倒すまでは職人達は極力相手取らない。
可能ならばマスカレイドを即座に叩き伏せて戦意を殺ぎたい所。
職人達と戦う場合、命を取らないのは当然のこと、出来れば気絶程度に抑えるようにする。

事が終われば捕縛、事情を聞きだし犯罪課へ。


悪意聳える闇商人・ミュート(c03458)
【作戦】
コンフリーとの交渉が決裂した際、暴徒役として踏み込む。
事前に労働者っぽい服装を調達し、布などで顔を隠す。

コンフリーは縛り上げて置く。
戦闘後には警告をしたメンバーに解放して貰う。

使い古された感が出るように軽く汚しておいたりしておく

その他作戦に齟齬があれば全体に従う

【戦闘】
壁の外にて身を隠しながら待機。
壁を破壊後に踏みこんでいく。

後衛からイラプションでまず自身の強化を施し、その後術を得てアクセで業炎をギアスに変えたフレイムスロワーで広範囲を焼きつつギアスでプラスワンを封じていく。
仲間が本当にピンチの時はコルリの紋章で回復を施す。


瞬刹の閃光・チェザーレ(c05307)
【接触】
アルストさんと一緒に労働者一団と接触。ハニーを使用し、近づき、マイスターコミュを用いて自分は鍛冶職人で革命で職を無くし、一団に追随したい旨を伝える。

同行可能ならば追随し、不可能であれば立ち去り、尾行、挟撃とする。

【戦闘】
追随に成功した場合、エンドブレイカー(以下、仲間)と戦闘となる。この時、GUTSが高い順に仲間を優先的に狙い、被害を分散させ、派手に見えるよう心がけ武功を労働者一団にアピールする。従って、薔薇の剣戟でハイパーを溜め、スーパーキャンセルをプラスワンとしたハイパー残像剣で攻撃する。

【労働者と退却】
イマージュが倒されれば実質戦力が無く、襲撃の際、人がいるのは予想外だったのも起因して、退却しても可笑しくは無い。労働者数名を「仲間」が無力されたら、この機を見計らって退却を労働者一団のリーダーに提案してみます。

【退却】
リーダー格の方にチェイスを付けつつ、労働者一団と共に退却します。


ミスターサー・ルーシルベルト(c06023)
工房主へ、自分達が犯罪課の人間だと誠意を以て伝える
「先ほど、狂暴化した労働者の集団が動き出したとの情報が犯罪課の下へ入ってきました。
此処も狙われる可能性があるので、貴方達の命をお護りする為にも、念のため避難を願いたいのですが」

応えて頂けなければ、暴徒に扮した仲間から工房主を庇い、避難を促す


労働者を壁の内側で待機。侵入を確認した後、
不法侵入、器物損害の罪で逮捕
無力化すれど、絶対に殺さない様に注意
「今まで逸品ものを作り上げて来て下さった貴方達に、
そんな悲しい物を生み出して頂きたく無い」
綺麗事では無く、自分の経験から
悲しみに暮れるより、希望を見てほしいんだ


敵へは、アサルトクローで術を得た後、狂王アニールのみで攻撃
呪詛はキャンセル
マスカレイドへはマヒが掛かるまで老ゼペットを使用


連行前は、労働者達の話は親身になって聞く
確りと事情聴取も忘れずに


事後、ドローリップで残された情報を、逃走先へ潜入して調べる


海緑を纏いし御魂狩之護刀・ショウキ(c10227)
◆策
儂はコンフリーとの交渉が決裂した時の、暴徒役として踏み込むべく
一般的な労働者層の服を事前に調達し、覆面等で顔を隠しておこうかの?
踏み込んだら最寄りの説得組の者に退けられる事前提で殺陣の相手をして貰おうかの。
服は泥と石等を交えて洗い、少しでもくたびれた感じとなる様に工夫しておくのじゃよ。

◆戦
壁の外にて身を隠しながら待機し、職人達が壁を破壊した後踏み込むぞぃ
先ずは後衛から精密射撃にて仮面共に3、4麻痺を付与するのじゃ。
仮面共に麻痺が行き渡ったら、賛同者として潜り込んで居る者に麻痺を付与するべく狙いを変えるのじゃよ。

◆相手逃走時
精密射撃と居合にて逃走を助ける者を打破するべ容赦無く捕縛にかかるかの
急に手を抜いては賛同者が怪しまれかねぬでの。
故に適度な所で退くようにの?

