2011年11月18日03時00分
芸人の猫ひろしさんが、五輪を目指してカンボジア人になった。国籍の重みとは。
五輪出場のためにカンボジア国籍を取得した猫ひろしさん(34)は16日、インドネシアで開かれたロンドン五輪選考マラソンレースに「唯一のカンボジア選手」として出場し、自己記録を10秒縮める2時間37分39秒で完走した。所属事務所によると、猫さんは「この暑さでよく自己ベストが出せた」とコメントした。
だが、同国オリンピック委員会は「(五輪代表として)満足できる結果ではない」と語ったと報じられた。このレースには前回五輪代表で2時間25分台のカンボジア記録を持つヘム・ブンティン選手が出場しておらず、猫さんは代表選考までに、もう一度大会に出ることも検討している。
そもそも、日本在住のままで、なぜカンボジア国籍が取れたのか。
カンボジアに6年在住し、国内法に詳しい神木篤弁護士(47)によると、同国の国籍法では7年間の居住歴やクメール語を話せることなどが条件とされているが、あくまで原則という。「要件を満たしていなくても、カンボジアに進出した韓国企業が土地購入のために韓国人社員に国籍を取得させたケースもある」
カンボジア大使館関係者は「カンボジアに対する功績が認められる場合は、国籍を得られることがある」と説明する。話題性のある猫さんに、「カンボジア人としての活躍」を期待したということだろうか。
とはいえ、猫さんにとってカンボジア国籍の取得は自動的に日本国籍を失うことを意味する。
日本の国籍法では、自らの意思で外国籍を取得した場合は二重国籍を認めていない。日本のパスポートが使えなくなるため、猫さんが日本に入るためには日本大使館に入国ビザを申請する必要がある。
日本でのタレント活動も手続きが必要だ。法務省によると、入国管理局で興行などの就労ビザを申請しないで働けば、不法就労となる。猫さんの場合は日本人配偶者がいるため、配偶者ビザを取れば、1年または3年ごとの更新で就労が認められる。
日本国籍に復帰する場合は、国内に住所があり、法務大臣が認めれば可能になる。同省担当者は「外国人と結婚して相手の国籍を取得した人が日本国籍に戻る事例はある」と説明する。
国籍の変更について、猫さんは朝日新聞の以前のインタビューで、「最初はお笑いのネタみたいなものだった」と明かしている。指導する中島進コーチ(61)は最初、冗談と受け止めた。「本当にいいのか」と聞くと「やると決めたからにはやる。それも芸のうち」と答えたという。
中島コーチによると、カンボジアにした理由は「競技レベルが低いから」。半面、マラソンへの情熱は本物だ。仕事の後、深夜から40キロの走り込みもこなし、一カ月の走行距離は約500キロにもなる。2008年の初マラソンから1時間11分、記録を縮めた。
「まじめな性格と努力のたまもの」と中島コーチは言う。身長147センチと小柄だが、「体重も軽いので、マラソンでは有利。両脚を大きく回転させるフォームで、2時間20分を切る能力はある」。
カンボジアにゆかりのある人たちは、どう受け止めているのか。東京都内のカンボジア料理店「アンコールワット」のゴ・ワンディ店長(41)はこう期待する。「ぜひ五輪に出場してほしい。外国から代表になることに異論があるかもしれないが、他のカンボジア選手へのいい刺激になる」
一方で、マラソン自体の人気が高くないカンボジア本国では、さほど関心を集めていないようだ。神木弁護士は数日前、カンボジア在住の弁護士や現地ジャーナリストに猫さんの五輪挑戦について尋ねたが、誰も知らなかったという。(山田明宏)