原文入力:2011/11/17 11:02(2293字)
キム・ソンジン弁護士・民主社会のための弁護士集い
←メキシコの光と影 メキシコシティ郊外の新興富裕村であるサンタフェ(左側)と貧民住居地域のテックスココ。NAFTA発効後に一層深刻化している両極化現象の一断面をよく見せる。メキシコシティ/パク・スンビン記者 sbpark@hani.co.kr
或る人の表現どおり米国と極めて近く悲しい国、メキシコの話だ。メキシコのある会社がサンルイスフォトシ州から許可を得てカダルカサルシという小さい村に廃棄物を臨時に積み置き他所へ搬出する‘荷置場’事業をしていた。荷置場営業だけで廃棄物が地下水に滲み込み、カダルカサルシの癌患者は急増した。 それでもその会社は荷置場の土を掘り起こし有毒性廃棄物‘埋立地’にして、必要な許可を申請した。しかし市と州政府がその許可を拒否した。
そうするうちに北米自由貿易協定(NAFTA)が結ばれ、その効力が発生する数ヶ月前、米国でゴミ処理を専門とするある‘米国会社’がそのメキシコの会社を買収した。もちろん該当の市と州の住民たちの反対にもかかわらず、その‘米国会社’は中央政府の言質だけを信じて市政府の許可も受けていない状態で工事を完了した。しかし市政府は廃棄物埋立地の許可を拒否した。メキシコ法によれば廃棄物埋立地許可に関する権限は市政府にもあるので、‘米国会社’がメキシコ裁判所に訴訟を提起すれば勝訴する可能性はなかった。すると‘米国会社’はNAFTAによりメキシコを相手取り損害賠償を請求するために投資家-国家訴訟(ISD)を提起し、これに対し裁判所は「本裁判所がこの事件で問題になった環境保護措置のような動機とか意図などは考慮する必要がなく、考慮すべき問題は唯一投資にどんな影響があるかということだけだ。 廃棄物埋立地を建設・運営できるという‘米国会社’の期待に反して市政府が建築許可を下さなかったことにより‘米国会社’に損害を及ぼした。したがってメキシコは‘米国会社’に1668万ドルを賠償しなければならない」と判定を下した。 結局この争いはメキシコがその‘米国会社’に1560万ドルを賠償することで終えられた。 カダルカサルシは癌の他にも原因不明の不治の病と相次ぐ奇形児出産、小・中学生のメガネ使用の急増などの副作用を被っている。
これがメキシコを相手に‘米国会社’メタルクラッドが提起した投資家-国家訴訟の概要だ。メキシコは1993年、かつて米国と自由貿易協定を締結したが、締結するやいなや地方自治体の適法な処分にもかかわらず、国家が賠償責任を負担することになる投資家-国家訴訟の‘納得し難い現実’を全身で体験してしまった。 韓-米自由貿易協定(FTA)にともなう投資家-国家訴訟は、国家の行為が補償を要する‘収用’に該当するかどうかを我が国の裁判所ではない仲裁判定部が判断するということであり、その判断の基準もやはり我が国の憲法と法律ではなく、韓-米自由貿易協定とその他適用可能な国際法だけだということだ。しかし憲法は国家や地方自治体の行為に対する司法審査で裁判所が憲法と法律に基づいて判断し統制することのほかには別に予定したものはない。したがって投資家-国家訴訟制はそれ自体で違憲的である。
また、韓-米自由貿易協定で定めた‘投資’の概念は私たちの法の財産権の範囲より広く、免許・許可・認可などを含む。このような許認可を適法に拒否し、または、事後の事情変更などの理由で取り消す場合も協定文上の‘収用’に該当しえて、米国投資家はこのような場合にまで補償を請求できるということになる。メキシコの事例に見るように、国家や地方自治体の処分に対し米国投資家や内国人が裁判所に提訴する場合、適法な処分という理由で敗訴する事案であっても、米国投資家が同じ事案を持って投資家-国家訴訟を提起すれば、それを通じて補償を受け取ることができるという納得し難い結果になりうるということだ。地方自治体の都市再整備や都市開発関連地区指定など関連認可処分、認可変更処分などが合憲的で適法であっても、それによって政府が補償しなければならない事態だけは最小限防がなければならない。
それでは政府が韓-米自由貿易協定を推進する過程で都市開発と関連した許認可処分をしている地方自治体と緊密な協議をする必要があり、このような点でソウル市が政府に韓-米自由貿易協定と投資家-国家訴訟制と関連して協議を要求したことは適切で必要なことだ。
大韓弁護士協会で発行する<大韓弁協新聞>が11月7日付1面で投資家-国家訴訟制の問題点を扱い、これを批判する社説も掲載したが、これは事態の深刻性をよく示す例だ。その社説によればハンナラ党ホン・ジュンピョ代表さえも2007年当時ラジオ インタビューで‘判決が下されても米国が覆せる道を開けておいた’として‘他の見方をすれば韓国の司法主権全体を米国に捧げたこと’と指摘したという。それがまさに投資家-国家訴訟制が招くことになる事態の核心だ。 メキシコが私たちの未来になってはいけないように、投資家-国家訴訟制を通した実質的な改憲や納得し難い補償も私たちの未来になってはならない。ソウル市の投資家-国家訴訟制関連条項再検討要求は正当なのだ。
原文: http://www.hani.co.kr/arti/opinion/because/505757.html 訳J.S