◆戦後
アルストの残したドローリップの言葉を確認するべく周囲を探すのじゃよ。
「アルストが命懸けで残した言の葉…確認せねば」


あなたに愛を・カエコ(c12550)
私ね、今回、酒場で発言してないのですよ。
思うところがあって。
あえて黙って聞いていました。
でも、黙って聞くという行動をとった以上、多数決には従いますよ。

1)戦闘まで
人数が多い行動に参加します。
工房主説得に立ちあいますが、何も言いません。
武装した人間が数人で訪問する自体だと思わせれば幸い。
壁を破壊する・された等、その際も基本何も喋りません。

2)戦闘
「いかなる事情があれ、取った行動には責任が伴うと知りなさい」
3・4麻痺ばら撒きをメインに行動。後衛。
ウインターコールでダメージと麻痺をばらまきます。
暴走を食らった場合は脈動する大地の拳でSCで2目自キュア。
自己回復に赫奕たる不滅の鎧を使用。GUTS30%以下は使用しない。
「箱、ね」
持ち帰ろうとしてるようだけど、箱もイマージュだと思って、た。

3)説得・連行
私からは何も。適当な罪で連れて行くんですよね。
私、嘘は、言いたくありません。


かけてはみちる・ディルアーク(c18214)
工房主を事前に退避させる為の説得を担当
自分達が犯罪課所属であり、暴徒と化した労働者が
此方を襲撃に来るとの情報を得たので避難をして頂きたい旨を話す

「万が一のことがあってはなりませんので。
…貴殿に、労働者から恨みを買うような心当たりはありませんか?」
と、それとなく真実味を帯びるような台詞で説得の成功を目指す

応じれば避難完了を見届けた後イマージュとの戦闘に加勢
応じない場合は暴徒に扮した仲間が乱入する手筈なので
撃退する演技をしつつ「ほら来ましたよ!」と工房主を避難させる

イマージュとの戦闘では、初動では老ゼペットの紋章で3マヒの付与を狙いつつ
行き渡ったらフォースボルト中心に切り替え
星霊フェニックスは基本的に被ダメージがGUTSの半分を超えた対象に使用

労働者達に言葉をかける余裕があれば
「他人を憎んで傷つけても解決しません、自らの信義があるなら
それを貫くことこそ皆さんの為すべき『革命』だとは思いませんか?」


晴れの日も雨の日も・クロッカス(c18719)
準備:労働者に見える服、覆面、頭巾で人相を隠す

工房主説得失敗時、ショウキと共に突入
暴徒を演じ、工房主を脅しつつ物を壊さず適度に暴れ、説得班に撃退される

工房主避難後は覆面と頭巾外し壁の内側で待機
壁が壊されたら労働者の前に立ち塞がる
説得に応じなければ逮捕を示唆し箱の使用を促す
マスカレイド(仮面)が現れたら、外側班と挟み撃ち

近接攻撃で接敵後、マジックマッシュで仮面全員への3、4マヒ付与
その後賛同役が信頼を得るため、二人へのマヒを狙う
労働者に当たる+1はキャンセル
その後はブレイドホリィで仮面攻撃、GUTSの7割のダメージか暴走状態の人をライフベリーで回復
労働者に止めは絶対刺さない

説得
「仕事が欲しいなら、尚更犯罪に手を染めちゃだめだよ!」
「一点物を完璧に作れる、その腕を求めている雇い主もお客さんもいるよ」
「私は、仕事に誇りも持っていない人が適当に作った物より、誇りを持つ職人さんが作った物が欲しいと思う」


代世紡ぎ・アルスト(c19493)
【方針】
チェザーレと共に労働者(以下『彼ら』)に事前接触。
自分達も今の体制に理不尽を覚えており、共に行きたいと伝える。

同行が叶えば彼らとコンフリー別荘へ。
※同行不能なら遅れて彼らを追い
エンドブレイカー(以下『みんな』)と挟撃。
その他、途中で彼らから敵と見なされたら状況に応じて戦う。

