2015年8月8日
防衛政策局調査課
ヨーロッパに於いての新型ウイルス災害についての第一次調査報告書
１．ウイルスの蔓延している地域
現在新型ウイルスはグレートブリテン島全域、アイルランド島全域、アルプス以北、ブレーメン・カッセル・シュトゥットガルトを結んだライン以西、ピレネー以東のヨーロッパを完全に汚染地域とし、ウイルス汚染の最前線は西はバルセロナ・サラゴサ・ビルバオ、東はベルリン・プラハ・トリエステのライン、南はナポリ周辺と目されている。
イギリス、アイルランド、フランスの三国は政府機能を他国へと移し、事実上の亡命状態となっている。そのほか、スイス、イタリア、スペイン、ドイツ、チェコ、オーストリアの政府も他国への政治機能移転を検討中とのこと。
さらにヨーロッパ以外の地域においてもヨーロッパからの渡航者もしくは帰国者などによる感染爆発が起きている地域もあり、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカ東海岸、などで多数の感染者の集団が確認されている。
我が国においても京都や奈良などの観光都市での感染者の発見例も見られており、南西諸島にある雛間島が新型ウイルスによって全滅したとの未確認情報もあるため、現在特殊実験部隊を自衛隊に於いて編成し、雛間島へと確認に向かわせる準備の最中である。（別紙作戦計画書を参照）
（中略）
８．ウイルスの特徴
詳しい生物学的特徴は別紙レポートを参照のこと。
ここでは現在のウイルス災害において特に重要と思われることを列挙する。
ウイルスの感染対象は哺乳動物全般。
ただし、水棲の哺乳動物に関しては海水の高浸透圧、あるいは淡水の低浸透圧に対する防護手段を持っていないため、感染しても後述の『動く死体』にはならない。
感染力は高く、発症した哺乳動物すべてが例外なく死亡しているため危険性は極めて高い。
このウイルスは感染初期には血液中の白血球に感染するが、潜伏期間を経て骨髄中の造血幹細胞へと感染すると造血幹細胞の遺伝子を組み替え、通常の血液とは全く異なる粘液状の血液が生産されるようにしてしまう。
この血液が全身の血管を流れるようになると完全に症状を発症し、人間としてはすでに死亡したとみなされる、いわゆる『動く死体』へと変貌を遂げる。
『動く死体』となった発症者は意志や感情を持たず、食欲によってのみ行動し、特に生きた動物を見つけると捕食しようと行動する模様が感染初期のヨーロッパ各地で目撃されている。食欲を満たせず数週間が経過すると餓死してしまうとの情報もあり、さらなる調査が待たれている。
感染方法は血液感染や経口感染などが確認されており、特に注意すべきは動く死体となった感染動物に襲われた際に起きる血液感染と考えられる。
動く死体となった動物は全身からウイルス性の粘液状血液を出血させており、その動物に襲われた際に出来た傷にその血液が入り込むことでウイルスに感染する例が最も多く報告されている。
感染しないためには予めウイルスに感染した個体を駆除し、その死体を即座に焼却処分することで感染の機会をなくすことが最も確実だと思われる。
感染したものでも発症せずに生き続けた人間もいるという報告もあるが、いずれも症例は少なく、発症者に襲われて死亡しているものがほとんどのためその条件等は確認できていない。
(別紙)
特殊実験部隊の雛間島派遣に関する作戦計画書
本作戦の目的
１．雛間島における新型ウイルス感染者の有無を確認
２．感染者を確認した場合、発症者に対する研究目的に捕獲する数体を除いた、駆除、焼却処分
３．感染者で未だ発症していない人物と、非感染者の救出。救出した人物は厳重に隔離し、作戦参加者も作戦における感染が認められないと判断されるまでは隔離処置を施し、装備に関しても消毒処分を行う
上記目的を達成するため、臨時に選抜隊員による特殊実験部隊を編成、化学装備を配備し、作戦に当たる。また、フランス対外自治総局からオブザーバー一名と、防衛政策局特別推薦による医師とその付き添いとして看護士を一名ずつ同行させる。
(後略)
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