この場所までの稀勢の里と豪栄道との対戦成績は、豪栄道の負けが込んでいて8勝1敗だったという。この数字だけを見ている限りにおいては、稀勢の里の方が有利な戦いを展開できると考えても良さそうだった。
しかも、稀勢の里の方は連日トップ争いの先頭を走り、その首位を張り続けていて、誰に譲りそうな気配もない。
であるから、この対戦はめったに見られない熱戦になって、どちらの側の勝利になるか予想もできない。誰が考えてもそうなる。
そういった結論になりそうに思えた。ところが土俵上の勝利は、どう転ぶかわからない。いざ土俵に展開された勝負は徹頭徹尾、豪栄道の一方的に優れた面を見せるもので、稀勢の里の方は防衛一方に追いやられたものであった。
この攻めと守りにムラがある点が、稀勢の里にとっては最大の問題なのだが、端なくも、今場所のような大事な場で、その欠陥を露呈してしまうことになった。
まさか対戦成績有利だということで油断したわけではないだろうが、この一番を振り返ってみると、最後の致命的な外掛けによる攻撃まで、ことごとに先手先手を制されていることに気づく。
と、かなり厳しい感想を書いたが、まだ序盤戦が終わったばかりである。どんな変化がこの先に待ち受けているかを予測することもできない。
全国の大相撲ファンにとってもっとも望ましいのは、今場所のように厳しい先頭争いが、この先も続いてほしいことなのだ。
先頭争いから豪風が落ちて、鶴竜が全勝陣に加わることが明らかになった。これまで首位争いに加わっていながら、どことなく地味で他の二人から一歩遅れていたような鶴竜もこれからは首位の一人として先頭に出て来るだろう。その鶴竜も関脇である。関脇の強い場所は面白いというが、その通りになってきた。 (作家)
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