みんなを相手に戦う場合、
労働者側が捕縛されそうな状況になれば撤退を促しそれに同行。
(但し何人かはみんなに捕まえてもらうようにする)


【戦闘】
彼ら側の場合、怪しまれない程度に手を抜く。

撤退条件を満たしたら彼らを庇う形で
ノソリンの【盾】やランバークラッシュの吹き飛ばしで追撃を遮りつつ撤退。

後は彼らと同行し、組織や拠点、びっくり箱入手経緯等の情報を調べる。
(ボクらに何かあった時の為に、得た情報をドローリップで残していく。無論、彼らにバレないように)


みんな側の場合、彼らを殺さないよう留意しつつ、マスカレイドから狙っていく。


<リプレイ>

●言の葉
「これはマズイですね……」
「あそこまで警戒されては、話しかけようが無いですよね……」
 瞬刹の閃光・チェザーレ(c05307)と代世紡ぎ・アルスト(c19493)の視界には、血走った目で周囲を伺いながら、足早に歩みを進める男たちの姿があった。
 頭に血が上り、するべき事を定めているような……。遠目にではあるが、とても話を聞いてくれそうな雰囲気ではない。
「流石に襲撃の日に話しかけるのは無理がありましたか……。いや、それともあの箱……」
「彼らにとっても使い勝手が良くないのかな? 借り物だから制御できないとか……。とりあえず第二プランだね」
 そうしましょう。行く手を示すアルストにチェザーレは頷く。
 事前に接触。難しい計画ではあったが、それだけに次手の準備は万全。潜入が不可能と悟った時点で、即座に挟撃に切り替える。
 彼らは先行く5人を、ゆっくりと追いかけ始めた。

 一方……。
 キン、ゴオオーン。
 カァーン!
「やるのう。退け金持ちの犬めが」
「それでも譲れぬ」
 海緑を纏いし御魂狩之護刀・ショウキ(c10227)が繰り出す、目も止まらぬ一閃を意を以って威を駆る者・ガルヴズ(c02903)が装甲の厚い部分で受け止めて、すかさず反撃に移る。
 ボロの服ごと一刀で両断せんとする一撃を、流して受け止め辛うじて重傷を逃れた。
「ひっひいぃ。ジョンやスミス達ではないのか? まだ来るっ」
「ここは我々警察で! 御屋敷には絶対に手を出させません。外へは出られないか、裏口から早く!」
 当たり前だ!
 青い顔でどなるコンフリーを蹴飛ばし撫子の騎士・ケイト(c00857)が飛来する一撃を、からくも受けとめる。
「フフ、犬にしておくには惜しい腕ですねぇ。こっちに来ませんか美しいお嬢さん? ぬ、無粋な」
「万全を尽くしますが、貴方達の命をお護りする為にも、念のため避難をっっ、強い奴には……、鏡よ!」
 闇の傭兵、といった口調の悪意聳える闇商人・ミュート(c03458)が巻き上げる煙や炎に、ミスターサー・ルーシルベルト(c06023)がクルリと傘を一回転させて造る上げる大鏡で割って入る。
「この金持ちめ、全部ぶっ壊してやる! なんだ、この金ピカは!」
「本格的な暴動なのか? わ、わしは逃げるぞ!」
 回り込もうとする、晴れの日も雨の日も・クロッカス(c18719)に気がついた男は『別荘だけは守れよ!』と言い捨てて、用意のできた馬車で使用人ともども逃げ去って行った。
「やれやれ、あの分だと……。怨まれてる自覚は沢山あるみたいですね。傷があれば治療して迎え撃ちますか」
「予定の時間まで時間もある、儂がやっておこう」
 かけてはみちる・ディルアーク(c18214)の苦笑に、ガルヴズが気力を振るって癒し始めた。
 手加減というよりは、予め定めた殺陣。
 威力より、派手な効果を優先したとはいえ、迫真の演技に無傷では済まなかった者も居るのだ。
「……」
 その様子を裏口の前、最後の扉を閉ざして少女が見つめる。
 あなたに愛を・カエコ(c12550)は、黙って作戦に協力を果たしたが……。
「……」
 首を振って、言葉を飲み込んだ。
 口を開けば嘘になる気がしたし、作戦を提案しなかった以上は従う事にしたのだ。
 彼女だけではない、誰もが心にやるせなさを背負う。
「ほら来ましたよ、さっさと終わらせて……。自棄酒、いや自棄珈琲でもやりに行きましょう」
「ええ。こんな日は特上のバターを封切りましょうか。美味しいケーキを焼き上げてみせようか」
「蜂蜜もたっぷりね? この戦いが終わったら一杯たべるんだぁ〜」
「くくっ、皆さんお好きな様で?」
 まるで死に逝く者の遺言か?
 と、思うほどに饒舌に言葉を重ねる。重ねれば重ねるほど、何かが降り積もって行ったのだ。
 この戦いで待ち受けるモノを、皆は予感していたのだろう。

●血を吐く様な想い
「俺たちは手袋や工具じゃねえぞ!」
「あいつらの数だけある粗悪品を誉め、俺たちは怠け者だとぬかしやがった!」
 ガシャン、グワワ〜ン!
 手にした槌で壁をぶん殴り、空いた隙間に棒をねじ込んでこじ開ける。
 それで歪んだ扉は、またたくままに打ち壊された。
「おやっさんの息子だからこそ、我慢して来たのに……。っ! 出て来やがったか、ぶっ殺して」
「あの雇い主ではのう……。おぬしらの気持は判るが、少々短絡的ではないか?」
 男たちの前に、コンフリーではなく服を戻したショウキが現れる。
 投げられた石をあえて受け、此処にはおらんよ……。と事実と警察だと短く告げた。
「そこまでです。職人の手は何のためにあるのですか!」
「うるせえ、今更帰れるか……、全部ぶっ壊してやる。これでも喰らえ!」
 地面を打つ得物のように、叩きつけるようなケイトの言葉にへたっと、一瞬だけ腰砕けになるのだが、手に持った箱を思い出して投げつけた。
 なかば気味悪気に、なかば自棄クソ気味に投げたソレはコロコロと転がって、動きを止める。
 転がり、輝き始める箱から次々と何かがあふれ出ていくのだ。
 影は3つ、同じ姿で得物の違う何かが顕われようと、もがき始める。
「止むを得ません。家屋破壊の罪によって、皆さんを逮捕します!」
 悲しそうにクロッカスの言葉が響き、最後の蓋が開かれる。
 その瞬間に、冬の女神が舞い降りた。
「っ……」
 その名はカエコ、今は冬の運び手。
 やはり言葉はなく……。おのが技に吐く息を白く染めて、掲げた剣をゆっくりと振り下ろす。
 見よ、道化師のうち2体の脚を氷柱で縫い止め凝らせていくではないか。
「時間はかけぬぞ」
「ああ、邪魔者が戻ってこないとは限らないだろう。それに怪我人は少ない方が、良いからね」
 ぬうん。
 ガルヴズの体が、いや鎧が軋む。
 負荷にたまらず音を立てて、武骨な甲冑だけが振り下ろされた全力を知っている。
 ズズンと、振り下ろされた質量の向こうで、目深に帽子を被ってルーシルベルトが道化師の血で爪を赤く染めた。イマージュらしき事を考えれば、元より朱であったのかもしれないが……。
「……さぁ。……体の芯まで焼き尽くしていきますかねぇ……」
「殺すとか仕方ないのかなあ? 仕事が欲しいなら、尚更犯罪に手を染めちゃだめだよ!」
 ミュートの噴煙とわき上がる炎が視界を遮り始め、クロッカスの白煙は良く似てはいたが別の……。そうカエコの振るった力の如く、職人たちの頼みである道化師たちを束縛し始めた。
「痛っ!」
「その手は、こんなものを操るのではなく……。人を殺す為ではなく物を作るためにあるのでしょう?」
 迫る刃や、魔の輝き。それらを潜り抜け、あるいは傷つきながらケイトは一足飛びに道化師の頭上へ降り立った。
 ゴスっと鈍い音を立てて、薙刀が振り下ろされる!
「彼らを傷つけたくありません、早急にイマージュを蹴散らしましょう!」
「そうさのう。痛みより言葉が応えるわ……」
 目をつむり魔書を開く。いつもの動作が、こんなに重く感じられた事はない。
 ディルアークの感じた想いを、ショウキは肌で感じ取っていた。自分でこれならば、ケイトの受け取った想いはいかほどであったろうか?
「やっぱり警察は金持ちの味方かよ!」
「力の無い者は、みじめにくたびれて死ぬだけなのか、畜生……」
 コンフリーに直接ぶつけれなかった分、積もった恨みは言葉になって突き刺さる。
 だが、彼らは選んだのだ。
 直接合わせない、直接怨みを交わし合って殺し合わせたりはしないと!
「穿て!」
「開け、我が心。開け運命よ! 僕は、幾度この想いを受け止めれば良いのでしょう!」
 魔書の導きに従って、青き炎が貫いていく。
 その端を、その想いを誰かが受け取った様な気がした。
「その痛みは、此処までだと……。言っておきましょう。終わらせますよ?」
「殺さないように、注意が必要だけどね」
 刃を引き抜く音が、風が唄う様に聞こえた……。

●援軍と、戦いの終わり
「チェザーレ、アルスト!」
「お待たせしました。戦いは、此処までですよ」
 跳ね飛ばされる道化師の胸から、刃が現れる。
 1つ、2つ3つ。その連撃を引き抜いて、ヒュンと鳴らせば音が消える前に道化師のイマージュはかき消えて言った。
「過ぐに来れなくてゴメン? あとお互いの暴走には注意してね」
「無事なら構わないさ。もしかして味方の判断ができないのか?」
 たぶんね……。
 嘶くノソリンを、まるで労働者を守る盾の如くに、アルストが割って入らせる。
 2人が見たところ、職人たちは箱を腫れ物や火を扱う様に、ビクビクと扱っていた。制御できないのか、単に開けた時に1度しか設定できないのかはともかく、用心は必要であろう。
「ま、また警察……」
「しかも前後から……、逃げ場なんてねーぞ。どうすんだよ……」
 打ち減らされた切り札、増える敵、そして逃げ場がない……。
 その事が彼らを追いつめていた、恐らくはこれを見越して『機』を測っていたのであろう。
「いかなる事情があれ、取った行動には責任が伴うと知りなさい」
 逃げ腰になる彼らに、カエコはそう言葉を放とうとして……。
 やめた。
 自分もまた……。言い訳になる気がしたのだ。
 やるせない気持ちを抱えるのは、誰だってつらい。
 手段はいくらでもあったのに、言葉が通じ、意思の通じる相手だったのに武器を持って迫る……。
 気に喰わない想いを噛みしめて、冬の刃を無言で振るった。
「大丈夫か?」
「まあ一応ね。そっちはつらくない?」
 この程度、他愛なし!
 ガルヴズの鉄拳が、ルーシルベルトに籠った邪気を追いだしていく。
 彼らの様に暴れたい気持ちを静めて、衝動を抑えた狂気が哄笑となって響き渡る。
「ふむ、復讐を果たした者を喰らう可能……、ですか。まあいいでしょう『用意』してきた甲斐が、あるというものですよっ」
 受けなさい新たなる力、ギアスを……。封じの炎、その身で食らうと良いですねぇ……。
 爆発を収束し、相手を火達磨に変えていく。
 その力はまるで紋章であり、あるいは呪いの様でもあった。
「最後は結局はみんなを助ける、そう信じて! そう思って行くしかないんじゃないかな?」
「そうでしょうか? いえ、そうですね。決めたんです……、やり抜きましょう!」
 もう一度、ケイトは空を翔けた。
 先ほどよりも高く、その姿はまるで天を飛ぶ龍の如く。
 舞い降りる彼女に合わせて、クロッカスは手にした一枝を群棲させて鋭き刃に替える。
「ああ、また1匹が! ど、どうすんだよ、逃げれないのに……」
「散々馬鹿にされてきて何もしないで逃げるのか? いやだ、俺はあいつに叩きつけてやらねえと気が済まねえ」
 2人のコンビネーションが見事に決まる。
 その様子を見て、武器を投げ捨てる者もいれば、逆に憤慨する者も居た。
「他人を憎んで傷つけても解決しません、自らの信義があるなら、それだけの気概があるなら……」
 なんで力に頼ったんですか? 命を賭ける気があるなら、なんで……。
「それを貫くことこそ、皆さんの為すべき『革命』だとは思いませんか!」
 涙と、翼が広げられた。
 傷ついた仲間たちの上にだけではない、もし呪いであるなら彼らの上に届けば良いと……。
 ディルアークの言葉と浄化の炎は、どこまでも広がって行った。
「甘ちゃんめ……。だが儂はそれほど悪くないと思うておる、とっとと終わらせ一緒に飲むとするか」
「また朝まで話すの? でも、それも悪くないんだよね。こんな日はさ……」
 思ったよりも他愛なく、最後の一体はショウキとアルストが葬った。
 いや、実際には強かったのだろう……。
 だが尚も立ち上がる何人かを無力化するよりは、気楽であったのは確かである。

●戦い終わって
「箱、ね」
 イマージュだと思ってた……、やっぱり本当だった、ね。
 その時、初めてカエコは言葉を口にした。
 最初から最後まで嘘、職人達の為に用意された力も、その時に掛けられたであろう優しい言葉も嘘。
 だから私は彼らに言葉を告げない、嘘は言いたくないから。
 罪にならぬ保証はなく、自業自得にかける言葉も無いのが悲しかった。
 いや、単に気に喰わないだけなのだろうか?
 答えは出ない。
「癒しの紋章よ……。傷を癒せ……。終わったな? では職務質問を……」
「私は! 仕事に誇りも持っていない人が適当に作った物より、誇りを持つ職人さんが作った物が欲しいと思う」
 ふっふふ。ミュートの言葉を遮って……。
 クロッカスが指先と言葉と、そして心を投げつけた。
「一点物を完璧に造れる人。それを求めている雇い主さんだって、御客さんだっているはずだよ!」
「新しき時代に沿った物も良かろう、だが、次の世代に残してゆかねばならぬモノもあるはずなのだ」
 ……おぬし等には、それを力ではなく其の腕で伝えて欲しかった。
 彼女の想いに続いて、ガルヴスがそう告げる。
「屋敷の『壁を破壊した罪』を償った後は、出来れば其の伝統、絶やさず伝えて欲しい。必ず其れを求める者はおるのだからな」
「え……、壁?」
 ああ。
 誰を殺す、殺さぬは儂らの胸の内に留めておこう。
「気が済まないなら、邪魔をした私達を御先にどうぞ。相談にしても戦いにしても、お相手しようじゃありませんか」
 あ、あんた達みたいな強い奴はもうこりごりだよ!
 そう口にはしたが、火は消えているのだろうか?
「復讐はくだらない……。とは言え、言葉だけでは伝わらない、か……」
 ルーシルベルトは自嘲気味に吐き捨て、気の良い甲冑はその言葉を聞かなかった事にした。
 願わくばその火が、明日への灯となる事を祈って。
「しかし、無駄足を踏ませてしもうたのう。すまん」
「いいよボクらも、もしかしたら無理かも? って思ってたし……」
 本音を言えば、元を断つ為に掴みたかったけどね。
 アルストは言葉と想いを飲み込んだ。それを今言っても仕方がないし、もし彼らが全てを喋ってくれれば……。今度こそ命を賭ける事になるだろう。
「その時は、言葉の1つ、絵の1カケラまで無駄にはすまい」
 その決意を理解し、ショウキはそれ以上の言葉を避け、己自身も決意を心に秘める事にしたのだ。
「僕らは……、上手くやれたんですかね?」
「さてさて。失う物が何もないという事でもあります。あの決意があれば何だってできるでしょう?」
 署に送り届け、落ち込むディルアークにチェザーレが言葉を掛けた。
 手にするはミストレス、あるいは女教皇と呼ばれるカード。運命の旅人を守護し導く教えを意味する。
 このカードを出発前に占いで引いていれば、『潜入工作を是が非でも!』と思ったであろうし、見た数枚中で目に留まっただけの今ならば冷静に受け取れる。
「結局。占いも状況も、受入れて切り開くしかないんですよ。我々は人を照らす火です」
 この都市という場そのものを照らす、灯になるのかもしれませんけどね。

 こうして彼らは帰還を果たす。
 その日の酒場は、何時までも火が灯っていたと言う。



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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2011/11/18
  • 得票数:
  • せつない9 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
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